立教大学 理学研究科 物理学専攻 物理学 2023年度 春季(2023年2月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全4問)
全4問の分野は電磁気学・回路1問、熱・統計力学1問、量子力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 力学:減衰と外力を受ける振り子の共鳴
方針
糸の張力は支点を通るのでトルクを生まない。回転の運動方程式 に を入れるだけで済む。
失点しやすい点
を最初から にしない。近似は(b)以降で使うと明記されている。
振り子として扱える条件
「糸が張った状態」という但し書きが重要である。糸がたるむ( が大きく張力が になる)場合は円弧上の運動でなくなり、この方程式は使えない。
設問(b) 単振動の角振動数
検算
次元は で合う。 が長いほどゆっくり振れる、という単振り子の性質と一致する。
が消えること
復元トルクも慣性モーメントもともに に比例するので質量が約分される。単振り子の周期が質量によらない理由である。
失点しやすい点
は角振動数であって周期ではない。周期は である。
設問(c) 空気抵抗を含む運動方程式
方針
力ではなくトルクで書く。抵抗力に腕の長さ を掛けるのを忘れると、 の係数が になってしまう。
減衰定数
(e)で使う標準形 と比べると 、すなわち である。
失点しやすい点
を使わずに で表すという指示に従う。 を代入する。
設問(d) 外力トルクを含む運動方程式
の次元
はトルクの次元をもつので は角加速度の次元になる。標準形の に対応する。
失点しやすい点
外力は「力」ではなく「トルク」として与えられているので、 を掛けずにそのまま右辺に足す。ただし で割る操作は必要である。
定常解と過渡解
(d)の方程式の一般解は、減衰する斉次解と外力の振動数で振動する特殊解の和である。時間が経つと斉次解は減衰して消え、(e)で扱う特殊解だけが残る。
設問(e) 共鳴角振動数と共鳴の条件
3つの振動数の大小
減衰のない固有振動数 、減衰振動の振動数 、共鳴振動数 はこの順に小さくなる。混同しやすいので、どれを問われているかを確認する。
検算
()では となり、減衰がなければ固有振動数で共鳴するという直感に合う。また で、 で発散する。
失点しやすい点
の因数 を共鳴として採用しない。 は静的な変位で、振動の共鳴ではない。
設問(f) 位相のずれの関係式
(2)式も同時に出ること
式をそれぞれ 乗して足すと となり、(2)式 が得られる。(e)で使った式もここから出る。
位相の意味
は外力に対する応答の遅れである。 では (同位相)、 では 、 では (逆位相)となる。
失点しやすい点
の加法定理で符号を誤らない。また と の係数を独立に比較してよい理由(一次独立性、すなわち任意の で成り立つこと)を一言添える。
解答
支点まわりのモーメント
糸が張った状態で小球は半径 の円弧上を動く。支点まわりの慣性モーメントは 、重力によるトルクは (復元向き)だから
線形化
で とすると これは角振動数 の単振動 の形だから
抵抗のトルク
小球の速さは で、速度は円弧の接線方向である。抵抗力 の大きさは で、支点からの腕の長さが だから、トルクは である。
運動方程式
両辺を で割り、 を使うと
トルクを加える
外力トルク が の正の向きにはたらくので、(c)の右辺に加えて で割ると
標準形との対応
(d)を と比べると 振幅は与えられた(2)式より
最大化
が最大になるのは根号の中身 が最小のときである。 の解は
共鳴が起きる条件
が正の実数であるためには これを満たさないと で が最大になり、振動的な共鳴のピークは現れない。
特殊解の代入
とすると 、 だから、左辺は
右辺の展開
とおくと右辺は
係数の比較
と は一次独立だから、それぞれの係数が等しい。
結論
第 式を第 式で割ると となり(1)式が示された。
最終答
、共鳴が起きる条件は
第2問 — 電磁気学:電気双極子が作る場と外場から受ける力・トルク
符号の意味
である。異符号の電荷は引き合うので、近づける過程では電気力が正の仕事をし、外力は負の仕事をする(引き戻しながらゆっくり運ぶ)。
正電荷は動かないこと
