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東大 理学系研究科 天文学専攻 専門科目(数学・物理学・天文学) 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は数学1項目です。解説はすべて、答案例は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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数学 — 直交変換と双曲的な座標変換

設問1(a) 全ての方向の距離を保つ条件

原点からの距離の2乗は、直交座標の内積 xTxx^{\mathsf T}x で与えられる。座標の列ベクトルを X=AX′X=AX' とすれば、変換後の2乗は X′TATAX′X'^{\mathsf T}A^{\mathsf T}AX'。これが全ての X′X' について X′TX′X'^{\mathsf T}X' に等しいという条件が、行列を直交行列とする条件である。

一つの点だけの距離が同じという条件では足りない。X′=(1,0)TX'=(1,0)^{\mathsf T} を選べば第1列の長さが1、(0,1)T(0,1)^{\mathsf T} なら第2列の長さが1となる。さらに (1,1)T(1,1)^{\mathsf T} などを選ぶことで交差項が0、すなわち列同士が直交することが必要となる。単位長だけで互いの角度を保証したことにはならない。

逆に答案の三つの式を満たすなら、展開した全ての係数が一致するので、任意の点で距離が保たれる。線形な変換は二点間の差も同じ AA で移すため、共通の原点からだけでなく、任意の二点間の距離も保つ。内積も X⋅Y=X′TATAY′=X′⋅Y′X\cdot Y=X'^{\mathsf T}A^{\mathsf T}AY'=X'\cdot Y' で保たれ、角度も変わらない。

行列式を取ると (det⁡A)2=1(\det A)^2=1、従って det⁡A=±1\det A=\pm1。+1+1 の回転と −1-1 の鏡映があり、距離の保存だけでは向きの反転を除けない。例えば A=diag⁡(1,−1)A=\operatorname{diag}(1,-1) は yy の符号を変えるが、距離を変えない。

列の内積の条件を落とすと A=(1100)A=\begin{pmatrix}1&1\\0&0\end{pmatrix} の二つの列も各単位長となるが、(1,1)(1,1) を (2,0)(2,0) へ写し、距離の2乗を2から4へ変える。また a2+b2=1a^2+b^2=1 だけを答えるのは一行の条件に過ぎない。行列式 det⁡A=1\det A=1 も面積の保存であって、例えば diag⁡(2,1/2)\operatorname{diag}(2,1/2) は面積を保ちながら長さを伸縮する。何を全ての方向で保つかを、二次形式の係数で判定する。

二点の距離から内積も復元できる。実ベクトルなら 2X⋅Y=∣X+Y∣2−∣X∣2−∣Y∣22X\cdot Y=|X+Y|^2-|X|^2-|Y|^2 であり、三つの長さが保たれれば右辺は不変となる。この恒等式は、長さの保存が角度の保存にもつながることを座標成分を使わずに示す。逆に直交性があれば逆行列は A−1=ATA^{-1}=A^{\mathsf T}。基底の各列が長さ1で互いに直交するから、転置を掛ける操作はその基底方向への射影に等しい。ここで逆と転置が一致する理由は、正の内積を保存しているためであり、後半の符号の異なる二次形式では同じ扱いができない。

設問1(b) 対角成分を指定した全ての行列

単位長の二条件から ∣b∣=∣c∣=∣sin⁡θ∣|b|=|c|=|\sin\theta| となるが、符号の対応は残る直交条件で決める。cos⁡θ≠0\cos\theta\ne0 なら b=cb=c。従って同符号の二つの枝が全てとなる。この場合の行列式は −cos⁡2θ−sin⁡2θ=−1-\cos^2\theta-\sin^2\theta=-1 であり、回転ではなく向きを反転する変換となる。

しかし cos⁡θ\cos\theta で割る操作は、その係数が0のときに許されない。指定の範囲では θ=π/2,3π/2\theta=\pi/2,3\pi/2 に当たり、a=d=0a=d=0、b,cb,c はそれぞれ独立に ±1\pm1 を取れる。4通りのうち同符号の2通りは既に A±A_\pm に含まれるが、異符号の2通りが追加される。後者の行列式は +1+1 で、直角の回転となる。

sin⁡θ=0\sin\theta=0 の θ=0,π\theta=0,\pi では b=c=0b=c=0 で二つの枝が重なり、それぞれ diag⁡(1,−1)\operatorname{diag}(1,-1)、diag⁡(−1,1)\operatorname{diag}(-1,1) の一つだけとなる。±\pm を付けた表示が常に二つの異なる行列を作るわけではないことも確認できる。

例えば θ=π/3\theta=\pi/3 なら a=1/2,d=−1/2a=1/2,d=-1/2、b=c=±3/2b=c=\pm\sqrt3/2。一方、θ=π/2\theta=\pi/2 では (01−10)\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix} を直接掛けると x=y′,y=−x′x=y',y=-x' で、x2+y2=x′2+y′2x^2+y^2=x'^2+y'^2 を満たす。b=cb=c だけを答えた場合に落とす具体例である。

最初から cos⁡θ(b−c)=0\cos\theta(b-c)=0 を b=cb=c と簡約すると、この例外を失う。逆に全ての θ\theta で b,cb,c の符号を独立に取ると、θ=π/3,b=−c=3/2\theta=\pi/3,b=-c=\sqrt3/2 では ab+cd=3/2≠0ab+cd=\sqrt3/2\ne0 となり直交しない。積が0という条件では、どちらの因子が0となるかを分けて全ての解を調べる。

解の数が変わる点を、連続な枝と区別して整理する。cos⁡θ≠0,sin⁡θ≠0\cos\theta\ne0,\sin\theta\ne0 なら2個、sin⁡θ=0\sin\theta=0 なら1個、cos⁡θ=0\cos\theta=0 なら4個となる。θ=π/2\theta=\pi/2 の直前・直後の鏡映型は、いくら近づけても異符号の直角回転へはならない。追加の解は、指定の対角成分が同時に0になる点だけで許される。係数に依存する行列の条件では、一般の値で解いた式の極限だけから特殊な値の解を全て拾えるとは限らない。係数行列の階数が下がる時を別に調べる、という連立方程式の原則の具体例である。

設問1(c) 鏡映の対称軸と例外の回転

対称軸に平行な成分は保ち、垂直な成分だけを反転するのが鏡映である。まず −α-\alpha の回転で対称軸を xx 軸へそろえ、yy 成分を反転してから +α+\alpha の回転で戻す。右から順に作用させた行列の積を計算すると、角度が2倍の余弦・正弦を持つ表示になる。

行列の成分が cos⁡θ,sin⁡θ\cos\theta,\sin\theta だから対称軸の角度も θ\theta とは限らない。θ=π/2\theta=\pi/2 の A+=(0110)A_+=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} は二つの成分を交換し、直線 y=xy=x、すなわち角度 π/4\pi/4 を軸とする。軸に沿う (1,1)(1,1) は不変、垂直な (1,−1)(1,-1) は負号が付く。

一般に A+A_+ の固有値 +1+1 の方向は (cos⁡(θ/2),sin⁡(θ/2))(\cos(\theta/2),\sin(\theta/2))、−1-1 の方向はそれに直交する。A−A_- では角度を −θ/2-\theta/2 とすれば同じ。対称軸は向きのない直線なので、角度へ π\pi を加えても同じ軸となる。

異符号の追加行列は R(−π/2)R(-\pi/2) と R(π/2)R(\pi/2) である。これらは実数の不変な軸を持たず、全ての非零ベクトルの方向を直角へ変える。行列式が +1+1 という前問の確認とも合う。一方、鏡映は行列を2回掛けると A±2=IA_\pm^2=I だが、直角回転は2回で −I-I。二つの変換の違いを、具体的な作用からも判定できる。

座標系を回す受動的な説明では、成分へ作用する回転と軸の回転の角度の符号が逆になる。原題の関係 X=AX′X=AX' に対する行列作用の向きを明示したため、ここではその成分の回転で答えた。全てを角度 θ\theta の回転と呼ぶと行列式 −1-1 の枝を説明できず、θ=0\theta=0 でも恒等でなく鏡映となる。特殊な角度で実際に点を移し、軸と回転方向を確認する。

複素数でも鏡映の角度を確かめられる。z′=x′+iy′z'=x'+iy' とし A+A_+ を作用させると、z=eiθz′‾z=e^{i\theta}\overline{z'}。入力の向きが φ\varphi なら出力の向きは θ−φ\theta-\varphi となり、その平均が θ/2\theta/2 で一定となる。これが鏡映の軸である。A−A_- なら z=e−iθz′‾z=e^{-i\theta}\overline{z'} で軸は −θ/2-\theta/2。共役が向きを反転し、位相因子が軸を傾ける。単なる回転なら eiθz′e^{i\theta}z' となって共役は入らず、入力と出力の角度の差が一定となる。この違いにより「平均が軸」「差が回転角」を取り違えずに済む。

設問2(a) 差の二次形式を保つ変換

前半で保ったのは x2+y2x^2+y^2 だが、ここでは x2−y2x^2-y^2 という符号の異なる二次形式である。一般にユークリッド距離は保たれず、直交行列の A−1=ATA^{-1}=A^{\mathsf T} を使えない。変換は双曲線 x2−y2=定数x^2-y^2=\text{定数} を保つ双曲的な回転に相当する。

x=ax′+by′=a(x′+βy′)x=ax'+by'=a(x'+\beta y') となるためには b=aβb=a\beta。a>0a>0 により a≠0a\ne0 なので同じ直線を表せる。交差項から c=a2β/dc=a^2\beta/d。さらに行列式は保存する二次形式の行列式から det⁡A=±1\det A=\pm1 であり、a,d>0a,d>0 と β<1\beta<1 の枝では a=d,b=ca=d, b=c を得る。直接 b2−d2=−1b^2-d^2=-1 と残りの式を代入しても同じ解となる。

具体的には a2−c2=1a^2-c^2=1 と ab=cdab=cd を使い、a2d2−c2d2=d2a^2d^2-c^2d^2=d^2、c2d2=a2b2c^2d^2=a^2b^2 なので a2(d2−b2)=d2a^2(d^2-b^2)=d^2。d2−b2=1d^2-b^2=1 より a2=d2a^2=d^2、正の指定から a=da=d。すると c=b=aβc=b=a\beta、a2(1−β2)=1a^2(1-\beta^2)=1 が得られる。

β→0\beta\to0 で γ→1\gamma\to1、A→IA\to I。また det⁡A=γ2(1−β2)=1\det A=\gamma^2(1-\beta^2)=1、A−1=γ(1−β−β1)A^{-1}=\gamma\begin{pmatrix}1&-\beta\\-\beta&1\end{pmatrix}。x′=y′x'=y' の零の二次形式を持つ方向は、変換後も x=yx=y に沿い、尺度だけが変わる。円でなく双曲線を保つことを具体的に検査できる。

γ=1/1+β2\gamma=1/\sqrt{1+\beta^2} とすると普通の回転の式に近いが、a2−c2a^2-c^2 が1にならない。b=−cb=-c とすると交差項 ab−cdab-cd が消えず、指定の yy 軸の傾きとも合わない。β<1\beta<1 は正の実数の γ\gamma を取るために必要であり、β→1\beta\to1 の発散を有限の直交回転のように扱わない。

双曲的な角度 ζ\zeta を β=tanh⁡ζ\beta=\tanh\zeta と定義すれば、γ=cosh⁡ζ\gamma=\cosh\zeta, γβ=sinh⁡ζ\gamma\beta=\sinh\zeta である。恒等式 cosh⁡2ζ−sinh⁡2ζ=1\cosh^2\zeta-\sinh^2\zeta=1 が二次形式の保存を表す。同じ向きの変換を二つ重ねると ζ\zeta は加算され、β12=(β1+β2)/(1+β1β2)\beta_{12}=(\beta_1+\beta_2)/(1+\beta_1\beta_2) となる。例えば両方 3/53/5 なら合成は 15/17<115/17<1。普通に β1+β2=6/5\beta_1+\beta_2=6/5 と加算すれば、実数の γ\gamma が得られない。行列を掛けて得る合成則にも、保存する幾何の違いが現れる。

設問2(b) 元の縦方向のベクトルを新座標で表す

同じベクトルを二つの座標で表しているので、座標成分の変換は点の座標と同じ線形関係に従う。原題の X=AX′X=AX' は新しい成分から元の成分へ戻す向きの式である。元の成分を与えられて新しいものを求める本問では、AA でなく A−1A^{-1} が必要となる。

前問の逆行列を直接掛ければ、x′x' 成分は −γβm-\gamma\beta m、y′y' 成分は γm\gamma m。m≠0m\ne0 なら比は mx′/my′=−βm_x'/m_y'=-\beta で、mx′+βmy′=0m_x'+\beta m_y'=0 を満たす。これは原題が指定した元の yy 軸の方程式に、ベクトルの向きが確かに乗っていることを示す。

保たれる二次形式も確認できる。 (mx′)2−(my′)2=γ2(β2−1)m2=−m2=mx2−my2. (m_x')^2-(m_y')^2=\gamma^2(\beta^2-1)m^2=-m^2 =m_x^2-m_y^2. 一方、普通の長さの2乗は γ2(1+β2)m2\gamma^2(1+\beta^2)m^2 となり、m2m^2 と等しくない。前半の直交変換のように長さを保つはずだと考えて規格化を変更しない。

