院試 線形代数の出題傾向と対策
院試 線形代数の出題傾向。固有値・固有ベクトル、ジョルダン標準形、内積空間、対角化、二次形式の頻出パターンと、数学系・情報系研究科ごとの試験範囲、答案で失点しやすい論点を整理します。
- 出題大学
- 25大学
- 収録した設問
- 702問
- 収録年度
- 2004〜2026年度
- 2024〜2026年度
- 356問
- 試験科目
- 104科目
- 頻出テーマ
- 8テーマ
線形代数 院試の出題傾向 — 頻出テーマ × 年度(2004〜2026年度)
最も多いのは固有値・固有ベクトルで544問(25大学)、 年度別では2024年度の172問が最多です。
| テーマ | 2026 | 2025 | 2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 〜2018 | 大学 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 固有値・固有ベクトル | 80 | 100 | 98 | 77 | 60 | 29 | 24 | 11 | 65 | 25 | 544 |
| 線形空間・基底 | 18 | 30 | 27 | 21 | 19 | 5 | 3 | 4 | 25 | 21 | 152 |
| 正定値行列 | 7 | 12 | 17 | 9 | 10 | 3 | 1 | 1 | 10 | 17 | 70 |
| 二次形式 | 12 | 8 | 12 | 11 | 6 | 1 | – | 1 | 12 | 16 | 63 |
| ヒルベルト空間 | 4 | 9 | 7 | 6 | 2 | 1 | 2 | – | 2 | 12 | 33 |
| ジョルダン標準形 | 7 | 6 | 6 | 1 | – | 1 | – | 1 | 1 | 14 | 23 |
| 直交対角化 | 9 | 2 | 4 | 2 | 3 | 1 | – | 1 | 1 | 14 | 23 |
| 特異値分解 | 1 | 1 | 1 | – | 2 | 1 | – | – | – | 4 | 6 |
| 年度計 | 138 | 168 | 172 | 127 | 102 | 42 | 30 | 19 | 116 | 914 |
「〜2018」は2004〜2018年度の合計です。数字はテーマ別ののべ件数で、1つの設問が複数テーマに当たる場合は重複して数えています。重複を除いた設問数は702問です。
線形代数を出題する大学・研究科と試験科目
この分野が出た大学×研究科×試験科目は104件。出題数の多い順に24件を挙げます。うち24件は年度別の解答PDF205本を公開しています。
| 大学・研究科 | 試験科目 | 設問 | 出題年度 | 解答PDF |
|---|---|---|---|---|
| 東京大学数理科学研究科 数理科学専攻 | 専門科目B | 41 | 2004〜2026(18年度) | 2004〜2026年度・20本 ¥3,200 |
| 東京大学数理科学研究科 数理科学専攻 | 専門科目A | 35 | 2004〜2026(18年度) | 2004〜2026年度・21本 ¥3,200 |
| 大阪大学情報科学研究科 情報基礎数学専攻 | 数学 | 33 | 2005〜2025(19年度) | 2005〜2025年度・21本 ¥3,200 |
| 京都大学理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 | 専門科目(物理学) | 18 | 2022〜2026(5年度) | 2022〜2026年度・5本 ¥2,880 |
| 東京大学理学系研究科 物理学専攻 | 専門科目(物理学) | 18 | 2014〜2026(12年度) | 2011〜2026年度・15本 ¥3,200 |
| 名古屋大学大学院多元数理科学研究科 | 数学 | 18 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 東京科学大学理学院 数学系 数学コース 修士課程 | 数学 | 17 | 2020〜2025(6年度) | 2020〜2025年度・6本 ¥3,200 |
| 東京大学工学系研究科 物理工学専攻 | 物理学 | 16 | 2013〜2025(12年度) | 2012〜2026年度・15本 ¥3,200 |
