院試hub

東京大学 院試 過去問 解答例

東大 工学系研究科 マテリアル工学専攻 マテリアル工学基礎 2021年度 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。熱・統計力学1問・物性物理1問・力学1問。テーマタグは4件(転位・電磁波・結晶構造)。

最終更新:

このページで公開
解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

東大 マテリアル工学基礎 2021年度 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は熱・統計力学1問・物性物理1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問熱・統計力学熱力学・速度論—あり
第2問—組織学—あり
第3問物性物理材料物性学—あり
第4問力学材料力学—あり

この年度の解説には検算4件・試験で書くべきポイント4件・典型ミス4件が付いています。

2021年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は4問に4テーマが出ています。

第1問 — 熱力学・速度論

方針

熱力学部分は,反応熱が温度によらないという条件から Cp,ABC_{p,AB} を先に確定するのが入口である。状態図の読み取りでは,正確な曲線形状ではなく「液相線で初晶が出る」「共晶温度で停止する」という相変化を示せばよい。

検算

Clapeyron 式では dT/dP<0dT/dP<0 かつ ΔV<0\Delta V<0 である。融解エンタルピーは正にならなければならないため,符号の検算が有効である。ABAB の断熱昇温は 800 K800\,\mathrm{K} から約 1500 K1500\,\mathrm{K} 上がるので,2.3×103 K2.3\times10^3\,\mathrm{K} は桁として妥当である。

典型ミス

ABAB の融点計算で混合項を RTln⁡(1/2)RT\ln(1/2) と一回だけ入れる誤りが多い。融液側には AA と BB の両方の化学ポテンシャルがあるため,理想混合項は RTln⁡XA+RTln⁡XB=RTln⁡(XAXB)RT\ln X_A+RT\ln X_B=RT\ln(X_AX_B) である。

試験で書くべきポイント

速度論では反応式を置くだけでなく,定常状態近似の分母 k−1+k2[C]k_{-1}+k_2[C] を明示する。実験式との比較では,逆反応の項をなぜ落とせるかを書かないと,[C2D][C_2D] が消える理由が不明確になる。

熱力学・速度論の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 組織学

方針

この問題の中心は,磁気秩序の自由エネルギー低下が結晶構造の安定性に効くことを,粗い数値で比較する点にある。絶対エネルギーの定数項は相転移条件に効かないため,XX 依存項だけをそろえて扱う。

検算

Tc=zϵ/kBT_c=z\epsilon/k_B から ϵ\epsilon は 10−21 J10^{-21}\,\mathrm{J} 程度になる。これに Avogadro 数を掛けると kJ/mol になるので,融解エンタルピーとの比較が意味を持つ。

典型ミス

異符号スピン対の数え方で定数項が変わっても,X2X^2 の係数が正しく出ていれば相平衡条件は同じである。答案では基準エネルギーを選んだことを一言添えると安全である。

試験で書くべきポイント

焼入れの説明では「急冷」「拡散抑制」「せん断型」「マルテンサイト」「炭素過飽和」のうち少なくとも三つを,単語だけでなく相互関係が分かる形で書く。

解答

1. N+=N(1+X)/2N_+=N(1+X)/2,N−=N(1−X)/2N_-=N(1-X)/2 である。最近接対の数を用いると P+++P−−=Nz4{(1+X)2+(1−X)2}=Nz2(1+X2), P_{++}+P_{--}=\frac{Nz}{4}\{(1+X)^2+(1-X)^2\} =\frac{Nz}{2}(1+X^2), P+−=Nz1−X24. P_{+-}=Nz\frac{1-X^2}{4}. ただし問題文の P+−P_{+-} は異符号対を向きなしの対として数える式であり,エネルギー総和は Espin=−ϵ(P+++P−−)+ϵP+−=−Nzϵ2X2 E_{\mathrm{spin}} =-\epsilon(P_{++}+P_{--})+\epsilon P_{+-} =-\frac{Nz\epsilon}{2}X^2 と,XX に依存しない定数を基準に取って書ける。

スピン配置数は Ω=N!N+!N−! \Omega=\frac{N!}{N_+!N_-!} であり,Stirling 近似より Sspin=kBln⁡Ω=−NkB[1+X2ln⁡1+X2+1−X2ln⁡1−X2]. S_{\mathrm{spin}} =k_B\ln\Omega =-Nk_B\left[ \frac{1+X}{2}\ln\frac{1+X}{2} +\frac{1-X}{2}\ln\frac{1-X}{2} \right]. 自由エネルギー F=Espin−TSspinF=E_{\mathrm{spin}}-TS_{\mathrm{spin}} を X>0X>0 で微分すると ∂F∂X=−NzϵX+NkBT2ln⁡1+X1−X=0. \frac{\partial F}{\partial X} =-Nz\epsilon X+\frac{Nk_BT}{2} \ln\frac{1+X}{1-X}=0. よって zϵX=kBT2{ln⁡(1+X)−ln⁡(1−X)}. z\epsilon X=\frac{k_BT}{2}\{\ln(1+X)-\ln(1-X)\}. TcT_c 近傍で X≪1X\ll1 とすれば右辺は kBTXk_BT X なので, Tc=zϵkB. T_c=\frac{z\epsilon}{k_B}.

