院試hub

第1問 — 分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度

p∘p^{\circ} で割るのを省かない

ln⁡\ln の中身は無次元でなければならない。 ln⁡(pNHX32/pNX2pHX23)\ln(p_{\ce{NH3}}^{2}/p_{\ce{N2}}p_{\ce{H2}}^{3}) と書くと次元が合わず減点される。 標準圧 p∘p^{\circ} で割る(規格化する)ことを明示する。

単体の ΔfG∘\Delta_{\mathrm f}G^{\circ} はゼロ

最も安定な単体の標準生成ギブズエネルギーは定義により 00。 NX2\ce{N2}、HX2\ce{H2} が該当するので ΔrG∘=2ΔfG∘(NHX3)\Delta_{\mathrm r}G^{\circ}=2\Delta_{\mathrm f}G^{\circ}(\ce{NH3})。

係数は指数に入る

量論係数 22、11、33 はそれぞれ活量の指数になる。 ΔrG∘\Delta_{\mathrm r}G^{\circ} の側では係数として掛かる。

平衡との関係

ΔrG=0\Delta_{\mathrm r}G=0 のとき Q=KQ=K で、ΔrG∘=−RTln⁡K\Delta_{\mathrm r}G^{\circ}=-RT\ln K。 Q<KQ<K なら ΔrG<0\Delta_{\mathrm r}G<0 で正反応が進む。 一言添えると理解が伝わる。

(2) HX2\ce{H2} と DX2\ce{D2} の振動準位間隔の比

準位間隔は vv によらない

調和振動子では Ev=(v+12)hω/2πE_v=(v+\frac12)h\omega/2\pi なので、 隣接準位の差は一定。この点を明記する。

等核分子の μ\mu は質量の半分

μ=m/2\mu=m/2。ここで 22 を落として μ=m\mu=m とすると比は変わらないが、 式として誤りなので書き方に注意する。

重い同位体ほど低波数

HX2\ce{H2} の振動波数は約 4400 cm−14400\ \mathrm{cm^{-1}}、DX2\ce{D2} は約 3100 cm−13100\ \mathrm{cm^{-1}}。 比は 3100/4400=0.703100/4400=0.70 で上の予測とよく一致する。

零点エネルギーと同位体効果

DX2\ce{D2} は零点エネルギー 12hν\frac12 h\nu が小さいぶん結合が切れにくい。 これが速度論的同位体効果(KIE)の起源である。

kfk_{\mathrm f} が同じ根拠

Born--Oppenheimer近似では、ポテンシャル曲面は電子構造だけで決まり 核質量に依存しない。だから同位体置換で kfk_{\mathrm f} は変わらない。

(3) 2次反応で初濃度を3倍にしたときの初速度

次数がそのまま指数になる

nn 次反応なら cc 倍で cnc^{n} 倍。 2次なら 32=93^2=9 倍、3次なら 2727 倍。

「2次反応」の意味を確認

ここでは A\ce{A} 1成分の反応なので、全体の次数 == A\ce{A} についての次数 =2=2。 2成分反応なら「何について2次か」を明示する必要がある。

初速度を使う理由

反応が進むと [A][\ce{A}] が減り、生成物の影響も出る。 初速度なら初濃度だけで決まるので、次数の決定に使いやすい。

実験的な次数決定

初濃度を変えて初速度を測り、 log⁡v0\log v_0 対 log⁡[A]0\log[\ce{A}]_0 の傾きから次数を求める(初速度法)。 本問の逆の操作である。

解答

反応ギブズエネルギー ΔrG\Delta_{\mathrm r}G は、標準反応ギブズエネルギーと反応商 QQ から ΔrG=ΔrG∘+RTln⁡Q \Delta_{\mathrm r}G=\Delta_{\mathrm r}G^{\circ}+RT\ln Q で与えられる。

標準反応ギブズエネルギー 単体(NX2\ce{N2}、HX2\ce{H2})の標準生成ギブズエネルギーは 00 なので ΔrG∘=2 ΔfG∘(NHX3) \Delta_{\mathrm r}G^{\circ}=2\,\Delta_{\mathrm f}G^{\circ}(\ce{NH3})

反応商 完全気体なので活量は p/p∘p/p^{\circ}(p∘=105 Pa=1 barp^{\circ}=10^{5}\ \mathrm{Pa}=1\ \mathrm{bar})で表され Q=(pNHX3/p∘)2(pNX2/p∘)(pHX2/p∘)3 Q=\frac{(p_{\ce{NH3}}/p^{\circ})^{2}} {(p_{\ce{N2}}/p^{\circ})(p_{\ce{H2}}/p^{\circ})^{3}}

したがって T=298.15 KT=298.15\ \mathrm{K} で ΔrG=2 ΔfG∘+RTln⁡ ⁣[(pNHX3/p∘)2(pNX2/p∘)(pHX2/p∘)3] \Delta_{\mathrm r}G=2\,\Delta_{\mathrm f}G^{\circ} +RT\ln\!\left[ \frac{(p_{\ce{NH3}}/p^{\circ})^{2}} {(p_{\ce{N2}}/p^{\circ})(p_{\ce{H2}}/p^{\circ})^{3}}\right]

与えられた式より、隣接準位のエネルギー差は vv によらず ΔE=Ev+1−Ev=h2πω=h2πkfμ \Delta E=E_{v+1}-E_{v}=\frac{h}{2\pi}\omega =\frac{h}{2\pi}\sqrt{\frac{k_{\mathrm f}}{\mu}} すなわち ΔE∝μ−1/2\Delta E\propto \mu^{-1/2} である(kfk_{\mathrm f} は共通)。

換算質量 等核二原子分子 XX2\ce{X2} では μ=mXmXmX+mX=mX2 \mu=\frac{m_{\mathrm X}m_{\mathrm X}}{m_{\mathrm X}+m_{\mathrm X}}=\frac{m_{\mathrm X}}{2} よって μHX2=mH/2\mu_{\ce{H2}}=m_{\mathrm H}/2、μDX2=mD/2\mu_{\ce{D2}}=m_{\mathrm D}/2。

ΔEDX2ΔEHX2=μHX2μDX2=mH/2mD/2=mHmD \frac{\Delta E_{\ce{D2}}}{\Delta E_{\ce{H2}}} =\sqrt{\frac{\mu_{\ce{H2}}}{\mu_{\ce{D2}}}} =\sqrt{\frac{m_{\mathrm H}/2}{m_{\mathrm D}/2}} =\sqrt{\frac{m_{\mathrm H}}{m_{\mathrm D}}}

mD≃2mHm_{\mathrm D}\simeq2m_{\mathrm H} とすれば ΔEDX2/ΔEHX2≃1/2≃0.71\Delta E_{\ce{D2}}/\Delta E_{\ce{H2}}\simeq1/\sqrt2\simeq0.71 である。

A→B\ce{A -> B} が A\ce{A} について2次なので、速度式は v=k[A]2 v=k[\ce{A}]^{2} 生成物 B\ce{B} の初濃度は 00 なので、逆反応の寄与は考えなくてよい。

初濃度を [A]0→3[A]0[\ce{A}]_0\to3[\ce{A}]_0 とすると v0′v0=k(3[A]0)2k[A]02=32=9 \frac{v_0'}{v_0}=\frac{k(3[\ce{A}]_0)^{2}}{k[\ce{A}]_0^{2}}=3^{2}=9

最終答

ΔrG=2 ΔfG∘+RTln⁡(pNHX3/p∘)2(pNX2/p∘)(pHX2/p∘)3\displaystyle \Delta_{\mathrm r}G=2\,\Delta_{\mathrm f}G^{\circ} +RT\ln\frac{(p_{\ce{NH3}}/p^{\circ})^{2}} {(p_{\ce{N2}}/p^{\circ})(p_{\ce{H2}}/p^{\circ})^{3}} (T=298.15 KT=298.15\ \mathrm{K}、p∘=1 barp^{\circ}=1\ \mathrm{bar})。

ΔEDX2ΔEHX2=μHX2μDX2=mHmD\displaystyle \frac{\Delta E_{\ce{D2}}}{\Delta E_{\ce{H2}}} =\sqrt{\frac{\mu_{\ce{H2}}}{\mu_{\ce{D2}}}}=\sqrt{\frac{m_{\mathrm H}}{m_{\mathrm D}}} \ (mD≃2mHm_{\mathrm D}\simeq2m_{\mathrm H} なら 1/2≃0.711/\sqrt2\simeq0.71)。

9倍。

第2問 — O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性

準位図を必ず描く

「説明せよ」でも軌道のエネルギー準位図を描き、 電子を矢印で書き込むのが最短で確実である。

σ2p\sigma_{2p} と π2p\pi_{2p} の順序

LiX2\ce{Li2}〜NX2\ce{N2} では ss--pp 混成のため π2p<σ2p\pi_{2p}<\sigma_{2p}、 OX2\ce{O2}、FX2\ce{F2} では σ2p<π2p\sigma_{2p}<\pi_{2p}。 ただし OX2\ce{O2} の常磁性の結論は順序によらない (π∗\pi^{*} に2電子入ることは変わらない)。

関連イオンの結合次数

OX2X+\ce{O2+}:2.5、OX2\ce{O2}:2、OX2X−\ce{O2^-}(超酸化物):1.5、 OX2X2−\ce{O2^{2-}}(過酸化物):1。 結合長・振動数の序列と対応する。

NX2\ce{N2} との対比

NX2\ce{N2} は π∗\pi^{*} が空で全電子が対をつくり反磁性。 液体酸素が磁石に付き、液体窒素が付かないのはこの違いである。

(2) ホスホン酸 HX3POX3\ce{H3PO3} の構造

規則の形を覚える

pKa1≃8−5m\mathrm{p}K_{a1}\simeq8-5m(mm は末端オキソ酸素の数)。 HClO\ce{HClO}(m=0m=0)7.5、HClOX2\ce{HClO2}(m=1m=1)2.0、 HClOX3\ce{HClO3}(m=2m=2)−1-1、HClOX4\ce{HClO4}(m=3m=3)−8-8。 よく一致する。

多段解離は約5ずつ増える

pKa2≃pKa1+5\mathrm{p}K_{a2}\simeq\mathrm{p}K_{a1}+5。 HX3POX4\ce{H3PO4} では 2.12.1、7.27.2、12.312.3 でほぼ5刻み。 本問の HX3POX3\ce{H3PO3} も pKa2=6.6\mathrm{p}K_{a2}=6.6 で整合する。

塩基度から検証する

HX3POX3\ce{H3PO3} が2塩基酸、HX3POX2\ce{H3PO2}(次亜リン酸)が1塩基酸であることは、 それぞれ P−H\ce{P-H} を1本、2本もつことに対応する。 構造の裏づけとして書き添えるとよい。

互変異性

P(OH)X3\ce{P(OH)3}(亜リン酸型)と HP(=O)(OH)X2\ce{HP(=O)(OH)2}(ホスホン酸型)は互変異性の関係にあるが、 平衡は圧倒的に後者に偏る。P=O\ce{P=O} 結合が非常に強いためである。

(3) 閃亜鉛鉱型 ZnS\ce{ZnS} の構造

空隙の数を覚える

最密充填では、球 NN 個あたり四面体空隙 2N2N、八面体空隙 NN。 面心立方の単位格子(球4個)なら四面体空隙8個、八面体空隙4個。

代表的な構造型と対比

岩塩型(NaCl\ce{NaCl}):ccp ++ 八面体空隙すべて、6:6配位。 閃亜鉛鉱型(ZnS\ce{ZnS}):ccp ++ 四面体空隙の半分、4:4配位。 ウルツ鉱型(ZnS\ce{ZnS}):hcp ++ 四面体空隙の半分、4:4配位。 蛍石型(CaFX2\ce{CaF2}):ccp ++ 四面体空隙すべて、8:4配位。

半径比則

r+/r−r_{+}/r_{-} が 0.2250.225〜0.4140.414 なら四面体配位(4配位)、 0.4140.414〜0.7320.732 なら八面体配位(6配位)。 ZnX2+/SX2−\ce{Zn^2+}/\ce{S^2-} は 0.400.40 で4配位の領域にある。

ダイヤモンド構造との関係

閃亜鉛鉱型はダイヤモンド構造の2種類の副格子を Zn\ce{Zn} と S\ce{S} に置き換えたものである。 GaAsなどIII--V族半導体も同じ構造をとる。

(4) 水と最も穏やかに反応する水素化物

HX−\ce{H-} の反応性で考える

「水素化物イオンがどれだけ自由か」に置き換えて説明すると、 電気陰性度差との関係が一直線に書ける。

同族では下ほどイオン性が高い

アルカリ金属は下ほど電気陰性度が小さいので、 LiH<NaH<KH<RbH<CsH\ce{LiH}<\ce{NaH}<\ce{KH}<\ce{RbH}<\ce{CsH} の順にイオン性が増す。 融点・分解温度の序列も対応する。

Liの特異性

Liは他のアルカリ金属と異なり共有結合性が強く、 対角関係にあるMgと似た性質を示す (LiX3N\ce{Li3N} の生成、LiX2COX3\ce{Li2CO3} の熱分解など)。

有機合成での使い分け

NaH\ce{NaH} は非求核性の強塩基として脱プロトン化に使う。 LiH\ce{LiH} は塩基性が穏やかで、LiAlHX4\ce{LiAlH4} の原料として使われる。 実務と結びつけると理解が定着する。

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第3問 — 酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化

カルボン酸誘導体は付加--脱離

アルデヒド・ケトンの「付加のみ」と違い、 脱離基をもつカルボン酸誘導体では四面体形中間体から脱離が起こる。 中間体を必ず書く。

反応性の序列

酸ハロゲン化物 >> 酸無水物 >> エステル >> アミド >> カルボキシラート。 より反応性の高い誘導体から低い誘導体へは進むが、逆は進まない。 本問は酸ハロゲン化物 →\to 酸無水物で、この序列に従う。

脱離基の塩基性で判断

弱い塩基ほどよい脱離基。 ClX−≫RCOX2X−>ROX−>RX2NX−\ce{Cl-}\gg\ce{RCO2-}>\ce{RO-}>\ce{R2N-} の順で、上の反応性序列と対応する。

AcOX−\ce{AcO-} の求核部位

2つの酸素は共鳴で等価なので、どちらが攻撃しても同じ生成物になる。 共鳴構造を書き添えると丁寧である。

(2) 2-メチルアセト酢酸エチルのアリル化

活性メチレン・メチンの pKa\mathrm{p}K_a

アセト酢酸エステル 1111、マロン酸エステル 1313、 単純ケトン 2020、エステル 2525。 2つのカルボニルに挟まれると10桁以上酸性になる。

塩基は基質に合わせる

pKa\mathrm{p}K_a が 1313 程度なら NaOEt\ce{NaOEt}(共役酸 1616)で十分。 単純ケトンのエノラートには LDA のような強塩基が要る。

アリル位ハロゲン化物は反応が速い

SXN2\ce{S_N2} 遷移状態が隣接π\pi系と共役して安定化されるため、 アリル・ベンジルハロゲン化物は反応性が高い。

C-アルキル化とO-アルキル化

エノラートは C でも O でも反応しうるが、 ハロゲン化アルキル(軟らかい求電子剤)とは 軟らかい求核部位である炭素で反応する(HSAB)。

その先の変換

生成物を加水分解・脱炭酸すれば アセト酢酸エステル合成でメチルケトンが得られる。 出題の背景として述べておくとよい。

(3) 2-クロロピリジンと NaOMe\ce{NaOMe}

SXNAr\ce{S_NAr} は付加が律速

ハロゲンの脱離ではなく求核付加が律速段階。 そのため脱離能の序列は SXN2\ce{S_N2} と逆で、 F>Cl>Br>I\ce{F}>\ce{Cl}>\ce{Br}>\ce{I} となる (Fの強い −I-\mathrm I 効果が付加を加速する)。

負電荷の受け皿が必要

ベンゼン環では NOX2\ce{NO2} などの −M-\mathrm M 基がオルト・パラ位に要る。 ピリジンでは環内窒素そのものが受け皿になるので、 置換基なしで SXNAr\ce{S_NAr} が進む。

ピリジンは「電子不足芳香環」

求電子置換は3位でしか起こらず反応も遅い一方、 求核置換は2位・4位で速い。ベンゼンと正反対の性格である。

ベンザイン機構との区別

活性化基のないハロベンゼンを強塩基(NaNHX2\ce{NaNH2})で処理すると ベンザイン中間体を経る。本問は SXNAr\ce{S_NAr} で、条件も生成物も異なる。

2-ハロピリジンの利用

医薬品合成でアミン・アルコキシドの導入に頻用される。 SXNAr\ce{S_NAr} が容易に進むことを利用した典型例である。

(4) ビシクロペンチルジオールのピナコール転位

ピナコール転位の4段階

プロトン化 →\to 脱水 →\to 1,2-転位 →\to 脱プロトン化。 順序を崩さずに書けば必ず得点になる。

どちらの OH\ce{OH} が抜けるか

より安定なカルボカチオンを与えるほうが抜ける。 本問は両側が等価なのでどちらでもよい。 非対称な基質では必ず判断根拠を書く。

何が転位するか

転位能はおよそ H≃\ce{H}\simeq アリール >> 第三級アルキル >> 第二級 >> メチル。 環状ピナコールでは環内結合の移動が起こり、環拡大となる。

同族の反応

1,1′'-ビ(シクロヘキシル)-1,1′'-ジオールなら スピロ[5.5]ウンデカン-1-オンが得られる。 環の大きさを1つずつ変えて確かめると理解が深まる。

転位は協奏的

脱水と転位はしばしば協奏的に進み、 遊離のカルボカチオンを経ないこともある。 段階的に書いても採点上は問題ないが、一言添えると正確である。

(5) トルエンと 2,5-ジクロロ-2,5-ジメチルヘキサン

第三級ハロゲン化物はカチオン経由

第一級ハロゲン化物では R−Cl⋅⋅⋅AlClX3\ce{R-Cl\bond{...}AlCl3} 錯体のまま反応するか、 転位を伴う。第三級なら遊離のカルボカチオンを書いてよい。

Friedel--Crafts アルキル化の弱点

多置換が起こりやすく、カルボカチオンの転位も起こる。 本問は第三級カチオンで転位の余地がなく、 2回目が分子内で止まるため、きれいに一種類の生成物になる。

閉環サイズを確認する

カチオン炭素から芳香環のオルト炭素まで数えると6員環になる。 5員環や7員環では歪みが大きく不利である。

立体障害でパラ選択

−C(CHX3)X2R\ce{-C(CH3)2R} はきわめてかさ高いので、 オルト位への攻撃は立体的に不利。 オルト・パラ配向基でもパラが圧倒的になる。

工業的な背景

1,1,4,4-テトラメチルテトラリン骨格は合成ムスク香料の基本骨格で、 実際にこの二重アルキル化で製造される。 出題の意図を推し量る手がかりになる。

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第4問 — イオン強度を指定したリン酸緩衝液の調製・Lambert--Beerの法則と吸光光度法の注意点

2価イオンは z2=4z^{2}=4 で効く

HPOX4X2−\ce{HPO4^2-} を1価として扱うと I=2a+2bI=2a+2b となり答えが変わる。 イオン強度では価数の2乗が効くことを忘れない。

対イオンも数える

NaX2HPOX4\ce{Na2HPO4} は NaX+\ce{Na+} を2個放出する。 緩衝成分だけ数えて対イオンを忘れると II が半分近く小さくなる。

使う pKa\mathrm{p}K_a を選ぶ

pH 7.60 は pKa2=7.12\mathrm{p}K_{a2}=7.12 に最も近い。 HX2POX4X−/HPOX4X2−\ce{H2PO4-}/\ce{HPO4^2-} の対を使うのが正しい。 pKa1\mathrm{p}K_{a1}、pKa3\mathrm{p}K_{a3} の平衡は無視できる。

与えられた対数値を使う

log⁡3.0=0.48\log3.0=0.48 がそのまま 7.60−7.127.60-7.12 に一致する。 出題者が意図した経路なので、これに乗ると計算が軽い。

活量係数は無視

厳密には pKa\mathrm{p}K_a は活量に基づく値で、 I=0.10I=0.10 では活量係数の補正が要る。 本問は濃度で扱う近似であることを一言添えると丁寧である。

イオン強度を指定する理由

活量係数や酵素活性は II に依存する。 生化学実験では pH と II の両方を指定して緩衝液を調製する。

(2)(i) Lambert--Beerの法則

透過率でなく吸光度が比例する

透過率 T=I/I0T=I/I_0 は濃度に対して指数関数的に減る。 比例するのは A=−log⁡TA=-\log T のほうである。

加成性

複数成分があれば A=∑εicilA=\sum\varepsilon_i c_i l。 多成分同時定量や等吸収点の議論の基礎になる。

ε\varepsilon の大きさの目安

許容遷移(π→π∗\pi\to\pi^{*}、電荷移動)10310^{3}〜10510^{5}、 禁制遷移(n→π∗n\to\pi^{*}、dd--dd)11〜10210^{2}。 値そのものが遷移の種類の手がかりになる。

(2)(ii) 吸光光度法の注意点

ずれの原因を「化学的」「光学的」に分ける

列挙するときこの2分類で整理すると、抜けが減り読みやすい。

A=0.4A=0.4 前後が最良

測光の相対誤差 dc/c\mathrm dc/c は A=1/ln⁡10≃0.43A=1/\ln10\simeq0.43 で最小になる。 理由まで書けると差がつく。

迷光の影響

迷光の割合を ss とすると、真の透過がゼロでも AA は −log⁡s-\log s で頭打ちになる。 高吸光度側の負のずれの主因である。

バンド幅と吸収帯幅

分光器のバンド幅が吸収帯の半値幅の 1/101/10 以下なら Beer 則からのずれは無視できる。実務上の目安である。

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第5問 — 一次元の箱の中の粒子:波動関数の導出・存在確率密度・エネルギー準位・準位間隔の変化

量子化は境界条件から出る

「エネルギーが量子化される」のは方程式そのものではなく、 ψ(L)=0\psi(L)=0 という境界条件を課した結果である。 この因果を明記すると論述の質が上がる。

A=0A=0 を除く理由を書く

sin⁡kL=0\sin kL=0 の解として A=0A=0 もあり得るが、 それでは全空間で ψ=0\psi=0 となり粒子が存在しない。 除外理由を一言添える。

規格化積分の値

∫0Lsin⁡2(nπx/L) dx=L/2\int_0^{L}\sin^{2}(n\pi x/L)\,\mathrm dx=L/2(nn によらない)。 覚えておくと速い。

節の数

ψn\psi_n は端点を除いて n−1n-1 個の節をもつ。 nn が大きいほど波長が短く、運動エネルギーが高い。

(2) x=L/2x=L/2 における存在確率密度

ψ\psi ではなく ∣ψ∣2|\psi|^{2}

「存在確率密度」は波動関数の2乗である。 ψ2(L/2)=0\psi_2(L/2)=0 と答えると設問に答えていない。

節の位置

ψn\psi_n の節は x=jL/nx=jL/n(j=1,…,n−1j=1,\dots,n-1)。 n=2n=2 なら x=L/2x=L/2 の1点。

古典極限との対比

古典的には粒子はどこにも等確率で存在する(密度 1/L1/L)。 nn を大きくすると量子的な確率密度の振動が細かくなり、 平均すると 1/L1/L に近づく(対応原理)。

節でも粒子は移動できる

「節を通れないのでは」という疑問は、 粒子を局在した球と考えることから来る誤解である。 定常状態は空間全体に広がった波であり、位置の確率分布だけが意味をもつ。

(3) エネルギーの導出

n2n^{2} に比例

準位は 1:4:9:16:…1:4:9:16:\dots と広がる。等間隔ではない (等間隔なのは調和振動子)。

L2L^{2} に反比例

箱を広げると準位は下がり、間隔も詰まる。 共役系の長さと吸収波長の関係の基礎になる。

零点エネルギーの意味

E1>0E_1>0 は不確定性原理の帰結。 Δx≃L\Delta x\simeq L より Δp≳h/L\Delta p\gtrsim h/L、 E≃(Δp)2/2m≃h2/2mL2E\simeq(\Delta p)^{2}/2m\simeq h^{2}/2mL^{2} で桁が合う。

3次元への拡張

E=h28m(nx2Lx2+ny2Ly2+nz2Lz2)E=\dfrac{h^{2}}{8m}\left(\dfrac{n_x^{2}}{L_x^{2}}+\dfrac{n_y^{2}}{L_y^{2}}+\dfrac{n_z^{2}}{L_z^{2}}\right)。 立方体なら縮退が現れる。

(4) nn が大きくなるときの準位間隔

相対的な間隔は小さくなる

絶対値 ΔE\Delta E は増えるが、 ΔE/En=(2n+1)/n2→0\Delta E/E_n=(2n+1)/n^{2}\to0 なので相対的には詰まる。 これが古典極限(対応原理)につながる。 両方に触れると理解の深さが伝わる。

他の系との対比

調和振動子:ΔE\Delta E 一定。 水素原子:En∝−1/n2E_n\propto-1/n^{2} なので ΔE\Delta E は小さくなり、 n→∞n\to\infty で連続(イオン化極限)に近づく。

共役系の吸収

π\pi電子系を長さ LL の箱とみなすと、 HOMO--LUMO間隔は LL が長いほど小さくなり吸収は長波長化する。 シアニン色素の色を説明する古典的なモデルである。

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第6問 — [Ni(en)_3]^2+の命名と光学異性・逐次錯生成定数・[Ni(CN)_4]^2-の平面正方型・大きなモル吸光係数の由来

bis/tris を使う場面

配位子名に数詞が含まれる(ethylenediamine、bipyridine など)、 または名称が複雑なときは bis、tris、tetrakis を使う。 [Ni(NHX3)X6]X2+\ce{[Ni(NH3)6]^2+} は「ヘキサアンミン」でよい。

酸化数の求め方

配位子の電荷の総和を錯イオンの電荷から引く。 en は中性なので +2+2、ox2−^{2-} が3つなら −6-6 を引いて +3+3 になる。

Δ/Λ\Delta/\Lambda の決め方

C3C_3 軸に沿って見て、手前のキレート環から奥の環へ向かう回転が 時計回りなら Δ\Delta、反時計回りなら Λ\Lambda。 図を描いて示すと確実である。

キレート効果

en 3分子の錯体は NHX3\ce{NH3} 6分子の錯体より格段に安定 (log⁡β\log\beta:en 系 18.3、アンミン系 8.6)。 配位子1分子が2点で結合するため、 解離に伴うエントロピー増加が大きいことが主因である。

分割の実際

Δ\Delta/Λ\Lambda の分割には光学活性な対イオン (酒石酸イオンなど)とのジアステレオマー塩の分別結晶が使われる。

(2) 逐次生成定数 K2K_2、K3K_3

β\beta と KK の関係

βn=K1K2⋯Kn\beta_n=K_1K_2\cdots K_n。 対数をとれば log⁡βn=∑log⁡Ki\log\beta_n=\sum\log K_i となり、 引き算だけで各段が出る。

逐次定数が減少する理由

(a) 統計因子:空いている配位座が減り、外れる配位子が増える。 (b) 立体障害:かさ高いenが増えると次の配位が不利。 (c) 静電・電子効果:中心金属の実効電荷が減る。 理由を1つでも添えると加点される。

色の変化と対応

緑([Ni(OHX2)X6]X2+\ce{[Ni(OH2)6]^2+})→\to 薄青 →\to 青紫 →\to 赤紫([Ni(en)X3]X2+\ce{[Ni(en)3]^2+})。 HX2O\ce{H2O} より en のほうが配位子場が強く、 en が増えるほど Δo\Delta_{\mathrm o} が大きくなって吸収が短波長化する。 補色として観察される色が変化する。

有効数字

log⁡\log の小数第1位までしか与えられていないので、答えは2桁が妥当。

(3) [Ni(CN)X4]X2−\ce{[Ni(CN)4]^2-} が平面正方型をとる理由

磁性で構造が判別できる

d8d^{8} 平面正方形は反磁性(S=0S=0)、四面体形は常磁性(S=1S=1、μ≃2.8 μB\mu\simeq2.8\ \mu_{\mathrm B})。 磁化率測定は4配位錯体の構造決定の基本手段である。

分光化学系列

IX−<BrX−<ClX−<FX−<OHX−<HX2O<NHX3<en<NOX2X−<CNX−<CO\ce{I-}<\ce{Br-}<\ce{Cl-}<\ce{F-}<\ce{OH-}<\ce{H2O}<\ce{NH3}<\ce{en}<\ce{NO2-}<\ce{CN-}<\ce{CO}。 右にいくほど Δ\Delta が大きい。

d8d^{8} は平面正方形になりやすい

Ni(II)、Pd(II)、Pt(II)、Au(III)、Rh(I)、Ir(I) はいずれも d8d^{8}。 第2・第3周期では Δ\Delta が大きいため、 弱い配位子でもほぼ常に平面正方形をとる。

LFSE の数値

平面正方形の軌道エネルギー(Δo\Delta_{\mathrm o} 単位)は dx2−y2 +1.22d_{x^2-y^2}\,{+}1.22、dxy +0.23d_{xy}\,{+}0.23、 dz2 −0.43d_{z^2}\,{-}0.43、dxz=dyz −0.51d_{xz}=d_{yz}\,{-}0.51。 これを d8d^{8} で足せば −2.46-2.46 が出る。

立体因子も述べる

四面体形は配位子間の反発が小さいので、 かさ高い配位子や弱い配位子場では有利になる。 LFSE だけでなく立体因子にも触れると説明が立体的になる。

(4) [Ni(bpy)X3]X2+\ce{[Ni(bpy)3]^2+} の強い吸収の由来

ε\varepsilon から遷移を判別する

ε<1\varepsilon<1:スピン禁制かつLaporte禁制(Mn(II)の淡桃色)。 11〜10210^{2}:Laporte禁制の dd--dd(OhO_h)。 10210^{2}〜10310^{3}:対称心のない錯体の dd--dd(TdT_d)。 10310^{3}〜10510^{5}:電荷移動・π→π∗\pi\to\pi^{*}。 この対応表を覚えておくと即答できる。

MLCTとLMCTの見分け

金属が還元されやすく配位子がπ\pi受容体(bpy、phen、CO)なら MLCT。 金属が酸化力をもち配位子が電子供与性(OX2−\ce{O^2-}、SX2−\ce{S^2-}、IX−\ce{I-})なら LMCT。 MnOX4X−\ce{MnO4-} の濃紫色は LMCT の代表例である。

Laporte則の内容

対称心をもつ分子では g↔gg\leftrightarrow g、u↔uu\leftrightarrow u が禁制、 g↔ug\leftrightarrow u のみ許容。 dd 軌道はすべて gg なので dd--dd は禁制になる。

振電緩和

非対称振動によって瞬間的に対称心が崩れると、 dd--dd 遷移がわずかに許容になる。 これが OhO_h 錯体の淡い色の起源である。

応用

[Ru(bpy)X3]X2+\ce{[Ru(bpy)3]^2+} の MLCT は光触媒・色素増感太陽電池の中心的な励起過程である。 同じ考え方が広く使われる。

[Ni(en)_3]^2+の命名と光学異性・逐次錯生成定数・[Ni(CN)_4]^2-の平面正方型・大きなモル吸光係数の由来の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — Diels--Alder反応の逆合成と立体特異性・ラジカル的HBr付加とMarkovnikov付加・^1H NMRの化学シフト順序

cis則(立体特異性)

「ジエノフィルの立体配置は保存される」。 (Z)(Z) →\to cis、(E)(E) →\to trans。 協奏機構の最も直接的な証拠である。

電子要求性

通常のDiels--Alderは電子豊富なジエン ++ 電子不足なジエノフィル。 エステルのような電子求引基がジエノフィルのLUMOを下げ、 ジエンのHOMOとのエネルギー差を縮めて反応を加速する。

