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立教大学 理学研究科 化学専攻 博士課程前期課程 化学 2024年度 夏季(2023年7月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全9問)

全9問です。解説の小見出しは163件です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決める

Cp>CVC_p>C_V の理由

定圧では気体が膨張して外界に仕事をするので、 同じ温度上昇に余分の熱が要る。 その差が完全気体では厳密に RR になる。

Mayerの関係の導出

H=U+pV=U+nRTH=U+pV=U+nRT を TT で微分すれば Cp=CV+nRC_p=C_V+nR。1行で書けるので添えるとよい。

自由度からの予測

単原子:CV=32RC_V=\frac32R。 二原子(室温、振動凍結):52R\frac52R。 非直線多原子:3R3R。 求めた値と照合すると検算になる。

qp=ΔHq_p=\Delta H の条件

定圧かつ膨張仕事以外の仕事がないこと。 問題文の「定圧条件下」がこれを保証している。

(2) 3s軌道の節の位置

指数関数はゼロにならない

e−ρ/2e^{-\rho/2} が 00 になるのは r→∞r\to\infty の極限だけで、 これは節とは呼ばない。多項式だけを見る。

節の数の公式

動径節 n−ℓ−1n-\ell-1、角節 ℓ\ell、全節 n−1n-1。 3s なら動径2・角0、3p なら動径1・角1、3d なら動径0・角2。 検算に使える。

ρ\rho の定義を必ず戻す

答えを ρ\rho のまま書くと「rr を a0a_0 で表せ」に答えたことにならない。 r=3a02ρr=\frac{3a_0}{2}\rho の変換を明示する。

節と存在確率

節では確率密度が厳密に 00 になる。 一方、動径分布関数 4πr2∣ψ∣24\pi r^{2}|\psi|^{2} は 3sでは3つの極大をもち、内側のピークが原子核近傍への侵入 (貫入効果)に対応する。

貫入効果と軌道エネルギー

節が多いほど内殻に侵入しやすく、 同じ nn でも s<p<d<fs<p<d<f の順にエネルギーが低くなる。 多電子原子の軌道順序の起源である。

(3) 反応次数と速度定数

初速度法

初速度どうしの比をとれば kk が消え、次数だけが残る。 2点あれば次数が決まる。

単位の換算を忘れない

mmol dm−3\mathrm{mmol\,dm^{-3}} は 10−3 mol dm−310^{-3}\ \mathrm{mol\,dm^{-3}}。 v0v_0 の単位は mol dm−3 s−1\mathrm{mol\,dm^{-3}\,s^{-1}} なので、 kk の単位は dm3 mol−1 s−1\mathrm{dm^{3}\,mol^{-1}\,s^{-1}} になる。

kk の単位で次数を検算

nn 次なら kk の単位は (mol dm−3)1−ns−1(\mathrm{mol\,dm^{-3}})^{1-n}\mathrm s^{-1}。 2次なら dm3 mol−1 s−1\mathrm{dm^{3}\,mol^{-1}\,s^{-1}} で、上の結果と合う。

両方のデータで検算する

求めた kk をもう一方のデータに入れて一致を確認する。 答案に書けば次数の判定根拠が強まる。

2次反応の積分形

1/[A]=1/[A]0+kt1/[\ce{A}]=1/[\ce{A}]_0+kt。 1/[A]1/[\ce{A}] 対 tt が直線になることでも次数を確認できる。 半減期が初濃度に反比例する点も特徴である。

解答

定圧熱容量 定圧条件で加えた熱はエンタルピー変化に等しい(qp=ΔHq_p=\Delta H)。 Cp,m=qpn ΔT=109 J1.50 mol×3.50 K=1095.25=20.8 J K−1 mol−1 C_{p,\mathrm m}=\frac{q_p}{n\,\Delta T} =\frac{109\ \mathrm J}{1.50\ \mathrm{mol}\times3.50\ \mathrm K} =\frac{109}{5.25} =20.8\ \mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}

定容熱容量 完全気体では Mayer の関係 Cp,m−CV,m=R C_{p,\mathrm m}-C_{V,\mathrm m}=R が成り立つ。 CV,m=20.8−8.31=12.5 J K−1 mol−1 C_{V,\mathrm m}=20.8-8.31=12.5\ \mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}

(12.5≃32R=12.4712.5\simeq\frac32R=12.47 なので、 この気体は単原子分子の完全気体とみてよい。 実際 Cp,m=52R=20.8C_{p,\mathrm m}=\frac52R=20.8 と一致する。)

ψ3s=N1a03 (6−6ρ+ρ2) e−ρ/2,ρ=23a0r \psi_{3s}=N\sqrt{\frac{1}{a_0^{3}}}\,(6-6\rho+\rho^{2})\,e^{-\rho/2}, \qquad \rho=\frac{2}{3a_0}r

e−ρ/2e^{-\rho/2} は有限の rr で 00 にならないので、 ψ3s=0\psi_{3s}=0 となるのは多項式部分がゼロのときだけである。 ρ2−6ρ+6=0 \rho^{2}-6\rho+6=0 ρ=6±36−242=6±232=3±3 \rho=\frac{6\pm\sqrt{36-24}}{2}=\frac{6\pm2\sqrt3}{2}=3\pm\sqrt3

ρ=2r3a0\rho=\dfrac{2r}{3a_0} より r=3a02ρr=\dfrac{3a_0}{2}\rho だから r=3a02 (3±3)=3(3±3)2 a0 r=\frac{3a_0}{2}\,(3\pm\sqrt3)=\frac{3(3\pm\sqrt3)}{2}\,a_0

数値では(3=1.73\sqrt3=1.73) r1=3(3−1.73)2a0=1.90 a0,r2=3(3+1.73)2a0=7.10 a0 r_1=\frac{3(3-1.73)}{2}a_0=1.90\,a_0, \qquad r_2=\frac{3(3+1.73)}{2}a_0=7.10\,a_0

3s軌道の動径節は2個であり、 これは一般式「動径節の数 =n−ℓ−1=3−0−1=2=n-\ell-1=3-0-1=2」と一致する。

速度式を v0=k[A]0 nv_0=k[\ce{A}]_0^{\,n} とおく。 2組のデータの比をとると kk が消える。 v0(2)v0(1)=([A]0(2)[A]0(1))n \frac{v_0(2)}{v_0(1)}=\left(\frac{[\ce{A}]_0(2)}{[\ce{A}]_0(1)}\right)^{n} 32×10−70.9×10−7=(152.5)n⟹35.6=6.0 n \frac{32\times10^{-7}}{0.9\times10^{-7}} =\left(\frac{15}{2.5}\right)^{n} \quad\Longrightarrow\quad 35.6=6.0^{\,n}

