院試hub

北海道大学 院試 過去問 解答例

北大 理学院 物性物理学専攻・宇宙理学専攻 物理学 2021年度 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問。テーマタグは11件(調和振動子・剛体の回転運動・分配関数)。

最終更新:

収録3年度分の解答PDF:北海道大学 理学院 物性物理学専攻・宇宙理学専攻 物理学(¥2,180・紙面見本あり)

このページで公開
解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

北大 物理学 2021年度 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学力学・相対論途中式の要点あり
第2問電磁気学・回路電磁気学途中式の要点あり
第3問量子力学—途中式の要点あり
第4問熱・統計力学統計力学途中式の要点あり

この年度の解説には検算4件・試験で書くべきポイント4件・典型ミス4件が付いています。

2021年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は4問に11テーマが出ています。

第1問 — 力学・相対論

方針

前半は剛体運動を「重心の並進」と「重心まわりの回転」に分けるのが最短である。微小振動なので、運動エネルギーは角度の時間微分の2次、重力ポテンシャルは角度の2次まで残す。後半は4元運動量保存を二乗し、電子の質量殻条件と光子の質量ゼロ条件を使って最大エネルギーの幾何を指定する。

途中式の要点

吊り下げ問題では、重心の横変位は2端の平均、棒の回転は2端の差で決まる。このため Θ+\Theta_+ と Θ−\Theta_- が自然な基準座標になる。ポテンシャルエネルギーで θ12+θ22=12(Θ+2+Θ−2) \theta_1^2+\theta_2^2=\frac{1}{2}(\Theta_+^2+\Theta_-^2) を使うと、ラグランジアンが完全に対角化される。張力の問題では、切断直後の端2の鉛直加速度がゼロという拘束条件を書けるかが勝負である。

検算

Θ+\Theta_+ モードでは θ1=θ2\theta_1=\theta_2 なので棒は水平のまま動き、普通の単振り子と一致しなければならない。実際に ω+=g/L\omega_+=\sqrt{g/L} となる。Θ−\Theta_- モードでは θ1=−θ2\theta_1=-\theta_2 で重心は横に動かず、回転だけなので単振り子より速い。張力 mg/4mg/4 は静止時の各糸の張力 mg/2mg/2 より小さく、切断直後に棒が回転し始めることとも整合する。

典型ミス

重心の鉛直変位を −L(θ1+θ2)2/8-L(\theta_1+\theta_2)^2/8 のように平均角だけで書くと、回転モードの復元力が消えてしまう。各端の高さ低下を先に計算してから平均を取ること。また、逆コンプトン散乱では 4γ2ε4\gamma^2\varepsilon だけを書いて反跳補正の分母を落としやすい。今回の数値では補正因子が約 1.311.31 で、無視すると3割程度ずれる。

試験で書くべきポイント

慣性モーメントは積分範囲を明記する。ラグランジアンでは TT と VV を分け、どの項まで残すかを書く。相対論の設問では、まず p1+p2=p3+p4p_1+p_2=p_3+p_4 と質量殻条件を書き、最大エネルギーが正面衝突・前方散乱で得られることを一言添えると答案として強い。

解答

問1:二本吊り剛体棒の微小振動

棒の線密度を m/am/a とする。端点を通る鉛直軸まわりの慣性モーメントは IE=∫0ax2ma dx=13ma2. I_E=\int_0^a x^2 \frac{m}{a}\,dx=\frac{1}{3}ma^2 . 重心を通る鉛直軸まわりでは IG=∫−a/2a/2x2ma dx=112ma2. I_G=\int_{-a/2}^{a/2} x^2 \frac{m}{a}\,dx=\frac{1}{12}ma^2 .

端1, 端2の水平方向変位をそれぞれ Lθ1L\theta_1, Lθ2L\theta_2 とする。微小角の2次までで、各端の鉛直変位は下向きに Lθi2/2L\theta_i^2/2 であるから、重心の鉛直変位は ΔzG=−L4(θ12+θ22)=−L8(Θ+2+Θ−2) \Delta z_G=-\frac{L}{4}(\theta_1^2+\theta_2^2) =-\frac{L}{8}\left(\Theta_+^2+\Theta_-^2\right) である。ただし Θ+=θ1+θ2\Theta_+=\theta_1+\theta_2, Θ−=θ1−θ2\Theta_-=\theta_1-\theta_2 とした。

棒の微小回転角 ϕ\phi は、両端の横変位差を棒の長さで割ればよい。端2の xx 座標を端1より大きく取ると ϕ=L(θ2−θ1)a=−LaΘ−. \phi=\frac{L(\theta_2-\theta_1)}{a}=-\frac{L}{a}\Theta_- . 符号は端の番号の取り方に依存するが、大きさは L∣Θ−∣/aL|\Theta_-|/a である。

重心の速度は y˙G=L2(θ˙1+θ˙2)=L2Θ˙+, \dot y_G=\frac{L}{2}(\dot\theta_1+\dot\theta_2)=\frac{L}{2}\dot\Theta_+, 回転角速度は ϕ˙=−(L/a)Θ˙−\dot\phi=-(L/a)\dot\Theta_- である。したがって、2次のラグランジアンは L=12my˙G2+12IGϕ˙2−mgL4(θ12+θ22)=mL28Θ˙+2+mL224Θ˙−2−mgL8(Θ+2+Θ−2). \mathcal L =\frac{1}{2}m\dot y_G^2+\frac{1}{2}I_G\dot\phi^2 -mg\frac{L}{4}(\theta_1^2+\theta_2^2) =\frac{mL^2}{8}\dot\Theta_+^2+\frac{mL^2}{24}\dot\Theta_-^2 -\frac{mgL}{8}\left(\Theta_+^2+\Theta_-^2\right). よって運動方程式は Θ¨++gLΘ+=0,Θ¨−+3gLΘ−=0. \ddot\Theta_+ + \frac{g}{L}\Theta_+=0,\qquad \ddot\Theta_- + \frac{3g}{L}\Theta_-=0 . 基準振動の角振動数は ω+=gL,ω−=3gL. \omega_+=\sqrt{\frac{g}{L}},\qquad \omega_-=\sqrt{\frac{3g}{L}}. Θ+\Theta_+ モードは棒が回転せず全体として揺れるモードで、単振り子と同じ角振動数である。Θ−\Theta_- モードは重心の並進を伴わず、棒の回転を主とするため、有効慣性が小さくなり 3\sqrt{3} 倍速く振動する。

静止状態から端1側の糸を切り、端2側の糸の張力を TT とする。切断直後は端2の速度がゼロで、糸は伸びないので、端2の鉛直加速度はゼロである。重心の鉛直加速度を aGa_G、重心まわりの角加速度を α\alpha とすると maG=T−mg,IGα=−a2T. ma_G=T-mg,\qquad I_G\alpha=-\frac{a}{2}T . 端2について 0=aG−αa2 0=a_G-\frac{\alpha a}{2} であるから、IG=ma2/12I_G=ma^2/12 を代入して 0=T−mgm+3Tm,T=mg4. 0=\frac{T-mg}{m}+\frac{3T}{m}, \qquad T=\frac{mg}{4}.

問2:逆コンプトン散乱

4元運動量保存は p1+p2=p3+p4 p_1+p_2=p_3+p_4 である。これは散乱前後で全エネルギーと全運動量がともに保存することを表す。

入射電子の全エネルギーを Ee=γmc2E_e=\gamma mc^2、速度を βc\beta c、入射光子エネルギーを ε\varepsilon とする。最大の散乱光子エネルギーは、電子と光子が正面衝突し、散乱後の光子が電子の進行方向へ出る場合である。標準的な不変量計算、すなわち (p1+p2−p4)2=p32=−m2c2 (p_1+p_2-p_4)^2=p_3^2=-m^2c^2 を用いると 2p1⋅p2−2p1⋅p4−2p2⋅p4=0 2p_1\cdot p_2-2p_1\cdot p_4-2p_2\cdot p_4=0 となる。正面衝突・前方散乱に対して整理すると εmax⁡=(1+β)γmc2 εγmc2(1−β)+2ε=(1+β)2γ2ε1+(1+β)γεmc2. \varepsilon_{\max} =\frac{(1+\beta)\gamma mc^2\,\varepsilon} {\gamma mc^2(1-\beta)+2\varepsilon} =\frac{(1+\beta)^2\gamma^2\varepsilon} {1+\frac{(1+\beta)\gamma\varepsilon}{mc^2}} . 相対論的電子では β≃1\beta\simeq 1 なので εmax⁡≃4γ2ε1+4γε/(mc2). \varepsilon_{\max}\simeq \frac{4\gamma^2\varepsilon}{1+4\gamma\varepsilon/(mc^2)} .

Ee=20 GeVE_e=20\,\mathrm{GeV}, mc2=511 keVmc^2=511\,\mathrm{keV}, ε=1 eV\varepsilon=1\,\mathrm{eV} では γ=20×109511×103≃3.91×104, \gamma=\frac{20\times 10^9}{511\times 10^3}\simeq 3.91\times 10^4, 4γεmc2≃0.306,4γ2ε≃6.13×109 eV. \frac{4\gamma\varepsilon}{mc^2}\simeq 0.306, \qquad 4\gamma^2\varepsilon\simeq 6.13\times 10^9\,\mathrm{eV}. したがって εmax⁡≃6.13 GeV1.306≃4.7 GeV. \varepsilon_{\max}\simeq \frac{6.13\,\mathrm{GeV}}{1.306} \simeq 4.7\,\mathrm{GeV}. 入射光子 1 eV1\,\mathrm{eV} と比べると、約 4.7×109 4.7\times 10^9 倍である。

最終答

剛体棒の基準角振動数は g/L\sqrt{g/L} と 3g/L\sqrt{3g/L}、糸切断直後の残った糸の張力は mg/4mg/4。逆コンプトン散乱の最大光子エネルギーは相対論的極限で 4γ2ε/(1+4γε/mc2)4\gamma^2\varepsilon/(1+4\gamma\varepsilon/mc^2)、数値は約 4.7 GeV4.7\,\mathrm{GeV}。

第2問 — 電磁気学

方針

球対称の静電場は電場 E\mathbf E ではなく電束密度 D\mathbf D にGaussの法則を適用する。誘電率が場所に依存しても、自由電荷を包む球面では Dr=Qfree/(4πr2)D_r=Q_{\mathrm{free}}/(4\pi r^2) が先に決まる。電磁波の後半は、境界条件を電場だけでなく磁場にも立て、反射波の磁場符号を正しく扱う。

途中式の要点

誘電体中では E=Dε(r)=Q/(4πr2)ε0r/s=Qs4πε0r3 E=\frac{D}{\varepsilon(r)} =\frac{Q/(4\pi r^2)}{\varepsilon_0 r/s} =\frac{Qs}{4\pi\varepsilon_0 r^3} となる。ポテンシャルは領域ごとに積分定数をつなぐより、無限遠から区間積分を足すとミスが少ない。接地時はBの電位がゼロで、外側の電場もゼロになる点が非接地の場合との違いである。

検算

容量の分母は長さの逆数の次元をもつので、4πε04\pi\varepsilon_0 で割ると容量の次元になる。もし b=sb=s と近い極限を考えると、誘電体部分の寄与が真空球殻の積分に連続的につながる。光の反射率は n=1n=1 で r=0r=0, t=1t=1, R=0R=0 になり、媒質差が消える極限と一致する。

典型ミス

導体Bを接地しない設問で、Bの外側の電場をゼロにしてしまう誤りが多い。孤立した中性導体では内面と外面に誘起電荷が分かれるため、外側にも電場が残る。電磁波では Ei−Er=nEtE_i-E_r=nE_t のマイナス符号を落とすと、rr の符号が逆になる。符号は位相反転を表すため、振幅反射率の問題では重要である。

試験で書くべきポイント

各領域の式を場合分けで明示し、導体内部では電場がゼロであることを書く。Maxwell方程式から波動方程式を出す設問では、∇⋅E=0\nabla\cdot\mathbf E=0 を使って ∇×∇×E=−∇2E\nabla\times\nabla\times\mathbf E=-\nabla^2\mathbf E とする過程を書く。境界条件は「接線成分が連続」と言葉でも式でも示すと採点者に伝わりやすい。

電磁気学の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 量子力学

方針

調和振動子は交換関係、数演算子、相互作用表示の3段階に分ける。時間依存摂動は、与えられた指数演算子の公式を使うために、最終的な時間発展を aa と a†a^\dagger の指数に分解する。散乱問題は、確率流で R,TR,T を定義し、有限幅井戸では境界条件を4本立てて反射振幅を求める。

途中式の要点

U(t)U(t) では aa に e−iωte^{-i\omega t}、a†a^\dagger に eiωte^{i\omega t} が付く。時間積分後に両者の係数が同じになるのは、f(t)f(t) が偶関数であるためである。散乱の反射率では、井戸の中の波数 k2k_2 が外側の k1k_1 より大きい点に注意するが、式の形は有限障壁と同じで k2k_2 を実数として扱えばよい。

検算

PnP_n はPoisson分布であり、 ∑n=0∞Pn=e−A2∑n=0∞A2nn!=1 \sum_{n=0}^{\infty}P_n=e^{-A^2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{A^{2n}}{n!}=1 となる。井戸散乱では sin⁡(k2ℓ)=0\sin(k_2\ell)=0 のとき R=0R=0 になり、井戸内に半波長が整数個入る共鳴透過の条件と一致する。V0→0V_0\to 0 では k1=k2k_1=k_2 となり、幅に関係なく R=0R=0 になることも確認できる。

典型ミス

pp の逆変換の符号を間違えると H0H_0 の零点エネルギーが正しく出ない。相互作用表示では eiH0t/ℏe^{iH_0t/\hbar} と e−iH0t/ℏe^{-iH_0t/\hbar} の順序を逆にしないこと。散乱では透過率を ∣F/A∣2|F/A|^2 としてよいのは左右の漸近領域の波数が同じだからであり、一般には速度比を掛ける必要がある。

試験で書くべきポイント

連続の方程式はSchrodinger方程式と複素共役を並べて引き算する形を示す。井戸の反射率は最終式だけでなく、4つの接続条件を明記すれば途中点を取りやすい。無反射エネルギーでは E>0E>0 の制限を書き忘れない。

量子力学の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 統計力学

方針

理想気体では 1/N!1/N! と h3Nh^{3N} を含む古典分配関数から出発する。平均場Isingは、1スピン問題に落として自己無撞着方程式を作り、M=0M=0 近傍の傾きで転移温度を決める。熱機関は効率だけでなく熱流量も TT に依存するため、仕事率 W(T)W(T) を最大化する。

途中式の要点

エントロピーの示量性は、Stirling公式で N!N! を入れた後に初めて正しく出る。平均場方程式では M=tanh⁡(TcTM) M=\tanh\left(\frac{T_c}{T}M\right) まで簡約してから、tanh⁡x≃x−x3/3\tanh x\simeq x-x^3/3 を使う。熱機関では、TT を上げると効率は上がるが熱流 K(Th−T)K(T_h-T) は下がるため、その積に最大が生じる。

検算

理想気体の結果は PV=NkBTPV=Nk_BT と U=3NkBT/2U=3Nk_BT/2 を再現する。SS は N,VN,V を同時に2倍にすると2倍になり、Gibbsのパラドックスを避ける形になっている。平均場Isingでは T→0T\to 0 で M→±1M\to \pm1、T→Tc−0T\to T_c-0 で M→0M\to 0 となり物理的である。熱機関の最大効率式は Th=TcT_h=T_c でゼロになり、温度差がない極限と合う。

典型ミス

理想気体で 1/N!1/N! を落とすと、エントロピーが示量変数にならない。Ising模型では相互作用のペア数 zz を入れ忘れると TcT_c がずれる。また、mHmH の mm は磁気モーメントの大きさであり、理想気体の質量 mm とは別文脈で使われている点に注意する。熱機関ではCarnot効率をそのまま最大化して T=ThT=T_h としてしまうと、熱流がゼロになり仕事率もゼロになる。

試験で書くべきポイント

分配関数の位相空間積分、Stirling公式の適用、熱力学量を微分で出す流れを書く。平均場では ZiZ_i から ⟨Si⟩\langle S_i\rangle を計算して自己無撞着方程式に至る過程が採点対象である。熱機関では W=K(Th−T)(1−Tc/T)W=K(T_h-T)(1-T_c/T) を明示し、微分して最大条件を出すだけで簡潔に満点答案にできる。

統計力学の途中式・最終答をPDFで見る

北大 物理学 院試 過去問の収録3年度