ジエンは s-cis 配座が必須

s-trans では両端が届かない。 環状ジエン(シクロペンタジエン)が反応性に富むのはこのためである。

エンド則

環状ジエンでは電子求引基がエンドに向いた遷移状態が 二次軌道相互作用で有利になる。 本問は鎖状ジエンなのでエンド/エキソの区別は生じない。

(1)② ジエン 3 とジエノフィル 4

アルキンをジエノフィルに使うと1,4-ジエンになる

生成物の不飽和度から逆算する定石。 二重結合の数を数えるだけでジエノフィルの種類が決まる。

ジエン末端の立体と生成物の関係

(E,E)→(E,E)\to シス、(E,Z)→(E,Z)\to トランス、(Z,Z)→(Z,Z)\to シス。 (Z,Z)(Z,Z) は内向き置換基どうしの立体反発でs-cis配座がとれず、 実際にはほとんど反応しない。

DMADは強力なジエノフィル

2つのエステルがLUMOを大きく下げるため、 穏やかな条件でも進む。フラン・ピロールとも反応する。

①との対比

①はジエンの立体、②はジエノフィルの種類が問われている。 「不飽和度」と「立体配置」の2つの手がかりを使い分ける。

(2)① α\alpha-メチルスチレンへの HBr\ce{HBr} のラジカル付加

中間体の安定性で配向が決まる

イオン付加ではカチオン、ラジカル付加ではラジカルの安定性。 どちらも「より安定な中間体を与える向き」という同じ原理で、 先に結合するのが HX+\ce{H+} か BrX∙\ce{Br^{\bullet}} かが違うだけである。

過酸化物効果は HBr\ce{HBr} に限る

HCl\ce{HCl} は水素引き抜きが吸熱、HI\ce{HI} は付加が吸熱で、 どちらも連鎖が続かない。HBr\ce{HBr} だけ両段階が発熱になる。

ラジカルの安定性序列

第三級 >> 第二級 >> 第一級 >> メチル。 ベンジル・アリルは共鳴でさらに安定。 本問は第三級かつベンジルで最も安定な部類。

片羽の矢印を使う

ラジカル機構では電子1個の移動を表す片羽の矢印で書く。 イオン機構の両羽の矢印と区別する。

(2)② 1-メチルシクロヘキセンへの HCl\ce{HCl} の付加

①との対比が出題の主眼

同じアルケンへのハロゲン化水素の付加でも、 ラジカル機構(①)とイオン機構(②)で配向が逆になる。 「なぜ機構が変わるか」(開始剤の有無、HBr\ce{HBr} か HCl\ce{HCl} か)も述べる。

転位に注意

カルボカチオン中間体は転位しうる。 本問は最初から第三級なので転位しないが、 第二級カチオンが生じる基質では1,2-水素/メチル移動を検討する。

立体化学

平面のカルボカチオンに ClX−\ce{Cl-} が両面から攻撃するので、 不斉炭素ができる場合はラセミ体になる。 本問の生成物はアキラルなので問題にならない。

溶媒の役割

酢酸は極性プロトン性でイオン対を安定化する。 無極性の CClX4\ce{CCl4}(①)はラジカル機構に適する。 溶媒の違いも配向を分ける手がかりである。

(3) 化学シフトの順序

「高周波数側 == 低磁場側 == δ\delta 大」

掃引方式の名残で用語が二通りある。 現代の表記では高周波数側が δ\delta の大きい側。 対応関係を押さえておく。

TMSが基準に選ばれた理由

(a) 12個の等価な水素で強い単一線を与える。 (b) 電気陰性度の小さいSiのおかげでほぼすべての有機化合物より高磁場に出る。 (c) 沸点 27 ∘C27\,^\circ\mathrm{C} で除去が容易、化学的に不活性。 本問の(b)を答案に書けると完成度が高い。

誘起効果は距離で減衰

CHX3−O\ce{CH3-O} で 3.2 ppm3.2\ \mathrm{ppm}、 CHX3−CHX2−O\ce{CH3-CH2-O} の CHX3\ce{CH3} では 1.2 ppm1.2\ \mathrm{ppm} 程度。 結合2つ分離れると効果は大幅に小さくなる。

遮蔽の別要因

芳香環電流(ベンゼン 7.3 ppm7.3\ \mathrm{ppm})、 π\pi結合の異方性(アルデヒド 9.8 ppm9.8\ \mathrm{ppm})、 水素結合なども化学シフトを支配する。 本問は誘起効果だけで説明できる例である。

Diels--Alder反応の逆合成と立体特異性・ラジカル的HBr付加とMarkovnikov付加・^1H NMRの化学シフト順序の途中式・最終答をPDFで見る

第8問 — 標準電極電位からAgClの溶解度積を求める・質量分析の質量分離部とLC-MSのイオン化法

E∘E^{\circ} は引き算できるがギブズ経由が安全

電子数が等しい2つの半反応の差なら E∘E^{\circ} の引き算でよいが、 電子数が違う反応を組むときは必ず ΔG∘=−nFE∘\Delta G^{\circ}=-nFE^{\circ} を経由する。 本問は n=1n=1 どうしなので直接引いてもよい。

2.303RT/F=0.0592 V2.303RT/F=0.0592\ \mathrm V

25 ∘C25\,^\circ\mathrm{C} でのNernst式の係数。 これを覚えておくと log⁡K\log K が即座に出る。

意味づけ

ClX−\ce{Cl-} の存在で AgX+/Ag\ce{Ag+/Ag} の電位が 0.800.80 から 0.22 V0.22\ \mathrm V へ下がるのは、 AgX+\ce{Ag+} が AgCl\ce{AgCl} として取り除かれ活量が下がるためである。 この見方は次問の「見かけ電位」と同じ原理である。

実測値との比較

文献値は Ksp=1.8×10−10K_{sp}=1.8\times10^{-10}。 与えられた E∘E^{\circ} の有効数字の範囲でよく一致する。

与えられた対数値で処理する

100.2010^{0.20} は log⁡2.0=0.30\log2.0=0.30 から log⁡1.6=log⁡(24/10)=4×0.30−1=0.20\log1.6=\log(2^4/10)=4\times0.30-1=0.20 として求める。

(2)(i) 質量分離部の3形式と原理

TOFは原理的に測定範囲が無限

質量上限がないため、タンパク質など高分子量のイオンにも使える。 MALDI-TOFが生体高分子の分析に用いられる理由である。

リフレクトロンで分解能を上げる

加速時の初期エネルギーのばらつきを、 静電反射板で飛行距離を変えて補正する。 分解能が1桁向上する。

四重極の特徴

分解能は高くないが、小型・安価・走査が速い。 GC-MS、LC-MSの汎用検出器として最も普及している。

その他の形式

イオントラップ型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT-ICR)、 Orbitrap型。後2者は超高分解能で、精密質量から組成式を決定できる。

(2)(ii)(iii) LC-MSの問題点と主なイオン化法

「真空との両立」を最初に書く

これが LC-MS 開発の本質的な課題である。 イオン化法の話はその解決策として位置づけると論旨が通る。

差動排気

イオン源から質量分離部まで複数の段階に分けて排気し、 105 Pa10^{5}\ \mathrm{Pa} から 10−4 Pa10^{-4}\ \mathrm{Pa} まで約9桁の圧力差をつくる。 これが大気圧イオン化を可能にした技術である。

ESIの多価イオン

[M+nH]n+[\mathrm M+n\mathrm H]^{n+} が生じるため、 分子量が数万でも m/zm/z は 10001000 前後に収まる。 測定範囲の狭い四重極型でも高分子量の測定ができる。

ESIとAPCIの使い分け

極性・分子量が高い →\to ESI、 中〜低極性で熱安定 →\to APCI。 どちらも合わない非極性化合物には APPI(大気圧光イオン化)を使う。

歴史的背景

ESIを開発したFennと、MALDIにつながる研究を行った田中耕一が 2002年のノーベル化学賞を受賞した。 生体高分子の質量分析を可能にした点が評価された。

標準電極電位からAgClの溶解度積を求める・質量分析の質量分離部とLC-MSのイオン化法の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度 夏季(2025年7月実施)(全8問)

    標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形 / 水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径 / 反応機構4題:Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化

  • 2026年度 春季(2026年2月実施)(全8問)

    蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形 / 水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点 / 反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全8問)

    ファンデルワールス気体の等温可逆膨張の仕事・水素1s軌道の〈 r〉・多経路緩和の分岐比 / ルチル型TiO_2の構造とバンドギャップ・Δ_rG^°からの標準電極電位・HSAB則 / 反応機構5題:Markovnikov付加・ピロールのBoc化・Michael付加・Wittig反応・Storkエナミンアルキル化

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全8問)

    理想気体の混合の自発性・殻の最大電子数 2n^2・多経路緩和の分岐比 / Slater則による有効核電荷・BF_3のVSEPR・逆蛍石型構造・Cu^+の不均化 / 反応機構5題:ピリジンのN-アルキル化・イミン生成・ラクトンへのGrignard・Markovnikov付加・Mannich反応

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(全9問)

    定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決める / ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー / ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(このページ・全8問)

    分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度 / O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性 / 酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化

2024年度 春季(2024年2月実施)の出題内容

全8問
大問主題解説の小見出し最終答
第1問分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度p^° で割るのを省かない / 単体の Δ_fG^° はゼロあり
第2問O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性準位図を必ず描く / σ_2p と π_2p の順序あり
第3問酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化カルボン酸誘導体は付加--脱離 / 反応性の序列あり
第4問イオン強度を指定したリン酸緩衝液の調製・Lambert--Beerの法則と吸光光度法の注意点2価イオンは z^2=4 で効く / 対イオンも数えるあり
第5問一次元の箱の中の粒子:波動関数の導出・存在確率密度・エネルギー準位・準位間隔の変化量子化は境界条件から出る / A=0 を除く理由を書くあり
第6問[Ni(en)_3]^2+の命名と光学異性・逐次錯生成定数・[Ni(CN)_4]^2-の平面正方型・大きなモル吸光係数の由来bis/tris を使う場面 / 酸化数の求め方あり
第7問Diels--Alder反応の逆合成と立体特異性・ラジカル的HBr付加とMarkovnikov付加・^1H NMRの化学シフト順序cis則(立体特異性) / 電子要求性あり
第8問標準電極電位からAgClの溶解度積を求める・質量分析の質量分離部とLC-MSのイオン化法E^° は引き算できるがギブズ経由が安全 / 2.303RT/F=0.0592\ Vあり

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度の夏季・春季(計6回)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
専攻ページに掲載されているのは専門科目「化学」の筆記試験問題のみ。英語の問題は大学本体の過去問題ページ側にあり、本文は著作権の関係で非掲載(出典のみ記載)の回がある。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF