院試hub

第1問 — 標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形

係数4と5を落とさない

CX4HX10O\ce{C4H10O} の炭素4個から COX2\ce{CO2} が4分子、 水素10個から HX2O\ce{H2O} が5分子。 係数を1のまま書くと大きく外れる。まず燃焼反応式を書くことが第一歩である。

OX2\ce{O2} の生成熱は0

単体(標準状態)の標準生成エンタルピーは定義により0である。 だから答に OX2\ce{O2} は現れない。

HX2O\ce{H2O} は液体

問題文が HX2O(l)\ce{H2O(l)} と指定している。 気体で計算すると蒸発熱のぶん(44 kJ mol−144\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}} ずつ)ずれる。 高位発熱量と低位発熱量の違いにあたる。

符号

燃焼は発熱なので ΔcH∘<0\Delta_{\mathrm c}H^{\circ}<0。 COX2\ce{CO2} と HX2O\ce{H2O} の生成熱がいずれも大きな負値なので、 式全体も負になることが確認できる。

CX4HX10O\ce{C4H10O} の正体

分子式 CX4HX10O\ce{C4H10O} は1-ブタノールやジエチルエーテルなどに対応する。 標準生成熱の値は異性体ごとに違うが、 この式は異性体によらず成り立つ一般式である。

(2) 箱の中の粒子の規格化定数

積分範囲は箱の中だけ

箱の外では ψ=0\psi=0 なので 00 から LL まででよい。 −∞-\infty から ∞\infty まで書いても同じだが、 外で0であることを一言述べておくと丁寧である。

sin⁡\sin の項が消える理由

nn が自然数なので sin⁡2nπ=0\sin2n\pi=0。 nn が整数でなければ消えない。問題文の条件が効いている。

CC は nn によらない

どの準位でも 2/L\sqrt{2/L} である。 これは sin⁡2\sin^{2} の1周期平均が 12\dfrac12 であることの帰結で、 nn が大きいほど振動が細かくなるだけで面積は変わらない。

C>0C>0 の指定

一般には CC に位相因子 eiαe^{i\alpha} の自由度があるが、 「正の実数」と指定されているので +2/L+\sqrt{2/L} に決まる。

次元の確認

∣ψ∣2\left|\psi\right|^{2} は確率密度(長さの逆数の次元)なので CC は [長さ]−1/2[\text{長さ}]^{-1/2}。2/L\sqrt{2/L} は確かにこの次元である。

(3) 2次反応の積分形と半減期

半減期が初濃度に反比例

1次反応(t1/2=ln⁡2/kt_{1/2}=\ln2/k、初濃度によらない)との決定的な違いである。 2次反応では薄いほど反応が遅くなり、半減期は長くなる。 この対比を書き添えると理解が伝わる。

1[A]\dfrac{1}{[\mathrm A]} プロットが直線

1[A]=1[A]0+kt\dfrac{1}{[\mathrm A]}=\dfrac{1}{[\mathrm A]_0}+kt。 1[A]\dfrac{1}{[\mathrm A]} 対 tt が直線なら2次反応で、傾きが kk である。 反応次数の判定法として重要である。

kk の単位

2次反応では L mol−1 s−1\mathrm{L\,mol^{-1}\,s^{-1}}。 t1/2=1k[A]0t_{1/2}=\dfrac{1}{k[\mathrm A]_0} が時間の次元になることで確認できる。

2A→X2\mathrm A\to\mathrm X の係数

問題文の速度式は −d[A]dt=k[A]2-\dfrac{d[\mathrm A]}{dt}=k[\mathrm A]^{2} と与えられており、 量論係数2は kk に繰り込まれている。 −12d[A]dt=k′[A]2-\dfrac12\dfrac{d[\mathrm A]}{dt}=k'[\mathrm A]^{2} と定義すると k=2k′k=2k' となり、 半減期の式の係数が変わる。与えられた定義に従うこと。

4分の1になる時間

t3/4=3k[A]0=3t1/2t_{3/4}=\dfrac{3}{k[\mathrm A]_0}=3t_{1/2}。 1次反応なら 2t1/22t_{1/2} である。ここにも次数の違いが出る。

解答

CX4HX10O\ce{C4H10O} の完全燃焼の反応式を書く。炭素は COX2\ce{CO2}、水素は HX2O(l)\ce{H2O(l)} になる。 炭素は4個、水素は10個(すなわち HX2O\ce{H2O} 5分子)だから CX4HX10O(l)+6 OX2(g)→4 COX2(g)+5 HX2O(l) \ce{C4H10O(l) + 6O2(g) -> 4CO2(g) + 5H2O(l)} (酸素の収支:右辺 4×2+5=134\times2+5=13 個、左辺は CX4HX10O\ce{C4H10O} の1個と OX2\ce{O2} 6分子で 1+12=131+12=13 個 ✓)。

ヘスの法則より、反応エンタルピーは ΔcH∘=∑(生成物のΔfH∘)−∑(反応物のΔfH∘). \Delta_{\mathrm c}H^{\circ} =\sum\left(\text{生成物の}\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}\right) -\sum\left(\text{反応物の}\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}\right). 単体である OX2(g)\ce{O2(g)} の標準生成エンタルピーは0だから ΔcH∘=4 ΔfH∘(COX2)+5 ΔfH∘(HX2O(l))−ΔfH∘(CX4HX10O). \Delta_{\mathrm c}H^{\circ} =4\,\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{CO2}) +5\,\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{H2O(l)}) -\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{C4H10O}).

規格化条件は、粒子が箱の中(0≤x≤L0\le x\le L)のどこかに必ず存在するという要請 ∫0L∣ψ∣2dx=1 \int_{0}^{L}\left|\psi\right|^{2}dx=1 である。ψ=Csin⁡nπxL\psi=C\sin\dfrac{n\pi x}{L} を代入して C2∫0Lsin⁡2nπxL dx=1. C^{2}\int_{0}^{L}\sin^{2}\frac{n\pi x}{L}\,dx=1 . 半角の公式 sin⁡2θ=1−cos⁡2θ2\sin^{2}\theta=\dfrac{1-\cos2\theta}{2} を用いると ∫0Lsin⁡2nπxLdx=12∫0L(1−cos⁡2nπxL)dx=12[x−L2nπsin⁡2nπxL]0L. \int_{0}^{L}\sin^{2}\frac{n\pi x}{L}dx =\frac12\int_{0}^{L}\left(1-\cos\frac{2n\pi x}{L}\right)dx =\frac12\left[x-\frac{L}{2n\pi}\sin\frac{2n\pi x}{L}\right]_{0}^{L}. sin⁡2nπ=sin⁡0=0\sin2n\pi=\sin0=0(nn は自然数)だから第2項は消え、 ∫0Lsin⁡2nπxLdx=L2. \int_{0}^{L}\sin^{2}\frac{n\pi x}{L}dx=\frac L2 . よって C2⋅L2=1C^{2}\cdot\dfrac L2=1、C>0C>0 より C=2L. C=\sqrt{\frac2L}.

速度式 −d[A]dt=k[A]2 -\frac{d[\mathrm A]}{dt}=k[\mathrm A]^{2} を変数分離して −d[A][A]2=k dt. -\frac{d[\mathrm A]}{[\mathrm A]^{2}}=k\,dt . t=0t=0 で [A]=[A]0[\mathrm A]=[\mathrm A]_0、時刻 tt で [A][\mathrm A] として積分すると [1[A]][A]0[A]=kt  ⟹  1[A]−1[A]0=kt(ア)=kt. \left[\frac{1}{[\mathrm A]}\right]_{[\mathrm A]_0}^{[\mathrm A]}=kt \;\Longrightarrow\; \frac{1}{[\mathrm A]}-\frac{1}{[\mathrm A]_0}=kt \qquad\text{(ア)}=kt . 半減期は [A]=[A]02[\mathrm A]=\dfrac{[\mathrm A]_0}{2} となる時刻だから 2[A]0−1[A]0=kt1/2  ⟹  1[A]0=kt1/2  ⟹  t1/2=1k[A]0(イ). \frac{2}{[\mathrm A]_0}-\frac{1}{[\mathrm A]_0}=kt_{1/2} \;\Longrightarrow\; \frac{1}{[\mathrm A]_0}=kt_{1/2} \;\Longrightarrow\; t_{1/2}=\frac{1}{k[\mathrm A]_0} \qquad\text{(イ)}.

最終答

ΔcH∘=4 ΔfH∘(COX2)+5 ΔfH∘(HX2O(l))−ΔfH∘(CX4HX10O)\Delta_{\mathrm c}H^{\circ} =4\,\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{CO2}) +5\,\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{H2O(l)}) -\Delta_{\mathrm f}H^{\circ}(\ce{C4H10O})

C=2LC=\sqrt{\dfrac2L}

(ア)ktkt、(イ)t1/2=1k [A]0t_{1/2}=\dfrac{1}{k\,[\mathrm A]_0}

第2問 — 水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径

Z2Z^{2} に比例

核電荷が2倍で4倍深くなる。ZZ の1乗としないこと。

He+^+ は厳密に水素様

電子が1個しかないので電子間反発がなく、与式が厳密に成り立つ。 ②③の議論はこの点を基準にする。

実測との一致

Heの第2イオン化エネルギー 54.4 eV54.4\,\mathrm{eV} と一致する。 1電子系では軌道エネルギーの絶対値がそのままイオン化エネルギーになる。

(1)② Heの有効核電荷 ZeffZ_{\text{eff}}

平方根を開かなくてよい

問題文が明示している。2.89\sqrt{2.89} のままで正解である。 (1.72=2.891.7^{2}=2.89 なのでちょうど 1.701.70 になる。)

n=1n=1 を忘れない

n2=1n^{2}=1 なので分母は消えるが、nn が入る式であることは明記する。

遮蔽定数

σ=Z−Zeff=2−1.70=0.30\sigma=Z-Z_{\text{eff}}=2-1.70=0.30。 スレーターの規則が同一殻の1s電子どうしに与える値 0.300.30 と一致する。 ここまで書くと定量的な議論になる。

Zeff<ZZ_{\text{eff}}<Z の意味

相手の電子が核の正電荷を部分的に打ち消して見せるので、 実効的な核電荷は真の核電荷より小さい。

(1)③ He+^+とHeの1s軌道エネルギーの差

②の結果を使って定量的に語る

2.894=0.72\dfrac{2.89}{4}=0.72、−54.4×0.72=−39.3-54.4\times0.72=-39.3。 ②で求めた ZeffZ_{\text{eff}} が③の説明にそのまま使えることを示すと、 小問どうしのつながりが見える答案になる。

イオン化エネルギーとの混同を避ける

Heの第1イオン化エネルギーは 24.6 eV24.6\,\mathrm{eV} で、 軌道エネルギーの絶対値 39.3 eV39.3\,\mathrm{eV} とは異なる。 電子を1個取り去ると残った電子への遮蔽が消えて軌道が深くなる(軌道緩和)ためで、 クープマンズの定理はこの緩和を無視した近似である。

1s電子どうしの遮蔽は弱い

同じ殻なので σ=0.30\sigma=0.30 と小さい。 内殻電子による遮蔽(σ≃0.85\sigma\simeq0.85〜11)よりずっと弱い。

(2)① I3+_3^+のルイス構造

陽イオンなので電子を1個引く

7×3=217\times3=21 から 11 を引いて 2020。 陰イオンなら足す。ここを間違えると以降すべてが狂う。

どのIが中心か

3原子とも同じ元素なので、中心は形式電荷が +1+1 になる位置で決まる。 末端がオクテットを満たし、中心も 2+2=42+2=4 組でオクテットを満たしている。

超原子価は不要

I3+_3^+ ではすべての原子がオクテットで足りる。 一方 I3−_3^-(22電子)では中心が10電子の超原子価になる。 この差が②の構造の違いを生む。

形式電荷の計算

(価電子数)−-(非共有電子数)−-(結合数)。 中心I:7−4−2=+17-4-2=+1。末端I:7−6−1=07-6-1=0。合計 +1+1 で全体の電荷と合う ✓。

(2)② VSEPRによるI3+_3^+の立体構造

I3−_3^- は直線形

I3−_3^- は価電子22個で中心の電子対が 2+3=52+3=5 組、 三方両錐配置の赤道面に3組の孤立電子対が入って直線形になる。 1個の電子の差で構造が全く変わる、という対比を書くと理解が伝わる。

電子対配置と分子形を区別

配置は四面体、分子形は折れ線。 問われているのは後者である。

反発の序列

(孤立--孤立)>>(孤立--結合)>>(結合--結合)。 これが結合角を 109.5∘109.5^\circ より縮める理由で、 「予測した理由」として必ず書く。

立体構造が分かるように描く

中心の孤立電子対を紙面の上側に2つ描き、 2本の結合を下向きに開く。折れ線であることが一目で分かる図にする。

(2)③ I3+_3^+と等電子構造をとる化学種

等電子=価電子数が同じ

狭義には原子数と全電子数がともに同じことを指すが、 化学では価電子数と結合の型が同じものを等電子構造という。 どちらの意味で答えたかを明示すると安全である。

数え方の確認

SClX2\ce{SCl2}:6+7+7=206+7+7=20 ✓。 ClFX2X+\ce{ClF2+}:7+7+7−1=207+7+7-1=20 ✓。 OFX2\ce{OF2}:6+7+7=206+7+7=20 ✓。数え上げを1つ書いておく。

HX2O\ce{H2O} を挙げるときは注意

HX2O\ce{H2O} は価電子8個なので等電子ではないが、 AB2_2E2_2 型で構造は同じである。 「構造が同じ」と「等電子」は区別して述べる。

等電子種は構造が同じ

価電子数が同じなら電子対の数も同じなので、VSEPRでは同じ形になる。 これが等電子原理の実用的な意味である。

(3) 体心立方格子における鉄の原子半径

bccは体対角線で接触

面心立方(fcc)は面対角線で接触し 4r=2 a4r=\sqrt2\,a、 単純立方は辺で接触し 2r=a2r=a。 格子型ごとの関係を取り違えると答が変わる。 bccは 4r=3 a4r=\sqrt3\,a である。

単位格子あたり2原子

bcc:2個、fcc:4個、単純立方:1個。 密度の式の分子に入る数なので必ず確認する。

単位の換算

1 1\,Å =10−8 cm\,=10^{-8}\,\mathrm{cm} なので 1 cm3=1024 1\,\mathrm{cm^{3}}=10^{24}\,Å3^{3}。 cm3\mathrm{cm^{3}} のまま立方根をとってから換算してもよいが、 先に Å3^{3} に直すほうが桁を間違えにくい。

立方根は開かなくてよい

問題文の指示どおり (23.6)1/3\left(23.6\right)^{1/3} のままでよい。 3=1.73\sqrt3=1.73 は与えられているので使う。

妥当性の確認

(23.6)1/3≃2.87\left(23.6\right)^{1/3}\simeq2.87 より a≃2.87 a\simeq2.87\,Å、r≃1.24 r\simeq1.24\,Å。 鉄の金属結合半径の実測値 1.24 1.24\,Å とよく一致する。

充填率

bccの充填率は 2⋅43πr3a3=3π8=0.68\dfrac{2\cdot\frac43\pi r^{3}}{a^{3}}=\dfrac{\sqrt3\pi}{8}=0.68。 fccの 0.740.74 より低い。参考として述べられるとよい。

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第3問 — 反応機構4題:Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化

何員環ができるかを数える

炭素7個のジエステルなら6員環、炭素8個(オクタン二酸)なら7員環…ではなく、 実際には5員環・6員環が圧倒的に有利である。 本問は C2\mathrm{C_2}--C7\mathrm{C_7} 結合で6員環になり、最も有利な環サイズである。

最後の脱プロトン化が駆動力

Claisen縮合は各段階が可逆だが、 生成物のβ\beta-ケトエステルが塩基で脱プロトン化されて安定なエノラートになることで 平衡が生成側に固定される。 だから塩基は当量必要である(触媒量では進まない)。

塩基はエトキシド

脱離基と同じEtO−^-を使う。 別のアルコキシド(例えばMeO−^-)を使うとエステル交換が起こってしまう。

アルドールとの違い

アルドール反応ではアルコキシドが脱離せずβ\beta-ヒドロキシ体で止まるが、 エステルでは OR\mathrm{OR} が脱離基として抜けるので置換になる。 四面体中間体からの脱離基の有無が両者を分ける。

逆反応(レトロDieckmann)

強塩基・過剰の条件では逆反応も起こる。 生成物が対称でない場合は熱力学的に安定な異性体に収束する。

(2) ε\varepsilon-カプロラクトン+EtMgBr(2当量)→\to B

エステルは2当量食う

1当量目でケトンになるが、ケトンはエステルより求電子性が高いので 中間のケトンを単離することはできず、必ず2当量目が付加する。 「2当量」という但し書きはこのことを指している。

ラクトンだから分子内に両端が残る

鎖状エステルなら RO−\mathrm{RO^-} が脱離して別分子になるが、 ラクトンでは脱離したアルコキシドが同じ分子内につながったままである。 だから生成物はジオールになる。ここが本問の面白いところである。

付加--脱離である

Grignardのエステルへの反応も四面体中間体を経る付加--脱離で、 SN2\mathrm{S_N2}ではない。中間体を必ず描く。

1当量で止める方法

−78 ∘C-78\,^\circ\mathrm C でWeinrebアミド(NN-メトキシ-NN-メチルアミド)を使えば ケトンで止められる。四面体中間体がキレートで安定化されるためである。 参考として触れられるとよい。

命名

主鎖は8炭素(オクタン)、OHが1位と6位、エチル基が6位。 最小位置番号の規則から 6-エチルオクタン-1,6-ジオールとなる。

(3) pp-シメン+HNO3_3/H2_2SO4_4 →\to C

NOX2X+\ce{NO2+} の生成を書く

求電子剤が何かを示さないと機構が始まらない。 HX2SOX4\ce{H2SO4} の役割(HNOX3\ce{HNO3} をプロトン化して脱水する)を明記する。

電子効果では決まらない

2位と3位はどちらも「一方にオルト・他方にメタ」で対称的である。 だから活性化基の強さの比較(イソプロピルのほうがやや強い等)ではなく、 立体障害で説明するのが正しい筋である。

σ\sigma錯体の共鳴を書く

アレニウムイオンの正電荷はオルト・パラ位に非局在化する。 アルキル基が置換した位置に正電荷が来る共鳴構造が書けると 超共役で安定化されることが示せる。

ジニトロ化は起こらない

ニトロ基は強い不活性化基なので、 1つ入ると2つ目は入りにくい。過剰条件でなければモノニトロ化で止まる。

pp-シメンの由来

天然のテルペン系香料(クミンなど)に含まれる芳香族炭化水素である。 工業的にはニトロ化ではなくクメン法の関連原料として重要である。

(4) シクロヘキサノン →\to D →\to E(Wittig反応と過酸酸化)

Wittigは位置が確定する

アルドール脱水などと違い、C=Cがもとのカルボニル炭素上にできる。 環外オレフィンを作る標準的な方法で、 酸性条件での脱水(環内オレフィンになる)とは対照的である。

PhX3P=O\ce{Ph3P=O} が駆動力

リン--酸素結合の生成エネルギーが大きい。 これがWittig反応が不可逆に進む理由である。必ず一言書く。

非安定化イリドは ZZ 選択的

PhX3P=CHX2\ce{Ph3P=CH2} のような非安定化イリドは ZZ-アルケンを与えるが、 本問はメチレン(=CHX2\ce{=CH2})なので E/ZE/Z の区別がない。

mm-CPBAは協奏的

中間体を経ない1段階反応で、 アルケンの立体化学が保持される(立体特異的なシン付加)。 巻き矢印は環状に3〜4本まとめて描く。

スピロ環になる

エポキシドの3員環が、シクロヘキサン環と炭素1個だけを共有する。 このような結合をスピロといい、 命名は1-オキサスピロ[2.5]オクタンとなる。

mm-CPBAの選択性

電子豊富なアルケンほど速くエポキシ化される。 本問には他に反応点がないので選択性の問題は生じない。

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第4問 — 両性イオンNa_2HPO_4水溶液のpH・ガスクロマトグラフィーの内部標準法

プロトン収支から出発する

電荷収支と物質収支から出しても同じ式になるが、 両性物質ではプロトン収支(proton condition)が最短である。 基準種を HPOX4X2−\ce{HPO4^2-} と HX2O\ce{H2O} にとると宣言してから書く。

使うのは Ka2K_{a2} と Ka3K_{a3}

HPOX4X2−\ce{HPO4^2-} は Ka2K_{a2} の共役塩基であり Ka3K_{a3} の共役酸である。 Ka1K_{a1} は HX3POX4\ce{H3PO4} を無視するので登場しない。 問題文の但し書きはこのことを意味している。

KwK_w の項を落とさない

リン酸系では Ka3K_{a3} が小さい(≃4×10−13\simeq4\times10^{-13})ので、 希薄溶液では KwK_w の寄与が無視できなくなる。 NaX2HPOX4\ce{Na2HPO4} のpHが濃度に依存するのはこのためで、 NaHX2POX4\ce{NaH2PO4}(Ka1,Ka2K_{a1},K_{a2} を使う)より近似が悪い。

pH=pKa2+pKa32\mathrm{pH}=\dfrac{\mathrm pK_{a2}+\mathrm pK_{a3}}{2}

簡略形では両側の pKa\mathrm pK_a の平均になる。 pKa2=7.20\mathrm pK_{a2}=7.20、pKa3=12.35\mathrm pK_{a3}=12.35 なら pH≃9.8\mathrm{pH}\simeq9.8。 実測の 0.1 mol L−10.1\,\mathrm{mol\,L^{-1}} 溶液では pH≃9.3\mathrm{pH}\simeq9.3 で、 KwK_w 項を含む厳密式のほうが実測に近い。

両性物質の一般則

NaHA\ce{NaHA} 型の塩では [HX+]=Ka1(Ka2C+Kw)Ka1+C[\ce{H+}]=\sqrt{\dfrac{K_{a1}(K_{a2}C+K_w)}{K_{a1}+C}}。 添字を1つずつずらせば NaX2HPOX4\ce{Na2HPO4} の式になる。

(2)(i) 内部標準法を用いることの利点

「比をとるから相殺する」が本質

利点を列挙するだけでなく、 なぜ相殺されるのか(共通要因が分子・分母に同じ倍率でかかる)を書く。

GCで特に有効な理由

液体クロマトグラフィーはループ注入で注入量が正確だが、 GCはシリンジ手動注入で ±\pm数\%の変動が避けられない。 だからGCでは内部標準法の効果が特に大きい。

内部標準の条件

(i)試料に元から含まれない、(ii)目的成分と化学的性質が近い、 (iii)ピークが他と完全に分離する、(iv)保持時間が目的成分に近い、 (v)安定で適度な濃度に調整できる。 条件を挙げられると理解の深さが示せる。

標準添加法との違い

標準添加法は目的成分そのものを加えてマトリックス効果を補正する。 内部標準法は別の物質を加えて注入量・感度変動を補正する。 目的が違うので混同しない。

(2)(ii) クロマトグラムからの定量法

縦軸・横軸ともに「比」

検量線の縦軸は面積比、横軸は量比(または目的成分の量)である。 面積そのものを縦軸にすると内部標準法の利点が失われる。

相対感度係数が必要な理由

検出器(FIDなど)の感度は物質ごとに異なるので、 面積比がそのまま量比になるとは限らない。 ff を実測して補正する。

面積か高さか

定量にはピーク面積を使う。 ピーク高さは注入速度やカラム状態でピーク幅が変わると影響を受けるが、 面積は総量に比例するので安定である。

内部標準は同じ量を加える

標準液と試料で内部標準の量が違っても計算式で補正できるが、 同程度にそろえておくと面積比が扱いやすい範囲に収まり精度がよい。

絶対検量線法との比較

絶対検量線法は面積そのものと濃度を対応させるので、 注入量を厳密に一定にする必要がある。 内部標準法はその制約を外せる点が最大の違いである。

両性イオンNa_2HPO_4水溶液のpH・ガスクロマトグラフィーの内部標準法の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — ギブスエネルギーの全微分と等温変化・軌道角運動量演算子と交換関係

G=H−TS=U+PV−TSG=H-TS=U+PV-TS

定義から出発するのが確実である。H=U+PVH=U+PV を使ってもよい。

T dST\,dS と P dVP\,dV が消える

dUdU の代入により T dST\,dS と −P dV-P\,dV がそれぞれ相殺する。 残るのが −S dT+V dP-S\,dT+V\,dP で、 GG の自然な変数が (T,P)(T,P) であることを表している。

マクスウェル関係式

dGdG が完全微分なので (∂S∂P)T=−(∂V∂T)P\left(\dfrac{\partial S}{\partial P}\right)_T=-\left(\dfrac{\partial V}{\partial T}\right)_P が従う。GG から導かれる代表的な関係式である。

他の熱力学関数

dH=T dS+V dPdH=T\,dS+V\,dP、dA=−S dT−P dVdA=-S\,dT-P\,dV。 4つの基本式を並べて覚えると、どの変数が自然変数かが見える。

(1)(ii) 等温圧力変化に伴う ΔG\Delta G

TT は積分の外に出せる

等温なので nRTnRT は定数。1P\dfrac1P の積分が ln⁡P\ln P になる。

体積で書くと

P1V1=P2V2P_1V_1=P_2V_2 より P2P1=V1V2\dfrac{P_2}{P_1}=\dfrac{V_1}{V_2} だから ΔG=nRTln⁡V1V2=−nRTln⁡V2V1\Delta G=nRT\ln\dfrac{V_1}{V_2}=-nRT\ln\dfrac{V_2}{V_1}。 膨張(V2>V1V_2>V_1)で負になる。

ΔU=0\Delta U=0、ΔH=0\Delta H=0

理想気体の等温変化では内部エネルギーもエンタルピーも変化しない。 ΔG=ΔH−TΔS=−TΔS\Delta G=\Delta H-T\Delta S=-T\Delta S で、 ΔS=nRln⁡V2V1\Delta S=nR\ln\dfrac{V_2}{V_1} と整合する。

可逆・不可逆によらない

GG は状態量なので、経路によらず始状態と終状態だけで決まる。 不可逆な自由膨張でも同じ ΔG\Delta G である。

(1)(iii) 体積変化が自発的に起こる条件

判定基準を明示する

「ΔG<0\Delta G<0 なら自発」という前提条件(定温・定圧、非体積仕事なし)を述べてから使う。

n,R,T>0n,R,T>0 なので符号は ln⁡\ln だけで決まる

nRT>0nRT>0 は常に成り立つので、 ln⁡P2P1\ln\dfrac{P_2}{P_1} の符号がそのまま ΔG\Delta G の符号になる。

エントロピーで理解する

ΔG=−TΔS\Delta G=-T\Delta S で、膨張すれば分子の運動できる空間が広がり ΔS>0\Delta S>0。 だから膨張が自発的である。物理的な描像を添える。

真空への膨張

P2→0P_2\to0 で ΔG→−∞\Delta G\to-\infty。 気体は真空へいくらでも自発的に広がる。極限で確認できる。

(2)(i) 角運動量演算子の zz 成分

外積の zz 成分

(A×B)z=AxBy−AyBx(\boldsymbol A\times\boldsymbol B)_z=A_xB_y-A_yB_x。 順序を逆にすると符号が反転する。

順序の曖昧さがない

xx と p^y\hat p_y は交換する([x,p^y]=0[x,\hat p_y]=0)ので、 xp^yx\hat p_y と p^yx\hat p_yx のどちらで書いても同じである。 角運動量演算子がエルミートであることもここから分かる。

極座標での形

l^z=−iℏ∂∂ϕ\hat l_z=-i\hbar\dfrac{\partial}{\partial\phi}。 zz 軸まわりの回転の生成子であることが一目で分かる形である。

他の成分

l^x=yp^z−zp^y\hat l_x=y\hat p_z-z\hat p_y、l^y=zp^x−xp^z\hat l_y=z\hat p_x-x\hat p_z。 添字を巡回させれば得られる。(ii)で使う。

(2)(ii) 交換関係 [l^x,l^y]=iℏl^z[\hat l_x,\hat l_y]=i\hbar\hat l_z の証明

効くのは [z,p^z][z,\hat p_z] だけ

4項のうち生き残るのは、zz と p^z\hat p_z が同じ項の中で出会う2つだけである。 どの項が0になるかを最初に見極めると計算が一気に短くなる。

[p^z,z]=−iℏ[\hat p_z,z]=-i\hbar

[z,p^z]=iℏ[z,\hat p_z]=i\hbar の順序を逆にすると符号が反転する。 第1項と第4項で符号が逆になるのはこのためである。

交換子の公式

[AB,C]=A[B,C]+[A,C]B[AB,C]=A[B,C]+[A,C]B、[A,BC]=B[A,C]+[A,B]C[A,BC]=B[A,C]+[A,B]C。 これを使うと機械的に展開できる。

巡回性

[l^y,l^z]=iℏl^x[\hat l_y,\hat l_z]=i\hbar\hat l_x、[l^z,l^x]=iℏl^y[\hat l_z,\hat l_x]=i\hbar\hat l_y。 添字を x→y→z→xx\to y\to z\to x と巡回させれば同じ形になる。 まとめて [l^i,l^j]=iℏεijkl^k[\hat l_i,\hat l_j]=i\hbar\varepsilon_{ijk}\hat l_k と書ける。

物理的な意味

3成分が互いに交換しないので、 角運動量の3成分を同時に確定値としてもつことはできない。 l^2\hat l^{2} と l^z\hat l_z は交換する([l^2,l^z]=0[\hat l^{2},\hat l_z]=0)ので、 この2つだけが同時固有値をもち、ll と mm という2つの量子数で状態を指定する。

ギブスエネルギーの全微分と等温変化・軌道角運動量演算子と交換関係の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — [Co(gly)_3]のfac/mer異性体・[CoF_6]^3-の磁気モーメント・配位子による標準電極電位の変化

非対称二座だからfac/merが生じる

エチレンジアミンのような対称な二座配位子なら [Co(en)X3]X3+\ce{[Co(en)3]^{3+}} に幾何異性はなく Δ/Λ\Delta/\Lambda の2種類だけである。 グリシナトはN端とO端が違うので、 3個のN(3個のO)の並び方にfacとmerの2通りが生まれる。ここが本問の核心である。

fac・merとも キラル

[M(AB)X3]\ce{[M(AB)3]} 型ではfacもmerも対称面・対称心をもたない。 [MAX2BX4]\ce{[MA2B4]} 型のcis/transのように「片方だけキラル」ではない点に注意する。

Δ/Λ\Delta/\Lambda の決め方

3つのキレート環がつくるらせんを擬 C3C_3 軸方向から見て、 右巻き(時計回りに奥へ進む)なら Δ\Delta、左巻きなら Λ\Lambda。 記号を名称に付加せよという指示があるので必ず書く。

命名

「トリス(グリシナト)コバルト(III)」。 配位子名がすでに「グリシン」を含む複雑な名なので、 倍数接頭語は「トリ」ではなく「トリス」を使い、括弧でくくる。

数え落としに注意

「2種類(facとmer)」で止めると光学異性を落とす。 「Δ\DeltaとΛ\Lambdaの2種類」で止めるとfac/merを落とす。 2×2=42\times2=4 である。

(2) [CoF6_6]3−^{3-} の 3d3d 電子配置と有効磁気モーメント

Co(III)には珍しい高スピン

Co(III)錯体はほとんどが低スピン(t2g6t_{2g}^{6}、反磁性)だが、 [CoFX6]X3−\ce{[CoF6]^3-} は数少ない高スピンの例で、 だからこそ「常磁性を示す」と問題文に書かれている。 この但し書きが高スピンを指定するヒントである。

分光化学系列

IX−<BrX−<ClX−<FX−<OHX−<HX2O<NHX3<en<CNX−<CO\ce{I-}<\ce{Br-}<\ce{Cl-}<\ce{F-}<\ce{OH-}<\ce{H2O}<\ce{NH3}<\text{en}<\ce{CN-}<\ce{CO}。 FX−\ce{F-} は左寄り(弱い)で、NHX3\ce{NH3} や CNX−\ce{CN-} は右寄り(強い)。 この序列を書けると根拠が明確になる。

ΔO\Delta_{\mathrm O} と PP の比較

高スピンか低スピンかは ΔO\Delta_{\mathrm O} と PP の大小で決まる。 「弱い配位子だから高スピン」で終えず、この判定基準を書く。

有効数字

与えられた 2=1.41\sqrt2=1.41、3=1.73\sqrt3=1.73 から 6=2.44\sqrt6=2.44、答は 4.884.88。 厳密値 24=4.899\sqrt{24}=4.899 なら 4.904.90 となるが、 問題文の近似値を使うのが指示に沿う。

実測値

[CoFX6]X3−\ce{[CoF6]^3-} の実測 μeff\mu_{\text{eff}} は 5.35.3〜5.6 μB5.6\,\mu_B 程度で、 スピンのみの値より大きい。 t2gt_{2g} に空きがある高スピン d6d^{6} では軌道角運動量の寄与が残るためである。 「軌道角運動量の影響は無視できる」という仮定が近似であることを押さえておく。

(3) 配位子によって標準電極電位が変化する理由

E∘E^\circ の小ささが何を意味するか

まず「E∘E^\circ が小さい=酸化型が安定=還元されにくい」と言い換える。 ここを押さえないと議論の向きを間違える。

LFSEの係数を書く

低スピン d6d^{6}:−125ΔO-\dfrac{12}{5}\Delta_{\mathrm O}(+2P+2P)、 高スピン d7d^{7}:−45ΔO-\dfrac45\Delta_{\mathrm O}。 係数が3倍違うので、ΔO\Delta_{\mathrm O} の増加はCo(III)を優先的に安定化する。 数値を出すと説得力が上がる。

2つの説明は同じことの2面

配位子場(電子構造)からの説明と、 錯生成定数(熱力学)からの説明は等価である。 両方書くと理解の広さが示せる。

0.059 V0.059\,\mathrm V の目安

25 ∘C25\,^\circ\mathrm C、n=1n=1 で RTFln⁡10=0.059 V\dfrac{RT}{F}\ln10=0.059\,\mathrm V。 E∘E^\circ の差を 0.0590.059 で割ると平衡定数比の常用対数が得られる。

実用的な帰結

[Co(NHX3)X6]X2+\ce{[Co(NH3)6]^{2+}} は空気中の酸素で容易に酸化されて [Co(NHX3)X6]X3+\ce{[Co(NH3)6]^{3+}} になるが、 [Co(OHX2)X6]X3+\ce{[Co(OH2)6]^{3+}} は強い酸化剤で水を酸化してしまう。 E∘E^\circ の大小がそのまま実験室での扱いやすさに現れる。

[Co(gly)_3]のfac/mer異性体・[CoF_6]^3-の磁気モーメント・配位子による標準電極電位の変化の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — E1とE2の生成物の違い・Brønsted酸とLewis酸で分かれるFriedel--Crafts反応・Robinson環化

違いの本質は「立体電子的な制約の有無」

E1は中間体が平面カチオンなので制約なし、 E2は協奏なのでアンチペリプラナーが必須。 この一文が答えの核心である。

C2のHが使えないことを明示

「C2のアキシアル位にCH3_3がいるからC2のHはエクアトリアル」という論理を書く。 ここを飛ばすと、なぜZaitsev生成物にならないかが示せない。

かさ高い塩基の効果も添える

t-BuO−^-はかさ高いので、 立体的に空いた末端のHを引き抜きやすい(Hofmann則)。 本問では配座の制約が主因だが、塩基のかさ高さも同じ向きに働く。

cis体なら結果が逆

cis-1-ブロモ-2-メチルシクロヘキサンでは Brがアキシアルのとき CH3_3はエクアトリアルなので、 C2のHがアキシアルになり使える。 その場合は1-メチルシクロヘキセン(Zaitsev)が主生成物になる。 この対比を書くと理解の深さが示せる。

転位の可能性

①では2級カチオンから3級カチオンへのヒドリド移動が起こりうるが、 どちらの経路でも主生成物は1-メチルシクロヘキセンで変わらない。 触れておくと丁寧である。

(2) メタリルクロリドとベンゼン:H2_2SO4_4とAlCl3_3で異なる生成物

どちらの反応点が活性化されるか

Brønsted酸はプロトンを与えるのでアルケンが反応する。 Lewis酸は電子対を受け取るのでハロゲンに配位してC--Clを切る。 この役割の違いを最初に述べる。

生じるカチオンの安定性

(a)は3級カチオン、(b)はアリル型カチオン。 どちらも安定なカチオンが選択的にできる向きに反応する。

Friedel--Crafts反応の転位

アルキル化では一般にカチオンの転位が問題になるが、 (a)(b)とも最初から安定なカチオンなので転位は起こらない。

アリルカチオンの対称性

CHX2=C(CHX3)CHX2X+\ce{CH2=C(CH3)CH2+} は2つの共鳴形の末端がともに CHX2\ce{CH2} なので、 位置異性体が生じない。この確認を書くと丁寧である。

AlCl3_3は触媒量でよい

最後にAlCl3_3が再生するので触媒量で足りる。 アシル化では生成物のケトンがAlCl3_3と錯体を作るため当量必要になる、 という違いも押さえておく。

(3) Robinson環化の反応機構

なぜこの水素が抜けるか

2つのカルボニルに挟まれたメチン水素はpKa≃11K_a\simeq11で、 単純なケトンのα\alpha水素(pKa≃20K_a\simeq20)よりはるかに酸性が強い。 MeOX−\ce{MeO-}(共役酸のpKa≃16K_a\simeq16)でも十分脱プロトン化できる。 位置選択性がここで決まる。

1,4-付加であること

安定化されたエノラート(ソフトな求核剤)は共役付加を好む。 1,2-付加(カルボニルへの直接付加)だと環化できない。

6員環が閉じる

1,5-ジケトンの両端が分子内で出会うと6員環になる。 Robinson環化がシクロヘキセノン骨格を作る標準法である理由である。

最後は必ず脱水する

アルドール付加体で止めず、 共役エノンまで進むのが「環化(annulation)」の完成形である。 共役安定化が駆動力。

天然物合成での役割

ステロイドやテルペンの6員環構築に多用される。 Wieland--Miescherケトンの合成が代表例で、 本問の生成物はその類縁体である。

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第8問 — 酢酸--酢酸ナトリウム緩衝液のpH・蛍光分析と吸光分析の感度・ボルタンメトリー

希釈は効かない

100 mL100\,\mathrm{mL} への希釈は酸と共役塩基の両方を同じ倍率で薄めるので、 比は変わらずpHも変わらない。 これが緩衝液の重要な性質で、体積を計算に使う必要はない。

与えられた対数値だけで解ける

log⁡1.75=log⁡7−2log⁡2\log1.75=\log7-2\log2、log⁡9=2log⁡3\log9=2\log3。 1.751.75 と 99 をそれぞれ 2,3,72,3,7 の積・商に分解するのがコツである。

有効数字3桁

4.75+0.96=5.714.75+0.96=5.71。 pHは小数第2位まで書くのが慣例で、ここでは3桁の指示と一致する。

塩基側が過剰

共役塩基が9倍あるのでpHは pKa\mathrm pK_a より約1高い。 酸性側の緩衝液としては塩基寄りの組成である。

緩衝能

緩衝能が最大になるのは [AX−]=[HA][\ce{A-}]=[\ce{HA}](pH=pKa\mathrm{pH}=\mathrm pK_a)のときで、 比が 1:101:10 を外れると急激に落ちる。 本問の 9:19:1 はちょうどその境目付近である。

(2) 蛍光分析と吸光分析ではどちらが高感度か

「差を測る」対「絶対量を測る」

これが一言で言える本質である。 両者の測定量が何かを明示してから比較する。

I0I_0 を上げても吸光度は変わらない

A=log⁡(I0/I)A=\log(I_0/I) は I0I_0 に依存しないので、 光を強くしても感度は上がらない。 蛍光は F∝I0F\propto I_0 なので光を強くするほど信号が増える。 この非対称性が決定的である。

直角検出

励起光の透過方向を避けて 90∘90^\circ 方向で検出することで、 散乱した励起光の混入を減らしバックグラウンドをさらに下げる。 装置構成にも触れられるとよい。

限界にも触れる

高濃度では内部フィルター効果(自己吸収)で直線性が崩れる、 蛍光を発する化合物が限られる、消光(クエンチング)を受けやすい、 といった短所も述べると公平な比較になる。

数値の目安

吸光分析の検出下限は 10−610^{-6}〜10−7 mol L−110^{-7}\,\mathrm{mol\,L^{-1}} 程度、 蛍光分析は 10−910^{-9}〜10−10 mol L−110^{-10}\,\mathrm{mol\,L^{-1}} 程度。 桁を示すと説得力がある。

(3) ボルタンメトリーとはどのような分析法か

「電位を制御して電流を測る」

ポテンシオメトリー(電流を流さず電位を測る)と正反対である。 この一文を最初に置くと、以降の説明の軸が定まる。

3電極が必要な理由

2電極だと、参照電極に電流が流れて分極し電位基準が狂う。 対極を加えて電流経路を分けることで、 参照電極を「電位を測るだけ」の役に専念させられる。 設問が「電極の役割に触れながら」と求めているので、ここは必ず書く。

ピーク電流と濃度

可逆系ではRandles--Sevcikの式 ip=2.69×105n3/2AD1/2v1/2ci_p=2.69\times10^{5}n^{3/2}AD^{1/2}v^{1/2}c により、ピーク電流は濃度と掃引速度の平方根に比例する。 式まで書けると定量の根拠が明確になる。

代表的な手法

サイクリックボルタンメトリー(機構解析)、 微分パルスボルタンメトリー(高感度定量)、 ストリッピングボルタンメトリー(微量重金属分析、 濃縮段階を入れて 10−10 mol L−110^{-10}\,\mathrm{mol\,L^{-1}} 台まで測れる)。 具体例を挙げると理解の広さが示せる。

支持電解質

測定には過剰の支持電解質を加えて溶液の抵抗を下げ、 目的成分の移動を拡散のみに限定する。 これがないと電気泳動的な移動が混じって解析できない。 実験上の要点として触れられるとよい。

酢酸--酢酸ナトリウム緩衝液のpH・蛍光分析と吸光分析の感度・ボルタンメトリーの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度 夏季(2025年7月実施)(このページ・全8問)

    標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形 / 水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径 / 反応機構4題:Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化

  • 2026年度 春季(2026年2月実施)(全8問)

    蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形 / 水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点 / 反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全8問)

    ファンデルワールス気体の等温可逆膨張の仕事・水素1s軌道の〈 r〉・多経路緩和の分岐比 / ルチル型TiO_2の構造とバンドギャップ・Δ_rG^°からの標準電極電位・HSAB則 / 反応機構5題:Markovnikov付加・ピロールのBoc化・Michael付加・Wittig反応・Storkエナミンアルキル化

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全8問)

    理想気体の混合の自発性・殻の最大電子数 2n^2・多経路緩和の分岐比 / Slater則による有効核電荷・BF_3のVSEPR・逆蛍石型構造・Cu^+の不均化 / 反応機構5題:ピリジンのN-アルキル化・イミン生成・ラクトンへのGrignard・Markovnikov付加・Mannich反応

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(全9問)

    定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決める / ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー / ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(全8問)

    分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度 / O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性 / 酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化

2026年度 夏季(2025年7月実施)の出題内容

全8問
大問主題解説の小見出し最終答
第1問標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形係数4と5を落とさない / O2 の生成熱は0あり
第2問水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径Z^2 に比例 / He^+ は厳密に水素様あり
第3問Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化何員環ができるかを数える / 最後の脱プロトン化が駆動力あり
第4問両性イオンNa_2HPO_4水溶液のpH・ガスクロマトグラフィーの内部標準法プロトン収支から出発する / 使うのは K_a2 と K_a3あり
第5問ギブスエネルギーの全微分と等温変化・軌道角運動量演算子と交換関係G=H-TS=U+PV-TS / T dS と P dV が消えるあり
第6問[Co(gly)_3]のfac/mer異性体・[CoF_6]^3-の磁気モーメント・配位子による標準電極電位の変化非対称二座だからfac/merが生じる / fac・merとも キラルあり
第7問E1とE2の生成物の違い・Brønsted酸とLewis酸で分かれるFriedel--Crafts反応・Robinson環化違いの本質は「立体電子的な制約の有無」 / C2のHが使えないことを明示あり
第8問酢酸--酢酸ナトリウム緩衝液のpH・蛍光分析と吸光分析の感度・ボルタンメトリー希釈は効かない / 与えられた対数値だけで解けるあり

前年度(2026年度 春季(2026年2月実施))との違い

大問数
2026年度 春季(2026年2月実施) 8問 → 2026年度 夏季(2025年7月実施) 8問
2026年度 春季(2026年2月実施)の解答例

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度の夏季・春季(計6回)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
専攻ページに掲載されているのは専門科目「化学」の筆記試験問題のみ。英語の問題は大学本体の過去問題ページ側にあり、本文は著作権の関係で非掲載(出典のみ記載)の回がある。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF