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立教大学 理学研究科 物理学専攻 物理学 2023年度 夏季(2022年7月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は電磁気学・回路1問、熱・統計力学1問、量子力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 解析力学:二重振り子の微小振動と基準モード

方針

小球 22 の速度は「支点から見た 11 本目の糸の回転」と「小球 11 から見た 22 本目の糸の回転」の合成である。直交座標に直してから 22 乗すると、交差項に cos⁡(φ1−φ2)\cos(\varphi_1-\varphi_2) が現れる。

交差項の意味

2φ˙1φ˙2cos⁡(φ1−φ2)2\dot\varphi_1\dot\varphi_2\cos(\varphi_1-\varphi_2) が 22 つの自由度を結びつける。これがなければ独立な 22 つの単振り子になってしまい、(d)のような基準モードは現れない。

失点しやすい点

T2T_2 に小球 11 の運動を含めるのを忘れない。小球 22 の位置は 22 本の糸の合成で決まる。

設問(b) 位置エネルギー

φ1\varphi_1 が2回現れること

小球 22 の高さは 11 本目の糸の傾きにも依存する。U2U_2 に cos⁡φ1\cos\varphi_1 が入るのはこのためで、これが(c)で φ1\varphi_1 の復元力を 22 倍にする。

基準の取り方

定数の差は運動方程式に影響しないので、支点を基準にしても最下点を基準にしてもよい。ここでは式が短くなる支点基準を採った。

失点しやすい点

U2U_2 を −mglcos⁡φ2-mgl\cos\varphi_2 だけにしない。小球 22 は支点から 22 本ぶん下にある。

設問(c) ラグランジュの運動方程式

方針

オイラー・ラグランジュ方程式から出る形は(i)(ii)で、加速度が混ざっている。設問で与えられた形は φ¨1\ddot\varphi_1、φ¨2\ddot\varphi_2 が分離した形なので、(i)(ii)を連立して解き直す必要がある。

22 次までの近似

運動エネルギーは φ˙\dot\varphi の 22 次、位置エネルギーは φ\varphi の 22 次まで残す。運動方程式が線形になるのはこの近似のおかげである。

失点しやすい点

UU の展開で φ12\varphi_1^2 の係数が φ22\varphi_2^2 の 22 倍になる(小球 22 個ぶんの重さが 11 本目の糸にかかる)。ここを揃えてしまうと固有振動数が誤る。

設問(d) 基準モード

検算

22 つの固有値の和は λ++λ−=4k\lambda_++\lambda_-=4k で、係数行列のトレース 2(2k)=4k2(2k)=4k に一致する。積は λ+λ−=(4−2)k2=2k2\lambda_+\lambda_-=(4-2)k^2=2k^2 で、行列式 (2k)2−2k2=2k2(2k)^2-2k^2=2k^2 に一致する。

単振り子との比較

長さ ll の単振り子は g/l\sqrt{g/l}、長さ 2l2l なら g/(2l)≃0.707g/l\sqrt{g/(2l)}\simeq0.707\sqrt{g/l} である。低いモードの 0.765g/l0.765\sqrt{g/l} はこの中間にあり、全体が大きく揺れるモードとして妥当である。

行列が対称でない理由

運動エネルギーの行列(質量行列)が単位行列でないため、得られた係数行列は対称にならない。それでも固有値は実で正になる。質量行列とポテンシャル行列がともに正定値だからである。

失点しやすい点

「固有モードで小球 11 と 22 がどのように運動するか」まで問われている。振幅比の符号(同位相か逆位相か)と大きさ(2\sqrt2 倍)の両方を述べる。

解析力学:二重振り子の微小振動と基準モードの途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 電磁気学:磁気モーメント・磁気回転比・g 因子

方針

44 辺すべてを調べ、yy 軸まわりのトルクに寄与するのがどの 22 辺かを見極める。偶力なので、回転の中心をどこに取っても同じトルクになる。

検算

θ=0\theta=0(回路が xyxy 平面内、法線が B\bm B と平行)ではトルクが 00、θ=π/2\theta=\pi/2 で最大になる。磁気モーメントが磁場と平行なとき安定という直感に合う。

