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阪大 情報科学研究科 生物情報 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問の分野は生物3問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 分子生物学:DNA複製装置・塩基配列決定法・アミノ酸の側鎖

答案の組み立て

8項目を50字ずつ書くので、型を決めて機械的に埋めるのが速い。「\,対象+操作+目的\,」の3要素で1文にする。たとえば(3)なら「1本鎖DNAに(対象)協同的に結合し(操作)、再会合を防いで鋳型を保つ(目的)」となる。名詞だけを並べた答案は字数は満たしても点にならない。

混同しやすい組

滑る留め金((5))と留め金装着タンパク質((6))は、前者が「保持する部品」、後者が「取り付ける装置」である。役割を逆にすると両方失点する。プライマーゼ((7))とDNAポリメラーゼ((1))は、前者だけが何もない鋳型から鎖を作り始められる点が違う。DNAポリメラーゼは必ず既存の3′'-OHを必要とする。

ラギング鎖に結びつける

(7)と(8)は、なぜ必要かをラギング鎖の不連続合成と結びつけて書くと説明が締まる。ラギング鎖では岡崎フラグメントごとにプライマーが要り、最後にRNAが除かれてできた切れ目をリガーゼが閉じる。この一連の流れを一言添えると、暗記ではなく仕組みの理解として読める。

問1-3 ジデオキシ法とイルミナ法の原理

対比の軸を一つに絞る

両者はどちらも「DNA合成を利用して読む」点で同じであり、違いは伸長の止め方にある。ジデオキシ法の停止は不可逆で、1本の鎖は1か所で終わる。イルミナ法の停止は可逆で、同じ鎖を止めては再開させながら端まで読む。この一点を最初に書いてから各論に入ると、短い答案でも論旨が通る。

読み取り長と並列度のトレードオフ

ジデオキシ法は1反応あたり700〜1000塩基程度を高精度で読めるが、1反応で1本の鋳型しか扱えない。イルミナ法は1リードが短い代わりに並列度が極めて高い。長い反復配列の解読にはジデオキシ法や長鎖読み取り法が有利で、変異検出や発現定量にはイルミナ法が有利という使い分けは、この違いから導かれる。

答案で落としやすい語

ジデオキシ法では「3′'-OHがない」という化学的理由を必ず書く。「ddNTPを入れると止まる」だけでは理由の説明になっていない。イルミナ法では「ブリッジ増幅によるクラスター形成」と「ブロックの可逆的除去」の2語が要で、どちらかが欠けると、なぜ1塩基ずつ正確に読めるのかが説明できない。

問1-4 記述の正誤判定

この設問の作り

5つの記述はいずれも教科書の一文に対応しており、誤りの選択肢は一語だけが置き換えられている。B は「ミトコンドリア→\to核」、C は「少量→\to大量」、D は「糖→\to電子」、E は「リプレッサー→\toアクチベーター」である。すべて選べという指示なので、正しいものを1つ探すのではなく、5つ全部について置き換えられそうな語を探す読み方に切り替えると速い。

Cを迷わないための基準

イノシトールリン脂質は量ではなく回転の速さで効くシグナル脂質である。膜脂質の主成分はホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンとコレステロールであり、この主成分の一覧を覚えておけば「大量」が誤りだと即断できる。

Dの背景

ドリコールリン酸は長鎖のポリイソプレノイドで、脂質担体として糖鎖を膜面に係留する。糖タンパク質のN結合型糖鎖は、まずドリコールリン酸上で14糖の前駆体として組み立てられ、オリゴ糖転移酵素によってアスパラギン残基へ一括して移される。この流れを知っていれば「電子」が場違いだと分かる。

問1-5 側鎖の性質から選ぶアミノ酸とその構造

条件を1つずつ潰す

(1)で硫黄を含むのはシステインとメチオニンだけなので、どちらを書いてもよい。(2)は「窒素を含む」と「非荷電極性」の二重条件で、窒素を含む側鎖のうちリシン・アルギニン・ヒスチジンは塩基性側鎖として電荷をもちうるため外れ、残るアスパラギンとグルタミンが答えになる。トリプトファンも窒素をもつが、側鎖全体は疎水性で極性側鎖には分類されない。(3)は共鳴が条件なので、イミダゾール環のヒスチジンのほか、インドール環のトリプトファン、グアニジノ基のアルギニンでもよい。

構造を書くときの決まり

α\alpha炭素に、アミノ基、カルボキシ基、水素、側鎖の4つが結合する形を必ず描く。骨格を線で表す略記では、頂点と線の端が炭素を表すという約束なので、CH2\mathrm{CH_2} の炭素を字で書く必要はない。逆に、カルボキシ基のOHとカルボニルのO、側鎖のヘテロ原子(S、N、O)は必ず元素記号を書く。硫黄をOと書き間違える、アミド窒素を落とすといった誤りが最も多い。

選んだアミノ酸の機能に触れる

余白があれば一言添えると印象がよい。システインのチオールは酸化されてジスルフィド結合を作り、分泌タンパク質の立体構造を固定する。アスパラギンの側鎖アミドはN結合型糖鎖の付加部位になる。ヒスチジンのイミダゾールは生理的pH付近に pKa\mathrm{p}K_\mathrm{a} をもち、酵素活性中心でプロトンの受け渡しをする。側鎖の化学的性質が機能に直結する例として、いずれも典型的である。

分子生物学:DNA複製装置・塩基配列決定法・アミノ酸の側鎖の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 生化学・細胞生物学:代謝中間体、シグナル伝達、光合成、細胞分裂

構造から名前を出す手順

炭素数を数え、次に官能基を拾う。ここでは carboxy 基が1つ、リン酸エステルが1つ、C=C\mathrm{C{=}C} が1つで炭素3個である。ピルビン酸 CH3COCOOH\mathrm{CH_3COCOOH} のケト形をエノール形 CH2=C(OH)COOH\mathrm{CH_2{=}C(OH)COOH} に書き換え、そのOHがリン酸化されていると読めばPEPに行き着く。

なぜPEPが高エネルギーか

PEPからリン酸が外れると、生じたエノール型ピルビン酸がただちに安定なケト型へ互変異性化する。この異性化による安定化が大きいため、加水分解の標準自由エネルギー変化は −14.8 kcal mol−1-14.8\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} 程度と、ATPの −7.3 kcal mol−1-7.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} より大きい。だからPEPはADPをリン酸化してATPを作れる。ピルビン酸キナーゼの反応が事実上不可逆である理由もここにある。

別解として認められる酵素

糖新生の側から答えてもよい。ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)はオキサロ酢酸からPEPを作り、植物や細菌のPEPカルボキシラーゼはPEPと HCO3−\mathrm{HCO_3^-} からオキサロ酢酸を作る。どちらもPEPが基質または生成物になるので条件を満たす。ただし解糖系の文脈で聞かれているので、エノラーゼとピルビン酸キナーゼを先に挙げるのが安全である。

問2-2 GPCRとRTKの下流経路、Aktによる制御、環状AMPの構造

Akt経路の要点は「二重の否定」

Badは「生存因子を抑える因子」であり、Aktは「その抑制因子を抑える」。否定が二重になっているので、答案では順に追って書かないと結論が逆になる。Akt⊣Bad⊣Bcl-2⊣アポトーシス\text{Akt} \dashv \text{Bad} \dashv \text{Bcl-2} \dashv \text{アポトーシス} と矢印で整理してから文章化すると間違えない。生存シグナル(増殖因子)がRTK →\to PI3K →\to Akt と伝わって細胞死を止める、という文脈まで書ければ十分である。

環状AMPを書くときに落としやすい点

第一に、リン酸は1個であり、ATPのように3個並べてはいけない。第二に、環をつくるのは 3′3' と 5′5' の酸素で、2′2' ではない。2′2'のOHはそのまま残る。第三に、糖はリボースなので 2′2'位にOHが必要で、これを落とすとデオキシ体になってしまう。塩基はアデニンなので、6位にアミノ基をもつプリンであることを確認する。

環状AMPが第二メッセンジャーである理由

アデニル酸シクラーゼがATPから作り、ホスホジエステラーゼが 5′5'-AMPへ分解する。生成と分解がどちらも酵素反応なので、濃度を短時間で数十倍に上げ下げできる。細胞内を速く拡散し、プロテインキナーゼAの調節サブユニットに結合して触媒サブユニットを解放する。この「作られやすく壊されやすい小分子」という性質が、シグナル分子として使われる理由である。

問2-3 葉緑体の構造、光合成電子伝達、カルビン回路

9と6を導く数え方

暗記に頼らず、炭素で収支を取ると確実である。CO2\mathrm{CO_2} 3個(炭素3)とリブロース1,5-ビスリン酸3個(炭素15)で炭素18、これが3-ホスホグリセリン酸6個(炭素18)になる。還元でグリセルアルデヒド3-リン酸6個(炭素18)となり、1個(炭素3)を取り出すと炭素15が残り、リブロース5-リン酸3個(炭素15)に組み替わる。ATPは還元段階で6、再生段階で3の合計9、NADPHは還元段階のみで6である。

ATPとNADPHの比が意味すること

必要な比は 9:6=3:29:6 = 3:2 である。一方、直線的な電子伝達だけではATPがやや不足する。この差を埋めるのが光化学系I周りの循環的電子伝達で、NADPHを作らずにプロトンだけを汲んでATPを増やす。設問で数を出したあとに一言この比の話を添えると、回路の理解が伝わる。

区画を答える設問での書き方

「ストロマ」だけでも正答だが、理由を一文足すと安全である。カルビン回路の酵素は膜に埋まっておらず可溶性であること、光化学系で生じたNADPHとATPはチラコイド膜のストロマ側で放出されること、の2点を挙げればよい。

問2-4 有糸分裂像の順序と紡錘体の構造

並べ替えは「核膜」と「赤道面」で決まる

時系列の判断は2つの指標でほぼ決まる。核膜があるかないかで前期と前中期以降が分かれ、染色体が一列に並んでいるかどうかで中期が決まる。分離が始まっていれば後期、脱凝縮していれば終期である。写真を見るときは、まず核膜の有無を確認し、次に染色体の位置がそろっているかを見るとよい。

微小管の3分類を役割で覚える

動原体微小管は染色体を引く、極間微小管は互いに滑り合って両極を押し広げる、星状体微小管は極を細胞膜に固定して紡錘体の位置を決める。名称の暗記ではなく、後期Aで動原体微小管が短くなり、後期Bで極間微小管の滑りとモータータンパク質の働きで極間が伸びる、という運動と結びつけると忘れにくい。

この設問が試していること

「像を見て段階を言い当てる」ことは、教科書の記述を実際の観察と結びつけられるかを見ている。答案では、単に記号を並べるだけでなく、判断の根拠(核膜の有無、染色体の整列、分離の有無)を1行添えると、順序を1つ誤っても部分点が残りやすい。

問2-5 ピルビン酸脱水素酵素複合体とクエン酸回路・電子伝達鎖

(3)で必ず書くべき3段

「電子が流れる」「プロトンが汲まれる」「プロトンが戻るときにATPができる」の3段を必ず全部書く。1段目だけでは電子伝達の説明、2段目までではプロトン勾配の説明にとどまり、エネルギー変換の仕組みを問う設問の答えにならない。プロトン駆動力が濃度勾配と膜電位の2成分からなることに触れられればなお良い。

FADH2_2の話を数で押さえる

現在の標準的な見積もりでは、NADH 1分子あたり約2.5 ATP、FADH2_2 1分子あたり約1.5 ATPとされる。差の1 ATPが、ちょうど複合体Iを迂回した分に対応する。数値を添えると「どれくらい小さいのか」まで答えたことになる。ただし数値は仮定に依存するので、比の根拠がプロトン数にあることを先に述べてから補足するのが安全である。

複合体IIを「プロトンを汲まない」と言い切ってよい

複合体IIはコハク酸の酸化とユビキノンの還元を行うが、プロトンポンプ活性はもたない。クエン酸回路の中で唯一、内膜に埋まった酵素であることも合わせて覚えておくと、回路と電子伝達鎖の接点として整理しやすい。

問2-6 光を吸収する分子の構造と吸収波長

吸収スペクトルは葉の色から逆算できる

吸収波長を忘れても、葉が緑であることから緑(B)と、その隣の黄(C)が吸収されにくいと分かる。残るのは青(A)と赤(D)である。この「見える色は吸収されなかった色」という関係を使うと、暗記なしで選べる。

頭部と尾部で役割が完全に分かれている

共役系をもつ平面環が光子を捕らえ、飽和した炭化水素鎖が位置を決める。この分業は、レチナールとオプシン、ヘムとグロビンなど他の補欠分子族にも共通する構図である。(3)で「光を吸収する」と書いてしまう誤答が多いので、尾部は吸収に関与しないことを明示する。

中心金属を落とさない

ポルフィリン環と答えるときは、中心に Mg2+\mathrm{Mg^{2+}} があることまで書く。同じテトラピロール骨格でも、中心が Fe2+\mathrm{Fe^{2+}} ならヘムになり、機能はまったく異なる。中心金属の違いが機能の違いを生むという点は、構造と機能の対応を問う設問でよく問われる。

生化学・細胞生物学:代謝中間体、シグナル伝達、光合成、細胞分裂の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 生体エネルギー論:ATPの自由エネルギーと細胞スケールの見積もり

この式が後の設問で効く

問3-5で「グルコース1 molから30 molのATP」という条件を使うとき、同時に「グルコース1 molに O2\mathrm{O_2} 6 mol」という比が要る。その比はこの反応式からしか出てこない。最初の設問が独立した知識問題ではなく、後半の計算の土台になっている構成である。

呼吸商という確認

生じる CO2\mathrm{CO_2} と消費する O2\mathrm{O_2} の比(呼吸商)は 6/6=16/6 = 1 である。糖を完全に酸化するときの呼吸商が1になるのは生理学でよく使う事実で、係数を書き間違えていないかの手早い確認になる。脂肪酸では水素の割合が高いため呼吸商は0.7程度に下がる。

問3-2 ATP再生反応の自由エネルギー変化

向きを間違えないための約束

式を立てる前に反応を左から右へ書き下し、その向きの生成物を分子、反応物を分母に置く。ここでは再生(合成)方向なので ATP\mathrm{ATP} が分子である。加水分解を問う問3-4では向きが逆になり、[ADP][Pi]/[ATP][\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]/[\mathrm{ATP}] が対数の中身になる。同じ問題の中で向きが切り替わるので、設問ごとに反応式を書き直す習慣をつける。

単位の扱い

[ATP]/([ADP][Pi])[\mathrm{ATP}]/([\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]) は見かけ上 M−1\mathrm{M^{-1}} の次元をもつが、実際には各濃度を標準状態 1 M1\ \mathrm{M} で割った無次元量の比である。問3-3で 1.0×104 M−11.0\times10^{4}\ \mathrm{M^{-1}} という値がそのまま対数に入れられるのはこのためである。答案では「濃度は 1 M1\ \mathrm{M} を基準にとる」と一言添えておくと、次元の扱いを理解していることが伝わる。

ΔG∘\Delta G^{\circ} と ΔG∘′\Delta G^{\circ\prime}

生化学では pH 7\mathrm{pH}\,7、[H+]=10−7 M[\mathrm{H^+}] = 10^{-7}\ \mathrm{M} を標準状態にとった ΔG∘′\Delta G^{\circ\prime} を使う。本問で与えられる 7.3 kcal mol−17.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} もこの生化学的標準状態の値である。物理化学の ΔG∘\Delta G^{\circ} とは H+\mathrm{H^+} の基準が違うだけで、式の形は変わらない。

問3-3 ATP1分子の合成に必要なプロトンの最小数

切り上げの理由を書く

2.82.8 をそのまま答えとすると、設問の「最小量は何個か」に答えたことにならない。プロトンは分割できないので、2.82.8 を超える最小の整数として3を選ぶ、という一行を必ず添える。実際のATP合成酵素でも、Fo\mathrm{F_o} のcリングのサブユニット数から決まる比は3〜4程度で、この見積もりと整合する。

与えられた 4.64.6 を検算に使う

プロトン1 molが電位差 Δψ\Delta\psi を下るときの自由エネルギーは ∣ΔG∣=F∣Δψ∣|\Delta G| = F|\Delta\psi| である。ファラデー定数を 23 kcal V−1 mol−123\ \mathrm{kcal\,V^{-1}\,mol^{-1}} とすると、0.200 V×23=4.6 kcal mol−10.200\ \mathrm{V}\times23 = 4.6\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} となり、問題文の値と一致する。2.0×102 mV2.0\times10^{2}\ \mathrm{mV} という数値が単なる飾りではなく 4.64.6 の根拠であることを確認すると、条件の読み落としに気づける。

ln⁡\ln と log⁡10\log_{10} の取り違え

与えられているのは ln⁡2\ln 2、ln⁡3\ln 3、ln⁡5\ln 5 であって常用対数ではない。ln⁡10=ln⁡2+ln⁡5=2.30\ln 10 = \ln 2 + \ln 5 = 2.30 を作ってから使う。ここで log⁡10\log_{10} と混同すると値が 2.302.30 倍ずれ、プロトン数が1個台になってしまう。RTln⁡10=1.41 kcal mol−1RT\ln 10 = 1.41\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} という組み合わせを覚えておくと、桁10ごとの寄与が即座に出せる。

問3-4 濃度によるATP加水分解の自由エネルギー変化

なぜ薄めると発熱的になるか

加水分解は1分子から2分子を生じる反応なので、全体を薄めると生成物側が相対的に不利になりにくく、平衡は右へ寄る。式の上では、分子に濃度の積(2乗のオーダー)、分母に1乗が来るため、共通の濃度 cc で薄めると比が cc に比例して小さくなり、ln⁡\ln の項が負に効く。細胞内でATPの加水分解が大きな負の ΔG\Delta G をもつのは、この希釈効果と、[ATP][\mathrm{ATP}] が [ADP][\mathrm{ADP}] より高く保たれていることの両方による。

桁の見積もりによる検算

濃度を1桁下げるごとに RTln⁡10=1.41 kcal mol−1RT\ln 10 = 1.41\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} ずつ ΔG\Delta G が下がる。1 M1\ \mathrm{M} から 1 mM1\ \mathrm{mM} へは3桁なので 3×1.41=4.233\times1.41 = 4.23 の低下となり、上の計算と一致する。この「1桁あたり 1.4 kcal mol−11.4\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}」という感覚をもっておくと、電卓なしで検算できる。

実際の細胞との差

細胞質では [ATP][\mathrm{ATP}] が数 mM\mathrm{mM}、[ADP][\mathrm{ADP}] が 0.1 mM0.1\ \mathrm{mM} 程度、[Pi][\mathrm{P_i}] が数 mM\mathrm{mM} と、3者の濃度が等しくない。このため実際の ΔG\Delta G は −11-11 から −13 kcal mol−1-13\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} 程度になる。本問の 1 mM1\ \mathrm{mM} 一律という設定はその状況を単純化したもので、得られる値も現実的な範囲に収まっている。

問3-5 細胞1個の酸素消費量と消費に要する時間

単位換算の要点

μm3\mathrm{\mu m^{3}} と L\mathrm{L} の関係が最大の落とし穴である。1 μm=10−6 m1\ \mathrm{\mu m} = 10^{-6}\ \mathrm{m} なので 1 μm3=10−18 m3=10−15 L1\ \mathrm{\mu m^{3}} = 10^{-18}\ \mathrm{m^{3}} = 10^{-15}\ \mathrm{L}、逆に 1 L=1015 μm31\ \mathrm{L} = 10^{15}\ \mathrm{\mu m^{3}} である。長さの指数を3倍することと、m3\mathrm{m^{3}} と L\mathrm{L} の間の 10310^{3} を忘れないことの2点を押さえる。ここを1桁ずらすと、答えが9分にも890分にもなってしまう。

答えの妥当性

細胞は自分の体積の酸素を約1時間半で使う、という結論は、細胞が周囲から絶えず酸素の供給を受けなければならないことを意味する。実際、拡散だけで酸素が届く距離は 100 μm100\ \mathrm{\mu m} 程度とされ、これより厚い組織には毛細血管が必要になる。得られた時間が「秒」でも「日」でもなく「分」の桁に収まっていれば、桁の取り扱いはおおむね正しい。

比を先に作ってから数を入れる

この設問は、ATP数 →\to 酸素分子数 →\to 物質量 →\to 気体体積 →\to 時間、と4回の換算を続ける。途中で数値を丸めると誤差が積み上がるので、0.200.20、1/(6.0×1023)1/(6.0\times10^{23})、22.422.4 という係数を先に並べ、最後にまとめて計算するとよい。答案でも換算の鎖を式で示せば、途中の1か所を誤っても以降の流れで部分点が取れる。

問3-6 Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} チャネルが開いている必要のある時間

初濃度を引くかどうか

2.0×102 nM=0.20 μM2.0\times10^{2}\ \mathrm{nM} = 0.20\ \mathrm{\mu M} は目標の 8.0 μM8.0\ \mathrm{\mu M} の 2.5%2.5\% にすぎないので、引いても引かなくても2桁の答えは 2.9×10−32.9\times10^{-3} 秒と 3.0×10−33.0\times10^{-3} 秒でわずかに違うだけである。ただし設問は「上昇させる」と書いているので、差 Δc\Delta c を使うのが筋である。式の上で Δc\Delta c と書いておけば、近似の可否を判断したことが伝わる。

ミリ秒という答えの意味

3 ms3\ \mathrm{ms} という時間は、神経終末で活動電位が到達してから伝達物質が放出されるまでの時間や、筋収縮の開始に要する時間と同じ桁である。Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} シグナルが速い応答に使われるのは、細胞質の Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} 濃度が普段 10−7 M10^{-7}\ \mathrm{M} 台と極端に低く保たれているため、少数のイオンの流入で濃度が数十倍に跳ね上がるからである。答えの桁が生理現象と合っているかは、良い検算になる。

実際にはもっと短い

本問は「外部の Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} は無制限」「汲み出しや緩衝はない」という理想化の下での見積もりである。実際の細胞では、カルモジュリンなどの緩衝タンパク質が大半の Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} を捕らえ、同時にポンプと交換輸送体が汲み出すため、局所濃度の上昇はチャネル近傍に限られ、より速く減衰する。仮定を明示したうえで答えるのが、この種の見積もり問題の作法である。

解答

グルコース C6H12O6\mathrm{C_6H_{12}O_6} の炭素6個をすべて CO2\mathrm{CO_2} にし、水素12個をすべて H2O\mathrm{H_2O} にする。炭素の収支から CO2\mathrm{CO_2} は6分子、水素の収支から H2O\mathrm{H_2O} は6分子である。酸素の収支は、右辺が 6×2+6=186\times2 + 6 = 18 個、左辺のグルコースが6個なので、残る12個を O2\mathrm{O_2} 6分子で供給する。 C6H12O6+6 O2⟶6 CO2+6 H2O \mathrm{C_6H_{12}O_6} + 6\,\mathrm{O_2} \longrightarrow 6\,\mathrm{CO_2} + 6\,\mathrm{H_2O}

対象とする反応は ADP+Pi⟶ATP+H2O \mathrm{ADP} + \mathrm{P_i} \longrightarrow \mathrm{ATP} + \mathrm{H_2O} である。一般に、反応 aA+bB→cC+dDaA + bB \to cC + dD の自由エネルギー変化は、標準自由エネルギー変化 ΔG∘\Delta G^{\circ} と反応比 QQ を用いて ΔG=ΔG∘+RTln⁡Q\Delta G = \Delta G^{\circ} + RT\ln Q と書ける。QQ は生成物の濃度の積を反応物の濃度の積で割ったものである。ここでは水は溶媒として活量を1とみなし、濃度は標準状態 1 M1\ \mathrm{M} を基準とした比で表すので、 ΔG=ΔG∘+RTln⁡[ATP][ADP][Pi] \Delta G = \Delta G^{\circ} + RT\ln\frac{[\mathrm{ATP}]}{[\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]} となる。

必要な自由エネルギーを求める

[ATP]/([ADP][Pi])=1.0×104[\mathrm{ATP}]/([\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]) = 1.0\times10^{4} における合成反応の自由エネルギー変化は、問3-2の式に ΔG∘=7.3 kcal mol−1\Delta G^{\circ} = 7.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} を入れて ΔG=7.3+RTln⁡(1.0×104). \Delta G = 7.3 + RT\ln(1.0\times10^{4}). RT=1.98×10−3×310=0.6138 kcal mol−1RT = 1.98\times10^{-3}\times310 = 0.6138\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}、ln⁡(1.0×104)=4ln⁡10=4×2.30=9.20\ln(1.0\times10^{4}) = 4\ln 10 = 4\times2.30 = 9.20 なので RTln⁡(1.0×104)=0.6138×9.20=5.65 kcal mol−1, RT\ln(1.0\times10^{4}) = 0.6138\times9.20 = 5.65\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}, ΔG=7.3+5.65=13.0 kcal mol−1. \Delta G = 7.3 + 5.65 = 13.0\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}. すなわち、この条件でATPを1 mol合成するには 13 kcal13\ \mathrm{kcal} を供給しなければならない。

プロトン数を求める

プロトン1 molがマトリックスへ移動すると 4.6 kcal4.6\ \mathrm{kcal} が放出されるので、必要なプロトンの物質量 nn は n=13.04.6=2.8. n = \frac{13.0}{4.6} = 2.8. プロトンは1個単位でしか通らないため、2.82.8 個では足りず、整数に切り上げる必要がある。したがって最小で3個である。

加水分解の反応は ATP+H2O⟶ADP+Pi,ΔG∘=−7.3 kcal mol−1 \mathrm{ATP} + \mathrm{H_2O} \longrightarrow \mathrm{ADP} + \mathrm{P_i}, \qquad \Delta G^{\circ} = -7.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} であり、向きが問3-2と逆になるので ΔG=ΔG∘+RTln⁡[ADP][Pi][ATP] \Delta G = \Delta G^{\circ} + RT\ln\frac{[\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]}{[\mathrm{ATP}]} を用いる。

すべて 1 M1\ \mathrm{M} のとき

[ADP][Pi][ATP]=1×11=1,ln⁡1=0 \frac{[\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]}{[\mathrm{ATP}]} = \frac{1\times1}{1} = 1, \qquad \ln 1 = 0 なので、 ΔG=−7.3+0=−7.3 kcal mol−1. \Delta G = -7.3 + 0 = -7.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}. これは定義どおり、標準状態そのものの値である。

すべて 1 mM1\ \mathrm{mM} のとき

1 mM=1.0×10−3 M1\ \mathrm{mM} = 1.0\times10^{-3}\ \mathrm{M} を代入すると [ADP][Pi][ATP]=(1.0×10−3)(1.0×10−3)1.0×10−3=1.0×10−3, \frac{[\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]}{[\mathrm{ATP}]} = \frac{(1.0\times10^{-3})(1.0\times10^{-3})}{1.0\times10^{-3}} = 1.0\times10^{-3}, ln⁡(1.0×10−3)=−3ln⁡10=−3×2.30=−6.90, \ln(1.0\times10^{-3}) = -3\ln 10 = -3\times2.30 = -6.90, RTln⁡(1.0×10−3)=0.6138×(−6.90)=−4.23 kcal mol−1. RT\ln(1.0\times10^{-3}) = 0.6138\times(-6.90) = -4.23\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}. したがって ΔG=−7.3−4.23=−11.5≃−12 kcal mol−1. \Delta G = -7.3 - 4.23 = -11.5 \simeq -12\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}.

細胞の体積

一辺 10 μm10\ \mathrm{\mu m} の立方体なので V=(10 μm)3=1.0×103 μm3. V = (10\ \mathrm{\mu m})^{3} = 1.0\times10^{3}\ \mathrm{\mu m^{3}}. 単位を換算しておく。1 L=10−3 m3=1015 μm31\ \mathrm{L} = 10^{-3}\ \mathrm{m^{3}} = 10^{15}\ \mathrm{\mu m^{3}} なので V=1.0×10−12 LV = 1.0\times10^{-12}\ \mathrm{L} である。

毎分の酸素消費量

問3-1より、グルコース1 molの完全酸化には O2\mathrm{O_2} が6 mol必要である。そのグルコース1 molから30 molのATPが得られるので、ATP 1分子あたりの酸素は 630=0.20 分子. \frac{6}{30} = 0.20\ \text{分子}. 毎分 1.5×1091.5\times10^{9} 個のATPを使うから、消費される酸素分子数は 1.5×109×0.20=3.0×108 分子毎分. 1.5\times10^{9}\times0.20 = 3.0\times10^{8}\ \text{分子毎分}. 物質量に直すと 3.0×1086.0×1023=5.0×10−16 mol 毎分. \frac{3.0\times10^{8}}{6.0\times10^{23}} = 5.0\times10^{-16}\ \mathrm{mol}\ \text{毎分}. 気体の体積に直すと 5.0×10−16×22.4=1.12×10−14 L≃1.1×10−14 L 毎分, 5.0\times10^{-16}\times22.4 = 1.12\times10^{-14}\ \mathrm{L} \simeq 1.1\times10^{-14}\ \mathrm{L}\ \text{毎分}, すなわち 1.12×10−14×1015=11.2 μm31.12\times10^{-14}\times10^{15} = 11.2\ \mathrm{\mu m^{3}} 毎分である。

自分の体積分を使い切る時間

細胞の体積 1.0×103 μm31.0\times10^{3}\ \mathrm{\mu m^{3}} に等しい体積の酸素ガスを消費するのに要する時間は t=1.0×10311.2=89.3≃89 分. t = \frac{1.0\times10^{3}}{11.2} = 89.3 \simeq 89\ \text{分}.

必要な Ca2+\mathrm{Ca^{2+}} の個数

細胞の体積は V=2.0×103 μm3=2.0×103×10−15 L=2.0×10−12 L. V = 2.0\times10^{3}\ \mathrm{\mu m^{3}} = 2.0\times10^{3}\times10^{-15}\ \mathrm{L} = 2.0\times10^{-12}\ \mathrm{L}. 濃度の上昇分は、2.0×102 nM=0.20 μM2.0\times10^{2}\ \mathrm{nM} = 0.20\ \mathrm{\mu M} に注意して Δc=8.0−0.20=7.8 μM=7.8×10−6 M. \Delta c = 8.0 - 0.20 = 7.8\ \mathrm{\mu M} = 7.8\times10^{-6}\ \mathrm{M}. 必要な物質量と個数は n=Δc V=7.8×10−6×2.0×10−12=1.56×10−17 mol, n = \Delta c\,V = 7.8\times10^{-6}\times2.0\times10^{-12} = 1.56\times10^{-17}\ \mathrm{mol}, N=1.56×10−17×6.0×1023=9.36×106 個. N = 1.56\times10^{-17}\times6.0\times10^{23} = 9.36\times10^{6}\ \text{個}.

毎秒流入できる個数

チャネル1個が毎秒 1.0×1061.0\times10^{6} 個を通し、チャネルが 3.2×1033.2\times10^{3} 個あるので J=3.2×103×1.0×106=3.2×109 個毎秒. J = 3.2\times10^{3}\times1.0\times10^{6} = 3.2\times10^{9}\ \text{個毎秒}.

必要な時間

t=NJ=9.36×1063.2×109=2.925×10−3≃2.9×10−3 秒. t = \frac{N}{J} = \frac{9.36\times10^{6}}{3.2\times10^{9}} = 2.925\times10^{-3} \simeq 2.9\times10^{-3}\ \text{秒}.

最終答

C6H12O6+6 O2⟶6 CO2+6 H2O\mathrm{C_6H_{12}O_6} + 6\,\mathrm{O_2} \longrightarrow 6\,\mathrm{CO_2} + 6\,\mathrm{H_2O}

ΔG=ΔG∘+RTln⁡[ATP][ADP][Pi]\displaystyle \Delta G = \Delta G^{\circ} + RT\ln\frac{[\mathrm{ATP}]}{[\mathrm{ADP}][\mathrm{P_i}]}

ATP 1分子あたり必要な自由エネルギーは約 13 kcal mol−113\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}、必要なプロトンは計算上 2.82.8 個なので、最小値は3個

すべて 1 M1\ \mathrm{M}:ΔG=−7.3 kcal mol−1\Delta G = -7.3\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}} すべて 1 mM1\ \mathrm{mM}:ΔG=−11.5 kcal mol−1\Delta G = -11.5\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}}(有効数字2桁で −12 kcal mol−1-12\ \mathrm{kcal\,mol^{-1}})

酸素消費量は 5.0×10−16 mol5.0\times10^{-16}\ \mathrm{mol} 毎分(3.0×1083.0\times10^{8} 分子毎分、気体で 1.1×10−14 L=11 μm31.1\times10^{-14}\ \mathrm{L} = 11\ \mathrm{\mu m^{3}} 毎分)。自分の体積に等しい酸素ガスを使い切るには約 8989 分(およそ1時間半)かかる。

約 2.9×10−32.9\times10^{-3} 秒(およそ 2.9 ms2.9\ \mathrm{ms})

第4問 — 語句説明:三語の関係を100〜200字で結ぶ

3語を階層で並べる

抗体は分子、ジスルフィド結合は結合様式、構造はその結果である。「分子→\to結合→\to構造」と階層を上げる順で書くと、関連性が自然に説明できる。逆に、ジスルフィド結合の化学だけを長く書くと、抗体との関係が薄い答案になる。

なぜ抗体でジスルフィド結合が目立つのか

細胞質は還元的な環境なので、細胞質タンパク質にジスルフィド結合はほとんどない。抗体は小胞体で合成されて分泌される。小胞体内腔は酸化的で、プロテインジスルフィドイソメラーゼが結合の形成と組み替えを助ける。分泌タンパク質・細胞外ドメインに限ってジスルフィド結合が多い理由をここに結びつけると、答案の説得力が上がる。

字数の配分

200字なら、抗体の定義に60字、ジスルフィド結合の定義に50字、両者を結ぶ「だから構造が安定する」に70字、程度が目安になる。3語のうち最後の語(ここでは構造)に一番多くの字数を割くと、関連性を問う設問の要求に沿う。

問4-2 クロラムフェニコール・作用・原核生物

この設問が試していること

薬の名前と作用点の暗記ではなく、「なぜヒトには効きにくいのか」を分子の違いから説明できるかを見ている。抗菌薬の選択毒性は、細胞壁、70Sリボソーム、細菌型DNAジャイレース、葉酸合成経路など、ヒトにない、または構造が異なる標的を突くことで成り立つ。この一般則を一言添えると、個別の暗記から一段上がった答案になる。

ミトコンドリアという例外を書けるか

ミトコンドリアと葉緑体は細菌起源で、内部に70S型のリボソームをもつ。クロラムフェニコールの重い副作用がここに由来することは、細胞内共生説の傍証としてもよく問われる。字数に余裕があれば必ず入れたい一文である。

他の阻害剤との位置づけ

同じタンパク質合成阻害でも、テトラサイクリンは30SでアミノアシルtRNAの結合を妨げ、ストレプトマイシンは30Sで読み枠の正確さを乱し、シクロヘキシミドは真核生物の60Sに効く。「どのサブユニットの、どの段階か」の2軸で整理しておくと、類題に対応できる。

問4-3 エピジェネティックな遺伝・シトシン

「配列を変えずに」を必ず書く

この一句がエピジェネティックの定義そのものである。変異による遺伝との対比なので、これを落とすと定義になっていない。逆に、この一句さえあれば、以降でメチル化の話に絞っても定義の要件は満たせる。

なぜ維持メチル化が「遺伝」を成立させるか

半保存的複製で二重らせんが開くと、メチル基は親鎖にしか残らない。維持メチル基転移酵素はヘミメチル化されたCpGを基質として好み、新生鎖の対応するシトシンをメチル化する。この性質があるからこそ、印が希釈されずに世代を越える。設問が「遺伝」という語を含んでいる以上、複製をまたいでも情報が保たれる仕組みまで書かないと、関連性の説明として不十分である。

具体例で締める

哺乳類のX染色体不活性化、ゲノム刷り込み(インプリンティング)、がん細胞での腫瘍抑制遺伝子プロモーターの高メチル化は、いずれも定番の例である。1つ挙げるだけで、抽象的な説明が具体的な現象に接続する。ヒストンのアセチル化・メチル化もエピジェネティックな仕組みだが、この設問はシトシンを指定しているのでDNAメチル化を主軸に据える。

問4-4 DNA直列反復・DNAフィンガープリンティング・PCR

三語の役割分担を1文で言う

「対象(直列反復)・手段(PCR)・目的(個人識別)」という3層である。この一文を答案の最後に置くと、関連性を問う指示に正面から答えたことになる。

なぜ反復領域が個人識別に向くのか

直列反復は複製時のスリップによって反復回数が変わりやすく、多くはタンパク質をコードしない領域にあるため、変異が表現型に影響せず多型が蓄積する。座位ごとの一致確率が小さくても、独立な座位を十数個組み合わせれば全体の一致確率は積で効き、事実上個人を特定できる。「なぜ複数座位を調べるのか」まで書けると理解が伝わる。

PCRだからできること

血痕や毛根など、試料がごく微量でも増幅できる点、断片が短いため分解の進んだ試料でも扱える点が、STR解析がPCRと組み合わされた理由である。かつてのサザンブロットを用いる方法では多量の高分子DNAが必要だった。技術の交代の理由を一言添えると、単なる用語の羅列にならない。

問4-5 細胞膜・流動性・蛍光回復

性質と、それを測る方法の対

この設問は「構造(細胞膜)・性質(流動性)・測定法(蛍光回復)」の組である。測定法の語が入っているときは、その方法で何が数値として得られるかを必ず書く。ここでは拡散係数と可動分率の2つで、これを挙げれば「測る手段である」という関係が具体的になる。

回復曲線の読み方

退色直後の蛍光をゼロとし、時間とともに回復する曲線を描く。回復の時定数が拡散の速さを、最終的な回復率(可動分率)が動ける分子の割合を表す。膜タンパク質が細胞骨格や細胞外基質に係留されていると可動分率が下がる。流動モザイクモデルが「すべてが自由に動く」という意味ではないことが、この実験から分かる。

流動性を上げる要因・下げる要因

不飽和脂肪酸のシス二重結合は鎖に折れ曲がりを作って充填を乱すので流動性を上げる。鎖が長いほど疎水性相互作用が増え流動性は下がる。コレステロールは両義的で、生理的温度では鎖の運動を抑えて流動性を下げるが、低温では結晶化を妨げて流動性を保つ。方向を問われたときに迷わないよう、理由とセットで覚える。

問4-6 ニューロンのシグナル・脱分極・活動電位

「全か無か」の意味を正しく書く

閾値を超えれば刺激の強さによらず同じ振幅の活動電位が生じ、超えなければ生じない。したがって刺激の強さは振幅ではなく発火頻度として符号化される。この符号化の話まで書けると、「シグナル」という語に答えたことになる。

脱分極と過分極を対で押さえる

脱分極が閾値に近づける変化であるのに対し、過分極は閾値から遠ざける変化で、抑制性シナプスにおける塩化物イオンの流入やカリウムイオンの流出で起こる。対語を1つ添えると、脱分極の定義が明確になる。

不応期が果たす役割

ナトリウムチャネルが不活性化状態にある間は再び開けない(絶対不応期)。この性質が、興奮の一方向性伝導と、発火頻度の上限を決めている。活動電位が「伝わる」ことの説明として、チャネルの状態遷移まで触れられると差がつく。

問4-7 糖新生・フルクトース・キナーゼ・ホスファターゼ

なぜ逆反応を同じ酵素で行わないのか

解糖系のキナーゼ反応は大きな負の自由エネルギー変化をもつ事実上不可逆な段階なので、単純に逆行させられない。加水分解という別の化学で迂回すれば、どちらの向きも自発的に進む。代償として、両方が同時に働くとATPを消費するだけの無益回路になるため、相反する調節が必須になる。

調節を担う分子

フルクトース2,6-ビスリン酸は、ホスホフルクトキナーゼを活性化し、フルクトース1,6-ビスホスファターゼを阻害する。1つの分子が対になる2つの酵素を逆向きに動かすので、切り替えが確実になる。この分子の濃度自体がグルカゴンとインスリンによって制御される。相反調節の実例として書き添えると説得力が出る。

迂回される3か所

糖新生が迂回する不可逆段階は、ヘキソキナーゼ(→\to グルコース6-ホスファターゼ)、ホスホフルクトキナーゼ(→\to フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)、ピルビン酸キナーゼ(→\to ピルビン酸カルボキシラーゼとPEPカルボキシキナーゼ)の3か所である。設問はフルクトースを指定しているが、3か所すべてが「キナーゼ対ホスファターゼ等」の構図であることに触れると、一般性のある答案になる。

問4-8 核内へのタンパク質の輸送・GTP・核局在シグナル配列・ゲル状の網目構造

4語を「荷札・関門・運び手・向き」に割り当てる

核局在シグナル配列が荷札、ゲル状の網目構造が関門、インポーチンが運び手、GTP(Ran)が向きを決める仕組みである。この対応表を頭に置いて書けば、4語すべてに役割を与えた答案になる。どれか1語が浮いてしまうのが典型的な失点である。

選択的な関門という考え方

FGリピートは秩序をもたない領域どうしが弱く絡み合って網目を作る。受容体をもたない大きな分子は通れないが、受容体はFGリピートと繰り返し結合と解離を繰り返しながら網目に溶け込むように通過する。「小さければ通る」という単純なふるいではなく、相互作用の有無で選ぶ関門である点が要点である。

他の輸送との違い

ミトコンドリアや小胞体への輸送では、タンパク質は伸びた状態でトランスロケータを通る。核輸送は折りたたまれたまま、複合体のままでも通れる点が際立って違う。また、シグナル配列が切断されずに残るため、分裂後の核膜再形成のたびに再輸送できる。字数に余裕があればこの対比を一言入れると理解の深さが伝わる。

問4-9 リソソーム・オートファジー・自食胞

階層の違いを最後に一文で言う

過程(オートファジー)、中間体(自食胞)、装置(リソソーム)という3階層である。並列の3語ではなく階層が違うことを明示するのが、この設問の「違いや関連性」への答えになる。

なぜリソソームは酸性か

加水分解酵素群は酸性 pH\mathrm{pH} で最大活性を示すよう最適化されている。仮にリソソーム膜が破れて酵素が中性の細胞質に漏れても、活性が低いため細胞全体が消化されることはない。区画化と pH\mathrm{pH} の組み合わせが安全装置になっているという説明は、字数の余りに置く一文として使いやすい。

生理的な意味づけ

飢餓時にはmTORによる抑制が外れてオートファジーが誘導され、細胞内成分を分解してアミノ酸を供給する。また、損傷ミトコンドリアや凝集タンパク質を選択的に除く経路もあり、神経変性疾患との関連が指摘されている。単なる分解ではなく、栄養の再利用と品質管理という2つの役割があることに触れると、説明に厚みが出る。

語句説明:三語の関係を100〜200字で結ぶの途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — ゲノムと倍数性:定義と研究計画の立案

「遺伝子の集まり」と書かない

最も多い失点が、ゲノムを遺伝子の総体と定義してしまうことである。ヒトゲノムのうちタンパク質をコードする部分はごく一部で、残りの大半は非コード領域である。「全塩基配列」と書けば、この点を外さない。

半数体という限定が要る理由

体細胞は2組の染色体をもつが、そこに含まれる情報は同じものの2部である。情報としての一揃いを言うには半数体1組と限定する必要がある。この限定は問5-2の倍数性の議論に直結する。倍数性が変わっても「ゲノムの内容」は変わらず、「ゲノムの組数」が変わるのだ、という区別を最初に立てておくと、以降の論述が明快になる。

ゲノムサイズと生物の複雑さ

ゲノムサイズは生物の複雑さと比例しない。ある種のアメーバやユリはヒトより桁違いに大きなゲノムをもつ。この不一致は反復配列や倍数化の履歴によるところが大きく、Cバリューのパラドックスと呼ばれる。倍数性を扱う本問の文脈で、この一言は自然につながる。

問5-2 研究テーマ1:倍数性が変化して子孫に受け継がれる仕組み

仮説を2つ立てて比較する形にする

研究計画の設問では、「Aを調べる」ではなく「AとBのどちらが主要かを判別する」という形にすると、方法と期待される結果が自動的に対応づく。ここでは減数分裂由来か体細胞由来かという二択を最初に置いた。判別の指標は、倍加が配偶子形成の段階で見えるか、受精後の胚で見えるかである。

対照を明示する

変異体の2n配偶子頻度を測るなら、必ず同じ条件で育てた野生型を並べる。人為誘導なら未処理区を置く。設問は方法を問うているので、対照の置き方を1行書くだけで実験計画としての体裁が整う。

なぜ3倍体が不稔になるか

減数第一分裂では相同染色体が2本ずつ対になって両極へ分かれる。3本あると1本が余り、どちらの極へ行くかが染色体ごとに独立に決まるため、生じる配偶子はほぼすべて異数体になる。この機構的な理由まで書けると、単なる事実の記述から一段深い答案になる。同じ理由が研究テーマ3の三倍体不稔の産業利用に直結する。

問5-2 研究テーマ2:細胞レベルにおける倍数性の観測

細胞周期とのまぎらわしさを先回りする

2倍体の G2\mathrm{G_2} 期の細胞は4CのDNA量をもつので、DNA量だけを1点測っても4倍体の G1\mathrm{G_1} 期と区別できない。区別できるのはヒストグラムの形(どこに主ピークがあり、どこに副ピークがあるか)と、標準試料との相対位置である。この落とし穴に触れておくと、測定原理を理解していることが伝わる。上の図で2つのピークの比が常に 1:21:2 である点が判別の鍵になる。

手法の使い分けを理由づける

フローサイトメトリーは速く多数の細胞を測れるが、どの染色体が増えたかは分からない。染色体計数は情報量が多いが分裂細胞が必要で手間がかかる。FISHは間期核でも特定座位を見られるが、ゲノム全体は見られない。「速さ・分解能・必要な細胞状態」の3軸で並べると、複数の手法を挙げる意味が説明できる。

内倍加という現象に触れる

同じ個体の中でも組織によって倍数性が違うことは珍しくない。ヒトの肝細胞や巨核球、植物の胚乳や毛状突起は内倍加により高次の倍数性をもつ。個体の倍数性と細胞の倍数性を区別して論じられると、「細胞レベルにおける観測」という設問の限定に正しく応えたことになる。

問5-2 研究テーマ3:生物の倍数性に着目した産業応用

原理→\to作出法→\to検定→\to評価の順に書く

産業応用のテーマでは、思いつく実例を並べるだけになりやすい。原理を先に述べ、作出法、倍数性の確認、形質評価という工程順に並べると、研究計画としての形になる。とくに「作った個体が本当に目的の倍数性か」を確認する工程を落とさないことが重要で、ここで研究テーマ2の手法が再び登場する。3つのテーマが独立ではなく積み上がっている、という構成に気づけると答案全体が一貫する。

利点と制約を両方書く

期待される結果を問われているので、望ましい効果だけでなく、生育の遅れや繁殖法の制約といった代償にも触れる。研究計画としての誠実さが評価されるうえ、字数も自然に埋まる。

どの生物を選ぶかで説得力が変わる

コムギ(6倍体)、ワタ、ナタネは異質倍数体化が育種の歴史そのものである。スイカ、バナナ、カキ、マガキ、ニジマスは三倍体不稔の利用例である。1つか2つを具体名で挙げると、抽象論に終始した答案との差が明確になる。逆に、実例を並べるだけで原理に触れないと、「方法と期待される結果」という指示に答えていない答案になる。

ゲノムと倍数性:定義と研究計画の立案の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(全5問)

    細胞生物学:細胞内区画・空欄補充・正誤判定 / 生命の系統・観察法・化学結合・DNA複製 / 生物工学の計算:ライブラリ・制限酵素地図・増殖速度・拡散

  • 2025年度(このページ・全5問)

    分子生物学:DNA複製装置・塩基配列決定法・アミノ酸の側鎖 / 生化学・細胞生物学:代謝中間体、シグナル伝達、光合成、細胞分裂 / 生体エネルギー論:ATPの自由エネルギーと細胞スケールの見積もり

  • 2024年度(全5問)

    細胞生物学:細胞骨格・モータータンパク質・重合を制御する分子 / 細胞生物学:タンパク質の選別輸送と小胞輸送 / 膜輸送の速度論:グルコース輸送体の酵素反応論と定量計算

  • 2023年度(全5問)

    遺伝子発現制御とタンパク質機能 / 細胞周期と細胞分裂 / 膜輸送と神経シグナル

  • 2022年度(全5問)

    分子生物学:大腸菌の DNA 複製と損傷修復 / 細胞生物学:細胞外マトリックスと上皮の細胞間結合 / 遺伝子工学:核酸塩基の同定と PCR の原理・設計

2025年度の出題内容

全5問

この5問の分野は生物3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問生物DNA複製装置・塩基配列決定法・アミノ酸の側鎖答案の組み立て / 混同しやすい組あり
第2問生物代謝中間体、シグナル伝達、光合成、細胞分裂構造から名前を出す手順 / なぜPEPが高エネルギーかあり
第3問生物ATPの自由エネルギーと細胞スケールの見積もりこの式が後の設問で効く / 呼吸商という確認あり
第4問三語の関係を100〜200字で結ぶ3語を階層で並べる / なぜ抗体でジスルフィド結合が目立つのか—
第5問定義と研究計画の立案「遺伝子の集まり」と書かない / 半数体という限定が要る理由あり

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 5問 → 2025年度 5問
2024年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
専攻・科目別に掲載(情報基礎数学は2005〜2026年度、情報数理・生物情報は2022〜2026年度など)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
学内英語試験は著作権の関係で問題非公開。模擬問題の参照を推奨。
院試hubの最終確認
2026-09-26
大阪大学の公式過去問PDF