α\alpha-Fe は bcc で z=8z=8 とみなす。Tc=1000 KT_c=1000\,\mathrm{K},kB=1.4×10−23 J K−1k_B=1.4\times10^{-23}\,\mathrm{J\,K^{-1}} より ϵ=kBTcz=1.75×10−21 J≃1.8×10−21 J. \epsilon=\frac{k_BT_c}{z} =1.75\times10^{-21}\,\mathrm{J}\simeq1.8\times10^{-21}\,\mathrm{J}. X=1X=1 から X=0X=0 への変化に伴う相互作用エネルギー増分は,1スピンあたり zϵ/2z\epsilon/2,1 mol あたり ΔEspin=NAzϵ2=6.0×1023⋅8⋅1.75×10−212≃4.2×103 J mol−1. \Delta E_{\mathrm{spin}} =N_A\frac{z\epsilon}{2} =6.0\times10^{23}\cdot\frac{8\cdot1.75\times10^{-21}}{2} \simeq4.2\times10^3\,\mathrm{J\,mol^{-1}}.

融解エンタルピーの経験則から,Tm=1000 KT_m=1000\,\mathrm{K} の金属では ΔHm≃RTm=8.3×103 J mol−1. \Delta H_m\simeq RT_m=8.3\times10^3\,\mathrm{J\,mol^{-1}}. 磁気秩序による安定化はこの半分程度の大きさであり,結晶構造の充填率差による自由エネルギー差を覆し得る。低温では強磁性秩序により bcc の α\alpha-Fe が安定化するが,高温では磁気秩序が失われるため fcc の γ\gamma-Fe が安定となる。さらに高温では振動エントロピーなどの寄与により bcc の δ\delta-Fe が再び安定化する。

このイジング模型は局在スピンを仮定するが,Fe の磁性は遍歴電子性が強く,磁気モーメントの大きさや電子状態が結晶構造と相互に変化するため,本来は単純な固定スピン模型では不十分である。

2. 焼入れ中の γ→α\gamma\to\alpha 変態の特徴は次の通りである。

  • 急冷のため炭素の長距離拡散が十分に起こらず,拡散を伴わないせん断型変態が支配的になる。
  • fcc から bcc/bct への格子変形と格子不変せん断により,針状・板状のマルテンサイト組織が形成される。
  • 炭素が過飽和に固溶し,大きな内部応力・高転位密度・正方晶ひずみにより高強度化する。

最終答

Espin=−(Nzϵ/2)X2E_{\mathrm{spin}}=-(Nz\epsilon/2)X^2,Sspin=−NkB{(1+X)ln⁡[(1+X)/2]/2+(1−X)ln⁡[(1−X)/2]/2}S_{\mathrm{spin}}=-Nk_B\{(1+X)\ln[(1+X)/2]/2+(1-X)\ln[(1-X)/2]/2\},Tc=zϵ/kBT_c=z\epsilon/k_B,ϵ≃1.8×10−21 J\epsilon\simeq1.8\times10^{-21}\,\mathrm{J},ΔEspin≃4.2 kJ mol−1\Delta E_{\mathrm{spin}}\simeq4.2\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}}。

第3問 — 材料物性学

方針

前半は周期境界条件による kk の量子化,後半は拡張ゾーンの自由電子放物線を第一ゾーンへ折り返す操作である。バンド指標 nn は,異なる逆格子ベクトル (v,w)(v,w) に対応する枝だと考えればよい。

検算

第一 Brillouin ゾーン内の kk 点数は実空間の単位胞数 (L/a)2(L/a)^2 と等しい。スピンを入れると必ず2倍になる。この数が原子価1の電子数より大きいので,Fermi 円は第一ゾーンを満たし切らない。

典型ミス

AA 点では q=(π/a,0)q=(\pi/a,0) なので,v=0v=0 と v=−1v=-1 が同じエネルギーを持つ。ここで v=1v=1 を同じ縮重に入れると,AA 点の低エネルギー縮重を過大評価する。

試験で書くべきポイント

縮重度は「幾何学的に同じエネルギーをもつ GG の数」かける「スピン2」で答える。図示問題では,端点のエネルギーと縮重度が前問の答と一致するように描くことが重要である。

材料物性学の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 材料力学

方針

前半は Mohr 円または応力変換で解ける。単結晶すべりは Schmid 因子の最大化であり,面と方向を別々に最大にするのではなく,積を比較する。

検算

交差すべり系では同じ Burgers ベクトルを保つため,すべり方向は変えない。今回の交差すべり面 (111ˉ)(11\bar1) は引張軸 [123][123] と面法線が直交し,法線応力成分の寄与がゼロになるので分解せん断応力もゼロである。

典型ミス

Peach--Koehler 力の外積順序を逆にすると力の向きが反転する。大きさだけを問われる場合でも,像転位が異符号であることと距離が 2d2d であることを落とすと係数が2倍ずれる。

試験で書くべきポイント

自由表面の問題では「表面でトラクションがゼロになるように像転位を置く」と明記する。これは単なる暗記式ではなく,境界条件からの置き換えである。

材料力学の途中式・最終答をPDFで見る

東大 マテリアル工学基礎 院試 過去問の収録6年度