院試 解析力学の出題傾向と対策
院試 解析力学の出題傾向。ラグランジアン・ハミルトニアン・正準変換・ポアソン括弧・対称性と保存則の頻出パターンと、物理系研究科ごとの試験範囲、答案で失点しやすい論点を整理します。
- 出題大学
- 17大学
- 収録した設問
- 262問
- 収録年度
- 2011〜2026年度
- 2024〜2026年度
- 139問
- 試験科目
- 51科目
- 頻出テーマ
- 4テーマ
解析力学 院試の出題傾向 — 頻出テーマ × 年度(2011〜2026年度)
最も多いのは調和振動子で110問(16大学)、 年度別では2023年度の65問が最多です。
| テーマ | 2026 | 2025 | 2024 | 2023 | 2022 | 2021 | 2020 | 2019 | 〜2018 | 大学 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 調和振動子 | 17 | 20 | 15 | 22 | 10 | 10 | 5 | 2 | 9 | 16 | 110 |
| 剛体の回転運動 | 22 | 14 | 20 | 19 | 10 | 5 | 5 | 1 | 7 | 16 | 103 |
| ハミルトン形式 | 12 | 13 | 9 | 11 | 6 | 6 | 5 | – | 10 | 15 | 72 |
| ラグランジアン | 10 | 13 | 12 | 13 | 7 | 4 | 3 | 1 | 5 | 13 | 68 |
| 年度計 | 61 | 60 | 56 | 65 | 33 | 25 | 18 | 4 | 31 | 353 |
「〜2018」は2011〜2018年度の合計です。数字はテーマ別ののべ件数で、1つの設問が複数テーマに当たる場合は重複して数えています。重複を除いた設問数は262問です。
解析力学を出題する大学・研究科と試験科目
この分野が出た大学×研究科×試験科目は51件。出題数の多い順に24件を挙げます。うち24件は年度別の解答PDF151本を公開しています。
| 大学・研究科 | 試験科目 | 設問 | 出題年度 | 解答PDF |
|---|---|---|---|---|
| 東京大学工学系研究科 物理工学専攻 | 物理学 | 20 | 2012〜2026(13年度) | 2012〜2026年度・15本 ¥3,200 |
| 東京大学理学系研究科 物理学専攻 | 専門科目(物理学) | 17 | 2011〜2026(11年度) | 2011〜2026年度・15本 ¥3,200 |
| 大阪大学理学研究科 物理学専攻・宇宙地球科学専攻 | 物理学 | 13 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 名古屋大学大学院理学研究科 | 物理学 | 13 | 2020〜2026(6年度) | 2020〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 京都大学理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 | 専門科目(物理学) | 12 | 2022〜2026(5年度) | 2022〜2026年度・5本 ¥2,880 |
| 九州大学大学院理学府 物理学専攻 | 物理学 | 12 | 2020〜2026(6年度) | 2020〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 広島大学大学院先進理工系科学研究科 物理学プログラム | 物理 | 12 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 電気通信大学大学院情報理工学研究科 | 専門科目(機械知能システム学) | 11 | 2020〜2026(7年度) | 2020〜2026年度・7本 ¥3,200 |
| 千葉大学大学院融合理工学府 先進理化学専攻 物理学コース | 物理学 | 9 | 2021〜2026(6年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 東京科学大学理学院 物理学系 物理学コース | 物理 | 9 | 2020〜2025(5年度) | 2020〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 東京都立大学大学院理学研究科 物理学専攻 | 物理 | 9 | 2024〜2026(3年度) | 2016〜2026年度・19本 ¥3,200 |
| 東北大学大学院理学研究科 物理学専攻 | 物理学(基礎数学・力学・電磁気学・量子力学・熱統計力学) | 9 | 2021〜2025(5年度) | 2021〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 北海道大学大学院理学院 物性物理学専攻・宇宙理学専攻 | 物理学 | 7 | 2021〜2024(3年度) | 2021〜2024年度・3本 ¥2,180 |
| 京都大学工学研究科 機械工学群 | 数学・機械力学・専門科目 | 6 | 2024〜2026(3年度) | 2024〜2026年度・3本 ¥2,180 |
| 東京科学大学理学院 化学系 | 化学系 専門科目 | 6 | 2021〜2024(4年度) | 2021〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 九州大学大学院工学府 機械工学専攻・水素エネルギーシステム専攻 | 機械工学 | 5 | 2023〜2026(3年度) | 2023〜2026年度・4本 ¥2,580 |
| 筑波大学大学院数理物質科学研究群 物理学学位プログラム | 物理 | 5 | 2024〜2026(3年度) | 2020〜2026年度・6本 ¥3,200 |
| 筑波大学大学院理工情報生命学術院 数理物質科学研究群 応用理工学学位プログラム 電子・物理工学サブプログラム | 専門科目 | 5 | 2025〜2026(2年度) | 2025〜2026年度・4本 ¥2,580 |
| 東京科学大学物質理工学院 材料系 | 材料系 B日程筆答専門試験 | 5 | 2021〜2025(4年度) | 2021〜2025年度・5本 ¥2,880 |
| 東京大学情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 | 知能機械情報学 | 5 | 2016〜2020(4年度) | 2016〜2020年度・5本 ¥2,880 |
| 名古屋大学大学院情報学研究科 | 複雑系科学 | 5 | 2024〜2026(3年度) | 2024〜2026年度・3本 ¥2,180 |
| 京都大学理学研究科 地球惑星科学専攻 | 地球惑星科学専攻 基礎科目 | 4 | 2023〜2026(3年度) | 2022〜2026年度・5本 ¥2,880 |
| 九州工業大学大学院情報工学府 | 専門科目(物理情報工学) | 4 | 2025〜2026(2年度) | 2025〜2026年度・2本 ¥1,680 |
| 大阪公立大学大学院理学研究科 物理学専攻 | 物理 | 4 | 2023〜2025(3年度) | 2023〜2026年度・4本 ¥2,580 |
解析力学と設問が重なる他分野の頻出テーマ
- 固有振動数と振動系 16大学71問 — 集計は院試 4力(材料力学・流体力学・熱力学・機械力学)の出題傾向と対策側
解析力学は、物理系の院試において「ここで合否が決まる」性格を持った分野です。理由は単純で、量子力学と統計力学の答案を支える文法そのものだからです。ハミルトニアンの定義が曖昧なまま正準量子化に進めば、シュレディンガー方程式の導出で躓きます。一般化座標と運動量の対が頭に入っていない学生は、統計力学の位相空間と分配関数の議論で時間を吸われます。学部のニュートン力学から、ラグランジュ形式・ハミルトン形式へとどう橋を架けるか。その橋の架け方そのものを問うのが院試の解析力学であり、これは「公式を当てはめる」科目ではなく「形式論を手で動かせるか」を問う科目です。本記事では答案で落としやすい論点を整理します。
学部段階で固めておくべき基礎
- ニュートン力学:力・運動量・角運動量・エネルギー保存の使い分け、慣性座標系と非慣性座標系の関係
- 線形代数:対称行列の固有値問題と直交対角化、基底変換、二次形式。基準振動と慣性テンソルで全面的に使う
- 偏微分の連鎖律:合成関数の偏微分、ヤコビアン、全微分。ルジャンドル変換と正準変換の計算で必須
- 常微分方程式:定数係数線形系、連立線形系の固有値解法。結合振動子の基準モード解析で使う
- 変分法の基礎:オイラー=ラグランジュ方程式の導出、束縛条件付き変分(ラグランジュの未定乗数法)
- ベクトル解析:勾配・回転、運動量場・角運動量場の取扱い。ネーターの定理の応用で使う
特に偏微分の連鎖律と変分法の基礎は、学部の物理講義ではあっさり扱われがちな割に、解析力学の答案では繰り返し使う技術です。ここが手で動かないままだと、ラグランジアンを書いた後の偏微分でつまずき、最後の結果まで辿り着けません。
論点別に見る出題と失点
解析力学の出題は論点ごとに答案作法が独立しているため、頻出論点を一つずつ整理しておく方が頭に残ります。以下、5論点について典型問題と失点パターンを並べます。
ラグランジュ形式と一般化座標
頻出は、単振り子・二重振り子・回転座標系内の質点、束縛条件のある質点系のラグランジアン構築、オイラー=ラグランジュ方程式の導出です。最大の失点源は、一般化座標の取り方が複数あり得る系で「自分が取った座標」を冒頭で明示しないこと。二重振り子で θ₁・θ₂ を鉛直からの角度で取るか、上のリンクと下のリンクの相対角で取るかによってラグランジアンの形は変わり、両者で答えの表式は異なって見えるのに、採点者は「どちらか」を採点基準として持っています。冒頭で「一般化座標を (θ₁, θ₂) とし、θᵢ は鉛直下向きから測った角度」と一行書くだけで、その後の式変形が採点基準と照合可能になります。もう一つの典型失点は、運動エネルギー T を一般化速度で書き直す前に ∂L/∂q̇ᵢ を計算してしまうこと。T を直交座標の ẋ・ẏ のまま残してオイラー=ラグランジュ方程式に代入すると、変数の分離が曖昧になり、最後に得られる運動方程式が一般化座標についての二階微分方程式になりません。束縛条件のある系では、独立な自由度の数 f = 3N − k (N 個の質点・k 個の束縛)を必ず冒頭で示してから、一般化座標を選ぶ順序を守ってください。
ハミルトン形式と正準変換
頻出は、ラグランジアンからハミルトニアンへのルジャンドル変換、正準方程式 q̇ᵢ = ∂H/∂pᵢ ・ ṗᵢ = −∂H/∂qᵢ の導出、母関数による正準変換、ハミルトン・ヤコビ方程式の典型応用(自由粒子・調和振動子)です。失点の温床は2つあります。一つは、運動量 pᵢ = ∂L/∂q̇ᵢ を解いて q̇ᵢ を pᵢ の関数で書き直す手順を省略すること。H = ∑ pᵢ q̇ᵢ − L という置換の途中で q̇ᵢ がそのまま残ったハミルトニアンを書いてしまう答案は珍しくありませんが、これは形式上ハミルトニアンとは言えず、定義の不備として大きく減点されます。もう一つは、正準変換の母関数の選択ミスです。母関数には F₁(q, Q)・F₂(q, P)・F₃(p, Q)・F₄(p, P) の4種類があり、問題で与えられる関係式(旧変数と新変数のどの組がデータとして与えられているか)によって選ぶべきものが決まります。F₂(q, P) が適切な問題で F₁(q, Q) を選ぶと、p = ∂F/∂q や Q = −∂F/∂P の関係式が成立せず、変換が破綻します。本式に入る前に「与えられた旧変数と新変数の組」を確認し、対応する母関数の種類を一行書く習慣を付けてください。
ポアソン括弧と保存量
頻出は、ポアソン括弧の定義と代数的性質(双線形性・反対称性・ライプニッツ則・ヤコビ恒等式)、基本括弧 {qᵢ, pⱼ} = δᵢⱼ の確認、保存量の判定({F, H} = 0 ならば F は保存量)、角運動量成分の括弧関係 {Lᵢ, Lⱼ} = εᵢⱼₖ Lₖ です。最大の失点は、ハミルトン形式に変換せずラグランジアンと混同したままポアソン括弧を計算してしまうこと。ポアソン括弧は (q, p) を独立変数とする位相空間上で定義されるため、計算の前にハミルトニアンと共役運動量 p が手元にある状態を作っておかなければなりません。q̇ を残したまま「ラグランジアンとの括弧」を計算した答案は、定義違反として点が来ません。もう一つの典型失点は、ヤコビ恒等式 {{A, B}, C} + {{B, C}, A} + {{C, A}, B} = 0 を機械的に書き写すだけで、なぜそれが保存量の代数を閉じさせる根拠になるかを答案で説明しないこと。保存量 F・G が両方ハミルトニアンと交換すれば {F, G} もまた保存量になる、というポアソンの定理を一行で述べてから具体計算に入ると、論証が完結します。
振動論との接続(基準モード)
頻出は、結合振動子(連結バネ・連結振り子)の小振動近似、平衡点まわりのテイラー展開、質量行列 M と剛性行列 K の構成、固有値方程式 |K − ω²M| = 0 の解法、基準モードと基準座標、対角化による独立振動への分解です。失点の温床は平衡点まわりの展開を省略すること。「小振動」と書いてあるのに、ラグランジアンを平衡点まわりで二次までテイラー展開する手順を飛ばして、いきなり線形化された運動方程式から始めると、なぜ M と K が定数行列になるのかの論理が抜けます。本式の前に「平衡点 qᵢ = qᵢ⁽⁰⁾ のまわりで ηᵢ = qᵢ − qᵢ⁽⁰⁾ を小量として二次まで展開する」と一行書き、L = ½ ∑ Mᵢⱼ η̇ᵢ η̇ⱼ − ½ ∑ Kᵢⱼ ηᵢ ηⱼ の形を導いてから固有値計算に入ってください。基準モードを書く際は、正規化規約(最大成分を1にする・質量行列で正規化する等)を冒頭で宣言する。これを怠ると、固有ベクトルが定数倍だけ採点基準と違って一致を確認できなくなります。
剛体運動(オイラー角・慣性テンソル)
頻出は、剛体の慣性テンソルの計算、主軸変換、オイラー角による回転の記述、オイラーの運動方程式、独楽(コマ)の歳差運動と章動です。慣性テンソルの計算では、座標系の取り方(重心系か固定点系か)と回転軸の方向を冒頭で図と式の両方で示してください。これが曖昧だと、平行軸定理(シュタイナーの定理)を使う場面で「どの軸からどの軸への移動か」が読み取れず、項の符号・係数を採点者が追えなくなります。オイラー角の問題では、用いる規約(z-x-z 規約か z-y-z 規約か)を明記すること。教科書ごとに採用規約が違い、答えの表式は規約に依存するため、規約を書かない答案は採点基準と照合できません。独楽の歳差・章動では、対称軸まわりの角運動量が保存することを最初に示してから、有効ポテンシャルの形に持ち込む順序を守ると、議論が一本道で進みます。