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立教大学 理学研究科 物理学専攻 物理学 2024年度 夏季(2023年7月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は電磁気学・回路1問、量子力学1問、力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 力学:棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子

方針

動摩擦力が速度によらない一定値であることが「等加速度直線運動」と整合している。逆に等加速度であったという観測から、摩擦力の総和が一定であることが読み取れる。

検算

次元は [f]=N/m[f]=\mathrm{N/m} である。mv0/(lT1)mv_0/(lT_1) は kg⋅m/s÷(m⋅s)=kg/s2=N/m\mathrm{kg\cdot m/s}\div(\mathrm{m\cdot s})=\mathrm{kg/s^2}=\mathrm{N/m} で合う。

失点しやすい点

「単位長さあたり」を落として mv0/T1mv_0/T_1 と答えない。ll で割る。

設問(b) 慣性モーメントと回転が止まるまでの時間

並進との違い

並進では棒のどの部分も同じ速さで動くので摩擦力の総和がそのまま効くが、回転では中心から遠い部分ほど腕が長くトルクへの寄与が大きい。そのため ss を掛けて積分する必要がある。

検算

(a)の結果 f=mv0/(lT1)f=mv_0/(lT_1) を代入すると t=mω03f=lT1ω03v0t=\dfrac{m\omega_0}{3f}=\dfrac{l T_1\omega_0}{3v_0} となる。ω0=v0/l\omega_0=v_0/l(端の速さが v0v_0 に等しい回転)なら t=T1/3t=T_1/3 で、同じ端速度でも回転の方が早く止まることが分かる。内側の部分が遅く、摩擦の効き方が並進より不利だからである。

失点しやすい点

トルクを f⋅l⋅(l/2)f\cdot l\cdot(l/2) のように「全摩擦力 ×\times 代表的な腕」で済ませない。積分すると係数が 1/41/4 になる。

設問(c) ねじったときの位置エネルギー

方針

ねじると糸が斜めになり、その分だけ棒が上がる。この上昇量が θ\theta の 22 次から始まるので、位置エネルギーは調和振動子と同じ θ2\theta^2 に比例する形になる。θ=0\theta=0 が安定な釣り合い点であることの証拠でもある。

2つの近似

sin⁡(θ/2)≃θ/2\sin(\theta/2)\simeq\theta/2 と L2−d2≃L−d2/(2L)\sqrt{L^2-d^2}\simeq L-d^2/(2L) の 22 つを使っている。どちらも θ\theta の 22 次までを残す近似として整合している。

失点しやすい点

22 点間の距離を aθa\theta(弧長)としない。弦の長さ 2(a/2)sin⁡(θ/2)2(a/2)\sin(\theta/2) である。θ\theta の 22 次までなら両者は一致するが、導出の筋道として弦を取る。

設問(d) トルクの鉛直成分

符号の意味

θ>0\theta>0 のとき τ<0\tau<0、すなわちトルクはねじれを戻す向きにはたらく。復元力であり、(e)の振動を生む。

2U/θ2U/\theta という形

U∝θ2U\propto\theta^2 という 22 次形式に固有の関係である。一般の U(θ)U(\theta) では成り立たない。設問が「θ,U\theta,U を用いて」と指定しているのはこの構造を確認させるためである。

失点しやすい点

τ=−U/θ\tau=-U/\theta としない。22 次式の微分で係数 22 が出る。

設問(e) 運動方程式と解

二糸振り子

この装置は二糸振り子(bifilar pendulum)と呼ばれ、周期を測ることで慣性モーメントを実験的に決める方法として使われる。ω2=mga24LI\omega^2=\dfrac{mga^2}{4LI} を II について解けば I=mga24Lω2I=\dfrac{mga^2}{4L\omega^2} となる。

