院試hub

九大 数理学府 数理学コース 基礎科目 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問の分野は線形代数2問、微分積分・解析2問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 線形代数:像と核から作られる部分空間の次元

方針

「取りうる値を全て挙げよ」という問いなので,必要条件(範囲の評価)と十分条件(実現例)の両方を書く。 評価の核心は,ff を UU に制限して次元定理を使う一手である。 UU は Im⁡f\operatorname{Im}f を含むので f(U)⊂Im⁡ff(U)\subset\operatorname{Im}f,したがって dim⁡f(U)≤2\dim f(U)\le 2 となり, k=dim⁡U−dim⁡f(U)k=\dim U-\dim f(U) が dim⁡U\dim U から高々2だけ小さい値に収まる。 この見方をとると,WW と ff を動かす自由度が「r=dim⁡(W∩Im⁡f)r=\dim(W\cap\operatorname{Im}f)」と「dim⁡f(U)\dim f(U)」の 2つに整理され,表のように系統的に例を作れる。

下限が1になる別の見方

制限写像を使わずに,次元公式 dim⁡(U∩Ker⁡f)=dim⁡U+dim⁡Ker⁡f−dim⁡(U+Ker⁡f) \dim(U\cap\operatorname{Ker}f)=\dim U+\dim\operatorname{Ker}f-\dim(U+\operatorname{Ker}f) から出すこともできる。W⊂UW\subset U より dim⁡U≥3\dim U\ge 3,また U+Ker⁡f⊂VU+\operatorname{Ker}f\subset V より dim⁡(U+Ker⁡f)≤7\dim(U+\operatorname{Ker}f)\le 7 だから k ≥ 3+5−7=1. k\ \ge\ 3+5-7=1 . 上限は U∩Ker⁡f⊂Ker⁡fU\cap\operatorname{Ker}f\subset\operatorname{Ker}f から直ちに k≤5k\le 5 である。 どちらの筋でもよいが,等式をまず書いてから不等式に落とすと,どの項をどう評価したかが明確になる。

実現例の作り方

2つの極端な ff を用意するのが早い。f1f_1 は Im⁡f∩Ker⁡f=0\operatorname{Im}f\cap\operatorname{Ker}f=0 の射影型で, UU の中の Im⁡f\operatorname{Im}f 部分がまるごと核の外に出るため kk が小さくなる。 f2f_2 は Im⁡f⊂Ker⁡f\operatorname{Im}f\subset\operatorname{Ker}f のべき零型(f22=0f_2^2=0)で, WW も核の中に取れば UU 全体が核に入り kk が最大になる。 そのうえで WW を Im⁡f\operatorname{Im}f にどれだけ重ねるか(rr)で1ずつ動かす。

検算

表の各行で k=dim⁡U−dim⁡f(U)k=\dim U-\dim f(U) と,直接計算した U∩Ker⁡fU\cap\operatorname{Ker}f の次元が一致している。 また,どの行でも dim⁡U−2≤k≤min⁡{dim⁡U, 5}\dim U-2\le k\le\min\{\dim U,\ 5\} が成り立ち,先に導いた範囲と矛盾しない。 k=5k=5 の行では U=Ker⁡f2U=\operatorname{Ker}f_2 となり,上限にちょうど達している。

失点しやすい点

第一に,V=Im⁡f⊕Ker⁡fV=\operatorname{Im}f\oplus\operatorname{Ker}f を暗黙に仮定してしまう誤りが多い。 f ⁣:V→Vf\colon V\to V であっても像と核が直和になるとは限らず(f2=0f^2=0 の例がその反例), これを仮定すると k=4,5k=4,5 が抜け落ちる。 第二に,W∩Im⁡f=0W\cap\operatorname{Im}f=0 と決めつけると k=1,2k=1,2 が抜ける。 WW は任意の3次元部分空間なので,Im⁡f\operatorname{Im}f を含んでしまう場合も考える。 第三に,答えは値の集合であるから,例を1つ挙げただけでも,範囲の評価だけでも完答にならない。

この設問が試していること

次元定理を,写像そのものではなく適切に選んだ部分空間への制限に対して使えるかどうか, および,次元だけが指定された抽象的な条件に対して具体的なモデルを構成できるかどうかである。

解答

記号と基本の次元

V=R7V=\mathbb R^7,dim⁡W=3\dim W=3,dim⁡Im⁡f=2\dim\operatorname{Im}f=2 とする。次元定理より dim⁡Ker⁡f=dim⁡V−dim⁡Im⁡f=7−2=5. \dim\operatorname{Ker}f=\dim V-\dim\operatorname{Im}f=7-2=5 . 以下 U:=W+Im⁡f,k:=dim⁡(U∩Ker⁡f) U:=W+\operatorname{Im}f,\qquad k:=\dim\bigl(U\cap\operatorname{Ker}f\bigr) と置く。さらに r:=dim⁡(W∩Im⁡f)r:=\dim\bigl(W\cap\operatorname{Im}f\bigr) とすると 0≤r≤dim⁡Im⁡f=20\le r\le \dim\operatorname{Im}f=2 であり, 部分空間の次元公式から dim⁡U=dim⁡W+dim⁡Im⁡f−r=5−r∈{3,4,5}. \dim U=\dim W+\dim\operatorname{Im}f-r=5-r\in\{3,4,5\}.

取りうる値の範囲

ff を UU に制限した線形写像 f∣U ⁣:U→Vf|_U\colon U\to V を考える。その核は U∩Ker⁡fU\cap\operatorname{Ker}f, 像は f(U)f(U) であるから,次元定理より k=dim⁡U−dim⁡f(U). k=\dim U-\dim f(U). ここで f(U)=f(W+Im⁡f)=f(W)+f(Im⁡f)⊂Im⁡f f(U)=f\bigl(W+\operatorname{Im}f\bigr)=f(W)+f(\operatorname{Im}f)\subset \operatorname{Im}f なので 0≤dim⁡f(U)≤20\le \dim f(U)\le 2 である。したがって dim⁡U−2 ≤ k ≤ dim⁡U,すなわち3−r ≤ k ≤ 5−r. \dim U-2\ \le\ k\ \le\ \dim U, \qquad\text{すなわち}\qquad 3-r\ \le\ k\ \le\ 5-r . rr は 0,1,20,1,2 のいずれかであるから,kk は 1=3−2 ≤ k ≤ 5−0=5 1=3-2\ \le\ k\ \le\ 5-0=5 を満たす。よって k∈{1,2,3,4,5}k\in\{1,2,3,4,5\} 以外の値は起こらない。

各値を実現する例

R7\mathbb R^7 の標準基底を e1,…,e7e_1,\dots,e_7 とし,部分空間を ⟨ ⟩\langle\ \rangle で表す。次の2つの線形写像を使う。

  • f1f_1:f1(e1)=e1, f1(e2)=e2, f1(ej)=0 (3≤j≤7)f_1(e_1)=e_1,\ f_1(e_2)=e_2,\ f_1(e_j)=0\ (3\le j\le 7)。 このとき Im⁡f1=⟨e1,e2⟩\operatorname{Im}f_1=\langle e_1,e_2\rangle,Ker⁡f1=⟨e3,…,e7⟩\operatorname{Ker}f_1=\langle e_3,\dots,e_7\rangle で, f1(Im⁡f1)=Im⁡f1f_1(\operatorname{Im}f_1)=\operatorname{Im}f_1 だから dim⁡f1(U)=2\dim f_1(U)=2,よって k=dim⁡U−2k=\dim U-2 となる。

  • f2f_2:f2(e6)=e1, f2(e7)=e2, f2(ej)=0 (1≤j≤5)f_2(e_6)=e_1,\ f_2(e_7)=e_2,\ f_2(e_j)=0\ (1\le j\le 5)。 このとき Im⁡f2=⟨e1,e2⟩⊂Ker⁡f2=⟨e1,…,e5⟩\operatorname{Im}f_2=\langle e_1,e_2\rangle\subset\operatorname{Ker}f_2=\langle e_1,\dots,e_5\rangle で, 下の WW はいずれも Ker⁡f2\operatorname{Ker}f_2 に含まれるから f2(U)=0f_2(U)=0,よって k=dim⁡Uk=\dim U となる。

