院試hub

第1問 — 蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形

ΔG=0\Delta G=0 が出発点

「平衡にある」という条件から ΔG=0\Delta G=0、したがって ΔS=ΔH/T\Delta S=\Delta H/T。 この一行を書かずに公式だけ使うと、なぜ TT で割れるのかの根拠がない。

TT は絶対温度

100 ∘C=373 K100\,^\circ\mathrm C=373\,\mathrm K。摂氏のまま割ると答が桁違いになる。

単位の指示

設問が「必ず単位を記すこと」と明示している。 kJ\mathrm{kJ} を J\mathrm J に直したうえで J K−1 mol−1\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}} と書く。

トルートンの規則との比較

多くの液体では ΔvapS≃88 J K−1 mol−1\Delta_{\mathrm{vap}}S\simeq88\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}(トルートンの規則)である。 水が 109109 と大きいのは、液体状態で水素結合により分子が強く秩序化しており、 気化による乱雑さの増加が大きいためである。この比較を添えると理解の深さが示せる。

符号

蒸発は乱雑さが増えるので ΔS>0\Delta S>0。当然の確認だが、書いておくと安心である。

(2) sp3^3混成軌道が互いに直交することの証明

「直交」=内積が0

定義に戻って ⟨ψi∣ψj⟩=0\braket{\psi_i|\psi_j}=0 を示す、と最初に宣言する。 角度が 109.5∘109.5^\circ であることを述べても証明にはならない。

交差項が消える理由を先に書く

⟨s∣px⟩=0\braket{s|p_x}=0 などを最初にまとめて述べておけば、 6通りの計算はすべて「係数の積の和」だけで済む。 1つずつ全項を展開すると時間が足りない。

係数を (+,+,+,+)(+,+,+,+) 等のベクトルと見る

ψ1→(+1,+1,+1,+1)\psi_1\to(+1,+1,+1,+1)、ψ2→(+1,+1,−1,−1)\psi_2\to(+1,+1,-1,-1)、 ψ3→(+1,−1,+1,−1)\psi_3\to(+1,-1,+1,-1)、ψ4→(+1,−1,−1,+1)\psi_4\to(+1,-1,-1,+1)。 これらは4次元の互いに直交するベクトル(アダマール行列の行)である。 内積が0になることが一目でわかる。

1/21/2 の由来

∣(±1,±1,±1,±1)∣=2\left|(\pm1,\pm1,\pm1,\pm1)\right|=2 なので、規格化因子が 12\dfrac12 になる。 問題文の 12\dfrac12 はここから来ている。

直交=独立な結合をつくれる

4本の混成軌道が直交しているからこそ、 互いに独立に4つの σ\sigma 結合を作ることができる。 メタンの正四面体構造の量子化学的な裏づけである。

(3) 1次反応の積分形と半減期

半減期が初濃度によらない

t1/2t_{1/2} の式に [A]0[\mathrm A]_0 が現れない。これが1次反応の最大の特徴で、 放射性崩壊の半減期が量によらないのと同じ理由である。 2次反応では t1/2=1k[A]0t_{1/2}=\dfrac{1}{k[\mathrm A]_0} となり初濃度に依存する。

kk の単位

1次反応では kk の単位は s−1\mathrm{s^{-1}}(濃度の次元を含まない)。 t1/2=ln⁡2/kt_{1/2}=\ln2/k が時間の次元になることで確認できる。

ln⁡\ln プロットが直線

ln⁡[A]=ln⁡[A]0−kt\ln[\mathrm A]=\ln[\mathrm A]_0-kt なので、 ln⁡[A]\ln[\mathrm A] 対 tt のプロットが直線になれば1次反応で、傾きが −k-k である。 反応次数を実験的に決める標準的な方法である。

指示された文字だけを使う

設問は「k,t,[A]0k,t,[\mathrm A]_0 の中から必要なものを用いて」としている。 (ア)は3つとも、(イ)は kk のみを使う。

解答

1気圧・100 ∘C100\,^\circ\mathrm C は水と水蒸気が平衡にある条件である。 定温定圧の平衡では ΔvapG=ΔvapH−TΔvapS=0 \Delta_{\mathrm{vap}}G=\Delta_{\mathrm{vap}}H-T\Delta_{\mathrm{vap}}S=0 だから ΔvapS=ΔvapHT. \Delta_{\mathrm{vap}}S=\frac{\Delta_{\mathrm{vap}}H}{T}. ΔvapH=40.7 kJ mol−1=4.07×104 J mol−1\Delta_{\mathrm{vap}}H=40.7\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}}=4.07\times10^{4}\,\mathrm{J\,mol^{-1}}、 T=373 KT=373\,\mathrm K を代入して ΔvapS=4.07×104 J mol−1373 K=109 J K−1 mol−1. \Delta_{\mathrm{vap}}S=\frac{4.07\times10^{4}\,\mathrm{J\,mol^{-1}}}{373\,\mathrm K} =109\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}} .

