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東大 理学系研究科 天文学専攻 専門科目(数学・物理学・天文学) 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は数学1項目です。解説はすべて、答案例は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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数学 — 実対称行列と特異値分解

設問1 異なる固有値の固有ベクトル

固有ベクトルとは、行列を作用させても方向が変わらず、固有値という倍率だけが掛かる零でないベクトルである。零ベクトルなら全ての倍率について同じ式を満たすため、定義から除かれる。ここでは成分が実数なので、内積は uTvu^{\mathsf T}v と書ける。複素空間なら転置の代わりに共役転置を使う条件が必要になる。

転置の定義から (Au)⋅v=u⋅ATv(Au)\cdot v=u\cdot A^{\mathsf T}v。対称行列では転置しても同じ行列なので、同じ AA を内積の反対側へ移せる。一方では uu の固有値 λ\lambda、他方では vv の固有値 μ\mu が掛かり、差を取ることで内積を決められる。行列同士が可換であるという仮定を使っているのではない。

固有値が同じなら差は0となり、この議論から内積0は結論できない。例えば A=IA=I では全ての零でないベクトルが固有値1を持ち、u=(1,0)T,v=(1,1)Tu=(1,0)^{\mathsf T},v=(1,1)^{\mathsf T} は固有ベクトルだが内積1。同じ固有空間の中では、別途グラム・シュミットの直交化により正規直交基底を選べるが、最初から任意の2本が直交するわけではない。

例として A=(2112)A=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix} は、(1,1)T(1,1)^{\mathsf T} に固有値3、(1,−1)T(1,-1)^{\mathsf T} に固有値1を持つ。内積は 1−1=01-1=0。固有ベクトルを任意の零でない定数倍にしても0は保たれるので、この設問では長さ1の規格化を必要としない。

対称性を落とすと一般には成立しない。A=(1102)A=\begin{pmatrix}1&1\\0&2\end{pmatrix} では固有値1の u=(1,0)Tu=(1,0)^{\mathsf T} と固有値2の v=(1,1)Tv=(1,1)^{\mathsf T} の内積が1となる。ATA^{\mathsf T} を勝手に AA へ置換した式が、この反例で崩れる箇所である。また λ=μ\lambda=\mu の場合にも差で割る操作はできない。証明が使う対称性と異固有値の二条件を最後まで保つ。

設問2(a) 固有ベクトルを列に並べる

行列の転置を左から掛けると、列同士の内積を全て並べたグラム行列が得られる。UU の列は相異なる固有値の固有ベクトルなので互いに直交し、原題が各列の長さを1に指定しているため、自己内積も1となる。この二つを合わせた「正規直交」が、積を単位行列にする条件である。

左逆行列が得られただけで終えず、正方行列という条件から右逆も確かめる。Ux=0Ux=0 なら x=UTUx=0x=U^{\mathsf T}Ux=0 なので、核は零だけで列は一次独立である。nn 次元に nn 本あるため全空間の基底となり、UU は可逆。既に UTU=IU^{\mathsf T}U=I を満たす行列は一意の逆行列だから、UUT=IUU^{\mathsf T}=I も従う。

任意のベクトル xx の新しい座標は c=UTxc=U^{\mathsf T}x、元へ戻すのは x=Ucx=Uc。長さも ∥Uc∥2=cTUTUc=∥c∥2\|Uc\|^2=c^{\mathsf T}U^{\mathsf T}Uc=\|c\|^2 と保たれる。直交行列は座標の回転や反転を表し、軸ごとに勝手な伸縮を加えない。固有方向を座標軸として選ぶ準備が、次問の対角化に対応する。

2次元なら u1=(cos⁡α,sin⁡α)Tu_1=(\cos\alpha,\sin\alpha)^{\mathsf T}、u2=(−sin⁡α,cos⁡α)Tu_2=(-\sin\alpha,\cos\alpha)^{\mathsf T} を列とした回転行列が具体例となる。転置は角度を −α-\alpha にする回転であり、元の座標へ戻す操作と一致する。固有ベクトルの符号を反転して反射を含めても、直交行列の関係は保たれる。

長さを1へそろえなければ対角成分が ∥ui∥2\|u_i\|^2 となる。例えば U=2IU=2I は互いに直交する列を持つが、UTU=4IU^{\mathsf T}U=4I、U−1=I/2≠UTU^{-1}=I/2\ne U^{\mathsf T}。また n×rn\times r の細長い行列では列が正規直交でも UTU=IrU^{\mathsf T}U=I_r に過ぎず、UUTUU^{\mathsf T} は列空間への射影となる。正方行列の条件を次の低ランク近似へ無条件に流用しない。

列が r<nr<n 本の場合の射影を、ここで区別しておく。UrTUr=IrU_r^{\mathsf T}U_r=I_r のとき Pr=UrUrTP_r=U_rU_r^{\mathsf T} は Pr2=PrP_r^2=P_r、PrT=PrP_r^{\mathsf T}=P_r を満たす。xx を Prx+(I−Pr)xP_rx+(I-P_r)x へ分けると、二つの項の内積は xTPr(I−Pr)x=0x^{\mathsf T}P_r(I-P_r)x=0。従って ∥x∥2=∥Prx∥2+∥(I−Pr)x∥2\|x\|^2=\|P_rx\|^2+\|(I-P_r)x\|^2 であり、失った方向の長さを独立に測れる。全ての nn 列があるときだけ Pr=IP_r=I となる。最後の画像圧縮では、まさにこのように一部の方向を残して他を捨てる。

設問2(b) 実対称行列の直交対角化

対角化は、行列の作用を固有方向に沿った独立な倍率へ分ける方法である。一般の基底変換では A=SΛS−1A=S\Lambda S^{-1} だが、実対称行列では固有ベクトルを正規直交に選べるため、逆行列が単に転置となる。ここでは原題が nn 個の異なる固有値を指定しているので、その固有ベクトルが全て互いに直交することから直接構成できる。

列による式 AU=UΛAU=U\Lambda の左辺の第 ii 列は AuiAu_i、右辺の第 ii 列は λiui\lambda_i u_i。対角行列を右から掛ける操作は各列へ対応する係数を掛ける。この向きを保ってまとめると、元の nn 本の方程式と同じ意味になる。

成分の和で書けば A=∑iλiuiuiTA=\sum_i\lambda_i u_i u_i^{\mathsf T}。uiuiTu_i u_i^{\mathsf T} は固有方向への射影であり、xx に作用すると ui(ui⋅x)u_i(u_i\cdot x) を取り出す。まず UTU^{\mathsf T} で固有方向の成分を測り、Λ\Lambda で各成分を伸縮し、UU で元の座標へ戻すという三段階になる。

例えば u±=(1,±1)T/2u_{\pm}=(1,\pm1)^{\mathsf T}/\sqrt2、固有値3と1なら 3u+u+T+u−u−T=(2112)3u_+u_+^{\mathsf T}+u_-u_-^{\mathsf T}=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}。跡は固有値の和4、行列式は積3となり、直接の計算とも合う。対角化を数値的に行ったときにも、跡と行列式は結果の検算に使える。

A=UTΛUA=U^{\mathsf T}\Lambda U と順序を入れ替えると、列として定義した固有ベクトルによる変換を逆にしてしまう。特別な対称な UU では偶然同じことがあるが、一般の回転では同じではない。また UΛUU\Lambda U と最後の転置を落とすと、恒等作用のはずの全固有値1の場合でも U2U^2 となる。全ての λi=1\lambda_i=1 なら元の行列が II へ戻ることを確認できる。

重複する固有値がある実対称行列でも、正規直交な固有基底を選べる。理由は、単位球面上で連続な二次形式 xTAxx^{\mathsf T}Ax が最大値を取り、制約 xTx=1x^{\mathsf T}x=1 の未定乗数法からその点で Ax=λxAx=\lambda x となるためである。その単位固有ベクトルを uu とすると、uu に直交する任意の vv に対し u⋅Av=(Au)⋅v=λu⋅v=0u\cdot Av=(Au)\cdot v=\lambda u\cdot v=0。従って直交補空間も AA の作用で保たれ、その部分空間で同じ手順を繰り返せる。次元を一つずつ減らせば、全空間の正規直交固有基底を構成できる。以後の PPT,PTPPP^{\mathsf T},P^{\mathsf T}P の固有値が重複していても、この実対称性に基づく定理を使える。

設問2(c) 正定値性と固有値

全ての零でない xx に対し二次形式 xTAx>0x^{\mathsf T}Ax>0 となる実対称行列を正定値という。成分の一つ一つが正であるという条件ではない。向きを変えた任意のベクトルについて、対応するエネルギー型の量が正となることを表す。特に固有方向を選べば行列の作用が一つの倍率へ単純化される。

固有ベクトルが単位長でなくても、λi∥ui∥2>0\lambda_i\|u_i\|^2>0、∥ui∥2>0\|u_i\|^2>0 から同じ結論が得られる。単位長の条件は λi\lambda_i そのものを二次形式の値として読むために便利であり、正負の結論だけなら任意の非零の規格化で十分である。

逆向きも直交対角化から証明できる。x=Ucx=Uc とすれば xTAx=cTΛc=∑iλici2x^{\mathsf T}Ax=c^{\mathsf T}\Lambda c=\sum_i\lambda_i c_i^2。全ての固有値が正なら、x≠0x\ne0 に対して少なくとも一つの ci≠0c_i\ne0 があり、和は正。従って実対称行列の正定値性と固有値が全て正である条件は同値となる。

固有値の最小と最大を λmin⁡,λmax⁡\lambda_{\min},\lambda_{\max} とすれば λmin⁡∥x∥2≤xTAx≤λmax⁡∥x∥2\lambda_{\min}\|x\|^2\le x^{\mathsf T}Ax\le\lambda_{\max}\|x\|^2。二次形式の下限を最小固有値が与えることが分かる。正定値では零固有値がないので行列は可逆であり、逆行列の固有値 1/λi1/\lambda_i も正となる。

対角成分だけを見て結論することはできない。A=(1221)A=\begin{pmatrix}1&2\\2&1\end{pmatrix} は対角成分がともに正だが、(1,−1)T(1,-1)^{\mathsf T} の方向で固有値 −1-1 を持つ。二次形式はその方向で負となる。また xTAx≥0x^{\mathsf T}Ax\ge0 という非負の条件では、例えば A=diag⁡(1,0)A=\operatorname{diag}(1,0) の零固有値を除けない。厳密な不等号と非負の不等号を区別することが、次問の条件不足を見つける基準になる。

固有値の端を、任意の非零 xx に対するレイリー商 RA(x)=xTAx/∥x∥2R_A(x)=x^{\mathsf T}Ax/\|x\|^2 で見る。x=∑iciuix=\sum_i c_iu_i なら RA(x)=∑iλici2∑ici2=∑iλici2∑jcj2. R_A(x)=\frac{\sum_i\lambda_ic_i^2}{\sum_i c_i^2} =\sum_i\lambda_i\frac{c_i^2}{\sum_jc_j^2}. これは固有値の非負の重み付き平均なので、最小値と最大値はそれぞれ最小・最大固有値となり、対応する固有方向で達する。対角成分は座標軸の方向だけのレイリー商であり、全ての方向を検査したことにはならない。