失点しやすい点

腕の長さを b2cos⁡θ\dfrac b2\cos\theta としない。力が xx 方向なので、トルクを生むのは zz 方向の変位、すなわち b2sin⁡θ\dfrac b2\sin\theta である。

設問(b) 磁気双極子にはたらくトルク

ベクトルで書くと

N=μ×B\bm N=\bm\mu\times\bm B である。その大きさが μBsin⁡θ\mu B\sin\theta になる。

失点しやすい点

μ=Ml\mu=Ml と定義されているので、MM と ll を別々に残さず μ\mu でまとめる。設問が「μ\mu を用いて表せ」と指定している。

単磁荷という設定

実際には磁気単極子は見つかっていないが、双極子の受けるトルクを計算する模型としては有効である。(c)で電流回路と同じトルクを与えることを確かめ、以後は電流回路の言葉に翻訳する。

設問(c) 面積と電流の積

形によらないこと

任意の平面閉回路を細かい正方形に分割すると、内部の辺の電流が打ち消し合って外周だけが残る。したがって μ=SJ\mu=SJ は形によらず成り立つ。

失点しやすい点

sin⁡θ\sin\theta が両辺で約分される。θ\theta に依存しない関係が得られることを確認する。

向きも含めた表現

μ=SJn^\bm\mu=SJ\hat{\bm n}(n^\hat{\bm n} は電流の向きに右ねじで決まる法線)と書ける。本問は大きさだけを問うているが、向きまで込めて覚えておくと(f)の歳差運動の議論で迷わない。

設問(d) 磁気回転比

aa と ω\omega が消えること

半径にも回転の速さにもよらず、電荷と質量の比だけで決まる。電荷と質量が同じように分布していれば形状によらない、という一般的な性質である。

古典的な値

γ=q/(2m)\gamma=q/(2m) は古典的な磁気回転比で、軌道角運動量による磁気モーメントはこの値をとる。電子スピンではこの 22 倍になり、それが(f)の g=2g=2 である。

失点しやすい点

円環の慣性モーメントは ma2ma^2(全質量が半径 aa にある)であって 12ma2\frac12ma^2(円板)ではない。

設問(e) サイクロトロン角速度

速さによらないこと

半径は速さに比例して大きくなるが、周回する時間は変わらない。サイクロトロン加速器が一定周波数で加速できるのはこの性質による。

失点しやすい点

初速度を yy 方向に与えたので運動は xyxy 平面内に限られる。B\bm B が zz 方向なので、速度に zz 成分がなければらせん運動にはならない。

磁気モーメントの影響を無視してよい理由

設問文にあるとおり、(e)ではサイクロトロン運動そのものに磁気モーメントの力(∇\nabla による力)が及ぼす影響を無視する。一様磁場では磁気モーメントに正味の力がはたらかないので、この仮定は厳密に成り立つ。

設問(f) gg 因子

g=2g=2 の意味

ディラック方程式から導かれる電子スピンの gg 因子はちょうど 22 である。実際には量子電磁力学の補正で g/2−1≃1.16×10−3g/2-1\simeq1.16\times10^{-3} だけずれ、この異常磁気モーメントは理論と実験が 1010 桁以上一致する物理学で最も精密な検証の一つになっている。

g−2g-2 実験の原理

本問の後半は、まさにその測定原理である。g=2g=2 ちょうどならスピンの向きは運動方向に対して変わらないが、ずれがあると 11 周ごとに少しずつ回る。その積み重ねを測ることで g−2g-2 を高精度で決められる。

検算

1%1\% のずれが 11 周で 2π×0.01=0.02π2\pi\times0.01=0.02\pi の角度差を生む。5050 周すれば π\pi になり、向きが反転する。小さなずれが周回数で増幅される仕組みが見える。

失点しやすい点

11 周後の角度は 2.02π2.02\pi そのものではなく、2π2\pi を引いた 0.02π0.02\pi である。「yy 軸となす角度の大きさ」を問われている。

解答

力を受ける辺

yy 軸に平行な 22 辺(長さ bb)は電流が ±y\pm y 方向に流れ、B=Bz^\bm B=B\hat{\bm z} と直交する。この 22 辺が受ける力は F=±Jb (y^×Bz^)=±JbB x^\bm F=\pm Jb\,(\hat{\bm y}\times B\hat{\bm z})=\pm JbB\,\hat{\bm x} で、大きさ JbBJbB、向きが逆の偶力になる。

腕の長さ

この 22 辺は yy 軸から見て xx 方向に ±b2cos⁡θ\pm\dfrac b2\cos\theta、zz 方向に ∓b2sin⁡θ\mp\dfrac b2\sin\theta の位置にある。 偶力の作る yy 軸まわりのトルクは、力(xx 方向)と zz 方向の腕の積で決まり N=2×JbB×b2sin⁡θ=Jb2Bsin⁡θ. N=2\times JbB\times\frac b2\sin\theta=Jb^2B\sin\theta .

他の2辺

残る 22 辺は電流が xzxz 平面内を向くので、受ける力は ±y\pm y 方向になり yy 軸まわりのトルクを作らない。

単磁荷の受ける力

+M+M は B\bm B の向き(+z+z)に MBMB、−M-M は −z-z 方向に MBMB の力を受ける。

位置

双極子は xzxz 平面内で zz 軸から θ\theta 傾いているから、 +M+M は l2(sin⁡θ,0,cos⁡θ)\dfrac l2(\sin\theta,0,\cos\theta)、−M-M は −l2(sin⁡θ,0,cos⁡θ)-\dfrac l2(\sin\theta,0,\cos\theta) にある。

トルク

22 つの力は大きさが等しく向きが逆なので偶力である。力は zz 方向、腕の xx 方向成分は l2sin⁡θ\dfrac l2\sin\theta が 22 箇所だから N=2×MB×l2sin⁡θ=MlBsin⁡θ=μBsin⁡θ. N=2\times MB\times\frac l2\sin\theta=MlB\sin\theta=\mu B\sin\theta .

2つのトルクの比較

(a)と(b)が同じ値になるとき Jb2Bsin⁡θ=μBsin⁡θ ⟹ μ=Jb2. Jb^2B\sin\theta=\mu B\sin\theta \ \Longrightarrow\ \mu=Jb^2 . b2b^2 は正方形の面積 SS だから μ=SJ\mu=SJ、すなわち磁気モーメントの大きさは「閉平面回路の面積と電流の積」で与えられる。

円環電流

同じ規則を半径 aa の円形回路に適用すると S=πa2S=\pi a^2 だから μ=πa2J. \mu=\pi a^2J .

電流

半径 aa の円環に総電荷 qq が一様に分布し、角速度 ω\omega で回転しているとする。11 周する時間は 2πω\dfrac{2\pi}{\omega} だから、ある断面を単位時間に通る電荷は J=q2π/ω=qω2π. J=\frac{q}{2\pi/\omega}=\frac{q\omega}{2\pi}.

磁気モーメント

(c)より μ=πa2J=πa2⋅qω2π=qωa22. \mu=\pi a^2J=\pi a^2\cdot\frac{q\omega}{2\pi}=\frac{q\omega a^2}{2}.

角運動量

円環の慣性モーメントは I=ma2I=ma^2 だから L=Iω=ma2ω. L=I\omega=ma^2\omega .

比

γ=μL=qωa2/2ma2ω=q2m. \gamma=\frac\mu L=\frac{q\omega a^2/2}{ma^2\omega}=\frac{q}{2m}.

運動方程式

xyxy 平面内での等速円運動では、ローレンツ力が向心力になる。速さ vv、円の半径 RR とすると qvB=mv2R ⟹ R=mvqB. qvB=\frac{mv^2}{R} \ \Longrightarrow\ R=\frac{mv}{qB}.

