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都立大 理学研究科 数理科学専攻 数学 2023年度 冬季 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問の分野は線形代数2問、微分積分・解析2問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 線形代数:一般化固有ベクトルと表現行列

方針

(1) の後半は非斉次連立一次方程式 (A−E)w=v(A-E)\boldsymbol w=\boldsymbol v、(2) は斉次連立一次方程式 Ax=0A\boldsymbol x=\boldsymbol 0 である。どちらも rank⁡=2\operatorname{rank}=2 なので、行基本変形をすると独立な式が2本しか残らない。ここで「解が1つに決まらない」ことに戸惑わず、(1)(1) では一つ選べばよい、(2)(2) では2次元ぶんの基底を出す、と割り切るのが要点である。

w\boldsymbol w の自由度

w\boldsymbol w の解の全体は「特殊解 + ker⁡(A−E)+\ \ker(A-E)」である。(A−E)x=0(A-E)\boldsymbol x=\boldsymbol 0 を解くと、x1+x4=0x_1+x_4=0、x3=0x_3=0、x2=0x_2=0 となり ker⁡(A−E)={ t t(1,0,0,−1)∣t∈R }=⟨v⟩ \ker(A-E)=\{\,t\,{}^t(1,0,0,-1)\mid t\in\mathbb R\,\}=\langle \boldsymbol v\rangle である。したがって w\boldsymbol w は v\boldsymbol v の定数倍を足す分だけしか動かず、どれを選んでも (3)(4) の結論は変わらない。答案では「一つ求めよ」に従って一組書けばよいが、検算のために Aw=v+wA\boldsymbol w=\boldsymbol v+\boldsymbol w を代入して確かめておく。

検算

Ap, AqA\boldsymbol p,\ A\boldsymbol q を実際に計算すると Ap=t(2−1−1, 1−1, −1+1, −2+1+1)=0,Aq=0 A\boldsymbol p={}^t(2-1-1,\ 1-1,\ -1+1,\ -2+1+1)=\boldsymbol 0,\qquad A\boldsymbol q=\boldsymbol 0 となる。また rank⁡A=2\operatorname{rank}A=2 と dim⁡ker⁡A=2\dim\ker A=2 が次元定理 rank⁡A+dim⁡ker⁡A=4\operatorname{rank}A+\dim\ker A=4 を満たしていることも確認しておく。

失点しやすい点

rank⁡A\operatorname{rank}A を数えずに「解が2つ出た」で済ませると、基底であることの根拠が抜ける。p,q\boldsymbol p,\boldsymbol q が解空間を生成することと、一次独立であることの両方を書く。

設問(3)(4) 基底であることの証明と表現行列

方針

(3) は 4×44\times4 行列式を計算しても示せるが、AA を作用させる論法のほうが短く、しかも (4) で必要な f(v),f(w),f(p),f(q)f(\boldsymbol v),f(\boldsymbol w),f(\boldsymbol p),f(\boldsymbol q) をその場で使うので流れが自然である。「p,q\boldsymbol p,\boldsymbol q は AA で消え、v,w\boldsymbol v,\boldsymbol w は消えない」という非対称性が証明の核になっている。

別解(行列式)

P=(v w p q)P=(\boldsymbol v\ \boldsymbol w\ \boldsymbol p\ \boldsymbol q) の行列式を計算してもよい。第4行に第1行を加え、第3行に第2行を加えると det⁡P=det⁡(101001010010000−1)=−1≠0 \det P=\det\begin{pmatrix}1&0&1&0\\ 0&1&0&1\\ 0&0&1&0\\ 0&0&0&-1\end{pmatrix}=-1\neq0 となり、4本が一次独立であることが従う。ただし成分計算量が増えるので、時間配分の面では作用させる論法が有利である。

検算

BB と AA は相似なので、トレース・階数・固有多項式が一致していなければならない。tr⁡A=2+1+0+(−1)=2\operatorname{tr}A=2+1+0+(-1)=2、tr⁡B=1+1+0+0=2\operatorname{tr}B=1+1+0+0=2 で一致する。rank⁡B=2=rank⁡A\operatorname{rank}B=2=\operatorname{rank}A も一致し、BB の固有多項式は det⁡(tE−B)=t2(t−1)2 \det(tE-B)=t^2(t-1)^2 である。det⁡A=0\det A=0(rank⁡A=2\operatorname{rank}A=2 より)とも整合する。

背景

BB は固有値 11 のジョルダン細胞 J2(1)J_2(1) と 22 次の零行列を並べたもので、AA のジョルダン標準形にほかならない。固有値 11 の代数的重複度は 22 だが、ker⁡(A−E)=⟨v⟩\ker(A-E)=\langle\boldsymbol v\rangle より幾何的重複度は 11 なので、AA は対角化できない。設問 (1) の w\boldsymbol w は (A−E)w=v(A-E)\boldsymbol w=\boldsymbol v を満たす一般化固有ベクトルであり、対角化できない行列をどう扱うかを段階的に体験させるのがこの大問の狙いである。

失点しやすい点

表現行列を転置して書く誤りが最も多い。f(第j基底ベクトル)f(\text{第$j$基底ベクトル}) の座標が第 jj 列である。また基底の順序を変えれば BB の形も変わるので、答案には「基底 v,w,p,q\boldsymbol v,\boldsymbol w,\boldsymbol p,\boldsymbol q の順で」と明記しておく。

解答

以下、EE は4次単位行列、0\boldsymbol 0 は零ベクトルを表す。

(1) Av−vA\boldsymbol v-\boldsymbol v と w\boldsymbol w

まず定義どおり成分計算をする。v\boldsymbol v の第2・第3成分は 00 なので、AA の第1列と第4列だけが効いて Av=(2⋅1+1⋅(−1)1⋅1+1⋅(−1)(−1)⋅1+(−1)⋅(−1)(−2)⋅1+(−1)⋅(−1))=(100−1)=v A\boldsymbol v =\begin{pmatrix}2\cdot 1+1\cdot(-1)\\ 1\cdot 1+1\cdot(-1)\\ (-1)\cdot 1+(-1)\cdot(-1)\\ (-2)\cdot 1+(-1)\cdot(-1)\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\ 0\\ 0\\ -1\end{pmatrix} =\boldsymbol v であるから Av−v=0. A\boldsymbol v-\boldsymbol v=\boldsymbol 0 . すなわち v\boldsymbol v は固有値 11 に属する AA の固有ベクトルである。

次に Aw=v+wA\boldsymbol w=\boldsymbol v+\boldsymbol w は (A−E)w=v(A-E)\boldsymbol w=\boldsymbol v と同値である。w=t(x1,x2,x3,x4)\boldsymbol w={}^t(x_1,x_2,x_3,x_4) とおき、拡大係数行列を行基本変形する。 (10−11110010−1−1−1−10−201−2−1)⟶(10−1110010−10−1−20100−101) \left(\begin{array}{cccc|c} 1&0&-1&1&1\\ 1&0&0&1&0\\ -1&-1&-1&-1&0\\ -2&0&1&-2&-1 \end{array}\right) \longrightarrow \left(\begin{array}{cccc|c} 1&0&-1&1&1\\ 0&0&1&0&-1\\ 0&-1&-2&0&1\\ 0&0&-1&0&1 \end{array}\right) (第2行から第1行を引き、第3行に第1行を加え、第4行に第1行の2倍を加えた。)第2行と第4行はどちらも x3=−1x_3=-1 を与えるので矛盾はなく、 x3=−1,−x2−2x3=1 ⇒ x2=1,x1−x3+x4=1 ⇒ x1+x4=0. x_3=-1,\qquad -x_2-2x_3=1\ \Rightarrow\ x_2=1,\qquad x_1-x_3+x_4=1\ \Rightarrow\ x_1+x_4=0 . x1=0x_1=0 と選べば w=t(0,1,−1,0)\boldsymbol w={}^t(0,1,-1,0) を得る。実際 Aw=t(1,1,−1,−1),v+w=t(1,0,0,−1)+t(0,1,−1,0)=t(1,1,−1,−1) A\boldsymbol w={}^t(1,1,-1,-1),\qquad \boldsymbol v+\boldsymbol w={}^t(1,0,0,-1)+{}^t(0,1,-1,0)={}^t(1,1,-1,-1) となり、条件を満たしている。

