立教大学 理学研究科 物理学専攻 物理学 2025年度 春季(2025年2月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全4問)
全4問の分野は電磁気学・回路1問、量子力学1問、力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 解析力学:ケプラー運動のラグランジアンと近星点・遠星点速度
方針
極座標の速度の 乗は である。 の を落として とする誤りが最も多いので、 の形を一度書いておくとよい。
符号の確認
は負である。無限遠で 、近づくほど小さくなるので、束縛された軌道では力学的エネルギーが負になる。楕円軌道の条件と整合する。
失点しやすい点
「 より恒星は動かない」という近似を明示する。厳密には換算質量 を使うが、本問では としてよい。
設問(b) ラグランジアン
符号
が負なので は正になり、 の第 項は である。ここで符号を落とすと(c)の運動方程式で引力が斥力になる。
が現れないこと
は を含まない(循環座標)。この時点で に共役な運動量 が保存することが読める。(c)で確認する。
失点しやすい点
としない。ハミルトニアンが 、ラグランジアンが である。
設問(c) 運動方程式
各項の意味
は遠心力(見かけの力)、 は万有引力である。動径方向の方程式はこの つの釣り合いで軌道の形を決める。
方程式が保存則になる理由
が を陽に含まないので となり、共役運動量 が保存する。これがケプラーの第 法則(面積速度一定)である。面積速度は で一定になる。
失点しやすい点
で第 項 を で微分すると になる。符号を追う。
設問(d) 近星点速度と遠星点速度の関係
方針
比を出すだけなら角運動量保存の 本で足りる。エネルギー保存を持ち出す必要はない。 つの保存量のうちどちらが何を決めるかを意識すると、(e)への流れが自然になる。
検算
(円軌道)なら となり、速さが一定という円運動の性質と一致する。 で となり、細長い軌道では近星点で急激に速くなることを表す。
失点しやすい点
を根拠として書かないと、 としてよい理由が示せない。 の極値であることを明記する。
設問(e) と の値
検算
とすると で、半径 の円軌道の速さ に一致する。 また という関係が成り立ち、 に依存しない。
別解
ヴィス・ヴィヴァ方程式 を既知として使えば、 を代入して と直ちに得られる。ただしこの式自体はエネルギー保存と長半径の定義から導かれるので、本問では上の手順を踏むのが安全である。
背景
が成り立つ(長半径だけでエネルギーが決まる)。実際 を代入すると となる。
失点しやすい点
の因数分解で約分を誤りやすい。 が両辺に現れて消えることを確認する。
解答
座標系の設定
恒星は より静止しているとみなせる。恒星の中心を原点とする 次元極座標 で惑星の位置を表す。直交座標との関係は 、 である。
運動エネルギー
速度の成分は動径方向が 、方位方向が で、この つは直交する。よって
位置エネルギー
万有引力 (引力)に対し、無限遠を基準()とすると
定義
だから
についての方程式
だからオイラー・ラグランジュ方程式 より
についての方程式
だから
原本の誤植について
設問文には「近星点距離 と遠星点距離 」と印刷されているが、 つが同じ式では近星点と遠星点が区別できない。楕円の定義から遠星点距離は であり、第 式は誤植と読む。以下 、 とする。
近星点・遠星点では速度が動径に垂直
が極値をとる点だから であり、速度は方位方向成分 のみになる。したがって 、 である。
角運動量保存の適用
だから、この 点で
エネルギー保存
力学的エネルギー は保存するから、近星点と遠星点で
(d)を代入
を代入すると左辺と右辺の速度項の差は 位置エネルギー項の差は
の決定
両者を等置して を約すと (d)より だから
最終答
、
、(角運動量 は保存)
、
第2問 — 電磁気学:一様電場中に置かれた導体球
符号
電場は電位の高い方から低い方へ向く。 なら が大きいほど電位は低く、 は確かに の増加とともに減る。
失点しやすい点
と符号を落とすと(d)の無限遠条件が逆になる。 のマイナスを最初に書く。
基準点の取り方
電位には定数の任意性があり、設問は原点を と指定している。無限遠を基準に取れないのは、一様電場が無限遠まで続くため が発散するからである。(c)(d)では有限系なので無限遠を基準に戻る。
設問(b) 極座標表示
に依らないこと
一様電場は 軸のまわりに軸対称だから、電位は方位角 を含まない。この対称性が(d)で という形を仮定してよい根拠になる。