は固定されているので、 に対して外力がする仕事は考えない。設問も「負の点電荷に対して外力がした仕事」と限定している。
失点しやすい点
と符号を逆にしない。無限遠を基準に から負の値へ下がる。
設問(b) 双極子が作る電場
依存
点電荷の場が なのに対し、双極子は で減衰する。正負の電荷の寄与が遠方で打ち消し合うためである。
向きの確認
(双極子の正の側)では 、 で外向き。(赤道)では 、 で の増える向き、すなわち双極子と逆向きになる。双極子の電気力線の形と一致する。
失点しやすい点
の を落とさない。極座標の勾配の 成分は である。
設問(c) 外部の点電荷から受ける力とトルク
なぜ勾配が要るか
一様な電場の中では、双極子の正負の電荷が受ける力が打ち消し合って合力は になる。合力が生じるのは電場が場所によって変わるときで、その大きさは電場の勾配に比例する。 はこの事実を表している。
検算: の場合
が 軸上()にあるとき 、 となる。、 なら 、つまり双極子は から遠ざかる向きに押される。 軸上では双極子の負電荷側が から遠く、正電荷側が近いので反発が勝つ。整合している。 またこのとき で、双極子と が同一直線上にあるためトルクが消える。これも妥当である。
トルクの向き
は、双極子を外場の向きに揃えようとする向きにはたらく。 成分だけが残るのは、 が 軸方向、 が 平面内にあるためである。
失点しやすい点
「原点まわりのトルク」なので の寄与は入らない(双極子は原点にある)。また力の計算で の形を使わない。点双極子には正味の電荷がないので、勾配の項だけが残る。
第3問 — 量子力学:半直線上の調和振動子
方針
は での漸近形である。これを括り出すと、残る が多項式になる場合を探せばよい形の方程式になる。エルミートの微分方程式そのものである。
失点しやすい点
の展開で の項( の 階微分から出る)を落とさない。この項が の を生む。
の扱い
ポテンシャルが無限大なので では である。以下の議論はすべて の領域で行い、 での接続は(c)の境界条件として使う。
設問(b) 係数の漸化式
偶数項と奇数項が分離すること
漸化式は を ずつ飛ばすので、 から始まる偶数次の系列と から始まる奇数次の系列が独立に決まる。この分離が(c)で効く。
失点しやすい点
の添字のずらし を正しく行う。 のまま比較すると係数が合わない。
漸化式の使い方
と の つが初期値で、他はすべてこの つから決まる。 階の微分方程式なので独立解が つある、という事実に対応している。
設問(c) エネルギー固有値
全空間の調和振動子との関係
とおくと、通常の調和振動子の準位は である。 本問の結果はこのうち が奇数のものだけに一致する。壁があるために を満たす奇関数の解しか許されない、という事実の反映である。
検算
基底状態は 、 で 、 である。これは全空間の調和振動子の第 励起状態(奇関数)を に制限したもので、確かに を満たす。
失点しやすい点
の条件を落として を偶数まで許すと、偽の準位が混ざる。境界条件と打ち切り条件の つを両方使う。
設問(d) 規格化された基底状態
微分による積分の作り方
は、与えられた公式をパラメータ について微分すると得られる。この手法は の積分に一般に使える。
検算
は で 、 で になり、途中に節をもたない( で符号一定)。基底状態の波動関数が節をもたないという一般則と整合する。 最大値をとる位置は より で、調和振動子の特性長と一致する。
積分範囲
規格化は のみで行う。 では なので寄与しない。全空間の調和振動子の第 励起状態の規格化係数と比べると 倍になるのは、半分の領域に確率を詰め込んでいるためである。
失点しやすい点
を としない。壁があるので半直線だけで規格化する。
第4問 — 統計力学:理想量子気体の大分配関数と分布関数
方針
正準集団では という拘束のせいで和が因子分解できない。大正準集団に移して について和を取ると拘束が消え、状態ごとの独立な和になる。これが大正準集団を使う最大の理由である。
の役割
が拘束条件を「化学ポテンシャルとの交換」に置き換えている。 は平均粒子数を指定するための共役変数である。
失点しやすい点
和と積の交換の根拠を書く。 が独立に走ることを明示してから積に直す。
設問(a-2) 占有数の期待値と低温での概形
図に書き込むこと
で値が になること、段差の幅が 程度であること、 であることの 点を示す。
失点しやすい点
が を超えないことがフェルミ統計の特徴である。分母の を落とすとボルツマン分布になってしまう。
化学ポテンシャルとフェルミエネルギー
で はフェルミエネルギー に一致する。有限温度では は からわずかにずれるが、金属では なので実用上は等しいとしてよい。
設問(a-3) 相対論的電子の状態密度とフェルミエネルギー
非相対論との比較
の場合は 、 である。相対論的な場合は 、 となり、密度依存性が弱くなる。白色矮星や中性子星の安定性の議論でこの違いが効く。
スピンの因子
電子はスピン で各運動量状態に 状態あるから因子 が入る。これを落とすと が 倍ずれる。
失点しやすい点
の球殻の体積を使う。また の変換で の を落とさない。
設問(b-1) ボース気体の大分配関数と の上限
フェルミとの違い
フェルミでは が に限られるので和が有限で、 に制限がつかない。ボースでは無限級数になるため収束条件が の上限を与える。
ボース・アインシュタイン凝縮との関係
が に近づくと最低状態の占有数 が発散的に大きくなる。温度を下げていくと となり、有限の割合の粒子が基底状態に落ちる。これがボース・アインシュタイン凝縮である。
失点しやすい点
上限を と書かない。 と取る流儀では になるが、一般には最低準位のエネルギーが上限である。
設問(b-2) ボース分布
3つの分布の関係
分母の符号だけが違う。 でフェルミ・ディラック、 でボース・アインシュタイン、(すなわち そのもの)でマクスウェル・ボルツマンである。 では つとも一致し、古典統計に帰着する。
正値性
なので分母は正で、 である。(b-1)の条件がここでも効いている。
光子気体との関係
光子は粒子数が保存しないので とすればよい。 となり、プランク分布が得られる。
失点しやすい点
分母の を にしない。ボース粒子は同じ状態に何個でも入れるので、低エネルギー側で占有数がいくらでも大きくなれる形でなければならない。
年度別の解答例(6年度)
解析力学:ケプラー運動のラグランジアンと近星点・遠星点速度 / 電磁気学:一様電場中に置かれた導体球 / 量子力学:非調和振動子とハイパービリアル関係式
力学:ロケットの運動方程式とツィオルコフスキーの式 / 電磁気学:ビオ・サバールの法則から円電流の磁場まで / 量子力学:時間依存2準位系と相互作用表示での摂動論
解析力学:円筒座標での中心力運動とラグランジュ方程式 / 電磁気学:球形コンデンサーの電場・電位・静電容量 / 量子力学:デルタ関数ポテンシャルの束縛状態
力学:棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子 / 電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス / 量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系
2023年度 春季(2023年2月実施)(このページ・全4問)
力学:減衰と外力を受ける振り子の共鳴 / 電磁気学:電気双極子が作る場と外場から受ける力・トルク / 量子力学:半直線上の調和振動子
解析力学:二重振り子の微小振動と基準モード / 電磁気学:磁気モーメント・磁気回転比・g 因子 / 量子力学:無限井戸に置かれたデルタ関数障壁
2023年度 春季(2023年2月実施)の出題内容
全4問
前年度(2023年度 夏季(2022年7月実施))との違い
- 大問数
- 2023年度 夏季(2022年7月実施) 6問 → 2023年度 春季(2023年2月実施) 4問
立教大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2004年度以降の夏季・春季(直近は2023〜2025年度)
- 公式の解答例
- 一部の年度・科目のみ公開
- 英語の扱い
- 英語は外部試験のスコア提出。専門科目の物理学のみ問題を掲載している。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-06