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東大 理学系研究科 天文学専攻 専門科目(数学・物理学・天文学) 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は数学1項目です。解説はすべて、答案例は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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数学 — 正規分布・中心極限定理と待ち時間

設問1(a) 正規分布の規格化

確率密度 g(x)g(x) は、区間 a<X<ba<X<b の確率を ∫abg(x)dx\int_a^b g(x)dx で与える非負の関数である。全実数のどこかに値がある確率を1にするため、全体の積分が1という規格化条件を課す。密度そのものは確率ではないので1を超えてよく、単位は xx の単位の逆数になる。平均 μ\mu は位置をずらし、標準偏差 σ\sigma は横幅を変えるため、この二つを別に変数変換へ反映する。

使ったガウス積分の値を導く。I=∫−∞∞e−y2/2dy>0I=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2}dy>0 と置き、非負関数の二重積分へ移すと I2=∫R2e−(y2+z2)/2 dy dz=∫02πdθ∫0∞e−r2/2r dr=2π. I^2=\int_{\mathbb R^2}e^{-(y^2+z^2)/2}\,dy\,dz =\int_0^{2\pi}d\theta\int_0^\infty e^{-r^2/2}r\,dr =2\pi. 極座標の面積要素 dy dz=r dr dθdy\,dz=r\,dr\,d\theta が入る。内側の積分は u=r2/2u=r^2/2 で ∫0∞e−udu=1\int_0^\infty e^{-u}du=1 となる。正の平方根を選ぶことで I=2πI=\sqrt{2\pi} が決まる。これを答案の1次元の変数変換へ戻すと、横幅 σ\sigma に比例する面積を AA が逆比例で打ち消す。

規格化以外にも、⟨X⟩=μ\langle X\rangle=\mu は (x−μ)(x-\mu) に関する奇関数の積分が0になることから確かめられる。分散は部分積分で ∫−∞∞y2e−y2/2dy=∫−∞∞e−y2/2dy=2π \int_{-\infty}^{\infty}y^2e^{-y^2/2}dy =\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2}dy=\sqrt{2\pi} となるため ⟨(X−μ)2⟩=σ2\langle(X-\mu)^2\rangle=\sigma^2 である。境界の ye−y2/2ye^{-y^2/2} は無限遠で0に消える。係数だけでなく、式に書かれた μ,σ2\mu,\sigma^2 が実際に平均・分散になっている。

dx=σ dydx=\sigma\,dy の係数を忘れて A=1/2πA=1/\sqrt{2\pi} とすると、σ=2\sigma=2 のとき全確率が2になる。1/σ21/\sigma^2 にしてしまうと同じ例で全確率が1/2になる。σ=0\sigma=0 は通常の関数による正規密度の範囲外で、平均に集中した退化分布として別に扱う。分散の正値条件と規格化の積分を両方確認する。

変数変換で密度自体も変わることを確認する。Y=(X−μ)/σY=(X-\mu)/\sigma に対して、同じ確率 gX(x)dx=gY(y)dyg_X(x)dx=g_Y(y)dy を保つので gY(y)=σgX(μ+σy)g_Y(y)=\sigma g_X(\mu+\sigma y) となる。このとき gY=e−y2/2/2πg_Y=e^{-y^2/2}/\sqrt{2\pi} は μ,σ\mu,\sigma によらない標準正規密度である。例えば Pr⁡(μ−σ<X<μ+σ)=∫−11e−y2/2dy/2π≃0.68269\Pr(\mu-\sigma<X<\mu+\sigma)=\int_{-1}^{1}e^{-y^2/2}dy/\sqrt{2\pi}\simeq0.68269 は幅の単位を変えても同じ確率となる。密度の高さが 1/σ1/\sigma に変わり、積分する区間幅が σ\sigma 倍となる効果が打ち消し合う。

設問1(b) モーメント母関数

モーメント母関数は MX(t)=⟨etX⟩M_X(t)=\langle e^{tX}\rangle と定義する。0を含む開区間で有限なら、その近傍では微分と期待値を交換して MX(k)(0)=⟨Xk⟩M_X^{(k)}(0)=\langle X^k\rangle を得る。確率密度の規格化により MX(0)=1M_X(0)=1 である。tt の単位は XX の逆数で、指数 tXtX は無次元になる。正規分布は二次の負の項が任意の実数 tt に対して尾を抑えるため、すべての実数 tt で母関数が存在する。

積分内の etxe^{tx} は大きな xx の重みを増減させるが、平方完成すると分布の中心を σ2t\sigma^2t だけ動かす効果と、外へ出る倍率に分かれる。具体的に (x−μ−σ2t)2=(x−μ)2−2σ2t(x−μ)+σ4t2(x-\mu-\sigma^2t)^2=(x-\mu)^2-2\sigma^2t(x-\mu)+\sigma^4t^2 を展開すると、交差項が tx−μttx-\mu t を作り、定数を戻すため +μt+σ2t2/2+\mu t+\sigma^2t^2/2 が必要と分かる。中心の移動は全実数の積分値を変えない。

得られた式を微分すれば MX′(0)=μ,MX′′(0)=μ2+σ2. M_X'(0)=\mu,\qquad M_X''(0)=\mu^2+\sigma^2. 従って分散 MX′′(0)−MX′(0)2=σ2M_X''(0)-M_X'(0)^2=\sigma^2 が前問と一致する。さらに対数を取ると log⁡MX(t)=μt+σ2t2/2\log M_X(t)=\mu t+\sigma^2t^2/2 は二次式だけで、3次以上の累積量は0となる。この性質が次の中心極限定理で正規分布を識別する手掛かりになる。

例えば μ=1,σ=2,t=1/2\mu=1,\sigma=2,t=1/2 なら MX(t)=e1/2+1/2=eM_X(t)=e^{1/2+1/2}=e。et⟨X⟩e^{t\langle X\rangle} と期待値を指数の中へ移すと e1/2e^{1/2} となり、分散の寄与を失う。一般に凸関数についてのイェンセンの不等式は ⟨etX⟩≥et⟨X⟩\langle e^{tX}\rangle\ge e^{t\langle X\rangle} を与え、σ>0,t≠0\sigma>0,t\ne0 なら今回の比 eσ2t2/2>1e^{\sigma^2t^2/2}>1 と整合する。平方完成の定数項を負にするとこの不等式にも反するため、係数の符号を検算できる。

母関数は線形変換の扱いもまとめる。Y=aX+bY=aX+b なら定義の中へ代入して MY(t)=ebtMX(at)M_Y(t)=e^{bt}M_X(at) となる。正規分布の式を使えば MY(t)=exp⁡{(aμ+b)t+a2σ2t2/2}, M_Y(t)=\exp\{(a\mu+b)t+a^2\sigma^2t^2/2\}, よって YY も平均 aμ+ba\mu+b、分散 a2σ2a^2\sigma^2 の正規分布である。負の aa でも分散は正で、a=0a=0 なら定数 bb の退化分布へ戻る。分散を aσ2a\sigma^2 と一次で変換すると、a=−1a=-1 で分散が負になるので誤りと分かる。平方完成で現れた二次係数がこの変換則も保証している。

設問2(a) 対数母関数の初めの係数

対数モーメント母関数 K=log⁡MXK=\log M_X の0での微分を累積量と呼ぶ。MX(t)>0M_X(t)>0 は実数 tt に対して非負ではなく正の etXe^{tX} を平均することから分かるので、存在する区間内で実対数を取れる。母関数の0近傍での存在は、今回の微分やべき級数を扱うための条件である。単に平均・分散が有限という条件より強いが、本問では明示的に仮定されている。

MX(k)(0)M_X^{(k)}(0) が原点回りの kk 次モーメントを与えるのに対し、対数の2次微分には −μ2-\mu^2 が入る。商の微分を省かずに書けば ddtMX′MX=MX′′MX−(MX′)2MX2, \frac{d}{dt}\frac{M_X'}{M_X} =\frac{M_X''M_X-(M_X')^2}{M_X^2}, だから κ2=⟨X2⟩−μ2=⟨(X−μ)2⟩\kappa_2=\langle X^2\rangle-\mu^2=\langle(X-\mu)^2\rangle となる。0次係数は「0次モーメント」1ではなく log⁡1=0\log1=0 である。1次までは平均と一致し、2次で原点の取り方に依存しない分散が現れる。

なぜ対数を使うかは独立和で分かる。独立な X,YX,Y なら期待値が積に分かれ、MX+Y=MXMYM_{X+Y}=M_XM_Y。従って KX+Y=KX+KYK_{X+Y}=K_X+K_Y で、各次数の係数が単純に加算される。平均と分散が独立和で加算される法則を、すべての累積量へまとめた表示である。定数 cc の移動では KX+c=ct+KXK_{X+c}=ct+K_X だから、平均だけが cc 増え、分散は変わらない。

正規分布で K=μt+σ2t2/2K=\mu t+\sigma^2t^2/2 を微分しても同じ値を得る。別例として XX が0と2を各1/2で取るなら、MX=(1+e2t)/2M_X=(1+e^{2t})/2、平均1、2次モーメント2、分散1なので (κ0,κ1,κ2)=(0,1,1)(\kappa_0,\kappa_1,\kappa_2)=(0,1,1)。κ2=MX′′(0)\kappa_2=M_X''(0) と誤ると2になり、平均からのずれの二乗の平均1と一致しない。κ0=1\kappa_0=1 とすると次問の nK(t/n)nK(t/n) に定数 nn が残り、母関数の規格化 MS(0)=1M_S(0)=1 も壊れる。

3次まで微分すると K′′′=M′′′/M−3M′M′′/M2+2(M′/M)3K'''=M'''/M-3M'M''/M^2+2(M'/M)^3 となり、0では κ3=⟨X3⟩−3μ⟨X2⟩+2μ3=⟨(X−μ)3⟩ \kappa_3=\langle X^3\rangle-3\mu\langle X^2\rangle+2\mu^3 =\langle(X-\mu)^3\rangle である。これは分布の非対称性を測る量で、平均を引くことで原点の移動に影響されない。正規分布なら対称性により0となるが、一般の分布では0とは限らない。次問で高次の項が小さくなるとは、元の分布の κ3\kappa_3 自体を0と仮定することではなく、平均化によって係数へ nn の逆べきが掛かるという意味である。

設問2(b) 標本平均の正規近似

独立性は etS=∏ietXi/ne^{tS}=\prod_i e^{tX_i/n} の期待値を積に分けるために使い、同分布性は各因子を同じ MX(t/n)M_X(t/n) とするために使う。いずれかを欠けば、問題に与えられた nn 乗の式は一般に成立しない。前問で求めた κ0=0,κ1=μ,κ2=σ2\kappa_0=0,\kappa_1=\mu,\kappa_2=\sigma^2 を代入すると、nn を掛けた後の mm 次係数は κmtm/(m!nm−1)\kappa_m t^m/(m!n^{m-1}) となり、3次以上が小さくなる。

固定 tt での展開は、幅も nn に依存する正規分布の母関数へ近似するという問題の計算を与える。ただし、両方が単に一点 μ\mu へ集中することだけでは、分布の形が正規になる証明として十分でない。幅を保つ標準化変数 Zn=n(S−μ)/σZ_n=\sqrt n(S-\mu)/\sigma を導入すると、σ>0\sigma>0 に対して log⁡MZn(t)=−μnσt+nK ⁣(tσn)=t22+O(n−1/2). \log M_{Z_n}(t) =-\frac{\mu\sqrt n}{\sigma}t +nK\!\left(\frac{t}{\sigma\sqrt n}\right) =\frac{t^2}{2}+O(n^{-1/2}). 従って0近傍で MZn(t)→et2/2M_{Z_n}(t)\to e^{t^2/2} となり、母関数の収束定理から標準正規分布への収束が得られる。これが中心極限定理の形を明確にした導出である。