例えば β=3/5\beta=3/5 なら γ=5/4\gamma=5/4 で、成分は (−3m/4,5m/4)(-3m/4,5m/4)。差の2乗は (9−25)m2/16=−m2(9-25)m^2/16=-m^2。これを AA へ掛けて戻すと第1成分は (−15+15)m/16=0(-15+15)m/16=0、第2成分は (−9+25)m/16=m(-9+25)m/16=m となり、元の成分を再現する。

AA をそのまま掛けると x′x' の符号が正となり、x′+βy′=0x'+\beta y'=0 に代入して 2γβm2\gamma\beta m が残る。転置を逆行列と同一視しても、今回の AA は対称なので同じ誤りとなる。保存する計量が η\eta であるため A−1=ηATηA^{-1}=\eta A^{\mathsf T}\eta であって、単なる転置ではない。変換の向きと保存量を二つとも使って確かめる。

成分の意味を基底からも確認する。新しい基底を元の座標で並べたものが AA の列、すなわち ex′=γ(1,β)e'_x=\gamma(1,\beta)、ey′=γ(β,1)e'_y=\gamma(\beta,1)。従ってベクトル (0,m)(0,m) を mx′ex′+my′ey′m'_xe'_x+m'_ye'_y と分解する係数は答案の値となる。実際に (−γβm)γ(1,β)+(γm)γ(β,1)=(0,m)(-\gamma\beta m)\gamma(1,\beta)+(\gamma m)\gamma(\beta,1)=(0,m)。普通の垂直投影で係数を取ると、これらの基底がユークリッド内積では直交していないことを見落とす。斜めの基底の係数は逆行列で求めるという、一般の基底変換の例にもなっている。

設問2(c) ベクトルに作用する行列の変換

行列 TT は、入力ベクトルを別の出力ベクトルへ写す線形作用として定義されている。座標を変えても、同じ入力と同じ出力を表さなければならない。入力を新座標から元の座標へ移す AA と、出力を同じように移す AA が両側に現れ、その向きを整理すると相似変換となる。

操作を右から読むと、元の成分 v\boldsymbol v へまず A−1A^{-1} を掛けて新しい成分へ直す。そこへ新座標で定義された T′T' を作用させ、最後に AA で出力を元の座標へ戻す。この三段階をまとめた作用が AT′A−1AT'A^{-1}。ベクトルへ実際に作用させれば、行列の積の順序を記憶に頼らず導ける。

T′T' が恒等行列なら T=AA−1=IT=AA^{-1}=I。また跡と行列式は tr⁡(AT′A−1)=tr⁡T′\operatorname{tr}(AT'A^{-1})=\operatorname{tr}T'、det⁡(AT′A−1)=det⁡T′\det(AT'A^{-1})=\det T' で保たれる。固有値も同じで、T′v′=λv′T'v'=\lambda v' を AA で移すと T(Av′)=λAv′T(Av')=\lambda Av' となる。

二つの上付き成分などを持つ二階テンソルの座標変換 AT′ATAT'A^{\mathsf T} と、この線形作用の相似変換は異なる。原題は「TvT\boldsymbol v もベクトル」と指定しているため、入力側と出力側の変換が逆となる混合型の作用として扱う。普通の直交変換では逆と転置が同じで差が隠れるが、本問の双曲的変換では隠れない。

T=AT′ATT=AT'A^{\mathsf T} とすると、T′=IT'=I の場合でも AAT=A2≠IAA^{\mathsf T}=A^2\ne I となり、恒等作用が座標変更だけで別の作用へ変わる。T=A−1T′AT=A^{-1}T'A は変換の向きを逆にした式である。原題の X=AX′X=AX' を最後まで使い、入力と出力の成分の関係から導く。

別の確認として、行列の固有方向の変換を追う。T′v′=λv′T'v'=\lambda v' なら、v=Av′v=Av' に対して Tv=AT′v′=λAv′Tv=AT'v'=\lambda Av'。固有値の尺度は同じで、固有方向だけが座標に応じて変わる。このことは特性多項式でも det⁡(T−λI)=det⁡[A(T′−λI)A−1]=det⁡(T′−λI)\det(T-\lambda I)=\det[A(T'-\lambda I)A^{-1}]=\det(T'-\lambda I) と示せる。相似変換が保存するのはこの線形作用の性質であり、成分の対称性やユークリッド的な長さではない。例えば正の固有値が二つあっても、非対称な成分の式を見ただけで普通の対称行列の正定値判定を適用しない。

設問2(d) 対角作用を相似変換する

左二つを掛けた段階は (pβϵβpϵ)\begin{pmatrix}p&\beta\epsilon\\\beta p&\epsilon\end{pmatrix} となる。行列の右から対角行列を掛けると各列が伸縮するので、右上には βp\beta p でなく βϵ\beta\epsilon が入る。最後の逆行列は非対角の符号が負となり、右上と左下が互いに反対の符号になる。

β=0\beta=0 では元の対角行列へ戻る。p=ϵp=\epsilon の場合は T′=pIT'=pI であり、どの座標でも T=pIT=pI。答案でも非対角が0、対角は (1−β2)p/(1−β2)=p(1-\beta^2)p/(1-\beta^2)=p となる。この二つは積の順序と符号の検算に使える。

跡も [p−β2ϵ+ϵ−β2p]/(1−β2)=p+ϵ[p-\beta^2\epsilon+\epsilon-\beta^2p]/(1-\beta^2)=p+\epsilon。行列式は pϵp\epsilon で、元の固有値が保存される。p,ϵp,\epsilon は行列の二つの固有方向の倍率として変わらず、成分の混合だけが起きている。

元が対角で対称でも、今回の TT は普通の転置について一般に対称ではない。座標変換はユークリッド的な直交変換でなく、x2−y2x^2-y^2 を保つ変換だからである。対称でない成分を見て計算を修正するのでなく、前問の作用の変換則を満たすかを検査する。

AT′ATAT'A^{\mathsf T} を計算すると対角が p+β2ϵ,ϵ+β2pp+\beta^2\epsilon,\epsilon+\beta^2p、非対角が β(p+ϵ)\beta(p+\epsilon) の対称行列となる。例えば p=ϵ=1,β=3/5p=\epsilon=1,\beta=3/5 では正しい答えは II だが、その誤式は (17/815/815/817/8)\begin{pmatrix}17/8&15/8\\15/8&17/8\end{pmatrix} となり、跡さえ2でない。行列の種類に応じた変換則を使うことが、物理量の成分を扱う際にも必要となる。

小さい β\beta で展開すると、A=I+βK+O(β2)A=I+\beta K+O(\beta^2)、K=(0110)K=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} なので T=T′+β(KT′−T′K)+O(β2)T=T'+\beta(KT'-T'K)+O(\beta^2)。一次の非対角は β(ϵ−p)\beta(\epsilon-p) とその負号になり、答案と一致する。これは積の順序を交換した誤りを検出する方法でもある。例えば p=2,ϵ=1p=2,\epsilon=1 なら右上は負、左下は正の混合が生じる。跡と行列式が保たれるので特性方程式は (λ−p)(λ−ϵ)=0(\lambda-p)(\lambda-\epsilon)=0 のまま。二つの成分を混ぜる座標変更が、元の作用の固有値を変えてしまうわけではない。

解答

設問1(a) 全ての方向の距離を保つ条件

x=ax′+by′,y=cx′+dy′x=ax'+by',y=cx'+dy' を x2+y2=x′2+y′2x^2+y^2=x'^2+y'^2 へ代入し、任意の x′,y′x',y' の係数を比較する。 (a2+c2)x′2+2(ab+cd)x′y′+(b2+d2)y′2=x′2+y′2. (a^2+c^2)x'^2+2(ab+cd)x'y'+(b^2+d^2)y'^2=x'^2+y'^2. 従って必要十分条件は

設問1(b) 対角成分を指定した全ての行列

a=cos⁡θ,d=−cos⁡θa=\cos\theta,d=-\cos\theta とすると b2=c2=sin⁡2θb^2=c^2=\sin^2\theta、cos⁡θ(b−c)=0\cos\theta(b-c)=0。従って全ての θ\theta で鏡映型 A±(θ)=(cos⁡θ±sin⁡θ±sin⁡θ−cos⁡θ) A_\pm(\theta)=\begin{pmatrix}\cos\theta&\pm\sin\theta\\\pm\sin\theta&-\cos\theta\end{pmatrix} が得られる。さらに cos⁡θ=0\cos\theta=0 のときは異符号の b,cb,c も許されるので

設問1(c) 鏡映の対称軸と例外の回転

角度 α\alpha の直線を対称軸とする鏡映は S(α)=R(α)(100−1)R(−α)=(cos⁡2αsin⁡2αsin⁡2α−cos⁡2α). S(\alpha)=R(\alpha)\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}R(-\alpha) =\begin{pmatrix}\cos2\alpha&\sin2\alpha\\\sin2\alpha&-\cos2\alpha\end{pmatrix}. 従って

角度は成分を写す能動的な行列作用として述べた。

設問2(a) 差の二次形式を保つ変換

η=diag⁡(1,−1)\eta=\operatorname{diag}(1,-1) と置く。ATηA=ηA^{\mathsf T}\eta A=\eta から a2−c2=1,b2−d2=−1,ab−cd=0. a^2-c^2=1,\qquad b^2-d^2=-1,\qquad ab-cd=0. x=0x=0 の直線が x′+βy′=0x'+\beta y'=0 と等しいことから b=aβb=a\beta。a,d>0a,d>0 と 0<β<10<\beta<1 を使って解くと

設問2(b) 元の縦方向のベクトルを新座標で表す

成分の関係は m=Am′\boldsymbol m=A\boldsymbol m' なので、与えられた m=(0,m)T\boldsymbol m=(0,m)^{\mathsf T} へ逆行列を掛ける。

設問2(c) ベクトルに作用する行列の変換

w=Tv\boldsymbol w=T\boldsymbol v、新座標で w′=T′v′\boldsymbol w'=T'\boldsymbol v' と置く。同じベクトルの成分が v=Av′\boldsymbol v=A\boldsymbol v'、w=Aw′\boldsymbol w=A\boldsymbol w' と変わるので TAv′=AT′v′ T A\boldsymbol v'=A T'\boldsymbol v' が任意の v′\boldsymbol v' で成り立つ。従って TA=AT′TA=AT' となり

設問2(d) 対角作用を相似変換する

T′=diag⁡(p,ϵ)T'=\operatorname{diag}(p,\epsilon) を前問へ入れる。 T=γ2(1ββ1)(p00ϵ)(1−β−β1). T=\gamma^2\begin{pmatrix}1&\beta\\\beta&1\end{pmatrix} \begin{pmatrix}p&0\\0&\epsilon\end{pmatrix} \begin{pmatrix}1&-\beta\\-\beta&1\end{pmatrix}. 掛け合わせて

答案例

a2+c2=1,b2+d2=1,ab+cd=0a^2+c^2=1,\quad b^2+d^2=1,\quad ab+cd=0、すなわち ATA=IA^{\mathsf T}A=I。

A=A±(θ)A=A_\pm(\theta)、および θ=π/2,3π/2\theta=\pi/2,3\pi/2 の場合には追加で (01−10), (0−110)\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}。

A±(θ)A_\pm(\theta) は角度 ±θ/2\pm\theta/2 の直線を軸とする鏡映。 追加の二行列は、それぞれ −π/2,+π/2-\pi/2,+\pi/2 の回転。

a=d=γ,b=c=γβ,γ=11−β2a=d=\gamma,\qquad b=c=\gamma\beta,\qquad\gamma=\dfrac1{\sqrt{1-\beta^2}}

m′=A−1m=11−β2(−βmm)\displaystyle\boldsymbol m'=A^{-1}\boldsymbol m =\frac1{\sqrt{1-\beta^2}}\begin{pmatrix}-\beta m\\m\end{pmatrix}

T=AT′A−1T=AT'A^{-1}

T=11−β2(p−β2ϵβ(ϵ−p)β(p−ϵ)ϵ−β2p)\displaystyle T=\frac1{1-\beta^2} \begin{pmatrix}p-\beta^2\epsilon&\beta(\epsilon-p)\\ \beta(p-\epsilon)&\epsilon-\beta^2p\end{pmatrix}

物理学1 — 円制限三体問題とラグランジュ点

設問1 慣性系で二つの引力を加える

質点 ii による万有引力の大きさは Gmim3/ri2Gm_im_3/r_i^2、向きは m3m_3 から質点 ii へ向かう。r′−ri′\boldsymbol r'-\boldsymbol r_i' は逆向きで長さ rir_i なので、それを rir_i で割った単位ベクトルと負号を掛けると、ベクトルの式では分母が ri3r_i^3 となる。力を二つ加え、m3m_3 で割って加速度を求めた。