いずれも dim⁡Im⁡fi=2\dim\operatorname{Im}f_i=2 を満たしている。WW を次のように選ぶ。

写像

WW

rr

dim⁡U\dim U

dim⁡f(U)\dim f(U)

kk

f1f_1

⟨e1,e2,e3⟩\langle e_1,e_2,e_3\rangle

2

3

2

1

f1f_1

⟨e1,e3,e4⟩\langle e_1,e_3,e_4\rangle

1

4

2

2

f1f_1

⟨e3,e4,e5⟩\langle e_3,e_4,e_5\rangle

0

5

2

3

f2f_2

⟨e2,e3,e4⟩\langle e_2,e_3,e_4\rangle

1

4

0

4

f2f_2

⟨e3,e4,e5⟩\langle e_3,e_4,e_5\rangle

0

5

0

5

実際,たとえば1行目では U=W=⟨e1,e2,e3⟩U=W=\langle e_1,e_2,e_3\rangle であり U∩Ker⁡f1=⟨e3⟩U\cap\operatorname{Ker}f_1=\langle e_3\rangle だから k=1k=1, 3行目では U=⟨e1,…,e5⟩U=\langle e_1,\dots,e_5\rangle,U∩Ker⁡f1=⟨e3,e4,e5⟩U\cap\operatorname{Ker}f_1=\langle e_3,e_4,e_5\rangle で k=3k=3, 5行目では U=⟨e1,…,e5⟩=Ker⁡f2U=\langle e_1,\dots,e_5\rangle=\operatorname{Ker}f_2 だから k=5k=5 である。 残りの行も同様に確かめられる。以上より 1,2,3,4,51,2,3,4,5 はすべて実現する。

最終答

dim⁡((W+Im⁡f)∩Ker⁡f)\dim\bigl((W+\operatorname{Im}f)\cap\operatorname{Ker}f\bigr) の取りうる値は 1, 2, 3, 4, 51,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5 の5つである。

第2問 — 線形代数:不変部分空間と相似変換によるブロック分解

方針

A=2E+JA=2E+J と見抜けるかどうかで所要時間が変わる。この形なら Ax=2x+s(x)1Ax=2x+s(x)\mathbf 1 の1行で像が書け,行列の積を成分ごとに計算する必要がない。 固有値も,JJ が「成分和の方向に3倍,成分和0の平面上で0倍」であることから 55 と 22(重複度2)と即座に出る。特性多項式を展開してもよいが, 3小問すべてでこの表示が効くので,最初に書いておくと得である。

(1) は必要条件と十分条件を分ける

Ae1∈WAe_1\in W から α=1\alpha=1 が必要と出た段階で答えを書いてしまう答案が多い。 不変性の定義は「WW のすべての元の像が WW に入る」で, 生成元 e1,e2e_1,e_2 の像が両方とも WW に入ることと同値である。 α=1\alpha=1 のとき Ae2∈WAe_2\in W も成り立つことを確かめる1行を必ず添える。 なお e2e_2 の像から先に条件を立てると α\alpha について2つの条件が出るので, e1e_1 の側から始めるほうが計算が短い。

(3) の構造

求める形は,R3=W⊕⟨p3⟩\mathbb R^3=W\oplus\langle p_3\rangle という ff-不変な分解に対応している。 左上の 2×22\times2 ブロックが WW 上の ff の表現行列,右下の 1×11\times1 ブロックが ⟨p3⟩\langle p_3\rangle 上の作用(固有値)である。 ブロックの外側が0であることは,WW と ⟨p3⟩\langle p_3\rangle がともに不変であることと同じ意味なので, 「p3p_3 は固有ベクトル」という条件が自動的に出てくる。 λ\lambda が2に限ることまで示すと,答えの一意性を押さえた答案になる。

検算

相似変換でトレースと行列式は変わらない。 tr⁡A=3+3+3=9\operatorname{tr}A=3+3+3=9 に対し,ブロック分解後の対角和は 72+72+2=9\tfrac72+\tfrac72+2=9 で一致する。 行列式は det⁡A=3(9−1)−1(3−1)+1(1−3)=24−2−2=20\det A=3(9-1)-1(3-1)+1(1-3)=24-2-2=20, 一方 (72⋅72−32⋅32)⋅2=(12.25−2.25)⋅2=20\bigl(\tfrac72\cdot\tfrac72-\tfrac32\cdot\tfrac32\bigr)\cdot 2=(12.25-2.25)\cdot 2=20 で一致する。 さらに 2×22\times2 ブロックの固有値は 72±32=5, 2\tfrac72\pm\tfrac32=5,\,2 であり, これは WW が固有値5の 1\mathbf 1 と固有値2の (1,0,−1)T(1,0,-1)^{\mathsf T} を1本ずつ含むことと整合する。

失点しやすい点

表現行列を行に並べて転置してしまう誤りが典型だが,この問題では 2×22\times2 ブロックが対称なので (2) では表面化せず,(3) の PP の取り方で初めて食い違う。定義を1行書いてから並べる。 また,p3p_3 を固有値5の 1\mathbf 1 に取ると PP が正則にならない。 1∈W\mathbf 1\in W であることは 12e1+12e2\tfrac12e_1+\tfrac12e_2 と書けば一目で分かるので, 候補を挙げたら必ず WW に入っていないかを確かめる。 p3=(1,0,−1)Tp_3=(1,0,-1)^{\mathsf T} も固有値2の固有ベクトルだが WW に入るので不可である。

線形代数:不変部分空間と相似変換によるブロック分解の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 微分積分:連続関数を重みにもつ特異積分の極限

方針

被積分関数の特異性は t=0t=0 の近くにしかないので,そこでの ff の値 f(0)f(0) を定数として括り出し, 残りを連続性で小さく抑える,という定石で進む。 括り出した部分 x∫x1t−2dt=1−xx\int_x^1 t^{-2}dt=1-x は正確に計算できるので,これが極限の値をそのまま与える。 「主要項は厳密に計算し,差だけを評価する」という形は,特異積分や漸近展開で繰り返し現れる。

評価の順序

ε\varepsilon を取る →\to それに応じて δ\delta を固定する →\to その後で x→+0x\to+0,という順序が要である。 第2項の係数 2M/δ2M/\delta は δ\delta に依存して大きくなりうるが,δ\delta を先に固定してしまえば x→+0x\to+0 で消える定数倍にすぎない。 δ\delta を xx に連動させて動かすと,この項が制御できなくなる。

別解(ロピタルの定理)

I(x)=∫x1f(t)t2dt1/x I(x)=\frac{\displaystyle\int_x^1 \frac{f(t)}{t^2}dt}{1/x} と分数の形に直し,微分積分学の基本定理から ddx∫x1f(t)t2dt=−f(x)x2,ddx(1x)=−1x2 \frac{d}{dx}\int_x^1\frac{f(t)}{t^2}dt=-\frac{f(x)}{x^2}, \qquad \frac{d}{dx}\Bigl(\frac1x\Bigr)=-\frac1{x^2} なので,比は f(x)→f(0)f(x)\to f(0) となる。ただしロピタルの定理を使うには分子が発散する (∞/∞\infty/\infty 型である)ことが必要で,これは f(0)≠0f(0)\ne0 のときにしか保証されない。 実際 f(t)=t2f(t)=t^2 なら分子は 1−x1-x で有界である。 したがってこの筋で書くなら f(0)=0f(0)=0 の場合を別に処理する必要があり, 場合分けの要らない上の直接評価のほうが答案としては安全である。

検算

具体例で結果を確かめる。 f≡1f\equiv1 なら I(x)=1−x→1=f(0)I(x)=1-x\to1=f(0)。 f(t)=tf(t)=t なら I(x)=x∫x1dt/t=xlog⁡(1/x)→0=f(0)I(x)=x\int_x^1 dt/t=x\log(1/x)\to0=f(0) で, このとき積分自体は log⁡(1/x)\log(1/x) の程度で発散しているが,xx を掛けると消える。 f(t)=t2f(t)=t^2 なら I(x)=x(1−x)→0=f(0)I(x)=x(1-x)\to0=f(0)。 f(t)=1+tf(t)=1+t なら I(x)=(1−x)+xlog⁡(1/x)→1=f(0)I(x)=(1-x)+x\log(1/x)\to1=f(0)。 いずれも極限が f(0)f(0) に一致し,しかも「f(0)≠0f(0)\ne0 のときだけ積分が 1/x1/x の程度で発散する」 という構造も見える。

失点しやすい点

第一に,∫x1f(t)t−2dt\int_x^1 f(t)t^{-2}dt が x→+0x\to+0 で有限に留まると思い込み, 0×(有限)=00\times(\text{有限})=0 と結論する誤り。上の例のとおり,一般には発散する。 第二に,ff に微分可能性や単調性を仮定してしまう誤り。 使ってよいのは連続性から従う有界性(最大値の定理)と,t=0t=0 での連続性だけである。 第三に,平均値の定理を使って ∫x1f(t)t−2dt=f(ξ)∫x1t−2dt\int_x^1 f(t)t^{-2}dt=f(\xi)\int_x^1 t^{-2}dt と書く積分の平均値の定理は, 重み t−2t^{-2} が符号一定なので形式的には使えるが,ξ=ξ(x)\xi=\xi(x) が x→+0x\to+0 で0に近づくことを 別に示さなければ結論に届かない。上の評価はその部分を明示的にやっている。

この設問が試していること

仮定として与えられているのが連続性だけという状況で, 極限操作の順序と一様な評価を自分で設計できるかどうかである。 定理の機械的な当てはめではなく,どこに特異性があり,そこで何が効くのかを見極める力を見ている。

微分積分:連続関数を重みにもつ特異積分の極限の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 微分積分:関数項級数の一様収束と原点での増大度

方針

(1)(2) は同じ評価 ∣sin⁡(mx)/m2∣≤1/m2|\sin(mx)/m^2|\le1/m^2 から出る。 違いは「xx を固定してから評価する」か「xx について一様に評価する」かだけで, 右辺が xx に依らないことを一言書けば (1) から (2) へ渡れる。 (3) は,項別微分すると ∑mcos⁡(mx)/m\sum_{m}\cos(mx)/m となり x=0x=0 で調和級数になって発散する, という見立てが出発点である。これを厳密な議論にするには, ∑m≤N1/m≈log⁡N\sum_{m\le N}1/m\approx\log N という有限和の評価に置き換える。

(3) の分割点の選び方

N=⌊1/x⌋N=\lfloor1/x\rfloor とするのは,mx≤1mx\le1 すなわち sin⁡(mx)\sin(mx) が mxmx と同程度の大きさで 正であり続ける範囲を,ちょうど全部拾うためである。 この範囲の寄与は 2πx∑m≤N1/m≈2πxlog⁡(1/x)\frac2\pi x\sum_{m\le N}1/m\approx\frac2\pi x\log(1/x), 残りの寄与は絶対値で 1/N≈x1/N\approx x 以下。両者を xx で割ると,前者は log⁡(1/x)\log(1/x) で発散し, 後者は定数で抑えられるので差が発散する。 分割点を 1/x1/x よりずっと小さく取ると主要項の対数が足りなくなり, ずっと大きく取ると sin⁡(mx)\sin(mx) の符号を制御できなくなる。

使う不等式

Jordan の不等式 sin⁡u≥(2/π)u (0≤u≤π/2)\sin u\ge (2/\pi)u\ (0\le u\le\pi/2) は,sin⁡u/u\sin u/u が [0,π/2][0,\pi/2] で単調減少し 端点 u=π/2u=\pi/2 で 2/π2/\pi になることから従う。 定数の値は結論に影響しないので,sin⁡u≥u−u3/6≥56u (0<u≤1)\sin u\ge u-u^3/6\ge\frac56 u\ (0<u\le1) で代用してもよい。 調和和の下からの評価 ∑m=1N1/m≥log⁡(N+1)\sum_{m=1}^{N}1/m\ge\log(N+1) は, 1/m≥∫mm+1dt/t1/m\ge\int_m^{m+1}dt/t を m=1,…,Nm=1,\dots,N で足すだけで得られる。

背景

0<x<2π0<x<2\pi では ∑m≥1cos⁡(mx)/m=−log⁡(2sin⁡(x/2))\sum_{m\ge1}\cos(mx)/m=-\log\bigl(2\sin(x/2)\bigr) が知られており, これを積分すると f(x)=∫0x−log⁡(2sin⁡(t/2))dtf(x)=\int_0^x-\log\bigl(2\sin(t/2)\bigr)dt となる。 原点近くでは 2sin⁡(t/2)≈t2\sin(t/2)\approx t だから f(x)≈∫0xlog⁡(1/t) dt=x(log⁡(1/x)+1)f(x)\approx\int_0^x\log(1/t)\,dt=x\bigl(\log(1/x)+1\bigr), すなわち f(x)/x≈log⁡(1/x)+1f(x)/x\approx\log(1/x)+1 である。 本問で得た下界 2πlog⁡(1/x)−2\frac2\pi\log(1/x)-2 は,係数 2/π≈0.64<12/\pi\approx0.64<1 の分だけ弱いが 発散の速さの型は一致しており,評価が的を外していないことの確認になる。 この事実は解答には不要である。

失点しやすい点

(2) で「各 fnf_n が連続で fn→ff_n\to f だから ff も連続」と書くのは誤りである。 各点収束だけでは連続性は保たれない([0,1][0,1] 上の xnx^n が反例)。一様収束を明示する。 (3) で「項別微分すると ∑1/m\sum 1/m が発散するから f′(0)=∞f'(0)=\infty」と書くのも論証にならない。 項別微分が許されるのは微分した級数が一様収束する場合で,ここでは成り立たない。 また,下からの評価では m>Nm>N の項が負になりうることを忘れず, 絶対値で押さえた誤差項として扱う必要がある。

答案の分量

(1)(2) はそれぞれ5〜8行で十分であり,(1) の評価を (2) で再利用する形にすると短くまとまる。 残りの紙面を (3) に充て,分割点の取り方,前半の不等式,後半の誤差評価,最後の合成の 4段をはっきり分けて書くと採点者が追いやすい。

微分積分:関数項級数の一様収束と原点での増大度の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(全4問)

    連立一次方程式 / 二変数関数の極値 / 線形写像の安定像分解

  • 2025年度(全4問)

    行列空間上の線形写像 / Dirichlet積分の収束 / スペクトル半径

  • 2024年度(全4問)

    対称行列の直交対角化 / 偏微分可能性と二階微分 / トーラス上の周期点

  • 2023年度(このページ・全4問)

    線形代数:像と核から作られる部分空間の次元 / 線形代数:不変部分空間と相似変換によるブロック分解 / 微分積分:連続関数を重みにもつ特異積分の極限

  • 2022年度(全4問)

    線形代数:行列式の微分公式とロンスキアン / 線形代数:最小多項式による対角化可能性の判定 / 微分積分:関数列の各点収束と一様収束

2023年度の出題内容

全4問

この4問の分野は線形代数2問・微分積分・解析2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数像と核から作られる部分空間の次元下限が1になる別の見方 / 実現例の作り方あり
第2問線形代数不変部分空間と相似変換によるブロック分解(1) は必要条件と十分条件を分ける / (3) の構造あり
第3問微分積分・解析連続関数を重みにもつ特異積分の極限評価の順序 / 別解(ロピタルの定理)あり
第4問微分積分・解析関数項級数の一様収束と原点での増大度(3) の分割点の選び方 / 使う不等式あり

2023年度の解説には失点しやすい点4件・検算3件が付いています。

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 4問 → 2023年度 4問
2022年度の解答例

九州大学の公式過去問

公開年度範囲
数理学府の案内ページに依存
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
2027年度数理学コース一般の通常出願には英語スコアの記載なし。システム生命科学府を第2志望として併願する場合はTOEIC・TOEFLの写しを別提出。
院試hubの最終確認
2026-10-15
九州大学の公式過去問PDF