| 早稲田大学大学院基幹理工学研究科 | 数学応用数理専攻 専門科目 | 15 | 2022〜2026(5年度) | 2022〜2026年度・5本 ¥2,880 |
| 大阪公立大学大学院理学研究科 数学専攻 | 数学 | 15 | 2024〜2026(3年度) | 2024〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 京都大学情報学研究科 | 先端数理科学コース | 14 | 2021〜2025(5年度) | 2021〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 電気通信大学大学院情報理工学研究科 | 専門科目(機械知能システム学) | 14 | 2020〜2026(7年度) | 2020〜2026年度・7本 ¥3,200 |
| 東京都立大学大学院理学研究科 数理科学専攻 | 数学 | 14 | 2024〜2026(3年度) | 2022〜2026年度・10本 ¥3,200 |
| 東北大学大学院理学研究科 物理学専攻 | 物理学(基礎数学・力学・電磁気学・量子力学・熱統計力学) | 13 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 京都大学理学研究科 数学・数理解析専攻 | 基礎科目 | 12 | 2020〜2026(6年度) | 2020〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 岡山大学大学院環境生命自然科学研究科 数理科学コース | 数学 | 11 | 2024〜2026(3年度) | 2024〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 京都大学情報学研究科 | 数理工学コース | 11 | 2021〜2025(5年度) | 2021〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 千葉大学大学院融合理工学府 数学情報科学専攻 数学・情報数理学コース | 専門科目(A0・A問題・B問題) | 11 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 京都大学情報学研究科 | システム科学コース | 10 | 2021〜2025(5年度) | 2021〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 大阪大学理学研究科 数学専攻 | 数学 | 10 | 2024〜2026(3年度) | 2023〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 東京科学大学工学院 システム制御系 | システム制御系 数学 | 10 | 2021〜2025(5年度) | 2021〜2025年度・7本 ¥3,200 |
| 東北大学大学院情報科学研究科 | 情報基礎科学専攻 数学群 | 10 | 2020〜2025(6年度) | 2020〜2025年度・6本 ¥3,200 |
| 九州大学大学院理学府 物理学専攻 | 物理学 | 8 | 2020〜2025(5年度) | 2020〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 九州大学大学院工学府 機械工学専攻・水素エネルギーシステム専攻 | 機械工学 | 8 | 2023〜2026(4年度) | 2023〜2026年度・4本 ¥2,580 |
線形代数は院試の基礎科目として「全員が一定点を取る」科目と思われがちですが、実際に答案を並べてみると合格者と不合格者の差が最もはっきり出るのもこの分野です。理由は二つあって、一つは出題側が「計算は当然できるもの」として扱う研究科と、「証明の作法が答えられるか」を見ている研究科に二分されていること。もう一つは、固有値問題・ジョルダン標準形・二次形式といった頻出論点が、学部の標準範囲ぎりぎりまで踏み込まれた途端、計算寄りの学習しかしてこなかった外部生が論理の組み立てで足を取られることです。本記事は、外部生がこの分野で何を優先し、どこに比重を置くべきかを、典型失点まで含めて整理した実務マップです。
対角化可能性は固有値だけで決まらない
実数上の二つの行列 A = [[2, 1], [0, 2]] と B = [[2, 0], [0, 2]] を比べます。どちらの特性多項式も (t - 2)² ですが、対角化可能性は逆です。重複固有値が出たら、固有空間の次元まで計算しなければ判定は閉じません。
A = [[2, 1], [0, 2]]
Ker(A − 2I) = span((1, 0))
固有空間の次元は1
最小多項式は(t − 2)²
対角化できない
B = [[2, 0], [0, 2]]
Ker(B − 2I) = ℝ²
固有空間の次元は2
最小多項式は(t − 2)
対角化できる
| 確認項目 | A | B |
|---|---|---|
| 特性多項式 | (t − 2)² | (t − 2)² |
| dim Ker(M − 2I) | 1 | 2 |
| 最小多項式 | (t − 2)² | (t − 2) |
| 判定 | 不可 | 可能 |
一般の n × n 行列では、問題が指定する体を最初に固定し、各固有値の固有空間の次元の和が n になるかを確認します。最小多項式を使う場合は、基礎体上で相異なる一次因子の積へ分解できるかを見ます。複素数上では対角化できても実数上ではできない例があるため、体の確認を答案から落とせません。

京都大学数学教室は大学院入試の過去問題を年度別に公開しています。実際の出題範囲は志望研究科の最新募集要項と公式問題で確認し、演習では京大理学研究科の独自解答や解答の入手方法も参照できます。本節と独自解答は院試hubが制作しており、大学公式解答ではありません。指摘は制作方針と訂正窓口で受け付けます。
学部段階で固めておくべき基礎
- 行列の基本演算:積・転置・トレース・行列式の性質と、行・列基本変形による階数の計算。階数定理(rank A + dim Ker A = n)は反射的に出てくる状態にする
- 線形写像と基底の取り扱い:基底変換行列、表現行列、座標変換。同じ線形写像が基底を変えると行列としてどう変わるかを、相似変換 P⁻¹AP の形で常に意識する
- 行列式の幾何的意味:n次元の符号付き体積、余因子展開、クラメルの公式。det(AB) = det(A)det(B) を「体積の伸縮率の積」として理解しておくと符号で迷わない
- 固有値問題の基本:特性多項式 det(λI − A) = 0、最小多項式、固有空間の次元と幾何的重複度・代数的重複度の区別
- 内積空間の公理:内積の双線形性・対称性(または共役対称性)・正定値性、ノルム、コーシー・シュワルツの不等式。実内積と複素(エルミート)内積の差を最初から意識する
- 商空間と直和分解:V = U ⊕ W の意味、V/U の次元、これらを使った次元定理の言い換え
とくに線形写像と基底変換の対応がブレている状態でジョルダン標準形に手を出すと、計算は追えても「何のために P を取っているのか」が腹落ちしないまま終わります。
論点別に見る出題と失点
線形代数の頻出論点は、それぞれに固有の典型失点があります。論点ごとに「何を答案に残せば部分点を取り切れるか」が違うので、独立に整理した方が頭に残ります。
線形写像と次元定理
頻出は、線形写像 f: V → W の核 Ker f と像 Im f の基底を求めさせる問題、次元定理 dim V = dim Ker f + dim Im f を使った命題証明、商空間 V/U の次元計算です。失点が最も多いのは、線形写像の体(K = ℝ か K = ℂ か)を冒頭で明示しない答案。実数体で考えるか複素数体で考えるかで対角化可能性も固有値の数も変わるので、最初の一行で「以下、体 K = ℝ 上で考える」と書くだけで採点者の心象がまったく違います。次元定理を使う証明では、両辺の次元を別々の方法で計算してから等号を結ぶ「次元勘定」の論証パターンが最も汎用的で、これを意識的に手に染みつかせると証明問題の出力速度が一段上がります。基底変換の表現行列を求める問題では、「f(eⱼ) を新基底 e′ᵢ の線形結合で書いた係数を縦に並べたものが j 列」という規約を答案で一度宣言してから書き出すと、行と列の取り違えによる全滅が防げます。
固有値・固有ベクトルと対角化
頻出は、3×3 程度の具体行列の固有値・固有ベクトルを求めて対角化する計算問題、対角化可能性の判定、行列の指数関数 exp(tA) の計算、同時対角化の条件です。典型失点は、特性多項式から固有値を出した後に固有空間の次元(幾何的重複度)を確認せずに「対角化可能である」と判断してしまう答案。対角化可能性の正しい判定は「すべての固有値について、幾何的重複度 = 代数的重複度」であって、固有値が相異なる場合はその特別な十分条件にすぎません。重複固有値を持つ行列が出てきた瞬間に、(λI − A) の階数を計算して固有空間の次元を確かめる手順を反射的に出せるかどうかが分かれ目です。exp(tA) の計算では、A が対角化可能なら exp(tA) = P exp(tD) P⁻¹ で済みますが、対角化不可能な場合はジョルダン分解を経由する必要があり、ここで対角化可能性の判定が前段として効いてきます。同時対角化の条件「AB = BA かつ A, B がそれぞれ対角化可能」を「正規行列の可換族」の文脈で問う問題は数学系で頻出なので、証明の流れを一度自力で書いておいてください。
ジョルダン標準形
頻出は、4×4 程度の行列のジョルダン標準形を計算する問題、最小多項式と特性多項式の関係を使った命題、一般化固有空間の直和分解の証明です。ジョルダン標準形の問題で最も失点が多いのは、特性多項式と最小多項式を求めて満足して終わる答案。これだけでは部分点しか取れません。本体の論点は「一般化固有ベクトルを巡回的に取る手順」、すなわち固有値 λ に対して (A − λI) を繰り返し作用させて Ker(A − λI), Ker(A − λI)², Ker(A − λI)³ という昇鎖を作り、各レベルで「上のレベルにあって下のレベルにない元」を選んで巡回基底を構成するアルゴリズムを、答案で実際に動かして見せることです。基底を取る順序は「最大ブロックから降りていく」のが安全で、Ker(A − λI)^k のうち k が最大のものから始めて、(A − λI) を作用させて次のレベルに下ろし、足りない分を独立に補う、という手順を答案上で逐次明示します。最小多項式の各因子の冪が最大ジョルダンブロックのサイズに対応する、という事実は計算検算に使えるので、ジョルダンブロックの構成を書き出した後に最小多項式と整合するかを末尾で一行確認するとミスに気付ける確率が高まります。
内積空間と直交化
頻出は、グラム・シュミットの直交化、エルミート行列・対称行列のユニタリ対角化(直交対角化)、正規行列の特徴づけ、最小二乗法の正規方程式です。グラム・シュミットの計算ミス防止には、各ステップで内積 ⟨vᵢ, eⱼ⟩ の数値を答案に残しながら進めること、そして直交化後に必ず一度だけ「⟨e′ᵢ, e′ⱼ⟩ = δᵢⱼ となっていることを確認した」と書き添えることが効きます。手戻りの大半はここの転記ミスです。エルミート行列の対角化問題で最も多い失点は、異なる固有値に属する固有ベクトルが直交することを使う場面で「エルミート行列の異なる固有値の固有ベクトルは直交する」を証明せずに使ってしまう答案。証明そのものは ⟨Av, w⟩ = ⟨v, Aw⟩ を使った3行で済むので、毎回書き添える習慣をつけてしまった方が安全です。正規行列(A*A = AA*)が対角化可能であることの証明は数学系上位校の頻出で、シューア分解からスタートする標準的な流れを一度自力で再現しておいてください。
二次形式と定値性
頻出は、与えられた対称行列の二次形式を標準形に直す、シルベスタの慣性律で署名 (p, q, r) を判定する、正定値性・半正定値性の判定です。失点パターンの中心は、基底変換の行列と座標変換の行列を混同して書く答案。新しい座標 y で q(x) = xᵀAx = yᵀDy と書くとき、x = Py の関係で結ばれていれば A = PᵀDP(合同変換)であって相似変換 P⁻¹AP とは別物だ、という区別を答案で曖昧にしないでください。シルベスタの慣性律で署名を判定する問題は、平方完成で標準形に直す方法と、主小行列式の符号を順に見る方法(シルベスタの判定法)の二通りがあり、後者の方が計算量が小さいので 3×3 程度なら主小行列式法を先に試す習慣をつけると時短になります。正定値性の判定では「すべての固有値が正」「すべての主小行列式が正」「ある正則行列 B が存在して A = BᵀB と書ける」の三つの同値な条件を、問題に応じて使い分ける判断が問われます。半正定値(≥ 0)と正定値(> 0)の不等号の向きをうっかり間違えると全滅するので、答案では最初に「正定値とは ∀x ≠ 0, xᵀAx > 0」と定義を一行書いてから判定に入るのが安全です。