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東大 工学系研究科 化学システム工学専攻 化学システム工学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問の分野は化学3問です。分配関数、結晶構造が出ています。2022年度と共通するテーマは分配関数、結晶構造です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 物理化学1

この問題で落としやすい点は,仕事の符号と,経路関数・状態関数の区別である。化学熱力学でよく用いられる ΔU=q+w\Delta U=q+w では,膨張時に環境が気体へする仕事は負になる。不可逆膨張では熱量が小さくなるが,等温理想気体の ΔU\Delta U はゼロのままであり,エントロピー変化も同じ始終状態で決まる。

統計熱力学の後半では,VV 微分から圧力,β\beta 微分からエネルギーを出す流れを押さえるとよい。特に ZZ の VNV^N という形が状態方程式を,β−3N/2\beta^{-3N/2} という形がエネルギーと比熱を決めている。

解答

I. 単原子理想気体の熱力学

(1) 等温膨張

理想気体の内部エネルギーは温度だけの関数である。したがって,等温過程では ΔU1=ΔU2=0,V2V1=P1P2=2 \Delta U_1=\Delta U_2=0,\qquad \frac{V_2}{V_1}=\frac{P_1}{P_2}=2 である。ここでは「環境が気体にする仕事」を正にとる。

可逆膨張では w1=−∫V1V2P dV=−nRTln⁡V2V1=−(1.00)(8.31)(280)ln⁡2=−1.61×103 J. w_1=-\int_{V_1}^{V_2}P\,dV =-nRT\ln\frac{V_2}{V_1} =-(1.00)(8.31)(280)\ln2 =-1.61\times10^3\ \mathrm{J}. 第一法則を ΔU=q+w\Delta U=q+w と書くと, q1=−w1=1.61×103 J. q_1=-w_1=1.61\times10^3\ \mathrm{J}. また,エントロピー変化は可逆経路で計算すればよいので, ΔS1=nRln⁡V2V1=(1.00)(8.31)ln⁡2=5.76 J K−1. \Delta S_1=nR\ln\frac{V_2}{V_1} =(1.00)(8.31)\ln2=5.76\ \mathrm{J\,K^{-1}}.

外圧一定の不可逆膨張では w2=−Pext(V2−V1)=−P2nRT(1P2−1P1)=−nRT(1−P2P1). w_2=-P_{\mathrm{ext}}(V_2-V_1) =-P_2 nRT\left(\frac1{P_2}-\frac1{P_1}\right) =-nRT\left(1-\frac{P_2}{P_1}\right). よって w2=−12nRT=−1.16×103 J,q2=1.16×103 J,ΔU2=0. w_2=-\frac12 nRT =-1.16\times10^3\ \mathrm{J},\qquad q_2=1.16\times10^3\ \mathrm{J},\qquad \Delta U_2=0. 始状態と終状態は可逆の場合と同じであるから, ΔS2=nRln⁡2=5.76 J K−1. \Delta S_2=nR\ln2=5.76\ \mathrm{J\,K^{-1}}.

(2) 加熱過程

初期状態を T0=280 KT_0=280\ \mathrm{K},終温を T1=400 KT_1=400\ \mathrm{K} とする。温度上昇は ΔT=120 K\Delta T=120\ \mathrm{K} である。

定積加熱では体積が一定なので P3=P0T1T0=1.00×400280=1.43 atm. P_3=P_0\frac{T_1}{T_0} =1.00\times\frac{400}{280} =1.43\ \mathrm{atm}. 単原子理想気体では CV,m=3R/2C_{V,m}=3R/2 だから, ΔU3=nCV,mΔT=1.00×32(8.31)(120)=1.50×103 J. \Delta U_3=nC_{V,m}\Delta T =1.00\times\frac32(8.31)(120) =1.50\times10^3\ \mathrm{J}. 定積では体積仕事がないので w3=0,q3=ΔU3=1.50×103 J. w_3=0,\qquad q_3=\Delta U_3=1.50\times10^3\ \mathrm{J}.

定圧加熱では CP,m=CV,m+R=5R/2C_{P,m}=C_{V,m}+R=5R/2 であり, q4=ΔH4=nCP,mΔT=1.00×52(8.31)(120)=2.49×103 J. q_4=\Delta H_4=nC_{P,m}\Delta T =1.00\times\frac52(8.31)(120) =2.49\times10^3\ \mathrm{J}. 内部エネルギー変化は経路によらず ΔU4=nCV,mΔT=1.50×103 J. \Delta U_4=nC_{V,m}\Delta T=1.50\times10^3\ \mathrm{J}.

符号と状態量の見分け方

仕事と熱は経路に依存する。可逆膨張と不可逆膨張で ww と qq が違うのは,外圧の履歴が違うためである。一方で,内部エネルギーとエントロピーは状態量なので,同じ始状態と終状態を結ぶ限り同じ値になる。

II. カノニカル分布と理想気体

(1) エネルギー

単原子分子で,分子間相互作用を無視する理想気体では,エネルギーは各粒子の並進運動エネルギーの和である。 E=∑i=1Npi22m=∑i=1Npxi2+pyi2+pzi22m. E=\sum_{i=1}^{N}\frac{\boldsymbol{p}_i^2}{2m} =\sum_{i=1}^{N}\frac{p_{xi}^2+p_{yi}^2+p_{zi}^2}{2m}.

(2) 分配関数の一般形

カノニカル分配関数は Z=∑se−βEs Z=\sum_s e^{-\beta E_s} である。古典連続近似では,互いに区別できない同種粒子に対して Z=1N!h3N∫e−βE dr1⋯drN dp1⋯dpN Z=\frac{1}{N!h^{3N}} \int e^{-\beta E}\, d\boldsymbol{r}_1\cdots d\boldsymbol{r}_N\, d\boldsymbol{p}_1\cdots d\boldsymbol{p}_N と書ける。ここで 1/N!1/N! は同一粒子の入れ替えを重複して数えないための因子である。

(3) 理想気体の分配関数

位置積分は各粒子について VV を与える。運動量積分は各成分ごとにガウス積分となり, ∫−∞∞exp⁡(−βpx22m) dpx=(2πmβ)1/2. \int_{-\infty}^{\infty} \exp\left(-\beta\frac{p_x^2}{2m}\right)\,dp_x =\left(\frac{2\pi m}{\beta}\right)^{1/2}. よって Z=1N!h3NVN(2πmβ)3N/2=1N!{V(2πmh2β)3/2}N. Z=\frac{1}{N!h^{3N}} V^N\left(\frac{2\pi m}{\beta}\right)^{3N/2} =\frac{1}{N!} \left\{ V\left(\frac{2\pi m}{h^2\beta}\right)^{3/2} \right\}^{N}. 熱的ド・ブロイ波長 λ=h2πmkBT \lambda=\frac{h}{\sqrt{2\pi m k_{\mathrm B}T}} を用いれば, Z=1N!(Vλ3)N. Z=\frac{1}{N!}\left(\frac{V}{\lambda^3}\right)^N.

(4) 状態方程式

ln⁡Z\ln Z のうち VV に依存する項は Nln⁡VN\ln V である。したがって ⟨P⟩=1β(∂ln⁡Z∂V)T,N=1βNV=NkBTV. \langle P\rangle =\frac1{\beta}\left(\frac{\partial \ln Z}{\partial V}\right)_{T,N} =\frac1{\beta}\frac{N}{V} =\frac{Nk_{\mathrm B}T}{V}. すなわち PV=NkBT PV=Nk_{\mathrm B}T を得る。

(5) 平均エネルギー

ln⁡Z=−ln⁡N!+Nln⁡V−3N2ln⁡(h2β)+3N2ln⁡(2πm) \ln Z=-\ln N!+N\ln V-\frac{3N}{2}\ln(h^2\beta) +\frac{3N}{2}\ln(2\pi m) より, ⟨E⟩=−(∂ln⁡Z∂β)V,N=3N2β=32NkBT. \langle E\rangle =-\left(\frac{\partial \ln Z}{\partial \beta}\right)_{V,N} =\frac{3N}{2\beta} =\frac32 Nk_{\mathrm B}T.

(6) 定積比熱

CV=(∂⟨E⟩∂T)V,N=32NkB. C_V=\left(\frac{\partial \langle E\rangle}{\partial T}\right)_{V,N} =\frac32 Nk_{\mathrm B}. 1 mol あたりでは N=NAN=N_{\mathrm A},R=NAkBR=N_{\mathrm A}k_{\mathrm B} なので CV,m=32R. C_{V,m}=\frac32 R.

(7) 二原子分子でずれる理由

上の導出は並進自由度だけをもつ単原子気体を仮定している。二原子分子では回転自由度や振動自由度が熱容量に寄与する。室温では回転はおおむね励起される一方,振動は量子準位間隔が大きく凍結されやすい。したがって,二原子分子の定積モル比熱は単原子気体の 3R/23R/2 とは一般に一致しない。

最終答

q1=1.61 kJ,w1=−1.61 kJ,ΔU1=0,ΔS1=5.76 J K−1,q2=1.16 kJ,w2=−1.16 kJ,ΔU2=0,ΔS2=5.76 J K−1,P3=1.43 atm,ΔU3=q3=1.50 kJ,w3=0,q4=ΔH4=2.49 kJ,ΔU4=1.50 kJ,Z=1N!{V(2πmh2β)3/2}N,PV=NkBT,⟨E⟩=32NkBT,CV,m=32R. \begin{gathered} q_1=1.61\ \mathrm{kJ},\quad w_1=-1.61\ \mathrm{kJ},\quad \Delta U_1=0,\quad \Delta S_1=5.76\ \mathrm{J\,K^{-1}},\\ q_2=1.16\ \mathrm{kJ},\quad w_2=-1.16\ \mathrm{kJ},\quad \Delta U_2=0,\quad \Delta S_2=5.76\ \mathrm{J\,K^{-1}},\\ P_3=1.43\ \mathrm{atm},\quad \Delta U_3=q_3=1.50\ \mathrm{kJ},\quad w_3=0,\\ q_4=\Delta H_4=2.49\ \mathrm{kJ},\quad \Delta U_4=1.50\ \mathrm{kJ},\\ Z=\frac1{N!}\left\{V\left(\frac{2\pi m}{h^2\beta}\right)^{3/2}\right\}^N,\quad PV=Nk_{\mathrm B}T,\quad \langle E\rangle=\frac32Nk_{\mathrm B}T,\quad C_{V,m}=\frac32R. \end{gathered}

第2問 — 物理化学2

速度論では,濃度に比例する観測量を使っても次数判定ができる。圧力をそのまま使うと単位に迷いやすいが,ln⁡P\ln P の傾きだけを見ればよい。分子間相互作用では,指数 66 だけを覚えるのではなく,永久双極子,誘起双極子,瞬間双極子のどれが関わるかを言葉で区別する。NMR では,分裂の n+1n+1 則と,酸素隣接による低磁場シフトを組み合わせると,エタノールの割り当てに自然に到達する。

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第3問 — 無機化学

無機化学の設問は,構造・電子状態・物性を結びつけて説明する力を見ている。マーデルング定数は価数ではなく配列で決まる,カルボニルの波数は逆供与の強さで決まる,というように「何が支配因子か」を明示すると答案が安定する。CO2 の平衡計算では,第一解離で水素イオン濃度を決め,第二解離はその水素イオン濃度の下で従属的に扱うのが最短である。

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第4問 — 化学工学1

この問題の中心は,反応率を上げると反応器は大きくなるが分離負荷は小さくなる,という設計上のトレードオフである。PFR の体積式では,気相の 1→21\to2 モル増加により濃度が (1−x)/(1+x)(1-x)/(1+x) になる点を入れ忘れやすい。リサイクル系の流量計算では,まず第二反応器入口 F2F_2 を未知数に置き,定常収支 F2=F1+(1−x)F2F_2=F_1+(1-x)F_2 を立てると一気に整理できる。

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第5問 — 化学工学2

燃焼計算では,発熱量をそろえてから CO2\mathrm{CO_2} 量を比較するのが要点である。燃料の質量を直接比べると,分子量や効率が混ざって誤りやすい。熱交換器では,まず水側の熱量から全体の Q˙\dot Q を決め,次に水蒸気出口温度を決める。最後に ReRe,PrPr,NuNu,hhh_h,U1U_1,管長の順に進めれば,単位と基準面積の混乱を避けられる。

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年度別の解答例(5年度)

2023年度の出題内容

全5問

この5問の分野は化学3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問化学物理化学1—あり
第2問化学物理化学2—あり
第3問化学無機化学—あり
第4問—化学工学1—あり
第5問—化学工学2—あり

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2テーマ

2023年度は2問に2テーマが出ています。

テーマこの年度全体の出題実績他大学の直近出題
分配関数第1問16大学・88問
結晶構造第3問9大学・44問

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 7問 → 2023年度 5問
両年度に出たテーマ
分配関数・結晶構造
2022年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2026
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
院試hubの最終確認
2026-08-13
東京大学の公式過去問PDF