東大 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 創造情報学 専門科目 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全3問)
全3問です。固有値・固有ベクトル、計算量理論、ハッシュ法が出ています。2024年度と共通するテーマは計算量理論です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — Webページ遷移と定常分布
方針
この問題は,ページ間の辺をそのまま行列にするだけではなく,列と行の向きをそろえることが 最初の関門である。ここでは と置いたので,列 がページ から 各ページへ移る確率を表す。
ジャンプ導入の意味
ジャンプがない場合はページ3が吸収状態になり,長期的には確率がすべてページ3に集まる。 一方,ジャンプを入れると全成分が正の遷移行列になり,どのページにも戻れる。この差が 定常分布の一意性と初期分布非依存の収束を生む。
採点上の注意
定常分布の存在だけなら列確率行列の性質でも説明できるが,一意性と収束まで述べるには 「正の行列」であることを使う必要がある。ペロン・フロベニウスの定理を使う設問では, 最大固有値が1であること,それ以外の固有値の絶対値が1未満であること,正規化により 確率分布になることを分けて書くと減点されにくい。
第2問 — パケット通信とサーバ処理時間
方針
ネットワーク計算では,伝送遅延と伝搬遅延を混ぜないことが最重要である。伝送遅延は 「ビット列を回線へ押し出す時間」,伝搬遅延は「最後のビットかどうかに関係なく信号が 空間を進む時間」であり,足し合わせる場面が異なる。
ウィンドウ幅の考え方
停止待ち方式では,ACKを待つ間に送信者が空く。連続送信方式では,その空き時間を 個のパケット送信で埋める。したがって の条件は「ACKが届く時刻」以下ではなく, 「 個を送り終えた時刻がACK到着時刻を超えること」として立てる。
キュー問題の注意
サーバの処理順は,クライアントが要求を送った時刻ではなく,要求がサーバに到着した時刻で 決まる。特に単一処理の設問では,クライアント3の要求がクライアント2より先に到着するため, 処理順が になる点が典型的な落とし穴である。
第3問 — 情報システム用語の説明
方針
用語説明問題では,定義だけでなく,何に使うか,何が利点か,どこに注意点があるかを入れると 答案の密度が上がる。4項目を選ぶ形式では,互いに分野が散る項目を選ぶと,同じ説明の 繰り返しになりにくい。
採点上の注意
「知っている単語を並べる」だけだと説明にならない。基数ソートなら安定ソートが必要な理由, モデル検査なら反例を返せる点,ハッシュ関数なら暗号化との違いまで書くと,短い行数でも 理解が伝わる。
解答
8項目のうち,ここでは基数ソート,左辺値と右辺値,モデル検査,暗号学的ハッシュ関数の 4項目を選ぶ。
- 基数ソート 基数ソートは,整数や固定長文字列のように桁へ分解できるキーを,桁ごとの安定ソートで 整列する方法である。下位桁から処理するLSD方式では,各桁で安定性を保つことで,すでに 整えた下位桁の順序を壊さずに上位桁へ進める。桁数を ,各桁の取り得る値の数を ,データ数を とすると,計数ソートを内部に使えば時間計算量は である。比較ソートではないため の下限に縛られないが, キー表現と補助配列の大きさに依存する。
- プログラミング言語における左辺値と右辺値 左辺値は,代入の対象になれる記憶場所や参照を表す値であり,変数名や配列要素などが 典型例である。右辺値は,計算結果として得られる一時的な値や,式の値として読み出される ものを指す。たとえば では, は書き込み先としての左辺値であり, は計算結果としての右辺値である。C++のような言語では,右辺値参照を使って 一時オブジェクトの資源をムーブできるため,単なる文法用語ではなく性能にも関わる。
- モデル検査 モデル検査は,システムを有限状態遷移系として表し,安全性や到達可能性などの性質を 論理式で与えて,その性質が全状態で成り立つかを機械的に調べる手法である。性質が 成り立たない場合には,反例となる実行列を得られるため,並行プログラム,通信プロトコル, 制御ソフトウェアの検証に向く。典型的には時相論理を使い,「いつか応答が返る」 「危険状態には到達しない」といった条件を記述する。課題は状態爆発であり,抽象化, 記号表現,部分順序削減などで探索空間を抑える。
- 暗号学的ハッシュ関数 暗号学的ハッシュ関数は,任意長の入力から固定長のダイジェストを計算する関数であり, 改ざん検出やデジタル署名,パスワード保存の基礎に使われる。重要な性質は,出力から 入力を復元しにくいこと,特定の入力と同じ出力を持つ別入力を見つけにくいこと,任意の 衝突を見つけにくいことである。入力が少し変わるだけで出力が大きく変化する性質も重要で, これは雪崩効果と呼ばれる。暗号化とは異なり復号を目的としないため,秘密を戻せる形で 保存する用途には使わない。
最終答
選択した4項目について,基数ソートは桁ごとの安定ソート,左辺値・右辺値は記憶場所と式の値の区別,モデル検査は有限状態モデル上の性質検証,暗号学的ハッシュ関数は耐衝突性などを備えた固定長要約関数として説明できる。
年度別の解答例(5年度)
論理回路と二進演算 / 通信遅延と指数バックオフ / 情報システム用語の説明
2025年度(このページ・全3問)
Webページ遷移と定常分布 / パケット通信とサーバ処理時間 / 情報システム用語の説明
最尤推定と混合正規分布 / ハミング距離検索と専用回路 / 情報システム用語の説明
DFAと二進整数の3分割判定 / IPv4アドレスと通信性能 / 情報システム用語の説明
分離資源配分と動的計画法 / ACK制御とウィンドウ転送 / 情報システム用語の説明
2025年度の出題内容
全3問
同じテーマを出した他大学・他年度
3テーマ
2025年度は2問に3テーマが出ています。
| テーマ | この年度 | 全体の出題実績 | 他大学の直近出題 |
|---|---|---|---|
| 固有値・固有ベクトル | 第1問 | 25大学・544問 | |
| 計算量理論 | 第3問 | 9大学・36問 | |
| ハッシュ法 | 第3問 | 3大学・7問 |
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 3問 → 2025年度 3問
- 両年度に出たテーマ
- 計算量理論
- 2025年度で新しく出たテーマ
- 固有値・固有ベクトル・ハッシュ法
東京大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2022〜2026
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 院試hubの最終確認
- 2026-08-13