加速度に m3m_3 が残らないのは、引力にも慣性の項にも同じ試験質量が掛かるためである。m3≪m1,m2m_3\ll m_1,m_2 は、m3m_3 が動いても大きい二体の円運動を変えない「制限」問題として扱う条件であり、m3m_3 に働く引力を無視する条件ではない。

慣性系ではニュートンの運動方程式をそのまま使い、遠心力やコリオリ力をまだ加えない。二つの大きい質点の位置は時間とともに回るため、この式には明示的または位置を通じた時間依存がある。後の回転系の変換は、この時間変化を大きい二体が静止して見える形へ移すために行う。

一つの質点だけを原点に置けば r¨′=−Gmr′/r3\ddot{\boldsymbol r}'=-Gm\boldsymbol r'/r^3 となる。x′>0,y′=0x'>0,y'=0 なら加速度の x′x' 成分が負となり、引力の向きと一致する。二つの質量を等しく、ちょうど中点へ m3m_3 を置けば二つの引力が相殺する。ただしその点の安定性までは力の相殺だけで決まらない。

分母を ri2r_i^2 のまま位置ベクトルへ掛けると、長さを一つ余分に掛けて加速度の次元にならない。また rir_i は原点からの距離でなく、各質点との距離である。二体からの力をスカラーとして単に足すと、中点でも同じ向きに加算することになり、向きの情報を失う。距離と変位ベクトルを分けて定義してから重ね合わせる。

別の導出として、単位質量当たりの重力ポテンシャルを Φ=−Gm1/r1−Gm2/r2\Phi=-Gm_1/r_1-Gm_2/r_2 と定義できる。∇(1/∣r−ri∣)=−(r−ri)/∣r−ri∣3\nabla(1/|r-r_i|)=-(r-r_i)/|r-r_i|^3 なので、加速度 −∇Φ-\nabla\Phi が答案と一致する。ここで勾配を取るのは試験粒子の位置で、動く二天体の位置はその瞬間の値へ固定する。二つのポテンシャルを先に足してから微分しても、それぞれの力を足しても同じである。遠方 ∣r3′∣≫a|r'_3|\gg a では先頭の項は Φ≃−GM/∣r3′∣\Phi\simeq-GM/|r'_3| となり、総質量を一つの中心へ置いた場へ近づく。

設問2 二体の公転角速度

二つの質点は互いを中心に別々の円を描くのではなく、共通の重心を同じ角速度で回る。重心条件は m1a1=m2a2m_1a_1=m_2a_2、二体間距離は a1+a2=aa_1+a_2=a。この二式から質量が大きい側ほど重心に近い半径を持つ。

質点1へ働く相手の引力は Gm1m2/a2Gm_1m_2/a^2。円運動の向心力 m1n2a1m_1n^2a_1 と等置し、m1m_1 を消去すると答案に使った式となる。a1=m2a/Ma_1=m_2a/M を入れれば m2m_2 も消え、角速度に総質量 MM が現れる。質点2の式 n2a2=Gm1/a2n^2a_2=Gm_1/a^2 からも同じ値を得る。

相対位置 s=r2′−r1′\boldsymbol s=\boldsymbol r_2'-\boldsymbol r_1' を使う方法では、二体の加速度の差から s¨=−GMs/a3\ddot{\boldsymbol s}=-GM\boldsymbol s/a^3。円運動の s¨=−n2s\ddot{\boldsymbol s}=-n^2\boldsymbol s と比べれば n2=GM/a3n^2=GM/a^3。重心の運動と相対運動を分けることで、同じ結果を別の座標からも導ける。

m2≪m1m_2\ll m_1 なら重い天体がほぼ原点に静止し、n2≃Gm1/a3n^2\simeq Gm_1/a^3 と通常の惑星の円運動へ戻る。等質量なら各半径が a/2a/2 で、n2=2Gm1/a3n^2=2Gm_1/a^3。距離 aa を2倍にすると角速度は 2−3/22^{-3/2} 倍、周期は 23/22^{3/2} 倍となり、ケプラーの周期と距離の関係とも一致する。

向心加速度の半径に二体間距離 aa をそのまま入れると、質点1では n2=Gm2/a3n^2=Gm_2/a^3 として総質量を失う。等質量の例なら角速度の2乗を半分にする。また nn は角速度で単位は逆時間、通常の公転周波数は n/(2π)n/(2\pi)、周期は 2π/n2\pi/n。後の回転行列の角度には ntnt を使い、通常の周波数と取り違えない。

二体全体の角運動量も求めると、L=m1n(μa)2+m2n[(1−μ)a]2=mrna2L=m_1n(\mu a)^2+m_2n[(1-\mu)a]^2=m_{\mathrm r}na^2。ここで mr=m1m2/Mm_{\mathrm r}=m_1m_2/M は換算質量である。運動エネルギーは K=mrn2a2/2=Gm1m2/(2a)K=m_{\mathrm r}n^2a^2/2=Gm_1m_2/(2a) となり、位置エネルギー −Gm1m2/a-Gm_1m_2/a の絶対値の半分。合計が負になるので、二体が重力で束縛された円軌道であることも確認できる。片方を不動と仮定する式と比べる時は、中心力を受ける相対運動に換算質量と総質量のどちらが現れるかを、元の二体の運動から追う。

設問3 回転系から慣性系への座標

回転系の基底を慣性系の成分で表すと、xx 軸の単位ベクトルは (cos⁡nt,sin⁡nt)(\cos nt,\sin nt)、yy 軸は (−sin⁡nt,cos⁡nt)(-\sin nt,\cos nt)。位置はこの二本の基底に x,yx,y を掛けて足したものなので、それぞれを列に並べた行列が R(nt)R(nt) となる。位置ベクトルそのものが異なるのではなく、同じ点の成分が異なる。

原題は軸が二体を結ぶ方向へ固定されると指定する。ここでは xx の正方向を質点1から質点2へ、n>0n>0 を反時計回りに取る。重心原点の平行移動は不要で、時刻0の軸の初期角を0とする規約を選んだ。別の初期角なら ntnt へその定数を足せばよく、後の回転系の局所方程式は同じとなる。

回転系で静止した点 (x,y)=(a∗,0)(x,y)=(a_*,0) を考えると、慣性系では (a∗cos⁡nt,a∗sin⁡nt)(a_*\cos nt,a_*\sin nt)。一定の半径を持つ円運動として見える。nt=π/2nt=\pi/2 では元の正の xx 軸が慣性系の正の y′y' 軸へ移り、行列の正弦の符号を確かめられる。

RTR=IR^{\mathsf T}R=I、det⁡R=1\det R=1 なので、両座標系の位置の距離と二点間距離は同じ。rir_i を回転系で求めても、慣性系での二体との距離と等しい。そのため重力項は、回転しても同じ距離の3乗を分母にして表せる。

R(−nt)R(-nt) をこの向きの式へ使うと、回転系の静止点が指定と逆向きに動く。速度の変換も単に r˙′=Rr˙\dot{\boldsymbol r}'=R\dot{\boldsymbol r} ではない。基底 RR 自身が時間に依存しているため、その微分が必要となり、次問の見かけの力を生む。座標変換が長さを保つことと、加速度が同じ成分で表せることは別である。

RTR=IR^{\mathsf T}R=I なので回転の時刻によらず ∣r′∣=∣r∣|r'|=|r|。ただし時刻を微分する時は基底自体が変わる。速度は r˙′=R(r˙+nJr)\dot r'=R(\dot r+nJr) であり、回転座標で静止していても慣性系では RnJrR nJr という速度を持つ。例えば r=(a,0)r=(a,0) が一定なら r′=(acos⁡nt,asin⁡nt)r'=(a\cos nt,a\sin nt) となる。回転座標の成分を単純に同じ物理的な速度成分と呼ぶと、この円運動の速さ nana が消えてしまう。座標の値と、動く基底に対する時間変化を分けて追う。

設問4 時間に依存する基底を2回微分する

r′=Rr\boldsymbol r'=R\boldsymbol r の時間微分は r˙′=R˙r+Rr˙\dot{\boldsymbol r}'=\dot R\boldsymbol r+R\dot{\boldsymbol r}。さらに微分すると R¨r+2R˙r˙+Rr¨\ddot R\boldsymbol r+2\dot R\dot{\boldsymbol r}+R\ddot{\boldsymbol r} となる。二つの交差項が同じため係数2が生じ、nn 一定より R¨=−n2R\ddot R=-n^2R。この三つの項を共通の RR でくくったのが答案である。

JJ は平面のベクトルを正方向へ90度回す演算子で、J(x,y)T=(−y,x)TJ(x,y)^{\mathsf T}=(-y,x)^{\mathsf T}。従って 2nJr˙=(−2ny˙,2nx˙)2nJ\dot{\boldsymbol r}=(-2n\dot y,2n\dot x) となる。慣性系の加速度から回転系の加速度を解くと、逆側へ移ったこの項がコリオリ加速度、+n2r+n^2\boldsymbol r が遠心加速度となる。

回転系で完全に静止なら r˙=r¨=0\dot{\boldsymbol r}=\ddot{\boldsymbol r}=0 だが、慣性系の加速度は −n2Rr-n^2R\boldsymbol r で0ではない。円運動の中心へ向く加速度を正しく与えている。反対に原点に静止した点では全ての項が0となり、両座標系で同じ点に留まる。

速度の交差項の2を落とす誤りは、積の微分の片側だけを数えることで起こる。例えば回転系で r=(ut,0)\boldsymbol r=(ut,0) と外へ動く点は、x′=utcos⁡nt,y′=utsin⁡ntx'=ut\cos nt,y'=ut\sin nt。t=0t=0 で直接2回微分すると y¨′=2nu\ddot y'=2nu となり、答案の交差項の +2nx˙+2n\dot x と一致する。nunu だけなら半分となる。

−n2r-n^2\boldsymbol r を +n2r+n^2\boldsymbol r として慣性加速度を計算すると、回転系の静止点が外向きに加速すると誤る。遠心力が外向きなのは、慣性系の式を回転系の加速度について解いて右側へ移した後の表現である。導出の段階と、力として整理する段階の符号を分けて追う。

複素座標 z=x+iyz=x+iy を使えば z′=eintzz'=e^{int}z。二度微分して z¨′=eint(z¨+2inz˙−n2z)\ddot z'=e^{int}(\ddot z+2in\dot z-n^2z) となり、実部・虚部が答案の二成分を再現する。ii 倍は左へ直角の作用なので、2inz˙2in\dot z から xx 成分 −2ny˙-2n\dot y、yy 成分 2nx˙2n\dot x が出る。原題の回転方向を逆にすればこの二項だけの符号が変わり、遠心の −n2z-n^2z は変わらない。コリオリ項は回転の向きに奇、遠心項は偶という性質でも符号を検査できる。

設問5 時間を含まない回転系の運動方程式

重心条件 m1x1+m2x2=0m_1x_1+m_2x_2=0 と距離 x2−x1=ax_2-x_1=a から、固定した二体の座標が得られる。μ\mu は無次元の質量比で 0<μ<10<\mu<1。位置の原点を重心へ保つことが、遠心加速度 n2(x,y)n^2(x,y) をこの単純な形にする。

慣性系の差ベクトルは r′−ri′=R(r−ri)\boldsymbol r'-\boldsymbol r_i'=R(\boldsymbol r-\boldsymbol r_i)。回転は長さを保つので距離 rir_i は同じとなり、重力のベクトルも共通の RR をくくれる。加速度の左側と同じ RR が現れるため、逆行列を掛けて全体から消せる。その結果、円運動する二体の位置に含まれていた明示的な時刻がなくなる。

右辺の n2x,n2yn^2x,n^2y は遠心加速度、左辺へ残した速度の交差項はコリオリの効果である。xx の式を x¨\ddot x について解くとコリオリ項は +2ny˙+2n\dot y、yy の式では −2nx˙-2n\dot x。回転方向と速度から右ねじで向きを考える場合も、この規約と対応させる。

μ=1/2\mu=1/2 の等質量なら二体は x=±a/2x=\pm a/2。原点の静止点では重力が左右で打ち消し、遠心項も0となる。一方、一般の異質量の原点では二つの引力は必ずしも釣り合わない。重心であることだけから試験粒子の平衡点と決めることはできない。

r1r_1 に x−μax-\mu a とすると、質点1を原点の右へ移してしまい、重心条件に合わない。また回転系へ移った後に二体の座標へさらに cos⁡nt,sin⁡nt\cos nt,\sin nt を残すと、同じ回転を二重に含める。n2=GM/a3n^2=GM/a^3 と距離の定義を用い、二体が固定した位置にあることを確認する。

コリオリの見かけの加速度は −2nJr˙-2nJ\dot r で、速度と常に垂直。従って r˙⋅(−2nJr˙)=0\dot r\cdot(-2nJ\dot r)=0 であり、直接の仕事をしない。一方、遠心力と重力の和は ∇Ω\nabla\Omega という勾配にまとめられる。運動方程式を r¨+2nJr˙=∇Ω\ddot r+2nJ\dot r=\nabla\Omega と書いて速度と内積を取ると、d(r˙2/2)/dt=dΩ/dtd(\dot r^2/2)/dt=d\Omega/dt。回転系でエネルギーに対応する保存量が存在することが、成分方程式の別の検査となる。符号のどちらかを誤ると、次の設問で使う有効ポテンシャルと整合しなくなる。

設問6 回転系の平衡と有効ポテンシャル

ラグランジュ点は、試験粒子が大きい二体と同じ角速度で回り、回転系で同じ位置に留まる点である。慣性系で速度や加速度が0という意味ではない。円運動に必要な向心加速度を、二体からの重力がちょうど与える位置となる。

速度が0なのでコリオリ項は消え、遠心項と重力項の釣合いが残る。Ω\Omega は普通のポテンシャルエネルギーと符号の規約が逆で、運動方程式が x¨−2ny˙=∂xΩ\ddot x-2n\dot y=\partial_x\Omega、y¨+2nx˙=∂yΩ\ddot y+2n\dot x=\partial_y\Omega となるように定義した。有効な位置エネルギーは単位質量で −Ω-\Omega と読める。

この系にはヤコビ積分 CJ=2Ω−(x˙2+y˙2)C_J=2\Omega-(\dot x^2+\dot y^2) がある。二つの運動方程式へそれぞれ x˙,y˙\dot x,\dot y を掛けて足すと、交差項 −2nx˙y˙+2ny˙x˙-2n\dot x\dot y+2n\dot y\dot x が消え、d[(x˙2+y˙2)/2]/dt=dΩ/dtd[(\dot x^2+\dot y^2)/2]/dt=d\Omega/dt。従って dCJ/dt=0dC_J/dt=0 となる。コリオリ力は速度へ垂直で仕事をしないことの具体的な表現である。

Ω\Omega の停留点が存在することと、その近くの運動が安定なことは別である。位置を少しずらした際の変化には二階微分とコリオリの結合が効く。単に有効ポテンシャルの値が一定だから安定とすることはできない。原題のこの設問では静止するための条件だけを求めている。

x¨=y¨=0\ddot x=\ddot y=0 だけを置き速度を残すと、回転系を等速で動く点まで含めてしまう。また慣性系で二体の引力だけが0となる点を探すと、遠心項を落とし別の位置を求める。静止という条件を回転系で定義し、その系の運動方程式に適用する。

一次近似を行う時は r=r0+δrr=r_0+\delta r と置き、∇Ω(r0)=0\nabla\Omega(r_0)=0 のため定数項が消える。残るのは δr¨+2nJδr˙=HΩ(r0)δr\delta\ddot r+2nJ\delta\dot r=H_\Omega(r_0)\delta r。δr=ueλt\delta r=u e^{\lambda t} を代入すれば、[λ2I+2nλJ−HΩ]u=0[\lambda^2I+2n\lambda J-H_\Omega]u=0 であり、行列式0から λ\lambda を求める。正の実部を持つ λ\lambda があれば、変位が時間とともに増大する。元の平衡条件に速度を足して判定するのではなく、その周りの線形化した微分方程式を解く必要がある。この設問自体は位置の条件までだが、安定性へ進む際の手順もこの式で区別できる。

設問7 軸上にない二つの平衡点

軸上にない条件により第2式を yy で割れる。重力の係数の和が n2n^2 と分かった後で第1式を整理すると、xx を含む項が消え、二体との距離の比だけが残る。等質量だから距離が等しいと仮定したのではなく、異質量でも重心条件の係数が相殺して同じ距離となる。

共通の距離を r∗r_* とすれば n2=G(m1+m2)/r∗3n^2=G(m_1+m_2)/r_*^3。二体の公転の関係との比較で r∗=ar_*=a。二体間距離も aa なので三辺が等しい正三角形になる。r1=r2r_1=r_2 だけでは二体を結ぶ線分の垂直二等分線しか決まらず、さらに距離の値を用いる必要がある。

底辺の中点は (x1+x2)/2=(1/2−μ)a(x_1+x_2)/2=(1/2-\mu)a。正三角形の高さはピタゴラスの定理から a2−(a/2)2=3a/2\sqrt{a^2-(a/2)^2}=\sqrt3a/2。重心原点は、一般には底辺の中点ではないため xx 成分に質量差が残る。等質量なら μ=1/2\mu=1/2 で x=0x=0、二つの点が上下に対称に並ぶ。

座標を無次元化した独自の配置図で、底辺中点と重心Oの違いを示す。例は μ=0.2\mu=0.2 で、L4,L5L_4,L_5 の存在を表すもので安定性の図ではない。

円制限三体問題の三角ラグランジュ点L4とL5。重心と底辺の中点の違いを示す。

x=0x=0 を全質量比で答えると重心と幾何学的な中点を混同する。また距離を r1=r2=a/2r_1=r_2=a/2 とすると、二体から同時にその距離にある点は底辺中点だけとなり y≠0y\ne0 と両立しない。得られた座標を各距離の2乗へ戻せば、a2/4+3a2/4=a2a^2/4+3a^2/4=a^2 となり検算できる。

重心の位置に応じて三角形の頂点が横へずれる点も確認する。等質量なら μ=1/2\mu=1/2 で x=0x=0、二つの頂点は重心の真上・真下に並ぶ。m2≪m1m_2\ll m_1 なら μ→0\mu\to0 で x→a/2x\to a/2、重い第1天体を原点付近に置いた正三角形になる。どの質量比でも、二つの天体を結ぶ辺の中点は (1/2−μ)a(1/2-\mu)a なので、その垂直二等分線上という幾何と一致する。x=a/2x=a/2 と常に答えると、原点を第1天体に置いた座標と質量中心に置いた座標を混同し、等質量の場合にも x=0x=0 を満たさない。

円制限三体問題とラグランジュ点の途中式・最終答をPDFで見る

物理学2 — 断熱変化・対流安定性・衝撃波

設問1(a) 定圧と定積の熱容量の差

定積熱容量 CVC_V は体積を固定して温度を1だけ上げるための熱、定圧熱容量 CpC_p は圧力を固定した場合の熱で、原題では1モル当たりの値である。理想気体の内部エネルギーは温度だけに依存するため、定積で定義した CV=dU/dTC_V=dU/dT を、別の体積変化を伴う過程の内部エネルギーにも使える。

熱力学第一法則は、系が外へする仕事を p dVp\,dV とする規約で δQ=dU+p dV\delta Q=dU+p\,dV。定積なら仕事0で、受け取った熱がそのまま内部エネルギーを増す。定圧で加熱すると膨張するため、内部エネルギーの増加のほかに外へする仕事の熱も必要になる。その差が1モルにつき R dTR\,dT である。

エンタルピー H=U+pVH=U+pV を使うと、定圧で dH=dU+p dV=δQpdH=dU+p\,dV=\delta Q_p。理想気体の1モルでは H=U+RTH=U+RT なので Cp=dH/dT=CV+RC_p=dH/dT=C_V+R。第一法則とエンタルピーの二つの表示で同じ関係を導ける。熱容量が温度に依存する場合でも、各温度の値としてこの差の関係は成り立つ。

単原子の非相対論的な理想気体では、並進の3自由度から U=3RT/2U=3RT/2、CV=3R/2,Cp=5R/2C_V=3R/2,C_p=5R/2。従って γ=5/3>1\gamma=5/3>1。この具体例は後の強い衝撃波の計算にも使う。一方、内部自由度が励起される気体では CVC_V の値は異なり、理想気体というだけで常に 5/35/3 とは限らない。

Cp=CV−RC_p=C_V-R とすると、定圧で外へ膨張仕事をするのに必要な熱が少なくなる逆の説明になる。nn モル全体の熱容量なら差は nRnR だが、原題の1モル当たりへそのまま nn を残してはいけない。また仕事を系へされる向きで定義する第一法則でも結論は同じであり、符号の規約を途中で変えない。

熱容量の違いは、同じ温度上昇に必要な熱量を比較したもので、同じ加えた熱量での温度変化は逆になる。1モルの単原子気体なら Cv=3R/2,Cp=5R/2C_v=3R/2,C_p=5R/2 だから、同じ小さい熱量 δQ\delta Q に対して定圧の温度上昇は定積の 3/53/5 倍である。CpC_p が大きいから温度も大きく上がるとすると逆に 5/35/3 倍と誤る。膨張仕事へ回る分があるため、熱の一部だけが内部エネルギーを増やすという第一法則から向きを判断する。

設問1(b) 断熱の圧力と密度の関係

断熱は外部との熱の出入りがない条件である。さらに圧力平衡を保つ準静的な変化として第一法則の仕事を気体自身の圧力 p dVp\,dV で表し、可逆な断熱の関係を導いている。後の衝撃波のように不可逆な急激な圧縮へ、同じ積分定数をそのまま保つと考えてはいけない。

CVdT=−RT dV/VC_VdT=-RT\,dV/V から dT/T=−(γ−1)dV/VdT/T=-(\gamma-1)dV/V。これを状態方程式の対数微分 dp/p=dT/T−dV/Vdp/p=dT/T-dV/V へ入れれば dp/p=−γdV/Vdp/p=-\gamma dV/V。密度は質量を体積で割った量なので、質量が変わらない要素では V∝1/ρV\propto1/\rho となる。モル密度と質量密度を区別しても、組成が一定なら比例係数が定数で同じ対数微分を使える。

γ\gamma が温度で変わる範囲では dln⁡p=γ(T)dln⁡ρd\ln p=\gamma(T)d\ln\rho という局所関係は使えても、単一の一定の指数の積へ積分できるとは限らない。原題の比熱比を定数として扱う模型の範囲を明示した。電離や励起により比熱が変わる場合はその寄与を加える必要がある。

γ=5/3\gamma=5/3 で密度を8倍に圧縮すれば、圧力は 85/3=328^{5/3}=32 倍となる。温度も変わるため、同じ温度での8倍より強く圧力が増す。気体を断熱膨張させれば内部エネルギーを仕事へ使い、温度と圧力がともに下がる。符号の向きと物理的な変化が一致する。

pργ=一定p\rho^{\gamma}=\text{一定} とすると圧縮するほど圧力が減る。また等温の p/ρ=一定p/\rho=\text{一定} を流用すると、膨張仕事に使う熱が外部から供給される別の過程となる。pVγpV^\gamma と pρ−γp\rho^{-\gamma} は同じ固定質量について対応する表現で、密度へ置き換える際に指数の負号を保つ。

同じ結果は理想気体のエントロピーからも得られる。1モルについて dS=Cv dT/T+R dV/VdS=C_v\,dT/T+R\,dV/V であり、可逆断熱なら dS=0dS=0。CvC_v が一定なら積分して Cvln⁡T+Rln⁡V=定数C_v\ln T+R\ln V=\text{定数} となる。これが TVγ−1=定数TV^{\gamma-1}=\text{定数} の対数である。温度で比熱が変わる場合には ∫Cv(T)dT/T+Rln⁡V\int C_v(T)dT/T+R\ln V を使い、単一の一定指数 γ\gamma を持つ式へは一般にできない。条件を省いて使える経験則として覚えず、どの積分を簡単化したかを示す。

設問1(c) 圧力と温度の断熱関係

理想気体の状態方程式は、固定組成の質量密度を使えば p=ρRsTp=\rho R_{\mathrm s}T と書ける。RsR_{\mathrm s} は単位質量当たりの気体定数で、1モルの RR をモル質量で割ったもの。比を取るとこの定数は消え、dln⁡T=dln⁡p−dln⁡ρd\ln T=d\ln p-d\ln\rho となる。

前問の dln⁡ρ=(1/γ)dln⁡pd\ln\rho=(1/\gamma)d\ln p を入れると、温度と圧力の指数が 1−1/γ1-1/\gamma で決まる。温度の増分に dpdp を掛けるだけでなく、元の T/pT/p が比例係数となる。後の大気の勾配では、この局所の微分表示をそのまま用いる。

1モルのエントロピーの微分を dS=Cp dT/T−R dp/pdS=C_p\,dT/T-R\,dp/p と書いても確認できる。これは dS=CVdT/T+RdV/VdS=C_VdT/T+RdV/V に状態方程式を代入して得られる。可逆断熱の dS=0dS=0 から dT/T=(R/Cp)dp/pdT/T=(R/C_p)dp/p、R/Cp=(γ−1)/γR/C_p=(\gamma-1)/\gamma より同じ関係となる。

単原子の γ=5/3\gamma=5/3 では T∝p2/5T\propto p^{2/5}。圧力が32倍なら温度は4倍であり、前問の密度8倍と合わせて p∝ρTp\propto\rho T を満たす。圧力が外へ向けて下がる大気で要素を上げると、要素は膨張して冷えることもこの正の指数から分かる。

指数を γ/(γ−1)\gamma/(\gamma-1) と逆にすると、同じ例で 325/232^{5/2} という極端な加熱を予測し、第一法則の仕事と合わない。また Tp+(γ−1)/γTp^{+(\gamma-1)/\gamma} 一定なら、圧力が減ると温度が上がる逆の結果になる。元の状態方程式と、圧縮で温まる可逆断熱の向きを二つとも検査する。

例えば単原子気体で圧力が可逆断熱的に2倍となれば T2/T1=22/5≃1.32T_2/T_1=2^{2/5}\simeq1.32、密度比は 23/5≃1.522^{3/5}\simeq1.52。積が約2になり状態方程式も満たす。T∝pT\propto p と置けば温度比2となるが、それは密度を一定にする別の過程である。可逆断熱では圧力の増加を温度と密度が分担する。指数 2/52/5 と 3/53/5 が足して1になることを、三つの変数の関係の検算に使える。

設問1(d) 周囲と圧力を合わせる流体要素

微小な要素を上へ移すと、周囲の圧力は静水圧平衡により下がる。要素の内部の圧力は音波によって短い時間で周囲へ合わせられる一方、熱の交換は遅いと仮定する。この圧力平衡と断熱の組合せにより、周囲の新しい圧力を入力として、要素自身の密度の変化を求められる。

断熱の p=Kργp=K\rho^\gamma を微分すれば dp=γKργ−1dρ=γp dρ/ρdp=\gamma K\rho^{\gamma-1}d\rho=\gamma p\,d\rho/\rho。ここでの KK は要素が保つエントロピーに対応する定数である。周囲の大気全体も同じ KK を持つと仮定したわけではなく、周囲の実際の密度勾配はまだ未知である。

上向き dr>0dr>0 では静水圧の dp<0dp<0、従って (dρ)ad<0(d\rho)_{\mathrm{ad}}<0。要素は膨張して密度を下げる。ただし周囲の密度も高さによって変わるため、要素自身の密度が下がったという事実だけでは、浮力でさらに上がるか戻るかを判定できない。移動先の周囲との比較が次問で必要になる。

例えば移動に伴う圧力の減少が1\%、γ=5/3\gamma=5/3 なら要素の密度の相対減少は約0.6\%。これは局所的な一次の近似であり、大きな有限の圧力差では ρ∗/ρ=[(p+dp)/p]1/γ\rho^*/\rho=[(p+dp)/p]^{1/\gamma} を使う。微分の式はその一次展開と一致する。

(dρ)ad=(γρ/p)dp(d\rho)_{\mathrm{ad}}=(\gamma\rho/p)dp とすると 1/γ1/\gamma を逆にし、上の例で密度変化を1.67\%と過大にする。また (dρ)ad=(dρ/dr)dr(d\rho)_{\mathrm{ad}}=(d\rho/dr)dr と最初から周囲の勾配に等置すると、要素と大気の違いを消し、安定性の比較ができなくなる。同じ圧力へ達しても、熱の履歴が違えば密度は異なり得る。

微分近似の精度を有限変化で確かめる。γ=5/3\gamma=5/3、圧力が元の0.99倍になるなら、密度比は 0.993/5≃0.9939880.99^{3/5}\simeq0.993988。一次近似は 1−(3/5)0.01=0.9941-(3/5)0.01=0.994 で、その差は約 1.2×10−51.2\times10^{-5} にとどまる。二次の項は (1/γ)(1/γ−1)(dp/p)2/2(1/\gamma)(1/\gamma-1)(dp/p)^2/2 である。圧力変化が大きくなるほど、この項を無視できなくなる。安定性は無限小の変位の判定なので一次を使うが、有限の上昇距離の密度を計算する場合は元のべき乗を用いる。

設問1(e) 浮力が元の高さへ戻す条件

要素の体積を VeV_e、重力の大きさを g>0g>0、外向きを正に取る。周囲の圧力勾配による押上げは周囲の密度 ρamb\rho_{\mathrm{amb}} を使って約 ρambVeg\rho_{\mathrm{amb}}V_e g、要素の重さは ρ∗Veg\rho^*V_e g。合力は外向きに Veg(ρamb−ρ∗)V_e g(\rho_{\mathrm{amb}}-\rho^*) となる。上へずらしたときこれが負なら復元力となる。

要素の密度そのものが元より小さくなっていても、周囲がさらに大きく低下していれば要素の方が重く、戻る。比較する二つは移動前と後の同じ要素ではなく、移動後の要素と同じ高さの周囲である。前問の断熱変化と、周囲の実際の密度分布を分ける理由がここにある。

下向きの微小変位では、不等式は逆になって要素の方が周囲より軽くなり、上向きに戻される。滑らかな大気の局所安定性なら、上下どちらの変位でも元へ戻る方向が同じ微分条件から得られる。等号なら一次の浮力差がなく、中立の境界となる。

例えば元の密度を1とし、上の圧力に達した要素が0.994、周囲が0.990なら要素が重く下へ戻る。周囲が0.998なら要素が軽く、さらに上へ進む。どちらも元より密度が下がっているが、安定性は反対となる。数値は密度比の説明例で、原題に特定の大気を追加したものではない。

ρ∗<ρamb\rho^*<\rho_{\mathrm{amb}} を安定とすると、軽い要素が上昇する浮力の向きを逆に扱う。また圧力を要素と周囲で違ったまま比べると、圧力差による急速な調整と、密度差による遅い浮力を混ぜる。原題の圧力平衡を保つ仮定のもとで、移動先の密度の比較を行う。

復元する加速度は、合力を要素の質量 ρ∗V\rho^*V で割り、ar=g(ρamb/ρ∗−1)a_r=g(\rho_{\mathrm{amb}}/\rho^*-1) と書ける。例えば移動先の周囲を1、要素を1.01の密度単位とすれば ar≃−0.00990ga_r\simeq-0.00990g。周囲を1、要素を0.99とすれば ar≃+0.0101ga_r\simeq+0.0101g となる。密度の差だけで加速度を g(ρamb−ρ∗)g(\rho_{\mathrm{amb}}-\rho^*) と置くと単位が違い、体積や密度の規格の取り方で結果が変わる。微小差なら分母を元の共通の ρ\rho へ置き換えてよく、その一次近似が次問の浮力振動数に使われる。

設問1(f) 密度と圧力の勾配で判定する

要素の移動後の密度は ρ∗=ρ+ρ(dp/dr)dr/(γp)\rho^*=\rho+\rho(dp/dr)dr/(\gamma p)。周囲の密度から引くと ρ∗−ρ(r+dr)=[ργpdpdr−dρdr]dr. \rho^*-\rho(r+dr)=\left[\frac{\rho}{\gamma p}\frac{dp}{dr}-\frac{d\rho}{dr}\right]dr. 上へ持ち上げたときこの差が正になることが復元の条件である。移動前の共通な ρ\rho が消え、勾配の差だけが安定性を決める。

静水圧平衡の式は dp/dr=−ρgdp/dr=-\rho g、g>0g>0 を中心へ向く重力の大きさとした。右辺は負であり、単に密度勾配が負だから安定とは限らない。どれほど急に減るかを、負の断熱の勾配と比較する。圧力勾配の負号で割って別の形へ変換するときには、不等号の向きが変わることにも注意する。

等温の大気なら状態方程式で dρ/dr=(ρ/p)dp/drd\rho/dr=(\rho/p)dp/dr。γ>1\gamma>1、dp/dr<0dp/dr<0 より (ρ/p)dp/dr<(ρ/(γp))dp/dr(\rho/p)dp/dr<(\rho/(\gamma p))dp/dr なので安定となる。上げた要素は断熱で冷え、同じ高さの等温な周囲より密度が大きくなるという直観とも一致する。

微小変位を ξ\xi とすれば、要素の加速度はおよそ −g(ρ∗−ρamb)/ρ-g(\rho^*-\rho_{\mathrm{amb}})/\rho。従って ξ¨=−NB2ξ,NB2=gρ(ργpdpdr−dρdr). \ddot\xi=-N_B^2\xi,\qquad N_B^2=\frac g\rho\left(\frac{\rho}{\gamma p}\frac{dp}{dr}-\frac{d\rho}{dr}\right). 安定の条件は NB2>0N_B^2>0。正なら小さい変位が振動として戻り、負なら変位が増える。NBN_B の単位は逆時間で、勾配条件の意味を運動としても読める。

dr<0dr<0 にも同じ密度の不等式をそのまま使うと、変位の向きによる符号を落とす。また周囲の dρ/drd\rho/dr に断熱の式を最初から代入してしまうと常に等号となり、任意の大気が中立という誤った結論になる。断熱の勾配は要素、実際の勾配は周囲という対象を保つ。

周囲の密度分布が局所的に p∝ρΓp\propto\rho^{\Gamma} を満たす場合も比較できる。ρ′/ρ=p′/(Γp)\rho'/\rho=p'/(\Gamma p) を安定条件へ入れ、p′<0,Γ>0p'<0,\Gamma>0 を使えば Γ<γ\Gamma<\gamma。等号は中立である。Γ\Gamma は周囲の実際の分布の指数、γ\gamma は断熱に動かした要素の比熱比なので、同じ記号へまとめない。例えば単原子の γ=5/3\gamma=5/3 に対して Γ=4/3\Gamma=4/3 の分布なら安定、Γ=2\Gamma=2 なら不安定。密度が圧力にどう追随するかを、要素と周囲で比較した結果である。

設問1(g) 密度勾配を温度勾配へ書き換える

大気の密度、圧力、温度は独立に選べず、p=ρRsTp=\rho R_{\mathrm s}T を満たす。組成が同じなら RsR_{\mathrm s} が一定なので、対数微分にその変化は現れない。電離や組成の勾配がある場合は平均分子量の項が加わり、この単純な基準だけでは判定できない。

前問を ρ>0\rho>0 で割り、dρ/(ρdr)d\rho/(\rho dr) を代入する。−T−1dT/dr-T^{-1}dT/dr の項を移す段階で不等号の符号を追えば、温度勾配が右辺より大きいことが安定条件となる。T,p,γT,p,\gamma は正なので、それらを掛ける操作では向きを変えない。

右辺は静水圧の dp/dr<0dp/dr<0 により負となる。従って「温度勾配が大きい」は、通常は外側へ下がる温度の減少が緩やかであることを意味する。単に温度が外へ向けて上がらなければならないという条件ではない。例えば右辺が −10-10 の同じ勾配単位なら、実際の −4-4 は安定、−12-12 は不安定となる。

密度の式へ戻して確認すると、温度が外へゆっくりしか下がらない大気では、同じ圧力の低下に対し周囲の密度がより速く減る。上げた断熱要素はより強く冷えるため、周囲より密になって戻る。温度の勾配と密度の勾配の不等号が逆に見えるのは、状態方程式に −dln⁡T-d\ln T が含まれるためである。

dp/drdp/dr が負であることから、両辺をそれで割った式を同じ向きのままにすると誤る。また ρ∝pT\rho\propto pT とすれば温度項の符号が逆になり、等温の検査以外で判断を反転させる。ρ=p/(RsT)\rho=p/(R_{\mathrm s}T) という元の関係を書いてから微分し、上向きの要素の浮力とも整合する向きを選ぶ。

圧力の対数を横軸にして温度分布を表す場合は、∇=dln⁡T/dln⁡p\nabla=d\ln T/d\ln p と置ける。dT/dr=(T/p)∇ dp/drdT/dr=(T/p)\nabla\,dp/dr を安定条件へ入れると、dp/dr<0dp/dr<0 のため ∇<(γ−1)/γ\nabla<(\gamma-1)/\gamma となる。半径での微分の不等号が大きいのに、圧力での対数勾配では小さいという違いは、圧力が外向きに減るために生じる。等温なら ∇=0\nabla=0、単原子の断熱なら ∇=2/5\nabla=2/5。例えば ∇=1/2\nabla=1/2 は断熱より急な温度減少を表し、不安定となる。

設問1(h) 断熱温度勾配と比較する

断熱温度勾配は、その位置の要素を周囲の圧力へ合わせながら断熱的に動かした場合の温度変化である。周囲の温度分布そのものを断熱と仮定して求めたのではない。前問の右辺がこの要素の変化であると分かれば、安定性を二つの温度の変化の比較として表せる。

静水圧 dp/dr=−ρgdp/dr=-\rho g と状態方程式 p=ρRsTp=\rho R_{\mathrm s}T を使えば (dTdr)ad=−γ−1γRsg=−gcp,cp=γγ−1Rs. \left(\frac{dT}{dr}\right)_{\mathrm{ad}} =-\frac{\gamma-1}{\gamma R_{\mathrm s}}g=-\frac g{c_p}, \qquad c_p=\frac{\gamma}{\gamma-1}R_{\mathrm s}. cpc_p は単位質量当たりの定圧熱容量で、原題の1モル当たりの CpC_p と区別する。モル質量を掛けずに g/Cpg/C_p とすると単位が合わない。

温度の減率を Γ=−dT/dr\Gamma=-dT/dr と正の量で表す場合、安定条件は Γ<g/cp\Gamma<g/c_p へ変わる。例えば説明用に g=10 m/s2,cp=1000 J/(kg K)g=10\,\mathrm{m/s^2},c_p=1000\,\mathrm{J/(kg\,K)} とすれば断熱の減率は 0.010 K/m=10 K/km0.010\,\mathrm{K/m}=10\,\mathrm{K/km}。実際の減率4なら安定、12なら不安定という前問の例と一致する。

1(f)の振動数も NB2=(g/T)[dT/dr−(dT/dr)ad]N_B^2=(g/T)[dT/dr-(dT/dr)_{\mathrm{ad}}] となる。括弧が正なら元へ戻る運動、負なら上昇または下降が増幅される。温度の比較と力学の方程式の二つの形で、同じ安定条件を確かめられる。

負の勾配の大きさと、符号付きの勾配そのものを混ぜると条件を逆にしてしまう。「急に下がる」を dT/drdT/dr が大きいと書くのではなく、符号付きの式か、正の減率のどちらで話すかを明示する。γ=1\gamma=1 の等温変化をこの断熱の比熱比の式へそのまま入れることもできない。ここでは有限の正の熱容量を持ち γ>1\gamma>1 の理想気体を扱う。

圧力の尺度の高さを Hp=−p/(dp/dr)=p/(ρg)>0H_p=-p/(dp/dr)=p/(\rho g)>0 と定義すれば、断熱温度勾配は −(γ−1)T/(γHp)-(\gamma-1)T/(\gamma H_p)。温度の尺度 TT を距離の尺度 HpH_p で割った量となり、単位が温度/長さと確認できる。この表式を使うと、前問の ∇\nabla と浮力振動数の関係も NB2=(g/Hp)[(γ−1)/γ−∇]N_B^2=(g/H_p)[(\gamma-1)/\gamma-\nabla] となる。断熱の勾配との差がゼロなら振動数も0、差が正なら実数の振動数となり、温度・圧力の二つの表現が同じ復元力を記述する。

設問1(i) 安定条件の物理的な意味

比較する温度は、同じ移動先の圧力に合わせた要素の T∗T^* と、周囲の T(r+dr)T(r+dr)。差は T∗−Tamb=[(dT/dr)ad−dT/dr]drT^*-T_{\mathrm{amb}}=[(dT/dr)_{\mathrm{ad}}-dT/dr]dr となる。安定の不等式なら、上向き dr>0dr>0 に対してこの差が負。理想気体で同じ圧力・組成なら密度は温度に反比例するため、要素が重くなる。

下向きにずらした場合は、要素の方が周囲より温かく軽くなり、上へ戻る。安定な大気は上下いずれの小さな変位も戻そうとする。周囲の温度が内側ほど高いという事実だけで対流が起こるのではなく、その変化の率が要素自身の断熱の変化を超えるかが決める。

中立の等号では一次の温度差・密度差が消える。理想的に十分混合した対流領域が断熱に近い勾配を持つという解釈につながるが、熱輸送や放射による損失を含む実際の定常構造まで、この一つの条件で求めたわけではない。原題は局所の微小変位に対する安定性を判定している。

この議論では音による圧力調整が速く、要素の熱の出入りは遅く、組成は周囲と同じという条件を用いた。熱が短時間に周囲へ逃げれば要素は断熱でなくなり、組成が違えば同じ温度でも密度が異なる。星の全ての層に無条件で同じ基準を当てるのではなく、仮定のある理想気体の大気について使う。

「熱いものは上へ行く」だけでは、上へ行く途中に要素が冷えることを落とす。例えば最初は周囲と同じ温度でも、移動後の温度差が生じて浮力が変わる。逆に、実際の温度の減率が断熱より小さい場合を不安定とすると、先ほどの密度比較が要素を戻す向きになることと矛盾する。温度変化から密度差、密度差から浮力へ順に結び付ける。

密度差が小さい時の変位 δr\delta r の運動は δr¨=−NB2δr\delta\ddot r=-N_B^2\delta r と書ける。NB2>0N_B^2>0 なら δr\delta r は正弦・余弦の振動、NB2<0N_B^2<0 なら e−NB2te^{\sqrt{-N_B^2}t} の増大する解を持つ。例えば NB2=10−4 s−2N_B^2=10^{-4}\,\mathrm{s^{-2}} なら振動周期は約 6.3×1026.3\times10^2 秒である。これは大きな対流セルの速度を予測した値ではなく、局所の小変位の時間尺度である。温度の大小の言葉による説明を、変位が戻るか増えるかという微分方程式と結び付けて理解できる。

設問2(a) 衝撃波前後の保存則を無次元化する

定常な断面を単位時間に通る質量は ρv\rho v。同じ質量が前後を通るので ρ1v1=ρ2v2\rho_1v_1=\rho_2v_2 となる。運動量の流れには移流による ρv2\rho v^2 と圧力 pp の双方が寄与し、断面に外力がなければ ρv2+p\rho v^2+p が保存する。上流を添字1、下流を2とし、密度が増える場合に流速が減る向きで式を立てる。

エネルギーでは、流体が境界を押して運び込む仕事を含める必要がある。単位質量当たりの内部エネルギー u=cvTu=c_vT に圧力の仕事 p/ρp/\rho を足したエンタルピーは h=cpT=γp/[(γ−1)ρ]h=c_pT=\gamma p/[(\gamma-1)\rho]。質量流束で割ったエネルギー流束は v2/2+hv^2/2+h となる。熱の流出、放射、化学反応などを無視し、同じ一定の γ>1\gamma>1 を前後に用いる場合の式である。

運動量式を p1p_1 で割れば γM12+1=γM12/x+y\gamma M_1^2+1=\gamma M_1^2/x+y。エネルギー式を p1/ρ1p_1/\rho_1 で割れば答案の第二式が出る。どちらも無次元で、x=y=1x=y=1 を入れると恒等的に成立する。これは衝撃波がない解も保存則が含むことを示す。

内部エネルギーだけを使い、エネルギー式を v2/2+p/[(γ−1)ρ]=一定v^2/2+p/[(\gamma-1)\rho]=\text{一定} とすると、圧力の仕事が抜ける。その式からは正しい圧縮比が得られない。例えば後で扱う γ=5/3,M1=3,x=3,y=11\gamma=5/3,M_1=3,x=3,y=11 をその誤式へ入れると、上流は 99、下流は 19/319/3 と一致しない。正しいエンタルピーの式では両者が 1010 で一致する。

ここで用いた保存量は単位時間当たりの流束であり、1粒子の値が前後で同じという仮定ではない。断面積が同じだから ρv\rho v が一定であるが、断面積が変わる管なら質量流量は ρvA\rho v A となる。また衝撃波が静止する系を選んでいるため、上流が実験室で静止していても、式に入れる v1v_1 は衝撃波に対する相対速度となる。速度の基準を混ぜると、例えば v1=0v_1=0 としたまま圧縮波を扱い、質量保存から下流も止まるという不適切な解を作ってしまう。

設問2(b) 密度比と圧力比

二つの保存則は、衝撃波を横切る不連続がない場合も満たされる。そのため方程式を解いた時点で二つの枝が現れる。x=1x=1 を運動量式へ入れると y=1y=1 となる。一方、M1>1M_1>1 なら第二の枝で x−1=2(M12−1)(γ−1)M12+2>0,y−1=2γ(M12−1)γ+1>0. x-1=\frac{2(M_1^2-1)}{(\gamma-1)M_1^2+2}>0,\qquad y-1=\frac{2\gamma(M_1^2-1)}{\gamma+1}>0. 密度・圧力がともに増し、質量保存により流速が落ちる。

この枝が物理的な圧縮波であることは、エントロピーでも確かめられる。一定比熱の理想気体の比エントロピー差は Δs=cvln⁡(y/xγ)\Delta s=c_v\ln(y/x^\gamma)。m=1m=1 でゼロであり、m>1m>1 について ddmln⁡yxγ=2γ(γ−1)(m−1)2[2γm−(γ−1)] m[(γ−1)m+2]>0. \frac{d}{dm}\ln\frac{y}{x^\gamma} =\frac{2\gamma(\gamma-1)(m-1)^2} {[2\gamma m-(\gamma-1)]\,m[(\gamma-1)m+2]}>0. 従って下流へ向けて増加する。衝撃波内での散逸を薄い層にまとめて扱っているので、前半の可逆断熱関係を前後に直接課してはいけない。

例えば γ=5/3,M1=3\gamma=5/3,M_1=3 なら x=3,y=11x=3,y=11。運動量の無次元値は上流 γM12+1=16\gamma M_1^2+1=16、下流 γM12/x+y=5+11=16\gamma M_1^2/x+y=5+11=16。エントロピーも ln⁡(11/35/3)>0\ln(11/3^{5/3})>0 となる。

「断熱だから pρ−γp\rho^{-\gamma} が一定」として y=xγy=x^\gamma を追加すると、この例では圧力比を 35/3≃6.243^{5/3}\simeq6.24 と誤る。正しい11と大きく違い、運動量保存も破る。熱を外へ逃がさないことと、可逆であることは別の条件である。無変化の枝を機械的に捨てるのではなく、原題の超音速の流入と圧縮・エントロピー増大により選ぶ。

弱い波の極限でも枝を確認できる。m=1+δm=1+\delta、0<δ≪10<\delta\ll1 なら x=1+2δ/(γ+1)+O(δ2)x=1+2\delta/(\gamma+1)+O(\delta^2)、y=1+2γδ/(γ+1)y=1+2\gamma\delta/(\gamma+1)。従って一次では y−1≃γ(x−1)y-1\simeq\gamma(x-1) と微小な断熱の関係へ近づくが、厳密に可逆になったわけではない。エントロピー差は Δs/cv≃2γ(γ−1)δ3/[3(γ+1)2]>0\Delta s/c_v\simeq2\gamma(\gamma-1)\delta^3/[3(\gamma+1)^2]>0 と三次から生じる。弱い波で小さく見えた散逸を、強い波にも無いものとして扱うことはできない。

設問2(c) 温度比

RsR_{\mathrm s} は単位質量当たりの気体定数で、分子量・電離度が前後で変わらない場合に消去できる。式の導出は p2/p1=(ρ2/ρ1)(T2/T1)p_2/p_1=(\rho_2/\rho_1)(T_2/T_1) だけであるが、衝撃波の温度上昇には密度上昇による圧力の増加と、運動エネルギーが熱へ移る効果の双方が含まれる。圧力比そのものを温度比と呼んではいけない。

分子の積を展開して1を引くと T2T1−1=2(γ−1)(M12−1)(γM12+1)(γ+1)2M12>0(M1>1). \frac{T_2}{T_1}-1= \frac{2(\gamma-1)(M_1^2-1)(\gamma M_1^2+1)} {(\gamma+1)^2M_1^2}>0\qquad(M_1>1). これで温度が必ず上がることが直接確認できる。弱い波の極限 M1→1M_1\to1 では T2/T1→1T_2/T_1\to1 となり、圧力・密度の比と同じく連続的に無変化の状態へ近づく。

γ=5/3,M1=3\gamma=5/3,M_1=3 の例では T2/T1=11/3≃3.67T_2/T_1=11/3\simeq3.67。速度は v2=v1/3v_2=v_1/3 へ落ち、減少した巨視的な運動のエネルギーの分が熱へ変わる。エネルギー保存を前問の無次元形で確かめれば、上流 15/2+5/2=1015/2+5/2=10、下流 15/(2⋅9)+(5/2)(11/3)=1015/(2\cdot9)+(5/2)(11/3)=10 となる。

T2/T1=xyT_2/T_1=xy と掛ける誤りなら、この例で33という過大な値を出す。密度が上がるほど、同じ圧力に必要な温度は低くなるため、密度比は分母に来る。また Tρ1−γ=一定T\rho^{1-\gamma}=\text{一定} を衝撃波全体へ用いると 32/3≃2.083^{2/3}\simeq2.08 と過小に見積もる。可逆な圧縮だけでは表せないエントロピーの生成が温度をさらに上げる。

温度比の強い波の式に M12=v12/(γRsT1)M_1^2=v_1^2/(\gamma R_{\mathrm s}T_1) を代入すると、T2≃2(γ−1)v12/[(γ+1)2Rs]T_2\simeq2(\gamma-1)v_1^2/[(\gamma+1)^2R_{\mathrm s}]。単原子なら T2≃3v12/(16Rs)T_2\simeq3v_1^2/(16R_{\mathrm s}) となる。上流の温度の値が先頭項から消え、流入速度の二乗が下流の熱を決める形になる。これは音速が小さい強い波の極限だけの式であり、M1→1M_1\to1 の連続な変化を計算するには、答案の正確な温度比を用いる。

設問2(d) 下流のマッハ数

音速は微小な圧力擾乱が進む速さであり、擾乱の短い時間内では可逆断熱とみなす。この局所の微分に pρ−γ=一定p\rho^{-\gamma}=\text{一定} を使うことはできる。衝撃波の前後二状態を可逆断熱で結ぶこととは区別する。前後で温度が違うため、音速も違う。

上流と下流の音速の比は cs2/cs1=y/xc_{s2}/c_{s1}=\sqrt{y/x}。流速の比が 1/x1/x なので、M2/M1=1/xyM_2/M_1=1/\sqrt{xy} となる。式を二乗してから整理すれば平方根の扱いで混乱しにくい。

答案の分母から分子を引くと (γ+1)(M12−1)/2>0(\gamma+1)(M_1^2-1)/2>0。分母自体も M1>1,γ>1M_1>1,\gamma>1 では正だから、0<M22<10<M_2^2<1 が従う。流入が超音速、流出が亜音速になるという垂直衝撃波の特徴が、保存則だけから得られる。弱い極限では両側とも音速に近づく。

γ=5/3,M1=3\gamma=5/3,M_1=3 なら M22=9/(3⋅11)=3/11M_2^2=9/(3\cdot11)=3/11、M2≃0.522M_2\simeq0.522。速度が3分の1へ下がるだけでなく、音速は 11/3≃1.91\sqrt{11/3}\simeq1.91 倍へ上がるため、この値になる。

上流の音速を下流でも使って M2=M1/xM_2=M_1/x とすると、この例で M2=1M_2=1 と誤る。これでは熱による音速の増加を全て落としている。また M22=M12x/yM_2^2=M_1^2x/y とした場合は 27/11>127/11>1 となり、圧縮後も超音速という逆の結論になる。流速の二乗から x−2x^{-2}、音速の二乗から y/xy/x が出る過程を書いて確認する。

上流と下流を入れ替えて同じ公式へ入れることはできない。圧縮衝撃波では上流の M1>1M_1>1 を条件として枝を選び、下流は M2<1M_2<1 となる。時間を逆にした膨張の不連続はエントロピーを減らすため、普通の気体の自発的な衝撃波では実現しない。例えば既出の x=3,y=11x=3,y=11 を逆向きにすれば密度比 1/31/3、圧力比 1/111/11 となるが、保存則だけの形式的な可逆性から物理的な波として選んではいけない。第二法則が流れの向きを制限する。

設問2(e) 強い衝撃波での圧縮の限界

強い衝撃波とは、上流の流速に比べて上流の音速が小さい極限である。上流圧力が運動量流束に対して小さくなるが、下流の圧力や熱をゼロにする極限ではない。密度比の式を M12M_1^2 で割ると x=γ+1γ−1+2/M12,xx∞=11+2/[(γ−1)M12]<1. x=\frac{\gamma+1}{\gamma-1+2/M_1^2},\qquad \frac{x}{x_\infty}=\frac1{1+2/[(\gamma-1)M_1^2]}<1. 有限のマッハ数の圧縮比は、必ず極限値より小さい。

圧縮が有限にとどまるのは、減速で生じた熱が下流の圧力を増やすためである。密度を際限なく上げる解は、流れのエネルギーを下流のエンタルピーとして保存する条件と両立しない。一方、速度が増すほど投入される運動エネルギーが増えるので、圧力と温度の比には有限の上限がない。

下流マッハ数も M22→(γ−1)/(2γ)M_2^2\to(\gamma-1)/(2\gamma) となり、ゼロまで落ちるとは限らない。γ=5/3\gamma=5/3 なら x∞=4x_\infty=4, M22→1/5M_2^2\to1/5。例えば M1=10M_1=10 での正確な圧縮比は 400/103≃3.883400/103\simeq3.883 で、4への接近を確かめられる。この場合の強い波の温度比の先頭項は (5/16)M12(5/16)M_1^2 である。

分母の定数2を残し、同じ分母の (γ−1)M12(\gamma-1)M_1^2 を捨てると x∼(γ+1)M12/2x\sim(\gamma+1)M_1^2/2 という発散を誤って得る。これは小さいマッハ数に都合のよい項の選び方を、反対の極限に使った誤りである。何を無視するかは各項の比 2/[(γ−1)M12]2/[(\gamma-1)M_1^2] で判定する。

密度比の極限は比熱比に強く依存する。γ=7/5\gamma=7/5 の一定比熱の気体なら (γ+1)/(γ−1)=6(\gamma+1)/(\gamma-1)=6 で、単原子の4とは違う。比熱比が1へ近づくほどエネルギーを内部へ多く蓄えられ、形式上の圧縮限界も大きくなる。ただし γ=1\gamma=1 をそのまま代入すると分母が0となり、この式の導出で使った h=γp/[(γ−1)ρ]h=\gamma p/[(\gamma-1)\rho] も定義できない。等温衝撃波には、外へ逃げる熱を含めた別のエネルギーの扱いが必要となる。

設問2(f) 単原子気体の場合

等分配則は、古典的な熱平衡でハミルトニアンに二次で入る独立な自由度一つにつき、1粒子当たり kBT/2k_BT/2 を与える。単原子の重心運動は px2,py2,pz2p_x^2,p_y^2,p_z^2 の3項なので、1モルの内部エネルギーは 3RT/23RT/2。温度微分により Cv=3R/2C_v=3R/2 となる。定圧では膨張の仕事に1モル当たり R dTR\,dT が必要だから、CpC_p に RR を足す。

この比熱比を前問へ入れると圧縮比4が得られる。有限のマッハ数なら x=4M12/(M12+3)x=4M_1^2/(M_1^2+3) であり、M1=1M_1=1 で1、M1=3M_1=3 で3、M1→∞M_1\to\infty で4という変化になる。4は全ての衝撃波で必ず達する値ではなく、仮定した気体での強い波の極限である。

単原子理想気体の衝撃波の密度比。マッハ数3で密度比3、無限大で4に近づく。

図は上の式をそのまま描いたもので、原図の転載ではない。最大圧縮比が有限であることと、達し方が M1−2M_1^{-2} で決まることを確認できる。

CpC_p と CvC_v を逆にして γ=3/5\gamma=3/5 とすると、極限圧縮比が −4-4 になり正の密度比という条件を破る。単原子だからといって γ=3\gamma=3 を入れる誤りでは2となる。また実際に電離や励起、放射冷却が起これば、一定の比熱比を用いた前提が変わる。宇宙の全ての衝撃波の密度比が4以下だと一般化せず、非相対論的な単原子理想気体で熱を失わない場合の結論として用いる。

熱容量の由来は質量の大小ではない。ヘリウムと同じように、電子・イオンがそれぞれ非相対論的な並進の3自由度だけを持ち、電離度が固定されているなら、混合していても熱容量は粒子数に比例して同じ比 5/35/3 を持つ。一方、温度上昇が新しい電離へ使われれば、そのエネルギーはすぐに並進の温度を上げず、見かけの熱容量が変わる。本問の4という結論に必要なのは、単に粒子が一つの原子からできていることより、温度に応じて新しい内部自由度や損失が増えないことである。

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天文学 — 電離平衡と恒星の吸収線

設問1(a) 粒子数の保存と電離度

電離度は x=N+/Nx=N_+/N と定義される。核の個数は電離しても変わらないため N0+N+=NN_0+N_+=N。系全体は中性で、1価のイオン以外の荷電粒子がなければ正電荷と負電荷が等しく、Ne=N+N_e=N_+ となる。この二つの保存則から答案が決まる。ここで NN は電離前の原子核の密度であり、電離後の全粒子数密度とは異なる。

電離後の全粒子数密度は N0+N++Ne=N(1+x)N_0+N_++N_e=N(1+x)。従って理想気体の圧力は、同じ温度・核の密度でも p=N(1+x)kTp=N(1+x)kT と変わる。電子の質量は小さくても、熱平衡で各粒子が圧力へ寄与することに変わりはない。化学反応で核を失うわけではないが、並進運動する粒子の個数は増える。

x=0x=0 なら中性原子のみで N0=N,N+=Ne=0N_0=N,N_+=N_e=0、x=1x=1 なら中性原子が消え N+=Ne=NN_+=N_e=N。中間の x=1/2x=1/2 なら三種類の密度がいずれも N/2N/2 となり、合計は 3N/23N/2。この端点と中間点で保存則を確かめられる。

電離した2粒子を数えるために N+=Ne=Nx/2N_+=N_e=Nx/2 としてしまうと、定義 N+/N=xN_+/N=x を満たさない。例えば x=1x=1 で核が半分消えたことになる。また自由電子だけを Ne=2NxN_e=2Nx とすれば、1価イオンの正電荷に対して電子が倍となり中性条件を破る。核の数と、反応で生じる粒子の数を別々に追う。

2段階以上の電離や別の元素が電子を供給する場合は Ne=N+N_e=N_+ が成り立たない。本問は単一元素の1段階の電離だけを仮定しているため、単一の xx で全ての密度が表せる。後のサハの式の左辺に x2x^2 が現れる理由も、イオンと電子の二つの密度がそれぞれ xx に比例するためである。

電離度とイオン化した粒子の全粒子に対する割合も区別する。全粒子は N(1+x)N(1+x) 個なので、イオンだけの割合は x/(1+x)x/(1+x) となり、完全電離でも 1/21/2 である。自由電子がもう半分を占めるためだ。xx 自体は核のうち電離した割合であり、完全電離で1になる。この分母の違いを混同してサハの式の密度を置くと、粒子数の保存と電荷中性を同時に満たさない。定義を最初に核の数へ固定しておくことが、反応を含む理想気体の計算を一貫させる。

設問1(b) 化学ポテンシャルからサハの式を導く

化学ポテンシャルは、温度と体積を一定にして粒子を増やした時の自由エネルギーの増加率である。古典的な希薄気体で、内部状態の重みを gig_i、熱的ドブロイ波長を λi=h/2πmikT\lambda_i=h/\sqrt{2\pi m_i kT} とすれば Qi=gi/λi3Q_i=g_i/\lambda_i^3。Ni/Qi≪1N_i/Q_i\ll1 の非縮退領域で、粒子を区別しないことを含む自由エネルギーを微分すると μi=kTln⁡(Ni/Qi)\mu_i=kT\ln(N_i/Q_i) が得られる。

反応 X0+γ⇄X++e−X^0+\gamma\rightleftarrows X^++e^- では熱平衡の光子の化学ポテンシャルはゼロ。束縛の基準エネルギーを原題どおり −χ-\chi として中性原子に付ければ、反応の自由エネルギー変化ゼロの条件が μ0−χ=μ++μe\mu_0-\chi=\mu_++\mu_e になる。対数をまとめると ln⁡N+NeQ0N0Q+Qe=−χkT. \ln\frac{N_+N_eQ_0}{N_0Q_+Q_e}=-\frac\chi{kT}. これを指数化する。重い核の並進状態数は質量がほぼ等しいため比で消え、電子の状態数が残る。

左辺の密度は N+Ne/N0=Nx2/(1−x)N_+N_e/N_0=Nx^2/(1-x)。従って最後に NN で割る必要がある。(2πmekT)3/2/h3(2\pi m_e kT)^{3/2}/h^3 は体積の逆数なので、右辺全体が無次元になることでも確かめられる。低温では指数が小さく電離を抑え、低密度では自由電子を収容する空間が多いため電離を促す。

符号を逆にして e+χ/(kT)e^{+\chi/(kT)} とすると、T→0T\to0 で電離が強まるという逆の結論になる。電子のスピンの重み2を落とすと右辺が半分になり、弱電離の x≪1x\ll1 では xx を 1/21/\sqrt2 倍に過小評価する。指数、統計的重み、密度の三箇所を区別して導く。

密度への依存性も、反応で粒子が一つから二つへ増えることから理解できる。一定温度で膨張させると、それぞれの粒子が運動できる空間が増え、二つの独立な粒子を持つ電離側の状態数がより大きく増す。式では S∝1/NS\propto1/N に当たり、希薄にするほど xx が増える。温度だけが電離を決めると考えればこの効果が消える。例えば弱電離で密度を4分の1にすると、x≃Sx\simeq\sqrt S により電離度は約2倍となる。十分希薄になって x∼1x\sim1 になった後は、この平方根近似を使わず正確な二次方程式を解く。

設問1(c) 温度上昇に対する電離度の変化

熱平衡の電子は高い温度ほど多くの並進状態を利用できる。さらに、電離のエネルギーを要することによる抑制 e−χ/(kT)e^{-\chi/(kT)} も弱まる。この二つの効果が S∝T3/2e−χ/(kT)S\propto T^{3/2}e^{-\chi/(kT)} の両因子に表れており、どちらも増加に働く。

単に右辺が増えるだけでは、左辺の関数が減少関数である可能性を除けない。そこで物理的な範囲 0<x<10<x<1 で左辺の微分を計算する。正なので一対一に対応し、SS が大きいほど xx も大きい。二次方程式 x2+Sx−S=0x^2+Sx-S=0 の正の根は x=S2+4S−S2=21+1+4/S. x=\frac{\sqrt{S^2+4S}-S}{2} =\frac{2}{1+\sqrt{1+4/S}}. 負の根は電離度の範囲外なので捨てる。第二の表式は大きい SS でも近い数の引き算を避けられる。

S≪1S\ll1 なら x≃Sx\simeq\sqrt S、S≫1S\gg1 なら 1−x≃1/S1-x\simeq1/S。例えば S=1S=1 では x=(5−1)/2≃0.618x=(\sqrt5-1)/2\simeq0.618。S=4S=4 なら x=2(2−1)≃0.828x=2(\sqrt2-1)\simeq0.828 となり、上限1に近づきつつ増すことを具体的に確かめられる。

e−χ/(kT)e^{-\chi/(kT)} の微分を負とすると、温度が高いほど電離が減ると誤りやすい。指数 −χ/(kT)-\chi/(kT) 自体の微分は +χ/(kT2)+\chi/(kT^2) である。また x2/(1−x)≃x2x^2/(1-x)\simeq x^2 は弱電離だけの近似で、S=4S=4 に使うと x≃2x\simeq2 という不可能な値を返す。