2s,2px,2py,2pz2s,2p_x,2p_y,2p_z は互いに直交し規格化されている。すなわち ⟨s∣s⟩=⟨px∣px⟩=⟨py∣py⟩=⟨pz∣pz⟩=1, \braket{s|s}=\braket{p_x|p_x}=\braket{p_y|p_y}=\braket{p_z|p_z}=1, ⟨s∣px⟩=⟨s∣py⟩=⟨s∣pz⟩=⟨px∣py⟩=⟨py∣pz⟩=⟨pz∣px⟩=0. \braket{s|p_x}=\braket{s|p_y}=\braket{s|p_z} =\braket{p_x|p_y}=\braket{p_y|p_z}=\braket{p_z|p_x}=0 . これを用いて ⟨ψi∣ψj⟩\braket{\psi_i|\psi_j}(i≠ji\ne j)を計算する。 係数はすべて ±12\pm\dfrac12 なので、交差項(異なる軌道どうしの内積)はすべて0になり、 同じ軌道どうしの積の和だけが残る。たとえば ⟨ψ1∣ψ2⟩=14{(+1)(+1)⟨s∣s⟩+(+1)(+1)⟨px∣px⟩+(+1)(−1)⟨py∣py⟩+(+1)(−1)⟨pz∣pz⟩} \braket{\psi_1|\psi_2} =\frac14\Bigl\{ (+1)(+1)\braket{s|s}+(+1)(+1)\braket{p_x|p_x} +(+1)(-1)\braket{p_y|p_y}+(+1)(-1)\braket{p_z|p_z}\Bigr\} =14(1+1−1−1)=0. =\frac14\left(1+1-1-1\right)=0 . 同様に ⟨ψ1∣ψ3⟩=14(1−1+1−1)=0,⟨ψ1∣ψ4⟩=14(1−1−1+1)=0, \braket{\psi_1|\psi_3}=\frac14\left(1-1+1-1\right)=0,\qquad \braket{\psi_1|\psi_4}=\frac14\left(1-1-1+1\right)=0, ⟨ψ2∣ψ3⟩=14(1−1−1+1)=0,⟨ψ2∣ψ4⟩=14(1−1+1−1)=0, \braket{\psi_2|\psi_3}=\frac14\left(1-1-1+1\right)=0,\qquad \braket{\psi_2|\psi_4}=\frac14\left(1-1+1-1\right)=0, ⟨ψ3∣ψ4⟩=14(1+1−1−1)=0. \braket{\psi_3|\psi_4}=\frac14\left(1+1-1-1\right)=0 . 以上より6通りすべての組合せで内積が0となり、4つのsp3^3混成軌道は互いに直交する。 (あわせて ⟨ψi∣ψi⟩=14(1+1+1+1)=1\braket{\psi_i|\psi_i}=\dfrac14(1+1+1+1)=1 となり、規格化もされている。)

速度式 −d[A]dt=k[A] -\frac{d[\mathrm A]}{dt}=k[\mathrm A] を変数分離して d[A][A]=−k dt. \frac{d[\mathrm A]}{[\mathrm A]}=-k\,dt . t=0t=0 で [A]=[A]0[\mathrm A]=[\mathrm A]_0、時刻 tt で [A][\mathrm A] として両辺を積分すると ∫[A]0[A]d[A][A]=−k∫0tdt  ⟹  ln⁡[A][A]0=−kt, \int_{[\mathrm A]_0}^{[\mathrm A]}\frac{d[\mathrm A]}{[\mathrm A]} =-k\int_{0}^{t}dt \;\Longrightarrow\; \ln\frac{[\mathrm A]}{[\mathrm A]_0}=-kt , すなわち [A]=[A]0e−kt(ア). [\mathrm A]=[\mathrm A]_0e^{-kt} \qquad\text{(ア)}. 半減期は [A]=[A]02[\mathrm A]=\dfrac{[\mathrm A]_0}{2} となる時刻だから 12=e−kt1/2  ⟹  kt1/2=ln⁡2  ⟹  t1/2=ln⁡2k(イ). \frac12=e^{-kt_{1/2}} \;\Longrightarrow\; kt_{1/2}=\ln2 \;\Longrightarrow\; t_{1/2}=\frac{\ln2}{k} \qquad\text{(イ)}.

最終答

ΔvapS=ΔvapHT=1.09×102 J K−1 mol−1\Delta_{\mathrm{vap}}S=\dfrac{\Delta_{\mathrm{vap}}H}{T} =1.09\times10^{2}\,\mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}

s,px,py,pzs,p_x,p_y,p_z の正規直交性より、 ⟨ψi∣ψj⟩\braket{\psi_i|\psi_j} は同じ軌道どうしの項だけが残り、 係数の積の和が i≠ji\ne j ではすべて 14(1+1−1−1)\dfrac14(1+1-1-1) の形で0になる。 よって4つのsp3^3混成軌道は互いに直交する(かつ規格化されている)。

(ア)[A]=[A]0e−kt[\mathrm A]=[\mathrm A]_0e^{-kt}、 (イ)t1/2=ln⁡2k  (=0.693/k)t_{1/2}=\dfrac{\ln2}{k}\;(=0.693/k)

第2問 — 水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点

定数の塊を 13.6 eV13.6\,\mathrm{eV} に置き換える

式の前半 mee432π2ℏ2ε02\dfrac{m_ee^{4}}{32\pi^{2}\hbar^{2}\varepsilon_0^{2}} はリュードベリエネルギーで、 問題文が「水素の1s軌道が −13.6 eV-13.6\,\mathrm{eV}」と与えているので、 そのまま 13.6 eV13.6\,\mathrm{eV} と読み替えればよい。物理定数を代入する必要はない。

nn にしか依存しない

水素様原子では軌道エネルギーは主量子数 nn だけで決まり、 ℓ\ell(s,p,d の別)にはよらない。 だから2s軌道も2p軌道も同じ −3.40 eV-3.40\,\mathrm{eV} である。多電子原子ではこの縮退が解ける。

有効数字

13.6/4=3.4013.6/4=3.40。3桁で答える。

イオン化エネルギーとの関係

n=1n=1 からの励起に 13.6−3.4=10.2 eV13.6-3.4=10.2\,\mathrm{eV} 必要で、 これがライマン α\alpha 線(121.6 nm121.6\,\mathrm{nm})に対応する。

