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九州大学 院試 過去問 解答例

九大 理学府 物理学専攻 物理学 2022年度 院試 解答例・解説

九州大学 理学府 物理学専攻 物理学 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全4問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

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設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 物理学I:力学と連続体の振動

方針

この大問は、前半が「撃力による並進と回転」、後半が「多自由度の連成振動を直交変換で 独立な単振動へ分解する」問題である。さらに連続極限では、有限個の質点の基準振動が 弦の正規モードに置き換わる。どちらも、最初にエネルギーまたは力積から運動方程式を 作り、次に座標を選んで分離する、という流れを崩さないことが重要である。

I-Aの検算と典型ミス

PP の速度では、並進速度と回転による速度を足す。符号を落としやすいが、 衝突点が +x+x 側、握る点が x-x 側なので、回転による点 PP の速度は重心の 並進速度と逆向きになる。したがって vP=(NMadNI)ey \boldsymbol{v}_P = \left(\frac{N}{M}-\frac{adN}{I}\right)\boldsymbol{e}_y という差の形になる。ここが和になると、手元の速度をゼロにできず、物理的にもおかしい。

また、芯の条件 ad=IM ad=\frac{I}{M} は次元でも確認できる。右辺 I/MI/M は長さの二乗、左辺 adad も長さの二乗である。 一様な細い棒なら II は重心からの二乗平均距離に相当するので、衝突点を重心から 遠くすると、それに反比例して握る点までの距離 dd は短くなる。この依存関係も 結果の妥当性を確認する手がかりになる。

離散系で試験答案に書くべき点

問1、問2では、弾性エネルギー中の定数項 iκ2a2 \sum_i\frac{\kappa}{2}a^2 は運動方程式に影響しない。答案では無視してよいが、ばねの伸びではなく (ui+1ui)2(u_{i+1}-u_i)^2 が効いている理由は、与えられたエネルギー式から微分していることを 明示するとよい。

一般の uiu_i では、左右の二つのばねが寄与するため 2uiui1ui+1 2u_i-u_{i-1}-u_{i+1} が出る。端の質点では u0=0u_0=0uN+1=0u_{N+1}=0 を忘れない。特に u1u_1 だけを 問われたときに、左端の固定条件を書かずに一般式だけで済ませると、境界条件の扱いが 曖昧になる。

基準座標の意味

行列 AA は実対称行列なので直交行列で対角化できる。この直交性により、運動エネルギー の形を壊さずに座標を回転できる。つまり v=tPu \boldsymbol{v}={}^tP\boldsymbol{u} は単なる成分の混合ではなく、互いに独立な振動の振幅を表す座標である。 対角化後の式 mv¨i=λivi m\ddot{v}_i=-\lambda_i v_i まで書けば、角振動数が λi/m\sqrt{\lambda_i/m} であることは直ちに読める。

N=3N=3 の固有値は、三重対角行列の公式 λr=2κ(1cosrπN+1)=4κsin2rπ2(N+1)(r=1,,N) \lambda_r = 2\kappa\left(1-\cos\frac{r\pi}{N+1}\right) = 4\kappa\sin^2\frac{r\pi}{2(N+1)} \qquad (r=1,\ldots,N) を使ってもよい。N=3N=3 なら r=1,2,3r=1,2,3 を代入するだけで κ(22),2κ,κ(2+2)\kappa(2-\sqrt2),2\kappa,\kappa(2+\sqrt2) が得られる。試験では、公式を使う場合も 対応する行列 AA を先に示しておくと答案の根拠が明確になる。

連続極限の見方

連続極限では質量密度が M/lM/l、張力が FF である。弦の波の速さは c=FM/l=FlM c=\sqrt{\frac{F}{M/l}}=\sqrt{\frac{Fl}{M}} なので、波動方程式は uttc2uxx=0 u_{tt}-c^2u_{xx}=0 となる。この見方を使うと、指数 (α,β,γ)=(1,1,1) (\alpha,\beta,\gamma)=(-1,1,1) はすぐに判断できる。単位で見ても FlM \frac{Fl}{M} は速度の二乗であり、uttu_{tt}(Fl/M)uxx(Fl/M)u_{xx} の次元が一致する。

