院試hub

東京大学 院試 過去問 解答例

東大 工学系研究科 マテリアル工学専攻 マテリアル工学基礎 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。熱・統計力学1問・物性物理1問・力学1問。テーマタグは5件(固有値・固有ベクトル・ハミルトン形式・転位)。2024年度と共通のテーマは転位・状態図・相変態。

最終更新:

このページで公開
解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

東大 マテリアル工学基礎 2025年度 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は熱・統計力学1問・物性物理1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問熱・統計力学熱力学・速度論—あり
第2問—組織学—あり
第3問物性物理材料物性学—あり
第4問力学材料力学—あり

この年度の解説には検算4件・試験で書くべきポイント4件・典型ミス4件が付いています。

2025年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は3問に5テーマが出ています。

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 4問 → 2025年度 4問
両年度に出たテーマ
転位・状態図・相変態
2024年度のページを見る

第1問 — 熱力学・速度論

方針

熱力学図では「線が低いほど塩化物または酸化物が安定」と読む。計算問題では,純物質の活量を1,気体の活量を分圧で置く。拡散反応は,Fickの法則と定常収支を組み合わせる典型問題である。

検算

Rの酸化物生成Gibbsエネルギーは非常に負なので,R/RO平衡の酸素分圧は 10−3710^{-37} 程度と小さい。M中酸素は標準状態1 mass\%より少し小さい 0.470.47 mass\% であり,ΔG3∘\Delta G_3^\circ と ΔG5∘\Delta G_5^\circ が近いことと整合する。

典型ミス

塩化物還元で「生成線が上にある金属」を選ぶと反応方向が逆になる。拡散反応では dN/dz=RAdN/dz=R_A の符号を曖昧にしやすいが,最終解が深さ方向に指数減衰し,液面流束が正になるかで確認できる。

試験で書くべきポイント

図示指定のある設問では,境界線の上側・下側のどちらかを言葉でも説明する。計算値は有効数字2桁指定なので,途中で自然対数と常用対数を混同しないよう 2.303RT2.303RT を明示する。

解答

1. 塩化物生成ポテンシャル

  1. KClを還元するには,還元剤金属の塩化物生成反応の標準GibbsエネルギーがKCl生成より低い必要がある。800 Kの図から,該当するのは Li, Na, Cs, Ca, Ba, Sr \mathrm{Li,\ Na,\ Cs,\ Ca,\ Ba,\ Sr} である。RbはKClより十分低い塩素ポテンシャルを与えないので除く。
  2. 反応のGibbsエネルギーは ΔG=ΔG∘+RTln⁡pCsaLiClaCsClaLi \Delta G=\Delta G^\circ+RT\ln\frac{p_\mathrm{Cs}a_\mathrm{LiCl}}{a_\mathrm{CsCl}a_\mathrm{Li}} である。減圧にして生成Csを気体として連続的に除くと pCsp_\mathrm{Cs} が小さくなり,反応商が下がるため,標準状態で不利な反応も右向きに進む。

2. M--O--Cl,R--O--Clポテンシャル図

  1. R/RO平衡では 0=ΔG3∘+RTln⁡1pO21/2,log⁡10pO2=2ΔG3∘2.303RT. 0=\Delta G_3^\circ+RT\ln\frac{1}{p_{\mathrm{O_2}}^{1/2}}, \quad \log_{10}p_{\mathrm{O_2}}=\frac{2\Delta G_3^\circ}{2.303RT}. R/RCl2_2平衡では 0=ΔG4∘+RTln⁡1pCl2,log⁡10pCl2=ΔG4∘2.303RT. 0=\Delta G_4^\circ+RT\ln\frac{1}{p_{\mathrm{Cl_2}}}, \quad \log_{10}p_{\mathrm{Cl_2}}=\frac{\Delta G_4^\circ}{2.303RT}. T=1300 KT=1300\ \mathrm{K} より log⁡10pO2=−36.8,log⁡10pCl2=−18.0. \log_{10}p_{\mathrm{O_2}}=-36.8,\qquad \log_{10}p_{\mathrm{Cl_2}}=-18.0.
  2. 線[b]はMO/MCl2_2平衡である。 MO+Cl2=MCl2+12O2 \mathrm{MO}+\mathrm{Cl_2}=\mathrm{MCl_2}+\frac12\mathrm{O_2} の平衡式から log⁡10pO2=2log⁡10pCl2+const. \log_{10}p_{\mathrm{O_2}} =2\log_{10}p_{\mathrm{Cl_2}}+\mathrm{const.} となるので,傾きは 22 である。
  3. RとROが残存するので,酸素分圧はR/RO平衡で固定される。酸素溶解反応 12O2=O(1 mass% in M) \frac12\mathrm{O_2}=\mathrm{O}(1\ \mathrm{mass\%\ in\ M}) に対して 0=ΔG5∘+RTln⁡aOpO21/2. 0=\Delta G_5^\circ+RT\ln\frac{a_\mathrm{O}}{p_{\mathrm{O_2}}^{1/2}}. aO=CO/1 mass%a_\mathrm{O}=C_\mathrm{O}/1\ \mathrm{mass\%},fO=1f_\mathrm{O}=1 より ln⁡aO=ΔG3∘−ΔG5∘RT=−458.1+450.08.3×1.300≃−0.75. \ln a_\mathrm{O}=\frac{\Delta G_3^\circ-\Delta G_5^\circ}{RT} =\frac{-458.1+450.0}{8.3\times1.300}\simeq -0.75. したがって CO=0.47 mass%. C_\mathrm{O}=0.47\ \mathrm{mass\%}.
  4. RCl2_2を使ってMを塩化するには,MCl2_2がMOより安定である低酸素分圧側に置く必要がある。すなわち図ではRCl2_2が存在する塩素ポテンシャルで,MO/MCl2_2境界より下側, log⁡10pO2<(log⁡10pO2)MO/MCl2 \log_{10}p_{\mathrm{O_2}}<\left(\log_{10}p_{\mathrm{O_2}}\right)_{\mathrm{MO/MCl_2}} を選ぶ。酸素分圧が高いとMは塩化されず酸化物として安定化する。

3. 拡散を伴う擬一次反応

  1. zz を液面から下向きにとると,Fickの第一法則より NA(z)=−DABdcAdz. N_A(z)=-D_{AB}\frac{dc_A}{dz}.
  2. 定常物質収支は dNAdz=RA=−k1cA \frac{dN_A}{dz}=R_A=-k_1c_A であるから, DABd2cAdz2=k1cA. D_{AB}\frac{d^2c_A}{dz^2}=k_1c_A. 境界条件は cA(0)=c0c_A(0)=c_0,cA(∞)=0c_A(\infty)=0。したがって cA(z)=c0exp⁡[−k1DAB z]. c_A(z)=c_0\exp\left[-\sqrt{\frac{k_1}{D_{AB}}}\,z\right].
  3. 液面での吸収速度は NA(0)=−DABdcAdz∣z=0=c0DABk1. N_A(0)=-D_{AB}\left.\frac{dc_A}{dz}\right|_{z=0} =c_0\sqrt{D_{AB}k_1}.

最終答

還元剤は Li, Na, Cs, Ca, Ba, Sr。点[a]は log⁡10pO2=−36.8\log_{10}p_{\mathrm{O_2}}=-36.8,log⁡10pCl2=−18.0\log_{10}p_{\mathrm{Cl_2}}=-18.0,線[b]の傾きは2,酸素濃度は 0.47 mass%0.47\ \mathrm{mass\%}。拡散反応では cA=c0exp⁡[−(k1/DAB)1/2z]c_A=c_0\exp[-(k_1/D_{AB})^{1/2}z],NA(0)=c0(DABk1)1/2N_A(0)=c_0(D_{AB}k_1)^{1/2}。

第2問 — 組織学

方針

状態図の組織選択は,T2T_2 での平衡相と初晶の有無を読む。構造因子は格子点ごとの位相因子を足し,反射条件に落とす。XRDは超格子反射の有無が規則相判定の鍵である。

検算

a=0.359 nma=0.359\ \mathrm{nm},λ=0.154 nm\lambda=0.154\ \mathrm{nm} ではFCC基本反射の(111)が約44度に出る。規則相では(001)や(110)のような,無秩序FCCでは弱いまたは禁制の反射が現れるので,低角側に追加ピークを持つパターンが妥当である。

典型ミス

L10_0 の超格子反射を見落として,γ\gamma 相を単なるFCCとして扱うと(001),(110)を落とす。組織選択では,白黒の凡例だけでなく,斜線や粒内析出の描き方が「共晶」「初晶+共晶」「析出」を表すことに注意する。

試験で書くべきポイント

30字・50字・200字指定の記述は,字数を厳密に数えるよりも「駆動力」「拡散」「核生成」「成長」の語を入れて因果を短く示す。選択問題でも,選んだ記号だけでなく一文の根拠を添える。

組織学の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 材料物性学

方針

時間依存問題は,定常状態の指数因子を微分して時間非依存方程式へ落とす。タイトバインディングでは,ハミルトニアン行列の対角成分が原子軌道エネルギー,非対角成分が隣接原子間の結合を表す。

検算

P2(0)=0P_2(0)=0,P2(πℏ/2∣A∣)=1P_2(\pi\hbar/2|A|)=1 となり,電子が二原子間を周期的に移る。一次元状態密度が帯端で発散するのは,dE/dk=0dE/dk=0 となって群速度が消えるためである。

典型ミス

問題では A<0A<0 と指定されているため,結合性・反結合性の高低を符号で取り違えやすい。状態密度ではスピン2倍と,単位長さで割る因子 NaNa を忘れない。

試験で書くべきポイント

固有方程式の導出では,単に行列式を書くのではなく,左から χi∗\chi_i^* を掛けて積分し,直交規格化を使ったことを示すと減点されにくい。

材料物性学の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 材料力学

方針

積層材の弾性率は,荷重方向が積層方向なら等応力のReuss平均,界面平行なら等ひずみのVoigt平均である。降伏も同じく,等応力か等ひずみかを先に決めると迷わない。

検算

直列平均 ExE_x は低い方の 7070 GPa に近く,並列平均 EyE_y は単純な荷重分担なので 7070 と 200200 の体積平均 109109 GPa になる。yy 方向の一段目巨視応力16 MPaは,A相10 MPaとB相28.6 MPaの体積平均であり,両者の間にある。

典型ミス

xx 方向と yy 方向の等応力・等ひずみ条件を逆にすると,弾性率も降伏応力も入れ替わる。二段階目ではA相を弾性に戻してはいけない。加工硬化なしなのでA相応力は10 MPaで保持される。

試験で書くべきポイント

応力--ひずみ線図は数値の点を明示し,二段階降伏の間の傾きが fBEBf_BE_B になる理由を書く。最後の記述問題ではHall--Petch型の界面障害効果を,転位の平均自由行程の短縮として説明する。

材料力学の途中式・最終答をPDFで見る

東大 マテリアル工学基礎 院試 過去問の収録6年度