検算

ω\omega の次元は alg/L\dfrac{a}{l}\sqrt{g/L} で、a/la/l が無次元、g/L\sqrt{g/L} が s−1\mathrm{s^{-1}} だから合う。 また aa を大きくすると糸の間隔が広がって復元トルクが増え、ω\omega が大きくなる。LL を長くすると糸が寝やすくなり復元が弱まって ω\omega が小さくなる。どちらも直感と合う。

mm が消えること

ω\omega の最終形に mm が現れない。復元トルクも慣性モーメントもともに mm に比例するためで、単振り子の周期が質量によらないのと同じ理由である。

失点しやすい点

P\mathrm{P} のまわりの慣性モーメントを重心まわりのものと取り違えない。本問では重心が P\mathrm{P} 上にあるので両者は一致するが、その理由を一言添える。

解答

並進運動

棒は向きを変えずに yy 方向へ等加速度直線運動をし、初速 v0v_0 から時間 T1T_1 で停止した。加速度は a=−v0T1 a=-\frac{v_0}{T_1} で、これを生むのが摩擦力である。

摩擦力の総和

運動方程式より、棒全体にはたらく摩擦力の大きさは mv0T1\dfrac{mv_0}{T_1} である。 棒は長さ ll で密度も表面の粗さも一様だから、単位長さあたりの摩擦力 ff は全体を ll で割って f=mv0lT1. f=\frac{mv_0}{lT_1}.

慣性モーメント

線密度 ρ=m/l\rho=m/l の細い棒を重心を通り棒に垂直な軸のまわりで回すと I=∫−l/2l/2ρs2 ds=ml⋅23(l2)3=ml212. I=\int_{-l/2}^{l/2}\rho s^2\,ds=\frac{m}{l}\cdot\frac{2}{3}\left(\frac l2\right)^3=\frac{ml^2}{12}.

摩擦のトルク

重心から距離 ss の微小部分にはたらく摩擦力は f dsf\,ds で、速度に逆向き(棒に垂直)だから、そのトルクの大きさは s⋅f dss\cdot f\,ds である。棒の両側を足して N=2∫0l/2fs ds=2f⋅12(l2)2=fl24. N=2\int_0^{l/2}f s\,ds=2f\cdot\frac12\left(\frac l2\right)^2=\frac{fl^2}{4}. これは回転を止める向きにはたらく。

停止までの時間

Iω˙=−NI\dot\omega=-N で右辺は定数だから角速度は一定の割合で減り t=Iω0N=4Iω0fl2. t=\frac{I\omega_0}{N}=\frac{4I\omega_0}{fl^2}. I=ml2/12I=ml^2/12 を代入すれば t=mω03ft=\dfrac{m\omega_0}{3f} とも書ける。

幾何

22 本の糸の上端は固定で、鉛直軸 P\mathrm{P} から距離 a/2a/2 にある。棒を P\mathrm{P} のまわりに θ\theta だけねじると、糸の下端も半径 a/2a/2 の円周上を θ\theta だけ回る。 上端と下端を結ぶ線分の水平方向のずれは、半径 a/2a/2 の円上で中心角 θ\theta をなす 22 点間の距離だから d=2⋅a2sin⁡θ2=asin⁡θ2. d=2\cdot\frac a2\sin\frac\theta2=a\sin\frac\theta2 .

重心の上昇

糸の長さ LL は変わらないので、上端から下端までの鉛直距離は L2−d2\sqrt{L^2-d^2} になる。よって棒は Δz=L−L2−d2≃d22L \Delta z=L-\sqrt{L^2-d^2}\simeq\frac{d^2}{2L} だけ持ち上がる(d≪Ld\ll L とした)。

θ\theta の2次まで

sin⁡θ2≃θ2\sin\dfrac\theta2\simeq\dfrac\theta2 より d2≃a2θ24d^2\simeq\dfrac{a^2\theta^2}{4} だから U=mg Δz≃mg⋅a2θ28L=mga28Lθ2. U=mg\,\Delta z\simeq mg\cdot\frac{a^2\theta^2}{8L}=\frac{mga^2}{8L}\theta^2 .

保存力とトルク

位置エネルギーが U(θ)U(\theta) で与えられる系では、θ\theta に共役なトルクは τ=−dUdθ \tau=-\frac{dU}{d\theta} である。

UU を用いた表現

U=mga28Lθ2U=\dfrac{mga^2}{8L}\theta^2 は θ\theta の 22 次式だから dUdθ=2Uθ\dfrac{dU}{d\theta}=\dfrac{2U}{\theta} が成り立つ。よって τ=−2Uθ. \tau=-\frac{2U}{\theta}.

運動方程式

P\mathrm{P} のまわりの慣性モーメントは重心まわりの I=ml212I=\dfrac{ml^2}{12} である(重心が P\mathrm{P} 上にあるため平行軸の補正はない)。(d)より Iθ¨=−mga24Lθ. I\ddot\theta=-\frac{mga^2}{4L}\theta .

単振動

ω2=mga24LI\omega^2=\dfrac{mga^2}{4LI} とおくと θ¨=−ω2θ\ddot\theta=-\omega^2\theta である。I=ml212I=\dfrac{ml^2}{12} を代入すると ω2=mga24L⋅12ml2=3ga2Ll2,ω=al3gL. \omega^2=\frac{mga^2}{4L}\cdot\frac{12}{ml^2}=\frac{3ga^2}{Ll^2}, \qquad \omega=\frac al\sqrt{\frac{3g}{L}} .

初期条件

t=0t=0 で θ=θ0\theta=\theta_0、θ˙=0\dot\theta=0(静かに手を離した)だから θ(t)=θ0cos⁡(ωt)=θ0cos⁡(al3gL  t). \theta(t)=\theta_0\cos(\omega t)=\theta_0\cos\left(\frac al\sqrt{\frac{3g}{L}}\;t\right).

最終答

f=mv0lT1f=\dfrac{mv_0}{lT_1}

I=ml212I=\dfrac{ml^{2}}{12}、停止までの時間 t=4Iω0fl2=mω03ft=\dfrac{4I\omega_0}{fl^{2}}=\dfrac{m\omega_0}{3f}

U=mga28Lθ2U=\dfrac{mga^{2}}{8L}\theta^{2}

τ=−2Uθ\tau=-\dfrac{2U}{\theta}(具体的には τ=−mga24Lθ\tau=-\dfrac{mga^{2}}{4L}\theta)

Iθ¨=−mga24LθI\ddot\theta=-\dfrac{mga^{2}}{4L}\theta、θ(t)=θ0cos⁡ ⁣(al3gL t)\theta(t)=\theta_0\cos\!\left(\dfrac al\sqrt{\dfrac{3g}{L}}\,t\right)

第2問 — 電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス

方針

トロイダルコイルは磁場が磁心の内部に閉じ込められるので、アンペールの法則が最も素直に使える形になる。積分路を貫く電流の総和が NINI であることを明記する。

1/r1/r 依存

内周側ほど磁場が強い。円周の長さ 2πr2\pi r が短いぶん、同じ起磁力 NINI に対して HH が大きくなるためである。(d)の近似はこの rr 依存が無視できる場合にあたる。

失点しやすい点

HH と BB を混同しない。アンペールの法則は HH について書かれ、B=μHB=\mu H で物質の透磁率が入る。

設問(b) 磁場のエネルギー

方針

BB が rr に依存するので、エネルギー密度に体積を掛けるだけでは済まない。rr 方向に薄い殻へ分けて積分する。

1/r1/r の積分

∫drr=ln⁡r\displaystyle\int\frac{dr}{r}=\ln r から対数が現れる。トロイダルコイルの自己インダクタンスに対数が出るのはこのためである。

失点しやすい点

体積要素で 2πr2\pi r を落として a dra\,dr としない。円周の長さが rr に比例することが B2B^2 の r−2r^{-2} を r−1r^{-1} に緩め、対数積分にしている。

設問(c) 自己インダクタンス

別解:磁束から

11 巻きを貫く磁束は Φ=∫r0r0+bB(r) a dr=μNIa2πln⁡r0+br0\Phi=\displaystyle\int_{r_0}^{r_0+b}B(r)\,a\,dr=\frac{\mu NIa}{2\pi}\ln\frac{r_0+b}{r_0} である。鎖交磁束は NΦN\Phi だから L=NΦ/IL=N\Phi/I で同じ式が得られる。22 通りで一致することが検算になる。