(1)② He+^+イオンの1s軌道の軌道エネルギー

Z2Z^{2} に比例

核電荷が2倍になるとエネルギーは4倍深くなる。 ZZ の1乗と間違えて −27.2 eV-27.2\,\mathrm{eV} としない。

He+^+ は厳密に水素様

電子が1個しかないので電子間反発がなく、与式が厳密に成り立つ。 この点が③の議論の基準になる。

イオン化エネルギー

He+^+ から電子を1個取るのに 54.4 eV54.4\,\mathrm{eV} 必要で、 これはHeの第2イオン化エネルギーの実測値と一致する。

(1)③ He+^+とHeの1s軌道エネルギーの差についての考察

「遮蔽」と「電子間反発」は同じことの2つの言い方

物理的な起源は電子どうしのクーロン反発である。 それを「核電荷が実効的に減る」と読み替えたのが遮蔽の描像である。 両方の言葉を出すと説明が立体的になる。

ZeffZ_{\text{eff}} を数値で出すと強い

39.3/13.6=1.70\sqrt{39.3/13.6}=1.70。 「なんとなく反発するから浅い」で終わらせず、 与えられた数値から遮蔽定数 0.300.30 を引き出すと、定量的な考察になる。

1s1s 電子の遮蔽は弱い

同じ殻の電子どうしなので遮蔽定数は 0.300.30 と小さい。 内殻電子による遮蔽(σ≃1\sigma\simeq1 に近い)よりずっと弱いことも述べられるとよい。

イオン化エネルギーと混同しない

He の第1イオン化エネルギーは 24.6 eV24.6\,\mathrm{eV} で、 軌道エネルギーの絶対値 39.3 eV39.3\,\mathrm{eV} とは一致しない。 1個取り去ると残りの電子への遮蔽が消えて軌道が深くなる(緩和する)ためである。 クープマンズの定理はこの緩和を無視した近似である。

(2)① XeF4_4のルイス構造

電子数の勘定を必ず書く

8+28=368+28=36 個=18組。 44(結合)+12+12(F上)+2+2(Xe上)=18=18 組で過不足なく一致する。 この確認があると構造が一意に決まったことが示せる。

Xeの孤立電子対を忘れない

Xeを4配位で終わらせて孤立電子対を書かないと、②の平面四角形が導けない。 超原子価を認めるのがこの問題の前提である。

オクテット則の例外

第3周期以降の中心原子は dd 軌道の関与(あるいは3中心4電子結合)により オクテットを超える電子を収容できる。 XeF4_4は10電子で、SF6_6(12電子)などと同じ系列である。

形式電荷はすべて0

Xe:8−2×2−4=08-2\times2-4=0、F:7−6−1=07-6-1=0。 形式電荷が0になる構造が最も妥当である。

(2)② VSEPRによるXeF4_4の立体構造

2段階で考える

(i)電子対の総数から電子対配置(八面体)を決める、 (ii)孤立電子対の置き方を反発の大小で決める。 この順序を明示すると「予測した理由」に正面から答えられる。

反発の大小関係を書く

孤立電子対は核に束縛されず広がっているので、結合電子対より大きな反発を及ぼす。 この序列を書かないと「なぜトランスなのか」が示せない。

電子対配置と分子形は別物

電子対配置は八面体、分子形(原子の並び)は平面四角形。 問われているのは後者である。混同すると「八面体形」と誤答する。

同族の例

電子対6組で孤立電子対1組ならBrF5_5型の四角錐、 2組ならXeF4_4型の平面四角形。 ICl4−_4^-も同じ平面四角形である。

立体構造が分かるように描く

設問が「立体構造が明らかになるように」と求めているので、 4つのFを同一平面上に、Xeの孤立電子対をその面の上下に描く。

(3) NaClとMgOの融点の高低

設問の意図は「推定の筋道」

問題文がわざわざ「記憶している融点の高低を問うているのではない」と断っている。 実測値(NaCl 801 ∘C801\,^\circ\mathrm C、MgO 2852 ∘C2852\,^\circ\mathrm C)を書くだけでは答えにならない。 格子エネルギーの式から議論を組み立てる。

「dd が同程度」というヒントの使い方

dd が同じなら 1/d1/d の効果が消え、z+z−z_+z_- だけで比較できる。 このヒントは「他の要因を無視してよい」という許可である。 実際 r(Na+)+r(Cl−)=2.81 A˚r(\mathrm{Na^+})+r(\mathrm{Cl^-})=2.81\,\text{\AA}、 r(Mg2+)+r(O2−)=2.11 A˚r(\mathrm{Mg^{2+}})+r(\mathrm{O^{2-}})=2.11\,\text{\AA} でMgOのほうがやや短く、 これも同じ向きに効く。

マーデルング定数が共通

「ともに岩塩型」という条件が AA を共通にしてくれる。 結晶型が違えば AA も違うので、単純な比較はできない。

約4倍という定量性

1×11\times1 対 2×22\times2 で4倍。 実測の格子エネルギーは NaCl 787 kJ mol−1787\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}}、 MgO 3795 kJ mol−13795\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}} で、比は約4.8倍。 dd の差も効いて4倍よりやや大きい。推定と実測が整合する。

共有結合性への言及

MgOは電荷が大きいぶん分極も大きく、共有結合性の寄与もある。 ただし本問の趣旨は静電的な議論なので、そこまで踏み込む必要はない。

水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離

なぜC3なのかを必ず書く

「インドールはC3で反応する」と暗記だけで書くと理由の説明が抜ける。 (i)N上の孤立電子対がC3へ流れる共鳴(エナミン性)、 (ii)C3で置換すればベンゼン環の芳香族性を保てる、の2点を述べる。

N上での反応との比較

高温・長時間ではN--アセチル体(1-アセチルインドール)も生じうるが、 熱力学的にも速度論的にもC3体が主生成物である。 問題文の「最適な反応条件」はC3アシル化を指している。

芳香族求電子置換の型

σ\sigma錯体を経て脱プロトン化で芳香族性を回復する、という ベンゼンの求電子置換とまったく同じ骨格の機構である。 「付加--脱離」ではなく「置換」であることを意識する。

塩基は酢酸イオン

最後の脱プロトン化を担うのは、②で放出された酢酸イオンである。 別途塩基を持ち出す必要はない。反応系内の種で機構を閉じる。

無水酢酸が求電子剤である理由

アシル基の隣にある酢酸イオンが良い脱離基なので、 カルボニル炭素の求電子性が高い。エステルより反応性が高い理由でもある。

(2) 2-メチル-1,2-プロパンジオール+H+^+ →\to B

どちらのOHが抜けるか

3級カチオンのほうが1級カチオンよりはるかに安定なので、 3級側のOHがプロトン化されて水として抜ける。 1級側が抜ける経路は不利で、実質的に起こらない。

移動するのはヒドリド

転位はカチオンの隣の炭素から起こる。 隣はCH2_2OH炭素で、そこにあるのはHとOHである。 Hが移動すれば酸素で安定化されたオキソカルベニウムになるので、これが選ばれる。 カチオン炭素上のメチル基は「自分自身へ」移動できないので候補にならない。

駆動力はC=Oの生成

転位後に生じるのは実質的にプロトン化されたカルボニルで、 非常に安定である。この安定化がピナコール型転位の駆動力である。

ピナコールとの対比

古典的なピナコール転位(2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール →\to ピナコロン)では メチル基が移動してケトンになる。 本問は片方が1級OHなのでヒドリドが移動してアルデヒドになる。 この違いを述べられると理解が深いことが示せる。

分子内脱水との区別

単純なE1脱水でアルケン(2-メチル-2-プロペン-1-オール等)を書くと誤答である。 β\beta位に酸素がある系では転位のほうが速い。

(3) 酢酸エチル+ベンズアルデヒド,1) NaOEt 2) H3_3O+^+ →\to C

なぜ自己縮合しないか

ベンズアルデヒドにはα\alpha水素がないのでエノラートを作れない。 交差アルドールで生成物が1種類に絞られる典型的な設計である。この一言を必ず書く。

脱水まで進む理由

β\beta-ヒドロキシエステルで止まる可能性もあるが、 脱水するとPh\mathrm{Ph}--C=C--C=Oの共役系ができて大きく安定化する。 アリールアルデヒドを使う縮合が縮合体で止まるのはこのためである。

E1cb機構であること

塩基性条件なのでE1(カチオン経由)ではなく、 カルバニオン中間体を経るE1cbで脱水する。 酸性条件のアルドール脱水(E1)と機構が違う点に注意する。

Claisen縮合との区別

NaOEt+エステルだけならClaisen縮合(アセト酢酸エステル生成)が起こるが、 より求電子的なアルデヒドが共存するとそちらへの付加が優先する。 アルデヒドのカルボニルはエステルより反応性が高い。

EE選択性

最も嵩高い置換基どうしがtransになる配座から脱水するのでEE体が主となる。 「立体選択的(stereoselective)」な例であり、問7(2)と対応する。

(4) プロパノイルクロリド+モルホリン →\to D

付加--脱離の2段階

SN2\mathrm{S_N2}のような一段階の背面攻撃ではない。 四面体中間体を必ず経由することが、カルボニル炭素での置換の特徴である。 中間体を描かないと機構を示したことにならない。

窒素で反応する理由

モルホリンには窒素と酸素の2つのヘテロ原子があるが、 窒素のほうが電気陰性度が小さく孤立電子対が高いエネルギーにあるので求核性が高い。 酸素はアシル化されない。

2当量必要

生成するHClを中和しないと、アミンが塩となって求核性を失う。 実験ではトリエチルアミンやピリジンを添加するか、アミンを2当量使う。

反応性の序列

酸ハロゲン化物 >> 酸無水物 >> エステル >> アミド。 脱離基の安定性(Cl−^-が最も安定)で決まる。 アミドは最も安定なので、この反応は不可逆的に進む。

アミドの平面性

生成物のC--N結合は窒素の孤立電子対の非局在化により部分二重結合性をもち、 アミド平面が固定される。ペプチド結合と同じ事情である。

(5) trans-1,2-ジブロモシクロヘキサン+NaOt-Bu →\to E

ジアキシアル配座を描くことが必須

設問が「適切な立体配座を示し」と明示している。 いす形を描いて2つのBrがアキシアルであること、 そのBrとアンチペリプラナーなHがどれかを図で示す。 平面の六角形で描くと理由が伝わらない。

C2のHが使えない理由

C2のアキシアル位はBrが占めている。 したがってC2上のHはエクアトリアルで、C1のBrとアンチにならない。 この排除の議論が、生成物が1-ブロモシクロヘキセンではなく 3-ブロモシクロヘキセンになる決め手である。

cis体との対比

cis-1,2-ジブロモシクロヘキサンでは、 一方がアキシアル・他方がエクアトリアルになる。 アキシアルBrに対してC2のアキシアルHが利用できるので、 より置換度の高い1-ブロモシクロヘキセン(Zaitsev生成物)が得られる。 trans体より速く反応する。

かさ高い塩基の役割

NaOt-Buはかさ高く求核性が低いので、 SN2\mathrm{S_N2}置換ではなくE2脱離を選択的に起こす。 NaOEt\mathrm{NaOEt}のような小さいアルコキシドでは置換も競合する。

