北大 情報科学院 情報科学専攻 生体情報工学コース 専門科目 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全8問)
全8問の分野は生物3問、電磁気学・回路2問、線形代数1問です。固有値・固有ベクトル、ラプラス変換が出ています。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 小論文:BMIの医療応用
採点の置き所
この小論文では、賛否そのものよりも、指定された四つの論点を段落ごとに切り分けて論じられているかが重要である。上の答案例では、立場を「条件付き賛成」と先に固定し、その後に可能性、安全性、倫理性、法規制を一段落ずつ処理している。結論だけが強く、リスク評価や制度設計が抜けると、BMIの問題設定に十分答えた答案にならない。
技術面
可能性の段落では、脳信号の計測だけでなく、意図推定、外部機器の制御、フィードバック、長期安定性を一体として扱うと具体性が出る。単に「便利である」「医療に役立つ」と書くだけでは、BMI固有の技術的課題が見えない。
社会実装と倫理
安全性は身体的危険とシステム上の危険に分けると書きやすい。倫理性では、脳情報が通常の行動データよりも本人の内面に近い情報である点を押さえる。医療応用を論じる場合でも、同意、撤回権、目的外利用、代理判断の問題まで触れると、社会実装の答案として説得力が増す。
典型ミス
四つの論点を一つの長い段落に混ぜる、医療応用と社会応用を途中で行き来する、導入文の語句を並べ替えるだけで自分の判断を示さない、という答案は点が伸びにくい。賛成・反対のどちらを選んでも、条件と限界を明示することが防御力のある答案になる。
解答
答案例
私は、BMIを医療へ応用することには条件付きで賛成である。
第一に、BMIの可能性は大きい。運動機能を失った患者が、脳活動から推定された意図によって外部機器を操作できれば、移動、食事、意思表示の自由度が回復する。特に、従来のリハビリや補助具では届きにくい重度麻痺の領域で、生活の質を直接改善できる点に価値がある。ただし、技術面では脳信号の計測、ノイズ除去、意図推定、刺激やフィードバックを一体のシステムとして安定させる必要がある。
第二に、安全性は最優先で評価すべきである。侵襲型であれば感染、出血、電極劣化の危険があり、非侵襲型でも誤認識による機器の誤作動が患者に損害を与え得る。したがって、臨床試験では短期の操作成功率だけでなく、長期使用時の故障率、誤作動時の停止機構、データ欠落時の挙動まで検証する必要がある。
第三に、倫理性の問題は、脳情報が本人の内面に近い情報である点に由来する。患者が治療のために提供した信号を、本人の意思決定能力や感情状態の推定に広げて用いることは慎重でなければならない。社会実装では、本人の同意、撤回権、家族や医療者による過度な代理判断の防止を明確にし、治療上の利益とプライバシーの侵害を区別する必要がある。
第四に、必要な法規制として、医療機器としての有効性・安全性審査に加え、脳信号データの取得目的、保存期間、第三者提供、AIモデルの再学習利用を制限する規則が必要である。また、誤作動時の責任分担を製造者、医療機関、運用者の間で定め、患者が不利益を受けたときの救済制度も整えるべきである。以上の条件を満たすなら、BMIの医療応用は認められる。
最終答
条件付きで医療応用に賛成。技術的有効性だけでなく、安全性、同意とプライバシー、医療機器・データ利用・責任分担の規制をそろえることが前提である。
第2問 — 線形代数
対角化の確認
固有値 を含む条件は、特性方程式全体を出さなくても で判定できる。対角化では、 の列に固有ベクトルを並べる順番と、対角行列の固有値の順番を一致させる必要がある。上の解では列の順に を置いている。
の検算
は自然数なので、対角成分 は と扱える。特に であり、 ではない。 を代入して元の行列に戻るかを確認すると、符号のミスを見つけやすい。
複素行列での典型ミス
エルミート性とユニタリ性では、単なる転置ではなく複素共役を伴う転置を使う。したがって としてしまうのは、共役を取る向きを取り違えた誤答である。ユニタリ行列の では、長さの条件だけなら符号が二つ残るが、列同士の直交条件まで使うと正の値に決まる。
第3問 — 電気・電子回路
節点解析の方針
この回路は電圧源と抵抗を含む左端の枝を、既知電位 と節点 の間の抵抗枝として扱うと整理しやすい。キャパシタは 、インダクタは のアドミタンスで書くと、問題で求められている実部・虚部の形に自然に分かれる。
符号の検算
節点 の式では、左のインダクタ枝の係数が 、右のキャパシタ枝の係数が になる。ここを逆にすると係数行列の対称性が崩れやすい。受験答案では、まず , , を明示してから代入すると、符号の根拠を示せる。
ベース接地回路の見方
直流電源を交流的に短絡する点が第一の採点箇所である。次に、T型等価回路で と置けることを使うと、入力側の抵抗が だけでなく を含むことが分かる。 と はどちらも と逆符号で表れるため、電圧増幅率は正になる。
典型ミス
の右端を小信号で接地し忘れると、出力電圧の式が立てられない。また、 と を同じ符号にしてしまうと、共通ベース増幅回路の非反転性と矛盾する。最後に、入力インピーダンスは電圧源から回路へ流れ込む電流で定義するため、図の の向きと符号を合わせて確認する必要がある。
第4問 — 細胞生物学
心筋細胞の設問
ウワバインやジギタリスは ポンプを部分的に阻害する。すると細胞内外の 勾配が小さくなり、 の勾配を利用して を外へ出す交換輸送の効率が下がる。その結果、細胞内 が残りやすくなり、心筋収縮力が強まる。 を「上昇」とすると、薬剤が強心作用をもつ理由と逆になる。
UPRの採点ポイント
下線部は「細胞死を誘導する過程」の名称を問うているため、UPRそのものではなくアポトーシスを答える。分泌タンパク質の折りたたみ異常では、機能喪失、分泌低下、凝集、分解処理の負荷を簡潔に述べればよい。小胞体内での蓄積については、小胞体ストレスからUPR、処理不能時の細胞死へつなげると因果関係が明確になる。
減数分裂の設問
相同染色体の対合で四価染色体ができ、相同染色体間の構造的な結合にはシナプトネマ構造が関わる。キアズマは交差の位置として観察されるので、ここでは を交差とする。第一分裂で相同染色体が分離するため、父母由来の染色体部分の組合せが配偶子に分配される。
独立と連鎖
同一染色体上の遺伝子は原則として連鎖するが、距離が大きいと複数回の交差を含めて組換え価が に近づき、別染色体上の遺伝子と同じように見える。逆に距離が小さい場合は親型が過剰になり、この偏りを距離情報に変換して連鎖地図を作る。
第5問 — 微分方程式
係数比較の前提
第1の山は、 と を別々のモードとして扱う点である。 ここで とおくと、 微分はモードごとに 、 を掛けるだけになる。 では式の形そのものが退化して となるため、通常の分離解の設問としては を想定する。
初期条件の読み替え
は を、 は を決める。 ここで と取り違えると係数に が余分に入り、最終式の の係数が崩れる。
周期関数のラプラス変換
周期関数の公式は暗記で終わらせず、 の積分で と置く一行が採点の置き所になる。 矩形波では分子 が半周期だけ1であることを表し、分母 が同じ波形の繰り返しを表す。
検算
求めた では、 で和の各項の が消えるため である。 また微分しても各ステップの開始点では なので、初期速度 と矛盾しない。
第6問 — 電磁気学
単位換算の筋道
電磁気の単位は、、、 を起点にすると連鎖的に求められる。 たとえば 、、 と置けば、符号付き指数の取り違えを減らせる。
向きの決定
ビオ・サバールの法則では、電流素片から観測点へ向かうベクトルを使う。 ここでは観測点が原点なので が入り、この負号を落とすと 成分の符号が逆になる。
アンペールの法則の使いどころ
無限直線電流の磁場の大きさは距離だけで決まるため、点 では角度 によらず である。 ただし成分は電流方向 と の外積で決まるので、 と が現れる。
検算
では は 方向であり、点 の磁場は 方向になる。 このとき の電流素片も 方向なので外積がゼロになり、力が消える条件と一致する。
第7問 — 生化学
アミノ酸で落としやすい点
システインはチオール基をもつ単量体名であり、ジスルフィド結合で結ばれた形はシスチンである。 空欄では「側鎖のチオール基」を持つ語を選ぶので、答はシステインになる。
グリシン滴定曲線の読み方
グリシンには側鎖の解離基がないため、主にカルボキシ基とアミノ基の2段階で滴定される。 Aは第1の半中和点、Bは等電点付近、Cは第2の半中和点に対応する。 半中和点では Henderson--Hasselbalch 式により、酸型と塩基型の濃度が等しくなる。
TCA回路の数え上げ
アセチルCoA 1分子が回路に入ると、脱炭酸は2回、NADH生成は3回、FADH生成は1回、GTP生成は1回である。 ピルビン酸からアセチルCoAへの変換で生じるNADHは、設問が「TCA回路の中で」と指定しているため、この数には含めない。
調節と阻害機構
ADPとCaはエネルギー需要の高さを示すため、イソクエン酸デヒドロゲナーゼを活性化する。 逆にATPとNADHは産物や高エネルギー状態を示すため阻害側である。 ヒ素中毒ではリポ酸依存性酵素が止まる、という因果関係まで書くと採点上十分である。
第8問 — 分子遺伝学
PCR温度の意味
図の高温段階は二本鎖をほどくための熱変性、低温段階はプライマーを結合させるアニーリング、中温段階はポリメラーゼによる伸長である。 Bの温度を問う設問では、単に「低温」と書くのではなく、プライマーの と非特異的結合の抑制を結びつけるのが採点上重要である。
倍率計算の置き所
分子数はサイクルごとに2倍というPCRの基本から を出す。 質量比では、増えた分子が300塩基対である一方、比較対象の初期DNA全体が3000万塩基対であるため、長さの比 を掛ける。 ここを忘れると分子数比と質量比を同じ 倍としてしまう。
自家受精の漸化
自家受精で変化するのは主にヘテロ接合体頻度である。 の自家受精から が生じる確率は なので、世代を1つ進めるごとにヘテロ接合体頻度が半分になる。 一方でアレル頻度 自体は変わらない。
近親交配の有害性
近親交配の説明では「血縁だから悪い」では不十分である。 ホモ接合化により劣性有害アレルが表現型に現れやすくなる、という遺伝子型頻度の変化まで書くと、集団遺伝の問題として筋が通る。
年度別の解答例(2年度)
生体情報の一元管理 / 線形代数 / 電気・電子回路
2025年度(このページ・全8問)
小論文:BMIの医療応用 / 線形代数 / 電気・電子回路
2025年度の出題内容
全8問
この8問の分野は生物3問・電磁気学・回路2問・線形代数1問・微分方程式1問です。
| 大問 | 分野 | 主題 | 解説の小見出し | 最終答 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | BMIの医療応用 | 技術面 / 社会実装と倫理 | あり | |
| 第2問 | 線形代数 | — | 対角化の確認 / A^n の検算 | あり |
| 第3問 | 電磁気学・回路 | 電気・電子回路 | 節点解析の方針 / 符号の検算 | あり |
| 第4問 | 生物 | 細胞生物学 | 心筋細胞の設問 / UPRの採点ポイント | あり |
| 第5問 | 微分方程式 | — | 係数比較の前提 / 初期条件の読み替え | あり |
| 第6問 | 電磁気学・回路 | 電磁気学 | 単位換算の筋道 / 向きの決定 | あり |
| 第7問 | 生物 | 生化学 | アミノ酸で落としやすい点 / グリシン滴定曲線の読み方 | あり |
| 第8問 | 生物 | 分子遺伝学 | PCR温度の意味 / 倍率計算の置き所 | あり |
2025年度の解説には検算2件・典型ミス2件・採点の置き所1件が付いています。
同じテーマを出した他大学・他年度
2テーマ
2025年度は2問に2テーマが出ています。
| テーマ | この年度 | 全体の出題実績 | 他大学の直近出題 |
|---|---|---|---|
| 固有値・固有ベクトル | 第2問 | 25大学・544問 | |
| ラプラス変換 | 第5問 | 12大学・56問 |
北海道大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2025〜2026年度(専門科目1・2。2025年度分は公式過年度ページで確認)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 2027年4月修士はTOEIC L&R・TOEFL iBT・IELTS Academicの指定スコアで評価。IP/ITP不可、TOEFL Special Home Edition可、MyBest不可。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-15