フーリエ展開で落としやすい係数

正弦関数の前に 2/l\sqrt{2/l} が付いているため、 0l[2lsin(kjx)][2lsin(krx)]dx=δjr \int_0^l \left[ \sqrt{\frac{2}{l}}\sin(k_jx) \right] \left[ \sqrt{\frac{2}{l}}\sin(k_rx) \right]dx =\delta_{jr} となる。したがって運動エネルギーの係数には余分な l/2l/2 は残らない。 この規格化を見落として未規格化の sin(kjx)\sin(k_jx) のまま進めると、あとで u~j\tilde u_j の定義に応じた係数調整が必要になる。 同様に空間微分では sin\sincos\cos に変わり、係数 kjk_j が出るので、 弾性エネルギーには kj2u~j2k_j^2\tilde{u}_j^2 が現れる。

定数項 12Fl\frac{1}{2}Fl は運動方程式には効かないが、問6ではラグランジアンの形を 示す問題なので落とさずに書くのが安全である。一方、問7のオイラー・ラグランジュ方程式 ではこの定数項を微分してもゼロである。

連続系と離散系の対応

離散系では固有値 λi\lambda_i が復元力の強さを表し、角振動数は λi/m\sqrt{\lambda_i/m} であった。連続系ではモード番号 nn に対して ωn2=Fn2π2Ml \omega_n^2=\frac{F n^2\pi^2}{Ml} となる。高いモードほど nn に比例して角振動数が大きくなることは、固定端の弦の 基本的な性質と一致している。問7では、指定どおり m,N,κ,am,N,\kappa,a を使わず、 連続系の量 M,l,FM,l,F とモード番号 nn だけで答える点にも注意する。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 物理学II:電磁気学

方針

[II-A] は、暗記した公式を並べるだけでなく「発散を取る」「ベクトル解析の恒等式を使う」 という流れを明示すると答案として強い。特に連続の式は、変位電流項 ε0tE\varepsilon_0\partial_t\mathbf E があるからこそガウスの法則と両立する、という点が本質である。 もしアンペールの法則を ×B=μ0j\nabla\times\mathbf B=\mu_0\mathbf j としてしまうと j=0\nabla\cdot\mathbf j=0 しか出ず、時間変化する充電過程を扱えない。

[II-B] は、まず符号を固定するのが最重要である。上側極板が正なら、極板間の電場は上から下へ向かうので ez-\mathbf e_z 方向である。この符号を変位電流、磁場、ポインティングベクトルまで一貫させれば、エネルギー保存式の検算まで自然に通る。

ポテンシャルとゲージの見方

B=×A\mathbf B=\nabla\times\mathbf A と書くと B=0\nabla\cdot\mathbf B=0 は恒等的に満たされる。 さらにファラデーの法則は ×(E+At)=0 \nabla\times\left(\mathbf E+\frac{\partial\mathbf A}{\partial t}\right)=\mathbf 0 と書けるので、括弧内をスカラー関数の勾配 ϕ-\nabla\phi と置ける。これが E=ϕtA\mathbf E=-\nabla\phi-\partial_t\mathbf A の出どころである。 ゲージ変換では (tΛ)\nabla(\partial_t\Lambda)t(Λ)\partial_t(\nabla\Lambda) が打ち消し合うこと、また ×Λ=0\nabla\times\nabla\Lambda=\mathbf0 であることを式で書けば十分である。

コンデンサーの電荷配置

導体内部の静電場はゼロであり、端効果を無視しているため、電荷は極板の向かい合う面にだけ分布する。 上側極板全体の電荷が +Q0+Q_0 なら、その下面が +Q0+Q_0、下側極板の上面が Q0-Q_0 である。 外側表面に電荷を置いてしまうと、外部にも電場を作ることになり、本問の近似と矛盾する。

磁場の符号と向き

半径 rr の円周を eθ\mathbf e_\theta 向きに回る向きとして選ぶと、対応する面法線は +ez+\mathbf e_z である。ところが充電が進む初期には tE\partial_t\mathbf Eez-\mathbf e_z 方向なので、面を貫く変位電流は負になる。 そのため HθH_\theta も負である。ここを絶対値だけで書く答案は、後の S=E×H\mathbf S=\mathbf E\times\mathbf H の向きを失いやすい。 また、r<Rr<R では変位電流が面積に比例して r2r^2 で増えるので HθrH_\theta\propto rr>Rr>R では全変位電流が一定なので Hθ1/rH_\theta\propto 1/r となる。 この振る舞いは直線電流の周りの磁場と同じ積分形から出ており、境界 r=Rr=R で連続でなければ計算ミスを疑う。

エネルギー保存による検算

初期の ωt1\omega t\ll1 では SQ02ω2rt2ε0π2R4er \mathbf S\simeq -\frac{Q_0^2\omega^2rt}{2\varepsilon_0\pi^2R^4}\mathbf e_r であり、半径方向内向きである。これは、コンデンサー内に増えていく電場エネルギーが側面から流入することを意味する。 実際に円筒座標の発散 (Srer)=1rr(rSr) \nabla\cdot(S_r\mathbf e_r)=\frac{1}{r}\frac{\partial}{\partial r}(rS_r) を使うと、tu\partial_t u と正確に打ち消し合う。この検算により、電場・磁場・ポインティングベクトルの符号と係数 2πr2\pi rπR2\pi R^2 がすべて整合していることを確認できる。 ただし、ここでの場は端効果と誘導電場を捨てた準静的場であるため、全時刻・全次数で厳密な電磁波問題として 読むのではなく、ωt1\omega t\ll1 の最低次でのエネルギー流入の向きと係数の検算として使う。 この注意を書けると、磁場エネルギー項の時間変化を過大に扱ってしまう典型ミスを避けられる。

試験で書くべきポイント

ベクトル解析の恒等式は「成分で混合偏微分が打ち消す」と一言添えると証明になる。 連続の式では、アンペール・マクスウェルの法則の発散を取る行を必ず書く。 コンデンサーでは、面積を πR2\pi R^2 とすること、半径 r<Rr<R の円を貫く変位電流は全電流ではなく r2/R2r^2/R^2 倍であること、ポインティングベクトルは E×H\mathbf E\times\mathbf H の順序で計算することが失点防止になる。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 物理学III:量子力学

方針

[III-A] は交換子の積の公式 [AB,C]=A[B,C]+[A,C]B [AB,C]=A[B,C]+[A,C]B を何度も使う問題である。xx 同士,pp 同士の交換子はゼロなので,実際に残るのは [xa,pb][x_a,p_b] が出る項だけである。[III-B] は横方向が無限井戸,鉛直方向が線形ポテンシャル mgzmgz の量子力学である。横方向は三角関数,鉛直方向は変分法または Airy 型方程式で扱う。

角運動量で落としやすい点

[L1,L2][L_1,L_2] の計算では,x2p3x_2p_3x3p1x_3p_1 の交換だけでなく, x3p2x_3p_2x1p3x_1p_3 の交換も残る。片方だけで止めると符号も係数も合わない。 また L±λ,mL_\pm|\lambda,m\rangle の議論では,L3L_3 の固有値だけでなく L2L^2 の固有値が変わらないことも書くと答案として十分である。端の状態では L+λ,m=0L_+|\lambda,m\rangle=0 または Lλ,m=0L_-|\lambda,m\rangle=0 となり得るため, 「零でなければ比例する」と述べるのが正確である。

ド・ブロイ波長の検算

中性子の運動エネルギーは質量エネルギーに比べて極めて小さいので,非相対論近似 K=p2/(2m)K=p^2/(2m) を使う。計算結果 6.0×108 m6.0\times10^{-8}\ \mathrm{m} は原子サイズよりかなり大きく, 超冷中性子として波動性が見えやすい長さになっている。単位を eV のまま進める場合は, pcpc を eV,hchceVm\mathrm{eV\,m} として割るとそのまま m が出る。

分離定数と境界条件

全エネルギーは E=Ex+Ey+Ez E=E_x+E_y+E_z と分かれる。問われている xx 方向では区間の中心が 00 にずれているだけで,幅は aa である。 したがってエネルギーは通常の幅 aa の無限井戸と同じであり,偶奇によって波動関数の形は 変わっても,エネルギー式は π22n2/(2ma2)\pi^2\hbar^2 n^2/(2ma^2) の一種類にまとめられる。

変分計算の見通し

試行関数は z=0z=0 でゼロになり,zz\to\infty で指数的に減衰するので,無限壁と重力ポテンシャルの 基本的な境界条件を満たしている。運動エネルギーは b2b^2 に比例し,ポテンシャルエネルギーは 1/b1/b に比例する。bb を大きくすると波動関数は床近くに局在して重力エネルギーは下がる一方, 曲率が大きくなって運動エネルギーが上がる。この競合が極小条件 b3=12m2g/2b^3=12m^2g/\hbar^2 を生む。

Airy 型解の選別

鉛直方向の厳密解では zz\to\inftyw+w\to+\infty に対応する。そこで発散する独立解を混ぜると 波動関数が規格化不能になるため,係数をゼロにしなければならない。残った A(w)A(w) について 床面の無限壁 Z(0)=0Z(0)=0 を課すと,エネルギーは A(w)A(w) の負の零点で決まる。 基底状態は絶対値が最も小さい零点 α1\alpha_1 に対応し,α1<0\alpha_1<0 であるため α1(2mg2/2)1/3>0-\alpha_1(\hbar^2mg^2/2)^{1/3}>0 となる。

試験で書くべきポイント

角運動量では,最終式だけでなく「どの交換子が残るか」を一行示すと部分点を失いにくい。 重力中の中性子では,境界条件 X(±a/2)=0X(\pm a/2)=0Z(0)=0Z(0)=0,および zz\to\infty での規格化可能性が 答案の要である。変分法では微分して極小条件を出した後,その条件を使って E=T+V=3TE=T+V=3T と短く整理すると,係数 32\frac32 の計算ミスを避けやすい。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

4 — 物理学IV:統計力学

方針

この問題の中心は、同じ「回転熱容量」でも、古典極限、量子回転準位、核スピン統計、 オルソ・パラ転換の遅さという四つの層を区別することである。室温付近では古典的な 回転自由度の等分配により NkBNk_{\mathrm B} が出る。一方、低温では回転準位の間隔が kBTk_{\mathrm B}T と同程度以上になり、さらに核スピンの対称性が偶数 \ell と奇数 \ell の選択を決める。

等核二原子分子で半分にする理由

古典回転分配関数で最も落としやすい点は、n\boldsymbol nn-\boldsymbol n を 別状態として数えてしまうことである。異核二原子分子なら向きのある分子軸を区別するが、 等核二原子分子では二つの原子を入れ換えても同じ分子である。したがって球面上の向きの 全体を数えたあと、二重計数を取り除くために 22 で割る。この 1/21/2 がなければ ZrZ_{\mathrm r}2IkBT/22Ik_{\mathrm B}T/\hbar^2 となり、問題で求める古典極限と合わない。

自由エネルギーの示量性

並進自由エネルギーでは 1/N!1/N! が本質的である。これを入れないと FtF_{\mathrm t}NlogVN\log V のような形が残り、N,VN,V を同じ倍率で増やしたときに 自由エネルギーが同じ倍率で増えない。Stirling の公式を使って V/NV/N の形に直すことが、 示量性を確認する答案上のポイントである。

熱容量公式の検算

古典的な答は等分配則でも確認できる。並進運動には 33 個の二次形式があり、一分子あたり 平均エネルギーは 32kBT\frac32 k_{\mathrm B}T である。線形二原子分子の回転には 22 個の二次形式があり、一分子あたり平均エネルギーは kBTk_{\mathrm B}T である。 したがって CV,t=T(32NkBT),CV,r=T(NkBT) C_{V,\mathrm t}=\frac{\partial}{\partial T} \left(\frac32Nk_{\mathrm B}T\right), \qquad C_{V,\mathrm r}=\frac{\partial}{\partial T} \left(Nk_{\mathrm B}T\right) となり、自由エネルギーからの計算と一致する。

同じ確認は分配関数から直接行うこともできる。正準集団では U=βlogZ U=-\frac{\partial}{\partial\beta}\log Z であり、古典回転部分について logZr=Nlog ⁣(I2β) \log Z_{\mathrm r} = N\log\!\left(\frac{I}{\hbar^2\beta}\right) だから Ur=βlogZr=Nβ=NkBT. U_{\mathrm r} = -\frac{\partial}{\partial\beta}\log Z_{\mathrm r} = \frac{N}{\beta} = Nk_{\mathrm B}T. この結果を TT で微分しても CV,r=NkBC_{V,\mathrm r}=Nk_{\mathrm B} となるため、 FF から二階微分する方法、UU を先に出す方法、等分配則の三つが同じ答に収束する。 符号を間違えた場合はこの三者の一致が崩れるので、答案の検算として有効である。

核スピン統計の考え方

二つの陽子はフェルミ粒子なので、粒子交換で全波動関数は反対称になる。回転波動関数 YmY_{\ell m} は分子軸反転に対して (1)(-1)^\ell を受けるので、偶数 \ell は空間部分が 対称、奇数 \ell は空間部分が反対称である。核スピン一重項は反対称なので偶数 \ell と結びつき、核スピン三重項は対称なので奇数 \ell と結びつく。これが パラ水素とオルソ水素の分配関数を分ける理由である。

したがって量子回転分配関数を明示的に書くと、平衡混合物の一分子分配関数は zreq=:even(2+1)exp ⁣[β2(+1)2I]+3:odd(2+1)exp ⁣[β2(+1)2I] z_{\mathrm r}^{\mathrm{eq}} = \sum_{\ell:\,\mathrm{even}}(2\ell+1) \exp\!\left[-\beta\frac{\hbar^2\ell(\ell+1)}{2I}\right] + 3\sum_{\ell:\,\mathrm{odd}}(2\ell+1) \exp\!\left[-\beta\frac{\hbar^2\ell(\ell+1)}{2I}\right] となる。前半の係数 11 は核スピン一重項、後半の係数 33 は核スピン三重項の縮退度である。 高温では偶数 \ell と奇数 \ell の和が同じ連続積分に近づくため、回転縮退 (2+1)(2\ell+1) の総和は両者でほぼ等しく、残る差は核スピン縮退度 1:31:3 だけになる。 これが高温極限でオルソ水素の割合が 3/43/4 になることの分配関数による説明である。

低温二準位近似

低温で 0 K0\ \mathrm K 近傍から熱容量が増えるのは、=0\ell=0 から =1\ell=1 への励起が 熱的に可能になり始めるためである。ただし =1\ell=1 の状態数は単に 33 ではなく、 核スピン三重項の縮退度 33 と回転縮退度 2+1=32\ell+1=3 の積で 99 である。 このため低温近似の分配関数は 1+9eΔ/(kBT)1+9e^{-\Delta/(k_{\mathrm B}T)} になる。 係数 99 を落とすと、オルソ水素の割合も熱容量ピークの大きさも誤る。 熱容量の式は、励起状態の占有率 f(T)=9eΔ/(kBT)1+9eΔ/(kBT) f(T)=\frac{9e^{-\Delta/(k_{\mathrm B}T)}}{1+9e^{-\Delta/(k_{\mathrm B}T)}} を先に置き、Ur=NΔf(T)U_{\mathrm r}=N\Delta f(T) として微分すると最短で出せる。 この形にしておくと、T0T\to0 で指数的にゼロ、高温側で二準位近似の範囲を外れる、という挙動も見通しやすい。

二準位近似の適用範囲も確認しておく。次に入る準位はパラ側の =2\ell=2 で、 エネルギーは E2=22I2(2+1)=3Δ E_2=\frac{\hbar^2}{2I}2(2+1)=3\Delta である。したがって =0,1\ell=0,1 だけを残す近似では、捨てた項の相対的な大きさは おおよそ 5e3βΔ5e^{-3\beta\Delta} で抑えられる。一方、採用している励起項は 9eβΔ9e^{-\beta\Delta} であるから、二準位近似は e2βΔ1 e^{-2\beta\Delta}\ll 1 が十分に成り立つ温度域で特に信頼できる。高温側までこの式を延長すると、占有率が 9/109/10 に近づくなど、実際の多数準位の極限とは異なる挙動を示すので、低温用の近似式として扱う。

測定値が平衡計算からずれる理由

式から平衡分配関数をそのまま使うと、温度を下げるにつれてオルソ水素がパラ水素へ 変換されると仮定している。しかし実際にはオルソ・パラ転換は非常に遅く、急冷実験では 室温での比率がほぼ凍結される。したがって観測熱容量は、平衡混合物の熱容量ではなく、 固定された組成比でのパラ水素熱容量とオルソ水素熱容量の重み付き平均として扱う。 室温では高温極限に近く、オルソ:パラは 3:13:1 であるため、重みは 3/43/41/41/4 になる。

固定組成で足し合わせるときは、各核スピン種の内部でだけ正準分布を作る。すなわち zpara=:even(2+1)exp ⁣[β2(+1)2I],zortho=:odd(2+1)exp ⁣[β2(+1)2I] z_{\mathrm{para}} = \sum_{\ell:\,\mathrm{even}}(2\ell+1) \exp\!\left[-\beta\frac{\hbar^2\ell(\ell+1)}{2I}\right], \qquad z_{\mathrm{ortho}} = \sum_{\ell:\,\mathrm{odd}}(2\ell+1) \exp\!\left[-\beta\frac{\hbar^2\ell(\ell+1)}{2I}\right] を別々に用いる。ここでは核スピン縮退度 1133 は各種内で共通な定数因子なので、 U=logz/βU=-\partial\log z/\partial\beta や熱容量には寄与しない。平衡比を求めるときには 核スピン縮退度が重要であり、固定組成の熱容量を求めるときには各種内の回転励起が重要である、 という役割の違いを分けて書くと誤解が少ない。

試験で書くべきポイント

答案では、(i) 並進分配関数の 1/N!1/N!、(ii) 等核性による回転状態数の 1/21/2、(iii) 全波動関数の反対称性、(iv) =1\ell=1 オルソ状態の縮退度 99、(v) 急冷試料では オルソ比が 3/43/4 に固定されること、の五点を明示するとよい。計算式が合っていても、 これらの物理的理由を書かない答案は部分点を落としやすい。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

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