2次元の対角 diag⁡(4,1)\operatorname{diag}(4,1) の二次形式 xTAx=1x^{\mathsf T}Ax=1 は 4x12+x22=14x_1^2+x_2^2=1 の楕円で、主軸の半径は 1/λ1/\sqrt\lambda。正の固有値が0へ近づくとその方向の広がりが無限大となり、負なら閉じた楕円でなくなる。正定値性は、このように全ての方向に正の曲率を持つ条件としても理解できる。

正定値二次形式の楕円と単位円。固有値が各主軸の長さを決める。

設問3(a) 左右の積の固有値を対応させる

左側の積と右側の積は、同じ行列 PP を異なる順序で掛けたもので、一般に成分は同じではない。しかし非零の固有値に対しては、間に PTP^{\mathsf T} や PP を作用させることで固有ベクトルを移せる。PP が可逆なら相似変換 N=P−1MPN=P^{-1}MP でも示せるが、原題のこの設問は特異行列も含むので、それだけでは証明が足りない。

PTu=0P^{\mathsf T}u=0 と仮定すると Mu=P(PTu)=0Mu=P(P^{\mathsf T}u)=0。固有方程式と合わせると λu=0\lambda u=0 となり、λ≠0,u≠0\lambda\ne0,u\ne0 に反する。従って写したベクトルは固有ベクトルとして使える。逆向きの写像との合成は PPTu=λuPP^{\mathsf T}u=\lambda u で、固有空間の上では零でない倍率で元へ戻る。そのため単に値が存在するだけでなく、各固有空間の次元も一致する。

零固有値では上の写像が零になり得るので別に調べる。xTMx=∥PTx∥2x^{\mathsf T}Mx=\|P^{\mathsf T}x\|^2 から ker⁡M=ker⁡PT\ker M=\ker P^{\mathsf T}、同様に ker⁡N=ker⁡P\ker N=\ker P。行列と転置の階数は同じだから両者の核の次元は n−rank⁡Pn-\operatorname{rank}P。実対称行列は直交対角化でき、固有空間の次元と代数的な重複度が一致するため、これで全固有値を比較できる。

例として P=(1200)P=\begin{pmatrix}1&2\\0&0\end{pmatrix} なら M=diag⁡(5,0)M=\operatorname{diag}(5,0)、N=(1224)N=\begin{pmatrix}1&2\\2&4\end{pmatrix}。行列は異なるが固有値はともに5と0。MM の固有値5の u=(1,0)Tu=(1,0)^{\mathsf T} を写すと PTu=(1,2)TP^{\mathsf T}u=(1,2)^{\mathsf T} で、NN の固有値5へ対応する。

「積の順序を変えても同じ行列」と主張するとこの例で直ちに誤る。また特異な PP に P−1P^{-1} を使う証明は定義できない。非零の固有値にだけ写像の議論を使い、零の重複度を核から補うことで、可逆性を仮定せず主張を証明できる。

特性多項式の一致を、逆行列を仮定しない行列式から示すこともできる。ブロック行列 K=(IA−BI) K=\begin{pmatrix}I&A\\-B&I\end{pmatrix} をブロック行基本変形で消去すると、一方では det⁡K=det⁡(I+BA)\det K=\det(I+BA)、他方では det⁡K=det⁡(I+AB)\det K=\det(I+AB) となる。A=P/t,B=−PT/tA=P/\sqrt t,B=-P^{\mathsf T}/\sqrt t として t>0t>0 へ使えば、det⁡(tI−PPT)=det⁡(tI−PTP)\det(tI-PP^{\mathsf T})=\det(tI-P^{\mathsf T}P)。両辺は tt の多項式なので、正の tt で一致することから全ての tt で一致する。これでも零固有値の重複度まで含めて確認できる。

設問3(b) 原題の非零条件と正則条件

非零行列は、少なくとも一つの成分が0でないという条件である。正則行列は、核が零ベクトルのみで逆行列を持つ条件であり、両者は違う。n≥2n\ge2 では上のように一つの方向を保ちながら別の方向を完全につぶす非零行列がある。この区別をしないと、ノルムの2乗が非負であることから、全ての非零の入力で正であると誤って推論する。

PP が正則なら、x≠0x\ne0 に対し Px≠0Px\ne0、PTx≠0P^{\mathsf T}x\ne0。従って二つのノルムの2乗はともに厳密に正となる。前問までの正定値性の議論から、M,NM,N の固有値は全て正である。逆に PP が特異なら、Pv=0Pv=0 を満たす v≠0v\ne0 があり Nv=0Nv=0。NN に零固有値が存在し、前問の一致により MM も零固有値を持つ。

非零の PP について正しい別の主張は「少なくとも一つは正の固有値を持つ」である。実際に tr⁡N=∑ijPij2>0\operatorname{tr}N=\sum_{ij}P_{ij}^2>0、固有値は全て非負なので、全て0ではあり得ない。階数が rr なら正の固有値がちょうど rr 個、零が n−rn-r 個となる。行列がどれだけ多くの独立な方向を保つかを、正の固有値の個数から読み取れる。

物理で現れる xTNx=∥Px∥2x^{\mathsf T}Nx=\|Px\|^2 は、変換後の長さや二次のエネルギーに対応する。零固有値の方向は、入力が非零でも出力が消える方向である。その方向を許す半正定値の行列も、多くの模型で自然に現れる。正定値と半正定値の違いは用語上だけのものではなく、逆を取れるか、平方根で割れるかという後の計算を左右する。

∥Px∥2>0\|Px\|^2>0 を理由なく全ての非零 xx に書くのが具体的な誤式である。反例では x=(0,1)Tx=(0,1)^{\mathsf T} に対して Px=0Px=0 なので、実際には0。行列式でも det⁡N=(det⁡P)2\det N=(\det P)^2 であり、非零成分があっても行列式は0になり得る。原題の文言を変えて証明済みとせず、反例と成立する条件を並べて答える。

設問3(c) 同じ固有値の左右のベクトルを選ぶ

前問で非零の固有値の間を写した PvPv は、固有ベクトルではあるが一般には単位長でない。その長さは ∥Pv∥2=vTPTPv=λ\|Pv\|^2=v^{\mathsf T}P^{\mathsf T}Pv=\lambda なので、λ\sqrt\lambda で割ると単位になる。この規格化が特異値 σ=λ\sigma=\sqrt\lambda を導入する理由である。

PTP^{\mathsf T} で逆に戻すと PTu=Nv/λ=λvP^{\mathsf T}u=Nv/\sqrt\lambda=\sqrt\lambda v。従って uu と vv の符号は独立には選べず、u→−uu\to-u とするなら対応する vv も −v-v にするか、対応式の負号を保つ必要がある。一つの組について二つの ±\pm を無関係に選ぶと、写像を往復して元へ戻れない。

原題の任意の単位 u,vu,v という読み方には縮退の条件が不足する。P=I2P=I_2、λ=1\lambda=1 では M=N=I2M=N=I_2。u=(1,0)Tu=(1,0)^{\mathsf T}、v=(0,1)Tv=(0,1)^{\mathsf T} はともに単位固有ベクトルだが、u≠±Pvu\ne\pm Pv。同じ二次元の固有空間には無数の方向があるため、正規化しただけでは二本の向きをそろえられない。

縮退した固有空間でも、最初に v1,…,vdv_1,\ldots,v_d を正規直交に選び、各々へ ui=Pvi/λu_i=Pv_i/\sqrt\lambda を使えば uiTuj=viTNvj/λ=δiju_i^{\mathsf T}u_j=v_i^{\mathsf T}Nv_j/\lambda=\delta_{ij} となる。左右の基底を対応させて選ぶことで、後の特異値分解は問題なく構成できる。任意の既存の基底の組をそのまま等置することとは異なる。

λ=0\lambda=0 では Pv=0Pv=0 となり、Pv/λPv/\sqrt\lambda は 0/00/0 で定義できない。零固有値の方向は核の基底を別に選んで補う。u=Pv/λu=Pv/\lambda と平方根を落とすと長さが 1/λ1/\sqrt\lambda となり、例えば λ=4\lambda=4 では単位でなく半分になる。正の固有値、単位長、左右の基底の対応の三点をそろえて公式を使う。

設問3(d) 正の特異値による分解

固有値分解は一つの空間の同じ基底の間で行列を対角化する。一方、特異値分解は入力側の基底 VV と出力側の基底 UU を別々に選ぶ。PTPP^{\mathsf T}P は入力の長さを、PPTPP^{\mathsf T} は出力側の方向を測る対称行列であり、その固有値の平方根が両者を結ぶ非負の倍率となる。

前問の計算から uiTuj=viTNvj/λiλj=δiju_i^{\mathsf T}u_j=v_i^{\mathsf T}Nv_j/\sqrt{\lambda_i\lambda_j}=\delta_{ij}。異なる固有値だけでなく、縮退内でも viv_i を直交に選んでいれば同じ式を使える。各列について Pvi=λiuiPv_i=\sqrt{\lambda_i}u_i をまとめ、V−1=VTV^{-1}=V^{\mathsf T} を右から掛けると分解が得られる。

任意の xx に作用させると、VTxV^{\mathsf T}x で入力の固有方向へ分け、Σ\Sigma で軸ごとに伸縮し、UU で出力側の方向へ戻す。一般に U≠VU\ne V であり、PP 自体が対称である必要もない。特異値は非負だが、反転は U,VU,V の符号や向きに含められるため、負の行列成分も表現できる。

例として P=diag⁡(−2,1)P=\operatorname{diag}(-2,1) は、N=diag⁡(4,1)N=\operatorname{diag}(4,1) の V=IV=I を選べば、対応する U=diag⁡(−1,1)U=\operatorname{diag}(-1,1)、Σ=diag⁡(2,1)\Sigma=\operatorname{diag}(2,1) となる。M,NM,N の固有ベクトルを独立に U=V=IU=V=I と選ぶと、正の対角では diag⁡(2,1)\operatorname{diag}(2,1) を作ってしまい元の負号を失う。左右の基底を対応させる条件は、縮退がなくても符号に関して必要である。

階数 r<nr<n の場合は正の特異値に関する rr 本を前問の写像で構成し、VV の残りを ker⁡P\ker P、UU の残りを ker⁡PT\ker P^{\mathsf T} の正規直交基底で補う。対角の残りは0なので、その列の具体的な向きは積へ寄与しない。原題の「非零」と「正則」の不足を補うことで、通常の特異値分解の存在まで正しく説明できる。

特異値は行列が各方向の長さをどれほど変えるかも表す。x=Vcx=Vc なら ∥Px∥2=∥UΣc∥2=∑iσi2ci2. \|Px\|^2=\|U\Sigma c\|^2=\sum_i\sigma_i^2c_i^2. 従って最大の伸長率は σmax⁡\sigma_{\max}、正則な場合の最小は σmin⁡\sigma_{\min}。線形方程式 Px=yPx=y の逆は x=VΣ−1UTyx=V\Sigma^{-1}U^{\mathsf T}y で、小さい特異値の方向の測定誤差を大きく増幅する。条件数 κ=σmax⁡/σmin⁡\kappa=\sigma_{\max}/\sigma_{\min} が大きい系は、正則であっても数値的な解が不安定になりやすい。

零特異値では逆数を作れないが、正の特異値だけを逆にした P+=VΣ+UTP^+=V\Sigma^+U^{\mathsf T} を使うと、到達できる出力の部分空間について最小ノルムの解を選べる。小さい特異値を捨てる画像の低ランク近似は、独立な方向を減らすという同じ構造を持つ。正の平方根と零の場合を分ける条件が、こうした応用でも必要になる。

設問4 低ランク近似の保存量

元の行列の保存量は 5122512^2 個の実数に各4バイトを掛けた 10485761048576 バイト。低ランク近似は元の各画素を別々に保存せず、rr 本の入力方向と出力方向、そしてその間の倍率を保存して画像を再構成する。単に512行のうち rr 行だけを取り出す操作ではなく、全画素へ寄与する rr 個のモードを残す。

UrU_r と VrV_r は 512×r512\times r、転置した VrTV_r^{\mathsf T} は r×512r\times512 で、成分数は同じ 512r512r。中央の図示の対角行列を密な配列として保存する計算では r2r^2 個を数える。従って r=100r=100 なら 4(102400+10000)=4496004(102400+10000)=449600、r=10r=10 なら 4(10240+100)=413604(10240+100)=41360 となる。

前者の元に対する比は 449600/1048576≃0.429449600/1048576\simeq0.429、後者は 0.03940.0394。百分率で約42.9\%と3.94\%となり、有効数字1桁では40\%と4\%。「何\%に圧縮したか」は保存後の量の比であり、減らした割合の約60\%、96\%とは異なる。

中央が対角である情報を使い、零を保存せず特異値だけを rr 個並べれば Brdiag=4r(1025)B_r^{\mathrm{diag}}=4r(1025)。実装上はこちらの方が省容量で、410000と41000になる。原題は保存形式の詳細を固定していないため、どの成分を保存した計算かを明示した。ヘッダー、サイズ、量子化やさらに別の圧縮の分は数えていない。指定の百分率の精度では両形式の差は丸めで消える。

特異値を大きい順に残すのは、切り捨てた誤差のフロベニウスノルムが ∥P−Pr∥F2=∑i>rλi\|P-P_r\|_F^2=\sum_{i>r}\lambda_i となるためである。uiviTu_i v_i^{\mathsf T} 同士が成分内積で直交するので、この和は各モードの2乗を足して得られる。小さい特異値を捨てると、より少ない二乗誤差で近似できる。具体的な画質の変化は画像の特異値に依存し、保存量だけから全ての特徴が保たれるとは言えない。

中央の行列だけを数えて 4r24r^2 バイトとすると、画像の方向の情報を持つ二つの 512r512r を落とす。また UrU_r を正方行列のまま保存すれば削減の効果を失う。百分率で比へ100を掛け忘れて0.4\%や0.04\%とする誤りも、元のバイト数へ比を掛けて保存後の値が戻るかで検出できる。

モードの直交性による誤差の和を成分で確かめる。Ai=uiviTA_i=u_iv_i^{\mathsf T} に対し、⟨Ai,Aj⟩F=tr⁡(AiTAj)=(uiTuj)(vjTvi)=δij\langle A_i,A_j\rangle_F=\operatorname{tr}(A_i^{\mathsf T}A_j)=(u_i^{\mathsf T}u_j)(v_j^{\mathsf T}v_i)=\delta_{ij}。そのため切り捨て誤差 ∑i>rσiAi\sum_{i>r}\sigma_iA_i の2乗ノルムでは交差項が全て消える。例えば特異値が 5,2,0.15,2,0.1 の3方向なら、上位2本を残す誤差は 0.12=0.010.1^2=0.01、上位1本だけなら 22+0.12=4.012^2+0.1^2=4.01。容量を減らす割合だけでなく、どの特異値を捨てるかが再構成の品質を決める。

解答

設問1 異なる固有値の固有ベクトル

Au=λu,Av=μvAu=\lambda u,Av=\mu v、λ≠μ\lambda\ne\mu とする。A=ATA=A^{\mathsf T} なので内積の移項を使えば λ(u⋅v)=(Au)⋅v=u⋅(ATv)=u⋅Av=μ(u⋅v). \lambda(u\cdot v)=(Au)\cdot v =u\cdot(A^{\mathsf T}v)=u\cdot Av=\mu(u\cdot v). 従って (λ−μ)(u⋅v)=0(\lambda-\mu)(u\cdot v)=0、λ−μ≠0\lambda-\mu\ne0 より

設問2(a) 固有ベクトルを列に並べる

U=(u1,…,un)U=(u_1,\ldots,u_n) の (i,j)(i,j) 成分の内積は、前問の直交性と単位長より ui⋅uj=δiju_i\cdot u_j=\delta_{ij}。従って (UTU)ij=ui⋅uj=δij,UTU=I. (U^{\mathsf T}U)_{ij}=u_i\cdot u_j=\delta_{ij},\qquad U^{\mathsf T}U=I. UU は正方行列なので逆行列を持ち

設問2(b) 実対称行列の直交対角化

Λ=diag⁡(λ1,…,λn)\Lambda=\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n) と置く。各列の固有方程式をまとめれば AU=UΛAU=U\Lambda。右から UT=U−1U^{\mathsf T}=U^{-1} を掛けて

設問2(c) 正定値性と固有値

単位固有ベクトル ui≠0u_i\ne0 を、原題の条件 x⋅Ax>0x\cdot Ax>0 へ代入する。Aui=λiuiAu_i=\lambda_i u_i より ui⋅Aui=λi∥ui∥2=λi>0. u_i\cdot Au_i=\lambda_i\|u_i\|^2=\lambda_i>0.

設問3(a) 左右の積の固有値を対応させる

M=PPT,N=PTPM=PP^{\mathsf T},N=P^{\mathsf T}P は対称。Mu=λuMu=\lambda u、λ≠0\lambda\ne0 なら PTu≠0P^{\mathsf T}u\ne0 で N(PTu)=PTMu=λPTu. N(P^{\mathsf T}u)=P^{\mathsf T}Mu=\lambda P^{\mathsf T}u. 逆も PvPv により成り立ち、固有空間の次元も保たれる。零固有値の重複度は両方とも n−rank⁡Pn-\operatorname{rank}P なので

設問3(b) 原題の非零条件と正則条件

原題の「PP が零行列でない限り全ての固有値が正」という主張は、そのままでは成立しない。例えば P=(1000)≠0,M=N=(1000) P=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}\ne0, \qquad M=N=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} は固有値1と0を持つ。一般に xTMx=∥PTx∥2≥0x^{\mathsf T}Mx=\|P^{\mathsf T}x\|^2\ge0、xTNx=∥Px∥2≥0x^{\mathsf T}Nx=\|Px\|^2\ge0 なので

設問3(c) 同じ固有値の左右のベクトルを選ぶ

λ>0\lambda>0、Nv=λvNv=\lambda v、∥v∥=1\|v\|=1 として、u=Pv/λu=Pv/\sqrt\lambda と定める。このとき ∥u∥2=vTNvλ=1,Mu=λu,PTu=λ v. \|u\|^2=\frac{v^{\mathsf T}Nv}{\lambda}=1,\quad Mu=\lambda u,\quad P^{\mathsf T}u=\sqrt\lambda\,v.

単純固有値なら、独立に選んだ固有ベクトルも全体の符号 ±\pm だけで対応する。縮退時には任意の二本が ±\pm で対応するとは限らない。

設問3(d) 正の特異値による分解

原題の表示のように全て λi>0\lambda_i>0 を用いる場合は PP を正則とし、NN の正規直交固有ベクトル viv_i から ui=Pvi/λiu_i=Pv_i/\sqrt{\lambda_i} を選ぶ。U=(ui),V=(vi)U=(u_i),V=(v_i)、Σ=diag⁡(λi)\Sigma=\operatorname{diag}(\sqrt{\lambda_i}) とすれば UTU=VTV=IU^{\mathsf T}U=V^{\mathsf T}V=I、PV=UΣPV=U\Sigma。従って

特異な PP では零特異値も許し、左右の核の正規直交基底を補えば同じ分解が成り立つ。

設問4 低ランク近似の保存量

Ur,VrU_r,V_r は各 512r512r 成分、対角の中央行列は r×rr\times r。図示の3行列を4バイトずつ全成分保存するなら Br=4(512r+r2+512r)=4(1024r+r2) バイト. B_r=4(512r+r^2+512r)=4(1024r+r^2)\ \text{バイト}.

中央の対角の非零成分だけを保存する実装なら、それぞれ410000バイト、41000バイトとなる。百分率は有効数字1桁で同じ40\%、4\%である。

答案例

u⋅v=0u\cdot v=0。異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する。

U−1=UTU^{-1}=U^{\mathsf T}

A=UΛUTA=U\Lambda U^{\mathsf T}

全ての固有値 λi\lambda_i は正である。

PPTPP^{\mathsf T} と PTPP^{\mathsf T}P は重複度も含め同じ固有値を持つ。

固有値は全て非負。全て正となるための必要十分条件は PP が正則であること。

対応する単位固有ベクトルは u=Pv/λu=Pv/\sqrt\lambda、v=PTu/λv=P^{\mathsf T}u/\sqrt\lambda と選べる。

P=UΣVTP=U\Sigma V^{\mathsf T}(左右を対応させた基底を使う)

r=100: 449600r=100:\ 449600バイト、元の約40\%。 r=10: 41360r=10:\ 41360バイト、元の約4\%。

物理学1 — 一様媒質の電磁波と同軸ケーブル

設問1(a) マクスウェル方程式から波動方程式へ

マクスウェル方程式では、変化する磁場が電場の回転を生み、変化する電場が磁場の回転を生む。片方の場の式へもう片方を代入すると、同じ場の2階微分だけからなる波動方程式となる。変位電流の ϵ∂tE\epsilon\partial_tE はこの相互作用に必要であり、自由な伝導電流がなくても電磁波が伝わる。

ベクトル恒等式は ∇×(∇×E)=∇(∇⋅E)−∇2E\nabla\times(\nabla\times E)=\nabla(\nabla\cdot E)-\nabla^2E。電荷0なら ∇⋅E=0\nabla\cdot E=0 なので左辺は −∇2E-\nabla^2E へ簡約される。BB には常に ∇⋅B=0\nabla\cdot B=0 を使い、∇×B=μϵ∂tE\nabla\times B=\mu\epsilon\partial_tE の回転を取ると −∇2B=μϵ∂t(∇×E)=−μϵ∂t2B-\nabla^2B=\mu\epsilon\partial_t(\nabla\times E)=-\mu\epsilon\partial_t^2B となる。

