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立教大学 理学研究科 数学専攻 数学 2024年度 春季(2024年2月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全9問)

全9問の分野は線形代数2問、代数2問、微分積分・解析2問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 線形代数:シルベスター方程式 AX-XB と共通固有値

ベクトル空間としての M2(R)M_2\left(\mathbb R\right)

M2(R)M_2\left(\mathbb R\right) は 44 次元の実ベクトル空間である。ff はその上の線形変換なので、固有値・固有ベクトルを論じることができる。設問 22 以降はまさにそれである。

ff の核の意味

f(X)=Of\left(X\right)=O は AX=XBAX=XB、すなわち「XX が AA と BB を絡める行列」であることを表す。設問 33・44 はこの核が非自明かどうかを問うている。

左乗法と右乗法

LA(X)=AXL_A\left(X\right)=AX と RB(X)=XBR_B\left(X\right)=XB はともに線形で、しかも互いに可換(LARB=RBLAL_AR_B=R_BL_A)である。f=LA−RBf=L_A-R_B の固有値が AA の固有値と BB の固有値の差になるのは、可換な作用素の同時対角化から理解できる。

設問2 X=xyTX=xy^{\mathsf T} が固有ベクトルであること

tB{}^{\mathsf t}B を使う理由

XX に右から BB を掛ける操作は、行ベクトル ty{}^{\mathsf t}\bm y に右から BB を掛けることに等しい。これを列ベクトルの言葉に直すと tB{}^{\mathsf t}B が現れる。左からの作用は AA、右からの作用は tB{}^{\mathsf t}B、と対応づけると見通しがよい。

X≠OX\neq O の確認

x=(x1,x2)T≠0\bm x=\left(x_1,x_2\right)^{\mathsf T}\neq\bm 0、y≠0\bm y\neq\bm 0 なら、ある i,ji,j で xi≠0x_i\neq0、yj≠0y_j\neq0 となり XX の (i,j)\left(i,j\right) 成分 xiyj≠0x_iy_j\neq0。固有ベクトルは 00 でないことが必要なので、この確認は必須である。

ff の固有値の全体

AA の固有値 λ1,λ2\lambda_1,\lambda_2、BB の固有値 μ1,μ2\mu_1,\mu_2 とすると、ff の固有値は λi−μj\lambda_i-\mu_j の 44 個(重複込み)である。M2(R)M_2\left(\mathbb R\right) が 44 次元であることと整合する。

設問3 共通固有値をもつ場合

逆も成り立つ

AC=CBAC=CB を満たす C≠OC\neq O があれば、AA と BB は共通固有値をもつ。実際 ff の固有値のどれかが 00 でなければ ff は単射になり、核は {O}\left\{O\right\} になる。したがって「共通固有値をもつ ⟺\Longleftrightarrow AC=CBAC=CB の非自明解が存在する」である。

シルベスター方程式

AX−XB=YAX-XB=Y の形の方程式をシルベスター方程式という。AA と BB が共通固有値をもたないとき、この方程式は任意の YY に対して一意に解ける。制御理論や数値線形代数で基本的な事実である。

実数体での注意

AA の固有値が実数でない場合、実ベクトル x\bm x が取れない。本問は ν\nu を共通固有値としているが、複素数の範囲で考えれば同じ議論が通る。設問 44 の例では固有値がすべて実数なので問題ない。

設問4 具体例

検算

AD=(20−23)(−31−62)=(−62−124), AD=\begin{pmatrix}2&0\\-2&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-3&1\\-6&2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-6&2\\-12&4\end{pmatrix}, DB=(−31−62)(−60−242)=(−62−124). DB=\begin{pmatrix}-3&1\\-6&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-6&0\\-24&2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-6&2\\-12&4\end{pmatrix}. 一致する。

解の自由度

共通固有値が ν=2\nu=2 の 11 つだけで、AA の固有空間も tB{}^{\mathsf t}B の固有空間もそれぞれ 11 次元なので、ff の核は 11 次元である。したがって DD は定数倍を除いて一意である。

DD の階数

DD は階数 11(det⁡D=−6+6=0\det D=-6+6=0)。x ty\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y の形の行列は常に階数 11 以下である。

失点しやすい点

BB の固有ベクトルではなく tB{}^{\mathsf t}B の固有ベクトルを取る。BB の固有ベクトル (0,1)T\left(0,1\right)^{\mathsf T}(固有値 22)で x ty\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y を作っても AD=DBAD=DB にはならない。

解答

加法性

X,Y∈M2(R)X,Y\in M_2\left(\mathbb R\right) に対し、行列の積の分配法則から f(X+Y)=A(X+Y)−(X+Y)B=(AX−XB)+(AY−YB)=f(X)+f(Y). f\left(X+Y\right)=A\left(X+Y\right)-\left(X+Y\right)B =\left(AX-XB\right)+\left(AY-YB\right)=f\left(X\right)+f\left(Y\right).

斉次性

c∈Rc\in\mathbb R に対し、スカラーは行列と可換だから f(cX)=A(cX)−(cX)B=c(AX−XB)=c f(X). f\left(cX\right)=A\left(cX\right)-\left(cX\right)B=c\left(AX-XB\right)=c\,f\left(X\right).

行き先

AXAX と XBXB はともに 22 次正方行列なので f(X)∈M2(R)f\left(X\right)\in M_2\left(\mathbb R\right)。

仮定の整理

Ax=λxA\bm x=\lambda\bm x(x≠0\bm x\neq\bm 0)、tBy=μy{}^{\mathsf t}B\bm y=\mu\bm y(y≠0\bm y\neq\bm 0)とする。 X=x tyX=\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y は 22 次正方行列で、階数 11 なので X≠OX\neq O である。

AXAX の計算

AX=A(x ty)=(Ax)ty=λ x ty=λX. AX=A\left(\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y\right)=\left(A\bm x\right){}^{\mathsf t}\bm y=\lambda\,\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y=\lambda X .

XBXB の計算

ty B=t(tB y)=t(μy)=μ ty{}^{\mathsf t}\bm y\,B={}^{\mathsf t}\left({}^{\mathsf t}B\,\bm y\right)={}^{\mathsf t}\left(\mu\bm y\right)=\mu\,{}^{\mathsf t}\bm y だから XB=x(ty B)=μ x ty=μX. XB=\bm x\left({}^{\mathsf t}\bm y\,B\right)=\mu\,\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y=\mu X .

