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阪大 情報科学研究科 生物情報 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問の分野は生物4問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 細胞生物学:細胞骨格・モータータンパク質・重合を制御する分子

太さで一気に決める

25 nm25\,\mathrm{nm}(微小管)、10 nm10\,\mathrm{nm}(中間径フィラメント)、7 nm7\,\mathrm{nm}(アクチン)の3つの数値を覚えていれば、問1-1は数秒で片づく。名前の「中間径」は、微小管とアクチンの中間という意味である。力学的性質も、太い管ほど曲げ剛性が高く、縄状の束ほど引っ張りに強い、という素直な対応になっている。

ヌクレオチドの違いを混ぜない

微小管はGTP、アクチンフィラメントはATPを結合・加水分解する。動的不安定性とトレッドミリングはどちらも「重合後の加水分解によって、新しい端と古い端の性質が変わる」ことから生じる姉妹のような現象だが、問1-4のように名称を分けて問われたら取り違えは致命的である。

モーターの向きを取り違えないために

細胞質ダイニンは核・中心体方向(マイナス端向き)、キネシンは細胞辺縁方向(プラス端向き)と、細胞内の地理で覚えると安定する。軸索では微小管のプラス端が末端を向いているので、キネシンが順行輸送、ダイニンが逆行輸送を担う、という具体例を一言添えると理解の深さが伝わる。なお、キネシンスーパーファミリーにはマイナス端向きに動く例外もあるので、答案では「一般的には」という設問の但し書きに沿って書けばよい。

問1-5〜1-7 微小管とアクチンに作用する薬剤

2軸で整理すると全部書ける

薬剤は「単量体に効くか、フィラメントに効くか」と「安定化するか、脱重合させるか」の2軸で必ず分類できる。コルヒチンとラトランクリンは単量体側で重合を止める同じ型、ファロイジンとタキソールはフィラメント側を固める同じ型、サイトカラシンは端をふさぐ第3の型である。この対応を一言書くと、暗記ではなく仕組みで答えていることが伝わる。

「安定化しても止まる」が山場

問1-5と問1-6は、正反対の作用なのに同じ分裂中期停止という結果になる。ここを説明できるかが採点の分かれ目で、鍵は「紡錘体に必要なのは微小管の量ではなく動態である」という一文である。染色体の捕捉も、中期板への整列も、後期の分離も、微小管が伸び縮みできることを前提にしている。

答案の分量

問1-5・1-6は「説明せよ」なので、微小管に対する作用と細胞に対する結果の2段を必ず書く。微小管への作用だけで止めると設問の半分しか答えていない。問1-7は3剤それぞれ1行ずつで足りる。

問1-8〜1-10 単量体プールの制御、筋原線維、中間径フィラメントの架橋

選択肢が2問で共通であることを使う

問1-8と問1-10は同じ5語から選ぶ形式なので、5語を「アクチン系(チモシン、プロフィリン)」「微小管系(チューブリン)」「中間径フィラメント系(ラミン、プレクチン)」に先に仕分けてしまえば、両問が同時に片づく。ラミンは中間径フィラメントの構成サブユニットそのもので、架橋タンパク質ではない点が引っかけになっている。

プロフィリンを迷ったときの考え方

プロフィリンは伸長を助ける側面もあるため、「重合を抑えるもの」に含めてよいか迷いやすい。判断の基準は、設問が問うているのが「すべてが重合してしまわないように単量体に結合しているか」である点で、プロフィリンは細胞内でG-アクチンの大半に結合している主要な単量体結合タンパク質だから含める。逆に、プロフィリンだけを外して単量体プールが説明できるかを考えると、答えが確かめられる。

ミオシンIIと表記する意味

ミオシンには多数のクラスがあり、細胞質で小胞を運ぶミオシンVのように単量体で働くものもある。太いフィラメントをつくれるのは尾部でコイルドコイルを組める二量体型、すなわちミオシンIIである。単に「ミオシン」でも正解になるが、クラスまで書けると筋収縮以外のミオシンも区別できていることが示せる。

この大問が試していること

細胞骨格の3系統について、サブユニットの太さ、極性、結合ヌクレオチド、制御タンパク質、薬剤という5枚の対応表が頭に入っているかを、角度を変えて10回問うている。1問ずつ覚えるのではなく、系統ごとの表を1枚つくって埋める形で復習すると、翌年以降の類題にも対応できる。

解答

問1-1 フィラメントと記述の対応

3種のフィラメントは太さと力学的性質で一意に決まる。微小管は α\alpha チューブリンと β\beta チューブリンのヘテロ二量体が13本の原繊維(プロトフィラメント)をつくり、外径約 25 nm25\,\mathrm{nm} の中空の管になる。3種のうちもっとも剛直で、曲げには強いが引っ張られるとちぎれる。中間径フィラメントは直径約 10 nm10\,\mathrm{nm} の縄状の構造で、伸長方向の張力にもっとも強く、核膜の内側では核ラミナという網目をつくる。アクチンフィラメントは直径約 7 nm7\,\mathrm{nm} の二重らせんで、中空ではなく、束・平面の網・立体的なゲルなど多様な高次構造をとり、細胞膜直下の細胞皮質に濃縮する。

したがって、外径約 25 nm25\,\mathrm{nm} の中空の管で硬いという記述が微小管、核ラミナをつくり引っ張り強度に優れるという記述が中間径フィラメント、直径約 7 nm7\,\mathrm{nm} で柔軟な束や網をつくり細胞皮質に集中するという記述がアクチンフィラメントに対応する。選択肢は4つで1つ余るが、余る選択肢はアクチンの太さと微小管の断面(中空の管)を混ぜた撹乱肢で、どのフィラメントにも当てはまらない。

問1-2 モーターが進む向き

微小管は αβ\alpha\beta 二量体が同じ向きに頭尾結合して並ぶため構造上の極性をもち、β\beta チューブリンが露出する側をプラス端、α\alpha チューブリンが露出する側をマイナス端と呼ぶ。細胞質ダイニンはマイナス端に向かって進み、キネシン(キネシン-1に代表される従来型)はプラス端に向かって進む。動物細胞では微小管のマイナス端が中心体に埋め込まれているので、ダイニンは細胞中心へ、キネシンは細胞辺縁へ荷物を運ぶことになる。

問1-3 歩行に使うエネルギー

どちらのモーターも頭部(モータードメイン)が ATP アーゼであり、ATP の加水分解 ATP+H2O⟶ADP+Pi \mathrm{ATP}+\mathrm{H_2O}\longrightarrow \mathrm{ADP}+\mathrm{P_i} が放出する自由エネルギーを使う。ATP の結合、加水分解、ADP と Pi\mathrm{P_i} の解離という化学サイクルに合わせて、頭部の微小管への親和性と首部(ネックリンカー)の向きが周期的に変わり、これが一方向の歩みに変換される。

問1-4 重合体の長さを制御する仕組み

微小管では、同一の端が伸長と急速な短縮の間を確率的に行き来する。この現象を動的不安定性という。チューブリンは GTP を結合した状態で付加され、重合後に GTP が加水分解されるので、伸長が速い間は先端に GTP キャップが残って安定だが、キャップが失われるとカタストロフが起こって一気に脱重合する。

アクチンフィラメントでは、プラス端での付加とマイナス端での解離が同じ速さでつり合うと、フィラメント全体の長さを変えないまま、サブユニットが端から端へ流れていく。これをトレッドミリング(踏み車運動)という。アクチンは ATP を結合して付加され、重合後に加水分解されるため、両端で臨界濃度が異なることがこの定常状態を可能にしている。

問1-5 コルヒチン

コルヒチンは遊離のチューブリン二量体に結合し、そのままでは微小管の末端に付加できない複合体をつくる。重合だけが止まり脱重合は続くので、動的不安定性によって縮んだ微小管が元に戻らず、細胞内の微小管は正味で失われていく。分裂中の細胞では紡錘体を組み立てられないため、染色体は中期板に整列できず、紡錘体チェックポイントが働いて細胞は分裂中期で停止する。長時間さらされた細胞は分裂を完了できず、染色体が分配されないまま死ぬか、多倍体になる。

問1-6 タキソール

タキソール(パクリタキセル)は逆に、重合した微小管の側面に結合して微小管を安定化し、脱重合を妨げる。微小管は増えて束になるが、伸長と短縮を繰り返す動的不安定性そのものが失われる。紡錘体微小管は染色体を捕まえたり張力を生んだりするために伸縮を必要とするので、動きを失った紡錘体では染色体を正しく整列・分配できず、細胞はやはり分裂中期で停止する。

問1-7 アクチンに特異的な3剤

3剤はいずれもアクチンに作用するが、狙う相手が単量体かフィラメントか、そしてフィラメントのどこに効くかで作用点が分かれる。

  • ファロイジン:重合したアクチンフィラメント(F-アクチン)の側面に結合して脱重合を妨げ、フィラメントを安定化する。蛍光標識体はアクチン線維の染色に広く使われる。

  • サイトカラシン:フィラメントのプラス端に結合して端をふさぎ(キャップし)、そこへの単量体の付加を止める。伸長が阻害され、正味では脱重合が進む。

  • ラトランクリン:アクチン単量体(G-アクチン)に結合して重合できない状態にし、重合に使える単量体プールを枯渇させる。

問1-8 単量体の重合を抑えるタンパク質

選ぶべきはチモシンとプロフィリンである。細胞内のアクチン濃度は臨界濃度をはるかに超えているので、放っておけばほぼすべてが重合してしまう。これを防いでいるのが単量体結合タンパク質である。チモシン(β4\beta_4 など)はG-アクチンに結合して隔離し、プラス端にもマイナス端にも付加できない不活性な貯蔵型にする。プロフィリンもG-アクチンに結合するが、マイナス端側の面をふさぐだけなのでプラス端への付加は可能で、結合したADPをATPに交換して再利用を促す。どちらも遊離の重合可能な単量体の量を絞る働きをもつ。

残る3つはいずれも別系統の分子である。チューブリンは微小管のサブユニット、ラミンは核ラミナをつくる中間径フィラメントタンパク質、プレクチンは細胞骨格どうしを架橋する大型タンパク質で、アクチン単量体プールの制御には関与しない。

問1-9 サルコメアの2種のフィラメント

太いフィラメントはミオシン(骨格筋ではミオシンII)が尾部どうしを寄せ集めて双極性に束ねたもので、サルコメアのA帯中央に位置する。細いフィラメントはアクチンフィラメントで、トロポミオシンとトロポニンを伴い、Z帯から中央に向かって伸びる。両者が滑り合うことでサルコメアが短縮する。

問1-10 中間径フィラメントを架橋するタンパク質

プレクチンである。プレクチンは中間径フィラメントどうしを束ねて架橋するだけでなく、アクチンフィラメント、微小管、ヘミデスモソームなどの接着装置とも結合し、3種の細胞骨格を1つの力学的な連続体としてつなぐ。

最終答

微小管:C 中間径フィラメント:D アクチンフィラメント:B

A:マイナス端(−-端) B:プラス端(++端)

ATP の加水分解(ATP→ADP+Pi\mathrm{ATP}\to\mathrm{ADP}+\mathrm{P_i})が供給するエネルギー

微小管:動的不安定性 アクチンフィラメント:トレッドミリング

チューブリン二量体に結合して重合を阻害し、微小管を消失させる。紡錘体ができず分裂中期で停止する。

微小管に結合して安定化し脱重合を阻害する。動的不安定性が失われ、紡錘体が機能せず分裂中期で停止する。

ファロイジン:F-アクチンを安定化 サイトカラシン:++端をキャップして伸長阻害 ラトランクリン:G-アクチンに結合して重合阻害

チモシン、プロフィリン

太いフィラメント:ミオシン(ミオシンII)フィラメント 細いフィラメント:アクチンフィラメント

プレクチン

第2問 — 細胞生物学:タンパク質の選別輸送と小胞輸送

4点セットで書けば形が整う

「仕組みを説明せよ」という設問は、シグナル(どの目印か)、受容体(何が読むか)、通路(どこを通るか)、エネルギー(何が向きを決めるか)の4点を書けば、必要なことがすべて入る。問2-1なら核局在シグナル、インポーティン、核膜孔複合体、Ran の GTP 加水分解。問2-2ならシグナル配列、SRP と SRP 受容体、トランスロコン、翻訳の伸長と GTP 加水分解である。設問が「介在する分子の名称をあげながら」と指定している以上、分子名を落とすと大きく減点される。

2つの経路の対比が理解の証拠になる

核輸送は折りたたんだまま、シグナルは切られず、受容体は往復して何度も使われる。小胞体輸送は伸びた鎖のまま、シグナルは切られ、通り抜けたら後戻りしない。この対比を一行添えると、暗記ではなく仕組みを比較できていることが伝わる。核膜孔は「大きな門」、トランスロコンは「細い管」と考えると、なぜ立体構造のまま通せるか/通せないかも説明できる。

失点しやすい点

Ran-GTP が多いのは核内、加水分解が起きるのは細胞質側である。ここを逆に書くと積荷が核内で放されない話になり、経路全体が破綻する。また SRP を「シグナル配列を切る酵素」と書く誤りが多いが、切断はシグナルペプチダーゼの仕事で、SRP は運び手である。

問2-3〜2-5 被覆小胞の出芽、標的への到達、小胞体での修飾

被覆の3系統を表にする

クラスリン被覆はゴルジ体から細胞膜・エンドソームへ、COPII は小胞体からゴルジ体へ、COPI はゴルジ体から小胞体へ、と行き先で覚える。問2-3のように図が手元になくても、この表さえあれば「どの被覆の話か」を先に決め、その構成タンパク質を並べる形で答案が書ける。

なぜ2段構えなのか

テザリングだけでは結合が弱く間違いを許してしまい、SNARE だけでは小胞と標的膜が出会う確率が低すぎる。遠距離で捕まえる Rab と、近距離で判定する SNARE を組み合わせることで、速さと正確さを同時に満たしている。この「粗い選別と細かい選別の直列」という考え方は、翻訳の校正や DNA 複製の校正とも共通する。

答えられない部分の扱い

公開版で図が省かれている以上、記号への当てはめを勝手に決めて書くのは危険である。実際の答案では、図の記号を見て、外側の籠・膜との仲立ち・内腔側の受容体・首を切る分子という役割の順に名前を割り当てればよい。役割で覚えていれば、クラスリン系でも COP 系でも同じ手順で答えられる。

糖鎖付加は「場所」まで書く

問2-5は名称だけを問うているが、一言添えるなら「小胞体内腔側で、翻訳と並行して起こる」ことに触れると良い。ゴルジ体で起こる O 結合型糖鎖付加や糖鎖の修飾と区別できていることが示せる。

問2-6〜2-7 輸送先を調べる方法と、細胞膜を越える2方向の輸送

「異なる原理」という条件を無視しない

問2-6でよくある失敗は、免疫蛍光染色と GFP 融合という、どちらも顕微鏡で見る方法を2つ挙げてしまうことである。設問は原理が異なることを求めているので、「見る」方法と「分ける」方法、あるいは「その場で観察する」方法と「壊して調べる」方法のように、軸の違う2つを選ぶ。近接依存性標識(BioID、APEX)と質量分析の組み合わせを第2の方法に挙げてもよい。

具体例は数を絞って正確に

問2-7の後半は「具体例を述べよ」なので、たくさん並べるより、輸送の名称と役割と例が1本の線でつながる書き方をする。たとえば「調節性エキソサイトーシス:刺激で放出のタイミングを制御する:シナプス小胞による神経伝達物質の放出」のように、機能と例を対にして書けば、1つでも十分に伝わる。

答案の組み立て方

問2-6も問2-7も、答えの骨組みが2本ずつある設問である。先に見出しだけを2つ書いてから中身を埋めると、片方だけ厚くなって時間切れになる事故を防げる。配点率25\%の大問で7問あるから、1問あたりに使える時間は多くない。

この大問が試していること

タンパク質の一生を「作られる場所」「行き先の決まり方」「運ばれ方」「届いたことの確かめ方」という4つの視点で見渡せているかを問うている。問2-6だけが実験手法を問う設問で、教科書の記述を覚えるだけでなく、それをどう確かめるかまで考えているかが差になる。

細胞生物学:タンパク質の選別輸送と小胞輸送の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 膜輸送の速度論:グルコース輸送体の酵素反応論と定量計算

切片を読むだけで2つの定数が出る

二重逆数プロットの利点は、曲線あてはめをせずに定規で2つの切片を読むだけで KmK_{\mathrm{m}} と Vmax⁡V_{\max} が決まることにある。縦軸切片が 1/Vmax⁡1/V_{\max}、横軸切片が −1/Km-1/K_{\mathrm{m}}、傾きが Km/Vmax⁡K_{\mathrm{m}}/V_{\max} という3つの対応を覚えておけば、どの値が問われても答えられる。傾き =0.100/0.500=0.200=0.100/0.500=0.200 を使って Km=K_{\mathrm{m}}= 傾き ×Vmax⁡=0.200×10.0=2.00 mM\times V_{\max}=0.200\times10.0=2.00\,\mathrm{mM} と出しても同じ値になり、これがそのまま検算になる。

阻害の型を切片で見分ける

競合阻害は縦軸切片が動かず傾きが変わる。非競合阻害は横軸切片が動かず縦軸切片が上がる(Vmax⁡V_{\max} が下がり KmK_{\mathrm{m}} は不変)。不競合阻害は傾きが変わらず、平行に上へずれる。3つを「どの切片が固定されるか」で覚えると、作図問題でも迷わない。本問は基質結合部位を奪い合うと明記されているので競合阻害である。

作図で減点されないために

解答用紙に書き込むときは、(i) 縦軸切片で元の直線と交わらせる、(ii) 傾きを明らかに大きくする、(iii) 横軸切片が原点と −0.5-0.5 の間に来る、の3点を満たすこと。元の直線と平行に描いたり、縦軸切片を上げてしまうと、別の阻害様式を答えたことになる。

問3-4〜3-6 輸送体の個数、回転数、取り込み分子数、細胞内濃度

単位換算の順番を決めておく

この一連の設問でつまずくのは、ほとんどが単位である。μmol→mol\mu\mathrm{mol}\to\mathrm{mol}(10−610^{-6} 倍)、cm3→L\mathrm{cm^{3}}\to\mathrm{L}(10−310^{-3} 倍)、min→s\mathrm{min}\to\mathrm{s}(1/601/60 倍)の3つを、式を書く前に余白に書き出しておくと事故が減る。特に問3-4は「μmol\mu\mathrm{mol} を mol\mathrm{mol} に直す」「分子数に直す」「秒に直す」「輸送体数で割る」の4段があり、どれか1つを飛ばすと桁が 10310^{3} 以上ずれる。

半径と直径を取り違えない

与えられているのは直径 20.0 μm20.0\,\mu\mathrm{m} である。r=10.0 μmr=10.0\,\mu\mathrm{m} とし、さらに cm\mathrm{cm} に直して 1.00×10−3 cm1.00\times10^{-3}\,\mathrm{cm} とする。直径のまま 4πd24\pi d^{2} としてしまうと表面積が4倍、体積は8倍ずれ、問3-4と問3-6の両方が連鎖して誤る。表面積と体積は最初に一度だけ計算して、以降は使い回すのが安全である。

検算

問3-6の結果 1.71 mM1.71\ \mathrm{mM} は、細胞外の 5.00 mM5.00\ \mathrm{mM} よりも小さい。1分間の取り込みで細胞外濃度に追いつかないのは自然な結果であり、もし 5 mM5\ \mathrm{mM} を大きく超える値が出たら体積の換算を疑う。また問3-5の 4.30×1094.30\times10^{9} 分子は、問3-4の最大速度 6.02×1096.02\times10^{9} 分子 min−1\mathrm{min^{-1}} の 5/7≃0.715/7\simeq0.71 倍になっているはずで、実際 6.02×109×5/7=4.30×1096.02\times10^{9}\times5/7=4.30\times10^{9} と一致する。ここが合えば、ミカエリス・メンテン式への代入は正しい。

回転数の値が妥当かを考える

7.99×1037.99\times10^{3} 分子 s−1\mathrm{s^{-1}} は、輸送体が1ミリ秒に約8分子を通す速さである。実際の糖輸送体の回転数は 102∼103 s−110^{2}\sim10^{3}\ \mathrm{s^{-1}} 程度で、イオンチャネルの 107∼108 s−110^{7}\sim10^{8}\ \mathrm{s^{-1}} よりずっと遅い。今回の値はやや速めだが桁としては輸送体の範囲に収まっており、チャネルの桁になったら計算を疑う、という感覚をもっておくとよい。

問3-7 輸送体による取り込みと単純拡散の比較

PP の定義から式を組み立てる

膜透過係数の単位 cm min−1\mathrm{cm\ min^{-1}} だけを見ると速度のようだが、設問文が定義を書いてくれているので、その通りに「面積 ×\times 時間 ×\times 濃度差あたりの物質量」と読めば J=PSΔcJ=PS\Delta c が自然に出る。単位で確かめると cm min−1×cm2×mol cm−3=mol min−1\mathrm{cm\ min^{-1}}\times\mathrm{cm^{2}}\times\mathrm{mol\ cm^{-3}}=\mathrm{mol\ min^{-1}} となり、物質量の流れの単位に合う。式を暗記していなくても、単位を合わせにいけば必ず組み立てられる。

リットルと立方センチメートルの取り違えが最大の落とし穴

PP が cm\mathrm{cm} を単位にしているので、濃度も mol cm−3\mathrm{mol\ cm^{-3}} にそろえる。5.00×10−3 mol L−15.00\times10^{-3}\ \mathrm{mol\ L^{-1}} をそのまま代入すると答えが1000倍になり、6.32×1046.32\times10^{4} 倍という値が出る。答えの桁が3桁以上ずれたら、まずこの換算を疑うとよい。

結果の生物学的な意味

輸送体があることで取り込みが約63倍に増える、というのがこの計算の結論である。グルコースは極性が高く脂質二重層をほとんど通れないため、細胞は膜面積あたり 10910^{9} 個という高い密度で輸送体を並べて、この差を作り出している。逆に酸素や二酸化炭素のように膜透過係数が桁違いに大きい分子には、専用の輸送体が要らない。数値計算の最後に、この一文を添えると答案の質が上がる。

この大問が試していること

酵素反応論の式を暗記しているかではなく、与えられた図と定義から式を立て、単位をそろえて数値を出し、その値が生物として妥当かを判断できるか、という一連の力を見ている。途中式を丁寧に残すことが、そのまま部分点につながる形式でもある。

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第4問 — 生化学・生物物理:語句の意味と相互の関係を述べる論述

答案の型を1つ決めておく

9問すべてに使える型は「(1) 各語を1文で定義する、(2) 何を軸に分かれるかを述べる、(3) どこでつながるかを述べる」の3段である。200字なら、定義に120字、違いに40字、関連に40字くらいの配分になる。この型を最初に決めておけば、知識の多寡にかかわらず答案の形が崩れない。

「原生動物」の位置づけが問4-1の山場

4語のうち3語が原核生物に関する語で、原生動物だけが真核生物である。この非対称性に気づいて明示することが、この設問の答えの中心になる。単に4語の定義を並べただけの答案は、設問の「違いや関連性」に触れていないため点が伸びない。3ドメイン説(細菌、古細菌、真核生物)を一言添えると、整理の枠組みが示せる。

顕微鏡は「何で見るか」より「何が見えるか」で書く

問4-2は原理の違い(光か電子か)だけを書くと表面的になる。分解能の数値、生きたまま見られるかどうか、内部を見るのか表面を見るのか、という「使い分けの根拠」まで書くと、実験を組み立てられることが伝わる。第2問の問2-6と地続きの内容でもある。

語句の表記について

問4-3の第1語は問題冊子では「電子核」と印刷されているが、他の3語がいずれも化学結合に関する語であること、および原子核と電子殻を区別する文脈から、電子殻(電子のエネルギー準位の層)を指すものとして解答した。試験場で表記に迷った場合は、解釈を答案の冒頭に一言書いてから論を進めればよい。

問4-4〜4-6 同位体と異性体、エネルギー共役、炭水化物

階層の違いを軸にする

問4-4は「原子核の中の違いか、分子の形の違いか」、問4-6は「物質の分類か、その物質が作る構造か」という具合に、語の階層がそろっていない組が多い。この不揃いこそが出題の狙いであり、階層の違いを明示すると答案が一気に締まる。逆に、同じ平面に並べて比較しようとすると論が混乱する。

共役の条件を落とさない

問4-5でよくある不十分な答案は、「ΔG\Delta G の和が負ならよい」で止めるものである。実際には、共通中間体を介するか同じ酵素上で連結しているという機構上の条件が要る。たとえばグルコースのリン酸化は、ATP の加水分解と別々に起こるのではなく、ヘキソキナーゼがリン酸基を直接グルコースへ移すことで初めて共役になる。この具体例を1つ添えると説得力が増す。

数値を1つ入れる

200 nm200\,\mathrm{nm}、−30.5 kJ mol−1-30.5\,\mathrm{kJ\,mol^{-1}} のような具体的な数値を1つ入れると、定義の丸暗記ではないことが伝わる。ただし字数が限られているので、数値は1問につき1つで十分である。

問4-7〜4-9 光化学反応、プロトン駆動力、ラクターゼと家畜化

2語の組は「因果」でつなぐ

問4-7と問4-9はいずれも2語だけの組で、定義を2つ書くと余白が余る。こういう組は、片方がもう片方の原因や結果になっている場合がほとんどである。スペシャルペアは電荷分離の起点、家畜化はラクターゼ活性持続が選択される環境を作った原因、というように因果でつなぐと、200字がちょうど埋まり、内容も濃くなる。

式を1本入れると強い

問4-8は言葉だけでも書けるが、Δp=Δψ−(2.3RT/F)ΔpH\Delta p=\Delta\psi-(2.3RT/F)\Delta\mathrm{pH} を書けば、2つの成分が足し合わされて1つの駆動力になるという関係が一目で示せる。字数の節約にもなる。37 ∘C37\,^\circ\mathrm{C} で 60 mV60\,\mathrm{mV} という換算を添えると、なぜミトコンドリアでは膜電位が主成分になるのかまで説明できる。

問4-9は生物情報らしい設問

一見すると生化学と歴史の雑学のように見えるが、実際には集団遺伝学とゲノム解析の話である。ラクターゼ活性持続の変異が正の選択を受けた証拠は、その変異のまわりの染色体領域でハプロタイプが長く保存されている(連鎖不平衡が長距離に及ぶ)ことから示された。この、選択の痕跡をゲノムから読み取るという発想に一言触れられると、専攻との結びつきが伝わる。

時間配分

配点率25\%の大問に9つの論述があるので、1問あたり5分程度しかない。書ける組から先に片づけ、迷った組には解釈を明示したうえで書けるところまで書く。空欄が最も損である。

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第5問 — 分子生物学・研究構想:セントラルドグマと α ヘリックスのキラリティ

200字で何を落とし何を残すか

残すのは、(1) 一方向であること、(2) 転写と翻訳という2段階の名称と担い手(RNA ポリメラーゼ、リボソーム)、(3) コドンと tRNA による対応づけ、(4) 遺伝暗号の普遍性、の4点である。落としてよいのは、プロモーターの構造、開始因子や伸長因子の名前、ポリペプチドの折りたたみである。字数制限のある論述では、削る判断そのものが採点対象になる。

逆転写を「例外」と書くときの注意

逆転写酵素の発見でセントラルドグマが否定された、という書き方は誤りである。クリックが述べたのは「いったんタンパク質に移った配列情報は、再び核酸へは戻せない」ということであり、核酸どうしの間で情報が行き来することは元々否定されていない。字数に余裕があればこの区別を書き添えると、原則の意味を正確に理解していることが示せる。

この設問の位置づけ

問5-2で「タンパク質の立体構造を人工的に変える研究」を構想させる前提として、配列情報がどこから来てどう形になるかを確認させる設問である。したがって問5-2に進んだとき、遺伝子の改変で狙えるのは一次構造までであり、らせんの向きは一次構造とアミノ酸の立体化学から決まる、という筋道が自然に見えてくる。

問5-2 らせんの向きに関する3つの研究計画

条件を満たしていることを見える形にする

この設問の採点は、研究内容そのものの独創性より、条件を守った構想になっているかを見ている可能性が高い。「3つの研究は用いる手法が異なるように設計せよ」という条件に対しては、答案の冒頭に「テーマ1は計算とデータ解析、テーマ2は合成と細胞への実装、テーマ3はスクリーニングと応用評価」と宣言してから各論に入るのが最も安全である。同じ実験手法が2つのテーマにまたがっていないかを、書き終えてから確認する。

各テーマに「判定基準」を必ず書く

研究計画で最も見られるのは、何をもって成功とするかが書いてあるかどうかである。テーマ1なら計算値と PDB の出現頻度の相関、テーマ2なら CD スペクトルの符号反転と結晶構造の (ϕ,ψ)(\phi,\psi)、テーマ3なら解離定数と血漿中半減期、というように、測る量と判定の基準を1つずつ添える。手法の名前を並べただけの計画は、具体性を欠くと判断される。

「なぜ右巻きか」を問いとして分解する

テーマ1は、そのままでは「なぜ」という漠然とした問いである。これを、(a) 左巻きが物理的に不安定か、(b) 不安定なのは L\mathrm{L} アミノ酸を使うからか、(c) では L\mathrm{L} アミノ酸はなぜ選ばれたか、という3つの答えられる問いに分解して順に潰す形にすると、研究計画として成立する。この「問いの分解」を明示的に書くことが、構想力を示す最も分かりやすい方法である。

図をどう使うか

図の使用は任意だが、(ϕ,ψ)(\phi,\psi) 平面に右巻きと左巻きの領域を描いた図を1枚添えると、テーマ1の主張(左巻き領域が狭い)とテーマ2の目標(狭い領域を安定化する)が同じ図の上で説明でき、3つのテーマの関係も整理できる。装飾のための図ではなく、複数のテーマをつなぐ図であることが望ましい。

この大問が試していること

筆記試験2として60分を1題に充てる形式から見て、知識の量ではなく、与えられた事実から問いを立て、手法を選び、検証可能な形にまとめる力を見ている。専攻が情報科学研究科であることを踏まえれば、3つのうち少なくとも1つで計算・データ解析を主軸に据えるのは自然な選択であり、実験系のテーマでも解析の段階を具体的に書けると評価されやすい。

分子生物学・研究構想:セントラルドグマと α ヘリックスのキラリティの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(全5問)

    細胞生物学:細胞内区画・空欄補充・正誤判定 / 生命の系統・観察法・化学結合・DNA複製 / 生物工学の計算:ライブラリ・制限酵素地図・増殖速度・拡散

  • 2025年度(全5問)

    分子生物学:DNA複製装置・塩基配列決定法・アミノ酸の側鎖 / 生化学・細胞生物学:代謝中間体、シグナル伝達、光合成、細胞分裂 / 生体エネルギー論:ATPの自由エネルギーと細胞スケールの見積もり

  • 2024年度(このページ・全5問)

    細胞生物学:細胞骨格・モータータンパク質・重合を制御する分子 / 細胞生物学:タンパク質の選別輸送と小胞輸送 / 膜輸送の速度論:グルコース輸送体の酵素反応論と定量計算

  • 2023年度(全5問)

    遺伝子発現制御とタンパク質機能 / 細胞周期と細胞分裂 / 膜輸送と神経シグナル

  • 2022年度(全5問)

    分子生物学:大腸菌の DNA 複製と損傷修復 / 細胞生物学:細胞外マトリックスと上皮の細胞間結合 / 遺伝子工学:核酸塩基の同定と PCR の原理・設計

2024年度の出題内容

全5問

この5問の分野は生物4問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問生物細胞骨格・モータータンパク質・重合を制御する分子太さで一気に決める / ヌクレオチドの違いを混ぜないあり
第2問生物タンパク質の選別輸送と小胞輸送4点セットで書けば形が整う / 2つの経路の対比が理解の証拠になるあり
第3問グルコース輸送体の酵素反応論と定量計算切片を読むだけで2つの定数が出る / 阻害の型を切片で見分けるあり
第4問生物語句の意味と相互の関係を述べる論述答案の型を1つ決めておく / 「原生動物」の位置づけが問4-1の山場あり
第5問生物セントラルドグマと α ヘリックスのキラリティ200字で何を落とし何を残すか / 逆転写を「例外」と書くときの注意あり

2024年度の解説には検算1件・失点しやすい点1件が付いています。

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 5問 → 2024年度 5問
2023年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
専攻・科目別に掲載(情報基礎数学は2005〜2026年度、情報数理・生物情報は2022〜2026年度など)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
学内英語試験は著作権の関係で問題非公開。模擬問題の参照を推奨。
院試hubの最終確認
2026-09-26
大阪大学の公式過去問PDF