平均・分散自体は近似ではなく、期待値の線形性と独立性から厳密に ⟨S⟩=μ\langle S\rangle=\mu、Var⁡S=nσ2/n2=σ2/n\operatorname{Var}S=n\sigma^2/n^2=\sigma^2/n である。近似するのは分布の形で、標準偏差は σ/n\sigma/\sqrt n となる。σ=0\sigma=0 なら全変数が確率1で同じ定数になり、標準化せず退化分布として扱う。

nK(t/n)nK(t/n) の外の nn を忘れると平均まで μ/n\mu/n としてしまう。分散を σ2/n2\sigma^2/n^2 とする誤りは、独立な nn 個の分散の和を忘れた結果である。また完全に同じ値を共有する Xi=X1X_i=X_1 なら S=X1S=X_1 の分散は σ2\sigma^2 のままで減らない。独立性の条件を記すことが、平均回数を増やすと幅が狭くなるという結論の根拠になる。

収束の速さにも高次累積量が現れる。標準化変数の対数母関数をもう一項まで残すと log⁡MZn(t)=t22+κ36σ3nt3+O(n−1). \log M_{Z_n}(t)=\frac{t^2}{2}+ \frac{\kappa_3}{6\sigma^3\sqrt n}t^3+O(n^{-1}). 元の分布に大きな非対称性があれば、この補正が有限の nn で残る。例えば X=±1X=\pm1 を各1/2で取る場合は対称で κ3=0\kappa_3=0、MX(t)=cosh⁡tM_X(t)=\cosh t なので nlog⁡cosh⁡(t/n)=t2/2−t4/(12n)+O(n−2)n\log\cosh(t/\sqrt n)=t^2/2-t^4/(12n)+O(n^{-2}) となる。正規近似が正確になる条件を「nn が何回以上」と一律に決めるのでなく、元の分布と必要な精度に対応させる理由がここにある。

設問3(a) ゲームの終了回数

幾何分布は、独立な成功確率 pp の試行で最初の成功までに要する試行数 YY を Pr⁡(Y=j)=p(1−p)j−1\Pr(Y=j)=p(1-p)^{j-1} と表す分布で、j=1,2,…j=1,2,\ldots から始まる。今回の「成功」は前と同じ目が出ることである。ただし最初の投擲には比較相手がなく、成功試行は2回目から数えるため、終了投擲数は X=Y+1X=Y+1 と1だけずれる。

隣り合う一致判定はサイコロの値を共有するが、与えられた過去の目の列に条件を付けても、次の独立な公平サイコロが直前と一致する確率は常に 1/61/6 である。従って確率の連鎖則により、不一致を続ける確率は (5/6)k−2(5/6)^{k-2} と積になる。「隣り合うから無条件に独立」と決めつけるのではなく、この一定の条件付き確率を使えば必要な積を正当化できる。

標本空間を直接数えても同じ式になる。長さ kk の目の列は 6k6^k 通りで、第1投は6通り、終了直前までの k−2k-2 回はそれぞれ直前以外の5通り、最後は一致する1通りだから、有利な列は 6⋅5k−26\cdot5^{k-2} 通り。その比は 5k−2/6k−15^{k-2}/6^{k-1} となり、答案と一致する。

全確率は等比級数により ∑k=2∞16(56)k−2=1/61−5/6=1. \sum_{k=2}^\infty\frac16\left(\frac56\right)^{k-2} =\frac{1/6}{1-5/6}=1. 最短終了の確率は Pr⁡(X=2)=1/6\Pr(X=2)=1/6、次は Pr⁡(X=3)=5/36\Pr(X=3)=5/36 である。尾確率 Pr⁡(X>k)=(5/6)k−1\Pr(X>k)=(5/6)^{k-1} は、kk 投まで一度も連続一致しない確率を表す。

指数を k−1k-1 とすると最短の確率が 5/365/36 になり、本来の1/6を再現しない。XX を1から始まる幾何分布とすると1投で終了する確率を1/6と誤って割り当てる。また特定の目、例えば1が2回続く確率 1/361/36 だけを数えると、2から6の一致を落とす。どの目でもよいという6通りと、初回は比較しないという1回のずれを区別する。

待ち時間の記憶なしの性質も確かめられる。Y=X−1Y=X-1 とし、まだ成功していない Y>jY>j という条件のもとでさらに kk 回成功しない確率は Pr⁡(Y>j+k∣Y>j)=qj+kqj=qk,q=5/6. \Pr(Y>j+k\mid Y>j)=\frac{q^{j+k}}{q^j}=q^k,\qquad q=5/6. すでに何回不一致を続けたかで、次の一致確率は変わらない。10回違う目が続いたから次は一致しやすい、という推測はこの公平・独立なサイコロでは成立しない。直前の目が何であっても、次にそれと同じ目を出す確率は1/6である。

設問3(b) 終了回数の平均の分布

1ゲームの終了回数は離散的で左右非対称だが、その平均の分布は独立な反復を多く行うと正規分布へ近づく。必要な条件は各ゲームが同じ規則で独立に行われ、平均と有限の分散を持つことである。今回の尾は等比で減衰するため、任意次数のモーメントも、0近傍の母関数も存在する。

幾何分布のモーメントを具体的に計算する。∣q∣<1|q|<1 で等比級数を微分すると ∑j≥1jqj−1=1(1−q)2,∑j≥1j2qj−1=1+q(1−q)3. \sum_{j\ge1}j q^{j-1}=\frac1{(1-q)^2},\qquad \sum_{j\ge1}j^2q^{j-1}=\frac{1+q}{(1-q)^3}. これへ p=1−qp=1-q を掛けて ⟨Y⟩=1/p\langle Y\rangle=1/p、⟨Y2⟩=(1+q)/p2\langle Y^2\rangle=(1+q)/p^2、従って分散 q/p2q/p^2 を得る。X=Y+1X=Y+1 の定数移動は平均を1増やすが、X−⟨X⟩=Y−⟨Y⟩X-\langle X\rangle=Y-\langle Y\rangle なので分散は変わらない。

母関数からも MX(t)=∑k≥2pqk−2etk=pe2t1−qet(t<log⁡(6/5)) M_X(t)=\sum_{k\ge2}p q^{k-2}e^{tk} =\frac{pe^{2t}}{1-qe^t}\qquad(t<\log(6/5)) となる。対数を微分すれば KX′(0)=2+q/p=7K_X'(0)=2+q/p=7、KX′′(0)=q/p2=30K_X''(0)=q/p^2=30 で、級数計算と一致する。平均の分散30/nn は独立和の公式から厳密で、正規分布という形だけが大きな nn に対する近似である。

例えば n=100n=100 なら平均7、分散0.3、標準偏差 0.3≃0.5477\sqrt{0.3}\simeq0.5477。1ゲームの値の分散30と、100ゲームの平均の分散0.3は異なる。正規近似は小さい nn で下限2より小さな値へ確率を割り当て得るので、有限回での厳密な分布そのものではない。

平均を6と答えるのは比較試行数 YY を総投擲数 XX と取り違えた場合である。分散を31とする誤りは定数1を分散にも加えた結果で、定数の分散は0である。また分散を 30/n30/\sqrt n とすると標準偏差の縮み方と混同している。n=100n=100 ならその誤式は3となり、独立和を100の2乗で割った0.3と一致しない。

有限回の厳密分布も比較できる。nn ゲームの比較試行数の和 J=∑iYiJ=\sum_iY_i は、合計 jj 回目で nn 回目の成功を得る負の二項分布となり Pr⁡(J=j)=(j−1n−1)pnqj−n(j≥n). \Pr(J=j)=\binom{j-1}{n-1}p^nq^{j-n}\quad(j\ge n). 最後の比較は成功と決まり、それ以前の j−1j-1 回へ n−1n-1 個の成功を置く数が二項係数である。平均終了回数は X‾n=1+J/n\overline X_n=1+J/n なので、有限の nn では刻み 1/n1/n の離散値しか取らない。連続の正規分布はこの点列をなめらかな密度で近似するもので、厳密な一点確率と密度の高さをそのまま等置しない。

解答

設問1(a) 正規分布の規格化

σ>0\sigma>0 とする。y=(x−μ)/σy=(x-\mu)/\sigma により dx=σ dydx=\sigma\,dy なので 1=Aσ∫−∞∞e−y2/2dy=Aσ2π. 1=A\sigma\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2/2}dy =A\sigma\sqrt{2\pi}.

設問1(b) モーメント母関数

指数を平方完成すると tx−(x−μ)22σ2=−(x−μ−σ2t)22σ2+μt+σ2t22. tx-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2} =-\frac{(x-\mu-\sigma^2t)^2}{2\sigma^2} +\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2}. 従って、前問と同じ規格化積分を用い MX(t)=eμt+σ2t2/2∫−∞∞e−(x−μ−σ2t)2/(2σ2)2πσdx. M_X(t)=e^{\mu t+\sigma^2t^2/2} \int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{-(x-\mu-\sigma^2t)^2/(2\sigma^2)}}{\sqrt{2\pi}\sigma}dx. 積分は中心が μ+σ2t\mu+\sigma^2t に移った正規密度の全確率なので1となる。

設問2(a) 対数母関数の初めの係数

K(t)=log⁡MX(t)K(t)=\log M_X(t) と置く。規格化と母関数の微分から MX(0)=1,MX′(0)=μ,MX′′(0)=⟨X2⟩. M_X(0)=1,\quad M_X'(0)=\mu,\quad M_X''(0)=\langle X^2\rangle. K′=MX′/MXK'=M_X'/M_X、K′′=MX′′/MX−(MX′/MX)2K''=M_X''/M_X-(M_X'/M_X)^2 により

設問2(b) 標本平均の正規近似

互いに独立で同じ分布に従う XiX_i の平均 S=n−1∑iXiS=n^{-1}\sum_iX_i に対し log⁡MS(t)=nK(t/n)=μt+σ2t22n+O(n−2) \log M_S(t)=nK(t/n) =\mu t+\frac{\sigma^2t^2}{2n}+O(n^{-2}) である。ここで tt を固定し、KK の0近傍で3次までの展開を用いた。

設問3(a) ゲームの終了回数

最初の投擲では終了しない。k≥2k\ge2 回目で初めて終了するには、2回目から k−1k-1 回目まで直前と異なる目を出し、kk 回目だけ一致すればよい。どの直前の目に対しても不一致確率は 5/65/6、一致確率は 1/61/6 なので

他の整数や非整数では確率は0である。

設問3(b) 終了回数の平均の分布

p=1/6,q=5/6p=1/6,q=5/6 とし、Y=X−1Y=X-1 は幾何分布である。∑j≥1qj−1=1/(1−q)\sum_{j\ge1}q^{j-1}=1/(1-q) の微分を用いると ⟨Y⟩=1p=6,Var⁡Y=qp2=30. \langle Y\rangle=\frac1p=6,\qquad \operatorname{Var}Y=\frac{q}{p^2}=30. 従って ⟨X⟩=7\langle X\rangle=7、Var⁡X=30\operatorname{Var}X=30。独立に行う nn ゲームの終了回数の平均 X‾n\overline X_n は、中心極限定理により

答案例

A=1/(2π σ)A=1/(\sqrt{2\pi}\,\sigma)

MX(t)=exp⁡(μt+σ2t2/2)M_X(t)=\exp(\mu t+\sigma^2t^2/2)

κ0=0,κ1=μ,κ2=σ2\kappa_0=0,\qquad\kappa_1=\mu,\qquad\kappa_2=\sigma^2

MS(t)≃exp⁡ ⁣(μt+σ2t22n),S≃N(μ,σ2/n)M_S(t)\simeq\exp\!\left(\mu t+\dfrac{\sigma^2t^2}{2n}\right),\quad S\simeq\mathcal N(\mu,\sigma^2/n)

Pr⁡(X=k)=16(56)k−2(k=2,3,…)\Pr(X=k)=\dfrac16\left(\dfrac56\right)^{k-2}\quad(k=2,3,\ldots)

X‾n≃N(7,30/n)(n が十分大きいとき)\overline X_n\simeq\mathcal N(7,30/n)\quad(n\text{ が十分大きいとき})

物理学1 — 球対称ポテンシャルと水素様イオン

設問1 動径方程式の変数変換

球対称とはポテンシャルが位置の方向でなく半径 rr だけに依存することである。この対称性により角運動量の固有状態で分類でき、波動関数を動径関数 RR と球面調和関数 YY の積へ分離できる。球面調和関数は角度だけのラプラシアンの固有関数で、軌道角運動量の2乗は L^2Y=ℏ2l(l+1)Y\hat L^2Y=\hbar^2l(l+1)Y、l=0,1,2,…l=0,1,2,\ldots である。角度方向の一価性・滑らかさがこの離散的な ll の条件を与える。

球座標のラプラシアンの動径部分は r−2∂r(r2∂r)r^{-2}\partial_r(r^2\partial_r) で、積の微分により R′′+2R′/rR''+2R'/r となる。角度部分へ与えられた YY の式を使えば −l(l+1)R/r2-l(l+1)R/r^2 が残る。この段階では RR の1階微分があるが、u=rRu=rR の2階微分はちょうど rR′′+2R′rR''+2R' なので、rr を掛けた式から1階微分を取り除ける。

変換後の式は半直線 r>0r>0 上の1次元シュレーディンガー方程式に似ており、 −ℏ22mu′′+[V(r)+ℏ2l(l+1)2mr2]u=Eu -\frac{\hbar^2}{2m}u''+ \left[V(r)+\frac{\hbar^2l(l+1)}{2mr^2}\right]u=Eu と書ける。第2の項は角運動量による遠心障壁で、l>0l>0 では原点付近に近づきにくくなる。角度関数を ∫∣Y∣2dΩ=1\int|Y|^2d\Omega=1 と規格化すると全確率は ∫0∞∣R∣2r2dr=∫0∞∣u∣2dr\int_0^\infty|R|^2r^2dr=\int_0^\infty|u|^2dr となり、確率の重みも普通の1次元積分へ移る。

l=0l=0、V=0V=0 では u′′+k2u=0u''+k^2u=0、k2=2mE/ℏ2k^2=2mE/\hbar^2 へ戻るので、次問の球内の波へ直結する。各項の係数は 1/r21/r^2 と同じ長さの逆2乗の次元を持つ。RR 自体が平面波を満たすと誤って R′′+k2R=0R''+k^2R=0 とすると、球座標の面積増加を表す 2R′/r2R'/r を落とす。例えば正しい球面波 R=eikr/rR=e^{ikr}/r をその誤式へ入れると余分な項が残り、無源の解にならない。また遠心障壁を負にすると、ll を大きくするほど原点へ引き込む逆の効果を答えてしまう。

変数変換により規格化の測度が変わる理由は、半径 rr の薄い球殻の体積が r2dr dΩr^2dr\,d\Omega となるためである。RR の絶対値の2乗だけを描いても、半径方向でどこに粒子を見つけやすいかは分からず、動径確率は ∣u(r)∣2dr=r2∣R(r)∣2dr|u(r)|^2dr=r^2|R(r)|^2dr で与えられる。例えば R=e−r/a0R=e^{-r/a_0} は原点で最大だが、殻の確率 r2e−2r/a0r^2e^{-2r/a_0} は r=a0r=a_0 で最大となる。uu の導入は微分方程式を短くするだけでなく、確率を正しい半直線上の重みへ写す変換でもある。

設問2 球内の無限深井戸

無限壁は壁の外の確率を0にし、波動関数を境界で0にする条件として扱う。有限の高さの壁と異なり、外側へ指数関数的に染み出す振幅はない。球対称 l=0l=0 なので角度部分は定数、原点の正則性と球の外周の条件の二つで動径方向の波数が量子化される。

一般解 u=Csin⁡kr+Dcos⁡kru=C\sin kr+D\cos kr では R=u/rR=u/r だから、D≠0D\ne0 なら原点で R∼D/rR\sim D/r と発散する。点状の相互作用を原点へ加えない通常の3次元の球内問題では、この特異解を除く。u(0)=0u(0)=0 とすれば D=0D=0 となり、R=Csin⁡kr/rR=C\sin kr/r は r→0r\to0 で CkCk に収束する。R(0)=0R(0)=0 を課すのではなく、RR が有限になる条件を使っている。

u(a)=0u(a)=0 から ka=nπka=n\pi を得るが、n=0n=0 は非自明な固有状態を与えない。E=0E=0 で方程式を別に解くと u=Ar+Bu=Ar+B、原点の条件で B=0B=0、外壁で Aa=0Aa=0 だから全体が0となる。負の EE では u∝sinh⁡κru\propto\sinh\kappa r となり、原点と外壁の両方で0にはできない。従って n≥1n\ge1 だけを残す。

角度部分を規格化していれば C=2/aC=\sqrt{2/a} と選べる。実際に ∫0a∣u∣2dr=2a∫0asin⁡2nπradr=1. \int_0^a|u|^2dr=\frac2a\int_0^a\sin^2\frac{n\pi r}{a}dr=1. エネルギーは a−2a^{-2} に比例するので、半径を2倍にすると各準位は1/4へ下がる。質量を2倍にしても1/2となり、閉じ込めに必要な運動エネルギーの尺度 ℏ2/(ma2)\hbar^2/(ma^2) と一致する。

球の直径 2a2a を1次元の箱の長さへ代入して En=ℏ2π2n2/(8ma2)E_n=\hbar^2\pi^2n^2/(8ma^2) とすると、原点の境界条件を満たす3次元の動径問題を別の箱に置き換え、正しい値の1/4を答える。cos⁡kr\cos kr を残して基底の ka=π/2ka=\pi/2 を選ぶ誤りも、原点の 1/r1/r 特異性を無視した結果である。境界条件は変換した関数 uu と元の RR を往復して確かめる。

規格化した動径確率 ∣u∣2=(2/a)sin⁡2(nπr/a)|u|^2=(2/a)\sin^2(n\pi r/a) から、半径の平均は ⟨r⟩=2a∫0arsin⁡2nπradr=a2. \langle r\rangle=\frac2a\int_0^a r\sin^2\frac{n\pi r}{a}dr=\frac a2. rr と a−ra-r の変換で確率が対称になることからも同じ結果を得る。一方、波動関数 ∣R∣2|R|^2 だけを重みとして平均すると球殻の体積を落とし、正しい期待値にならない。励起番号 nn を増やすと uu の内部の節が n−1n-1 個へ増え、壁と原点を固定したまま波長が短くなることが En∝n2E_n\propto n^2 の増加を説明する。

設問3(a) クーロン場の基底状態

束縛状態は全空間で規格化可能な状態で、クーロンポテンシャルを無限遠で0と定めた場合のエネルギーは負になる。無限遠で V→0V\to0 とした動径方程式は u′′+(2mE/ℏ2)u≃0u''+(2mE/\hbar^2)u\simeq0 なので、E<0E<0 なら減衰する指数関数を選べる。指定の R=Ae−r/a0R=Ae^{-r/a_0} では a0>0a_0>0 がその減衰長を表す。

微分した式には、空間変数の異なる二つの関数1と 1/r1/r が現れる。等式が一つの半径だけでなくすべての r>0r>0 で成立するには、両方の係数が独立に0でなければならない。1/r1/r の係数から 2/a0=2mκ/ℏ22/a_0=2m\kappa/\hbar^2、定数項から 2mE/ℏ2=−1/a022mE/\hbar^2=-1/a_0^2 と順に解く。クーロン引力の強さが長さを定め、その長さからエネルギーが定まる。

この a0a_0 はボーア半径で、電子の質量を使う固定核近似では約 5.29×10−11 m5.29\times10^{-11}\ \mathrm m に当たる。ここでは原子核が静止と指定されているので質量を電子の mm とし、有限の核質量の補正を入れるなら電子・核の換算質量へ置き換える。核の電荷が ZeZe に変われば κ\kappa は ZκZ\kappa、長さは a0/Za_0/Z、エネルギーは Z2EZ^2E へ変わる。この尺度が最後の線スペクトルの推定につながる。

エネルギーの符号は、運動項の正の尺度 ℏ2/(2ma02)\hbar^2/(2ma_0^2) を上回る引力で負となることからも確認できる。規格化した ss 状態に対して ⟨1/r⟩=1/a0\langle1/r\rangle=1/a_0、従って ⟨V⟩=−κ/a0=2E\langle V\rangle=-\kappa/a_0=2E、⟨K⟩=−E\langle K\rangle=-E である。積分には r2drr^2dr の球座標の重みを使い、ビリアルの関係と一致する。

r−1r^{-1} の項だけを0にして定数項を見ないと、長さだけが決まりエネルギーを求めたことにならない。ポテンシャルを +κ/r+\kappa/r と逆符号にすると a0=−ℏ2/(mκ)a_0=-\hbar^2/(m\kappa) となり、RR が無限遠で増大して規格化不能になる。a0a_0 と EE の両方の符号を、引力・束縛・減衰という条件へ戻して確認する。

∫∣Y∣2dΩ=1\int|Y|^2d\Omega=1 の規約では動径の規格化は ∣A∣2∫0∞r2e−2r/a0dr=1|A|^2\int_0^\infty r^2e^{-2r/a_0}dr=1 となる。∫0∞rne−αrdr=n!/αn+1\int_0^\infty r^ne^{-\alpha r}dr=n!/\alpha^{n+1} は部分積分の反復で導けるので、∣A∣=2/a03/2|A|=2/a_0^{3/2} を得る。同じ積分を使えば ⟨r⟩=3a0/2\langle r\rangle=3a_0/2、⟨1/r⟩=1/a0\langle1/r\rangle=1/a_0 である。典型的な大きさ a0a_0 は位置が確定した円軌道の半径ではなく、量子状態の広がりの尺度であり、平均半径や最大確率半径は同じとは限らない。

設問3(b) 第一励起状態の角運動量

原子の第一励起状態は主量子数2で、角運動量の異なる 2s2s と 2p2p が同じエネルギーを持つ。ここでは既知の準位公式を使わず、原題に指定された関数を微分してこの縮退を確かめる。β=1/(2a0)\beta=1/(2a_0) と置けば R′=e−βr[C−β(B+Cr)],R′′=e−βr[β2(B+Cr)−2βC]. R'=e^{-\beta r}[C-\beta(B+Cr)],\quad R''=e^{-\beta r}[\beta^2(B+Cr)-2\beta C]. これを R′′+2R′/r+[2m(E+κ/r)/ℏ2−l(l+1)/r2]RR''+2R'/r+[2m(E+\kappa/r)/\hbar^2-l(l+1)/r^2]R へ入れ、指数関数を割ると多項式と 1/r,1/r21/r,1/r^2 の項に整理できる。

C≠0C\ne0 なら rr の係数は (β2+2mE/ℏ2)C(\beta^2+2mE/\hbar^2)C なので、これを0として答案の EE を得る。C=0,B≠0C=0,B\ne0 の可能性も調べると、定数項から同じ EE となるが、原点の 1/r21/r^2 の係数が l=0l=0 を強制し、その後の 1/r1/r の係数 B/a0B/a_0 が消えず矛盾する。従って非自明解では C≠0C\ne0 である。

l=0l=0 なら B=−2a0CB=-2a_0C で、R∝(1−r/(2a0))e−r/(2a0)R\propto(1-r/(2a_0))e^{-r/(2a_0)}。r=2a0r=2a_0 で節を持ち、基底状態と異なる動径形となる。l>0l>0 では B=0B=0 が必要で、残る [2−l(l+1)]C=0[2-l(l+1)]C=0 から l=1l=1 に限る。こちらは R∝re−r/(2a0)R\propto r e^{-r/(2a_0)} で原点で0となり、角運動量の遠心障壁とも整合する。

前問の基底エネルギーの1/4で、指数の減衰長が2倍になったことからも E∝−1/(減衰長)2E\propto-1/(\text{減衰長})^2 を確認できる。l=0l=0 だけを残すと B=0B=0 を許す分岐を落とし、2p2p 状態を見逃す。逆に ll を任意としてしまうと、例えば l=2,B=0l=2,B=0 では [2−6]C/r=−4C/r[2-6]C/r=-4C/r が残って解にならない。B+CrB+Cr を一括で割ると節のある位置での議論も不明確になるため、係数ごとの条件で非自明解を分類する。

2s2s 状態の動径の節は、基底状態との直交性にも対応する。基底を R1∝e−r/a0R_1\propto e^{-r/a_0}、2s2s を R2∝(1−r/(2a0))e−r/(2a0)R_2\propto(1-r/(2a_0))e^{-r/(2a_0)} とすると、重なり積分は定数倍を除き ∫0∞r2(1−r2a0)e−3r/(2a0)dr=2α3−3a0α4=0,α=32a0. \int_0^\infty r^2\left(1-\frac r{2a_0}\right)e^{-3r/(2a_0)}dr =\frac2{\alpha^3}-\frac3{a_0\alpha^4}=0,\quad\alpha=\frac3{2a_0}. 正負の領域が節を境に打ち消し、異なる固有値を持つ同じエルミートなハミルトニアンの状態が直交することを具体的に確かめられる。2p2p と基底の直交性は角度関数の側でも保証される。

設問4 X線のエネルギーから原子番号を求める

水素様とは原子核の周囲に電子が一つだけあるという条件である。中性の多電子原子とは異なり、他の電子による遮蔽を考えず、核の電荷 +Ze+Ze によるクーロン場で扱える。非相対論的・固定核近似のエネルギーが Z2Z^2 に比例するのは、前問の長さを a0/Za_0/Z へ縮めると、運動項もポテンシャル項も一斉に Z2Z^2 倍になるためである。

放射される光子のエネルギーは準位そのものの絶対値でなく、初期と終状態の差である。第一励起準位は −13.6Z2/4-13.6Z^2/4 eV、基底は −13.6Z2-13.6Z^2 eVなので、差は正の 10.2Z210.2Z^2 eVとなる。2s2s と 2p2p はこの近似では同じ準位であり、図の推定にはこのエネルギー差を使う。遷移の選択則や線の細かな分裂までは、今回の原子番号の概算に要求されていない。

図では矢印先の線は7.0 keVよりわずかに低く、約6.95–6.97 keVと読める。6.96 keVを使えば Z≃6960/10.2≃26.1Z\simeq\sqrt{6960/10.2}\simeq26.1 で、7 keVという丸め値でも同じ整数26へ到達する。Z=26Z=26 ならこの単純模型の予測は 10.2×262=6895.2 eV10.2\times26^2=6895.2\ \mathrm{eV}、Z=25Z=25 なら6375 eV、Z=27Z=27 なら7435.8 eVである。模型の近似と図の概算を踏まえて最も近い整数を推定する。

観測光子のエネルギーを原子の静止系での差と比較できるのは、原題が天体の相対運動によるドップラー変化を無視すると指定しているためである。大きい赤方偏移を含む別の天体なら、観測値から静止系エネルギーへ補正してから ZZ を推定する必要がある。

13.6 eVをそのまま係数にして Z=6960/13.6≃22.6Z=\sqrt{6960/13.6}\simeq22.6 とすると、第一励起から基底への差である3/4を落としている。keVをeVへ直さず Z=6.96/10.2≃0.826Z=\sqrt{6.96/10.2}\simeq0.826 とする誤りは、単位換算の1000倍を忘れた結果である。平方根を取る前に、分子と分母を同じエネルギー単位へそろえる。

図の読み取り誤差が原子番号へどれほど伝わるかは、Z=Eγ/(10.2 eV)Z=\sqrt{E_\gamma/(10.2\ \mathrm{eV})} を微分すれば δZ/Z≃δEγ/(2Eγ)\delta Z/Z\simeq\delta E_\gamma/(2E_\gamma) となる。エネルギーの1\%のずれは、この模型では ZZ の約0.5\%のずれに相当する。6.95 keVと6.97 keVの読みによる差は、どちらも26へ近いという整数の判断を変えない。指定の矢印の位置と水素様準位の差から、整数の原子番号を推定できる。

球対称ポテンシャルと水素様イオンの途中式・最終答をPDFで見る

物理学2 — 遅延ポテンシャルと加速電荷の放射

設問1 ポテンシャルの波動方程式

スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを使うと、∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol B=0 とファラデーの法則は恒等的に満たされる。前者は B=∇×A\boldsymbol B=\nabla\times\boldsymbol A の発散が0であること、後者は勾配の回転が0であることから分かる。残る二つのマクスウェル方程式が、電荷・電流を源とするポテンシャルの方程式を与える。

ポテンシャルは一意ではなく、十分滑らかな関数 χ\chi により A→A+∇χ\boldsymbol A\to\boldsymbol A+\nabla\chi、ϕ→ϕ−∂tχ\phi\to\phi-\partial_t\chi と変えても場は変わらない。これは追加する項の回転が0、電場での二つの混合微分が打ち消すためである。この自由度から選ぶ条件が、本問のローレンツ条件である。電場と磁場の物理的な条件を追加したのではなく、同じ場を表すポテンシャルの選び方を定めている。

回転の回転の恒等式は、成分ごとの積の微分と偏微分の交換から ∇×(∇×A)=∇(∇⋅A)−∇2A\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol A)=\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol A)-\nabla^2\boldsymbol A となる。これを用いると、ゲージ条件によってスカラーとベクトルの勾配項が消え、各成分が同じ波動演算子に従う。電荷・電流の変化の影響が速度 cc で伝わるため、次問の遅延時刻を持つ解につながる。

時間に依存しない極限では ∇2ϕ=−ρ/ε0\nabla^2\phi=-\rho/\varepsilon_0、∇2A=−μ0j\nabla^2\boldsymbol A=-\mu_0\boldsymbol j というポアソン方程式へ戻る。点電荷の静電ポテンシャル q/(4πε0r)q/(4\pi\varepsilon_0r) が正電荷で正となることも、この符号と整合する。波動方程式の時間項を正にして ∇2+c−2∂t2\nabla^2+c^{-2}\partial_t^2 とすると、無源の平面波へ代入した係数が −k2−ω2/c2-k^2-\omega^2/c^2 となり、実数の非零の波を許さない。ゲージ条件を使わず ∇⋅A=0\nabla\cdot\boldsymbol A=0 と置き換えると、一般の時間依存電荷ではスカラーの時間項を落としてしまう。

源の整合条件も二つの方程式から確認できる。アンペール・マクスウェルの法則の発散を取り、回転の発散0とガウスの法則を使うと ∂tρ+∇⋅j=0\partial_t\rho+\nabla\cdot\boldsymbol j=0 が得られる。これは電荷保存の連続の式である。時間変化する電荷を与えながら電流を常に0とするなど、この式を破る源はマクスウェル方程式の解を持たない。ベクトルの波動方程式の発散とスカラーの波動方程式の時間微分を組み合わせても、同じ保存条件がローレンツ条件と整合するために必要となる。

設問2(a) 遅延時刻の展開

遅延ポテンシャルでは、観測時刻 tt の場へ寄与するのは源の現在の値でなく、距離を光速で伝わる時間だけ前の値である。源領域の原点から観測点までの代表距離を rr とすると、源が観測者へ近づいた分 n⋅r′>0\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r'>0 だけ伝播距離が短くなり、対応する源時刻が t0t_0 より後になる。この幾何学から展開の符号が正になる。

平方根の展開は 1+x=1+x/2+O(x2)\sqrt{1+x}=1+x/2+O(x^2) を使う。d/r≪1d/r\ll1 は、源のどの点でも距離補正が代表距離より小さいという遠方の条件である。ただし電荷密度を時間についても展開するには、さらに d/cd/c が源の変動時間 τ\tau より小さい必要がある。調和的な変動なら ωd/c≪1\omega d/c\ll1、すなわち源が波長に比べ小さいという長波長の条件に当たる。単に観測点を遠くしただけで、源内部の時刻差を無視できるとは限らない。

テイラーの公式 f(t0+δt)=f(t0)+δtf′(t0)+O(δt2)f(t_0+\delta t)=f(t_0)+\delta t f'(t_0)+O(\delta t^2) を各 r′\boldsymbol r' で使い、δt=n⋅r′/c\delta t=\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r'/c を代入する。時間補正の相対尺度は d/(cτ)d/(c\tau)、距離展開の相対誤差は d/rd/r と、それぞれ別の小さい量である。∂t0ρ\partial_{t_0}\rho は源の空間点を固定した偏微分であり、電荷と一緒に動く物質微分ではない。

例えば ρ(r′,t)=ρ0(r′)cos⁡ωt\rho(\boldsymbol r',t)=\rho_0(\boldsymbol r')\cos\omega t、t0=0t_0=0 なら1次補正が0で、厳密値との差は −ρ0(ωδt)2/2-\rho_0(\omega\delta t)^2/2 程度となる。t0=π/(2ω)t_0=\pi/(2\omega) なら厳密値は −ρ0sin⁡ωδt≃−ρ0ωδt-\rho_0\sin\omega\delta t\simeq-\rho_0\omega\delta t で、式の符号を検算できる。

距離が短くなると源時刻も前になると誤って t0−n⋅r′/ct_0-\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r'/c とすると、後の例で正の値を出して逆符号になる。また d/rd/r だけで時間テイラーを正当化すると、ωd/c≳1\omega d/c\gtrsim1 の高周波源で、位相差が1 rad以上あっても同じ時刻と扱ってしまう。幾何学的な遠方近似と源内部の時間差の近似を、条件付きで使い分ける。

時間展開の剰余を式で見積もると、∣∂t2ρ∣≤C2|\partial_t^2\rho|\le C_2 の範囲では ∣ρ(t0+δt)−ρ(t0)−ρ˙(t0)δt∣≤C2δt2/2|\rho(t_0+\delta t)-\rho(t_0)-\dot\rho(t_0)\delta t|\le C_2\delta t^2/2 となる。∣δt∣≤d/c|\delta t|\le d/c だから、この誤差は高々 C2d2/(2c2)C_2d^2/(2c^2) で抑えられる。d/rd/r をいくら小さくしても d/cd/c 自体は小さくならないので、幾何学的な近似だけではこの剰余を制御できない。観測距離と源の時間変化という別々の尺度を使うことが、遠方近似の誤用を防ぐ。

設問2(b) 遠方ポテンシャルの主要項

近似の次数を判断するとき、見かけの分母の r2r^2 だけを見てはいけない。第2項の分子には r⋅r′=r(n⋅r′)\boldsymbol r\cdot\boldsymbol r'=r(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r') があるため、固定した源に対する観測距離の減衰は第1項と同じ 1/r1/r である。源の時間変化が有限の伝播時間差を通じて現れる項として、放射場を取り出す際にも残る。

一方、分母自体を一次まで展開すると 1∣r−r′∣=1r+n⋅r′r2+O(d2/r3) \frac1{|\boldsymbol r-\boldsymbol r'|} =\frac1r+\frac{\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r'}{r^2}+O(d^2/r^3) である。第2項を源の0次の時間項へ掛けた静的な双極子ポテンシャルは、1/r21/r^2 で減衰する。問題に指定された式は、この分母補正を省き、遠方の主要な 1/r1/r のポテンシャルを保った表示である。d/rd/r の全一次項を一律に保つ展開だと説明すると、この静的項を落としたことと矛盾する。放射の主要項を取るという目的を明示する。

電荷の双極子モーメント p(t0)=∫Vρ(r′,t0)r′ d3r′\boldsymbol p(t_0)=\int_V\rho(\boldsymbol r',t_0)\boldsymbol r'\,d^3r' を定義すれば、スカラーの第2項は n⋅p˙/(4πε0cr)\boldsymbol n\cdot\dot{\boldsymbol p}/(4\pi\varepsilon_0cr) と簡潔に書ける。微分と積分を交換できる滑らかさ、または分布としての微分を仮定する。総電荷 Q=∫ρd3r′Q=\int\rho d^3r' が一定でも、電荷が動けば p˙\dot{\boldsymbol p} は非零となり、この時間依存の項が残る。

静止した点電荷では ∂tρ=j=0\partial_t\rho=\boldsymbol j=0 なので、今回残した式は ϕ=q/(4πε0r)\phi=q/(4\pi\varepsilon_0r)、A=0\boldsymbol A=0 へ戻る。原点からずれた静止電荷の厳密なポテンシャルには qn⋅rq/(4πε0r2)q\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r_q/(4\pi\varepsilon_0r^2) があるが、それは意図的に落とした次の距離次数である。第2項を分母の文字だけで O(1/r2)O(1/r^2) と捨てると、動く双極子に伴う主要な時間依存ポテンシャルまで失う。どの量を固定して r→∞r\to\infty を取るかを式に残す。

領域を流れ出す電流がなく、電荷保存が成立すれば Q˙=−∫V∇′⋅j d3r′=−∫∂Vj⋅dS′=0\dot Q=-\int_V\nabla'\cdot\boldsymbol j\,d^3r'=-\int_{\partial V}\boldsymbol j\cdot d\boldsymbol S'=0 である。同様に p˙=∫Vj d3r′\dot{\boldsymbol p}=\int_V\boldsymbol j\,d^3r' は、各成分で部分積分し境界電流を落とすと導ける。従って主要項は ϕ≃Q/(4πε0r)+n⋅p˙/(4πε0cr)\phi\simeq Q/(4\pi\varepsilon_0r)+\boldsymbol n\cdot\dot{\boldsymbol p}/(4\pi\varepsilon_0cr)、A≃μ0p˙/(4πr)\boldsymbol A\simeq\mu_0\dot{\boldsymbol p}/(4\pi r) とつながる。この双極子表示で再び場を微分すると、放射が p¨\ddot{\boldsymbol p} へ比例することを予想できる。

設問3(a) 点電荷への代入と原題の近似

デルタ分布は点で有限の値を持つ普通の関数ではなく、滑らかな試験関数を積分すると電荷位置での値を取り出す対象である。時間に伴い電荷位置が動くので、δ(r′−rq(t))\delta(\boldsymbol r'-\boldsymbol r_q(t)) の時間微分も0ではない。電流密度は速度とデルタ分布の積だから、両方を微分する必要がある。

分布の連鎖則は ∂tδ(r′−rq)=−vq⋅∇′δ\partial_t\delta(\boldsymbol r'-\boldsymbol r_q)=-\boldsymbol v_q\cdot\nabla'\delta となる。境界で消える試験関数 ff に対して部分積分すると ∫∂tδ f d3r′=vq⋅∇′f(rq). \int\partial_t\delta\,f\,d^3r' =\boldsymbol v_q\cdot\nabla' f(\boldsymbol r_q). ここで f=r⋅r′f=\boldsymbol r\cdot\boldsymbol r' を選ぶと vq⋅r\boldsymbol v_q\cdot\boldsymbol r となり、答案の積の微分から得た追加項を独立に再現する。電荷保存の式 ∂tρ+∇′⋅j=0\partial_t\rho+\nabla'\cdot\boldsymbol j=0 も同じ分布微分により満たされる。

欠ける項は A\boldsymbol A の先頭に比べ相対的に速度比 ∣v∣/c|\boldsymbol v|/c 以下であるため、非相対論的な先頭次数だけを保つなら省ける。ただし加速度と位置を含む隣の補正項に比べて常に小さいとは限らず、原題の式(8)をそのまま厳密な恒等式とすることはできない。後の設問では、原題が明示する通りベクトルポテンシャルの補正全体を無視し、先頭の μ0qv/(4πr)\mu_0q\boldsymbol v/(4\pi r) を使う。この範囲では不足項をどう扱うかによらず、非相対論的な遠方放射の結論を求められる。

等速運動で a=0\boldsymbol a=0、かつ n⋅v≠0\boldsymbol n\cdot\boldsymbol v\ne0 とすれば、原題の式(8)の補正は0だが、式(6)の積分には qv(r⋅v)q\boldsymbol v(\boldsymbol r\cdot\boldsymbol v) が残る。これが省かれた項を検出する反例になる。∂tj=qaδ\partial_t\boldsymbol j=q\boldsymbol a\delta とだけ書く誤りは、動く電荷分布の微分を落としたものである。本解説では原題の式を勝手に書き換えず、導出できる式と追加の近似を区別している。

デルタを幅 ss の規格化したガウス分布 gs(r′−rq)g_s(\boldsymbol r'-\boldsymbol r_q) へ置き換えても、1次モーメントは ∫r′gsd3r′=rq\int\boldsymbol r'g_s d^3r'=\boldsymbol r_q のままである。従って ∫j(r⋅r′)d3r′=qv(r⋅rq)\int\boldsymbol j(\boldsymbol r\cdot\boldsymbol r')d^3r'=q\boldsymbol v(\boldsymbol r\cdot\boldsymbol r_q) が有限の ss でも成立し、微分すれば同じ二項を得る。s→0s\to0 の極限でも追加項は消えない。これはデルタ分布の記号操作だけに依存しない、滑らかな電荷雲による確認である。

設問3(b) 遅延時刻の空間微分

勾配は、空間位置を少し動かしたときのスカラーの変化を与えるベクトルで、δf=∇f⋅δr\delta f=\nabla f\cdot\delta\boldsymbol r と定義できる。ここで観測時刻 tt は固定するが、源の遅延時刻 t0t_0 は固定しない。観測点を源から遠ざければ信号の移動時間が増え、同じ観測時刻に届くのはより昔の源の状態となるので、放射方向の微分が負になる。

半径の微分は ∂xr=x/r\partial_xr=x/r であり、三つの成分を並べれば ∇r=n\nabla r=\boldsymbol n。従って tt の勾配0と合わせて答案を得る。r=0r=0 では方向が定まらずこの表式を使えないが、ここでは遠方の観測点 r>0r>0 しか扱わない。

遅延時刻を含む関数を微分する際、連鎖則は ∇f(t0)=f˙(t0)∇t0=−ncf˙(t0) \nabla f(t_0)=\dot f(t_0)\nabla t_0 =-\frac{\boldsymbol n}{c}\dot f(t_0) となる。例えば f(t0)=cos⁡ωt0f(t_0)=\cos\omega t_0 なら ∇f=(ω/c)nsin⁡ωt0\nabla f=(\omega/c)\boldsymbol n\sin\omega t_0。さらに ∂tt0=1\partial_t t_0=1 なので、時間微分は ∂tf=f˙\partial_t f=\dot f となる。この空間微分と時間微分の違いが、次問で加速度を含む項を作る。

幾何学的にも、半径方向へ δr\delta r 動けば δt0=−δr/c\delta t_0=-\delta r/c、接線方向の微小移動では1次の距離変化が0なので δt0=0\delta t_0=0。勾配が半径方向だけを向き、大きさが 1/c1/c であることと一致する。単位は秒毎メートルで、場の時間微分へ掛けると空間微分の単位へ変換できる。

t0t_0 を単なる時間記号として ∇t0=0\nabla t_0=0 とすると、加速電荷の場を微分しても加速度が現れず、放射を失ってしまう。∇r=r\nabla r=\boldsymbol r と誤ると −r/c-\boldsymbol r/c となり単位が秒で、勾配に必要な秒毎メートルではない。例えば観測点 (r,0,0)(r,0,0) で xx を1 m増やしたとき、正しい遅延変化は −1/c-1/c 秒であり、距離 rr に比例して変化するという誤式はこの直接計算に反する。

同じ連鎖則を二階微分へ進めると、r>0r>0 で ∇2f(t−r/c)=f′′/c2−2f′/(cr)\nabla^2 f(t-r/c)=f''/c^2-2f'/(cr) となる。これだけでは球面波の無源波動方程式を満たさないが、振幅に 1/r1/r を掛けた f(t−r/c)/rf(t-r/c)/r では追加の幾何学的な微分が打ち消し、(∇2−c−2∂t2)[f(t−r/c)/r]=0(\nabla^2-c^{-2}\partial_t^2)[f(t-r/c)/r]=0 となる。球面波の 1/r1/r の広がりと遅延時刻の微分は、どちらも同じ波動方程式の解を作るために必要となる。

設問3(c) スカラーポテンシャルの勾配

微分には二つの空間依存がある。一つは r/r2\boldsymbol r/r^2 という観測点の幾何学的な依存、もう一つは速度 v(t0)\boldsymbol v(t_0) が遅延時刻を通じて変わる依存である。後者へ前問の ∂it0=−ri/(cr)\partial_i t_0=-r_i/(cr) を適用すると、速度の微分である加速度が現れる。

添字を使って r⋅v=∑jrjvj(t0)\boldsymbol r\cdot\boldsymbol v=\sum_jr_jv_j(t_0) と書けば ∂i∑jrjvj=∑jδijvj+∑jrjaj∂it0=vi−ricr∑jrjaj. \partial_i\sum_jr_jv_j =\sum_j\delta_{ij}v_j+\sum_jr_j a_j\partial_i t_0 =v_i-\frac{r_i}{cr}\sum_jr_ja_j. 添字 ii は微分する成分、jj は和を取る成分であり、同じ添字を不用意に二役で使わない。これに r−2r^{-2} の微分を加えることで、答案の3項が一つずつ得られる。

各項の距離依存は r=rn\boldsymbol r=r\boldsymbol n として数える。加速度項は (r⋅a)r/r3=n(n⋅a)/r(\boldsymbol r\cdot\boldsymbol a)\boldsymbol r/r^3=\boldsymbol n(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol a)/r で、分母の r3r^3 だけを見て遠方で小さいと判断してはならない。速度項との比の目安は ar/(cv)ar/(cv) なので、a≠0a\ne0 の源を十分遠方で見る場合、1/r1/r の項が残る。ただし特定の観測方向で係数が0になる場合は、他の場の成分まで合わせて考える。

a=0\boldsymbol a=0 の等速運動なら 1/r1/r の放射項は消え、速度に伴う 1/r21/r^2 の場だけとなる。これは加速していない電荷がこの近似で放射しないことに対応する。次問ではスカラーの 1/r1/r 項にベクトルポテンシャルの時間微分を足し、放射電場が観測方向と直角になることを確認する。

v(t0)\boldsymbol v(t_0) を空間微分中ずっと定数とすると、答案の加速度項を丸ごと落とす。また ∇r−2=−r−3n\nabla r^{-2}=-r^{-3}\boldsymbol n と係数2を忘れると、第2項を半分にする。例えば加速度0、v∥n\boldsymbol v\parallel\boldsymbol n の方向では、正しい角括弧の速度部分は −v/r2-\boldsymbol v/r^2 だが、その誤式では0となる。遅延時刻の連鎖則と幾何学の積の微分を別々に計算してから合わせる。

勾配の検算には成分を一つ固定した例も使える。観測点を r=(r,0,0)\boldsymbol r=(r,0,0)、加速度を a=(a,0,0)\boldsymbol a=(a,0,0) とし、その時刻の速度を0とすれば、スカラー側の放射項は +qa/(4πε0c2r)+qa/(4\pi\varepsilon_0c^2r) の xx 成分になる。ただし次問の −∂tA-\partial_t\boldsymbol A は同じ大きさの負の xx 成分を持つので、和は0となる。スカラーだけの縦向きの項を見て加速度軸上で放射が最大と結論しないことが、この具体例から分かる。

設問3(d) 遠方の放射電場と磁場

電場はスカラーの勾配だけでなく −∂tA-\partial_t\boldsymbol A も含む。スカラーからは加速度の放射方向への射影が現れ、ベクトルからは加速度全体が逆符号で現れる。和を取ると縦方向成分が打ち消され、観測方向に垂直な成分だけが残る。この相殺を計算する前にスカラー側だけを物理的な放射電場と呼ぶことはできない。

ベクトル三重積の恒等式 n×(n×a)=n(n⋅a)−a\boldsymbol n\times(\boldsymbol n\times\boldsymbol a)=\boldsymbol n(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol a)-\boldsymbol a は、n⋅n=1\boldsymbol n\cdot\boldsymbol n=1 による。従って n⋅Erad=0\boldsymbol n\cdot\boldsymbol E_{\mathrm{rad}}=0。磁場は、∇×(fv)=∇f×v+f∇×v\nabla\times(f\boldsymbol v)=\nabla f\times\boldsymbol v+f\nabla\times\boldsymbol v の第1項が 1/r21/r^2、第2項の ∇×v(t0)=∇t0×a=−n×a/c\nabla\times\boldsymbol v(t_0)=\nabla t_0\times\boldsymbol a=-\boldsymbol n\times\boldsymbol a/c が 1/r1/r となることから得られる。

μ0ε0c2=1\mu_0\varepsilon_0c^2=1 を使えば ∣B∣=∣E∣/c|\boldsymbol B|=|\boldsymbol E|/c。放射に対するポインティングベクトルは S=1μ0E×B=∣E∣2μ0cn \boldsymbol S=\frac1{\mu_0}\boldsymbol E\times\boldsymbol B =\frac{|\boldsymbol E|^2}{\mu_0c}\boldsymbol n となり、外向きにエネルギーを運ぶ。電場の符号が電荷の正負で変わっても、エネルギー流は2乗で決まるので外向きのままである。距離の2乗に反比例する SS を球面積 4πr24\pi r^2 で積分すれば、遠方で有限の放射電力を得られる。

ここでの式は、源が観測距離・放射波長に比べ小さく、速度の相対論的な補正を無視する遠方近似である。設問3(a)で指摘したベクトル補正の不足を隠さず、原題がここで与えた「第2項を無視」の範囲で導出している。

磁場を +μ0qn×a/(4πcr)+\mu_0q\boldsymbol n\times\boldsymbol a/(4\pi cr) とすると、E×B\boldsymbol E\times\boldsymbol B が内向きとなり、源から外へ伝わる放射に反する。−∂tA-\partial_t\boldsymbol A を忘れると、加速度と観測方向が平行な場合も縦電場を出してしまう。横波の直交性、B=E/cB=E/c、外向きのエネルギー流という三つの条件で符号と係数を検算できる。

観測点を +z+z 方向、加速度を +x+x 方向、正電荷とした例では、E\boldsymbol E は −x-x、B\boldsymbol B は −y-y、エネルギー流は +z+z となる。(−ex)×(−ey)=ez(-\boldsymbol e_x)\times(-\boldsymbol e_y)=\boldsymbol e_z だからである。観測点を同じまま加速度を +z+z へ向けると、n(n⋅a)−a=0\boldsymbol n(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol a)-\boldsymbol a=0 で両放射場が0になる。二つの配置を使うと、三重積の順序を逆にした誤りや縦成分を残した誤りを、向きの言葉だけでも検出できる。

設問3(e) 放射が観測される方向と運動

速度があることと放射があることは同じではない。前問の 1/r1/r の場は加速度に比例するため、等速運動では消える。また加速していても観測者が加速度軸上にいれば sin⁡θ=0\sin\theta=0 で、その方向の放射場は0となる。電子が「こちらへ動いているか」ではなく、その遅延時刻の加速度のうち視線に直角な成分があるかが、この近似での観測条件である。

加速度を a=a∥+a⊥\boldsymbol a=\boldsymbol a_{\parallel}+\boldsymbol a_{\perp}、a∥=n(n⋅a)\boldsymbol a_{\parallel}=\boldsymbol n(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol a) と分解すれば、Erad=−qa⊥/(4πε0c2r)\boldsymbol E_{\mathrm{rad}}=-q\boldsymbol a_{\perp}/(4\pi\varepsilon_0c^2r) となる。正電荷では電場が横加速度と逆向き、負電荷では同向きになる。磁場は n×E/c\boldsymbol n\times\boldsymbol E/c なので、三つの方向はエネルギー流が外向きになる右手の関係を持つ。

単位立体角あたりの放射電力は、球面の面積要素 r2dΩr^2d\Omega を使って dPdΩ=r2∣S∣=q2a2sin⁡2θ16π2ε0c3. \frac{dP}{d\Omega}=r^2|\boldsymbol S| =\frac{q^2a^2\sin^2\theta}{16\pi^2\varepsilon_0c^3}. 全方向へ積分すると ∫sin⁡2θ dΩ=2π∫0πsin⁡3θ dθ=8π/3\int\sin^2\theta\,d\Omega=2\pi\int_0^\pi\sin^3\theta\,d\theta=8\pi/3 なので、P=q2a2/(6πε0c3)P=q^2a^2/(6\pi\varepsilon_0c^3) を得る。これが非相対論的なラーモアの放射電力で、遠方の距離 rr が消えることを確かめられる。

例えば同じ r,ar,a で θ=π/6\theta=\pi/6 の電場振幅は θ=π/2\theta=\pi/2 の半分、電力は1/4となる。速度が0になる振動の折り返し点でも加速度があれば放射し得るので、「速い瞬間だけ放射する」という解釈は誤りである。逆に一定速度で運動する電荷には近距離の場があっても、今回の加速度放射はない。

大きさを acos⁡θa\cos\theta とすると加速度軸上で最大、直角方向で0という逆の角度分布を答える。また E∝1/r2E\propto1/r^2 を放射場とすると球面を通る電力が 1/r21/r^2 で0へ消え、有限のエネルギーが遠方へ運ばれない。1/r1/r の場、sin⁡θ\sin\theta の射影、電力の2乗という関係を区別して確認する。

角度分布を正規化すると、全放射電力のうち立体角 dΩd\Omega へ出る割合は (3/8π)sin⁡2θ dΩ(3/8\pi)\sin^2\theta\,d\Omega である。全方向へ積分して1となり、加速度軸を中心に回転対称の分布を持つ。軸上の電場が0でも源全体が放射しないわけではなく、軸に直角な方向へエネルギーが流れている。観測方向の節と総放射電力0を混同すると、観測者の位置を変えただけで電荷の全損失が変わるという誤った解釈になる。

遅延ポテンシャルと加速電荷の放射の途中式・最終答をPDFで見る

天文学 — 重力二体問題と惑星の軌道

設問1(a) 重心運動と相対運動の分離

ラグランジアン L=K−UL=K-U は、保存力で拘束を満たす系の運動を一般化座標で記述する関数である。R\boldsymbol R は質量で重み付けした位置の平均、r\boldsymbol r は二天体間の相対位置で、どちらも独立した3成分を持つ。この座標変換は二天体の6自由度を失わず、全体の平行移動と内部の運動へ分ける。

運動エネルギーの展開を省かずに書くと、∣R˙∣2|\dot{\boldsymbol R}|^2 の係数は (m1+m2)/2(m_1+m_2)/2、交差項の係数は −m1m2/M+m2m1/M=0-m_1m_2/M+m_2m_1/M=0、∣r˙∣2|\dot{\boldsymbol r}|^2 の係数は 12[m1(m2M)2+m2(m1M)2]=m1m22M=μ2 \frac12\left[m_1\left(\frac{m_2}{M}\right)^2 +m_2\left(\frac{m_1}{M}\right)^2\right] =\frac{m_1m_2}{2M}=\frac\mu2 となる。交差項が消えるのは重心の質量重みを使ったためで、単なる位置の算術平均では質量が等しい場合以外に消えない。ポテンシャルは二天体間の距離だけに依存するので R\boldsymbol R を含まず、二つの運動が独立に分離する。

μ\mu は換算質量と呼び、相対距離を変える運動の慣性を表す。m1≫m2m_1\gg m_2 なら μ≃m2\mu\simeq m_2、M≃m1M\simeq m_1 となり、重い主星を固定して軽い惑星を動かす近似へ戻る。m1=m2=mm_1=m_2=m なら μ=m/2\mu=m/2 で、重心系の各天体の速さが相対速度の半分なので、K=2⋅m∣r˙/2∣2/2=m∣r˙∣2/4K=2\cdot m|\dot{\boldsymbol r}/2|^2/2=m|\dot{\boldsymbol r}|^2/4 と一致する。

重力の力を Fr=−Gm1m2/r2F_r=-Gm_1m_2/r^2 とすると、Fr=−dU/drF_r=-dU/dr を積分し U(∞)=0U(\infty)=0 と選んだ結果が U=−Gm1m2/rU=-Gm_1m_2/r である。従って L=K−UL=K-U には正符号の GMμ/rGM\mu/r が入る。そこを負のままにすると、後の運動方程式が重力を外向きにする。相対運動の質量を MM とすると、等質量の例で運動エネルギーが正しい値の4倍になり、換算質量の意味を失う。極限と等質量の場合を使い、符号と係数を別々に確かめる。

重心の定義は静止位置だけでなく速度にも同じ係数で作用する。R˙=(m1r˙1+m2r˙2)/M\dot{\boldsymbol R}=(m_1\dot{\boldsymbol r}_1+m_2\dot{\boldsymbol r}_2)/M から、重心の運動エネルギー M∣R˙∣2/2M|\dot{\boldsymbol R}|^2/2 を引いた残りが内部の運動エネルギーになる。これを μ\mu で割った相対速度の2乗へまとめられるので、二体の問題が一つの換算質量の問題になる。ポテンシャルの係数は Mμ=m1m2M\mu=m_1m_2 であり、全質量と換算質量を導入しても元の相互作用の強さを変えていない。

設問1(b) 重心の運動

一般化座標 qq がラグランジアンに陽に現れないとき、その座標を循環座標と呼ぶ。ラグランジュ方程式 d(∂L/∂q˙)/dt=∂L/∂qd(\partial L/\partial\dot q)/dt=\partial L/\partial q の右辺が0となるので、共役運動量 pq=∂L/∂q˙p_q=\partial L/\partial\dot q が保存される。本問では相互作用が距離 rr だけで決まり、二天体をまとめて同じだけ平行移動してもエネルギーが変わらない。この対称性が3成分の R\boldsymbol R を循環座標にしている。

保存する MR˙M\dot{\boldsymbol R} は、元の座標へ戻すと m1r˙1+m2r˙2m_1\dot{\boldsymbol r}_1+m_2\dot{\boldsymbol r}_2、すなわち全運動量である。ニュートンの式からも、二天体の内力が作用・反作用で F12+F21=0\boldsymbol F_{12}+\boldsymbol F_{21}=0 と打ち消すため、MR¨=0M\ddot{\boldsymbol R}=0 を得る。変分による式と、力の和による別解が同じ保存則を表している。

重心が静止するとは限らない。初期の全運動量が0なら V=0\boldsymbol V=0 だが、非零なら重心はその速度で進み続ける。慣性系を速度 V\boldsymbol V だけ動かして重心系を選べば R˙=0\dot{\boldsymbol R}=0 にでき、残る相対運動だけを解ける。座標系の選択で重心の運動エネルギーは変わるが、相対座標 r\boldsymbol r の軌道や周期は変わらない。

例えば初期速度が両天体で同じ V\boldsymbol V なら r˙(0)=0\dot{\boldsymbol r}(0)=0、重心は V\boldsymbol V で進む。内部では重力で相対運動が始まっても、全運動量は変わらない。また r\boldsymbol r が周期運動でも、重心が同時に等速移動することは両立する。

「外力がないから各天体が等速直線」とすると相互重力を落とす。実際、等質量で重心の両側に置けば、各加速度は重心側へ非零だが和は0である。さらに MR˙=0M\dot{\boldsymbol R}=0 と初期値なしで置くと、保存量が必ず0だと誤っている。方程式が与えるのは時間微分が0という結論で、定数の値は初期条件が決める。重心と個々の天体の加速度を区別して述べる。

並進対称性が壊れる場合も条件を確認できる。たとえば外部の一様重力場 g\boldsymbol g を両天体へ加えると、追加ポテンシャルは −Mg⋅R-M\boldsymbol g\cdot\boldsymbol R で、∂L/∂R=Mg\partial L/\partial\boldsymbol R=M\boldsymbol g となる。そのとき重心は R¨=g\ddot{\boldsymbol R}=\boldsymbol g と加速し、等速の結論は使えない。一方、相対運動へ同じ一様加速度は現れない。この例は、本問で「閉じた二質点系」「外力がない」という条件がどの式で使われたかを示す。

設問1(c) 極座標のラグランジアン

中心力は位置ベクトルに平行な力で、重心から見た相対運動では重力が常に −r-\boldsymbol r 方向を向く。従ってトルク r×F=0\boldsymbol r\times\boldsymbol F=0、角運動量 J=μr×r˙\boldsymbol J=\mu\boldsymbol r\times\dot{\boldsymbol r} は一定になる。J≠0\boldsymbol J\ne0 なら r\boldsymbol r と速度は常に一定の J\boldsymbol J と直交するので、運動は一つの平面内に保たれる。角運動量0の特別な運動は一つの直線上の落下であり、後で楕円軌道を扱う場合から除く。

平面極座標の単位ベクトルは er=(cos⁡θ,sin⁡θ)\boldsymbol e_r=(\cos\theta,\sin\theta)、eθ=(−sin⁡θ,cos⁡θ)\boldsymbol e_\theta=(-\sin\theta,\cos\theta) である。これを微分すると der/dt=θ˙eθd\boldsymbol e_r/dt=\dot\theta\boldsymbol e_\theta となり、速度へ rθ˙r\dot\theta の接線成分が加わる。位置の大きさ rr だけを微分して速度とするのでなく、向きの時間変化も微分することが極座標の運動エネルギーを作る。

二つの成分を二乗したとき、交差項は er⋅eθ=0\boldsymbol e_r\cdot\boldsymbol e_\theta=0 で消える。rr の単位が長さ、θ˙\dot\theta が毎秒なので rθ˙r\dot\theta は速度で、r˙\dot r と同じ単位になる。重力ポテンシャルは座標表示を変えても −GMμ/r-GM\mu/r のままなので、運動項だけを極座標の形へ置き換えればよい。

半径一定の円運動では r˙=0\dot r=0 でも速度は rθ˙r\dot\theta、従って運動エネルギーは μr2θ˙2/2\mu r^2\dot\theta^2/2 と非零である。角度一定の放射状運動なら θ˙=0\dot\theta=0 で μr˙2/2\mu\dot r^2/2 に戻る。この二つの極限は、両速度成分の係数を確かめる例になる。

K=μr˙2/2K=\mu\dot r^2/2 だけにすると、円軌道のエネルギーを0と誤る。rθ˙2r\dot\theta^2 を使って半径の2乗を落とすと、運動エネルギーの次元が力となってしまう。また3次元の球座標の一般式を使う場合は極角の速度項もあるが、一定の軌道面を選んだ後にはその自由度は変化しない。平面性を先に保存則で示すことで、二座標だけを使う理由を明らかにできる。

極座標の角運動量は μr×r˙=μr2θ˙ ez\mu\boldsymbol r\times\dot{\boldsymbol r}=\mu r^2\dot\theta\,\boldsymbol e_z と書ける。ここで ez\boldsymbol e_z は軌道面の法線であり、原題の空間の特定の軸を指す必要はない。初期の位置と速度が平行でなければ、その二つのベクトルが張る平面を軌道面として選べる。したがって平面運動という結論は、初めから二天体が空間の同じ高さにあると仮定したものではなく、初期条件と中心力の保存則が決める。

設問1(d) 運動方程式と面積速度

ラグランジュ方程式では、rr と θ\theta を独立な座標、r˙,θ˙\dot r,\dot\theta をその速度として偏微分する。∂L/∂r˙=μr˙\partial L/\partial\dot r=\mu\dot r、∂L/∂r=μrθ˙2−GMμ/r2\partial L/\partial r=\mu r\dot\theta^2-GM\mu/r^2 だから半径方向の式を得る。角度 θ\theta 自体は LL に現れないので、共役運動量 pθ=μr2θ˙p_\theta=\mu r^2\dot\theta が保存する。これが軌道面に垂直な角運動量である。

極座標の加速度を直接微分しても、半径成分は r¨−rθ˙2\ddot r-r\dot\theta^2、接線成分は rθ¨+2r˙θ˙r\ddot\theta+2\dot r\dot\theta になる。重力は半径方向だけなので接線成分0、これへ rr を掛けると d(r2θ˙)/dt=0d(r^2\dot\theta)/dt=0 と同じ式になる。遠心的な項 rθ˙2r\dot\theta^2 を力と別に足しているように見えても、慣性系の加速度の座標表示から出た項である。

短い時間 dtdt で位置がなす微小角を dθd\theta とすると、線分が掃く三角形の面積は dA=r2dθ/2d\mathcal A=r^2d\theta/2 である。より厳密には ∣r×dr∣/2|\boldsymbol r\times d\boldsymbol r|/2 を使い、dr=r˙dtd\boldsymbol r=\dot{\boldsymbol r}dt とすれば ∣dA/dt∣=∣h∣/2|d\mathcal A/dt|=|h|/2 を得る。従って角運動量の保存が、そのままケプラーの第2法則の一定面積速度を意味する。

rr が小さくなると θ˙=h/r2\dot\theta=h/r^2 が大きくなり、主星に近いときほど角度を速く掃く。ただし角速度が一定とは言っていない。半径を半分にすると角速度は4倍となり、面積速度は (r/2)2(4θ˙)/2(r/2)^2(4\dot\theta)/2 で元の値を保つ。円運動なら r˙=0\dot r=0 なので、半径式から rθ˙2=GM/r2r\dot\theta^2=GM/r^2、つまり θ˙2=GM/r3\dot\theta^2=GM/r^3 となる。

面積速度を rθ˙/2r\dot\theta/2 とすると単位が長さ毎秒になり、面積毎秒ではない。∂L/∂r\partial L/\partial r の重力項を +GMμ/r2+GM\mu/r^2 としてしまうと、円軌道条件が rθ˙2=−GM/r2r\dot\theta^2=-GM/r^2 となって正の質量・半径に実数の角速度がなくなる。引力の向きと円軌道の極限を使い、符号を確かめる。

角運動量一定から、近日点と遠日点では接線速度 v⊥=rθ˙=h/rv_\perp=r\dot\theta=h/r がそれぞれ半径に反比例する。たとえば遠日点距離が近日点の3倍なら、遠日点の接線速度は近日点の1/3となる。角速度の比は1/9であり、速度と角速度の比を同じにしない。両端では r˙=0\dot r=0 なので、この接線速度が全速度にも一致する。面積速度の一定性から、楕円軌道の速い区間と遅い区間を定量的に読み取れる。

設問2(a) 楕円の長半径と短半径

楕円は二つの焦点からの距離の和が一定 2a2a となる点の集合で、離心率は焦点と中心の距離 cc を長半径で割った e=c/ae=c/a である。焦点を原点とした極座標の rr は中心からの距離ではないため、近日点 rpr_{\mathrm p} 自体を長半径と読まない。原点から軌道の最も近い点と最も遠い点への距離は a−ca-c と a+ca+c になる。

短半径の関係も定義から導ける。短軸の端点は二焦点までの距離が等しく、それぞれ aa なので、中心・焦点・端点の直角三角形から a2=b2+c2a^2=b^2+c^2 となる。c=aec=ae を入れれば b=a1−e2b=a\sqrt{1-e^2} となり、答案の aa を代入して bb を得る。

直交座標へ変換する別解では、x=rcos⁡θ,y=rsin⁡θx=r\cos\theta,y=r\sin\theta より r+ex=lr+ex=l、すなわち x2+y2=l−ex\sqrt{x^2+y^2}=l-ex。両辺を二乗して平方完成すると (1−e2)(x+le1−e2)2+y2=l21−e2. (1-e^2)\left(x+\frac{le}{1-e^2}\right)^2+y^2 =\frac{l^2}{1-e^2}. 標準形へ割れば xx 方向の半径 l/(1−e2)l/(1-e^2)、yy 方向の半径 l/1−e2l/\sqrt{1-e^2} を読み取れる。中心は原点でなく x=−le/(1−e2)x=-le/(1-e^2) にあり、主星が一つの焦点にあることとも一致する。

e=0e=0 では r=lr=l の円で a=b=la=b=l。例えば e=1/2e=1/2 なら rp=2l/3r_{\mathrm p}=2l/3、ra=2lr_{\mathrm a}=2l、a=4l/3a=4l/3、b=2l/3b=2l/\sqrt3 となる。b<ab<a であることや、rp+ra=2ar_{\mathrm p}+r_{\mathrm a}=2a を数値で確かめられる。

ll を長半径と誤ると、e=1/2e=1/2 で正しい 4l/34l/3 を ll と答える。b=l1−e2b=l\sqrt{1-e^2} とすると、aa へ掛けるべき因子を ll へ掛けてしまい、同じ例で 3l/2\sqrt3l/2 となって正しい 2l/32l/\sqrt3 に比べ3/4となる。e→1−e\to1^- では固定した ll に対し a,ba,b は大きくなるので、短半径が0へ縮むという誤った式はこの極限でも見分けられる。

半通径 ll の幾何学的な意味も原式から読める。θ=π/2\theta=\pi/2 では r=lr=l で、主星のある焦点を通り長軸に垂直な弦の半分が ll になる。中心を通る短軸の半分 bb とは位置が違うので、一般に l≠bl\ne b である。l=b2/al=b^2/a という関係を b=a1−e2b=a\sqrt{1-e^2} から求めれば、答案の式と一致する。e=1/2e=1/2 の例で l/b=3/2l/b=\sqrt3/2 となり、図形の異なる二本の長さを数式でも区別できる。

設問2(b) 周期と長半径の関係

面積速度が一定なら、一周して掃く面積をその速度で割ることで周期を求められる。軌道の場所に応じて速度や角速度は変わるが、一つ一つの時間積分を解かずに、保存量 hh と軌道全体の面積から一周の所要時間を計算できる。hh の符号は回転方向で変わるため、正の周期には絶対値を使う。

楕円の面積 πab\pi ab は、単位円の座標 (u,v)(u,v) を x=au,y=bvx=au,y=bv と伸縮すれば面積要素が dx dy=ab du dvdx\,dy=ab\,du\,dv となることから導ける。面積速度 h/2h/2 の1/2は前問の微小三角形から生じるので、面積 πab\pi ab と合わせると周期に 2π2\pi が現れる。これを二乗した係数が第3法則の 4π24\pi^2 となる。

軌道の形によって bb と hh はどちらも変わるが、b2=a2(1−e2)b^2=a^2(1-e^2) と h2=GMa(1−e2)h^2=GMa(1-e^2) の同じ因子が消える。従って同じ全質量、同じ長半径の楕円は、離心率が異なっても同じ周期を持つ。これは円軌道だけの式ではなく、0≤e<10\le e<1 のすべての非衝突楕円に成り立つ関係である。

次元は [GM]=m3/s2[GM]=\mathrm{m^3/s^2} なので a3/(GM)a^3/(GM) が時間の2乗となる。円の極限 e=0e=0 では半径 aa、速度 v=GM/av=\sqrt{GM/a} から T=2πa/vT=2\pi a/v と求めても同じ式を得る。長半径を4倍にすると周期は 43/2=84^{3/2}=8 倍、全質量を4倍にすると周期は1/2となる。この尺度の変化は重力が強いほど速く公転することと一致する。

短半径を b=ab=a と最初から置くと、離心率の因子を落とし T2=4π2a3/[GM(1−e2)]T^2=4\pi^2a^3/[GM(1-e^2)] と誤る。e=1/2e=1/2 では正しい周期の2乗より4/3大きい。また面積速度を hh とすると周期を半分、周期の2乗を1/4にしてしまう。円軌道の別解と比較すれば、この係数の誤りを検出できる。二天体の質量が同程度の場合は m1m_1 だけでなく M=m1+m2M=m_1+m_2 を使う。

太陽系の惑星のように同じ主星の質量が支配する複数の軌道では、T2/a3T^2/a^3 はほぼ共通になる。しかし互いに違う主星の惑星を比較するなら、比例係数 4π2/(GM)4\pi^2/(GM) 自体が変わる。周期と長半径を観測すれば、逆に M=4π2a3/(GT2)M=4\pi^2a^3/(GT^2) と全質量を推定できる。このとき aa は二天体の相対距離の楕円の長半径であり、主星自身の重心回りの小さい軌道半径を代入すると、質量を大きく誤る。

設問3(a) 有効ポテンシャルの形

有効ポテンシャルは、角運動量を保存量として消去した後の半径方向のエネルギーを表す関数である。相対運動のエネルギー E=μ(r˙2+r2θ˙2)/2−GMμ/rE=\mu(\dot r^2+r^2\dot\theta^2)/2-GM\mu/r に r2θ˙=hr^2\dot\theta=h を入れると、E=μr˙2/2+V(r)E=\mu\dot r^2/2+V(r) となる。VV の r−2r^{-2} 項は回転の運動エネルギー、r−1r^{-1} 項は重力の位置エネルギーであり、どちらも同じエネルギーの単位を持つ。

rr が小さいと正の遠心項が引力項より速く増えるため、h≠0h\ne0 の運動は有限エネルギーで原点まで落下できない。大きな rr では負の重力項が主要で、0へ下から近づく。二つの項の競争により、r=lr=l に一つの極小が生じる。V′(r)V'(r) の符号は r<lr<l で負、r>lr>l で正なので、図の下りと上りが定まる。

2階微分を極小で評価すると V′′(l)=GMμ/l3>0V''(l)=GM\mu/l^3>0。半径を r=l+δrr=l+\delta r と少し変えても、有効な力は −V′′(l)δr-V''(l)\delta r と平衡へ戻す向きになるので、これは安定な円軌道である。小さい半径振動の角振動数は V′′(l)/μ=GM/l3\sqrt{V''(l)/\mu}=\sqrt{GM/l^3} となり、円軌道の角速度と一致する。逆2乗の重力で近傍の軌道が閉じる性質ともつながる。

図は得られた無次元関数 x−2−2x−1x^{-2}-2x^{-1} を描いている。例えば r=2lr=2l なら V/[GMμ/(2l)]=1/4−1=−3/4V/[GM\mu/(2l)]=1/4-1=-3/4、r=l/2r=l/2 なら 4−4=04-4=0 となり、最小点 −1-1 と合わせて形を確かめられる。

hh を固定せず θ˙\dot\theta を一定のまま rr を微分すると、遠心項を μr2θ˙2/2\mu r^2\dot\theta^2/2 として極小条件を誤る。保存しているのは角速度でなく角運動量である。また r−2r^{-2} 項を負にすると r→0r\to0 で V→−∞V\to-\infty となり、非零角運動量による障壁を失う。h=0h=0 なら実際にその障壁はなくなるので、今回の図の条件 h≠0h\ne0 を残す。

有効ポテンシャルを実際の力へ戻すと、−V′=μh2/r3−GMμ/r2-V'=\mu h^2/r^3-GM\mu/r^2。r<lr<l では外向き、r>lr>l では内向きになり、半径の小さいずれを元へ戻す。これは角運動量を固定した半径方向の力で、重力そのものが r<lr<l で反発へ変わるという意味ではない。重力は全域で内向きで、外向きの項は回転運動を半径の一自由度へまとめた効果である。中心力の式と有効な一自由度の式を行き来して解釈する。

設問3(b) 楕円軌道を許すエネルギー

有効ポテンシャルの図に水平なエネルギー線 EE を引くと、運動できる半径は E−V(r)≥0E-V(r)\ge0 の領域である。極小より低い EE では運動できる場所がなく、極小に等しければ r=lr=l へ固定される。極小より高く0より低い線なら、曲線との交点が二つあり、その間で半径が往復する。近い交点が近日点、遠い交点が遠日点に対応する。

軌道方程式との関係を導く。r=l/(1+ecos⁡θ)r=l/(1+e\cos\theta) と h=r2θ˙h=r^2\dot\theta から、u=1/ru=1/r に対して r˙=−h du/dθ=hesin⁡θ/l\dot r=-h\,du/d\theta=he\sin\theta/l となる。これをエネルギーへ入れれば、三角関数の和が消えて E=GMμ2l(e2−1),e2=1+2Eh2G2M2μ. E=\frac{GM\mu}{2l}(e^2-1),\qquad e^2=1+\frac{2Eh^2}{G^2M^2\mu}. 従って e2≥0e^2\ge0 が下限、e<1e<1 が上限 E<0E<0 と一致する。さらに l=a(1−e2)l=a(1-e^2) を使えば E=−GMμ/(2a)E=-GM\mu/(2a) で、楕円の大きさがエネルギーを決める。

E=0E=0 は e=1e=1 の放物線で、無限遠で速度0となる境界の非束縛軌道。E>0E>0 は e>1e>1 の双曲線で、無限遠でも有限の運動エネルギーが残る。E=Vmin⁡E=V_{\min} は円であり、原題が前の設問で 0≤e<10\le e<1 として円を含めているため、ここでも下端を含める。h=0h=0 では重力中心を通る退化した放射状の運動となるので、通常の楕円とは区別する。

例えば E=Vmin⁡/2E=V_{\min}/2 なら e2=1/2e^2=1/2、a=2la=2l、二つの交点は r=l/(1±1/2)r=l/(1\pm1/\sqrt2)。これらは正の有限値で、和が 2a=4l2a=4l となる。E→0−E\to0^- では e→1−e\to1^-、長半径と遠日点が無限に大きくなる。

「負のエネルギーならすべて楕円」として下限を落とすと、例えば E=2Vmin⁡E=2V_{\min} で e2=−1e^2=-1 となり、実数の軌道を持たない値まで含める。また E≤0E\le0 とすると放物線の境界を楕円へ混ぜる。EE の条件と 0≤e<10\le e<1 の条件を互いに変換すれば、不等号の端を式で確かめられる。

転回点は E=V(r)E=V(r) で決まり、2Er2+2GMμr−μh2=02Er^2+2GM\mu r-\mu h^2=0 という二次方程式になる。E<0E<0 の場合、実数の正の二根がある条件は判別式 4G2M2μ2+8Eμh2≥04G^2M^2\mu^2+8E\mu h^2\ge0、すなわち E≥−G2M2μ/(2h2)E\ge-G^2M^2\mu/(2h^2) である。等号で二根が重なって円、厳密不等号で近日点と遠日点に分かれる。曲線の図と離心率の式に加え、転回点の二次方程式からも同じエネルギー範囲を独立に確かめられる。

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(このページ・解説4項目)

    正規分布・中心極限定理と待ち時間 / 球対称ポテンシャルと水素様イオン / 遅延ポテンシャルと加速電荷の放射

  • 2025年度(解説4項目)

    ベッセル方程式の級数解と母関数 / 等質量連星の軌道と重力波放射 / 二原子分子の振動・回転と遷移

  • 2024年度(解説4項目)

    ルジャンドル多項式と球面調和関数 / 二準位系・結晶欠陥・断熱消磁 / 単スリットと回折格子の干渉

  • 2023年度(解説4項目)

    実対称行列と特異値分解 / 一様媒質の電磁波と同軸ケーブル / 等質量連星の遠方重力場

  • 2022年度(解説4項目)

    直交変換と双曲的な座標変換 / 円制限三体問題とラグランジュ点 / 断熱変化・対流安定性・衝撃波

  • 2021年度(解説2項目)

    ブラックホールの光子軌道と影 / 複素屈折率と薄膜による反射防止

2026年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は数学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
数学数学正規分布・中心極限定理と待ち時間—あり
物理学1球対称ポテンシャルと水素様イオン—あり
物理学2遅延ポテンシャルと加速電荷の放射—あり
天文学重力二体問題と惑星の軌道—あり

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 4問 → 2026年度 4問
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