II が消えること

インダクタンスは形状と透磁率で決まる量なので II が約分される。残っていたら計算違いである。

失点しやすい点

U=12LI2U=\frac12LI^2 の係数 12\frac12 を落とすと LL が 22 倍になる。

設問(d) b≪r0b\ll r_0 の極限

abab の意味

abab は磁心の断面積である。細い環の極限では磁場は断面内でほぼ一様(B≃μNI/(2πr0)B\simeq\mu NI/(2\pi r_0))とみなせ、磁束は「磁束密度 ×\times 断面積」で決まる。この見方から L=NΦI≃NI⋅μNI2πr0⋅abL=\dfrac{N\Phi}{I}\simeq\dfrac{N}{I}\cdot\dfrac{\mu NI}{2\pi r_0}\cdot ab として同じ式が直接得られる。

ソレノイドとの対応

環の全長を ℓ=2πr0\ell=2\pi r_0 と書くと L≃μN2SℓL\simeq\dfrac{\mu N^2S}{\ell}(S=abS=ab)となり、長いソレノイドの自己インダクタンスの公式と同じ形である。トロイダルは端の効果がないので、この式が近似ではなく良い精度で成り立つ。

失点しやすい点

ln⁡(1+x)≃x\ln(1+x)\simeq x の 11 次までで止める。x2/2x^2/2 の項まで残すと「abab に比例する」という結論が言えなくなる。

電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンスの途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系

零点エネルギーの相殺

スピン下向きの状態では、調和振動子の零点エネルギー ℏ/2\hbar/2 とスピンの −ℏ/2-\hbar/2 がちょうど打ち消し合い、基底エネルギーが厳密に 00 になる。超対称性をもつ系に特徴的な性質である。

縮退の意味

n≥1n\ge1 でスピンの向きが異なる 22 状態が同じエネルギーをもつ。この対応関係を作るのが(c)の Q^±\hat Q_\pm である。

失点しやすい点

n=0n=0 の状態を 22 重に数えない。∣−1⟩⊗∣↑⟩|{-1}\rangle\otimes|\uparrow\rangle は存在しないので、基底状態だけ縮退がない。

設問(b) Q^±\hat Q_\pm の代数

方針

σ^±\hat\sigma_\pm に書き換えるのが要点である。σ^±2=O\hat\sigma_\pm^2=O という単純な性質から Q^±2=0\hat Q_\pm^2=0 が直ちに従う。

H^≥0\hat H\ge0

H^=2Q^12\hat H=2\hat Q_1^2 で Q^1\hat Q_1 はエルミートだから H^\hat H は半正定値、すなわちエネルギー固有値は必ず 00 以上である。(a)で En=ℏn≥0E_n=\hbar n\ge0 となったことと整合する。

失点しやすい点

(p^−ix^)(p^+ix^)(\hat p-i\hat x)(\hat p+i\hat x) の交差項で [p^,x^]=−iℏ[\hat p,\hat x]=-i\hbar([x^,p^]=iℏ[\hat x,\hat p]=i\hbar の逆)を使う。符号を取り違えると σ^3\hat\sigma_3 の向きが反転する。

設問(c) 交換関係と Q^±\hat Q_\pm の意味

具体形での確認

p^−ix^=−i2ℏ a^\hat p-i\hat x=-i\sqrt{2\hbar}\,\hat a、p^+ix^=i2ℏ a^†\hat p+i\hat x=i\sqrt{2\hbar}\,\hat a^\dagger だから Q^+=−iℏ σ^+a^,Q^−=iℏ σ^−a^†. \hat Q_+=-i\sqrt{\hbar}\,\hat\sigma_+\hat a,\qquad \hat Q_-=i\sqrt{\hbar}\,\hat\sigma_-\hat a^\dagger . Q^+\hat Q_+ は振動子の量子を 11 つ減らしスピンを上げるので、エネルギーは −ℏ+ℏ=0-\hbar+\hbar=0 で変わらない。(a)の対応 ∣n,↓⟩↔∣n−1,↑⟩|n,\downarrow\rangle\leftrightarrow|n-1,\uparrow\rangle がそのまま見える。

基底状態が特別な理由

Q^+∣0,↓⟩=0\hat Q_+|0,\downarrow\rangle=0(a^∣0⟩=0\hat a|0\rangle=0)かつ Q^−∣0,↓⟩=0\hat Q_-|0,\downarrow\rangle=0(σ^−∣↓⟩=0\hat\sigma_-|\downarrow\rangle=0)である。両方の超電荷に消される状態が超対称性の不変な基底状態で、縮退相手をもたない。

失点しやすい点

[H^,Q^±]=0[\hat H,\hat Q_\pm]=0 の証明で Q^±2=0\hat Q_\pm^2=0((b))を使う。これがないと 22 項が相殺しない。

設問(d) 摂動による準位

縮退摂動論を使う理由

n≥1n\ge1 の準位は 22 重に縮退しているので、通常の 11 次摂動(対角要素)では扱えない。縮退部分空間で V^\hat V を対角化する必要がある。本問では対角成分が 00 なので、分裂は非対角要素の絶対値そのもので決まる。

検算

V^=λ2Q^1\hat V=\lambda\sqrt2\hat Q_1 と H^=2Q^12\hat H=2\hat Q_1^2 を使うと、H^1=2Q^12+λ2Q^1\hat H_1=2\hat Q_1^2+\lambda\sqrt2\hat Q_1 は Q^1\hat Q_1 だけの 22 次式である。Q^1\hat Q_1 の固有値を qq とすれば厳密に E=2q2+2λqE=2q^2+\sqrt2\lambda q となる。H^\hat H の固有値 ℏn\hbar n に対応する q=±ℏn/2q=\pm\sqrt{\hbar n/2} を代入すると E=ℏn±λℏnE=\hbar n\pm\lambda\sqrt{\hbar n} で、11 次摂動の結果が実は厳密解になっている。

基底状態が動かない意味

q=0q=0 に対応する基底状態は Q^1\hat Q_1 にも消されるので、摂動を加えても E=0E=0 のままである。超対称性が破れていないことの現れで、λ\lambda の高次でも 00 である。

失点しやすい点

非対角要素に n\sqrt n が入る。a^\hat a の行列要素 ⟨n−1∣a^∣n⟩=n\langle n-1|\hat a|n\rangle=\sqrt n を落とすと nn 依存が消える。

量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 統計力学:1次元イジング模型の転送行列

N=2N=2 の特殊性

周期的境界条件のもとで 22 サイトの環は、同じ結合が 22 本重なる形になる。設問文が「この場合も i=1,2i=1,2 をとる」と注意しているのはこのためで、−Js1s2-Js_1s_2 ではなく −2Js1s2-2Js_1s_2 になる。

検算

h=0h=0 とすると Z2=2e2βJ+2e−2βJ=4cosh⁡(2βJ)Z_2=2e^{2\beta J}+2e^{-2\beta J}=4\cosh(2\beta J) である。(c)の一般式に N=2N=2 を入れても同じ値になることを後で確かめられる。

失点しやすい点

係数 22 を落として −Js1s2-Js_1s_2 とすると、以降の検算が合わなくなる。

設問(b) 転送行列

各成分の由来

V++V_{++} は si=si+1=+1s_i=s_{i+1}=+1 で Jsisi+1=JJs_is_{i+1}=J、h(si+si+1)/2=hh(s_i+s_{i+1})/2=h。 V+−=V−+V_{+-}=V_{-+} は sisi+1=−1s_is_{i+1}=-1、磁場の項が 00 になるので e−βJe^{-\beta J}。 V−−V_{--} は JJ と −h-h。磁場を半分ずつ両端に振り分けたことで VV が実対称になる。

なぜ対称にするか

実対称なら固有値が実で、固有ベクトルが直交する。ZN=tr⁡(VN)Z_N=\operatorname{tr}(V^N) を固有値の NN 乗の和として書ける保証が得られる。

失点しやすい点

磁場の項を hsihs_i とすると VV が非対称になり、V+−≠V−+V_{+-}\ne V_{-+} になる。設問文の si+si+12\dfrac{s_i+s_{i+1}}{2} に従う。

設問(c) 固有値と ZNZ_N

検算

N=2N=2 とすると λ12+λ22=(λ1+λ2)2−2λ1λ2=4e2βJcosh⁡2βh−2(e2βJ−e−2βJ)\lambda_1^2+\lambda_2^2=(\lambda_1+\lambda_2)^2-2\lambda_1\lambda_2 =4e^{2\beta J}\cosh^2\beta h-2(e^{2\beta J}-e^{-2\beta J})。 4cosh⁡2=2+2cosh⁡2βh4\cosh^2=2+2\cosh2\beta h を使うと 2e2βJcosh⁡2βh+2e−2βJ2e^{2\beta J}\cosh2\beta h+2e^{-2\beta J} となり、(a)と一致する。

cosh⁡2−1=sinh⁡2\cosh^2-1=\sinh^2

根号の中の整理でこの恒等式を使う。sinh⁡2\sinh^2 の形にしておくと h=0h=0 で根号が e−βJe^{-\beta J} になり、以降の極限が読みやすい。

失点しやすい点

det⁡V\det V で eβ(J+h)eβ(J−h)=e2βJe^{\beta(J+h)}e^{\beta(J-h)}=e^{2\beta J} となり hh が消える。ここで hh を残すと固有値が誤る。

設問(d) 1粒子あたりの自由エネルギー

相転移がないこと

ff は β>0\beta>0 の範囲で hh と β\beta の解析関数である(根号の中が常に正)。自由エネルギーに特異点がないので、11 次元イジング模型は有限温度で相転移を起こさない。(f)の結果はこの事実の具体的な表れである。

検算

h=0h=0 では λ1=eβJ+e−βJ=2cosh⁡βJ\lambda_1=e^{\beta J}+e^{-\beta J}=2\cosh\beta J となり、よく知られた f=−1βln⁡(2cosh⁡βJ)f=-\dfrac{1}{\beta}\ln(2\cosh\beta J) に一致する。

失点しやすい点

λ2\lambda_2 の寄与を落とす根拠を書く。∣λ2/λ1∣<1|\lambda_2/\lambda_1|<1 を確認したうえで極限を取る。

設問(e) スピンの期待値

熱力学的な意味

−∂f/∂h-\partial f/\partial h は 11 スピンあたりの磁化である。自由エネルギーを外場で微分すると共役な示量変数が出る、という一般則の具体例である。

具体形

(d)を代入して微分すると ⟨s^⟩=eβJsinh⁡βhe2βJsinh⁡2βh+e−2βJ \langle\hat s\rangle=\frac{e^{\beta J}\sinh\beta h}{\sqrt{e^{2\beta J}\sinh^2\beta h+e^{-2\beta J}}} が得られる。(f)ではこの式を使う。

失点しやすい点

符号を落として +∂f/∂h+\partial f/\partial h としない。HH の中で磁場の項が −h∑si-h\sum s_i と負であることから決まる。

設問(f) βh≪1\beta h\ll1 での磁化と2つの極限

極限の順序が効く理由

22 つの小さい量 βh\beta h と e−2βJe^{-2\beta J} の大小関係で答えが変わる。根号の中の 22 項 e2βJ(βh)2e^{2\beta J}(\beta h)^2 と e−2βJe^{-2\beta J} のどちらが勝つかが、βh e2βJ\beta h\,e^{2\beta J} が 11 より大きいか小さいかで決まる。

相転移がないことの意味

自発磁化は「h→0h\to0 の極限での磁化」と定義される。βJ\beta J が有限(つまり温度が有限)である限りこれは 00 で、強磁性秩序は現れない。秩序が現れるのは βJ→∞\beta J\to\infty、すなわち絶対零度の極限だけである。11 次元イジング模型が有限温度で相転移しないというパイエルスの議論の結論と一致する。

相関長との対応

h=0h=0 での相関長は ξ≃12e2βJ\xi\simeq\dfrac{1}{2}e^{2\beta J} で、温度を下げると発散するが有限温度では有限である。⟨s^⟩≃e2βJβh\langle\hat s\rangle\simeq e^{2\beta J}\beta h の係数がちょうど相関長の程度になっているのは偶然ではなく、磁化率が相関長に比例するためである。

失点しやすい点

22 つの極限を「同じ値になる」と答えない。順序で違うことを示すのが設問の狙いである。

統計力学:1次元イジング模型の転送行列の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 熱物理・実験:熱伝導による緩和と温度測定

グラフで示すべき情報

t=0t=0 の値 T0+Q/CT_0+Q/C、漸近値 T0T_0、そして時定数 τ=CL/(λS)\tau=CL/(\lambda S) の 33 つを図に書き込む。設問が「時間スケールや温度の情報もわかる様に」と求めているのはこの 33 点である。

時定数の読み方

τ\tau は熱容量に比例し、熱伝導のしやすさ(λS/L\lambda S/L、熱コンダクタンス)に反比例する。物体 B を太く短くすれば速く冷え、A の熱容量が大きければ遅く冷える。

仮定の確認

「緩和時間が熱伝導の時間より十分短い」という条件が、t=0t=0 での温度上昇を瞬間的とみなす根拠である。また「熱浴は十分大きい」ため T0T_0 は変化しない。

失点しやすい点

熱伝導率の定義(単位長さあたり単位温度差のとき単位面積を 11 秒間に流れる熱量)から λS(T−T0)/L\lambda S(T-T_0)/L を組み立てる。LL で割る操作を落とすと次元が合わない。

設問(b) 原理の異なる温度計

他の候補

液体温度計(水銀・アルコールの熱膨張を液柱の長さに読み替える)、放射温度計(物体からの熱放射の強度やスペクトルからプランクの法則で温度を求める。非接触で高温や遠方の測定に使える)、気体温度計(一定体積での圧力と温度の比例関係)などがある。22 例が「原理の異なる」ものであれば何でもよい。

答案の書き方

「例を 22 例あげ、その原理を説明せよ」なので、名称だけでなくどの物理量の温度依存性を使うかを 11 文で述べる。

失点しやすい点

液体温度計とバイメタル温度計のように、どちらも熱膨張を使うものを 22 つ挙げると「原理の異なる」を満たさない。

設問(c) 低温実験での注意事項

答案の組み立て

設問は「実験をうまく遂行するため、あるいは実験結果を検討する時必要と思われる注意事項を 22 例」と「人の安全を確保するための注意事項を 22 例」を分けて求めている。両者を混ぜず、見出しを立てて書き分ける。

(a)との関係

ヒートリークは(a)の設定でいえば「物体 B 以外の経路による熱の出入り」にあたる。設問(a)がそれを無視すると明記していたのは、実際には無視できないことの裏返しである。

測定条件の一定性

冷媒の液面が下がると輻射シールドの効きや配線の熱伝導が変わり、実効的な熱コンダクタンスが時間とともに変化する。長時間の測定では液面の管理も結果の検討に必要な項目になる。

失点しやすい点

「注意事項」を精神論で書かない。何が起きるか(熱侵入・感度低下・凍傷・酸欠・被ばく)と、それに対して何をするかの対応で書く。

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第6問 — 測定の不確かさ:統計誤差の低減と誤差伝播

方針

33 段階に分ける。11 回の誤差 →\to 平均の誤差(1/n1/\sqrt n)→\to 差の誤差(2\sqrt2 倍)である。どの段でも独立性を使っている。

2\sqrt2 を落とすとどうなるか

差を取ることを忘れて片方だけで 0.010.01 を要求すると 10T≥10010T\ge100、T≥10T\ge10 秒となり、必要時間を半分に見誤る。実際には 22 点の誤差が独立に効くので 22 倍の時間が要る。

測定精度の限界

統計誤差は 1/T1/\sqrt T でしか減らない。1010 倍の精度を得るには 100100 倍の時間が必要である。また実際には装置のドリフトなどの系統誤差が残るので、時間を延ばし続けても精度は頭打ちになる。設問文の「測定中は測定条件が一定」がこれを排除する仮定である。

失点しやすい点

nn を「秒数」ではなく「測定回数」とする。毎秒 1010 回なので n=10Tn=10T である。

設問(b) 地球の質量とその不確かさ

方針

積と商だけで書ける量は、対数を取って微分すると相対誤差の二乗和になる。べき指数がそのまま係数として現れるので、R2R^2 からは 2σR/R2\sigma_R/R が出る。

どの項が効くか

実際の測定では GG の相対誤差が最も大きく(10−510^{-5} 程度)、gg や RR の相対誤差はそれよりずっと小さい。したがって σM/M≃σG/G\sigma_M/M\simeq\sigma_G/G となり、地球質量の精度は万有引力定数の精度で決まる。「地球の重さを測る」という問題が GG の測定問題に帰着するのはこのためである。

密度一定の仮定

球対称であれば密度が半径によって変わっても g=GM/R2g=GM/R^2 は成り立つ。設問の「密度一定」はより強い仮定だが、質量の式には影響しない。

失点しやすい点

RR の項の係数 22 を落とさない。二乗して 44 になる。また誤差は単純和ではなく二乗和の平方根で合成する(独立な誤差だから)。

測定の不確かさ:統計誤差の低減と誤差伝播の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全4問)

    解析力学:ケプラー運動のラグランジアンと近星点・遠星点速度 / 電磁気学:一様電場中に置かれた導体球 / 量子力学:非調和振動子とハイパービリアル関係式

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全6問)

    力学:ロケットの運動方程式とツィオルコフスキーの式 / 電磁気学:ビオ・サバールの法則から円電流の磁場まで / 量子力学:時間依存2準位系と相互作用表示での摂動論

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(全4問)

    解析力学:円筒座標での中心力運動とラグランジュ方程式 / 電磁気学:球形コンデンサーの電場・電位・静電容量 / 量子力学:デルタ関数ポテンシャルの束縛状態

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(このページ・全6問)

    力学:棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子 / 電磁気学:トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス / 量子力学:超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系

  • 2023年度 春季(2023年2月実施)(全4問)

    力学:減衰と外力を受ける振り子の共鳴 / 電磁気学:電気双極子が作る場と外場から受ける力・トルク / 量子力学:半直線上の調和振動子

  • 2023年度 夏季(2022年7月実施)(全6問)

    解析力学:二重振り子の微小振動と基準モード / 電磁気学:磁気モーメント・磁気回転比・g 因子 / 量子力学:無限井戸に置かれたデルタ関数障壁

2024年度 夏季(2023年7月実施)の出題内容

全6問

この6問の分野は電磁気学・回路1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学棒にはたらく動摩擦力と二糸振り子並進との違い / 2つの近似あり
第2問電磁気学・回路トロイダルコイルの磁場・エネルギー・自己インダクタンス1/r 依存 / 1/r の積分あり
第3問量子力学超対称性をもつ調和振動子とスピンの結合系零点エネルギーの相殺 / 縮退の意味あり
第4問—統計力学:1次元イジング模型の転送行列N=2 の特殊性 / 各成分の由来あり
第5問熱伝導による緩和と温度測定グラフで示すべき情報 / 時定数の読み方あり
第6問統計誤差の低減と誤差伝播\sqrt2 を落とすとどうなるか / 測定精度の限界あり

2024年度 夏季(2023年7月実施)の解説には失点しやすい点6件・検算3件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2023年度 春季(2023年2月実施))との違い

大問数
2023年度 春季(2023年2月実施) 4問 → 2024年度 夏季(2023年7月実施) 6問
2023年度 春季(2023年2月実施)の解答例

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2004年度以降の夏季・春季(直近は2023〜2025年度)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
英語は外部試験のスコア提出。専門科目の物理学のみ問題を掲載している。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF