東大 工学系研究科 物理学 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説2項目)
解説2項目の分野は電磁気学・回路1項目、力学1項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。原題の条件だけでは答えが一つに決まらないため、確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 剛体の力学:球への撃力と段差の乗り越え
I 一様な球の慣性モーメント
慣性モーメントの定義と円板分割
固定軸のまわりに角速度 で回る剛体の微小質量 の速さは である。各部分の運動エネルギーを足せば となる。この係数 が慣性モーメントで、単位は質量と長さの二乗の積である。球対称な一様球では、重心を通るどの軸についても同じ値になる。
半径 の一様な薄い円板では、環状部分の質量を として となる。球を の位置で切った円板の半径は なので、答案の積分が得られる。円板の半径をすべて としてはいけない。
別の積分による確認
球座標では 、 である。よって となり、円板分割と一致する。
薄い球殻との取り違え
一様な「中身の詰まった球」では質量が内部にもある。一方、すべての質量が表面にある薄い球殻の慣性モーメントは であり、本問へ使うと自転のエネルギーを 倍に見積もる。後の撃力の高さも ではなく へ変わってしまう。密度が体積で一様か、表面で一様かを区別する。
II.1 すべらない転がりの条件
剛体の速度の分解
剛体の任意の点Pの速度は である。これは位置の式 を微分し、剛体内の相対位置が回転だけで変化することを使えば得られる。本問では が紙面の奥向き、接触点までの位置が下向きなので、外積は左向きとなる。
すべらないとは、床と接している球の点が、その瞬間に床に対して動かないという条件である。球の重心が静止するという意味ではない。床も静止し、変形を無視した剛体として扱うことが、この条件を使う前提である。
上端と接触点で確かめる
のとき、接触点では速度が 、上端では となる。重心は速さ で進む。これらの値は、接触点を瞬間の回転中心と見た速度分布にも一致する。
ただし、接触している「球の物質点」は時刻とともに入れ替わる。接触点の速度が零でも、同じ物質点の加速度まで零になるとは限らない。瞬間回転中心という見方を、固定された支点と取り違えない。
符号を逆にした式の誤り
と書くと、 に対して 、すなわち反時計回りを要求する。しかし右へ進む球が反時計回りなら、接触点は右へさらに動き、床に対してすべる。本問は時計回りの大きさを と定めたので、相殺すべき二つの速度の向きを先に図で確認してから と置く。
II.2 撃力を与える高さと初速度
力積と角力積の導出
運動方程式 を撃力が働く短時間で積分すると、 となる。右辺が力積であり、 の単位は力ではなく運動量である。同様に、重心まわりの式 を積分すれば角運動量の変化は角力積に等しい。撃力の間に球の姿勢がほとんど変わらない理想化では、腕 を一定として外へ出せる。
床の作用と撃力の高さ
床上の球へ水平な撃力を与え、直後からすべらない条件を満たす高さを探している。鉛直運動量は変わらないので、撃力の極限で床から特別な鉛直力積は必要ない。重力や通常の垂直抗力は有限の力であり、その短時間積分は零に近づく。有限の摩擦係数で扱う通常の接触なら、床からの水平力積もこの極限では零である。
そのため、水平運動量の増加は 、重心まわりの角運動量の増加は と書ける。 では、撃力だけで並進と自転の比が転がり条件に一致する。最初にすべりを起こし、その後の摩擦で転がりへ移る場合とは条件が違う。
二つの式へ戻す検算と腕の誤り
得られた値を代入すると 、 がともに成り立つ。また なので、球の上半分の実際に打てる高さにある。
重心まわりの腕を床からの高さ と取り違え、 とすると になる。しかしその高さは重心より下であり、右向きの撃力は反時計回りに回そうとする。腕は「どの点のまわりに角運動量を計算するか」で決まる。本問の重心まわりでは である。
III なめらかな坂をのぼるための撃力
すべらない静止摩擦は散逸を表さない
剛体の運動エネルギーは重心の並進と重心まわりの回転の和である。 を使うと となる。回転分を落とさず、両方のエネルギーを含める。