この単調性は、原題の NN を固定した議論である。恒星大気の異なる場所を比較すると密度も変わり、化学組成や内部の分配関数にも温度依存性が入る。どの量を一定にして温度を変えているかを明示して使う。

対数微分を使えば温度への感度も表せる。左辺の対数微分は dln⁡[x2/(1−x)]=(2−x)dx/[x(1−x)]d\ln[x^2/(1-x)]=(2-x)dx/[x(1-x)] なので、dx/dln⁡T=x(1−x)(3/2+χ/(kT))/(2−x)dx/d\ln T=x(1-x)(3/2+\chi/(kT))/(2-x)。例えば x=1/2x=1/2、χ/(kT)=15\chi/(kT)=15 なら dx/dln⁡T=2.75dx/d\ln T=2.75。局所的に温度が1\%上がるだけで xx は約0.028増える。温度依存性が急でも、x→1x\to1 では係数 1−x1-x が0へ近づき上限を超えない。単調性だけでなく、どの領域で電離が急変するかもこの式から分かる。

設問2(a) 自由電子の分配関数

古典的な位相空間では、独立な量子状態一つが位置と運動量の空間で h3h^3 の体積を占める。電子の運動量の方向は等方的だから、三重積分は球殻の体積 4πp2dp4\pi p^2dp にまとめられる。p2dp=(2mekT)3/2t2dtp^2dp=(2m_ekT)^{3/2}t^2dt を使い、原題で与えられた積分 ∫0∞t2e−t2dt=π/4\int_0^\infty t^2e^{-t^2}dt=\sqrt\pi/4 を入れると係数 4π⋅π/4=π3/24\pi\cdot\sqrt\pi/4=\pi^{3/2} が残る。

直交座標でも、各方向のガウス積分が 2πmekT\sqrt{2\pi m_ekT} となり、その三乗から同じ結果を得られる。位置の積分で得る体積を掛け、最後に二つのスピン状態を数えればよい。Ze=2/(Neλe3)Z_e=2/(N_e\lambda_e^3) と書くと、位置の平均的な占有体積が熱的波長の立方に対して何倍あるかを測る無次元量だと分かる。

ここでは原題の定義に従い、1粒子の占める平均体積 1/Ne1/N_e を用いた。全系の体積 VtotV_{\mathrm{tot}} を使う通常の1粒子分配関数 ze=2Vtot/λe3z_e=2V_{\mathrm{tot}}/\lambda_e^3 とは、そのまま同一の量ではない。原題の ZeZ_e は zez_e を全系の自由電子の数で割った有効な状態数に当たる。この区別により、最終的な電離比に密度が正しく入る。

球座標のヤコビアンを落とし ∫e−p2/(2mekT)dp\int e^{-p^2/(2m_ekT)}dp だけを使うと、温度の依存性を T1/2T^{1/2} と誤る。実際は三次元なので T3/2T^{3/2}。スピン2を積分の三方向それぞれに掛けると8になり、結果を4倍に数えすぎる。スピンは三方向の独立な二値ではなく、電子一つにつき二つの内部状態である。

非縮退の前提は Neλe3/2≪1N_e\lambda_e^3/2\ll1、すなわち Ze≫1Z_e\gg1 と表せる。高密度でこの前提が崩れれば、同じ古典的な状態数の数え方を化学ポテンシャルへ使えない。

ガウス積分の温度依存性は、熱運動量の尺度 pth∼mekTp_{\mathrm{th}}\sim\sqrt{m_ekT} が三方向へ広がることからも見積もれる。運動量空間の体積は pth3∝T3/2p_{\mathrm{th}}^3\propto T^{3/2}。そこへ位置の体積を掛けて h3h^3 で割るから、状態数の次元も正しく無次元になる。非相対論性は kT≪mec2kT\ll m_ec^2 を条件とし、運動エネルギーを p2/(2me)p^2/(2m_e) と置く根拠である。電子だから常に同じ積分を使うのでなく、縮退の有無と相対論性の二つを別に確認する。

設問2(b) 状態数によるサハの式の再導出

ボルツマン因子は、基底の中性原子から電離した状態へ移るのにエネルギー χ\chi を使うことを表す。一方、自由電子は連続な並進状態を取り、その大きな状態数 ZeZ_e が電離側を有利にする。内部の重みの比 g+/g0g_+/g_0 と自由電子の状態数を掛けると、エネルギーだけで電離を見積もる場合との違いが見える。

この状態数による議論では、原子とイオンの重い核の並進の寄与は、質量が同じとみなせるため比で相殺している。原題の Z0,Z+Z_0,Z_+ はその共通部分を除いた基底の内部状態数である。自由電子まで同じように基底一つとして扱うことはできず、前問で積分した運動量の全状態を数える必要がある。

式を代入した後、右辺に 1/x1/x があることに注意する。自由電子が少ないほど、電子一つが使える空間が増えて電離に有利となる。両辺へ xx を掛けると1(b)と同じ x2/(1−x)x^2/(1-x) が得られる。化学ポテンシャルの方法と、ボルツマン因子・状態数の方法が一致するため、密度と指数の符号を独立に確認できる。

例えば統計的重みの比を含む右辺全体が S=1S=1 となる条件なら、両方法とも x≃0.618x\simeq0.618 を与える。電離度を x/(1−x)=Sx/(1-x)=S と誤って止めると x=1/2x=1/2 になり、電子密度の xx 依存性を落としたことが分かる。電子を外部の巨大な供給源が一定密度で与える別の問題なら、その式の使い方も変わる。

原題では問1・問2に限り、原子が基底状態だけを持つと簡単化した。励起準位を全て含める場合は Z0(T),Z+(T)Z_0(T),Z_+(T) に内部の分配関数を入れる。次問のバルマー線は中性原子の励起状態を使うため、この簡単化を物理的に全温度へ一般化してはいけない。

内部に励起準位を加えるなら、例えば中性原子の分配関数は Z0=∑jgje−(Ej−E0)/(kT)Z_0=\sum_jg_j e^{-(E_j-E_0)/(kT)} と置き換わる。基底だけの g0g_0 より大きくなると、他の条件が同じなら電離比 N+/N0N_+/N_0 は小さくなる。中性のまま利用できる状態が増えるためである。励起を加える操作は、単純に電離の指数の符号を変えることではない。本問の二通りの導出は、内部の状態数をどこへ入れるかも明確にしており、次問で励起と電離を比較するための土台となる。

設問3(a) 電離が効き始める温度

電離が効き始める境界は、イオンが中性原子より多くなる付近という本問の定義である。単純に1粒子の熱エネルギー kTkT が電離エネルギー χ\chi と等しくなる温度ではない。自由電子の並進状態の多さにより、ボルツマン因子が小さくても電離状態の総数が中性状態を上回ることがある。

イオンと中性原子の比の対数は ln⁡(N+/N0)=ξ−χ/(kT)\ln(N_+/N_0)=\xi-\chi/(kT)。これがゼロという条件から答案が出る。NeN_e を一定とするなら ξ\xi の温度依存性は対数的で、dξ/dln⁡T=3/2d\xi/d\ln T=3/2。一方、抑制の指数の大きさ χ/(kT)\chi/(kT) は T−1T^{-1} で変わる。温度の狭い範囲で ξ\xi を10--30程度の緩やかな量として扱う理由がここにある。

ただし ξ\xi 自体に求めたい TT が入るので、答案は厳密には暗黙の方程式である。また一定の核密度なら Ne=NxN_e=Nx も変化する。境界では x=1/2x=1/2 なので、その時の Ne=N/2N_e=N/2 を用いる。任意の低温の電子密度を境界へ固定して使うのではない。

原題の水素の値 χ/k≃160000 K\chi/k\simeq160000\,\mathrm K と ξ≃15\xi\simeq15 を使うと、T≃1.07×104 KT\simeq1.07\times10^4\,\mathrm K。kT=χkT=\chi として16万Kを境界にすると約15倍高い温度を見積もる。電子の運動状態の多さが電離を有利にする点を落とした誤りである。

電子のスピンの2が消える理由も確認する。2g+/g0=12g_+/g_0=1 であり、ここでさらに2を掛ければ ξ\xi を ln⁡2\ln2 だけ増やす。反対に g0=1g_0=1 と暗黙に置いたまま計算すれば同じ誤差を生む。統計的重みは反応の各粒子の状態数に由来するため、どの段階で相殺したかを示す。

境界 x=1/2x=1/2 を問1のサハの式へ直接入れても、左辺は 1/21/2。右辺の電子の並進状態密度を Q=(2πmekT)3/2/h3Q=(2\pi m_ekT)^{3/2}/h^3 とすれば Qe−χ/(kT)/N=1/2Qe^{-\chi/(kT)}/N=1/2、従って Qe−χ/(kT)/Ne=1Qe^{-\chi/(kT)}/N_e=1 となる。電離比からの導出と一致する。この検査では Ne=N/2N_e=N/2 が必要で、完全電離時の Ne=NN_e=N を入れると対数の中が2倍ずれる。近似的な転移の温度でも、どの状態の電子密度を使うかを明示する。

設問3(b) バルマー吸収線が高温で弱まる理由

同じ電離段階の二準位の比は、局所の熱平衡ではボルツマン分布に従い、N2/N1=(g2/g1)e−(E2−E1)/(kT)N_2/N_1=(g_2/g_1)e^{-(E_2-E_1)/(kT)}。水素では En=−χ/n2E_n=-\chi/n^2 なので E2−E1=3χ/4E_2-E_1=3\chi/4 となる。この条件付きの比は温度とともに増えるが、観測される吸収を決めるのは全核に対する吸収粒子の個数である。

概略には N2=N(1−x)f2(T)N_2=N(1-x)f_2(T) と書ける。f2f_2 は中性原子のうち n=2n=2 にいる割合である。高温で f2f_2 が増えても、1−x1-x が強く減れば積は小さくなる。問1・問2の基底だけの近似は電離の状態数を説明するためのもので、ここでは励起の存在も定性的に組み合わせる。実際の強度を定量的に予測するには、全内部の分配関数と大気中の放射輸送も必要になる。

励起と電離の競合を示す水素吸収粒子数の模型。温度が1万K付近で山を持つ。

図は原図の写しではなく、競合を示すため ξ=15\xi=15 と固定し、e−3χ/(4kT)/[1+eξ−χ/(kT)]e^{-3\chi/(4kT)}/[1+e^{\xi-\chi/(kT)}] を規格化した模式例である。この簡単なモデルの極大は χ/(kT)=ξ−ln⁡3\chi/(kT)=\xi-\ln3、約1.15万Kとなり、1万K付近の山を説明する。厳密な大気の予測値と同一視しない。

N2/N1N_2/N_1 の増加だけから線も単調に強まるとすると、電離後に中性原子がほぼ消える事実を落とす。また「1万Kで kT=13.6 eVkT=13.6\,\mathrm{eV} になる」と説明するのも誤りで、対応する温度は約16万K。多数の自由電子状態を含む電離平衡により、それより低い温度で中性水素が減ることが本問の結論である。

模式図の山の位置を確かめるには、y=χ/(kT)y=\chi/(kT) と置き、F(y)=e−3y/4/(1+eξ−y)F(y)=e^{-3y/4}/(1+e^{\xi-y}) の対数を微分する。dln⁡F/dy=−3/4+eξ−y/(1+eξ−y)=0d\ln F/dy=-3/4+e^{\xi-y}/(1+e^{\xi-y})=0 より eξ−y=3e^{\xi-y}=3、従って y=ξ−ln⁡3y=\xi-\ln3。もし ξ+ln⁡3\xi+\ln3 とすれば極大条件を満たさず、符号を誤ったことが分かる。この計算は単純化した図の整合性を確かめるもので、原題の吸収線の詳細な曲線を再現する主張ではない。全ての線を温度だけで比較する場合も、気圧や化学組成が違えば電離の境界は動く。

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  • 2026年度(解説4項目)

    正規分布・中心極限定理と待ち時間 / 球対称ポテンシャルと水素様イオン / 遅延ポテンシャルと加速電荷の放射

  • 2025年度(解説4項目)

    ベッセル方程式の級数解と母関数 / 等質量連星の軌道と重力波放射 / 二原子分子の振動・回転と遷移

  • 2024年度(解説4項目)

    ルジャンドル多項式と球面調和関数 / 二準位系・結晶欠陥・断熱消磁 / 単スリットと回折格子の干渉

  • 2023年度(解説4項目)

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  • 2022年度(このページ・解説4項目)

    直交変換と双曲的な座標変換 / 円制限三体問題とラグランジュ点 / 断熱変化・対流安定性・衝撃波

  • 2021年度(解説2項目)

    ブラックホールの光子軌道と影 / 複素屈折率と薄膜による反射防止

2022年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は数学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
数学数学直交変換と双曲的な座標変換—あり
物理学1円制限三体問題とラグランジュ点—あり
物理学2断熱変化・対流安定性・衝撃波—あり
天文学電離平衡と恒星の吸収線—あり

前年度(2021年度)との違い

大問数
2021年度 2問 → 2022年度 4問
2021年度の解答例

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