ϵ,μ\epsilon,\mu を空間微分や時間微分の外へ出せるのは、一様で線形な媒質の定数として扱う条件による。空間的に不均一なら係数の勾配、時間や振動数に依存するなら応答の遅れを考慮する必要がある。また ρ,j\rho,j が存在すれば、電荷・電流の微分を含む源の項が残る。与えられた無源の領域で成立する式である。

平面波 E=E0ei(k⋅r−Ωt)E=E_0e^{i(k\cdot r-\Omega t)} を代入すると ∇2E=−k2E\nabla^2E=-k^2E、∂t2E=−Ω2E\partial_t^2E=-\Omega^2E なので k2=μϵΩ2k^2=\mu\epsilon\Omega^2。また発散0は k⋅E0=0k\cdot E_0=0 を与え、伝播方向へ垂直な横波となる。波動方程式だけでは許してしまう縦成分を、元のマクスウェル方程式が制限していることも分かる。

回転の回転を +∇2E+\nabla^2E と誤ると k2=−μϵΩ2k^2=-\mu\epsilon\Omega^2 となり、正の実定数の媒質で進行波を得られない。変位電流を落とすと時間の2階微分自体が消える。導出後に元の平面波と発散条件へ戻すことで、符号と自由度を検査できる。

電場と磁場を一つの方向で具体的に確認する。+x+x へ伝播する E=Eyeyei(kx−Ωt)E=E_y\boldsymbol e_y e^{i(kx-\Omega t)} を選べば、B=Bzezei(kx−Ωt)B=B_z\boldsymbol e_z e^{i(kx-\Omega t)} で Bz=kEy/ΩB_z=kE_y/\Omega。ファラデーの式の zz 成分は ikEy=iΩBzikE_y=i\Omega B_z、アンペールの式の yy 成分は −ikBz=−iμϵΩEy-ikB_z=-i\mu\epsilon\Omega E_y となる。二つを合わせると再び k2=μϵΩ2k^2=\mu\epsilon\Omega^2。場の向きと負号を成分で追えば、ベクトル恒等式だけでは見落としやすい符号も検算できる。

設問1(b) 位相が伝わる速さ

位相速度は波の山など同じ位相が進む速度である。kx−Ωtkx-\Omega t を一定にして時間で微分すると k dx/dt−Ω=0k\,dx/dt-\Omega=0 となり、Ω/k\Omega/k を得る。波動方程式の標準形 ∂x2E−v−2∂t2E=0\partial_x^2E-v^{-2}\partial_t^2E=0 と比較しても v−2=μϵv^{-2}=\mu\epsilon となる。

真空なら c=1/μ0ϵ0c=1/\sqrt{\mu_0\epsilon_0}。媒質の比誘電率と比透磁率を ϵr,μr\epsilon_r,\mu_r とすれば vph=c/ϵrμrv_{\mathrm{ph}}=c/\sqrt{\epsilon_r\mu_r}、屈折率は ϵrμr\sqrt{\epsilon_r\mu_r}。例えば ϵr=4,μr=1\epsilon_r=4,\mu_r=1 なら速度は c/2c/2 となる。後の同軸ケーブルの信号も、導体の中の電子がこの速度で端まで移動するのではなく、間の誘電体にある場の伝播として現れる。

電場と磁場の比も元の回転の式で求められる。k×E0=ΩB0k\times E_0=\Omega B_0、電場が横方向なら ∣B0∣=k∣E0∣/Ω=∣E0∣/vph|B_0|=k|E_0|/\Omega=|E_0|/v_{\mathrm{ph}}。波動方程式の係数だけでなく、場の二つの振幅の関係にも同じ速度が現れる。媒質内のエネルギー流を決める際に用いる関係である。

ϵ\epsilon の単位は F/m\mathrm{F/m}、μ\mu は H/m\mathrm{H/m}。FH=s2\mathrm{FH}=\mathrm{s^2} なので μϵ\mu\epsilon は s2/m2\mathrm{s^2/m^2}、逆平方根は m/s\mathrm{m/s}。v=1/(μϵ)v=1/(\mu\epsilon) と平方根を忘れると速度の2乗を答える。また位相 kx−Ωtkx-\Omega t の比を逆に取って k/Ωk/\Omega とすると、単位は速度の逆数となる。

分散がある一般の媒質では群速度 dΩ/dkd\Omega/dk と位相速度は一致しない。今回の定数係数の模型では Ω∝k\Omega\propto k なので両者が一致するが、その関係を全ての物質へ延長しない。複素の誘電率による減衰がある場合にも、単に同じ実数の速度だけでは波の形を記述できない。原題の一様な定数の媒質での結果として答える。

設問2(a) 円筒ガウス面の電場

ガウスの法則 ∮E⋅dS=Qenc/ϵ\oint E\cdot dS=Q_{\mathrm{enc}}/\epsilon は、閉じた面を貫く電束と、その内側の自由電荷を結ぶ。一様な誘電体なので ϵ\epsilon を一定として扱える。芯と外部導体は十分長く同心で、端の効果を無視するため、電場は角度や軸方向に依存せず半径方向となる。

円筒の側面では電場が法線と平行で一定となる。両端の面では電場は面に沿い、電束に寄与しない。従って閉曲面の積分が側面積 2πrd2\pi rd の積へ簡約される。ガウスの法則だけから任意の形の場を決められるのではなく、この対称性が積分から E(r)E(r) を取り出すことを可能にしている。

QQ は単位長さ当たりの電荷で C/m\mathrm{C/m}。長さ dd の領域では QdQd を囲むので、結果の dd は消える。点電荷の 1/r21/r^2 と異なり、円筒の面積が rr に比例するため場は 1/r1/r で減る。rr を2倍にすれば場は半分となる。

外部導体には全体を中性にする −Q-Q がある。十分外側のガウス面では芯と外部の電荷を合わせて0となり、理想的な長い同軸構造の外部の場は0である。導体内部も静電平衡では0となる。ただし本問が求めるのは a<r<ba<r<b の誘電体内であり、芯の内部へこの 1/r1/r を延長して原点の発散を論じるものではない。

側面積を球面の 4πr24\pi r^2 にすると E=Q/(4πϵr2)E=Q/(4\pi\epsilon r^2) と誤り、線電荷の単位も合わない。QQ を電荷の総量と思って QdQd を書かずに計算すると、結果がガウス面の任意の長さに依存する。また求める大きさは非負であるため、電荷の符号は絶対値と方向へ分けて表した。次問の電位差では芯を高電位とする Q>0Q>0 の符号付きの式を使う。

設問2(b) 電位差と単位長さ当たりの容量

電位は E=−∇VE=-\nabla V により定義される。芯から外へ積分すると V(b)−V(a)=−∫abEdrV(b)-V(a)=-\int_a^b Edr なので、芯の電位から外部を引いた vv は正となる。電位差を逆に定義しても関係は書けるが、容量を正として扱うためには電荷との符号をそろえる必要がある。

静電容量は一定の幾何と線形な誘電体について、蓄える電荷と電位差の比例係数である。原題の QQ が線密度なので、CC も全体の容量ではなく F/m\mathrm{F/m} となる。ケーブル長が dd なら端の効果を除いて全容量は CdCd、全電荷は QdQd。長さを長くすると容量が増えることも定義と整合する。

∫abdr/r=ln⁡b−ln⁡a=ln⁡(b/a)\int_a^b dr/r=\ln b-\ln a=\ln(b/a)。対数の引数が無次元の半径比となる点も確認できる。b/a>1b/a>1 なので分母は正。bb を aa へ近づけると間隙が狭まり、少ない電位差で多くの電荷を蓄えられるため容量は大きくなる。

この狭い間隙の極限で b=a+dgb=a+d_g、dg≪ad_g\ll a なら ln⁡(b/a)≃dg/a\ln(b/a)\simeq d_g/a、C≃ϵ(2πa)/dgC\simeq\epsilon(2\pi a)/d_g。単位長さの向かい合う面積 2πa2\pi a を持つ平行板の容量と一致する。対数の式が曲面の幾何を正しく含むことを別の模型で確かめられる。

電場のエネルギーからも、単位長さ当たり UE=∫ab(ϵE2/2)2πrdr=Q2ln⁡(b/a)/(4πϵ)=Q2/(2C)=Cv2/2U_E=\int_a^b(\epsilon E^2/2)2\pi r dr=Q^2\ln(b/a)/(4\pi\epsilon)=Q^2/(2C)=Cv^2/2。電荷からも電圧からも同じ正のエネルギーが得られる。C=2πϵln⁡(b/a)C=2\pi\epsilon\ln(b/a) と対数を分子へ置くと、間隙を狭めるほど容量が0になる逆の極限となる。また log⁡10\log_{10} を使うなら係数 ln⁡10\ln10 が要り、自然対数をそのまま常用対数へ変えてはいけない。

設問2(c) 周回する磁束密度

静磁場のアンペールの法則は ∮B⋅dl=μIenc\oint B\cdot dl=\mu I_{\mathrm{enc}}。同軸の対称性により、磁束密度は軸を回る向きにそろい、同じ半径の円周上で一定である。原題では静的な電流配置をまず使い、後の時間変動は線路の分布定数として扱う。任意に急速な変化でも局所的な静磁場の式がそのまま厳密というわけではない。

選んだ積分路は a<r<ba<r<b なので外部導体の戻り電流 −i-i を囲まない。芯の電流 ii だけが磁場を決める。一方、十分外側では i+(−i)=0i+(-i)=0 で、この理想的な無限長の構造の外部磁場は0となる。戻りの導体があることを、誘電体内の場まで0になる理由にはしない。

半径依存は電場と同じ 1/r1/r だが、向きは電場が半径方向、磁場が周方向で互いに垂直である。後の進行波では両者の外積が軸方向へ向き、エネルギーはこの間の誘電体を通る。電流が導体へ閉じ込められていても、信号のエネルギーが導体間の空間にあることと矛盾しない。

右ねじの符号は軸方向の正を定めて確認する。芯を +x+x 向きに電流が流れるなら、それを囲む周方向が BB の正となる。電流を反転すれば磁場の向きも反転するが、大きさは非負である。単位も [μi/r]=T[\mu i/r]=\mathrm{T} であり、rr を2倍にすれば半分となる。

電流が往復しているからと Ienc=i−i=0I_{\mathrm{enc}}=i-i=0 をこの半径で使うと、外部導体を含まない積分面へ外の電流を入れる誤りになる。また B=μi/(4πr2)B=\mu i/(4\pi r^2) は点磁荷のような面積依存で、アンペールの線積分と一致しない。芯の内部の磁場分布や内部インダクタンスは原題の理想導体の扱いでは加えておらず、ここで求めた誘電体内の磁束が次問の LL を与える。

設問2(d) 磁場エネルギーと自己インダクタンス

インダクタンスは、回路に流れる電流が作る鎖交磁束の比例係数である。同軸の往復の導体を一つの回路として見ると、誘電体の半径方向と軸方向に張った面を周方向の磁場が貫く。長さ1当たりの面積要素は drdr なので、BB を半径方向に積分して磁束の線密度が得られる。電場と同じ円筒の表面積 2πr2\pi r をここへ再び掛けない。

磁場エネルギーから導くと幾何の取り方を独立に検査できる。 UB′=∫abB(r)22μ 2πrdr=μi24πln⁡ba=12Li2. U_B'=\int_a^b\frac{B(r)^2}{2\mu}\,2\pi r dr =\frac{\mu i^2}{4\pi}\ln\frac ba =\frac12Li^2. 同じ LL を得る。エネルギーを計算するときは、磁束の面積とは異なり単位長さの円筒状の体積要素 2πrdr2\pi r dr を使っている。

LL の単位は H/m\mathrm{H/m}。長さ dd の区間なら LdLd が全インダクタンスで、電流が変わるとその区間で −Ld di/dt-Ld\,di/dt の誘導起電力を生む。間隙を狭めて b/a→1b/a\to1 なら磁場のある体積が減り L→0L\to0 となる。前問の容量が増大する極限と逆であるが、両者の積は一定になる。

LC=[μln⁡(b/a)/(2π)][2πϵ/ln⁡(b/a)]=μϵL C=[\mu\ln(b/a)/(2\pi)][2\pi\epsilon/\ln(b/a)]=\mu\epsilon。単位長さ当たりの幾何が消えるこの関係は、後の伝播速度が媒質の電磁波の速度と一致する理由である。CC または LL の対数を逆にすると、この積へ余分な半径比が残り、その一致を失う。

芯内部の磁束も含む模型なら内部インダクタンスの項が加わり得るが、原題は抵抗0の理想導体として導体間の場を用いる。無条件に一様な直流の電流密度の公式を足すと、与えられたTEM線路の結果と異なる。L=μ/[2πln⁡(b/a)]L=\mu/[2\pi\ln(b/a)] とする誤式では、狭い間隙で磁場エネルギーが発散するので、この極限からも検出できる。

半径に沿うエネルギーの分布も読み取れる。単位長さの電場・磁場エネルギーの殻ごとの寄与はどちらも定数倍の dr/r=dln⁡rdr/r=d\ln r となる。従って半径の比が同じ区間、例えば [a,2a][a,2a] と [2a,4a][2a,4a] は同じエネルギーを持つ。場自体は内側ほど大きいが、外側ほど体積の円周も増えるためである。L,CL,C に現れた対数は、この幾何と場の1乗の減衰が組み合わさった積分を表す。

同軸ケーブルの電場と磁場。内側導体の表面で規格化すると半径の逆数で減少する。

設問2(e) 微小区間の誘導電圧

線路では電圧と電流が位置にも時間にも依存する。単一の集中したコイルとして全体を一つの電圧で表す代わりに、微小な区間ごとに自己インダクタンスが分布していると考える。原題の LL は単位長さの量なので、その区間の値は LΔxL\Delta x である。

ファラデーの法則 E=−dΦ/dt\mathcal E=-d\Phi/dt は、増える電流を妨げる向きに起電力が生じることを表す。電流が増えているとき、区間の入口の電位の方が出口より高く、v(x)−v(x+Δx)=LΔx ∂tiv(x)-v(x+\Delta x)=L\Delta x\,\partial_ti。原題の Δv\Delta v は出口から入口を引く定義なので負号が付く。コイルの電圧降下の正の表記と、この空間差分の負号は同じ内容である。

微小区間内で ii が滑らかなら、どの点の ∂ti\partial_t i を代表値としても差は高次となる。Δv/Δx→∂xv\Delta v/\Delta x\to\partial_xv の極限が局所的な式を与える。抵抗がある場合にはさらに −Ri-Ri の項が加わるが、原題の電気抵抗0では含めない。

式の単位は左辺が V/m\mathrm{V/m}、右辺は (H/m)(A/s)=V/m(\mathrm{H/m})(\mathrm{A/s})=\mathrm{V/m}。時間に変化がない直流状態では ∂xv=0\partial_xv=0 で、理想線路に沿う電圧降下がない。時間変化する進行波では空間差が必要になり、一つの共通電位で全長を扱えなくなる。

符号を検算するには v=f(x−ut),i=v/Zv=f(x-ut),i=v/Z という正方向の波を代入する。∂xv=f′\partial_xv=f'、∂ti=−uf′/Z\partial_ti=-uf'/Z なので、この式は Z=Lu>0Z=Lu>0 を与える。負号を落とせば Z=−LuZ=-Lu となり、正方向へエネルギーを運ぶ電圧・電流の関係が逆になる。また Δx\Delta x を掛けずに Δv=−L∂ti\Delta v=-L\partial_ti とすると単位が合わず、連続極限で有限の分布量として扱えない。

設問2(f) 電荷保存と電流の空間差

電流は単位時間に通る電荷である。区間に入る電流の方が出る電流より大きければ、その区間に電荷が蓄積する。芯と外部導体との間に分布する容量は、電圧の変化をこの電荷の変化へ結び付ける。誘電体を電子が直流で突き抜けるという意味ではなく、向かい合う導体上の電荷が変わる。

原題の Δi=i(x+Δx)−i(x)\Delta i=i(x+\Delta x)-i(x) は「出る量から入る量」であるから、電荷の増加は −Δi-\Delta i となる。q=CΔx vq=C\Delta x\,v で CC は一定なので dq/dt=CΔx ∂tvdq/dt=C\Delta x\,\partial_tv。この二つを等置したのが答案である。電荷保存の連続の式 ∂tQ+∂xi=0\partial_t Q+\partial_xi=0 に Q=CvQ=Cv を入れても同じ関係を得る。

前問と合わせると、一方は磁束を変える電流による電圧差、もう一方は電荷を変える電圧による電流差となる。時間変化する電圧と電流が互いの空間分布を作り、一定速度の波を伝えられる。容量の式だけ、インダクタンスの式だけではこの伝播を記述できない。

単位は左辺 A/m\mathrm{A/m}、右辺 (F/m)(V/s)=A/m(\mathrm{F/m})(\mathrm{V/s})=\mathrm{A/m}。電圧が時間に増える領域では ∂xi<0\partial_xi<0 となり、進む方向へ電流が減った分が電荷へ蓄えられる。定常状態では ∂xi=0\partial_xi=0 で、途中で電荷が増え続けないこととも一致する。

∂xi=+C∂tv\partial_xi=+C\partial_tv とすると、電圧が上がるのに出ていく電流の方が多いという電荷保存に反する式になる。また容量を全長のものと取り違えて CΔxC\Delta x を二重に掛けると、極限で容量の効果が消える。正方向の進行波 i=v/Zi=v/Z を代入すれば、この式は Z=1/(Cu)Z=1/(Cu) を与え、前問の Z=LuZ=Lu と同時に正の伝播速度を決める。

設問2(g) 線路の波動方程式とTEM波

電圧と電流の連立する1階の方程式を、一つずつの2階の方程式へ消去した。空間と時間の微分は場が十分滑らかな領域で交換でき、L,CL,C は位置・時間に依存しない定数として微分の外へ出せる。vv と ii はどちらも同じ速度を持つが、独立に任意の振幅を選べるわけではなく、元の1階の式が振幅と向きを結び付ける。

一般の正方向と逆方向の波を v=f(x−ut)+g(x+ut)v=f(x-ut)+g(x+ut) とすれば i=1Z0{f(x−ut)−g(x+ut)},Z0=L/C=12πμ/ϵln⁡ba. i=\frac1{Z_0}\{f(x-ut)-g(x+ut)\},\qquad Z_0=\sqrt{L/C}=\frac1{2\pi}\sqrt{\mu/\epsilon}\ln\frac ba. 正方向の波では i=v/Z0i=v/Z_0、逆方向では電流の符号が逆になる。Z0Z_0 は特性インピーダンスで、抵抗0の線路にも正の値がある。これは消費電力の抵抗ではなく、進行波の電圧と電流の比である。

電場は半径方向、磁場は周方向で、ともに軸へ垂直なのでTEM波と呼ぶ。ポインティングベクトル E×HE\times H は軸方向を向く。断面で積分すると ∫abEH 2πrdr=vi\int_a^b EH\,2\pi r dr=vi となり、回路での電力と場のエネルギー流が一致する。従って媒質内の電磁波の速さと線路の信号速度の一致は、単なる代数の偶然ではない。

単位長さのエネルギーは w=Cv2/2+Li2/2w=Cv^2/2+Li^2/2。連立式を用いると ∂tw+∂x(vi)=0\partial_tw+\partial_x(vi)=0 となり、抵抗0で損失がないエネルギー保存を満たす。二つの1階式の負号を片方だけ誤ると ∂x2v=−LC∂t2v\partial_x^2v=-LC\partial_t^2v となり、実数の伝播速度を作れない。

u=L/Cu=\sqrt{L/C} とすると速度でなくインピーダンスを答えてしまう。L,CL,C の対数を消し忘れて速さに b/ab/a を残す式も、同じ誘電体の理想TEM波という条件と合わない。実際の周波数依存、導体損失、端の反射や高次モードはこの理想模型へ追加すべき要素であり、ここでは与えられた一様・無損失の線路に対する結果を求めた。

エネルギー保存を実際に微分すると、∂tw=Cv∂tv+Li∂ti=−v∂xi−i∂xv=−∂x(vi)\partial_tw=Cv\partial_tv+Li\partial_ti=-v\partial_xi-i\partial_xv=-\partial_x(vi)。従って区間 [x1,x2][x_1,x_2] の蓄積エネルギーの変化は v(x1)i(x1)−v(x2)i(x2)v(x_1)i(x_1)-v(x_2)i(x_2) という入口と出口の電力差に等しい。線路の両端で異なる波が重なっても同じ局所式を満たす。負号を一つ変えると積の微分へまとめられず、無損失の条件にも反することが分かる。

一様媒質の電磁波と同軸ケーブルの途中式・最終答をPDFで見る

物理学2 — 等質量連星の遠方重力場

設問1 天体1から観測点へのベクトル

二点間のベクトルは終点の位置から始点の位置を引いて定義する。ここでは天体1が始点、Pが終点なので r1=rP−r(1)\boldsymbol r_1=\boldsymbol r_P-\boldsymbol r_{(1)} となる。原点OからPへ伸びる rP\boldsymbol r_P や、その逆のベクトルと混同しない。後のポテンシャルは長さだけを使うが、力の方向を扱う場合はこの向きも必要になる。

球座標の θ\theta は +z+z 軸からの極角で、xx-yy 面への射影の長さは rsin⁡θr\sin\theta、高さは rcos⁡θr\cos\theta。射影の方位角が ϕ\phi なので x,yx,y はそれぞれ余弦・正弦を掛ける。緯度のように x,yx,y へ cos⁡θ\cos\theta を使う定義ではない。

天体間距離は ℓ\ell だが、等質量なので重心は中点にあり、各天体の円の半径は ℓ/2\ell/2 となる。一定の角速度 ω\omega で +z+z から見て正の向きへ回る規約で、位相は ωt\omega t。天体2の位置は −r(1)-\boldsymbol r_{(1)} であり、二つの位置の質量重みの和は0となって原点が重心である条件を満たす。

時刻0では天体1の位置は (ℓ/2,0,0)(\ell/2,0,0) となり、答案は (rsin⁡θcos⁡ϕ−ℓ/2,rsin⁡θsin⁡ϕ,rcos⁡θ)(r\sin\theta\cos\phi-\ell/2,r\sin\theta\sin\phi,r\cos\theta)。またPが回転軸上の θ=0\theta=0 なら r1=(−ℓcos⁡ωt/2,−ℓsin⁡ωt/2,r)\boldsymbol r_1=(-\ell\cos\omega t/2,-\ell\sin\omega t/2,r) で、長さは時間によらない r2+ℓ2/4\sqrt{r^2+\ell^2/4}。後の軸上で時間変動が消える結果を、幾何だけからも予想できる。

天体の座標の半径を ℓ\ell とすると、距離の2乗の定数項を正しい ℓ2/4\ell^2/4 でなく ℓ2\ell^2 にし、遠方の補正を4倍する。ベクトルを逆に引くと全成分の符号が反転する。長さだけではその誤りが見えないため、t=0t=0 で天体1の位置からPへ向かう矢印になることを確認してから次へ進む。

設問2 二つの点質量のポテンシャルを足す

ニュートン重力のポテンシャルエネルギーは、質点 MiM_i から距離 rir_i の試験質量 mm に対して −GMim/ri-GM_i m/r_i。複数の天体の寄与は重ね合わせで加えられる。ここでは無限遠を0とする同じ基準を二つの項に使う。質量 mm を含むエネルギー UU であり、単位質量のポテンシャルとは区別する。

距離の2乗を計算した交差項は −rℓsin⁡θ(cos⁡ϕcos⁡ωt+sin⁡ϕsin⁡ωt)-r\ell\sin\theta(\cos\phi\cos\omega t+\sin\phi\sin\omega t)。余弦の差の公式により −rℓsin⁡θcos⁡(ϕ−ωt)-r\ell\sin\theta\cos(\phi-\omega t) となる。天体2は反対側にあるため交差項の符号だけが逆になり、定数の ℓ2/4\ell^2/4 は同じである。

各距離から正の rr をくくると、括弧内は全て無次元となる。ℓ→0\ell\to0 では二つの逆平方根がともに1となり U→−GMm/rU\to-GMm/r。離れていた二つの質量が原点で重なった総質量 MM の点質量へ戻る。r→∞r\to\infty でも先頭は同じとなり、遠方でまず総質量だけが見えることが分かる。

θ=0\theta=0 では交差項が消え、U=−GMm/r2+ℓ2/4U=-GMm/\sqrt{r^2+\ell^2/4} で時間によらない。一方、回転面内で天体1の方向 θ=π/2,ψ=0\theta=\pi/2,\psi=0 へPを置き r>ℓ/2r>\ell/2 とすると r1=r−ℓ/2,r2=r+ℓ/2r_1=r-\ell/2,r_2=r+\ell/2。厳密な二つの距離を直接足す式へ戻るため、平方根の符号を確かめられる。

各天体の質量を MM としてしまうと全体の0次項が −2GMm/r-2GMm/r となり、総質量の指定を2倍する。引力のポテンシャルを正にすると、その勾配から斥力が出る。また U(r)U(r) という原題の記号だけを見て、角度や時間への依存を捨ててはいけない。連星が回っているため、一般のPでは方向と位相に応じてポテンシャルが変わる。

設問3(a) 双極子が消える遠方展開

遠方展開は、観測距離 rr に比べて天体の広がり ℓ\ell が小さいことを使う多重極展開である。δ\delta の次数で並べると、天体の細かな位置をどの精度まで識別しているかが分かる。θ\theta や ψ\psi は有限のまま保ち、これらを小角近似する必要はない。

二項展開で zz は一次の ∓2δs\mp2\delta s と二次の δ2\delta^2 を含む。従って二次までの計算では −z/2-z/2 にある −δ2/2-\delta^2/2 と、3z2/83z^2/8 にある 3δ2s2/23\delta^2s^2/2 の両方が必要となる。z2z^2 の δ3,δ4\delta^3,\delta^4 はこの次数では省く。両者を合わせて (3s2−1)δ2/2(3s^2-1)\delta^2/2 が得られる。

天体1と2で一次項は逆符号、二次項は同符号となる。括弧全体が2倍となり、前にある 1/21/2 と打ち消し合う。δ2=ℓ2/(4r2)\delta^2=\ell^2/(4r^2) を戻すと、二次の係数は 1/81/8 である。展開変数が ℓ/r\ell/r でなく ℓ/(2r)\ell/(2r) である点を途中まで保つと、この係数を追いやすい。

回転軸上 s=0s=0 では U≃−GMm/r+GMmℓ2/(8r3)U\simeq-GMm/r+GMm\ell^2/(8r^3)。厳密な −GMm/r2+ℓ2/4-GMm/\sqrt{r^2+\ell^2/4} の展開と一致する。天体の方向の s=1s=1 では U2=−GMmℓ2/(4r3)U_2=-GMm\ell^2/(4r^3)、厳密な −GMmr/(r2−ℓ2/4)-GMm r/(r^2-\ell^2/4) の次項とも一致する。異なる二つの方向で定数項と s2s^2 の係数を別々に検算できる。

3z2/83z^2/8 を落とすと、角度依存そのものがなくなり、二次の項を全方向で同じ正の補正と誤る。また二つの寄与の一次項を足すときに同符号にすると、存在しない双極子が残る。展開の残差は対称な全体では ℓ4/r5\ell^4/r^5 のオーダーであり、距離を2倍にすると相対誤差は概ね16分の1になる。遠方条件を満たすかも、この次数で評価する。

展開の二つの方向を、η=ℓ/(2r)\eta=\ell/(2r) の関数で比較する。軸上の厳密な比 U/U0=(1+η2)−1/2U/U_0=(1+\eta^2)^{-1/2} は 1−η2/21-\eta^2/2、天体の方向の厳密な比 1/(1−η2)1/(1-\eta^2) は 1+η21+\eta^2 が二次近似となる。どちらも η2\eta^2 まで保つが、補正の符号が逆である。遠方では両方とも1へ近づき、二つの天体を区別できなくなる。

等質量連星のポテンシャルを、天体方向と回転軸上で比較する。

設問3(b) 各次数が表す質量分布

一般の点質量群のポテンシャルを rr の逆数で展開すると、先頭は −Gm∑iMi/r-Gm\sum_iM_i/r。この係数は総質量だけを含み、各天体がどこにあるかによらない。その次の項は −Gmn⋅∑iMiri/r2-Gm\boldsymbol n\cdot\sum_iM_i\boldsymbol r_i/r^2 で、質量重み付きの位置の和、すなわち総質量と重心の位置により決まる。

本問では r2=−r1\boldsymbol r_2=-\boldsymbol r_1、質量も等しいので ∑iMiri=0\sum_iM_i\boldsymbol r_i=0。原点を重心へ置いたことが一次の項を消している。原点を別の場所へずらせば双極子は再び現れるため、双極子の消失が重力の作用そのものの不在を意味するわけではない。

二次では各点の 3(n⋅ri)2−ri23(\boldsymbol n\cdot\boldsymbol r_i)^2-r_i^2 を足す。符号を反転した位置でも2乗は同じなので、等質量の二つの天体では打ち消されない。この量が観測方向に対する分布の伸びを測り、球対称な分布とは違う方向依存を生む。回転すると伸びの向きも変わるので、一般の観測点では時間変動となる。

二つの天体を入れ替える半回転 t↦t+π/ωt\mapsto t+\pi/\omega では質量分布は全く同じになる。従って四重極の時間依存もこの半周期を持つ。cos⁡2(ϕ−ωt)\cos^2(\phi-\omega t) という答案の形はこの対称性を表し、cos⁡(ϕ−ωt)\cos(\phi-\omega t) の一次の項が残れば、半回転で符号が変わって同じ質量分布へ戻らない。

ポテンシャルの 1/r,1/r2,1/r31/r,1/r^2,1/r^3 という絶対の距離依存と、括弧の 1,ℓ/r,(ℓ/r)21,\ell/r,(\ell/r)^2 という相対の展開次数を区別する。二次だから U∝1/r2U\propto1/r^2 ではない。二次は先頭の 1/r1/r に対して ℓ2/r2\ell^2/r^2 の補正なので、絶対には ℓ2/r3\ell^2/r^3 となる。

また四重極が時間変動することだけから、ここで重力波の放射や観測される波の場を計算したとは言えない。原題は各時刻のニュートンのポテンシャルを遠方で展開する模型であり、伝播の遅れや放射のエネルギーを含めていない。次問の変動は、この指定の重力場の大きさについて求める。

設問3(c) 勾配を取って力の大きさを得る

力はポテンシャルエネルギーの負の勾配 F=−∇U\boldsymbol F=-\boldsymbol\nabla U で定義される。mm を含まないポテンシャルを使う場合は加速度となるが、今回は UU に mm があるのでそのまま力となる。半径成分だけを微分する際は、Pの角度と時刻を固定し、r−1,r−3r^{-1},r^{-3} のべきを微分する。

連星の場は厳密には半径方向だけではない。球座標の勾配から Fθ=−1r∂θU=6C2r4sin⁡θcos⁡θcos⁡2ψ,Fϕ=−1rsin⁡θ∂ϕU=−3C2r4sin⁡θsin⁡2ψ. F_\theta=-\frac1r\partial_\theta U =\frac{6C_2}{r^4}\sin\theta\cos\theta\cos^2\psi,\qquad F_\phi=-\frac1{r\sin\theta}\partial_\phi U =-\frac{3C_2}{r^4}\sin\theta\sin2\psi. これらはどちらも主成分に対して (ℓ/r)2(\ell/r)^2 の大きさである。従って ∣F∣=Fr2+Fθ2+Fϕ2|F|=\sqrt{F_r^2+F_\theta^2+F_\phi^2} で、角度成分の2乗は相対4次となり、2次の大きさには入らない。主成分は内向きなので ∣F∣≃−Fr|F|\simeq-F_r を使える。

この次数の説明なしに「ポテンシャルを rr で微分すれば力の全成分」と言うのは正しくない。向きには既に2次の補正があるが、大きさにはその成分の2乗を通じてしか寄与しないという違いである。原題が求める近似の大きさとして、答案の表記が成立する。

軸上では A=−1A=-1、∣F∣≃GMm/r2[1−3ℓ2/(8r2)]|F|\simeq GMm/r^2[1-3\ell^2/(8r^2)]。厳密な軸方向の力 GMmr/(r2+ℓ2/4)3/2GMm r/(r^2+\ell^2/4)^{3/2} を展開すると同じ結果になる。回転面内で天体の方向なら A=2A=2、補正は正で、同じ重心距離の一点質量より強くなる。角度による増減の符号も検査できる。

r−3r^{-3} の微分で係数3を落とすと補正を1/3にする。−∂rU-\partial_rU を大きさとそのまま同一視すると負の値を答える。また球座標の角度成分で 1/r1/r や 1/(rsin⁡θ)1/(r\sin\theta) を省くと、次元が力でなくエネルギーとなる。先頭の場と補正の次数を分け、最後に大きさを展開する。

設問3(d) 半回転ごとの変動と振幅

振幅は平均値からの片側の最大のずれであり、最大値と最小値の差ではない。上の式では時間に依存しない部分を平均、cos⁡\cos の係数を振幅として読み取る。cos⁡2\cos^2 の最大と最小から直接比較しても、ピーク間の差は 2ΔF2\Delta F となる。

一つの天体の公転の角周波数は ω\omega だが、等質量の二体を半回転すると同じ質量分布へ戻る。従って場の周期は TF=π/ωT_F=\pi/\omega、周波数は 1/TF=ω/π1/T_F=\omega/\pi。公転の周波数 ω/(2π)\omega/(2\pi) の2倍になる。対称性と三角関数の倍角の式が同じ結論を与える。

θ=π/2\theta=\pi/2 の回転面で振幅は最大、θ=0,π\theta=0,\pi の軸上で0となる。軸上のPは、回転中も各天体から常に同じ距離なので時間変動しない。ϕ\phi を変えると cos⁡\cos の位相だけが変わり、同じ r,θr,\theta なら振幅と周波数は同じである。

主成分 F0=GMm/r2F_0=GMm/r^2 で割ると ΔF/F0=9ℓ2sin⁡2θ/(16r2)\Delta F/F_0=9\ell^2\sin^2\theta/(16r^2)。遠くでは相対変動が (ℓ/r)2(\ell/r)^2 で小さくなり、絶対振幅は r−4r^{-4} で減る。例えば回転面で r=10ℓr=10\ell なら相対振幅は 9/1600≃0.00569/1600\simeq0.0056 で、遠方展開の小さい変動として整合する。

公転の力の釣合いから ω\omega の尺度も検算できる。各質量 M/2M/2 の向心加速度は ω2ℓ/2\omega^2\ell/2、相手の重力加速度は GM/(2ℓ2)GM/(2\ell^2) なので ω2=GM/ℓ3\omega^2=GM/\ell^3。ただし本問では ω\omega が既に与えられており、この関係を入れて別の変数へ変換する必要はない。

f=2ωf=2\omega と答えると通常の周波数と角周波数を混同する。また振幅を 9GMmℓ2sin⁡2θ/(8r4)9GMm\ell^2\sin^2\theta/(8r^4) と2倍にすると、最大と最小の差を振幅と呼んだ値になる。軸上でも周波数 ω/π\omega/\pi の成分が存在するとするのも、係数が0になる条件を落としている。結果は指定のニュートン重力の近似内での、Pに固定した力の大きさの変動である。

変動成分をその振幅で規格化すると cos⁡[2(ϕ−ωt)]\cos[2(\phi-\omega t)] になる。ϕ=0\phi=0 の例では、天体1の位相が0と π\pi で最大となり、π/2\pi/2 と 3π/23\pi/2 で最小となる。1公転の間に二つの同じ山が現れる。

連星の遠方重力場の変動。1公転の間に2回の山が現れる。
等質量連星の遠方重力場の途中式・最終答をPDFで見る

天文学 — 光子の待ち時間と観測データの雑音

設問1(a) 一定時間に光子が来ない確率

ポアソン分布は、一定の率で独立に起こる事象の個数を表す離散分布である。λ\lambda は区間内の期待個数で、時間の長さを変えると比例して変わる。原題の nn は個数そのものではなく単位時間当たりの率なので、指数には時間を掛けた無次元の nt′nt' を使う。

独立性と定常性から、この確率の形を別の方法で導ける。十分短い dtdt の区間で一つも来ない確率は 1−n dt+o(dt)1-n\,dt+o(dt)。互いに独立な隣り合う区間を合わせると p(t+dt)=p(t)[1−n dt+o(dt)]p(t+dt)=p(t)[1-n\,dt+o(dt)]。従って p′(t)=−np(t)p'(t)=-np(t)、p(0)=1p(0)=1 を解いて p(t)=e−ntp(t)=e^{-nt} となる。

区間を jj 分割した離散の表示でも p(t)≃(1−nt/j)j→e−ntp(t)\simeq(1-nt/j)^j\to e^{-nt}。一つの区間で複数の検出が起きる確率が高次となる条件が、この連続時間の極限を作る。検出器の不感時間や天体の変光で独立性や一定率が崩れる場合は、同じ式をそのまま使えない。

t′=0t'=0 では p=1p=1、t′→∞t'\to\infty では p→0p\to0。例えば t′=1/nt'=1/n では p=e−1≃0.368p=e^{-1}\simeq0.368 であり、平均で一つ来る時間が過ぎても、来ない確率はまだ約37\%ある。期待個数1は必ず一個来る時刻を意味しない。長さ 1/n1/n の区間が二つ連続して空になる確率は e−2e^{-2} となり、独立な区間の確率の積とも一致する。

p=1−nt′p=1-nt' は短い時間の一次近似に過ぎず、t′>1/nt'>1/n で負になるため全時間の答えにはできない。e−n/t′e^{-n/t'} とすると指数の次元が合わず、時間0での確率も1へ戻らない。また 1−e−nt′1-e^{-nt'} は一つ以上来る確率で、0個の確率とは補集合の関係である。端点の値と時間が長いほど減ることを確かめる。

設問1(b) 待ち時間の密度

「待ち時間が tt より長い確率」を生存確率と呼び、それを1から引いた F(t)=1−p(t)F(t)=1-p(t) が累積分布関数である。密度は g(t)=F′(t)=−p′(t)g(t)=F'(t)=-p'(t)。密度の値そのものは確率ではなく、短い区間 [t,t+dt][t,t+dt] に次の検出がある確率が g(t)dtg(t)dt となる。

下端を増やすと積分区間が短くなるため、微分に負号が出る。p(t)=e−ntp(t)=e^{-nt} の微分 −ne−nt-ne^{-nt} にさらに負号を掛けて、非負の密度を得る。単位は nn が s−1\mathrm{s^{-1}} なので gg も逆時間、g(t)dtg(t)dt は無次元となる。

規格化は ∫0∞ne−ntdt=[−e−nt]0∞=1\int_0^\infty ne^{-nt}dt=[-e^{-nt}]_0^\infty=1。負の待ち時間はないので、全実数の密度としては t<0t<0 で0を補う。g(0)=ng(0)=n が1を超える数値となることがあっても、密度に上限1は要求されない。時間の単位を変えれば密度の数値も変わり、確率は積分した量として保たれる。

指数分布には記憶のない性質がある。既に ss 秒待っている条件で、さらに tt 秒待つ確率は Pr⁡(T>s+t∣T>s)=e−n(s+t)e−ns=e−nt. \Pr(T>s+t\mid T>s)=\frac{e^{-n(s+t)}}{e^{-ns}}=e^{-nt}. これまでの無検出が次の検出を「そろそろ起こりやすく」することは、この独立・一定率の模型ではない。条件付きの短時間の検出率 g(t)/p(t)=ng(t)/p(t)=n が一定である。

密度を g=p′g=p' とすると全て負になり、規格化も −1-1 となる。g=e−ntg=e^{-nt} と前の nn を忘れると積分が 1/n1/n で、確率の総和が1でない。また待ち時間の分布を、単位時間当たりの個数の離散ポアソン分布と同じ式で表すこともできない。一方は実数の時間に対する密度、他方は整数の個数に対する確率であり、変数と単位を分けて使う。

率を n=1n=1 として密度と累積分布を並べる。密度は最初から減り、累積確率は0から1へ増える。二つを取り違えると、長い時間ほど検出が既に起こった確率が減るという逆の説明になる。

光子の待ち時間の指数分布と累積確率。密度は減少し、累積確率は1へ近づく。

設問1(c) 指数分布の平均待ち時間

連続変数の期待値は、値に密度を掛けて全ての可能な値を積分する。指数関数は多項式より速く0へ減るので、無限遠の境界項 te−ntte^{-nt} は0となる。下端0の項も0であり、残る積分が単純な指数の積分になる。n>0n>0 を仮定しており、検出率0なら次の検出の待ち時間は有限にはならない。

変数を無次元化して u=ntu=nt と置いても、E[T]=(1/n)∫0∞ue−udu=1/n\mathbb E[T]=(1/n)\int_0^\infty ue^{-u}du=1/n。この形では、分布の時間の尺度が率の逆数だけで決まることが明確になる。例えば平均率 n=5 s−1n=5\,\mathrm{s^{-1}} なら、平均待ち時間は0.2秒である。

非負変数では E[T]=∫0∞Pr⁡(T>t)dt\mathbb E[T]=\int_0^\infty\Pr(T>t)dt という別の表示も使える。t=∫0tdst=\int_0^t ds を期待値へ入れ、非負の積分の順序を交換すれば、生存確率の積分へ変わる。今回の p(t)=e−ntp(t)=e^{-nt} を積分しても同じ 1/n1/n となり、密度と生存確率の二つの方法から確認できる。

2次モーメントも同じ積分で E[T2]=2/n2\mathbb E[T^2]=2/n^2、分散は 1/n21/n^2。標準偏差が平均と同じなので、個々の間隔には大きなばらつきがある。一方、中央値は e−nt1/2=1/2e^{-nt_{1/2}}=1/2 から t1/2=ln⁡2/n<1/nt_{1/2}=\ln2/n<1/n。長く待つ裾が平均を引き上げ、平均と中央値が一致しない。

E[T]=n\mathbb E[T]=n とすると単位が逆時間で、平均率を上げるほど待ち時間が長くなる逆の結果となる。最大密度は t=0t=0 にあるが、そこを平均とするのも誤りである。最頻値、中央値、期待値は異なる代表値で、この分布ではそれぞれ0、ln⁡2/n\ln2/n、1/n1/n となる。次問が0.5という確率を指定する際は、平均の50年をそのまま足すのでなく中央値を使う。

一つ目ではなく qq 個目の検出までの時間も、個数と待ち時間の関係から導ける。Tq>tT_q>t は時刻 tt までの個数が q−1q-1 以下という事象なので、生存確率は e−nt∑k=0q−1(nt)k/k!e^{-nt}\sum_{k=0}^{q-1}(nt)^k/k!。微分して密度を求めると、途中の項が相殺して gq(t)=nqtq−1(q−1)!e−nt(t≥0) g_q(t)=\frac{n^q t^{q-1}}{(q-1)!}e^{-nt}\quad(t\ge0) となる。q=1q=1 で元の指数分布へ戻り、平均は部分積分により q/nq/n。独立な間隔を qq 個足した平均とも一致する。多数の光子を集める時間と、一つの間隔を同じ指数分布にしてはならない。

設問2 超新星の待ち時間の中央値

これは原題が仮定する、近傍で観測可能な超新星が50年に1回の一定率で独立に発生する模型についての計算である。ある星の寿命を予測したり、実際の現在までの観測記録から次の発生年を断定するものではない。1987年は原題の起点として用いる。

確率0.5は「次がまだ起きていない」と「既に起きた」の確率が等しくなる中央値を選ぶ。前問の平均待ち時間は50年だが、中央値は 50ln⁡2≃3550\ln2\simeq35 年である。指数分布が右に長い裾を持つため、平均より短いところで半数が発生し、残る少数の長い待ち時間が平均を引き上げる。

p(τ)=e−τ/50=1/2p(\tau)=e^{-\tau/50}=1/2 の対数を取ると −τ/50=−ln⁡2-\tau/50=-\ln2。二つの負号が打ち消されて正の経過時間となる。年の単位で率を表したため、秒への変換は不要。率と時間の単位が一致していれば、指数の積は同じ無次元量となる。

τ=34.65\tau=34.65 を戻すと e−0.693≃0.500e^{-0.693}\simeq0.500。50年後の2037年なら無発生確率は e−1≃0.368e^{-1}\simeq0.368 であり、指定の0.5ではない。また指数分布の記憶のなさにより、もしある時点まで無発生であれば、その時点からの待ち時間の分布は同じとなる。1987年からの中央値を一度求めたことが、以後の条件付き予測にも固定した締切となるわけではない。

Y=1987+50=2037Y=1987+50=2037 と答えると平均と中央値を混同する。τ=50/ln⁡2≃72\tau=50/\ln2\simeq72 とすると対数を取った後の掛算と割算を逆にしている。YY は 2021.652021.65 という年の数値を整数へ丸めた表示として2022とした。任意の整数の年の初めで確率が厳密に0.5になると主張していない。

設問3(a) 光子雑音と読出し雑音を合わせる

光子が一つずつ電子へ変わる量子効率1の指定により、入射率 mm と露光時間 tt の積が平均の電子数となる。ポアソン分布は平均と分散がともに mtmt。平均が十分大きい場合に限り、個数の離散分布を連続な正規分布で近似できる。小さい露光量では、負の電子数へも確率を置く正規近似の限界が目立つ。

読出し雑音は平均0で、露光を終えた後の計測に加わる別の変動とする。正規分布の再生性は独立性が条件であり、ここでは光子の到来と電子数の読み出しが独立な模型を使う。相関がある一般の場合は分散に 2Cov⁡(Xs,Xr)2\operatorname{Cov}(X_s,X_r) が加わるため、正規分布同士というだけでは答案の分散を結論できない。

期待値は常に和となり、E[Xm]=mt\mathbb E[X_m]=mt。独立な場合の分散は Var⁡(Xs+Xr)=Var⁡Xs+Var⁡Xr=mt+σr2\operatorname{Var}(X_s+X_r)=\operatorname{Var}X_s+\operatorname{Var}X_r=mt+\sigma_r^2。標準偏差はこの和の平方根で、標準偏差同士を直接足すのではない。正規分布の密度の前の係数にも同じ分散を使い、全体の積分を1にする。

σr→0\sigma_r\to0 では光子数だけの N(mt,mt)N(mt,mt) に戻り、読出し雑音が支配的なら幅はほぼ σr\sigma_r となる。平均 mtmt を中心にした変数 z=(Xm−mt)/mt+σr2z=(X_m-mt)/\sqrt{mt+\sigma_r^2} へ置けば、h(Xm)dXm=e−z2/2dz/2πh(X_m)dX_m=e^{-z^2/2}dz/\sqrt{2\pi}。変数変換から規格化を独立に確認できる。

分散を mt+σrmt+\sigma_r とすると、電子数の分散と標準偏差を混ぜる。例えば mt=1200,σr=20mt=1200,\sigma_r=20 なら、正しい分散1600で標準偏差40だが、誤式では1220、約35となる。また正規密度の分母を 2π(mt+σr2)\sqrt{2\pi}(mt+\sigma_r^2) とすると、標準偏差でなく分散で規格化して積分が1にならない。期待値、分散、標準偏差をそれぞれ区別する。

正規分布の和の再生性は、特性関数 φX(k)=E[eikX]\varphi_X(k)=\mathbb E[e^{ikX}] からも導ける。N(μ,V)N(\mu,V) では φX=eikμ−Vk2/2\varphi_X=e^{ik\mu-Vk^2/2}。独立な和の特性関数は積なので、平均の項と分散の項がそれぞれ指数で加わる。今回なら eikmt−mtk2/2e−σr2k2/2=eikmt−(mt+σr2)k2/2e^{ikmt-mtk^2/2}e^{-\sigma_r^2k^2/2}=e^{ikmt-(mt+\sigma_r^2)k^2/2} となる。独立でない場合に積へできないことが、共分散の条件を必要とする理由である。

設問3(b) 期待信号対雑音比を30へ上げる露光

測定値自身の信号対雑音比を Xm/mt+σr2X_m/\sqrt{mt+\sigma_r^2} と定義するなら、その期待値は E[Xm]/mt+σr2=mt/mt+σr2\mathbb E[X_m]/\sqrt{mt+\sigma_r^2}=mt/\sqrt{mt+\sigma_r^2} となる。分母は実現した測定値でなく、模型の分散の平方根を使っている。測定のたびに変わる比と、その期待値を区別した式である。

σr2=400\sigma_r^2=400 は、電子数の標準偏差20を2乗した値。両辺を2乗する操作の前に s≥0s\ge0 と目標30が正である条件を保つ。2次方程式には s=−300s=-300 も現れるが、負の露光量ではなく、元の正の比を満たさない解なので捨てる。

得られた値で、平均信号は1200電子、光子による分散1200と読出し分散400の和が1600。標準偏差は40で、1200/40=301200/40=30 と元の式をそのまま満たす。mt=1200≫1mt=1200\gg1 なので前問の正規近似を使う条件も整合する。

長い露光の mt≫σr2mt\gg\sigma_r^2 では比が mt\sqrt{mt} となり、2倍にするには4倍の時間が必要である。短い露光の mt≪σr2mt\ll\sigma_r^2 では比が mt/σrmt/\sigma_r と時間に比例する。今回の値は光子分散が読出しの3倍で、完全に読出しを無視してよい極限ではない。

読出しを落とすと 40t=30\sqrt{40t}=30 から t=22.5t=22.5 秒を得るが、実際に戻せば 900/1300≃25900/\sqrt{1300}\simeq25 で30に達しない。逆に光子雑音を落とすと 40t/20=3040t/20=30 から15秒だが、実際には 600/1000≃19600/\sqrt{1000}\simeq19 となる。二つの雑音源を足す対象は分散であり、必要な時間を独立に足す方法でもない。

設問4 一様乱数から近似正規の疑似測定値を作る

一様分布 U(0,1)U(0,1) の平均は ∫01q dq=1/2\int_0^1q\,dq=1/2、2次モーメントは1/3なので分散は 1/3−1/4=1/121/3-1/4=1/12。独立な jj 個の和 SjS_j は平均 j/2j/2、分散 j/12j/12 となる。平均を引いて標準偏差 j/12\sqrt{j/12} で割ると、ziz_i は jj によらず平均0、分散1を厳密に持つ。

中心極限定理は独立同分布で有限の分散を持つ変数の和を標準化すると、j→∞j\to\infty で標準正規分布へ分布収束する定理である。今回の一様乱数は条件を満たすので、十分大きい jj により形を正規へ近づけられる。平均と分散が合うことだけで、有限の jj で厳密な正規分布になるという意味ではない。

標準正規 zz から平均 μ\mu、分散 VV の正規変数を作るアフィン変換は w=μ+Vzw=\mu+\sqrt Vz。期待値は μ+VE[z]=μ\mu+\sqrt V\mathbb E[z]=\mu、分散は VVar⁡(z)=VV\operatorname{Var}(z)=V なので、μ=mt,V=mt+σr2\mu=mt,V=mt+\sigma_r^2 を代入する。V\sqrt V の正の平方根を使えば、元の密度の尺度に対応する。

有限の和は 0≤Sj≤j0\le S_j\le j なので、ziz_i の範囲も [−3j,3j][-\sqrt{3j},\sqrt{3j}] に限られる。正規分布には無限の裾があるため、特に極端な稀な値まで正確に再現するには、この近似の限界を考える必要がある。jj を増やす役割は形の近似、kk を増やす役割は標本数を増やすことで、二つを混同しない。

12/j\sqrt{12/j} でなく 1/j1/j を掛けると、分散が 1/(12j)1/(12j) となり、jj を増やすほど全ての値が平均へ潰れる。平均 j/2j/2 を引かなければ wiw_i の期待値に 3jV\sqrt{3jV} が余分に加わる。また同じ乱数の和を全ての ii へ使い回すと、同じ wiw_i ばかりになり独立な疑似観測データではない。各セットを独立に生成してから同じ線形変換を行う。

一様乱数の和の正規近似は、特性関数でも確認できる。中心化した q−1/2q-1/2 について φ(k)=∫01eik(q−1/2)dq=sin⁡(k/2)/(k/2)\varphi(k)=\int_0^1e^{ik(q-1/2)}dq=\sin(k/2)/(k/2)。標準化した zz の特性関数は φz(k)=[sin⁡(k12/j/2)k12/j/2]j. \varphi_z(k)=\left[\frac{\sin(k\sqrt{12/j}/2)}{k\sqrt{12/j}/2}\right]^j. ln⁡(sin⁡y/y)=−y2/6+O(y4)\ln(\sin y/y)=-y^2/6+O(y^4) を入れると ln⁡φz(k)=−k2/2+O(k4/j)\ln\varphi_z(k)=-k^2/2+O(k^4/j)、従って j→∞j\to\infty で e−k2/2e^{-k^2/2} という標準正規の特性関数へ近づく。有限の jj で平均と分散が既に合い、残る形の違いが 1/j1/j の次数で減る理由を、この展開からも説明できる。

光子の待ち時間と観測データの雑音の途中式・最終答をPDFで見る

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(解説4項目)

    正規分布・中心極限定理と待ち時間 / 球対称ポテンシャルと水素様イオン / 遅延ポテンシャルと加速電荷の放射

  • 2025年度(解説4項目)

    ベッセル方程式の級数解と母関数 / 等質量連星の軌道と重力波放射 / 二原子分子の振動・回転と遷移

  • 2024年度(解説4項目)

    ルジャンドル多項式と球面調和関数 / 二準位系・結晶欠陥・断熱消磁 / 単スリットと回折格子の干渉

  • 2023年度(このページ・解説4項目)

    実対称行列と特異値分解 / 一様媒質の電磁波と同軸ケーブル / 等質量連星の遠方重力場

  • 2022年度(解説4項目)

    直交変換と双曲的な座標変換 / 円制限三体問題とラグランジュ点 / 断熱変化・対流安定性・衝撃波

  • 2021年度(解説2項目)

    ブラックホールの光子軌道と影 / 複素屈折率と薄膜による反射防止

2023年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は数学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
数学数学実対称行列と特異値分解—あり
物理学1一様媒質の電磁波と同軸ケーブル—あり
物理学2等質量連星の遠方重力場—あり
天文学光子の待ち時間と観測データの雑音—あり

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 4問 → 2023年度 4問
2022年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2008〜2026年度
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
英語はTOEFL等の外部試験で評価。商品は公開された専門科目のみを扱い、英語は収録しない。
院試hubの最終確認
2026-10-20
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