さらに脱離すると

過剰の塩基・加熱では2回目のE2が進み、 共役ジエン(1,3-シクロヘキサジエン)まで行きうる。 本問は1当量条件の主生成物を問うているので、モノ脱離体で答える。

反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 酸化還元滴定:半反応式・濃度決定・ポテンシオメトリー・当量点電位

酸性条件だからMn2+^{2+}

中性・弱塩基性ではMnO2_2(3電子還元)、強塩基性ではMnO42−_4^{2-}(1電子還元)になる。 「硫酸酸性とし」という記述がMn2+^{2+}(5電子還元)を指定している。

電荷と原子のバランス

左辺の電荷は −1+8−5=+2-1+8-5=+2、右辺は +2+2 で一致。 酸素は HX2O\ce{H2O} 4分子、水素は HX+\ce{H+} 8個で合う。 半反応式は必ずこの2点を確認する。

電子数の比が 5:15:1

これが(2)の量論計算の基礎になる。

自己指示薬

MnOX4X−\ce{MnO4^-} の紫色が終点で消えずに残ることで終点が判定できる。 別途指示薬を加える必要がないのがこの滴定の利点である。

(2) 未知試料中の鉄(II)イオン濃度

ファクターを掛け忘れない

表示濃度 0.005 mol L−10.005\,\mathrm{mol\,L^{-1}} に f=0.997f=0.997 を掛けたものが真の濃度である。 標定で求めた補正係数なので、必ず使う。

係数5を忘れない

1個の MnOX4X−\ce{MnO4^-} が5個の FeX2+\ce{Fe^2+} を酸化する。 55 倍を落とすと答が 15\dfrac15 になる。

有効数字

与えられた数値は3〜4桁だが、0.0050.005 が1桁とも読めるので、 ここでは3桁(3.05×10−23.05\times10^{-2})でそろえるのが妥当である。

単位換算

mL→L\mathrm{mL}\to\mathrm L は 10−310^{-3} 倍。 体積を mL\mathrm{mL} のまま使うと 10310^{3} 倍ずれる。

検算

5×4.985×12.2410.00=30.5 mmol L−1\dfrac{5\times4.985\times12.24}{10.00}=30.5\,\mathrm{mmol\,L^{-1}}。 mmol L−1\mathrm{mmol\,L^{-1}} 単位で暗算しても同じ値になる。

(3) ポテンシオメトリーとはどのような分析法か

設問が要求する3点

「電極の名称」「電流の制御・測定」「電位の制御・測定」に触れよ、と指定されている。 指示電極と参照電極の名称、電流ゼロ、電位を読み取るだけ、の3点を必ず書く。

なぜ電流を流さないか

電流を流すと(i)電極反応で溶液組成が変わる、(ii)過電圧・IR降下で平衡電位からずれる。 どちらも測定値を狂わせる。 「高入力インピーダンス」という具体語を入れると実装まで理解していることが伝わる。

ネルンスト式が測定の基礎

E=E∘−RTnFln⁡[Red]b[Ox]aE=E^\circ-\dfrac{RT}{nF}\ln\dfrac{[\text{Red}]^b}{[\text{Ox}]^a}。 電位が濃度比の対数に比例するので、電位から濃度比が求まる。 問題文冒頭の式がそのまま測定原理である。

滴定曲線としての利用

本問のように滴定しながら電位を記録すると、 当量点付近で電位が急変する S\mathrm S 字曲線が得られる。 変曲点から終点を客観的に決められるので、色変化より精度が高い。

参照電極の役割

絶対電位は測れないので、必ず基準が要る。 標準水素電極(SHE)は扱いにくいため、実務ではAg∣\vertAgClやSCEを用い、 必要ならSHE基準に換算する。

(4) 当量点における電極電位

電子数で重みづけて足すのが定石

n1n_1 倍と n2n_2 倍して加えると、対数の係数が RTF\dfrac{RT}{F} にそろい、 2つの対数が1つにまとまる。ここが計算の要である。

当量点で対数項が消える理由

当量点では未反応の酸化体・還元体が量論比で残るので、 濃度比の積がちょうど1になる。 この「1:51:5 の比が2か所に現れて相殺する」構造を示すことが本問の中心である。

一般形

Eeq=n1E1∘+n2E2∘n1+n2E_{\text{eq}}=\dfrac{n_1E_1^{\circ}+n_2E_2^{\circ}}{n_1+n_2}。 n1=n2n_1=n_2 なら単純平均になるが、 本問は 1:51:5 なので酸化剤側の E2∘E_2^{\circ} に大きく寄る。

HX+\ce{H+} 依存を落とさない

MnOX4X−\ce{MnO4^-} の半反応には HX+\ce{H+} が8個含まれるので、 厳密には当量点電位はpHに依存する。 25 ∘C25\,^\circ\mathrm C では 8×2.303RT6F≃0.079 V\dfrac{8\times2.303RT}{6F}\simeq0.079\,\mathrm V で、 pHが1上がるごとに約 0.08 V0.08\,\mathrm V 下がる。 この項に触れると、単なる公式暗記でないことが示せる。

当量点は滴定曲線の変曲点

EeqE_{\text{eq}} は電位が最も急に変化する点にある。 n1≠n2n_1\ne n_2 のときは曲線が非対称になり、 変曲点が厳密な当量点からわずかにずれることも知られている。

酸化還元滴定:半反応式・濃度決定・ポテンシオメトリー・当量点電位の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — ヒュッケル法:エチレンの永年方程式とπ電子エネルギー・ブタジエンへの拡張

永年方程式が出る根拠

同次連立一次方程式が非自明解をもつ ⇔\Leftrightarrow 係数行列式 =0=0。 「変分原理から導かれる」と問題文にあるが、 行列式を0とおく理由はこの線形代数の事実である。