床と接する球の点の速度が零なら、そこで働く垂直抗力と静止摩擦力の仕事率は である。摩擦力が自転と並進のエネルギー配分を変えても、合計を散逸させるとは限らない。本問は転がり摩擦を無視し、すべりも跳躍もないと指定しているため、撃力後の区間では重力による位置エネルギーとの交換だけを考えられる。
球の重心が上がる高さ
上面も下面も水平で、球の半径は変わらない。重心の高さは下面で 、上面で だから、増分は である。坂の途中の速さは、その位置での重心上昇を として で確かめられる。右辺が負になる高さには到達しない。等号の限界を含めるかは、上面へ達する限界をいうのか、有限の速さで通過するのかを区別する。
回転エネルギーを落とした誤答
並進分 だけを と比べると、 となり、正しい限界値の 倍を要求する。球の自転も坂をのぼる際の位置エネルギーへ変換されるため、この答えは必要な撃力を過大に見積もる。また は運動量の単位 を持ち、 で零になる。
IV.1 段差衝突の前後でのエネルギー
弾まない衝突で使う保存則
衝突の間、接触力は短時間に大きな力積を与え、球の重心速度と自転を変える。その過程では変形や振動などへエネルギーが移り、弾まないという条件は衝突前後の運動エネルギー保存を保証しない。ここで役立つのは、接触力の作用点Qまわりの角運動量である。Qでの力積はQまわりのモーメントを持たず、重力の力積は衝突時間の極限で無視できるため、この角運動量は保存できる。
衝突後にエネルギー保存へ戻れる理由
原題は、衝突後の球がQを中心に回転し、弾まずに段差を越える運動を指定している。その区間でQが固定接触点として働けば、接触力の仕事率は零である。重力は保存力なので を使える。衝突時の散逸と、その後の保存的な運動を一つの式で連続につないではならない。
エネルギー損失の符号と誤った比較
なら 、 であり、答案の損失は確かに正である。 では損失も零となり、段差のない運動に戻る。
衝突前の をそのまま位置エネルギーと比較すると、IIIと同じ を答えることになる。しかし段差では なので、その撃力では衝突後にエネルギーが足りない。例えば では であり、衝突前のエネルギーの半分以上が失われる。
IV.2 Qまわりの衝突直後の角速度
角運動量を並進と自転に分ける
固定点Qまわりの角運動量は となる。これは各質量の位置を 、速度を重心速度と相対速度へ分け、重心の定義により交差項が消えることから導かれる。並進速度は水平なので、その腕はQと重心の鉛直距離 である。重心とQの距離そのものの ではない。
平行軸の定理と衝突後の拘束
平行な軸へ距離 だけ移したとき、慣性モーメントは となる。質量ごとに二乗距離を展開すると、重心からの一次の項が で消えるためである。Qは球の表面上にあり なので、 を使う。
衝突後はQまわりの剛体回転として扱うため、重心の速さも となる。この並進分をすでに含む慣性モーメントが である。 にさらに を足すと二重に数えてしまう。
自作解説図:Qまわりの並進角運動量に使う腕
極限と誤った腕の検算
なら となり、段差が消える極限と合う。 では であり、衝突後の回転速度は小さくなる。
並進項の腕を誤って とすると 、 となり、 がいくら高くなっても速度が変わらないという誤答を生む。Qから重心へ引いた線が長さ でも、水平運動量との外積に必要なのはその鉛直成分 である。
IV.3 段差を乗り越えるための撃力
段差の上で必要な位置エネルギー
Qを中心に回る間、重心は半径 の円弧を進む。初めの重心の高さは下面から 、Qの真上では なので上昇量は である。重心がQの真上に来るところが乗り越えの位置エネルギーの最大であり、そこを越えれば上面へ進める。ここでは原題が指定した、弾まずQを中心に回る運動を用いている。
衝突の損失を含めた比較
IIIのなめらかな坂の限界を とすると 同じ高さでも段差のほうが大きな撃力を要する。これは、坂ではない衝突過程でエネルギーが失われるためである。例えば ならこの比は であり、撃力はなめらかな坂の場合の約1.56倍必要になる。
ではこの比が1へ近づき、両方の限界値自体は零へ近づく。 の単位は 、すなわち運動量である。 の範囲では分母は正で、絶対値を落とす操作にも問題がない。
衝突前の保存を仮定した誤り
と置いた を本問へ代入すると となり、確かに段差を越えるためのエネルギーが不足する。衝突でQまわりの角運動量を保存し、その結果から求めた を使う順序が必要である。式だけでなく、保存則を適用する区間を答案へ書くと、誤った保存の使い回しを避けられる。
解答
I 一様な球の慣性モーメント
重心を通り紙面に垂直な軸からの距離を とすると、慣性モーメントは である。軸に沿う座標を 、体積密度を とし、厚さ の円板に分けると したがって
II.1 すべらない転がりの条件
球の重心の速さを 、時計回りの角速度の大きさを とする。床との接触点は、自転によって重心に対し左向きに速さ で動く。したがって床に対する接触点の速度は である。すべらなければこれが零なので
II.2 撃力を与える高さと初速度
撃力の力積の大きさを とすると、重心の水平運動量の変化は 重心に対する撃力の腕は であり、角力積と角運動量の関係は と を代入すると したがって である。
III なめらかな坂をのぼるための撃力
撃力直後の運動エネルギーは すべらず、弾むこともなく進むという条件では、その後の力学的エネルギーが保存される。重心が高さ だけ上がるため、上面へ達するエネルギー条件は
IV.1 段差衝突の前後でのエネルギー
段差の角Qへの衝突は弾まないため、衝突の瞬間に運動エネルギーの一部が失われる。衝突後にQまわりへ回転して上がる区間では、Qの接触点が動かず仕事をしないので、運動エネルギーと重力位置エネルギーの和が保存される。
実際、後で求める を使えば、衝突前後の差は となる。
IV.2 Qまわりの衝突直後の角速度
衝突直前の重心はQより だけ高い。Qまわりの時計回りの角運動量は、重心の並進に由来する項と自転に由来する項の和なので 平行軸の定理から である。Qまわりの角運動量を保存させれば 、したがって
IV.3 段差を乗り越えるための撃力
衝突直後の運動エネルギーは 上面へ移るまでの重心の上昇は なので、原題のQまわりの運動モデルでは が限界条件となる。 により だから
最終答
。
。 上面を通過するには 、等号は上面で速さが零となる限界である。
衝突時は力学的エネルギーが減少し、衝突後の乗り越え運動では保存される。
。 段差上を通過するには 、等号は重心がQの真上へ達する限界である。
第2問 — 電磁気学:平行導線の電場・伝送線路・導体平面
一部の確定答案なし
I.3・I.4は、一様電荷分布による対向表面点間の電位差とその比Q/Vを解答し、厳密な等電位導体の容量とは区別しています。III.1は初期内部磁束を零とする通常の鏡像解を収録していますが、指定のない初期磁束まで含む静的な力は一意に断定していません。I.1・I.2・I.5、II.1・II.2、III.2の増分インダクタンスはこの限定の対象に含めず、各モデルの成立条件と解答を収録しています。
I.3・I.4では、一様電荷分布から求めた対向表面点間の電位差と、導体全体が等電位である場合の電位差を区別する。一様分布の場は、もう一方の導線までの距離が円周上で変わるため、各円筒全体を厳密には等電位にしない。PDFでは原題の一様モデルの計算と、等電位導体として解く場合の違いを説明している。
III.1の接地は静電位を定める条件であり、無損失平面の初期磁束そのものは定めない。PDFには初期内部磁束が零という通常の解釈による力を収録し、任意の初期磁束まで含む力は断定していない。III.2は固定された初期磁束を除いた増分応答 を扱うため、この限定に含めない。
年度別の解答例(6年度)
力学:拘束が変わる二質点系と重心運動 / 電磁気学:電気双極子・導体球・磁気双極子
2025年度(このページ・解説2項目)
剛体の力学:球への撃力と段差の乗り越え / 電磁気学:平行導線の電場・伝送線路・導体平面
剛体の力学:ばねに結ばれた円板の転がりと衝突 / 静電気学:一様電荷中の運動と誘電体境界の鏡像法
振動:固定支点・ばね支点・強制変位の振り子 / 電磁気学:同軸導体の静電誘導と平面波の反射・透過
力学:一様な棒の振り子と衝突 / 電磁気学:同軸円筒の磁界・漏れ電流・誘電体界面
力学:ばねにつながる物体への衝突と再衝突 / 電磁気学:動く導体棒と抵抗・コンデンサ
2025年度の出題内容
解説2項目
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 2問 → 2025年度 2問
東京大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2017〜2026
- 公式の解答例
- 解答例の掲載なし
- 英語の扱い
- TOEFL iBT/ITP のスコア提出。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-22