結論

f(X)=AX−XB=λX−μX=(λ−μ)X. f\left(X\right)=AX-XB=\lambda X-\mu X=\left(\lambda-\mu\right)X . X≠OX\neq O なので XX は固有値 λ−μ\lambda-\mu に属する ff の固有ベクトルである。

tB{}^{\mathsf t}B の固有値

det⁡(tB−νI)=det⁡(t(B−νI))=det⁡(B−νI)\det\left({}^{\mathsf t}B-\nu I\right)=\det\left({}^{\mathsf t}\left(B-\nu I\right)\right)=\det\left(B-\nu I\right) より、BB と tB{}^{\mathsf t}B は同じ固有多項式をもつ。ν\nu が BB の固有値なら tB{}^{\mathsf t}B の固有値でもある。

固有ベクトルの取り方

AA の固有値 ν\nu に属する固有ベクトル x≠0\bm x\neq\bm 0、および tB{}^{\mathsf t}B の固有値 ν\nu に属する固有ベクトル y≠0\bm y\neq\bm 0 を取る。

結論

C=x tyC=\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y と置く。設問 22 より C≠OC\neq O で f(C)=(ν−ν)C=O,すなわちAC=CB. f\left(C\right)=\left(\nu-\nu\right)C=O, \qquad\text{すなわち}\qquad AC=CB .

固有値

A=(20−23)A=\begin{pmatrix}2&0\\-2&3\end{pmatrix} は下三角なので固有値は 2,32,3。 B=(−60−242)B=\begin{pmatrix}-6&0\\-24&2\end{pmatrix} も下三角なので固有値は −6,2-6,2。 共通固有値は ν=2\nu=2 である。

AA の固有ベクトル

(A−2I)x=(00−21)x=0\left(A-2I\right)\bm x=\begin{pmatrix}0&0\\-2&1\end{pmatrix}\bm x=\bm 0 より −2x1+x2=0-2x_1+x_2=0。 x=(1,2)T\bm x=\left(1,2\right)^{\mathsf T} と取れる。

tB{}^{\mathsf t}B の固有ベクトル

tB=(−6−2402){}^{\mathsf t}B=\begin{pmatrix}-6&-24\\0&2\end{pmatrix}、 (tB−2I)y=(−8−2400)y=0\left({}^{\mathsf t}B-2I\right)\bm y=\begin{pmatrix}-8&-24\\0&0\end{pmatrix}\bm y=\bm 0 より y1=−3y2y_1=-3y_2。 y=(−3,1)T\bm y=\left(-3,1\right)^{\mathsf T} と取れる。

DD の構成

D=x ty=(12)(−31)=(−31−62)≠O. D=\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-3&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}-3&1\\-6&2\end{pmatrix}\neq O .

最終答

加法性と斉次性が成り立ち、像も M2(R)M_2\left(\mathbb R\right) に入るので、ff は線形写像である(証明終わり)

f(X)=(λ−μ)Xf\left(X\right)=\left(\lambda-\mu\right)X かつ X≠OX\neq O。 よって X=x tyX=\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y は固有値 λ−μ\lambda-\mu の固有ベクトルである(証明終わり)

AA の固有値 ν\nu の固有ベクトル x\bm x と tB{}^{\mathsf t}B の固有値 ν\nu の固有ベクトル y\bm y を取り、 C=x ty≠OC=\bm x\,{}^{\mathsf t}\bm y\neq O とすれば AC=CBAC=CB が成り立つ(証明終わり)

D=(−31−62)\displaystyle D=\begin{pmatrix}-3&1\\-6&2\end{pmatrix}(00 でない定数倍も可)

第2問 — 線形代数:{}^tAA と A{}^tA の固有値から行列を復元する

I+JI+J と見抜く

成分がすべて同じ値で対角だけ違う行列は αI+βJ\alpha I+\beta J と書ける。JJ の固有値が nn と 00(nn 次のとき)であることを覚えておけば、固有多項式を展開せずに済む。

検算

tr⁡(AtA)=2+2+2=6\operatorname{tr}\left(A{}^{\mathsf t}A\right)=2+2+2=6、固有値の和も 4+1+1=64+1+1=6。 det⁡=4⋅1⋅1=4\det=4\cdot1\cdot1=4。直接計算しても det⁡(I+J)=4\det\left(I+J\right)=4 である。

半正定値性

AtAA{}^{\mathsf t}A は必ず半正定値対称行列で、固有値は非負になる。4,1,1>04,1,1>0 はこれと整合し、しかもすべて正なので AtAA{}^{\mathsf t}A は正定値、すなわち正則である。

設問2 AA の階数

tAA{}^{\mathsf t}AA から見ても同じ

tAA=diag⁡(a,a,b,0){}^{\mathsf t}AA=\operatorname{diag}\left(a,a,b,0\right) の階数は、a≠0a\neq0、b≠0b\neq0 なら 33 である。設問 44 で a=1a=1、b=4b=4 が決まるので整合する。

3×43\times4 行列の階数の上限

rank⁡A≤min⁡(3,4)=3\operatorname{rank}A\le\min\left(3,4\right)=3。したがって AA は全行階数(行が 11 次独立)で、AA の定める写像 R4→R3\mathbb R^{4}\to\mathbb R^{3} は全射である。

核の次元

dim⁡ker⁡A=4−3=1\dim\ker A=4-3=1。設問 33 の a4=0\bm a_4=\bm 0 はこの核の生成元が e4\bm e_4 であることを意味する。

設問3 列ベクトルの性質

特異値分解の骨格

tAA{}^{\mathsf t}AA の固有ベクトルに AA を掛けると AtAA{}^{\mathsf t}A の固有ベクトルになる、という関係は特異値分解の基本である。固有値 λi\lambda_i は特異値の 22 乗にあたる。

ai≠0\bm a_i\neq\bm 0 の根拠

a1=0\bm a_1=\bm 0 なら a=0a=0 となり a2=0\bm a_2=\bm 0 でもある。すると AA の列は a3\bm a_3 だけになり階数 11。設問 22 の rank⁡A=3\operatorname{rank}A=3 に反する。同様に b≠0b\neq0。

直交性の意味

a1,a2,a3\bm a_1,\bm a_2,\bm a_3 は互いに直交する 00 でないベクトルなので 11 次独立で、R3\mathbb R^{3} の直交基底をなす。rank⁡A=3\operatorname{rank}A=3 と整合する。

設問4 aa と bb の値

トレースによる検算

tr⁡(tAA)=a+a+b+0=1+1+4=6\operatorname{tr}\left({}^{\mathsf t}AA\right)=a+a+b+0=1+1+4=6、 tr⁡(AtA)=2+2+2=6\operatorname{tr}\left(A{}^{\mathsf t}A\right)=2+2+2=6。 一般に tr⁡(tAA)=tr⁡(AtA)=∑i,jAij2\operatorname{tr}\left({}^{\mathsf t}AA\right)=\operatorname{tr}\left(A{}^{\mathsf t}A\right)=\sum_{i,j}A_{ij}^{2} なので、この一致は必然である。

00 でない固有値の一致

tAA{}^{\mathsf t}AA(44 次)と AtAA{}^{\mathsf t}A(33 次)は、00 でない固有値を重複度込みで共有する。tAA{}^{\mathsf t}AA の固有値 1,1,4,01,1,4,0 から 00 を除くと 1,1,41,1,4 となり、AtAA{}^{\mathsf t}A の固有値と一致する。

a=4a=4、b=1b=1 が不可能な理由

そうすると固有値 44 の固有空間が 22 次元になるが、設問 11 より重複度は 11 である。矛盾する。

設問5 AA の構成

(∗)\left(*\right) の確認

tAA{}^{\mathsf t}AA の (i,j)\left(i,j\right) 成分は ai⋅aj\bm a_i\cdot\bm a_j である。構成より対角成分は 1,1,4,01,1,4,0、非対角は 00。確かに diag⁡(1,1,4,0)\operatorname{diag}\left(1,1,4,0\right) になる。

(∗∗)\left(**\right) の確認

AtA=∑i=14aitaiA{}^{\mathsf t}A=\displaystyle\sum_{i=1}^{4}\bm a_i{}^{\mathsf t}\bm a_i である。 a1ta1+a2ta2\bm a_1{}^{\mathsf t}\bm a_1+\bm a_2{}^{\mathsf t}\bm a_2 は平面 x1+x2+x3=0x_1+x_2+x_3=0 への直交射影 I−13JI-\frac13J、 a3ta3=43J\bm a_3{}^{\mathsf t}\bm a_3=\frac43J だから AtA=I−13J+43J=I+J=(211121112). A{}^{\mathsf t}A=I-\frac13J+\frac43J=I+J =\begin{pmatrix}2&1&1\\1&2&1\\1&1&2\end{pmatrix}. 一致する。

答えは一意でない

a1,a2\bm a_1,\bm a_2 は平面内で自由に回転させてよく、a3\bm a_3 は符号を変えてよい。a1↔a2\bm a_1\leftrightarrow\bm a_2 の入れ替えも許される。「一つ求めよ」なのでどれか 11 つを示せば十分だが、条件をすべて満たすことは確認する。

失点しやすい点

a3\bm a_3 の長さは b=2\sqrt b=2 であって b=4b=4 ではない。tAA{}^{\mathsf t}AA の対角成分は長さの 22 乗であることに注意する。

線形代数:{}^tAA と A{}^tA の固有値から行列を復元するの途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 微分積分:多重極限の非存在と単調増加列による広義重積分

ff が斉次であること

f(tx,ty)=f(x,y)f\left(tx,ty\right)=f\left(x,y\right)(t>0t>0)が成り立つ。原点からの方向だけで値が決まるので、方向ごとに違う値を取れば極限は存在しない。00 次斉次関数の典型的な振る舞いである。

有界でもないこと

c→1−c\to1^{-} とすると 11−c2→∞\dfrac{1}{\sqrt{1-c^{2}}}\to\infty。ff は原点のどんな近傍でも有界でない。

道は 22 本で足りる

極限の非存在を示すには、異なる極限値を与える道を 22 本挙げれば十分である。すべての道を調べる必要はない。

設問2 arcsin⁡(at)\arcsin\left(at\right) の微分

設問4での使い方

a=1xa=\dfrac1x とすると ∫dyx2−y2=∫dyx1−y2/x2=arcsin⁡yx+C\displaystyle\int\frac{dy}{\sqrt{x^{2}-y^{2}}}=\int\frac{dy}{x\sqrt{1-y^{2}/x^{2}}}=\arcsin\frac{y}{x}+C。 この不定積分を得るために設問 22 が置かれている。

arcsin⁡\arcsin の導関数

s=sin⁡θs=\sin\theta、θ=arcsin⁡s\theta=\arcsin s とすると dθds=1cos⁡θ=11−s2\dfrac{d\theta}{ds}=\dfrac{1}{\cos\theta}=\dfrac{1}{\sqrt{1-s^{2}}}。 −π2<θ<π2-\dfrac\pi2<\theta<\dfrac\pi2 で cos⁡θ>0\cos\theta>0 なので正号を取る。問題文が値域を指定しているのはこのためである。

a<0a<0 の場合

a>0a>0 が仮定されているが、a<0a<0 でも同じ式が成り立つ(区間の書き方だけ変わる)。

設問3 22 つの和集合の一致

共通の極限領域

どちらの和集合も D={(x,y) | 0<x≤1, 0≤y<x} D=\left\{\left(x,y\right)\ \middle|\ 0<x\le1,\ 0\le y<x\right\} に等しい。DnD_n は直線 y=x−1ny=x-\frac1n で、EnE_n は直線 y=(1−1n)xy=\left(1-\frac1n\right)x で DD を内側から近似している。どちらも n→∞n\to\infty で境界 y=xy=x に近づく。

22 通りの近似を使う理由

DnD_n 上の積分は arcsin⁡(1−1nx)\arcsin\left(1-\frac{1}{nx}\right) という xx に依存する式になり計算しにくい。一方 EnE_n 上では arcsin⁡(1−1n)\arcsin\left(1-\frac1n\right) が xx に依らない定数になるので、xx の積分が分離できる。設問 44 ではこの計算しやすい EnE_n を経由する。

DnD_n の単調性

Dn⊂Dn+1D_n\subset D_{n+1} である(1n+1<1n\frac{1}{n+1}<\frac1n かつ x−1n<x−1n+1x-\frac1n<x-\frac{1}{n+1})。したがって InI_n は単調増加列になる。設問 44 で使う。

設問4 lim⁡n→∞In\displaystyle\lim_{n\to\infty}I_n

直接計算による確認

極限領域 DD 上で形式的に計算すると ∬Df dxdy=∫01x[arcsin⁡yx]y=0y→x−dx=∫01x⋅π2dx=π2⋅12=π4. \iint_D f\,dxdy=\int_0^{1}x\left[\arcsin\frac yx\right]_{y=0}^{y\to x^{-}}dx =\int_0^{1}x\cdot\frac{\pi}{2}dx=\frac{\pi}{2}\cdot\frac12=\frac{\pi}{4}. 同じ値になる。ff は DD の境界 y=xy=x の近くで発散するが、広義積分としては収束する。

DnD_n 上で直接計算すると

In=∫1/n1xarcsin⁡(1−1nx)dx I_n=\int_{1/n}^{1}x\arcsin\left(1-\frac{1}{nx}\right)dx で、arcsin⁡\arcsin の中身が xx に依存するため部分積分を要する。設問 33 の EnE_n を経由すると、この手間が丸ごと省ける。

LL が有限であることの確認

挟み撃ちの前に LL が +∞+\infty でない保証は要らない。L≤lim⁡Kn=π4<∞L\le\lim K_n=\frac\pi4<\infty が上の不等式から直接出るからである。

失点しやすい点

In≤Kn≤In2I_n\le K_n\le I_{n^{2}} の両側を使う。片側だけでは L≤π4L\le\frac\pi4 か L≥π4L\ge\frac\pi4 の一方しか言えない。

微分積分:多重極限の非存在と単調増加列による広義重積分の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 微分積分:区分的に定義された関数の連続性・値域・微分可能性

ロピタルの定理でもよい

00\dfrac00 型なので 22 回適用すると 1−cos⁡xsin⁡x→00\dfrac{1-\cos x}{\sin x}\to\dfrac{0}{0}、さらに sin⁡xcos⁡x→0\dfrac{\sin x}{\cos x}\to0。ただし途中でまた 00\frac00 型になるので、展開のほうが確実である。

半角公式による表示

1−cos⁡x=2sin⁡2x21-\cos x=2\sin^{2}\frac x2、sin⁡x=2sin⁡x2cos⁡x2\sin x=2\sin\frac x2\cos\frac x2 を使うと x−sin⁡x1−cos⁡x=x2sin⁡2(x/2)−cot⁡x2. \frac{x-\sin x}{1-\cos x}=\frac{x}{2\sin^{2}\left(x/2\right)}-\cot\frac x2 . 設問 22 の x→2π−x\to2\pi^{-} の評価にはこの形が便利である。

mm に依存しない理由

連続性の判定に使う左極限は m⋅0=0m\cdot0=0 で、mm の値によらない。mm が効いてくるのは設問 33 の微分可能性である。

設問2 m≤0m\le0 のときの値域

m>0m>0 ではどうなるか

m>0m>0、x≤0x\le0 では mx≤0mx\le0 となり負の値も取る。値域は (−∞,0]∪(0,∞)=R\left(-\infty,0\right]\cup\left(0,\infty\right)=\mathbb R になる。仮定 m≤0m\le0 が値域を [0,∞)\left[0,\infty\right) に抑えている。

gg の単調性

実は gg は (0,2π)\left(0,2\pi\right) で狭義単調増加である(g(π)=π2g\left(\pi\right)=\dfrac{\pi}{2}、gg の導関数を計算すると正)。単調性を示せば値域が (0,∞)\left(0,\infty\right) であることが直ちに従うが、中間値の定理と両端の極限だけでも十分である。

00 が値域に入る理由

g>0g>0 なので x>0x>0 の部分からは 00 は出ない。fm(0)=0f_m\left(0\right)=0 が 00 を供給している。閉区間 [0,∞)\left[0,\infty\right) の左端が入ることの根拠として、この 11 点を明示する。

設問3 x=0x=0 で微分可能な mm

13\dfrac13 の意味

設問 11 の展開から g(x)=x3+O(x3)g\left(x\right)=\dfrac{x}{3}+O\left(x^{3}\right)。すなわち x>0x>0 側のグラフは原点で傾き 13\dfrac13 の直線に接する。左側の直線 y=mxy=mx の傾きをこれに合わせるのが条件である。

連続性だけでは足りないこと

設問 11 より fmf_m はどんな mm でも連続だが、微分可能になるのは m=13m=\frac13 のときだけである。連続性と微分可能性の違いを見せる設計になっている。

より詳しい展開

g(x)=x3+x3180+⋯g\left(x\right)=\dfrac x3+\dfrac{x^{3}}{180}+\cdots である。m=13m=\frac13 のとき f1/3f_{1/3} は x=0x=0 で C1C^{1} 級だが 22 階微分は左が 00、右が 00 で一致し、実は C2C^{2} 級でもある(33 階で差が出る)。

失点しやすい点

右微分係数の計算では、分母が h(1−cos⁡h)∼h32h\left(1-\cos h\right)\sim\dfrac{h^{3}}{2} と 33 次になることに注意する。hh を掛け忘れると h3→0\dfrac{h}{3}\to0 となり誤答になる。

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第5問 — 代数学:3次多項式 x^3-12x-34 の既約性と分解体

33 次以下に特有の判定

44 次以上では有理根がなくても可約になり得る(22 次×2\times2 次など)。33 次では因数分解すれば必ず 11 次因子が現れるので、有理根の非存在が既約性と同値になる。

 mod  p\bmod\ p による別証

ff を F5\mathbb F_5 上で見ると x3−2x−4x^{3}-2x-4。x=0,1,2,3,4x=0,1,2,3,4 を代入すると −4,−5,0,…-4,-5,0,\dots で x=2x=2 が根になるので F5\mathbb F_5 では可約である。F7\mathbb F_7 では x3−5x−6x^{3}-5x-6、代入すると x=0,…,6x=0,\dots,6 で −6,−10,−8,6,38,…-6,-10,-8,6,38,\dots いずれも  mod  7\bmod\ 7 で 00 にならないので既約。この 11 つで Q\mathbb Q 上の既約性が従う。

アイゼンシュタインは使えない

−12-12 と −34-34 をともに割る素数は 22 だが、3434 は 44 で割り切れないので p=2p=2 で判定できそうに見える。しかし −12-12 は 22 で割り切れるものの、条件「最高次以外がすべて pp で割れ、定数項が p2p^{2} で割れない」は満たす。実は p=2p=2 でアイゼンシュタインが適用でき、既約性が直ちに従う。有理根の確認より速い。

設問2 実根がちょうど 11 つ

判別式による別証

x3+px+qx^{3}+px+q の判別式は Δ=−4p3−27q2\Delta=-4p^{3}-27q^{2}。p=−12p=-12、q=−34q=-34 より Δ=−4(−1728)−27⋅1156=6912−31212=−24300<0. \Delta=-4\left(-1728\right)-27\cdot1156=6912-31212=-24300<0 . Δ<0\Delta<0 は「実根 11 つ、共役な虚根 22 つ」に対応する。設問 44 でこの値をもう一度使う。

根の位置

f(4)=64−48−34=−18<0f\left(4\right)=64-48-34=-18<0、f(5)=125−60−34=31>0f\left(5\right)=125-60-34=31>0 なので実根は (4,5)\left(4,5\right) にある。設問 33 の 25/3+21/3=3.1748+1.2599=4.43472^{5/3}+2^{1/3}=3.1748+1.2599=4.4347 と整合する。

失点しやすい点

極大値と極小値の両方を計算する。片方だけでは根の個数が決まらない。

設問3 α=25/3+21/3\alpha=2^{5/3}+2^{1/3}

カルダノの公式との関係

x3+px+q=0x^{3}+px+q=0 の実根は x=−q2+q24+p3273+−q2−⋯3x=\sqrt[3]{-\frac q2+\sqrt{\frac{q^{2}}{4}+\frac{p^{3}}{27}}}+\sqrt[3]{-\frac q2-\sqrt{\cdots}}。 p=−12p=-12、q=−34q=-34 では q24+p327=289−64=225\frac{q^{2}}{4}+\frac{p^{3}}{27}=289-64=225、225=15\sqrt{225}=15 だから x=17+153+17−153=323+23=25/3+21/3x=\sqrt[3]{17+15}+\sqrt[3]{17-15}=\sqrt[3]{32}+\sqrt[3]{2}=2^{5/3}+2^{1/3}。 この形が問題文で与えられているのは、判別式が平方数になるよう係数が選ばれているためである。

数値の確認

25/3=3.174802^{5/3}=3.17480、21/3=1.259922^{1/3}=1.25992、和は 4.434724.43472。 α3=87.216\alpha^{3}=87.216、12α+34=53.217+34=87.21712\alpha+34=53.217+34=87.217。一致する。

Q(α)=Q(21/3)\mathbb Q\left(\alpha\right)=\mathbb Q\left(2^{1/3}\right)

α=2t2+t\alpha=2t^{2}+t より α∈Q(t)\alpha\in\mathbb Q\left(t\right)、また [Q(α):Q]=3=[Q(t):Q]\left[\mathbb Q\left(\alpha\right):\mathbb Q\right]=3=\left[\mathbb Q\left(t\right):\mathbb Q\right] なので両者は一致する。α\alpha の生成する体は 23\sqrt[3]{2} の生成する体と同じである。

設問4 ガロア群の決定

判別式による判定

既約 33 次多項式のガロア群が A3A_3 になるのは、判別式が Q\mathbb Q の平方数であるときに限る。設問 22 の注で見たとおり Δ=−24300<0\Delta=-24300<0 で平方数でない(負である)。したがって S3S_3 である。複素共役の議論と同じ結論になる。

KK の具体形

α∈Q(23)\alpha\in\mathbb Q\left(\sqrt[3]2\right) かつ KK は ff の分解体だから、K=Q(23,ω)K=\mathbb Q\left(\sqrt[3]2,\omega\right)(ω\omega は 11 の原始 33 乗根)である。実際 [K:Q]=6\left[K:\mathbb Q\right]=6 で、x3−2x^{3}-2 の分解体と一致する。

中間体

S3S_3 の部分群は位数 1,2,2,2,3,61,2,2,2,3,6 の 66 個。対応する中間体は KK、33 つの 33 次体 Q(α),Q(β),Q(γ)\mathbb Q\left(\alpha\right),\mathbb Q\left(\beta\right),\mathbb Q\left(\gamma\right)、22 次体 Q(Δ)=Q(−3)\mathbb Q\left(\sqrt{\Delta}\right)=\mathbb Q\left(\sqrt{-3}\right)、そして Q\mathbb Q である。

失点しやすい点

「既約だから S3S_3」ではない。既約性は推移性しか与えず、A3A_3 の可能性が残る。実根の個数か判別式で A3A_3 を排除する一手が要る。

代数学:3次多項式 x^3-12x-34 の既約性と分解体の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 代数学:円演算 a° b=a+b-ab が定める群と乗法群との同型

恒等式の見つけ方

a∘b=a+b−aba\circ b=a+b-ab の右辺を 11 から引くと 1−a−b+ab1-a-b+ab。これは (1−a)(1−b)\left(1-a\right)\left(1-b\right) の展開そのものである。以降のすべての設問がこの因数分解に帰着する。

ψ(a)=1−a\psi\left(a\right)=1-a という写像

恒等式は ψ(a∘b)=ψ(a)ψ(b)\psi\left(a\circ b\right)=\psi\left(a\right)\psi\left(b\right) と読める。すなわち ψ\psi は ∘\circ を積に写す。設問 44 の同型そのものである。

体であることが必要

零因子をもつ環では (1−a)(1−b)=0\left(1-a\right)\left(1-b\right)=0 が起こり得る。たとえば R=Z/6ZR=\mathbb Z/6\mathbb Z、a=3a=3、b=4b=4 とすると (1−3)(1−4)=(−2)(−3)=6=0\left(1-3\right)\left(1-4\right)=\left(-2\right)\left(-3\right)=6=0 で a∘b=1a\circ b=1 になる。

設問2 可換性

恒等式による別証

1−(a∘b)=(1−a)(1−b)=(1−b)(1−a)=1−(b∘a)1-\left(a\circ b\right)=\left(1-a\right)\left(1-b\right)=\left(1-b\right)\left(1-a\right)=1-\left(b\circ a\right) より a∘b=b∘aa\circ b=b\circ a。同じ結論だが、設問 11 の恒等式を再利用する形になっている。

a,b≠1a,b\neq1 という条件

可換性自体は FF 全体で成り立ち、a≠1a\neq1 は不要である。設問が F∖{1}F\setminus\left\{1\right\} に限っているのは、設問 33 の群構造の文脈にそろえるためである。

非可換体では

FF が斜体(非可換)なら ab≠baab\neq ba となり得るので、∘\circ も可換とは限らない。可換体という仮定が効いている。

設問3 アーベル群であること

恒等式が全部を担うこと

結合律も逆元も、1−(⋅)1-\left(\cdot\right) を取ると積の計算に変わる。11 を除くのは「積の 00 を除く」ことに対応しており、設問 44 の同型の準備になっている。

11 を除く必然性

a=1a=1 なら 1∘b=1+b−b=11\circ b=1+b-b=1 で、11 は「吸収元」として働く(積における 00 の役割)。したがって 11 を含めると群にならない。

具体例

F=RF=\mathbb R なら F∘=R∖{1}F^{\circ}=\mathbb R\setminus\left\{1\right\}。a=2a=2 の逆元は −21−2=2\dfrac{-2}{1-2}=2 で、2∘2=2+2−4=02\circ2=2+2-4=0。確かに単位元になる。

設問4 F∘≅F×F^{\circ}\cong F^{\times}

単位元の対応

ψ(0)=1\psi\left(0\right)=1。F∘F^{\circ} の単位元 00 が F×F^{\times} の単位元 11 に写る。準同型なら自動的に成り立つ性質だが、確認しておくと安心である。

逆元の対応

ψ(−a1−a)=1−−a1−a=11−a=ψ(a)−1\psi\left(\dfrac{-a}{1-a}\right)=1-\dfrac{-a}{1-a}=\dfrac{1}{1-a}=\psi\left(a\right)^{-1}。設問 33 の逆元の式が、ψ\psi の下で乗法の逆数に対応していることが見える。

この演算の別の姿

a∘ba\circ b は「aa でも bb でもない確率の余事象」1−(1−a)(1−b)1-\left(1-a\right)\left(1-b\right) と同じ式で、確率論や信頼性工学では 22 つの独立な事象の和事象の確率として現れる。同じ代数構造が別の文脈で使われている例である。

応用

FF が有限体 Fq\mathbb F_q なら F×F^{\times} は位数 q−1q-1 の巡回群なので、F∘F^{\circ} も位数 q−1q-1 の巡回群である。ψ\psi を経由すれば構造が直ちに分かる。

代数学:円演算 a° b=a+b-ab が定める群と乗法群との同型の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — 位相空間:閉区間上の連続写像の不動点定理

不連続点は 11 つで足りる

gg は x=1x=1 でのみ不連続である。設問 33 の定理は「連続なら必ず不動点をもつ」なので、11 点でも連続性を壊せば反例が作れる。

ほかの例

g(x)={x+12(x≤12)x−12(x>12)g\left(x\right)=\begin{cases}x+\frac12&\left(x\le\frac12\right)\\ x-\frac12&\left(x>\frac12\right)\end{cases} も I→II\to I で不動点をもたない。値の跳びで「y=xy=x の直線をまたぐ」ようにするのが作り方の型である。

図形的な見方

I×II\times I の正方形の中で、グラフが対角線 y=xy=x と交わらないようにすればよい。連続なグラフは左辺(x=0x=0)で対角線の上、右辺(x=1x=1)で下にあるため必ず交わるが、跳びがあれば飛び越せる。

設問2 h−eh-e の連続性

ε\varepsilon を半分ずつ配る

22 つの項をそれぞれ ε/2\varepsilon/2 未満に抑える。hh の連続性から 11 つ、恒等写像の連続性(∣x−x0∣<δ≤ε/2\left|x-x_0\right|<\delta\le\varepsilon/2)からもう 11 つを得る。ε\varepsilon--δ\delta 論法の標準的な配分である。

一般論

連続関数の差は連続、という一般定理の特別な場合である。設問が「ε\varepsilon--δ\delta 論法により」と指定しているので、定理の引用ではなく定義に戻って書く必要がある。

ee の連続性

恒等写像は δ=ε\delta=\varepsilon と取れば連続の定義を満たす。上の δ≤ε/2\delta\le\varepsilon/2 はこれを ε/2\varepsilon/2 の水準で使ったものである。

設問3 連続写像は不動点をもつ

ブラウワーの不動点定理

nn 次元閉球体から自身への連続写像は必ず不動点をもつ、という定理の n=1n=1 の場合である。高次元では中間値の定理が使えず、ホモロジーや次数の理論が必要になる。

使った 22 つの性質

k(I)⊂Ik\left(I\right)\subset I(値域が定義域に入る)と II が閉区間であること。設問 11 は連続性、設問 44 は「有界閉」の必要性を示す。33 つの仮定がそれぞれ効いていることが分かる構成である。

不動点の一意性はない

k=ek=e なら II の全点が不動点である。定理は存在だけを主張する。

設問4 R\mathbb R 上の反例

どの仮定が壊れたか

設問 33 の証明では「φ(0)≥0\varphi\left(0\right)\ge0、φ(1)≤0\varphi\left(1\right)\le0」に II の有界閉性と k(I)⊂Ik\left(I\right)\subset I を使った。R\mathbb R には端点がないので、この符号の変化を保証する根拠がない。実際 ℓ−e≡1\ell-e\equiv1 は決して 00 にならない。

ほかの例

ℓ(x)=x+e−x2\ell\left(x\right)=x+e^{-x^{2}} や ℓ(x)=x2+1\ell\left(x\right)=\sqrt{x^{2}+1} も不動点をもたない連続写像である。平行移動が最も簡単である。

開区間でも壊れる

II を開区間 (0,1)\left(0,1\right) に取り替えると、k(x)=x2k\left(x\right)=\dfrac{x}{2} は (0,1)→(0,1)\left(0,1\right)\to\left(0,1\right) の連続写像だが不動点 00 が区間の外にある。閉であることも必要である。

縮小写像の原理との違い

完備距離空間上の縮小写像は不動点をもつ(バナッハの不動点定理)。R\mathbb R は完備だが ℓ(x)=x+1\ell\left(x\right)=x+1 は縮小写像でない(距離を保つ)。定理ごとに要る仮定が違う。

位相空間:閉区間上の連続写像の不動点定理の途中式・最終答をPDFで見る

第8問 — 幾何学:一葉双曲面の助変数表示とガウス写像

22 つの恒等式の役割

円関数の恒等式が x2+y2x^{2}+y^{2} を、双曲線関数の恒等式が「−z2-z^{2} を引いても 11」を担う。回転面(円)と双曲線の組み合わせで一葉双曲面が書けることの反映である。

XX の形

zz を固定すると x2+y2=1+z2x^{2}+y^{2}=1+z^{2}、すなわち半径 1+z2\sqrt{1+z^{2}} の円。z=0z=0 で最も細く(半径 11)、∣z∣\left|z\right| が大きいほど太くなる、くびれた筒である。cosh⁡u=1+sinh⁡2u\cosh u=\sqrt{1+\sinh^{2}u} がこの半径にあたる。

u,vu,v の意味

vv は zz 軸まわりの角度、uu は z=sinh⁡uz=\sinh u を通じて高さを表す助変数である。

設問2 FF が XX への全射であること

単射ではないこと

vv は 2π2\pi の周期をもつので F(u,v)=F(u,v+2π)F\left(u,v\right)=F\left(u,v+2\pi\right)。FF は単射ではないが、vv を長さ 2π2\pi の開区間に制限すれば単射になる。設問 33 で局所座標を作るときにこの制限を使う。

cosh⁡u>0\cosh u>0 が効く

cosh⁡u≥1>0\cosh u\ge1>0 なので割り算ができ、(x,y)\left(x,y\right) を単位ベクトルに正規化できる。uu が一意に決まるのも sinh⁡\sinh が単調だからである。

XX が連結であること

FF が連結な R2\mathbb R^{2} からの連続な全射なので、XX も連結である。一葉双曲面が「11 枚」であることの証明にもなっている(二葉双曲面 x2+y2−z2=−1x^{2}+y^{2}-z^{2}=-1 は連結でない)。

設問3 正則曲面の構造

22 枚で覆えること

v∈(0,2π)v\in\left(0,2\pi\right) の像は XX から半直線 {y=0, x>0}\left\{y=0,\ x>0\right\} 上の部分を除いたもの、v∈(−π,π)v\in\left(-\pi,\pi\right) の像は {y=0, x<0}\left\{y=0,\ x<0\right\} 上の部分を除いたもの。22 つの合併が XX 全体になる。

線織面でもあること

一葉双曲面は 22 通りの直線族で張られる二重線織面である。実際 (cos⁡t−ssin⁡t, sin⁡t+scos⁡t, s)\left(\cos t-s\sin t,\ \sin t+s\cos t,\ s\right) という表示も XX を与える。本問の FF は回転面としての表示にあたる。

cosh⁡u≥1\cosh u\ge1 の効き方

∣Fu×Fv∣=cosh⁡ucosh⁡2u+sinh⁡2u≥1⋅1=1>0\left|F_u\times F_v\right|=\cosh u\sqrt{\cosh^{2}u+\sinh^{2}u}\ge1\cdot1=1>0。cosh⁡\cosh が 00 にならないので特異点が生じない。

設問4 F(u,0)F\left(u,0\right) での単位法線ベクトル

向きの選び方

∇G/∣∇G∣\nabla G/\left|\nabla G\right| を取ると (x,y,−z)x2+y2+z2=(cosh⁡u,0,−sinh⁡u)cosh⁡2u\dfrac{\left(x,y,-z\right)}{\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}}=\dfrac{\left(\cosh u,0,-\sinh u\right)}{\sqrt{\cosh2u}} で、これは zz 軸から外向きの法ベクトルである。Fu×FvF_u\times F_v から得られるのはその逆向きで、符号だけの違いである。設問 55 ではどちらを選んでも像は同じになる。

cosh⁡2u+sinh⁡2u=cosh⁡2u\cosh^{2}u+\sinh^{2}u=\cosh2u

倍角公式である。u=0u=0 では cosh⁡0=1\cosh0=1 で n=(1,0,0)\bm n=\left(1,0,0\right)、すなわち最も細い部分では法線が水平になる。

u→∞u\to\infty での傾き

cosh⁡usinh⁡u→1\dfrac{\cosh u}{\sinh u}\to1 なので、n\bm n は (1,0,−1)/2\left(1,0,-1\right)/\sqrt2 に近づく。45∘45^\circ 傾いた方向で、設問 55 の ±12\pm\dfrac{1}{\sqrt2} という境界の出どころである。

設問5 ガウス写像の像

±45∘\pm45^\circ の意味

XX の漸近錐は x2+y2=z2x^{2}+y^{2}=z^{2}、すなわち母線が zz 軸と 45∘45^\circ をなす円錐である。∣z∣→∞\left|z\right|\to\infty で XX はこの円錐に漸近し、法線は錐の法線(zz 軸と 45∘45^\circ)に近づく。極限は達成されないので開いた帯になる。

向きを変えても同じ

−ν-\nu を取っても ∣w3∣<12\left|w_3\right|<\dfrac{1}{\sqrt2} という条件は変わらない。像は w3↦−w3w_3\mapsto-w_3 について対称なので、法線の向きの選び方に依らない。

ガウス曲率との関係

ガウス写像のヤコビアンがガウス曲率である。一葉双曲面は K<0K<0 なので ν\nu は向きを反転させながら XX を帯の上に単射に写す。実際 ν3\nu_3 が zz の単調関数、(ν1,ν2)\left(\nu_1,\nu_2\right) の偏角が vv に一致するので ν\nu は単射である。

全曲率

ν\nu が単射なので、XX の全曲率の絶対値は像の面積に等しい。高さ h1≤w3≤h2h_1\le w_3\le h_2 の球帯の面積は 2π(h2−h1)2\pi\left(h_2-h_1\right) だから、本問の帯の面積は 2π⋅22=22 π2\pi\cdot\dfrac{2}{\sqrt2}=2\sqrt2\,\pi。したがって ∬XK dA=−22 π\displaystyle\iint_X K\,dA=-2\sqrt2\,\pi である。単位球面(像が S2S^{2} 全体で全曲率 4π4\pi)と対比すると、像が帯に限られることが全曲率の値をそのまま決めていることが分かる。

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第9問 — 複素解析:微分方程式から整関数を決定して留数を求める

z=0z=0 での扱い

h′h' の式は z=0z=0 で意味をもたないが、g′g' と gg はともに整関数なので C∖{0}\mathbb C\setminus\left\{0\right\} で一致すれば連続性(あるいは一致の定理)により C\mathbb C 全体で一致する。

hh の正体

h′=z−1zhh'=\dfrac{z-1}{z}h を形式的に解くと h(z)=Cezzh\left(z\right)=C\dfrac{e^{z}}{z}。g=zh=Cezg=zh=Ce^{z} と整合する。ただし hh は z=0z=0 で特異なので、gg の整関数性は zhzh という積で保たれる。

失点しやすい点

g=z(z−πi)2fg=z\left(z-\pi i\right)^{2}f のほうを微分しようとすると ff の情報が足りず進まない。g=zhg=zh と hh の微分方程式を組み合わせるのが正しい道である。