α,β\alpha,\beta が負であることが順序を決める

β<0\beta<0 なので α+β\alpha+\beta が下、α−β\alpha-\beta が上になる。 β\beta の符号を忘れると結合性・反結合性が入れ替わる。 問題文がわざわざ α<0\alpha<0、β<0\beta<0 と断っているのはこのためである。

非局在化エネルギー

孤立したπ\pi結合2つぶんの基準(2α+2β2\alpha+2\beta)と比べると、 エチレンでは差が0で非局在化の利得はない。 ブタジエンでは 4α+4.472β4\alpha+4.472\beta となり 0.472β0.472\beta だけ安定化する。 これが共役の効果である。

係数も求まる

E=α+βE=\alpha+\beta のとき c1=c2c_1=c_2(結合性、節なし)、 E=α−βE=\alpha-\beta のとき c1=−c2c_1=-c_2(反結合性、節1つ)。 規格化すると 12(χ1±χ2)\dfrac{1}{\sqrt2}(\chi_1\pm\chi_2) である。 本問では問われていないが、確認しておくと理解が固まる。

重なり積分を0とする近似

本来は S12≠0S_{12}\ne0 だが、ヒュッケル法では0とおく。 これにより一般化固有値問題が普通の固有値問題になり、行列式が簡単になる。

(2) ブタジエンの永年方程式

三重対角行列になる

鎖状の共役系では、隣接だけが β\beta で残りは0なので、 行列は対角・副対角だけに要素をもつ三重対角行列になる。 環状(ベンゼンなど)だと 11--nn の隅にも β\beta が入る。

1--4 は0

ブタジエンは鎖状なので炭素1と炭素4は隣接していない。 ここに β\beta を書くとシクロブタジエンの行列式になってしまう。

解く必要はない

設問は「永年方程式を書け」であって解けとは言っていない。 (参考までに、x=α−Eβx=\dfrac{\alpha-E}{\beta} とおくと x4−3x2+1=0x^{4}-3x^{2}+1=0、x=±1.618,±0.618x=\pm1.618,\pm0.618 となり、 E=α±1.618β, α±0.618βE=\alpha\pm1.618\beta,\ \alpha\pm0.618\beta が得られる。)

一般化

nn 個の炭素の直鎖共役系では Ek=α+2βcos⁡kπn+1E_k=\alpha+2\beta\cos\dfrac{k\pi}{n+1}(k=1,…,nk=1,\dots,n)という閉じた式がある。 n=2n=2 で E=α±βE=\alpha\pm\beta、n=4n=4 で上の4値になる。

π\pi電子は4個

ブタジエンのπ\pi電子は4個で、下から2つの軌道を占める。 Etotal=2(α+1.618β)+2(α+0.618β)=4α+4.472βE_{\text{total}}=2(\alpha+1.618\beta)+2(\alpha+0.618\beta)=4\alpha+4.472\beta。

ヒュッケル法:エチレンの永年方程式とπ電子エネルギー・ブタジエンへの拡張の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — [CoCl_2(en)_2]^+の異性体・[Ni(NH_3)_6]^2+の磁気モーメント・Cu^+の不均化

en はシス位にしか架橋できない

エチレンジアミンの2つの窒素をつなぐのは −CH2CH2−-\mathrm{CH_2CH_2}- のわずか2炭素で、 トランス位(180∘180^\circ)にまたぐことは幾何学的に不可能である。 この制約が異性体の数を決めている。まず最初に述べる。

シス体だけがキラル

トランス体には対称面があるが、シス体にはない(C2C_2 軸だけをもつ)。 キラリティの有無は鏡像と重ね合わせられるかで判定する。

Δ\Delta/Λ\Lambda の定義

2つのキレート環がつくるらせんを見て、右巻きなら Δ\Delta、左巻きなら Λ\Lambda。 記号を名称に付加せよという指示があるので、必ず書く。

命名法

2005年のIUPAC勧告では陰イオン配位子は「クロリド(chlorido)」である。 旧勧告の「ジクロロ」でも通じるが、新しい表記を使うのが無難である。 配位子はアルファベット順(chlorido << ethylenediamine)に並べる。

数え落としに注意

「3種類」を「2種類(シス・トランス)」で終わらせると光学異性を落とすことになる。 逆にトランス体にも Δ/Λ\Delta/\Lambda を付けると誤りである。

(2) [Ni(NH3_3)6_6]2+^{2+} の 3d3d 電子配置と有効磁気モーメント

d8d^{8} は高スピン・低スピンの区別がない

d8d^{8} の八面体錯体では、ΔO\Delta_{\mathrm O} の大小によらず t2g6eg2t_{2g}^{6}e_g^{2} しかとれない。 だから配位子場の強さを議論する必要がなく、 必ず不対電子2個で常磁性になる。問題文の「常磁性を示す」はこれと整合する。

Ni2+^{2+} が d8d^{8} である導出

4s4s から先に電子が抜けることを明記する。 3d64s23d^{6}4s^{2} としないよう注意する。

スピンのみの式

μeff=n(n+2) μB=2S(S+1) μB\mu_{\text{eff}}=\sqrt{n(n+2)}\,\mu_B=2\sqrt{S(S+1)}\,\mu_B。 S=1S=1 なら 222\sqrt2 で同じ値になる。 問題文の「軌道角運動量の影響は無視できる」がこの式を使う許可である。

有効数字

与えられた 2=1.41\sqrt2=1.41 を使うと 2.822.82。 厳密には 8=2.828…\sqrt8=2.828\ldots で 2.832.83 となるが、 問題文が近似値を与えているので 2.822.82 と答えるのが素直である。

実測値との比較

[Ni(NH3_3)6_6]2+^{2+} の実測 μeff\mu_{\text{eff}} は 2.82.8〜3.3 μB3.3\,\mu_B 程度で、 スピンのみの値よりやや大きい。 これは軌道角運動量の寄与がわずかに残るためで、 無視できるという仮定は近似であることを押さえておくとよい。

(3) Cu+^+ が不安定であることの証明

「不安定」=不均化が自発的

何に対して不安定なのかを最初に定義する。 酸化されやすい、還元されやすい、ではなく「自分自身で分解する」ことを示す。

使う2行を選ぶ

表の3行のうち1行目(CuX+/Cu\ce{Cu+/Cu})と3行目(CuX2+/CuX+\ce{Cu^2+/Cu+})を使う。 2行目(CuX2+/Cu\ce{Cu^2+/Cu}、+0.34 V+0.34\,\mathrm V)は 1行目と3行目の2電子平均 0.52+0.162=0.34\dfrac{0.52+0.16}{2}=0.34 として整合しており、 検算に使える(E∘E^\circ は単純平均できないが、ΔG∘\Delta G^\circ は加算できる: −1×F×0.52−1×F×0.16=−2F×0.34-1\times F\times0.52-1\times F\times0.16=-2F\times0.34 ✓)。

E∘E^\circ は足し算できない

ΔG∘=−nFE∘\Delta G^\circ=-nFE^\circ が加算的なので、 半反応を組み合わせるときは nE∘nE^\circ を足す。 今回は n=1n=1 どうしなので単純な差でよいが、 一般には E∘E^\circ をそのまま足し引きすると誤る。

潜在図(ラチマー図)で一目

CuX2+→0.16CuX+→0.52Cu\ce{Cu^2+} \xrightarrow{0.16} \ce{Cu+} \xrightarrow{0.52} \ce{Cu}。 右側の電位が左側より大きい中間種は不均化する、という一般則がある。 Cu+^+はまさにこの条件を満たす。

錯化すれば安定化する

CuCl や [Cu(NH3_3)2_2]+^+ のように配位子で安定化したり、 溶解度の低い塩を作ったりすれば Cu(I) は存在できる。 「水溶液中の水和イオンとしては」不安定である、と限定を付けると精確である。

[CoCl_2(en)_2]^+の異性体・[Ni(NH_3)_6]^2+の磁気モーメント・Cu^+の不均化の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — ベンジル位の酸性度とフェニル基の数・立体特異性と立体選択性

立体障害に触れることが必須

「共鳴構造が増えるから安定」だけだと、B→\toCでも同じだけ下がるはずである。 差を説明するにはねじれによる重なりの減少を持ち出すしかない。 ここが本問の核心である。

cos⁡θ\cos\theta 依存

共鳴(超共役も同様)の効果は、 関与する軌道の間の二面角 θ\theta に対して cos⁡θ\cos\theta(安定化エネルギーは cos⁡2θ\cos^{2}\theta)で効く。 定量的な言葉を1つ入れると説得力が増す。

プロペラ形という語

トリチル系(アニオン・カチオン・ラジカル)はいずれも 3枚の羽根が同じ向きにねじれたプロペラ形(D3D_3 対称)をとる。 専門用語を使うと理解の深さが伝わる。

逓減の効果

負電荷を nn 個の環に分けると、1個あたりの負担は 1/n1/n。 1→21\to2 では半分になるが 2→32\to3 では 1/2→1/31/2\to1/3 で減り幅が小さい。 立体効果と合わせて2つの理由を挙げると答案が厚くなる。

同じ論理が使える例

トリチルカチオンやトリチルラジカルが安定なのも同じ非局在化による。 一方で、ねじれのために単純な予測より安定化が小さいことも共通する。

数値を引用する

41→33.441\to33.4 は 7.67.6、33.4→31.533.4\to31.5 は 1.91.9。 「4倍の違い」と数値で示してから理由を述べると、 何を説明すべきかが明確になる。

(2) 立体特異性と立体選択性

「異なる原料」対「1つの原料」

2つの概念を分ける最短の言葉はこれである。 立体特異性は原料の立体異性体を2つ以上比べる概念、 立体選択性は1つの原料から出る生成物の比の話である。

反応式を必ず書く

設問が「具体的に反応式で示して」と要求している。 定義だけで終わらせない。 EE体とZZ体を並べて書くと、立体特異性の意味が図で伝わる。

包含関係に触れる

「立体特異的 ⇒\Rightarrow 立体選択的、逆は偽」という関係を述べると、 2つの概念を整理して理解していることが示せる。

メソ体とラセミ体

2,3-ジブロモブタンには メソ体(アキラル)と (R,R)/(S,S)(R,R)/(S,S) のラセミ体(キラル)がある。 アンチ付加ならこの対応、シン付加なら逆になる。 機構の証拠として使われる古典的な実験である。

100\%でなくてもよい

立体選択性は「優先する」であって完全である必要はない。 一方、立体特異性は機構上必然なので通常はほぼ完全である。 この程度の違いも押さえておくとよい。

ベンジル位の酸性度とフェニル基の数・立体特異性と立体選択性の途中式・最終答をPDFで見る

第8問 — 定量分析の精度と誤差・標準添加法・IRと^1H NMRの相補性

「誤差の名称を示したうえで」

設問が明示的に要求している。偶然誤差という語を必ず出す。 対比のために系統誤差にも触れると、精度と正確さの区別が明確になる。

1/n1/\sqrt n が定量的な根拠

「繰り返せばよい」だけでなく、 平均値の標準誤差が s/ns/\sqrt n で減ることを書く。 4倍の精度を得るには16回測る必要がある、という感覚も述べられるとよい。

的の比喩

的の中心=真値、弾着のまとまり=精度、中心とのずれ=正確さ。 「まとまっているが中心から外れている」状態が 「精度は高いが正確さが低い」である。一言添えると分かりやすい。

有効数字との関係

測定値の有効数字は精度が決めている。 桁を増やしても偶然誤差が減るわけではないので、 ばらつきを超える桁を書いてはいけない。

(2) 標準添加法とは何か、どのような時に用いるか

「外挿」がキーワード

内挿ではなく外挿で切片を読む点が、通常の検量線法と最も違うところである。 グラフの説明を一言入れると理解が伝わる。

マトリックス効果という語を出す

「どのような時に用いるか」への答えはこれに尽きる。 語を出したうえで「感度そのものが変わる」と噛み砕く。

内標準法との違い

内標準法は目的成分とは別の物質を一定量加え、その比で補正する方法で、 主に注入量や検出感度の変動を補正する。 標準添加法は目的成分そのものを加える点が異なる。 併記すると整理して理解していることが示せる。

直線性が前提

外挿するので、添加範囲全体で応答が濃度に比例していなければならない。 高濃度で飽和する系や、ブランクが大きい系では使えない。限界にも触れられるとよい。

手間の代償

1試料あたり複数点の測定が必要で、外挿のぶん誤差も大きくなる。 マトリックス効果がないなら通常の検量線法のほうが速く精度も良い。

(3) IRと1^1H NMRがともに構造決定に使われる理由

設問の3要素

「それぞれで何が分かるか」「共通点は何か」「だから構造決定に使える」。 この3つを順に書くと、設問の指示にそのまま答えられる。

具体的な数値を入れる

C=O\ce{C=O} が 1700 cm−11700\,\mathrm{cm^{-1}}、 芳香族Hが δ 7\delta\,7 付近といった具体例を1〜2個添えると、 「固有の位置に出る」という主張が具体的になる。

n+1n+1 則

隣接する等価な水素が nn 個あればシグナルは n+1n+1 本に分裂する。 連結性が分かる仕組みを一言で説明できる。

相補性を強調する

どちらか一方だけでは構造が決まらない。 IRは官能基は分かっても骨格が分からず、 1^1H NMRは骨格は分かっても C=O\ce{C=O} と C=C\ce{C=C} の区別が付きにくい。 両者を併用する必然性を述べると答えが締まる。

エネルギー領域の違い

IRは 1013 Hz10^{13}\,\mathrm{Hz} 台の振動、NMRは 108 Hz10^{8}\,\mathrm{Hz} 台の核スピン。 同じ「吸収分光」でも見ている自由度がまったく違う。 だからこそ独立な情報が得られる、という論理でまとめられる。

定量分析の精度と誤差・標準添加法・IRと^1H NMRの相補性の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度 夏季(2025年7月実施)(全8問)

    標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形 / 水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径 / 反応機構4題:Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化

  • 2026年度 春季(2026年2月実施)(このページ・全8問)

    蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形 / 水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点 / 反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全8問)

    ファンデルワールス気体の等温可逆膨張の仕事・水素1s軌道の〈 r〉・多経路緩和の分岐比 / ルチル型TiO_2の構造とバンドギャップ・Δ_rG^°からの標準電極電位・HSAB則 / 反応機構5題:Markovnikov付加・ピロールのBoc化・Michael付加・Wittig反応・Storkエナミンアルキル化

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全8問)

    理想気体の混合の自発性・殻の最大電子数 2n^2・多経路緩和の分岐比 / Slater則による有効核電荷・BF_3のVSEPR・逆蛍石型構造・Cu^+の不均化 / 反応機構5題:ピリジンのN-アルキル化・イミン生成・ラクトンへのGrignard・Markovnikov付加・Mannich反応

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(全9問)

    定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決める / ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー / ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(全8問)

    分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度 / O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性 / 酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化

2026年度 春季(2026年2月実施)の出題内容

全8問
大問主題解説の小見出し最終答
第1問蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形Δ G=0 が出発点 / T は絶対温度あり
第2問水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点定数の塊を 13.6 eV に置き換える / n にしか依存しないあり
第3問インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離なぜC3なのかを必ず書く / N上での反応との比較あり
第4問半反応式・濃度決定・ポテンシオメトリー・当量点電位酸性条件だからMn^2+ / 電荷と原子のバランスあり
第5問エチレンの永年方程式とπ電子エネルギー・ブタジエンへの拡張永年方程式が出る根拠 / α,β が負であることが順序を決めるあり
第6問[CoCl_2(en)_2]^+の異性体・[Ni(NH_3)_6]^2+の磁気モーメント・Cu^+の不均化en はシス位にしか架橋できない / シス体だけがキラルあり
第7問ベンジル位の酸性度とフェニル基の数・立体特異性と立体選択性立体障害に触れることが必須 / cosθ 依存あり
第8問定量分析の精度と誤差・標準添加法・IRと^1H NMRの相補性「誤差の名称を示したうえで」 / 1/\sqrt n が定量的な根拠あり

2026年度 春季(2026年2月実施)の解説には検算1件が付いています。

前年度(2025年度 夏季(2024年7月実施))との違い

大問数
2025年度 夏季(2024年7月実施) 8問 → 2026年度 春季(2026年2月実施) 8問
2025年度 夏季(2024年7月実施)の解答例

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度の夏季・春季(計6回)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
専攻ページに掲載されているのは専門科目「化学」の筆記試験問題のみ。英語の問題は大学本体の過去問題ページ側にあり、本文は著作権の関係で非掲載(出典のみ記載)の回がある。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF