東京科学大学 院試 過去問 解答例
東工大 理学院 物理学系 物理学コース 物理 2020年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 物理学系 物理学コース 物理 2020年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 中心力と軌道遷移
方針
中心力では角運動量保存により の運動を消去でき,動径方向の1次元運動として扱える。有効ポテンシャルの遠心力項 と重力項 を正しい符号で書くことがこの問題の中心である。
遠日点で円軌道へ移る計算
遠日点で瞬間的に加速するので,その瞬間の位置 は変わらない。円軌道に入った後は,円軌道の一般式 を使えばよい。ここで は修正前楕円の遠日点半径であり,エネルギー方程式 の大きい方の根で決まる。
有効ポテンシャルの概形
はいずれも で , で に近づく。円軌道では極小点で全エネルギーに接する。
検算
束縛楕円では なので となる。また円軌道の式により である。遠日点で加速して円軌道へ移る場合,楕円の遠日点速度は同半径の円軌道速度より小さいため,エネルギーは増加し,通常 となる。
典型ミス
を使った後,遠心力項を ではなく の微分から出すことに注意する。また遠日点半径は2次方程式の大きい方の根であり,符号選択を誤ると近日点を使ってしまう。
第2問 — 静電場と誘電体
空洞問題の見方
空洞は「電荷を取り除いた領域」なので,正の一様帯電球に負の一様帯電球を重ねるのが最短である。空洞内では2つの一様球の内部電場を引き算するため,点 への依存が消え,一様電場だけが残る。
エネルギー積分の注意
一様帯電球のエネルギーでは外部空間の電場エネルギーも含める。内部だけを積分すると全エネルギーの一部しか得られない。空洞の設問では「空洞内部」のエネルギーなので,空洞体積だけを積分する。
誘電体球殻の概形
電束密度は自由電荷だけで決まるため で同じ 型である。一方,電場は媒質の誘電率で割るので,誘電体領域だけ小さくなる。
試験で書くべきポイント
分極面電荷の符号は法線の向きで決まる。内側面の外向き法線は原点向きであるため, は負になる。ここを「原点に近い面だから負」と言葉だけで済ませず, と書くと答案として強い。
第3問 — 調和振動子と撃力
撃力の物理
型の外力は位置を瞬間的には変えず,運動量だけを だけ変える。したがって である。これは古典力学の力積と同じ内容で,演算子方程式でもそのまま成り立つ。
演算子のずれ
撃力後の は,撃力前の から純虚数だけ平行移動した形になる。このずれが の平均位置 を生む。一方,数演算子状態の量子ゆらぎは平行移動では変わらない。
検算
の追加項は長さの次元をもつ。実際, は で長さである。さらに で追加項は0,時間微分は となり,境界条件と一致する。
典型ミス
ハミルトニアンではラグランジアンの が になる。ここを誤ると速度の跳びの符号が逆になる。また, を求める設問では,撃力で生じる平均変位を必ず差し引く。
第4問 — 行列とラプラス変換
行列多項式の処理
を直接計算してもよいが,特性多項式を正しく求めた後はケイリー・ハミルトンの定理で として高次の を落とすのが速い。第3問の も同じ発想で,まず多項式を で割った余りに直す。
固有ベクトルの検算
固有値 の和は ,積は と一致する。固有ベクトルは規格化だけでなく,第1成分が非負という指定も忘れない。
畳み込み
は核 との畳み込みである。したがってラプラス変換は積になり, が掛かる。ここで ではなく である点を見落とすと分母を にしてしまう。
解の確認
求めた を用いると,畳み込み項のラプラス変換は であり, が戻る。初期条件が別途与えられていない積分方程式なので,ラプラス変換だけで一意に決まる。
第5問 — アインシュタイン模型
古典極限の意味
古典論では各2次形式の自由度が平均エネルギー を持つ。1原子あたり運動量3成分と変位3成分で合計6個の2次自由度があるため,平均エネルギーは ,比熱は になる。これはデュロン・プティ則である。
量子比熱の概形
量子論では低温で励起に必要なエネルギー を熱的に供給できないため,比熱は指数関数的に小さくなる。高温では準位間隔が に比べて小さく見え,古典結果へ戻る。
異方性がある場合
なら,温度を上げるにつれてまず 方向の2自由度が励起され,比熱は一時的に に近づく。さらに高温で 方向も励起されると最終的に へ近づく。
典型ミス
零点エネルギーは分配関数や平均エネルギーには現れるが,比熱では温度微分により消える。低温比熱で を落とすと,量子凍結の本質を失う。
第6問 — 電磁波検出器
波長域の整理
波長が短い順に, 線,X線,紫外線,可視光,赤外線,マイクロ波,ラジオ波と並ぶ。核準位の遷移はエネルギーが大きいため 線,外殻電子の遷移は原子・分子の光学遷移なので可視光または紫外・赤外の領域になる。設問の選択肢の中では可視光が最も標準的である。
光電子増倍管の役割分担
カソードは光を電子へ変換する段階,ダイノードは電子数を増やす段階,アノードは電荷を集めて外部回路へ渡す段階である。名称だけでなく「光電効果」「二次電子放出」「収集」を書くと物理過程が明確になる。
電圧波形の符号とスケール
アノードに電子が到達するとアノード側に負電荷が入るため,単純な容量モデルでは負パルスになる。大きさは ,戻りの速さは で決まる。問題で与えられた は電子群の到着幅, は読み出し回路の緩和時間であり,混同しない。
半導体検出器でエネルギー分析できる理由
線では1光子のエネルギーが十分大きく,多数の電子正孔対を作る。平均生成エネルギーがほぼ一定なので,総電荷量から入射エネルギーを測れる。可視光の1光子検出では,主に「来たかどうか」を測っており,1光子エネルギーの差を電荷量として分解する構造ではない。