が現れる意味
は のルジャンドル多項式 である。一様電場は の成分だけをもつので、導体球を置いても の項しか現れない。
失点しやすい点
を 軸からの角(極角)と取るか 平面からの角(緯度)と取るかで と が入れ替わる。設問の図に従い極角とする。
設問(c) 孤立した帯電導体球の外部電位
方針
球対称なのでラプラス方程式を解くまでもなく、ガウスの法則で 行で決まる。 の成分だけからなる場である。
検算
球面 での電位は で、導体内部も同じ値の等電位になる。導体内部の電場が であることと整合する。
失点しやすい点
では は一定()であって ではない。設問は球外を問うているので の式を答える。
設問(d) 一様電場中の導体球の外部電位
第2項の意味
は、原点に置かれた電気双極子の電位 の形をしている。比較すると誘起双極子モーメントは である。導体球は外場に応じて双極子として振る舞う。
全電荷が であること
の項( の形)を入れなかったのは、全電荷が で接地されていないためである。もし電荷 を与えれば(c)の項が重なる。
検算
で 、 で の両方を満たす。また とすれば第 項が消えて一様電場に戻る。
失点しやすい点
一般解を ではなく としない。()に対応する動径解は と である。
設問(e) 電気力線と等電位線
図で押さえるべき点
点を落とさない。第 に電気力線が導体表面に垂直であること、第 に球の近くで力線が球を避けるように曲がること、第 に赤道面()が球面と同電位でつながっていることである。
力線の疎密
北極・南極()付近では力線が集まり電場が強く、赤道付近では疎になる。この疎密が(f)の表面電荷密度の 依存に対応する。
失点しやすい点
導体内部にも力線を描かない。導体内部は電場 で等電位である。
設問(f) 表面電荷密度
検算:全電荷
となり、全電荷 という設定と一致する。
双極子モーメントとの整合
となり、(d)で読み取った誘起双極子モーメントと一致する。
値の意味
北極()で 、南極で 、赤道で である。一様電場だけのときの の 倍になるのは、導体が電場を集めるためである。
失点しやすい点
のマイナスと、 の中の のマイナスが重なって符号が戻る。段階を分けて書く。
第3問 — 量子力学:非調和振動子とハイパービリアル関係式
次元の確認
は長さの次元をもち、調和振動子の特性長 である。 はエネルギーの次元で、調和振動子の基底エネルギー に等しい。 は無次元で、非調和項の強さを測る。
検算
とすると で となり、固有値は 。 より で、調和振動子のエネルギー準位に一致する。
失点しやすい点
の係数を と書くとき、 の 乗を落とさない。
設問(b)
方針
に何も仮定していないのがこの恒等式の強みである。 を選ぶたびに新しい関係式が 本得られ、(c)(d)(e)はその使い分けにすぎない。
必要な仮定
がエネルギー固有状態であること、 がエルミートで が実であることの 点である。定常状態でない一般の状態では成り立たない。
失点しやすい点
を書くときにエルミート性と の実性を使う。ここを省くと が残る。
設問(c) ビリアル定理
ビリアル定理としての読み方
一般に の形のポテンシャルでは が成り立つ。ここでは 、、 で、 となり上と同じである。
エネルギーとの関係
にビリアル定理を代入すると が得られる。これは(e)で とした場合に一致する。
失点しやすい点
を計算するとき、 なので だけが残る。展開公式 を使う。
設問(d) の関係式
が現れる理由
はエルミートでないので、その期待値は一般に複素数になる。実際 だから、 の実部は 、虚部が にあたる。上式はその虚部だけが残ることを述べている。
検算
とすると 、 で となる。実際 で、対称化された部分の期待値は定常状態で 、残りが である。
失点しやすい点
の符号を落とさない。 の向きから決まる。
設問(e) ハイパービリアル関係式
検算:
第 項が消えて 、すなわち となる。これは(c)のビリアル定理を に代入した結果と一致する。
検算:
の場合にあたり、、すなわち が出る。これは定常状態で平均の力が になるというエーレンフェストの定理である。
この関係式の使い道
を と動かすと、 たちを結ぶ漸化式の族が得られる。 の摂動展開と組み合わせると、非調和振動子のエネルギー準位を数値的に高精度で求める方法(ハイパービリアル摂動法)になる。
失点しやすい点
の書き換えで の期待値を とできるのは、 が右側の に作用するからである。順序を逆にすると使えない。
第4問 — 統計力学:リング上のハードコア格子気体と転送行列
方針
「全体から隣接するものを引く」が最短である。リングでは辺の本数が頂点数と同じ 本になる点が、直線鎖( 本)との違いである。
失点しやすい点
では と がともに「向かい合う」配置で、これ以外にないことを確認する。粒子は区別できないので と を別に数えない。
リングと直線の違い
同じ でも直線状に並んだ格子なら の 通りが可能で、 になる。リングでは と が隣接するため 通り減る。この差が(c)の と直線鎖の の違いに対応する。
設問(b)
母関数の意味
は絶対活動度(フガシティー)にあたり、 はグランドカノニカル分配関数である。 の次数が粒子数、係数が縮重度を表す。
検算
とすると で、粒子が 個の配置が 通りであることと合う。
失点しやすい点
の項を落とさない。空配置も 通りの配置である。
設問(c)
検算
とすると で、設問文にある と一致する。 とすると で(a)と一致する。 なら で、正五角形の「対角線」の本数と等しい。
が必要な理由
のリングでは格子 と が 本の辺で結ばれ、辺の本数が に等しいという前提が崩れる。設問が としているのはこのためである。
失点しやすい点
隣接する組の個数をリングで とすると直線鎖の数え方になる。リングは端がないので 本である。
設問(d) 転送行列による
の意味
各粒子は左隣との辺と右隣との辺の両方に現れるので、 を半分ずつ振り分けて と にしている。 個の辺をすべて掛け合わせると、粒子 個あたりちょうど になる。因子 は隣り合う占有を禁止する。
検算
、 である。ニュートンの公式で冪和 を計算すると 、、、 となり、(b)の と一致する。
背景
とすると はリング上の「隣接しない部分集合」の総数で、リュカ数 に一致する。 が黄金比とその共役になるためである。
失点しやすい点
周期境界条件 があるからトレースになる。開いた鎖ならベクトルで挟む形になり、固有値の 乗の単純な和にはならない。
設問(e)
方針
転送行列の最大固有値だけが熱力学極限に効く、というのは統計力学の標準的な事実である。 の寄与は として指数的に消える。
の意味
では配置に重みを付けないので、 はリング上の隣接しない配置の総数である。 はその総数の増大率の対数、すなわち 格子あたりのエントロピー(ハードコア格子気体の残留エントロピー)を表す。黄金比が現れるのは、この数え上げがフィボナッチ型の漸化式に従うためである。
検算
で (リュカ数 )。 で、極限値 に近い。
失点しやすい点
は で負である。 を絶対値で比較する。 が振動するが大きさが小さいので極限には影響しない。
年度別の解答例(6年度)
2025年度 春季(2025年2月実施)(このページ・全4問)
解析力学:ケプラー運動のラグランジアンと近星点・遠星点速度 / 電磁気学:一様電場中に置かれた導体球 / 量子力学:非調和振動子とハイパービリアル関係式
力学:ロケットの運動方程式とツィオルコフスキーの式 / 電磁気学:ビオ・サバールの法則から円電流の磁場まで / 量子力学:時間依存2準位系と相互作用表示での摂動論
解析力学:円筒座標での中心力運動とラグランジュ方程式 / 電磁気学:球形コンデンサーの電場・電位・静電容量 / 量子力学:デルタ関数ポテンシャルの束縛状態
力学:棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子 / 電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス / 量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系
力学:減衰と外力を受ける振り子の共鳴 / 電磁気学:電気双極子が作る場と外場から受ける力・トルク / 量子力学:半直線上の調和振動子
解析力学:二重振り子の微小振動と基準モード / 電磁気学:磁気モーメント・磁気回転比・g 因子 / 量子力学:無限井戸に置かれたデルタ関数障壁
2025年度 春季(2025年2月実施)の出題内容
全4問
前年度(2025年度 夏季(2024年7月実施))との違い
- 大問数
- 2025年度 夏季(2024年7月実施) 6問 → 2025年度 春季(2025年2月実施) 4問
立教大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2004年度以降の夏季・春季(直近は2023〜2025年度)
- 公式の解答例
- 一部の年度・科目のみ公開
- 英語の扱い
- 英語は外部試験のスコア提出。専門科目の物理学のみ問題を掲載している。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-06