対数をとると n=log⁡35.6log⁡6.0=log⁡36log⁡6=2log⁡6log⁡6=2 n=\frac{\log 35.6}{\log 6.0} =\frac{\log 36}{\log 6} =\frac{2\log6}{\log6}=2 (log⁡36=2log⁡6=2(log⁡2.0+log⁡3.0)=2(0.30+0.48)=1.56\log36=2\log6=2(\log2.0+\log3.0)=2(0.30+0.48)=1.56、 log⁡6.0=0.78\log6.0=0.78。35.6≃3635.6\simeq36 とみてよい。)

よって2次反応である。

速度定数 [A]0=2.5 mmol dm−3=2.5×10−3 mol dm−3[\ce{A}]_0=2.5\ \mathrm{mmol\,dm^{-3}}=2.5\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,dm^{-3}} で k=v0[A]02=0.9×10−7(2.5×10−3)2=0.9×10−76.25×10−6=1.4×10−2 dm3 mol−1 s−1 k=\frac{v_0}{[\ce{A}]_0^{2}} =\frac{0.9\times10^{-7}}{(2.5\times10^{-3})^{2}} =\frac{0.9\times10^{-7}}{6.25\times10^{-6}} =1.4\times10^{-2}\ \mathrm{dm^{3}\,mol^{-1}\,s^{-1}}

もう一方でも k=32×10−7(1.5×10−2)2=3.2×10−62.25×10−4=1.4×10−2 k=\frac{32\times10^{-7}}{(1.5\times10^{-2})^{2}} =\frac{3.2\times10^{-6}}{2.25\times10^{-4}} =1.4\times10^{-2} と一致し、2次の仮定が妥当であることが確認できる。

最終答

Cp,m=20.8 J K−1 mol−1C_{p,\mathrm m}=20.8\ \mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}、 CV,m=12.5 J K−1 mol−1C_{V,\mathrm m}=12.5\ \mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}}。 (それぞれ 52R\frac52R、32R\frac32R にほぼ等しく、単原子完全気体に対応する。)

r=3(3−3)2a0≃1.90 a0r=\dfrac{3(3-\sqrt3)}{2}a_0\simeq1.90\,a_0 と r=3(3+3)2a0≃7.10 a0r=\dfrac{3(3+\sqrt3)}{2}a_0\simeq7.10\,a_0 の2か所。 (6−6ρ+ρ2=06-6\rho+\rho^{2}=0 より ρ=3±3\rho=3\pm\sqrt3、r=3a02ρr=\frac{3a_0}{2}\rho。)

2次反応(v=k[A]2v=k[\ce{A}]^{2})、 k=1.4×10−2 dm3 mol−1 s−1k=\mathbf{1.4\times10^{-2}\ dm^{3}\,mol^{-1}\,s^{-1}}。

第2問 — ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー

「相対か絶対か」が答えの核

ポーリングは差しか決まらない相対尺度、 マリケンは単独の原子について値が決まる絶対尺度。 この一点を明記すれば骨格ができる。

マリケンは混成状態に依存

spsp 炭素は sp3sp^{3} 炭素より II が大きく χM\chi_{\mathrm M} も大きい。 アルキンのC--H が酸性である理由の説明に使える。

他の定義

オールレッド--ロコウ(有効核電荷と共有結合半径から χ=0.359Zeff/r2+0.744\chi=0.359Z_{\rm eff}/r^{2}+0.744)、 サンダーソン(電子密度)、アレン(価電子の平均イオン化エネルギー)。 定義が複数あることは、電気陰性度が経験的概念であることを示している。

ポーリングは幾何平均も使う

Δ\Delta を算術平均でなく幾何平均で定義する流儀もある。 どちらでも本質は変わらないが、使った式を明記する。

(2) BFX3\ce{BF3} が BClX3\ce{BCl3} より弱いルイス酸である理由

σ\sigma効果とπ\pi効果を分けて論じる

「誘起効果ではFが有利だが、π\pi供与がそれを上回る」という 2段構えで書くと説得力がある。

結合長が短いことが証拠

B−F\ce{B-F} の結合長 130 pm130\ \mathrm{pm} は 単結合の共有結合半径の和(約 152 pm152\ \mathrm{pm})よりかなり短く、 π\pi結合の存在を裏づける。

同じ論理が使える例

SiFX4\ce{SiF4} や AlFX3\ce{AlF3} の安定性、 (HX3Si)X3N\ce{(H3Si)3N} が平面(N→Si\ce{N}\to\ce{Si} の π\pi供与)である一方 (HX3C)X3N\ce{(H3C)3N} がピラミッド形であること。

ピラミッド化エネルギー

BFX3→\ce{BF3}\to 四面体形への変形に要するエネルギーは BClX3\ce{BCl3} の場合より 50 kJ mol−150\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} ほど大きいと見積もられている。 数値を添えると説得力が増す。

BFX3⋅OEtX2\ce{BF3\cdot OEt2} が使われる理由

弱いルイス酸だからこそ扱いやすく、 穏やかな触媒として有機合成で汎用される。 実用面の帰結にも触れられる。

(3) 酸化還元反応の ΔG∘\Delta G^{\circ} と自発性

E∘E^{\circ} に係数を掛けない

半反応を5倍しても E∘E^{\circ} は変わらない(示強変数)。 掛かるのは nn のほうである。よくある誤り。

nn の数え方

釣り合った全反応で実際に移動する電子数。 本問は MnOX4X−\ce{MnO4-} 1個が5電子を受け取るので n=5n=5。

自発性は標準状態での話

実際の自発性は ΔG=ΔG∘+RTln⁡Q\Delta G=\Delta G^{\circ}+RT\ln Q で決まる。 HX+\ce{H+} 濃度が低ければ進みにくくなる。 一言添えると厳密になる。

HX+\ce{H+} の8乗が効く

QQ に [HX+]−8[\ce{H+}]^{-8} が入るため、 過マンガン酸滴定は強酸性で行う。 中性・塩基性では MnOX2\ce{MnO2} が生じて量論が変わる。

(4) SiOX2\ce{SiO2} の昇華エンタルピー

共通の中間状態を決める

Hessの法則では「どこを経由するか」を先に決める。 本問は気体状の原子(Si(g)+2O(g)\ce{Si(g)}+2\ce{O(g)})を共通点にとると、 与えられた4式がそのまま繋がる。

向きに注意

(d)は SiOX2(g)→\ce{SiO2(g)}\to 原子 の向きなので、 逆向きに使うときは符号を反転する。

値の意味

589 kJ mol−1589\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} は昇華エンタルピーとして非常に大きい。 石英が共有結合の三次元網目構造をもち、 気化には多数の Si−O\ce{Si-O} 結合を切る必要があるためである。 (分子性結晶の昇華熱は数十 kJ mol−1\mathrm{kJ\,mol^{-1}} にすぎない。)

結合エネルギーとの整合

(d)の 1272 kJ mol−11272\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} を Si=O\ce{Si=O} 2本で割ると 636 kJ mol−1636\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}。 気相 SiOX2\ce{SiO2} 分子の結合が二重結合性をもつことと整合する。

図で示すと確実

エンタルピー準位図(Born--Haber型のサイクル)を描けば、 符号の誤りが一目で防げる。

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第3問 — ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成

Markovnikov則の本質

「水素の多い炭素にHが付く」という覚え方ではなく、 より安定なカルボカチオンを与える向きで考える。 本問は水素の数だけでは判断できない例である。

ベンジルカチオンの安定性

第三級カチオンと同程度かそれ以上。 共鳴構造を実際に書いて示すと得点になる。

ラセミ化を明記

不斉炭素が生じる付加では立体化学に触れる。 「平面カチオンの両面攻撃」がキーワード。

(E)(E) 体という情報

イオン機構では平面カチオンを経るので、 出発物の E/ZE/Z は生成物に反映されない。 この点に触れると理解の深さが伝わる。

(2) 4-フェニルブタノイル クロリドと AlClX3\ce{AlCl3}

アシル化はアルキル化より扱いやすい

アシリウムは共鳴安定化されて転位せず、 生成したケトンは環を不活性化するので多置換が起こらない。 アルキル化の2つの欠点を回避できる。

AlClX3\ce{AlCl3} は触媒量では足りない

生成ケトンの酸素が AlClX3\ce{AlCl3} を捕まえるため、 1当量以上を用いる。この点を書けると差がつく。

環サイズの選択性

5員環・6員環の形成は速いが、 4員環や中員環(8〜11員)は非常に遅い。 炭素数を数えて環サイズを確認する習慣をつける。

テトラロンの用途

還元・脱水すればジヒドロナフタレン、 さらに芳香族化すればナフタレン誘導体になる。 多環化合物合成の定番中間体である。

(3) 1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンとピロリジン

F\ce{F} が最良の脱離基

SXNAr\ce{S_NAr} では付加が律速なので、 Fの強い誘起的電子求引が炭素を活性化して有利になる。 反応性は F≫Cl>Br>I\ce{F}\gg\ce{Cl}>\ce{Br}>\ce{I} で、 SXN2\ce{S_N2} と正反対である。

Sangerの試薬

1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)は、 ペプチドのN末端アミノ酸を標識する Sanger 試薬として有名。 本問の反応そのものである。

矢印はニトロ基の酸素まで

負電荷が最終的に乗るのはニトロ基の酸素。 炭素で止めず酸素まで書くと安定化の理由が明確になる。

アミンは2当量

生成するアンモニウム塩の中和に1当量消費される。 塩基(KX2COX3\ce{K2CO3} など)を別に加える方法もある。

(4) ベンジルトリフェニルホスホニウム塩と NaH、シクロヘキサノン

Wittigの利点

アルコールの脱水と違い、二重結合の位置が確実に決まる。 カルボニル炭素がそのままアルケン炭素になるので、 逆合成が容易である。

駆動力は P=O\ce{P=O}

リンと酸素の強い親和性がこの反応を不可逆にしている。 必ず言及する。

安定イリドと非安定イリド

共役でイリド炭素が安定化されている(エステル、アリール)→\to 安定イリド、EE 選択。 アルキル置換のみ →\to 非安定イリド、ZZ 選択。 使う塩基も前者は NaOH\ce{NaOH}、NaH\ce{NaH}、後者は nn-BuLi など強塩基。

ホスホニウム塩の調製

PhX3P\ce{Ph3P} とハロゲン化ベンジルの SXN2\ce{S_N2} 反応で得る。 出発物の由来まで書けると流れが繋がる。

Horner--Wadsworth--Emmons反応

ホスホナートを使う変法で、 副生成物が水溶性のリン酸エステルとなり分離が容易。 EE 選択性も高い。関連知識として有用である。

(5) THP保護 →\to Williamsonエーテル合成 →\to 脱保護

THP保護の特徴

酸で付き、酸で外れる。塩基・求核剤・有機金属試薬に安定。 反応が可逆なので、脱保護は過剰の水で平衡を偏らせて行う。

新しい不斉中心

THPのアセタール炭素は不斉炭素になるので、 基質が光学活性ならジアステレオマー混合物が生じる。 NMRが複雑になる欠点として知られる。

位置選択的プロトン化

DHPへの HX+\ce{H+} の付加は、 オキソカルベニウムを与える向き(Markovnikov的)に進む。 機構を書くときこの点を明示する。

Williamsonは SXN2\ce{S_N2}

第一級・第二級ハロゲン化物に限られる。 第三級では E2 が優先してアルケンになる。 本問は第一級なので問題ない。

フェノキシドの調製

フェノール(pKa 10\mathrm{p}K_a\ 10)は NaOH\ce{NaOH} で完全に脱プロトン化できる。 アルコール(1616)との酸性度の差が、 保護が必要な理由の一つでもある。

保護基戦略

「反応させたくない官能基を一時的に隠す」という考え方は 多段階合成の基本。 本問はその最小の実例になっている。

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第4問 — 弱酸の中和滴定:滴定率0\%・100\%・80\%のpHと緩衝能

弱酸単独の公式

[HX+]=KaC[\ce{H+}]=\sqrt{K_aC}、すなわち pH=12(pKa−log⁡C)\mathrm{pH}=\frac12(\mathrm{p}K_a-\log C)。 本問なら 12(5.0+1.0)=3.0\frac12(5.0+1.0)=3.0 と暗算できる。

近似の確認を書く

x≪Cx\ll C の確認(5\%以内)を一言添えると答案が締まる。 KaCK_aC が 10−810^{-8} より小さいときは水の解離も考える必要がある。

解離度

α=x/C=1.0%\alpha=x/C=1.0\%。 希釈すると α\alpha は増えるが [HX+][\ce{H+}] は減る(Ostwaldの希釈律)。

(2) 滴定率 100\%(当量点)

希釈を必ず入れる

NaOH\ce{NaOH} を 50 mL50\ \mathrm{mL} 加えるので体積は2倍、濃度は半分。 0.100.10 のまま計算すると pH=9.0\mathrm{pH}=9.0 となり誤り。

当量点は中性ではない

弱酸++強塩基の当量点は塩基性(pH>7\mathrm{pH}>7)。 指示薬はフェノールフタレイン(変色域 8.08.0〜9.89.8)を選ぶ。 メチルオレンジでは早く変色してしまう。

公式形

pH=7+12(pKa+log⁡C)=7+12(5.0−1.30)=8.85\mathrm{pH}=7+\frac12(\mathrm{p}K_a+\log C)=7+\frac12(5.0-1.30)=8.85。 検算に使える。

与えられた数値を使う

5.0=2.24\sqrt{5.0}=2.24、10=3.16\sqrt{10}=3.16、log⁡7.0=0.85\log7.0=0.85。 出題者が用意した経路をたどると計算が軽い。

(3) 滴定率 80\%(緩衝域)

緩衝域では体積が効かない

比 [AX−]/[HA][\ce{A-}]/[\ce{HA}] をとると体積が約分される。 物質量の比だけで決まるので計算が最も軽い点である。

半当量点

滴定率 50%50\% では [AX−]=[HA][\ce{A-}]=[\ce{HA}] となり pH=pKa\mathrm{pH}=\mathrm{p}K_a。 pKa\mathrm{p}K_a の実験的決定法として重要。

緩衝域の目安

pKa±1\mathrm{p}K_a\pm1、すなわち滴定率 9%9\%〜91%91\% の範囲。 本問の 80%80\% はまだ緩衝域の内側である。

活量の扱い

厳密には pKa\mathrm{p}K_a は活量に基づく。 イオン強度が高い系では補正が要る。 本問は濃度で扱う近似であることを一言添えると丁寧。

(4) 滴定率 80\% における緩衝能

β\beta は半当量点で最大

αHAαAX−\alpha_{\ce{HA}}\alpha_{\ce{A-}} は α=0.5\alpha=0.5 で最大値 0.250.25 をとる。 そのとき β=0.576 CT\beta=0.576\,C_{\mathrm T}。 本問の 80%80\%(積 0.160.16)では最大値の 64%64\% である。

CTC_{\mathrm T} に比例

濃い緩衝液ほど緩衝能が高い。 実験で緩衝液を薄めると pH は変わらないが 緩衝能は下がることに注意する。

2.3032.303 の由来

dpH=−dlog⁡[HX+]=−dln⁡[HX+]/2.303\mathrm d\mathrm{pH}=-\mathrm d\log[\ce{H+}]=-\mathrm d\ln[\ce{H+}]/2.303。 自然対数から常用対数への換算係数である。

希釈の扱いを明記する

滴定中は体積が増えるので CTC_{\mathrm T} が変わる。 どちらの前提で計算したかを書けば、 採点者に判断過程が伝わる。

滴定曲線との対応

β\beta が大きいところは滴定曲線が緩やか、 当量点付近は β\beta が小さく急峻になる。 両者は逆数の関係にある。

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第5問 — COの換算質量と振動吸収波数・同位体置換によりヘム鉄への結合原子を決める分光実験

換算質量の意味

2体問題を、質量 μ\mu の1粒子が固定された中心のまわりで振動する 1体問題に置き換えるための量である。

極限を確認する

mB→∞m_{\mathrm B}\to\infty なら μ→mA\mu\to m_{\mathrm A}。 「重い原子が固定されると、軽いほうの質量だけが効く」。 この極限が(3)でそのまま使われる。

同種原子なら m/2m/2

HX2\ce{H2} なら μ=mH/2\mu=m_{\mathrm H}/2。 式に代入して確かめておく。

(2) 振動の吸収波数

ν~∝μ−1/2\tilde\nu\propto\mu^{-1/2}

本問全体の鍵。 換算質量が大きいほど波数は小さくなる(低波数側にずれる)。

単位の断りを書く

「cc を cm s−1\mathrm{cm\,s^{-1}} でとる」と一言添えると、 cm−1\mathrm{cm^{-1}} を要求されたことに正しく答えたことになる。

実測値

気相の CO\ce{CO} は 2143 cm−12143\ \mathrm{cm^{-1}}、kf=1902 N m−1k_{\mathrm f}=1902\ \mathrm{N\,m^{-1}}。 三重結合性の強さを反映して非常に大きい。

非調和性

実際には非調和で、ν~0→1\tilde\nu_{0\to1} は 調和振動子の値よりわずかに小さい。 本問は調和近似で扱う。

(3) 結合している原子を決める分光実験

「動かない原子は μ\mu に効かない」

本問の核心。 (1)の μ\mu の式で片方を ∞\infty にする操作を明示的に書くと、 論理が一直線に通る。

kfk_{\mathrm f} 不変の仮定を使う

問題文に「同位体置換による kfk_{\mathrm f} の変化はない」とある。 これがあるからこそ波数差を μ\mu だけに帰せる。 根拠として引用する。

実際のミオグロビンはC結合

Fe−C≡O\ce{Fe-C#O} で結合し、CO\ce{CO} 伸縮は 1945 cm−11945\ \mathrm{cm^{-1}} 付近に現れる。 遊離 CO\ce{CO} の 2143 cm−12143\ \mathrm{cm^{-1}} より低いのは、 Feの dπd\pi から CO\ce{CO} の π∗\pi^{*} への逆供与で C−O\ce{C-O} 結合が弱まるためである。

現実の系ではどちらも少し動く

実際には結合原子も有限の質量のFeに繋がっているので、 「動かないほうの同位体置換」でも小さなシフトが出る。 本問はそれを無視する理想化であることを一言添えると誠実である。

測定手段

ヘムタンパク質では共鳴ラマンが有効で、 Soret帯励起によりヘム由来の振動が選択的に増強される。 赤外では水の吸収が邪魔になるので差スペクトル法を使う。

生理的意義

CO\ce{CO} は OX2\ce{O2} より 200200 倍以上強くヘム鉄に結合する。 結合様式の解明は一酸化炭素中毒の理解に直結する。

COの換算質量と振動吸収波数・同位体置換によりヘム鉄への結合原子を決める分光実験の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 窒素原子の2s・2p電子配置・CとNの電子親和力の違い・N_2とO_2のイオン化に伴う結合距離変化・β-カロテンの吸収・原子価結合法によるH_2の波動関数

3つの規則を明示する

構成原理(低いものから)、Pauliの排他原理(1軌道2電子・逆スピン)、 Hundの規則(縮退軌道では平行スピンで分散)。 名前を挙げて使うと採点で拾われやすい。

Hundの規則の物理的理由

(a) 別々の軌道に入れば電子間のクーロン反発が小さい。 (b) 平行スピンの電子どうしは交換相互作用で安定化される。 両方書ければ完璧である。

2s<2p2s<2p の理由

貫入と遮蔽。水素様原子(1電子系)では 2s2s と 2p2p は縮退しており、 分裂は多電子効果である。

半閉殻

2p32p^{3} は半閉殻で、球対称かつ交換安定化が最大。 次の(2)につながる重要な性質である。

(2) 炭素と窒素の電子親和力

2つの理由をそろえる

(a) 対生成に伴う電子間反発、(b) 半閉殻の安定性。 どちらか一方だけでも部分点だが、両方書くのが望ましい。

周期表の例外

第15族(N、P、As)の電子親和力はいずれも隣より小さい。 第2族(Be、Mg)と第18族が負なのは閉殻のため。 「例外は半閉殻・閉殻」と覚える。

Oが第2周期最大でない理由

Oの電子親和力(1.46 eV1.46\ \mathrm{eV})はFの 3.40 eV3.40\ \mathrm{eV} より小さいが、 実は第2周期の 2p2p 軌道は小さく電子密度が高いため、 Fの電子親和力はClの 3.61 eV3.61\ \mathrm{eV} より小さい。 同じ「電子間反発」の論理である。

符号の約束

本問は「放出するエネルギーを正」とする慣用に従っている。 ΔH\Delta H で表す流儀では符号が逆になるので、 どちらで答えているか明示すると誤解がない。

(3) NX2\ce{N2} と OX2\ce{O2} のイオン化に伴う結合距離の変化

結合次数を数値で示す

3→2.53\to2.5、2→2.52\to2.5。 どちらも NX2X+\ce{N2+}、OX2X+\ce{O2+} で 2.52.5 となり、 結合長がともに 111.6 pm111.6\ \mathrm{pm} でほぼ一致するのは印象的である。

ss--pp 混成による順序の逆転

LiX2\ce{Li2}〜NX2\ce{N2}:π2p<σ2p\pi_{2p}<\sigma_{2p}、 OX2\ce{O2}、FX2\ce{F2}:σ2p<π2p\sigma_{2p}<\pi_{2p}。 NX2\ce{N2} のHOMOが σ\sigma であることは光電子分光で確認されている。

振動数でも確認できる

NX2\ce{N2}:2359→2207 cm−12359\to2207\ \mathrm{cm^{-1}}(減少)、 OX2\ce{O2}:1580→1905 cm−11580\to1905\ \mathrm{cm^{-1}}(増加)。 結合の強弱と対応する。

同じ論理の応用

NO\ce{NO}(π∗\pi^{*} に1電子)はイオン化で結合次数 2.5→32.5\to3 となり縮む。 NOX+\ce{NO+} が安定なのはこのためである。

(4) β\beta-カロテンの吸収が長波長側に現れる理由

1/L21/L^{2} でなく 1/L1/L

準位間隔そのものは 1/L21/L^{2} だが、 電子数も LL に比例して増えるので、HOMO--LUMO間隔は 1/L1/L になる。 この2段階を書けると差がつく。

π\pi電子数の数え方

共役二重結合1個あたりπ\pi電子2個。 β\beta-カロテンは11個の共役二重結合で N=22N=22、HOMOは n=11n=11、LUMOは n=12n=12。

見える色は補色

450 nm450\ \mathrm{nm}(青)を吸収すると、 補色である橙〜黄が見える。 ニンジンやトマト(リコピン、共役11個)の色の起源である。

モデルの限界

実際のπ\pi電子は結合交替による周期ポテンシャルを感じるので、 L→∞L\to\infty でも ΔE\Delta E はゼロにならず有限値に収束する。 一言添えると理解の深さが伝わる。

シアニン色素

鎖長を1つずつ変えると吸収が規則的にずれるため、 箱の中の粒子モデルの検証によく使われる。

(5) 原子価結合法による HX2\ce{H2} の波動関数

交換項が結合の源

第1項だけでは結合は生じない。 第2項(交換項)を書くことが本問の要求である。 理由を一言添える。

符号と多重度

++ なら空間対称・スピン反対称(一重項、結合性)、 −- なら空間反対称・スピン対称(三重項、反結合性)。 全体が反対称でなければならないというPauliの要請から決まる。

イオン項を加えると精度が上がる

Ψ=Ψ共有+λΨイオン\Psi=\Psi_{\text{共有}}+\lambda\Psi_{\text{イオン}}、 Ψイオン=φA(1)φA(2)+φB(1)φB(2)\Psi_{\text{イオン}}=\varphi_{\mathrm A}(1)\varphi_{\mathrm A}(2)+\varphi_{\mathrm B}(1)\varphi_{\mathrm B}(2)。 これをイオン--共有共鳴という。

MO法との関係

MO法の σ2\sigma^{2} 配置を展開すると共有項とイオン項が等重率で現れる。 そのためMO法は解離極限で誤り、VB法は結合領域で不足する。 両者はCI(配置間相互作用)を入れると一致する。

VB法の利点

共鳴、混成、局在結合といった化学者の直観的な描像と親和性が高い。 Paulingの共鳴理論はこの延長線上にある。

窒素原子の2s・2p電子配置・CとNの電子親和力の違い・N_2とO_2のイオン化に伴う結合距離変化・β-カロテンの吸収・原子価結合法によるH_2の波動関数の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — K_3[Co(ox)_3]の命名と光学異性・分光化学系列と吸収波長・高スピンとd軌道配置・八面体と四面体のλ_maxとε・置換不活性の理由

錯陰イオンは「〜酸」

中心金属を含むイオンが陰イオンなら「〜酸塩」と命名する。 KX3[Fe(CN)X6]\ce{K3[Fe(CN)6]}:ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム。 陽イオンなら「〜イオン」。

ox は二座

ox2−\mathrm{ox}^{2-} 3個で6配位。 「オキサラト」は「オキサラト」であって「シュウ酸」ではない (配位子名として書く)。

Δ\Delta と Λ\Lambda

らせんの巻き方で決める。 図を添えると確実に伝わる。

Wernerの功績

[Co(en)X3]X3+\ce{[Co(en)3]^3+} の光学分割によって 六配位が正八面体であることを証明した。 本問の錯体はその系譜にある。

ラセミ化

[Co(ox)X3]X3−\ce{[Co(ox)3]^3-} は光や熱でラセミ化しうる (Co--O結合の解離を伴う)。 [Co(en)X3]X3+\ce{[Co(en)3]^3+} よりは不安定である。

(2) dd--dd 遷移がより長波長側に現れる錯体

Δ\Delta が小さい →\to 長波長

エネルギーと波長は反比例。 「弱い配位子場 →\to 小さい Δ\Delta →\to 長波長」の連鎖を明示する。

比較条件をそろえる

金属・酸化数・配位数が同じであることを確認してから 配位子だけを比べる。 条件が違えば系列だけでは判断できない。

Δo\Delta_{\mathrm o} を決める3因子

(a) 配位子の場の強さ(分光化学系列)、 (b) 金属の酸化数(高いほど大)、 (c) 周期(3d<4d<5d3d<4d<5d)。

見える色は補色

600 nm600\ \mathrm{nm}(橙)を吸収すれば緑〜青緑に、 470 nm470\ \mathrm{nm}(青)を吸収すれば橙黄に見える。 実際の色と対応づけると説得力が増す。

(3) 高スピン型をとる錯体と 3d3d 電子配置

高スピン/低スピンの判定

Δo\Delta_{\mathrm o} と対生成エネルギー PP の大小。 Δo<P\Delta_{\mathrm o}<P なら高スピン、Δo>P\Delta_{\mathrm o}>P なら低スピン。 d4d^{4}〜d7d^{7} でのみ両方があり得る。

酸化数の効果が大きい

同じ配位子でも [Co(OHX2)X6]X2+\ce{[Co(OH2)6]^2+} は高スピン、 [Co(OHX2)X6]X3+\ce{[Co(OH2)6]^3+} は低スピンである。 電荷が高いと配位子を強く引きつけ Δo\Delta_{\mathrm o} が増す。

Co(III)は低スピンの代表

t2g6t_{2g}^{6} は LFSE =2.4Δo=2.4\Delta_{\mathrm o} で最大。 Wernerが扱った多数のCo(III)錯体が安定なのはこのためで、 (5)の置換不活性にも直結する。

磁気モーメントで検証

[Co(OHX2)X6]X2+\ce{[Co(OH2)6]^2+} の実測 μ\mu は 4.74.7〜5.2 μB5.2\ \mu_{\mathrm B}。 スピンのみの 3.93.9 より大きいのは軌道角運動量の寄与による。 [Co(NHX3)X6]X3+\ce{[Co(NH3)6]^3+} は μ=0\mu=0 で反磁性である。

(4) 八面体型と四面体型の吸収の比較

4/94/9 の内訳

配位子数の比 4/6=2/34/6=2/3 と、 軌道の向きによる重なりの悪さ 2/32/3 の積。 理由を2つに分けて書くと説得力がある。

TdT_d には ee が下、t2t_2 が上

八面体と逆の順序になる。 Δt\Delta_{\mathrm t} が小さいので四面体錯体は常に高スピンである。

ε\varepsilon の目安

OhO_h の dd--dd:11〜5050。 TdT_d の dd--dd:100100〜10001000。 電荷移動:10310^{3}〜10510^{5}。 本問の 5.05.0 と 570570 はこの目安に見事に合う。

色の濃さで判別できる

[Co(OHX2)X6]X2+\ce{[Co(OH2)6]^2+}(淡桃)と [CoClX4]X2−\ce{[CoCl4]^2-}(濃青)の色の濃さの違いは まさにLaporte則の帰結である。 塩化コバルト水溶液に濃塩酸を加えると青くなる実験がその例。

スピン選択則も忘れない

ΔS≠0\Delta S\neq0 の遷移はさらに禁制で、 高スピン d5d^{5} の [Mn(OHX2)X6]X2+\ce{[Mn(OH2)6]^2+} は ε<1\varepsilon<1 とほとんど無色になる。

(5) [Co(NHX3)X5(OHX2)]X3+\ce{[Co(NH3)5(OH2)]^3+} が置換不活性である理由

「安定」と「不活性」を区別する

熱力学的安定性(平衡定数)と速度論的不活性(速度定数)は別物。 本問は速度の話であることを明示する。

置換不活性な配置

d3d^{3}(CrX3+\ce{Cr^3+})と低スピン d6d^{6}(CoX3+\ce{Co^3+}、RhX3+\ce{Rh^3+}、PtX4+\ce{Pt^4+})が代表。 t2gt_{2g} が半分または完全に埋まり ege_g が空という共通点をもつ。

ege_g は σ\sigma反結合性

ege_g に電子が入ると金属--配位子結合が弱まる。 高スピン錯体が置換活性な直接の理由である。

LFAEという概念

基底状態と遷移状態のLFSEの差。 d3d^{3} と低スピン d6d^{6} で最大になり、 不活性錯体の分布をよく説明する。

Wernerの化学が成立した理由

Co(III)錯体が置換不活性で、 異性体を単離して構造を議論できたからこそ配位化学が確立した。 本問の性質は歴史的にも重要である。

シスプラチンとの関連

[Pt(NHX3)X2ClX2]\ce{[Pt(NH3)2Cl2]}(d8d^{8} 平面正方形)も置換不活性で、 そのゆっくりした加水分解速度が薬効の鍵になっている。

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第8問 — S_N1反応性の序列とカチオンの安定性・ブロモニウムイオンを経るアンチ付加とmCPBAのシン付加・カチオン重合における分子内Friedel--Crafts型連鎖移動

SXN1\ce{S_N1} は中間体の安定性がすべて

基質の立体障害はむしろ有利に働く(SXN2\ce{S_N2} とは逆)。 「律速段階=カチオン生成」を最初に書く。

α\alpha-ハロエーテルの特異な反応性

ROCHX2Cl\ce{ROCH2Cl} は塩化ベンジルよりはるかに SXN1\ce{S_N1} が速い。 MOMクロリドなどが保護基導入剤として使われる理由でもある。

置換基効果は Hammett で定量化

SXN1\ce{S_N1} では ρ<0\rho<0(電子供与基が加速)。 pp-NOX2\ce{NO2} の σ+\sigma^{+} は大きな正値で、大幅な減速に対応する。

共鳴構造を書いて示す

2 について「正電荷が NOX2\ce{NO2} の付いた炭素に来る構造」を実際に描くと、 不安定化の理由が一目で伝わる。

メタ置換なら効果は小さい

メタ位のニトロ基では、正電荷がその炭素に来る共鳴構造がないので 誘起効果だけが働き、減速は緩やかになる。 位置の違いに触れると深い。

(2)① シクロペンテンと BrX2\ce{Br2}

ブロモニウムイオンが立体化学の鍵

開いたカルボカチオンなら回転が起こりシス/トランス混合物になる。 三員環中間体を書くことがアンチ付加の説明そのものである。

アンチ付加の証拠

シクロヘキセンからは trans-1,2-ジブロモシクロヘキサンのみ、 (E)(E)- と (Z)(Z)-2-ブテンからは別々のジアステレオマーが得られる (立体特異的)。

ラセミ体になる理由を明記

「基質が平面でアキラルだから、両面攻撃で鏡像が等量できる」。 出題が「エナンチオマーも示せ」と求めているので必ず書く。

ハロヒドリンとの関係

水中で行うと HX2O\ce{H2O} がブロモニウムを開環し、 アンチのブロモヒドリンが得られる。 求核剤が置換基の多い炭素を攻撃する点も特徴的である。

(2)② (E)(E)-2-ブテンと mCPBA

①との対比が主眼

BrX2\ce{Br2}:三員環イオン中間体 →\to 背面攻撃 →\to アンチ付加。 mCPBA:協奏的一段階 →\to シン付加。 「中間体を経るか、協奏か」が立体化学を分ける。

メソ体かラセミ体かを判定する

trans-2,3-ジメチルオキシランは C2C_2 軸のみでキラル、 cis 体は鏡映面をもちメソ。 出題が「エナンチオマーも示せ」としているのは、 この判定を要求している。

電子豊富なアルケンほど速い

求電子的エポキシ化なので、 四置換 >> 三置換 >> 二置換 >> 一置換の順に速い。 分子内に複数のアルケンがあるとき、選択性の予測に使える。

その先の変換

エポキシドを酸/塩基で開環すると、 アンチのジオールやハロヒドリンが得られる。 OsOX4\ce{OsO4} を使えばシンジオールになる。 立体制御の道具として整理しておく。

Sharpless不斉エポキシ化

アリルアルコールに対しては チタン触媒と酒石酸エステルで一方のエナンチオマーを選択的に得られる。 2001年のノーベル化学賞の対象である。

(3) スチレンのカチオン重合における連鎖移動と末端構造

末端構造から機構を逆算する

「5員環+芳香環=インダン」に気づけるかどうかが分かれ目。 環の構成原子を成長末端から数えて確認する。

連鎖移動と停止の区別

停止:活性種が消失し重合速度が下がる。 連鎖移動:活性種が別の分子に移り、 速度は変わらず分子量だけ下がる。 この違いを明記する。

カチオン重合の特徴

成長種がカチオンなので、 求核的な不純物(水、アルコール、アミン)に敏感で、 連鎖移動が起こりやすい。 低温・無水条件が必須である。

他の連鎖移動

β\beta位からのプロトン脱離(末端に C=C\ce{C=C} が残る)、 単量体のフェニル基への攻撃なども起こる。 インダン末端はそのうち代表的なものである。

リビングカチオン重合

ルイス酸と求核剤の組合せでカチオンをドーマント化すると、 連鎖移動を抑えて分子量分布の狭いポリマーが得られる。 現代的な解決策として触れられる。

S_N1反応性の序列とカチオンの安定性・ブロモニウムイオンを経るアンチ付加とmCPBAのシン付加・カチオン重合における分子内Friedel--Crafts型連鎖移動の途中式・最終答をPDFで見る

第9問 — Fe(OH)_2が沈殿し始めるpH・アンモニア中の銀の見かけ電位・均一沈殿法

2乗を忘れない

Fe(OH)X2\ce{Fe(OH)2} なので Ksp=[FeX2+][OHX−]2K_{sp}=[\ce{Fe^2+}][\ce{OH-}]^{2}。 平方根をとる操作を落とすと pH\mathrm{pH} が大きくずれる。

「沈殿が生じ始める」の意味

イオン積が KspK_{sp} にちょうど達する条件。 これより pH が高ければ沈殿する。

FeX3+\ce{Fe^3+} との違い

Fe(OH)X3\ce{Fe(OH)3} の KspK_{sp} は 10−3810^{-38} 程度で、 同じ濃度なら pH≃2\mathrm{pH}\simeq2 で沈殿し始める。 FeX2+\ce{Fe^2+} が空気酸化されると挙動が一変するので、 問題文が酸化を除外しているのはこのためである。

錯形成・加水分解は無視

実際には FeOHX+\ce{FeOH+} などの可溶種も存在するが、 本問は Fe(OH)X2\ce{Fe(OH)2} のみを考える近似である。 条件を確認して書くと丁寧。

(2) アンモニア溶液中の銀の見かけ電位

α0\alpha_0 の分母の作り方

「全種を [AgX+][\ce{Ag+}] でくくったときの係数の和」。 1+∑βn[L]n1+\sum\beta_n[\ce{L}]^{n} と覚える。 β1=Kf1\beta_1=K_{f1}、β2=Kf1Kf2\beta_2=K_{f1}K_{f2}。

見かけ電位の意味

「副反応(錯形成)を織り込み、 全濃度で書き直したときの標準電位」。 錯形成で AgX+\ce{Ag+} が減るので電位は下がる(酸化されやすくなる)。

0.32 V0.32\ \mathrm V 下がることの帰結

アンモニア中では銀がずっと還元力の強い状態になる。 アンモニア性硝酸銀(Tollens試薬)がアルデヒドを酸化して 銀鏡を生じるのは、この電位低下が効いている。

前問との共通構造

問題8(1)の AgCl\ce{AgCl} も同じ話である。 AgX+\ce{Ag+} を沈殿や錯体で取り除けば電位は下がる。 ΔE=0.0592log⁡α0\Delta E=0.0592\log\alpha_0 という一本の式で統一的に理解できる。

[NHX3][\ce{NH3}] は遊離濃度

厳密には錯形成で消費された分を引くべきだが、 NHX3\ce{NH3} が大過剰なので 0.100.10 のままとしてよい。 近似の根拠を書き添える。

(3) 均一沈殿法

von Weimarn の経験則

粒子の数は相対過飽和度 (Q−S)/S(Q-S)/S に比例する (QQ:瞬間濃度、SS:溶解度)。 QQ を下げる(ゆっくり加える、希薄にする)か SS を上げる(加熱、酸性下で沈殿させる)と粒子が大きくなる。 この式を挙げると理論的な裏づけになる。

具体例を必ず1つ書く

尿素の加水分解が最も有名。 反応式まで書けると印象がよい。

共沈の種類

表面吸着、吸蔵(閉じ込め)、混晶(同形置換)、機械的巻き込み。 粒子が大きいほど表面吸着と吸蔵が減る。

熟成(digestion)との違い

熟成は沈殿後に加熱して小粒子を溶かし大粒子を成長させる操作(Ostwald熟成)。 均一沈殿法は沈殿を生じさせる段階での工夫であり、両者は併用できる。

重量分析の要件

沈殿は(a)溶解度が十分小さく、(b)純度が高く、 (c)ろ過しやすく、(d)一定組成の化合物に変換できること。 均一沈殿法は(b)(c)を大きく改善する。

Fe(OH)_2が沈殿し始めるpH・アンモニア中の銀の見かけ電位・均一沈殿法の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度 夏季(2025年7月実施)(全8問)

    標準燃焼熱と標準生成熱・箱の中の粒子の規格化・2次反応の積分形 / 水素様原子と有効核電荷・I_3^+のルイス構造とVSEPR・体心立方格子の原子半径 / 反応機構4題:Dieckmann縮合・ラクトンへのGrignard反応・芳香族ニトロ化・Wittig反応とエポキシ化

  • 2026年度 春季(2026年2月実施)(全8問)

    蒸発エントロピー・sp^3混成軌道の直交性・1次反応の積分形 / 水素様原子の軌道エネルギー・XeF_4のルイス構造とVSEPR・岩塩型結晶の融点 / 反応機構5題:インドールのアシル化・セミピナコール転位・アルドール縮合・アミド化・E2脱離

  • 2025年度 夏季(2024年7月実施)(全8問)

    ファンデルワールス気体の等温可逆膨張の仕事・水素1s軌道の〈 r〉・多経路緩和の分岐比 / ルチル型TiO_2の構造とバンドギャップ・Δ_rG^°からの標準電極電位・HSAB則 / 反応機構5題:Markovnikov付加・ピロールのBoc化・Michael付加・Wittig反応・Storkエナミンアルキル化

  • 2025年度 春季(2025年2月実施)(全8問)

    理想気体の混合の自発性・殻の最大電子数 2n^2・多経路緩和の分岐比 / Slater則による有効核電荷・BF_3のVSEPR・逆蛍石型構造・Cu^+の不均化 / 反応機構5題:ピリジンのN-アルキル化・イミン生成・ラクトンへのGrignard・Markovnikov付加・Mannich反応

  • 2024年度 夏季(2023年7月実施)(このページ・全9問)

    定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決める / ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー / ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成

  • 2024年度 春季(2024年2月実施)(全8問)

    分圧を含む反応ギブズエネルギー・H_2とD_2の振動準位間隔・2次反応の初速度 / O_2の常磁性とMO・ポーリング則によるホスホン酸の構造・閃亜鉛鉱型構造・アルカリ金属水素化物の反応性 / 酸無水物の生成・活性メチンのアルキル化・S_NAr・ピナコール転位・分子内二重Friedel--Craftsアルキル化

2024年度 夏季(2023年7月実施)の出題内容

全9問
大問主題解説の小見出し最終答
第1問定圧熱容量と定容熱容量・水素原子3s軌道の節の位置・初速度から反応次数と速度定数を決めるC_p>C_V の理由 / Mayerの関係の導出あり
第2問ポーリングとマリケンの電気陰性度・BF_3がBCl_3より弱いルイス酸である理由・酸化還元反応のΔ G^°・Hessの法則によるSiO_2の昇華エンタルピー「相対か絶対か」が答えの核 / マリケンは混成状態に依存あり
第3問ベンジル位カチオンを経るMarkovnikov付加・分子内Friedel--Craftsアシル化・S_NAr・Wittig反応・THP保護とWilliamsonエーテル合成Markovnikov則の本質 / ベンジルカチオンの安定性あり
第4問滴定率0\%・100\%・80\%のpHと緩衝能弱酸単独の公式 / 近似の確認を書くあり
第5問COの換算質量と振動吸収波数・同位体置換によりヘム鉄への結合原子を決める分光実験換算質量の意味 / 極限を確認するあり
第6問窒素原子の2s・2p電子配置・CとNの電子親和力の違い・N_2とO_2のイオン化に伴う結合距離変化・β-カロテンの吸収・原子価結合法によるH_2の波動関数3つの規則を明示する / Hundの規則の物理的理由あり
第7問K_3[Co(ox)_3]の命名と光学異性・分光化学系列と吸収波長・高スピンとd軌道配置・八面体と四面体のλ_maxとε・置換不活性の理由錯陰イオンは「〜酸」 / ox は二座あり
第8問S_N1反応性の序列とカチオンの安定性・ブロモニウムイオンを経るアンチ付加とmCPBAのシン付加・カチオン重合における分子内Friedel--Crafts型連鎖移動S_N1 は中間体の安定性がすべて / α-ハロエーテルの特異な反応性あり
第9問Fe(OH)_2が沈殿し始めるpH・アンモニア中の銀の見かけ電位・均一沈殿法2乗を忘れない / 「沈殿が生じ始める」の意味あり

前年度(2024年度 春季(2024年2月実施))との違い

大問数
2024年度 春季(2024年2月実施) 8問 → 2024年度 夏季(2023年7月実施) 9問
2024年度 春季(2024年2月実施)の解答例

立教大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度の夏季・春季(計6回)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
英語の扱い
専攻ページに掲載されているのは専門科目「化学」の筆記試験問題のみ。英語の問題は大学本体の過去問題ページ側にあり、本文は著作権の関係で非掲載(出典のみ記載)の回がある。
院試hubの最終確認
2026-09-06
立教大学の公式過去問PDF