(2) {x∣Ax=0}\{\boldsymbol x\mid A\boldsymbol x=\boldsymbol 0\} の基底

AA の第3行は第2行の (−1)(-1) 倍、第4行は第1行の (−1)(-1) 倍である。したがって Ax=0A\boldsymbol x=\boldsymbol 0 は 2x1−x3+x4=0,x1+x2+x4=0 2x_1-x_3+x_4=0,\qquad x_1+x_2+x_4=0 の2本と同値で、rank⁡A=2\operatorname{rank}A=2、よって解空間の次元は 4−2=24-2=2 である。第2式より x4=−x1−x2x_4=-x_1-x_2、これを第1式に代入して x3=2x1+x4=x1−x2. x_3=2x_1+x_4=x_1-x_2 . ゆえに解は x1,x2x_1,x_2 を任意として x=t(x1, x2, x1−x2, −x1−x2)=x1 t(1,0,1,−1)+x2 t(0,1,−1,−1) \boldsymbol x={}^t(x_1,\ x_2,\ x_1-x_2,\ -x_1-x_2) =x_1\,{}^t(1,0,1,-1)+x_2\,{}^t(0,1,-1,-1) と書ける。そこで p=t(1,0,1,−1),q=t(0,1,−1,−1) \boldsymbol p={}^t(1,0,1,-1),\qquad \boldsymbol q={}^t(0,1,-1,-1) とおく。p,q\boldsymbol p,\boldsymbol q は解空間を生成し、第1・第2成分を比べれば一次独立であるから、次元2の解空間の基底である。

(3) v,w,p,q\boldsymbol v,\boldsymbol w,\boldsymbol p,\boldsymbol q が基底であること

dim⁡R4=4\dim\mathbb R^4=4 であるから、4本が一次独立であることを示せばよい。

まず v,w\boldsymbol v,\boldsymbol w が一次独立であることを確かめる。αv+βw=0\alpha\boldsymbol v+\beta\boldsymbol w=\boldsymbol 0 とすると、第2成分より β=0\beta=0、続いて第1成分より α=0\alpha=0 を得る。

次に実数 α,β,γ,δ\alpha,\beta,\gamma,\delta に対して αv+βw+γp+δq=0(∗) \alpha\boldsymbol v+\beta\boldsymbol w+\gamma\boldsymbol p+\delta\boldsymbol q=\boldsymbol 0 \tag{$\ast$} が成り立つとする。(∗)(\ast) の両辺に左から AA を掛ける。Av=vA\boldsymbol v=\boldsymbol v、Aw=v+wA\boldsymbol w=\boldsymbol v+\boldsymbol w、Ap=Aq=0A\boldsymbol p=A\boldsymbol q=\boldsymbol 0 であるから αv+β(v+w)=(α+β)v+βw=0. \alpha\boldsymbol v+\beta(\boldsymbol v+\boldsymbol w)=(\alpha+\beta)\boldsymbol v+\beta\boldsymbol w=\boldsymbol 0 . v,w\boldsymbol v,\boldsymbol w の一次独立性より α+β=0\alpha+\beta=0 かつ β=0\beta=0、したがって α=β=0\alpha=\beta=0 である。これを (∗)(\ast) に戻すと γp+δq=0\gamma\boldsymbol p+\delta\boldsymbol q=\boldsymbol 0 となり、(2) で示した p,q\boldsymbol p,\boldsymbol q の一次独立性から γ=δ=0\gamma=\delta=0 を得る。

よって v,w,p,q\boldsymbol v,\boldsymbol w,\boldsymbol p,\boldsymbol q は一次独立であり、本数が 4=dim⁡R44=\dim\mathbb R^4 に等しいので R4\mathbb R^4 の基底である。

(4) 基底 v,w,p,q\boldsymbol v,\boldsymbol w,\boldsymbol p,\boldsymbol q に関する表現行列

表現行列 BB は、各基底ベクトルの像をこの基底で表したときの係数を列に並べた行列である。(1)(2) より f(v)=v,f(w)=v+w,f(p)=0,f(q)=0 f(\boldsymbol v)=\boldsymbol v,\qquad f(\boldsymbol w)=\boldsymbol v+\boldsymbol w,\qquad f(\boldsymbol p)=\boldsymbol 0,\qquad f(\boldsymbol q)=\boldsymbol 0 であるから、係数はそれぞれ t(1,0,0,0){}^t(1,0,0,0)、t(1,1,0,0){}^t(1,1,0,0)、t(0,0,0,0){}^t(0,0,0,0)、t(0,0,0,0){}^t(0,0,0,0) である。したがって B=(1100010000000000). B=\begin{pmatrix}1&1&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&0&0\\ 0&0&0&0\end{pmatrix}. なお P=(v w p q)P=(\boldsymbol v\ \boldsymbol w\ \boldsymbol p\ \boldsymbol q) とおけば AP=PBAP=PB、すなわち B=P−1APB=P^{-1}AP である。

最終答

Av−v=0A\boldsymbol v-\boldsymbol v=\boldsymbol 0、 w=t(0,1,−1,0)\boldsymbol w={}^t(0,1,-1,0)(一例)

p=t(1,0,1,−1)\boldsymbol p={}^t(1,0,1,-1)、q=t(0,1,−1,−1)\boldsymbol q={}^t(0,1,-1,-1)

B=(1100010000000000)B=\begin{pmatrix}1&1&0&0\\ 0&1&0&0\\ 0&0&0&0\\ 0&0&0&0\end{pmatrix} (基底の順序は v,w,p,q\boldsymbol v,\boldsymbol w,\boldsymbol p,\boldsymbol q)

第2問 — 線形代数:転置による線形写像と対角化

方針

どちらも「転置が線形で、(t)2=id({}^t)^2=\mathrm{id} である」という一点に尽きる。t(A)=tAt(A)={}^tA とおくと fn=id+tf_n=\mathrm{id}+t と書け、t2=idt^2=\mathrm{id} である。したがって tt の固有値は ±1\pm1 しかありえず、fn=id+tf_n=\mathrm{id}+t の固有値は 22 と 00 に限られる。tt の固有値 11 の固有空間が対称行列全体 WnW_n、固有値 −1-1 の固有空間が交代行列全体である。(1) はまさに「WnW_n が fnf_n の固有値 22 の固有空間である」ことを言っている。

答案の書き方

(1) は「  ⟺  \iff」と書かれているので、片方向だけでは減点される。2行ずつで足りるので、(⇒)(\Rightarrow) と (⇐)(\Leftarrow) を分けて書く。(2) は加法性とスカラー倍の2つを示す。使ってよい性質(転置の線形性)は既知としてよいが、答案の冒頭で明示しておくと論理の飛躍がなくなる。

値域の確認

線形写像の定義には「VnV_n の元を VnV_n の元に写す」ことも含まれる。A+tAA+{}^tA が nn 次実正方行列であることは自明に近いが、一言添えておくと丁寧である。なお fnf_n の像は t(A+tA)=tA+A=A+tA {}^t(A+{}^tA)={}^tA+A=A+{}^tA より常に対称行列であり、Im⁡fn⊂Wn\operatorname{Im}f_n\subset W_n が成り立つ。逆に S∈WnS\in W_n に対し fn(S/2)=Sf_n(S/2)=S なので Im⁡fn=Wn\operatorname{Im}f_n=W_n である。この事実は (3) の次元の検算に使える。

設問(3)(4) 基底・次元と対角行列になる基底

方針

(4) は「対角化せよ」と言われているが、固有多項式を計算する必要はない。(1) と (3) から f2f_2 の固有値は 22(固有空間 W2W_2、3次元)と 00(固有空間 ker⁡f2\ker f_2、1次元)だと分かっており、3+1=4=dim⁡V23+1=4=\dim V_2 なので V2=W2⊕ker⁡f2V_2=W_2\oplus\ker f_2 が成り立つ。両側の基底を並べれば、それがそのまま対角化する基底である。

直和分解の見方

任意の AA に対し A=A+tA2⏟対称+A−tA2⏟交代 A=\underbrace{\frac{A+{}^tA}{2}}_{\text{対称}}+\underbrace{\frac{A-{}^tA}{2}}_{\text{交代}} という分解が一意に定まる。これが Vn=Wn⊕(交代行列全体)V_n=W_n\oplus(\text{交代行列全体}) の実体で、(4) の A=xE1+wE2+y+z2F+y−z2KA=xE_1+wE_2+\frac{y+z}{2}F+\frac{y-z}{2}K は n=2n=2 での成分表示にほかならない。fnf_n は「対称成分だけを 22 倍して取り出す写像」であり、12fn\frac12 f_n は WnW_n への射影である。

検算

次元定理 dim⁡ker⁡f2+dim⁡Im⁡f2=dim⁡V2\dim\ker f_2+\dim\operatorname{Im}f_2=\dim V_2 を確かめる。Im⁡f2=W2\operatorname{Im}f_2=W_2 なので 1+3=41+3=4 で正しい。また BB のトレースは 2+2+2+0=62+2+2+0=6、これは f2f_2 の固有値を重複度こみで足したものである。一般の nn でも dim⁡Wn=n(n+1)2,dim⁡ker⁡fn=n(n−1)2,n(n+1)2+n(n−1)2=n2=dim⁡Vn \dim W_n=\frac{n(n+1)}{2},\qquad \dim\ker f_n=\frac{n(n-1)}{2},\qquad \frac{n(n+1)}{2}+\frac{n(n-1)}{2}=n^2=\dim V_n と整合する。n=2n=2 では 3+1=43+1=4 である。

失点しやすい点

(3) で「基底を求めよ」とあるので、生成することと一次独立であることの両方に触れる。ker⁡f2\ker f_2 を求めるとき y+z=0y+z=0 から z=−yz=-y を出すのはよいが、2x=2w=02x=2w=0 の条件を落として次元を 22 と答える誤りが起こりやすい。(4) では「表現行列 BB も答えること」とあるので、基底だけ書いて終わらない。基底の順序を変えると対角成分の並びも変わるので、順序を明記しておく。

この設問が試していること

行列の集合を「行列の掛け算がある代数」ではなく「ベクトル空間」として見られるか、そのうえで線形写像の核・像・固有空間という一般論を具体的な対象に当てはめられるか、が問われている。nn を一般に置いた (1)(2) と、n=2n=2 に落とした (3)(4) の対応を意識して答案を書くと、理解が伝わりやすい。

線形代数:転置による線形写像と対角化の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 微分積分:双曲線関数のテイラー展開と剰余項

方針

sinh⁡\sinh と cosh⁡\cosh が微分で入れ替わる(sin⁡,cos⁡\sin,\cos と違って符号が付かない)ことが出発点である。「偶数階は sinh⁡\sinh、奇数階は cosh⁡\cosh」という主張を2つ同時に帰納法の仮定に入れるのがこつで、片方だけで回そうとすると1ステップ進むごとに主張が変わって書きにくい。

答案の分量

(1)(2) は合わせて10行程度で足りる。sinh⁡0=0\sinh 0=0、cosh⁡0=1\cosh 0=1 を定義式に x=0x=0 を代入して確認する一行を入れておくと、値の根拠が明示できる。ff が C∞C^{\infty} 級であること(何回でも微分してよいこと)も一言添えると、(3) で高階導関数を使う準備になる。

(1)(2) の意味

この2つを合わせると、ff のマクローリン展開の係数 f(k)(0)/k!f^{(k)}(0)/k! は kk が偶数のとき 00、奇数のとき 1/k!1/k! である。したがって ∑k=02nf(k)(0)k!xk=∑j=0n−1x2j+1(2j+1)!=x+x33!+⋯+x2n−1(2n−1)! \sum_{k=0}^{2n}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^{k}=\sum_{j=0}^{n-1}\frac{x^{2j+1}}{(2j+1)!} =x+\frac{x^{3}}{3!}+\dots+\frac{x^{2n-1}}{(2n-1)!} となり、(3) で扱う R2n+1(x)R_{2n+1}(x) は sinh⁡x\sinh x とこの奇数次多項式との差である。sinh⁡\sinh が奇関数であることとも整合している。

設問(3) 剰余項 R2n+1(x)R_{2n+1}(x) の収束

方針

示すべきは「剰余が 00 に行く」ことなので、剰余を具体的な形で書けるテイラーの定理(ラグランジュの剰余)を使う。cc の位置は分からないが、∣c∣≤∣x∣|c|\le|x| という情報だけで cosh⁡c\cosh c を xx だけで決まる定数 cosh⁡∣x∣\cosh|x| に置き換えられる。これで問題は与えられたヒントに帰着する。

添字のずれに注意

RnR_n の定義の和は k=0k=0 から n−1n-1 までなので、RnR_n は「nn 次の剰余」であり、剰余に現れる導関数は f(n)f^{(n)} である。R2n+1R_{2n+1} に現れるのは f(2n+1)=cosh⁡f^{(2n+1)}=\cosh で、f(2n)=sinh⁡f^{(2n)}=\sinh ではない。ここを取り違えると sinh⁡c\sinh c が出てきて (1) の結果と噛み合わなくなる。なお x2nx^{2n} の係数 f(2n)(0)/(2n)!f^{(2n)}(0)/(2n)! は 00 なので、R2nR_{2n} と R2n+1R_{2n+1} は同じ関数である。

別解(級数から直接)

ey=∑k≥0yk/k!e^{y}=\sum_{k\ge0}y^{k}/k! が全実数で成り立つことを既知としてよいなら、 sinh⁡x=12∑k=0∞xk−(−x)kk!=∑j=0∞x2j+1(2j+1)! \sinh x=\frac{1}{2}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^{k}-(-x)^{k}}{k!} =\sum_{j=0}^{\infty}\frac{x^{2j+1}}{(2j+1)!} となる。このとき R2n+1(x)=∑j≥nx2j+1/(2j+1)!R_{2n+1}(x)=\sum_{j\ge n}x^{2j+1}/(2j+1)! は収束級数の尾部だから n→∞n\to\infty で 00 に収束する。ただし本問は「xn/n!→0x^{n}/n!\to0 を用いてよい」と誘導しているので、テイラーの定理から書く解答のほうが出題の意図に沿う。

検算

n=1n=1 のとき R3(x)=sinh⁡x−xR_3(x)=\sinh x-x である。x=0.1x=0.1 とすると sinh⁡0.1=0.1001667…\sinh0.1=0.1001667\ldots なので R3(0.1)=1.667×10−4R_3(0.1)=1.667\times10^{-4}。一方 (♯)(\sharp) の右辺は cosh⁡(0.1)⋅0.133!=1.0050×0.0016=1.675×10−4 \cosh(0.1)\cdot\frac{0.1^{3}}{3!}=1.0050\times\frac{0.001}{6}=1.675\times10^{-4} となり、確かに評価が成り立ちしかも非常に近い。xx を大きくすると cosh⁡∣x∣\cosh|x| は爆発的に増えるが、∣x∣2n+1/(2n+1)!|x|^{2n+1}/(2n+1)! の減り方のほうが最終的に勝つ、という順序関係が結論の要点である。

失点しやすい点

最も多いのは、cc が nn にも xx にも依存することを無視して cosh⁡c\cosh c を定数扱いしてしまう答案である。∣c∣≤∣x∣|c|\le|x| と cosh⁡\cosh の偶関数性・単調性を経由して、nn に依存しない上界 cosh⁡∣x∣\cosh|x| に置き換える手順を必ず書く。また「xx を固定したとき」という条件が効いており、xx を動かしたままでは cosh⁡∣x∣\cosh|x| を定数と見なせない。ラグランジュの剰余を使う前に ff が必要な回数だけ微分可能であることを述べておくのも忘れやすい点である。

微分積分:双曲線関数のテイラー展開と剰余項の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 微分積分:累次積分の順序交換と極座標変換

方針

与えられた順序のまま内側の積分 ∫x21y ey3 dy\int_{x^{2}}^{1}y\,e^{y^{3}}\,dy を計算しようとしても、y ey3y\,e^{y^{3}} の原始関数は初等関数で書けない。一方 xx で先に積分すれば ∫x dx=x2/2\int x\,dx=x^{2}/2 で yy が1つ増え、y2ey3y^{2}e^{y^{3}} という「ey3e^{y^{3}} の微分の形」が現れる。「ey3e^{y^{3}} を積分するには y2y^{2} が必要」という一点が、順序を入れ替える動機である。

領域の書き換え

x2≤yx^{2}\le y を xx について解くとき、0≤x≤10\le x\le1 という制約があるので x≤yx\le\sqrt{y} となり、−y≤x-\sqrt{y}\le x 側は考えなくてよい。図1のように放物線 y=x2y=x^{2} と直線 y=1y=1、yy 軸で囲まれた領域を描いてから、横に切るか縦に切るかを選ぶと間違えにくい。

検算

e−16=0.2864…\frac{e-1}{6}=0.2864\ldots である。粗い見積もりとして、D1D_1 の面積は ∫01(1−x2)dx=2/3\int_0^1(1-x^{2})dx=2/3、被積分関数 xy ey3xy\,e^{y^{3}} は D1D_1 上で 00 以上 e=2.718…e=2.718\ldots 以下だから 0≤I1≤2/3⋅e=1.810\le I_1\le 2/3\cdot e=1.81 に収まっており矛盾しない。より精しくは 12∫01y2ey3dy\frac12\int_0^1y^{2}e^{y^{3}}dy の被積分関数が y=1y=1 で e/2=1.36e/2=1.36、y=0.5y=0.5 で 0.140.14 と急に立ち上がる形なので、値が 0.30.3 前後になるのは自然である。

失点しやすい点

順序を入れ替えたことを宣言せず、いきなり ∫01∫0y\int_0^1\int_0^{\sqrt y} と書く答案が多い。領域を D1D_1 として一度取り出し、2通りの表示が同じ集合であることを述べてから計算するのが安全である。また置換 u=y3u=y^{3} のとき積分区間も 0→10\to1 に直すことを忘れない。

設問(2) 極座標変換による2重積分

方針

被積分関数が x2+y2\sqrt{x^{2}+y^{2}}、領域の境界が2つの円という時点で極座標一択である。ポイントは不等式 2x≤x2+y22x\le x^{2}+y^{2} を極座標に直すところで、両辺を rr(>0>0)で割ると 2cos⁡θ≤r2\cos\theta\le r という「下端が θ\theta に依存する」形になる。x2+y2=2xx^{2}+y^{2}=2x は (x−1)2+y2=1(x-1)^{2}+y^{2}=1、すなわち中心 (1,0)(1,0)・半径 11 の円で、極方程式 r=2cos⁡θr=2\cos\theta をもつ標準的な円である。

別の分け方(検算にもなる)

DD を「四分円全体から小円の上半分を除いたもの」と見て ∫0π/2 ⁣ ⁣∫02r2 dr dθ−∫0π/2 ⁣ ⁣∫02cos⁡θr2 dr dθ=π2⋅83−83⋅23=4π3−169 \int_0^{\pi/2}\!\!\int_0^{2}r^{2}\,dr\,d\theta-\int_0^{\pi/2}\!\!\int_0^{2\cos\theta}r^{2}\,dr\,d\theta =\frac{\pi}{2}\cdot\frac83-\frac{8}{3}\cdot\frac23 =\frac{4\pi}{3}-\frac{16}{9} と計算しても同じ値になる。第2項の内側が r=0r=0 から始まっているのは、θ\theta を固定したとき原点から r=2cos⁡θr=2\cos\theta までが小円の内部にあたるからである。

検算

DD の面積は「四分円の面積 π\pi」から「半径 11 の半円の面積 π/2\pi/2」を引いて π/2=1.571\pi/2=1.571 である。一方 I2=2.411I_2=2.411 なので、DD 上での x2+y2\sqrt{x^{2}+y^{2}} の平均値は 2.411/1.571=1.5352.411/1.571=1.535 となる。DD 上で x2+y2\sqrt{x^{2}+y^{2}} は 00 から 22 の値をとり、しかも原点近くは小円で削られているから、平均が 22 よりやや小さい 1.51.5 程度になるのは妥当である。

失点しやすい点

第一に θ\theta の範囲で、x≥0x\ge0 と y≥0y\ge0 の両方から 0≤θ≤π/20\le\theta\le\pi/2 と決まる。x≥0x\ge0 だけを見て −π/2≤θ≤π/2-\pi/2\le\theta\le\pi/2 としてしまうと値が変わる。第二にヤコビアン rr の落とし忘れで、x2+y2 dxdy=r⋅r drdθ=r2drdθ\sqrt{x^{2}+y^{2}}\,dxdy=r\cdot r\,drd\theta=r^{2}drd\theta となることを明示する。第三に 2x≤x2+y22x\le x^{2}+y^{2} の向きで、これは「小円の外側」を表す。内外を取り違えると rr の上下端が入れ替わり、符号が反転した答になる。

この大問が試していること

2題とも、公式を知っているかではなく「積分領域をどう表すか」を問うている。(1) は同じ領域の2通りの累次表示、(2) は直交座標から極座標への書き換えで、いずれも図を描いて境界を不等式に翻訳する作業である。答案では領域の記述に十分な行数を割き、計算そのものは簡潔に書くのがよい。

微分積分:累次積分の順序交換と極座標変換の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(10年度)

  • 2026年度冬季(全4問)

    同時対角化 / 行列式 / 関数項級数

  • 2026年度夏季(全13問)

    線形写像 / 固有値 / 極値

  • 2025年度冬季(全4問)

    線形写像 / 固有値と対角化 / 広義積分

  • 2025年度夏季(全13問)

    線形代数 / 線形写像 / 多変数微分積分

  • 2024年度冬季(全4問)

    広義積分 / 関数項級数 / 線形代数

  • 2024年度夏季(全13問)

    微分積分 / 多変数積分 / 線形写像

  • 2023年度 冬季(このページ・全4問)

    線形代数:一般化固有ベクトルと表現行列 / 線形代数:転置による線形写像と対角化 / 微分積分:双曲線関数のテイラー展開と剰余項

  • 2023年度 夏季(全13問)

    数学I 問題1 微分積分:単調性と広義積分・級数 / 数学I 問題2 微分積分:連続性・重積分・体積 / 数学I 問題3 線形代数:固有値と対角化

  • 2022年度 冬季(全4問)

    線形代数:媒介変数を含む行列の像・固有値・対角化 / 線形代数:多項式空間から \mathbb{R}^3 への評価写像 / 微分積分:コーシー列と関数項級数の一様収束

  • 2022年度 夏季(全13問)

    線形代数:線形写像の像と2つの像の一致 / 線形代数:直交補空間と直交分解 / 微分積分:有理関数の不定積分と広義重積分

2023年度 冬季の出題内容

全4問

この4問の分野は線形代数2問・微分積分・解析2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数一般化固有ベクトルと表現行列\boldsymbol w の自由度 / 別解(行列式)あり
第2問線形代数転置による線形写像と対角化値域の確認 / 直和分解の見方あり
第3問微分積分・解析双曲線関数のテイラー展開と剰余項(1)(2) の意味 / 添字のずれに注意あり
第4問微分積分・解析累次積分の順序交換と極座標変換領域の書き換え / 別の分け方(検算にもなる)あり

2023年度 冬季の解説には検算4件・失点しやすい点4件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2023年度 夏季)との違い

大問数
2023年度 夏季 13問 → 2023年度 冬季 4問
2023年度 夏季の解答例

東京都立大学の公式過去問

公開年度範囲
直近数年度(春・冬入学)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
TOEFL/TOEIC スコア提出。
院試hubの最終確認
2026-06-03
東京都立大学の公式過去問PDF