角速度

ωc=vR=qBm. \omega_c=\frac vR=\frac{qB}{m}. 速さによらない点がサイクロトロン運動の特徴である。

歳差角速度を gg で表す

実際の磁気モーメントは μ′=gμ=gγL=gq2mL\mu'=g\mu=g\gamma L=\dfrac{gq}{2m}L だから ωL=μ′BL=gqB2m=g2 ωc. \omega_L=\frac{\mu'B}{L}=\frac{gqB}{2m}=\frac g2\,\omega_c .

一致する条件

ωL=ωc\omega_L=\omega_c となるのは g2=1 ⟹ g=2. \frac g2=1 \ \Longrightarrow\ g=2 .

gg が 1%1\% 大きい粒子

g′=2×1.01=2.02g'=2\times1.01=2.02 とすると ωL′=g′2ωc=1.01 ωc. \omega_L'=\frac{g'}{2}\omega_c=1.01\,\omega_c . サイクロトロン運動が 11 周する時間は T=2πωcT=\dfrac{2\pi}{\omega_c} で、その間に磁気モーメントが歳差する角度は ωL′T=1.01 ωc⋅2πωc=2.02π. \omega_L'T=1.01\,\omega_c\cdot\frac{2\pi}{\omega_c}=2.02\pi . 2π2\pi を引くと、yy 軸から測った角度は 2.02π−2π=0.02π rad=3.6∘. 2.02\pi-2\pi=0.02\pi\ \text{rad}=3.6^\circ .

最終答

N=Jb2Bsin⁡θN=Jb^{2}B\sin\theta

N=μBsin⁡θN=\mu B\sin\theta

μ=SJ\mu=SJ(正方形では μ=Jb2\mu=Jb^{2})、半径 aa の円環電流では μ=πa2J\mu=\pi a^{2}J

γ=q2m\gamma=\dfrac{q}{2m}

ωc=qBm\omega_c=\dfrac{qB}{m}

g=2g=2。gg が 1%1\% 大きい粒子では、11 周後に磁気モーメントは yy 軸から 0.02π rad=3.6∘0.02\pi\,\mathrm{rad}=3.6^\circ ずれる

第3問 — 量子力学:無限井戸に置かれたデルタ関数障壁

規格化の確認

∫−aa1acos⁡2πx2adx=1a⋅a=1\displaystyle\int_{-a}^{a}\frac1a\cos^2\frac{\pi x}{2a}dx=\frac1a\cdot a=1、 ∫−aa1asin⁡2πxadx=1\displaystyle\int_{-a}^{a}\frac1a\sin^2\frac{\pi x}{a}dx=1 でともに正しい。

偶奇性

井戸が x=0x=0 に関して対称なので、固有関数は偶関数と奇関数に分かれる。nn が奇数なら偶関数、偶数なら奇関数である。この偶奇性が(b)以降で決定的に効く。

失点しやすい点

井戸の幅は 2a2a であって aa ではない。波数は nπ/(2a)n\pi/(2a) である。

設問(b) 1次摂動

奇関数が影響を受けない理由

奇関数は原点で節をもつので、原点に置かれた障壁の位置に確率がない。したがって障壁の強さによらずエネルギーが変わらない。これは(c-2)で厳密にも成り立つ。

失点しやすい点

デルタ関数の期待値は ∣ψ(0)∣2|\psi(0)|^2 であって ψ(0)\psi(0) ではない。

22 次以降の補正

11 次で 00 でも 22 次の補正は一般に 00 でない。しかし(c-2)で見るように、この状態は厳密に λ\lambda に依存しないので、すべての次数で補正が 00 である。

設問(c-1) 基底状態の固有値方程式

方針

偶関数であることを使って ∣x∣|x| で書くと、22 つの領域を別々に扱う手間が省ける。接続条件の跳びは −2Akcos⁡(ka)-2Ak\cos(ka) とまとまる。

符号の確認

λ>0\lambda>0(斥力)なので右辺は負である。したがって kaka は tan⁡\tan が負になる区間、すなわち (π2,π)\left(\dfrac\pi2,\pi\right) にある。λ=0\lambda=0 では tan⁡(ka)=−∞\tan(ka)=-\infty より ka=π/2ka=\pi/2 となり、(a)の k=π/(2a)k=\pi/(2a) に一致する。

失点しやすい点

障壁(λ>0\lambda>0)なので接続条件の符号が井戸の場合と逆になる。積分の向きを丁寧に追う。

設問(c-2) 第1励起状態

(b)との整合

11 次摂動でも ΔE1(1)=0\Delta E_1^{(1)}=0 だった。厳密にも全次数で 00 である点が本問の要点で、摂動論の結果が偶然ではなく厳密であることを示している。

失点しやすい点

「λ\lambda に依存しない」と明記する。値を書くだけでは設問の意図に届かない。

偶奇性が保たれること

障壁は x=0x=0 に関して対称なので、固有関数の偶奇性は λ\lambda を入れても崩れない。偶関数の系列(基底状態を含む)だけが λ\lambda の影響を受ける。

設問(c-3) グラフと摂動論の破綻

λ→∞\lambda\to\infty の物理

障壁が無限に高くなると井戸が 22 つに分断され、幅 aa の独立な井戸が 22 つできる。その基底エネルギーは π2ℏ22ma2\dfrac{\pi^2\hbar^2}{2ma^2} で、対称・反対称の組み合わせが縮退する。E0E_0 と E1E_1 が同じ値に近づくのはこのためである。

摂動論が破綻する理由

11 次摂動は ΔE0(1)=λ/a\Delta E_0^{(1)}=\lambda/a と λ\lambda に比例して増え続けるが、厳密解では E0E_0 が E1E_1 を超えられない(上に有界)。λ\lambda が大きいところで両者が乖離するのは必然である。

11 次摂動の妥当性の確認

小さい λ\lambda では、厳密解を ka=π2+ϵka=\dfrac\pi2+\epsilon と展開すると ϵ≃2mλaπℏ2\epsilon\simeq\dfrac{2m\lambda a}{\pi\hbar^2} となり、 E0≃π2ℏ28ma2+λaE_0\simeq\dfrac{\pi^2\hbar^2}{8ma^2}+\dfrac{\lambda}{a} が得られる。(b)の結果と一致する。

失点しやすい点

「λ\lambda の大きさを評価せよ」なので、無次元の比較(補正と準位間隔)を作って条件を書く。単に「大きいと破綻する」では評価になっていない。

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第4問 — 統計力学:常磁性体の断熱消磁と3スピン環

因子分解の根拠

ハミルトニアンが 11 体項の和だから、e−βHe^{-\beta\mathcal H} が各スピンの因子の積になる。相互作用があると(b)のように分解できない。

失点しやすい点

NN 乗を忘れない。また ∑σ=±1eβhσ=eβh+e−βh=2cosh⁡βh\sum_{\sigma=\pm1}e^{\beta h\sigma}=e^{\beta h}+e^{-\beta h}=2\cosh\beta h である。

h=0h=0 の場合

Z=2NZ=2^N となり、NN 個のスピンが独立に 22 状態を取る自由度そのものである。(a-2)のエントロピーが NkBln⁡2Nk_B\ln2 になることと対応する。

設問(a-2) エントロピー

極限での確認

βh→0\beta h\to0(高温または無磁場)では S→NkBln⁡2S\to Nk_B\ln2 で、各スピンが自由に 22 状態を取る最大エントロピーになる。 βh→∞\beta h\to\infty(低温または強磁場)では ln⁡(2cosh⁡x)→x\ln(2\cosh x)\to x、xtanh⁡x→xx\tanh x\to x より S→0S\to0 で、全スピンが揃った状態に対応する。

h/Th/T だけの関数であること

SS は βh=hkBT\beta h=\dfrac{h}{k_BT} という組み合わせのみを通じて hh と TT に依存する。この事実が(a-3)の鍵である。

失点しやすい点

∂/∂T\partial/\partial T と ∂/∂β\partial/\partial\beta の変換で −kBβ2-k_B\beta^2 の因子を落とさない。

設問(a-3) 断熱磁場変化

断熱消磁

h2<h1h_2<h_1 とすれば T2<T1T_2<T_1 となり、磁場を弱めるだけで冷却できる。これが断熱消磁(断熱脱磁)で、1 K1\,\mathrm{K} 以下の極低温を得る標準的な手法である。

直感的な説明

磁場を弱めるとスピンの整列を保つのが難しくなり、スピン系のエントロピーが増えようとする。断熱条件下ではそれを許さないので、温度が下がって整列度を保つ。スピン系が格子系から熱を奪う形になる。

限界

h2→0h_2\to0 で T2→0T_2\to0 となるが、実際にはスピン間の残留相互作用があるため絶対零度には到達しない。熱力学第三法則と矛盾しない。

失点しやすい点

「そうなる理由も説明せよ」とあるので、SS が h/Th/T の関数であるという事実を明示的に述べる。

設問(b-1) 3スピン環の分配関数

検算

J=0J=0 とすると Z=2cosh⁡3βh+6cosh⁡βhZ=2\cosh3\beta h+6\cosh\beta h。一方(a-1)で N=3N=3 とすると (2cosh⁡βh)3=8cosh⁡3βh(2\cosh\beta h)^3=8\cosh^3\beta h で、 cosh⁡3x=4cosh⁡3x−3cosh⁡x\cosh3x=4\cosh^3x-3\cosh x を使うと 2(4cosh⁡3−3cosh⁡)+6cosh⁡=8cosh⁡32(4\cosh^3-3\cosh)+6\cosh=8\cosh^3 となり一致する。

11 個だけ向きが違う配置の相互作用エネルギー

33 個のうち 11 個だけ逆向きだと、33 本の結合のうち 22 本が反平行、11 本が平行になり、和は −1−1+1=−1-1-1+1=-1 になる。表を作って数え上げるのが確実である。

失点しやすい点

33 スピン環では結合が 33 本ある(σ1σ2\sigma_1\sigma_2、σ2σ3\sigma_2\sigma_3、σ3σ1\sigma_3\sigma_1)。周期的につながっている点を落とさない。

設問(b-2) スピンの期待値

フラストレーション

J<0J<0 の三角形では、33 本の結合すべてを反平行にすることができない。基底状態は 22 個が同じ向き、11 個が逆向きの配置で、66 重に縮退する。⟨σ⟩\langle\sigma\rangle が 13\frac13 に落ちるのはこの縮退の反映である。

失点しやすい点

JJ の正負で支配的な項が入れ替わる。設問が「JJ の正負に注意しながら」と指定しているのはこのためである。

有限系であること

33 スピンの有限系なので、どの温度でも ⟨σ⟩\langle\sigma\rangle は h→0h\to0 で 00 になる。自発磁化が生じるのは熱力学極限だけである。

設問(b-3) 磁化率

極限での確認

J=0J=0 では χ=β⋅3+11+3=β\chi=\beta\cdot\dfrac{3+1}{1+3}=\beta となり、独立なスピンのキュリー則 χ=1/(kBT)\chi=1/(k_BT) に一致する。 βJ→+∞\beta J\to+\infty では χ→3β\chi\to3\beta(33 個が揃って応答)、 βJ→−∞\beta J\to-\infty では χ→β3\chi\to\dfrac\beta3(フラストレーションで応答が 1/31/3)となり、(b-2)の極限と整合する。

キュリー・ワイス的な振る舞い

J>0J>0 では χ\chi が単独スピンより大きくなり、J<0J<0 では小さくなる。有限系なので発散はしないが、強磁性・反強磁性の傾向が符号として現れている。

失点しやすい点

h→0h\to0 の極限を取る前に微分する。分母の hh 依存は h2h^2 の次数から始まるので、11 次では分母を h=0h=0 で評価してよい。

統計力学:常磁性体の断熱消磁と3スピン環の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 光学・実験:立体角と輝度の比較測定

検算

θ0=π/2\theta_0=\pi/2(半球)なら Ω=2π\Omega=2\pi、θ0=π\theta_0=\pi(全球)なら 4π4\pi で正しい。 θ0≪1\theta_0\ll1 では 1−cos⁡θ0≃θ02/21-\cos\theta_0\simeq\theta_0^2/2 より Ω≃πθ02\Omega\simeq\pi\theta_0^2 となり、穴の面積を距離の 22 乗で割った値に一致する。

失点しやすい点

Ω=πθ02\Omega=\pi\theta_0^2 と近似形で答えない。設問は θ0\theta_0 が小さいとは言っていない。

立体角の定義

立体角は、対象を単位球面へ射影したときの面積である。円錐では帯 [θ,θ+dθ][\theta,\theta+d\theta] の面積が 2πsin⁡θ dθ2\pi\sin\theta\,d\theta となり、これを積分して 2π(1−cos⁡θ0)2\pi(1-\cos\theta_0) を得る。

設問(b) 穴が視野を制限する場合

距離によらないこと

輝度は「単位立体角あたり」で定義された量なので、光源が視野を埋め尽くしている限り、距離を変えても検出器の受ける光量は変わらない。遠くの壁も近くの壁も、同じ明るさなら同じ輝度に見えるのと同じ理屈である。

rir_i、did_i が答えに現れない理由

穴が視野を制限しているので、光源の大きさや距離は結果に効かない。この単純さが輝度という量を導入する利点である。

失点しやすい点

「光源の面積が大きいほど明るい」と考えて ri2/di2r_i^2/d_i^2 を掛けない。視野に収まりきらない光源では、はみ出した部分の光は穴を通らない。

設問(c) 光源が視野に収まる場合

遠方近似

ri≪dir_i\ll d_i のとき 1−cos⁡θi≃ri22di21-\cos\theta_i\simeq\dfrac{r_i^2}{2d_i^2} だから L1L2≃a1a2⋅r22/d22r12/d12=a1a2⋅r22d12r12d22. \frac{L_1}{L_2}\simeq\frac{a_1}{a_2}\cdot\frac{r_2^2/d_2^2}{r_1^2/d_1^2} =\frac{a_1}{a_2}\cdot\frac{r_2^2d_1^2}{r_1^2d_2^2}. 「光源の見かけの面積」で割る形になり、点光源の逆 22 乗則と整合する。

(b)との対比

(b)では穴が、(c)では光源が視野を決めていた。どちらが小さい立体角を張るかで場合が分かれる、というのが本問の骨格である。境界は tan⁡θ0=ri/di\tan\theta_0=r_i/d_i である。

設問文の仮定

「検出面と板の間の距離や板の穴の半径は、光源との距離や光源の半径より充分小さい」という条件により、光源から見た検出器はほぼ点とみなせ、穴の位置と検出面の位置を区別しなくてよい。

失点しやすい点

cos⁡θi\cos\theta_i を ri/dir_i/d_i ではなく di/di2+ri2d_i/\sqrt{d_i^2+r_i^2} と書く。与えられているのは tan⁡θi=ri/di\tan\theta_i=r_i/d_i なので、cos⁡\cos に直す一手が要る。

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第6問 — 測定の不確かさ:非対称度の統計誤差

符号の消え方

∂A/∂n\partial A/\partial n は負だが、22 乗するので符号は残らない。誤差は必ず正である。

AA の有界性

AA は −1≤A≤1-1\le A\le1 の範囲にある。σA\sigma_A もこの範囲を大きく超えることはなく、mm か nn が 00 に近づくと AA が端に張り付いてガウス近似が崩れる。

失点しやすい点

mm と nn の役割が入れ替わることに注意する。∂A/∂m\partial A/\partial m の分子は nn、∂A/∂n\partial A/\partial n の分子は mm である。

設問(b) ポアソン統計での統計誤差

整理の要点

n2m+m2n=mn(n+m)n^2m+m^2n=mn(n+m) と因数分解できることに気づけば、(m+n)(m+n) が 11 つ約分されて指数が 3/23/2 になる。

検算:極端な場合

n=0n=0 なら A=1A=1 で σA=0\sigma_A=0。実際、片方が 00 なら比は 11 に確定する(ガウス近似の範囲では)。 m=nm=n なら σA=2m(2m)3/2=12m\sigma_A=\dfrac{2m}{(2m)^{3/2}}=\dfrac{1}{\sqrt{2m}} である。

失点しやすい点

σm=m\sigma_m=\sqrt m を σm=m\sigma_m=m としない。ポアソン分布では分散が平均に等しく、標準偏差はその平方根である。

設問(c) ∣m−n∣≪m+n|m-n|\ll m+n の場合

結果の意味

非対称度の統計誤差は、総計数の平方根の逆数という極めて簡単な形になる。1%1\% の非対称度を 3σ3\sigma で検出するには 1N≤0.013\dfrac{1}{\sqrt N}\le\dfrac{0.01}{3}、すなわち N≥9×104N\ge9\times10^4 の計数が要る、といった見積もりが即座にできる。

実験計画への使い方

素粒子・原子核実験で前後方非対称度や偏極度を測るとき、必要な統計量の見積もりにそのまま使える式である。目標精度から必要な総イベント数が決まる。

1/N1/\sqrt N の普遍性

平均値の統計誤差が 1/N1/\sqrt N で減るのと同じ形である。AA が 22 つの計数の比であっても、対称点の近くでは同じスケーリングに従う。

失点しやすい点

m≃n≃N/2m\simeq n\simeq N/2 の近似を使う場所を明示する。mn\sqrt{mn} の部分にだけ効き、(m+n)3/2=N3/2(m+n)^{3/2}=N^{3/2} は厳密である。

測定の不確かさ:非対称度の統計誤差の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全4問)

    解析力学:ケプラー運動のラグランジアンと近星点・遠星点速度 / 電磁気学:一様電場中に置かれた導体球 / 量子力学:非調和振動子とハイパービリアル関係式

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全6問)

    力学:ロケットの運動方程式とツィオルコフスキーの式 / 電磁気学:ビオ・サバールの法則から円電流の磁場まで / 量子力学:時間依存2準位系と相互作用表示での摂動論

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(全4問)

    解析力学:円筒座標での中心力運動とラグランジュ方程式 / 電磁気学:球形コンデンサーの電場・電位・静電容量 / 量子力学:デルタ関数ポテンシャルの束縛状態

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(全6問)

    力学:棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子 / 電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス / 量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系

  • 2023年度 春季(2023年2月実施)(全4問)

    力学:減衰と外力を受ける振り子の共鳴 / 電磁気学:電気双極子が作る場と外場から受ける力・トルク / 量子力学:半直線上の調和振動子

  • 2023年度 夏季(2022年7月実施)(このページ・全6問)

    解析力学:二重振り子の微小振動と基準モード / 電磁気学:磁気モーメント・磁気回転比・g 因子 / 量子力学:無限井戸に置かれたデルタ関数障壁

2023年度 夏季(2022年7月実施)の出題内容

全6問

この6問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学二重振り子の微小振動と基準モード交差項の意味 / φ_1 が2回現れることあり
第2問電磁気学・回路磁気モーメント・磁気回転比・g 因子ベクトルで書くと / 単磁荷という設定あり
第3問量子力学無限井戸に置かれたデルタ関数障壁規格化の確認 / 偶奇性あり
第4問熱・統計力学常磁性体の断熱消磁と3スピン環因子分解の根拠 / h=0 の場合あり
第5問立体角と輝度の比較測定立体角の定義 / 距離によらないことあり
第6問非対称度の統計誤差符号の消え方 / A の有界性あり

2023年度 夏季(2022年7月実施)の解説には失点しやすい点6件・検算4件が付いています。

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2004年度以降の夏季・春季(直近は2023〜2025年度)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
英語は外部試験のスコア提出。専門科目の物理学のみ問題を掲載している。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF