京都大学 院試 過去問 解答例
京大 情報学研究科 社会情報学コース 2021年度 院試 解答例・解説
京都大学 情報学研究科 社会情報学コース 2021年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全27問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 情報学基礎:論理回路と論理式
帰還が記憶を作る
組合せ回路だけなら入力が変われば出力も直ちに変わる。フリップフロップとして働くには,出力を入力へ戻す帰還が必要である。上の式では のとき となることが保持動作の証明になる。
XORとパリティ
XORは「1の個数が奇数なら1」を返す演算である。したがって,元の3ビットのXORをそのままパリティビットにすれば,全4ビットの1の個数は偶数になる。
第2問 — 情報学基礎:非公開参考書演習
本文非掲載問題の扱い
公開版で本文が掲載されていない問題では,外部ミラーや記憶に基づいて本文を補い,断定的な「解答」として載せるべきではない。特に参考書演習からの抽出問題は,版,訳語,小問の抜粋範囲,解答形式の指定が少し違うだけで最終答が変わり得る。
採点上の注意
この種の非公開設問では,「何となく該当章の一般論を書く」ことは答案にならない。手元の本文で指定された対象と制約を確認し,その制約内で最終答を出す必要がある。したがって,復習時には本解説だけで完結させず,公式問題冊子または指定参考書の該当演習と照合して解く。
典型的な誤り
典型的な失点は,別版の演習番号を参照する,許可されていない記号を使う,途中状態を省略して最終答だけを書く,丸め・ビット幅・実行順序などの条件を落とす,の四つである。最終答が短い問題ほど,設問の形式制約を守っていることが点になる。
第3問 — 情報学基礎:ネットワークとインターネット
比較の軸
ネットワークの説明問題では,役割分担,管理主体,信頼性,遅延,利用例の軸で比較すると明確になる。定義だけでなく用途まで書くと答案として強い。
公開鍵暗号の注意
公開鍵暗号は「公開鍵で暗号化し秘密鍵で復号」だけではなく,署名では「秘密鍵で署名し公開鍵で検証」と向きが変わる。暗号化と署名を区別することが重要である。
第4問 — 情報学基礎:整列アルゴリズム
時間推定
実測時間から別サイズを推定するときは,計算量の次数を使う。バブルソートは平均的に二乗時間なので,入力サイズを10倍にすると時間は約100倍になる。
最良計算時間の条件
「最良が 」と言えるのは,交換がなかったら終了する改良版の場合である。問題文どおり常に 回の走査を行う実装では,整列済みでも比較回数は二乗になる。
第5問 — 情報学基礎:データ構造
添字の始まり
配列アドレス問題では,添字が1始まりか0始まりかを明記することが重要である。問題文に 行 列目とある場合は通常1始まりで説明し,0始まりの場合も補足すると誤解がない。
補助記憶構造
スタックはトップ以外へ直接アクセスできない。底を消すには,上にある要素を一時退避する必要があるため,補助スタックが自然である。
第6問 — T-1:データベースのファイル編成と正規化
ファイル編成の選び方
索引構造は「どの問い合わせを速くしたいか」で決める。ハッシュは一点検索に強いが順序を失う。B+木は一点検索では少し重いが,葉の連結により範囲検索やソート済み出力まで同じ索引で処理できる。
正規化の答案で見る点
BCNF分解では情報無損失性を,3NF合成では依存性保存を明示する必要がある。今回の は ではBCNF違反だが,右辺 が素属性であるため3NFは満たす。この区別を書けると,BCNFと3NFの使い分けが伝わる。
第7問 — T-2:機械学習
収束条件
パーセプトロン収束定理は「線形分離可能」が本質である。データ数の多さではなく,ある超平面で正負を完全に分けられるかが収束を決める。
深層学習を選ばない場合
深層学習は万能ではない。表形式データで特徴量が明確,データが少ない,推論理由の説明が必要という条件では,より単純なモデルの方が堅牢な答案になる。
第8問 — T-3:ソフトウェア工学
比較問題の書き方
単に用語を定義するだけでなく,長所と短所を同じ観点で対比する。要求変更,進捗管理,品質保証,顧客関与という軸を使うと答案が整理される。
例を入れる意味
ユースケース図やファンクションポイント法は抽象語だけでは説明が薄くなる。予約システムなどの簡単な例を添えると,アクター,機能,外部入出力を理解していることを示せる。
第9問 — T-4:情報検索指標とグラフ
スコア更新の見方
は,頂点間で共通の入辺元を数える行列として解釈できる。したがって単純な入次数そのものではなく,どの入辺元から来ているか,その入辺元がどれだけ他へ辺を出すかがスコアに影響する。
クラスタ係数の直感
辺を1本足しても,影響を受けるのは端点と共通隣接頂点である。 では任意の非辺の端点が他の全頂点を共通隣接頂点に持つので全員が増加する。一方, の向かい合う頂点間には共通隣接頂点がなく,三角形が増えない。
第10問 — T-5:識別ゲームと関数族
本質は事後確率
受け取った情報から,どちらの仮説の事後確率が大きいかを選ぶのが最適戦略である。交差部分では,小さい集合から一様に選ばれた方が同じ要素を出しやすい。
関数族の識別
第2問は,すべての入力を質問できるため関数を完全に知ることができる。したがって計算困難性の問題ではなく,関数族が全関数集合の中でどれだけ小さいかという数え上げの問題になる。
第11問 — T-6:ユーザインタフェース設計
混同しやすい点
アフォーダンスは「可能な行為」そのもので,シグニファイアはそれを示す手がかりである。画面上のボタン色やラベルは,多くの場合シグニファイアである。
比較の軸
設問(3)では項目を列挙し直すだけでは足りない。ニールセンは評価チェックリスト,ノーマンは認知に根ざす設計原理という役割の違いを書くと,類似点と相違点が明確になる。
第12問 — B-1:動物の地磁気コンパス
実験操作の意味
水平成分を反転する操作は「北向きの向き」を変える操作であり,鉛直成分を反転する操作は「伏角の符号」を変える操作である。どちらの操作で行動が変わるかを見れば,利用しているコンパスの種類を判定できる。
図が非表示の場合
公開PDFでは図そのものは確認できないため,答案では図を写さず,実験条件と地磁気コンパスの原理から結論を説明する。図の矢印や点の細部を再現しようとしないことが重要である。
第13問 — B-2:森林生態系の窒素循環
窒素流出の因果
「伐採で植物がなくなったから硝酸が増える」だけでは不十分である。吸収の低下,無機化・硝化の継続,水流出の増加をつなげて説明すると,生態系プロセスとして筋が通る。
カルシウムの理由
カルシウムは窒素そのものではないが,硝酸流出に伴う電荷補償と土壌交換反応で一緒に動く。陰イオンだけが大量に流出し続けることは電気的に不自然である,という視点が手がかりになる。
第14問 — B-3:生態系サービス
複数サービスの同時評価
人工林化は単純に悪い,または良いとは言えない。木材供給という単一のサービスは増えることがある一方,調整・文化・保全のサービスが低下する,というトレードオフを書くのが重要である。
日本の森林文脈
日本ではスギ・ヒノキ人工林の管理不足が問題になることがある。間伐不足により林床植生が貧弱になると,水土保全や生物多様性の機能が弱まりやすい。
第15問 — B-4:二元配置分散分析と共分散分析
交互作用の判定
交互作用は「片方の因子の効果が,もう一方の因子の水準によって変わる」ことである。点や線が平行なら交互作用なし,差が変わるなら交互作用ありと判断する。
ANOVAとANCOVAの対応
ANOVAでは播種方法が離散的な水準なので点列で表す。ANCOVAでは水分量が連続量なので,品種ごとの回帰直線として表す。交互作用は回帰直線の傾きの違いとして現れる。
第16問 — B-5:外来種問題
三つの型で整理する
外来種の影響は,競争,捕食,遺伝・病気の三分類で書くと漏れにくい。さらに具体例では「どの地域で,どの種が,何に影響するか」を入れる。
例の選び方
オオクチバス,アライグマ,セイヨウオオマルハナバチ,アルゼンチンアリなどは説明しやすい。地域名と影響を具体化できる種を選ぶのがよい。
第17問 — D-1:防災計画におけるリスク管理と危機管理
時間軸で分ける
リスク管理と危機管理は重なる部分もあるが,答案では「事前の軽減」と「事中・直後の対応」を軸に分けると明確になる。
防災計画との接続
防災計画では,ハザードマップや耐震化はリスク管理,災害対策本部や避難指示は危機管理に近い。具体例を入れると抽象論だけで終わらない。
第18問 — D-2:数理計画
角点だけを見ない
では目的関数が線形ではないため,制約多角形の頂点だけを調べると誤る。実際,辺 の途中に最大点がある。
パラメータ範囲
は角点なので,目的関数の等高線がその角を支持する範囲を求める。KKT乗数の非負条件が,そのまま の範囲になる。
第19問 — D-3:災害文化
文化を広く捉える
災害文化は祭礼や伝承だけではない。土地利用,建築様式,避難訓練,地域組織,記念碑など,人々の行動を方向づけるもの全体を含む。
批判的視点
災害文化を肯定的に説明するだけでなく,伝承の風化や想定外災害への弱さも書くと,現代の防災計画との関係を論じた答案になる。
第20問 — D-4:NIMSにおける情報管理
単なる通信ではない
この概念は無線機やネットワークだけを指すのではない。情報をどの形式で集め,誰が確認し,誰に共有し,どの意思決定に使うかまで含む。
具体例の入れ方
災害種別を一つ決め,現場情報,本部での統合,住民への発信まで流れを書くと,NIMSの実務的な意味が伝わる。
第21問 — D-5:ISO 19123の離散グリッド被覆
coverageの考え方
coverageは,空間位置から属性値への関数として地理情報を捉える考え方である。離散グリッド点被覆では,その関数の定義域が規則的な格子点集合に限られる。
図がなくても押さえる点
UML図の細かい関連線を再現する必要はない。格子の場所,値の配列,点と値のペアという三層を説明できれば,データ構造の理解を示せる。
第22問 — M-1:医療・健康情報研究の注意点
用語を並べるだけにしない
10語を入れる設問では,用語同士の関係を示す必要がある。研究デザイン,交絡調整,二次利用の三段構成にすると自然に全語を使える。
偏向スコアについて
英語のpropensity scoreは通常「傾向スコア」と訳す。設問の語を尊重しつつ,答案では傾向スコアとして説明すると意味が明確になる。
第23問 — M-2:医療情報用語
略語問題の注意
正式名称だけでなく,何を標準化・支援・管理する仕組みなのかを書くと得点しやすい。特にDICOMは画像ファイル形式だけでなく通信規格でもある。
EHRと電子カルテ
電子カルテは施設内の診療記録として語られることが多い。EHRはより広く,複数機関や生涯にわたる健康情報共有を含む概念である。
第24問 — M-3:CT画像データ量と通信速度
単位換算
この設問では と指定されているので,十進の ではなく二進の を使う。バイトからビットへの8倍も忘れやすい。
倍率の扱い
画像の縦横を 倍にすると,画素数は 倍になる。通信量は画素数に比例するため,最後に平方根を取る。
第25問 — M-4:医療情報共有基盤の技術的課題
共有できることと安全であること
医療情報基盤では,つながらないことも問題だが,無制限につながることも問題である。標準化とアクセス制御を両立させる点が中核である。
技術課題として書く
制度や倫理だけでなく,データ形式,ID連携,認証,暗号化,ログ,バックアップなど具体的な技術要素を挙げると設問に合う。
第26問 — M-5:リハビリテーション支援ゲームの設計
ゲームと治療の両立
通常のゲームは面白さを優先できるが,医療支援ゲームでは禁忌動作や過負荷を避ける必要がある。楽しいだけでは治療用として不十分である。
二つの視点
患者にとっては継続しやすさと安全性,療法士にとっては治療目的への適合と評価可能性が重要である。両者を分けて書くと答案が整理される。
第27問 — M-6:医療情報の法令・指針・ガイドライン
医療データ研究では,個人情報保護,情報システム安全管理,研究倫理,二次利用制度が同時に問題になる。条文番号よりも,何を保護し,どの場面で適用され,どのような管理策を求めるかを説明する方が実践的な答案になる。