設問2 gg のテイラー展開

eπi=−1e^{\pi i}=-1

オイラーの等式である。全係数が −1-1 倍になるのはこの因子による。

検算

g(0)=e0=1g\left(0\right)=e^{0}=1。一方 g=zhg=zh より g(0)=0⋅h(0)g\left(0\right)=0\cdot h\left(0\right) だが、hh は z=0z=0 で特異なので 0⋅∞0\cdot\infty の不定形であり矛盾しない。実際 h(z)=ez/zh\left(z\right)=e^{z}/z で zh(z)=ezzh\left(z\right)=e^{z} である。

整関数であることの利用

g′=gg'=g の解は局所的には CezCe^{z} だが、C\mathbb C 全体で定義された正則関数であることから定数 CC が全域で同じだと分かる。整関数という仮定が効いている。

設問3 ff の極と留数

eze^{z} が零点をもたないこと

∣ez∣=eRe⁡z>0\left|e^{z}\right|=e^{\operatorname{Re}z}>0 なので ez≠0e^{z}\neq0。したがって分子と分母で約分が起こらず、極の位数は分母の零点の位数そのままである。

22 位の極の公式

Res⁡z=af=lim⁡z→addz[(z−a)2f(z)]\operatorname*{Res}_{z=a}f=\displaystyle\lim_{z\to a}\frac{d}{dz}\left[\left(z-a\right)^{2}f\left(z\right)\right]。 (z−πi)2f=ezz\left(z-\pi i\right)^{2}f=\dfrac{e^{z}}{z} となるので、あとはこの商を微分するだけである。

留数の和

−1π2+πi−1π2=πi−2π2-\dfrac{1}{\pi^{2}}+\dfrac{\pi i-1}{\pi^{2}}=\dfrac{\pi i-2}{\pi^{2}}。ff は無限遠で有界でないので、これが 00 になる理由はない。

設問4 複素線積分

約分が効く

zf(z)zf\left(z\right) とすることで分母の zz が消え、被積分関数は z=πiz=\pi i にのみ極(55 位)をもつ。半径 π/2\pi/2 という設定は z=0z=0 を確実に外に置くためである。

留数定理でも同じ

55 位の極の留数は 14!d4dz4ez∣πi=eπi24=−124\dfrac{1}{4!}\left.\dfrac{d^{4}}{dz^{4}}e^{z}\right|_{\pi i}=\dfrac{e^{\pi i}}{24}=-\dfrac{1}{24}。 2πi×(−124)=−πi122\pi i\times\left(-\dfrac{1}{24}\right)=-\dfrac{\pi i}{12}。コーシーの積分公式は留数定理のこの場合の言い換えである。

値が純虚数であること

eπie^{\pi i} が実数 −1-1 なので、2πi2\pi i を掛けた結果は純虚数になる。

失点しやすい点

分母の指数は (z−πi)3⋅(z−πi)2=(z−πi)5\left(z-\pi i\right)^{3}\cdot\left(z-\pi i\right)^{2}=\left(z-\pi i\right)^{5} である。n+1=5n+1=5 すなわち n=4n=4 で、階乗は 4!=244!=24。指数を 11 ずらすと答えが 66 倍または 16\frac16 倍ずれる。

複素解析:微分方程式から整関数を決定して留数を求めるの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度 春季(2026年2月実施)(全9問)

    線形代数:固有値・対角化可能性・ジョルダン標準形と冪 / 線形代数:可換な行列の共通固有ベクトルと同時対角化 / 微分積分:チェザロ平均と重み付き平均の極限

  • 2026年度 夏季(2025年7月実施)(全9問)

    線形代数:パラメータ付き線形写像の全射性・核・像 / 線形代数:冪等行列の固有値・固有空間・対角化可能性 / 微分積分:逆関数定理と逆関数の縮小性

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全9問)

    線形代数:4次行列の核・固有空間・対角化可能性 / 線形代数:基底の取り替えと表現行列・対角化可能性 / 微分積分:絶対収束による広義積分の存在と sin x の評価

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全9問)

    線形代数:多項式空間上の線形写像と表現行列 / 線形代数:A^4=E を満たす行列の構造 / 微分積分:log(1+x)/x と (1+x)^1/x の連続延長とマクローリン展開

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(このページ・全9問)

    線形代数:シルベスター方程式 AX-XB と共通固有値 / 線形代数:{}^tAA と A{}^tA の固有値から行列を復元する / 微分積分:多重極限の非存在と単調増加列による広義重積分

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(全9問)

    線形代数:パラメータ付き3次行列の固有値と対角化・ジョルダン標準形 / 線形代数:3つの1次因子で零化される行列の構造 / 微分積分:一様連続性の定義と判定

2024年度 春季(2024年2月実施)の出題内容

全9問

この9問の分野は線形代数2問・代数2問・微分積分・解析2問・位相・幾何1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数シルベスター方程式 AX-XB と共通固有値ベクトル空間としての M_2(\mathbb R) / f の核の意味あり
第2問線形代数{}^tAA と A{}^tA の固有値から行列を復元するI+J と見抜く / 半正定値性あり
第3問微分積分・解析多重極限の非存在と単調増加列による広義重積分f が斉次であること / 有界でもないことあり
第4問微分積分・解析区分的に定義された関数の連続性・値域・微分可能性ロピタルの定理でもよい / 半角公式による表示あり
第5問代数3次多項式 x^3-12x-34 の既約性と分解体3 次以下に特有の判定 / \bmod\ p による別証あり
第6問代数円演算 a° b=a+b-ab が定める群と乗法群との同型恒等式の見つけ方 / ψ(a)=1-a という写像あり
第7問位相・幾何閉区間上の連続写像の不動点定理不連続点は 1 つで足りる / ほかの例あり
第8問—幾何学:一葉双曲面の助変数表示とガウス写像2 つの恒等式の役割 / X の形あり
第9問—複素解析:微分方程式から整関数を決定して留数を求めるz=0 での扱い / h の正体あり

2024年度 春季(2024年2月実施)の解説には失点しやすい点6件・検算3件が付いています。

前年度(2024年度 夏季(2023年7月実施))との違い

大問数
2024年度 夏季(2023年7月実施) 9問 → 2024年度 春季(2024年2月実施) 9問
2024年度 夏季(2023年7月実施)の解答例

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2026年度の夏季・春季(直近は2024〜2026年度)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
英語は外部試験のスコア提出。専門科目の数学のみ問題を掲載している。
院試hubの最終確認
2026-09-05
立教大学の公式過去問PDF