九大 数理学府 数理学コース 基礎科目 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(全4問)
全4問の分野は線形代数1問、微分積分・解析1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 線形代数:行列式の微分公式とロンスキアン
方針
公式として覚えていても証明にはならない。定義(置換による展開)に戻る,積の微分法則を1回使う,和の順序を入れ替える,の3手で終わる。答案では「有限和・有限積だから項別微分と順序交換が正当である」と一言添えると論理の穴がなくなる。
検算( で確かめる)
であり,右辺の第1項は第1行を微分した行列式,第2項は第2行を微分した行列式である。公式の形と一致する。
別の見方(多重線形性)
は行ベクトル の 重線形交代形式である。この立場では,差分 を「1行ずつ から に取り替える」伸縮和に分解し,各段で線形性を使って とすればよい。得られる構造は上と同じで,「1行だけ微分したものの和」という形は多重線形性の帰結だとわかる。
典型ミス
,つまり全成分を同時に微分した行列の行列式にしてしまう誤り。上の の計算がすでに反例になっている(一般に とは一致しない)。
設問(2) 多項式のロンスキアンが定数であること
方針
「行を1つ微分すると次の行になる」という階段状の構造がこの行列の急所である。設問(1) を適用すると, の項は行が重なって消え,最後の の項だけ別の理由(次数の仮定)で消える。
次数の仮定が効く場所
次以下という仮定は (ii) の1か所でしか使わない。逆に言えば,そこを外すと結論は崩れる。,, とすると となり定数ではない( が 次以下でない)。答案にこの一言を添えると,仮定を使った位置がはっきりする。
定数の正体
と書くと だから, を代入して となる( は から まで動く列番号)。したがって であることと が一次独立であることは同値であり,この行列式は「 次以下の多項式の空間で基底をなすか」を測る量だとわかる。設問(3) の検算にも使える。
典型ミス
の各項を「行列式だから 0」とまとめて処理しない。(i) は同じ行が2つ現れるから,(ii) は行が零になるからで,理由が異なる。また,「導関数が 0 だから定数」と言うには定義域が区間であることが要る(ここでは 全体なので問題ない)。
設問(3) 4次の場合の具体計算
方針
設問(2) で定数性が保証されているので,「どの点で計算してもよい」という自由度を使うのがこの設問の要点である。 では2階・3階の微分係数が定数項だけで決まり,0 が多く現れるので計算が最も軽い。
検算1(係数行列による公式)
設問(2) の解説で得た を使う。ここで ,第 行に の の係数を並べた行列は である。第2列は第4行以外が 0 だから となり, で一致する。
検算2(別の点で計算する)
定数性そのものを確かめるには で計算すればよい。微分係数を並べると となり,第4列に沿って展開すると第1項の3次行列式が 0 になるため,値は で同じである。値が一致しなければ微分係数の計算ミスが疑える。
失点しやすい点
「定数だから でよい」と書く前に,次数がすべて 次以下であること,すなわち設問(2) の仮定がみたされていることを必ず確認する。この一行がないと論理が飛ぶ。計算面では,0 の多い行(ここでは第2行)を選んで展開しないと4次の行列式を正面から展開することになり,符号ミスが増える。
解答
記号の準備
成分が 上の可微分関数である 次正方行列を と書く。また に対し, の第 行だけを に置き換え,他の行はそのままにした行列を と書く。示すべきことは である。
定義に戻る
行列式のライプニッツの公式より である。右辺は可微分関数の有限個の積の有限和だから, は について可微分であり,項別に微分してよい。
積の微分法則を1回使う
個の関数の積に積の微分法則を用いると,各 に対して が成り立つ。
和の順序を入れ替える
これを代入し,どちらも有限和だから と を入れ替えると を得る。 を固定したとき,中括弧の中身は「第 行が ,他の行は と同じ」である行列 のライプニッツ展開そのものである。すなわち中括弧の中身は に等しい。よって が成り立つ。
記号
を 次以下の多項式とし,第 行第 列成分が である 次行列を ,その行列式を と書く( とする)。多項式は何回でも微分できるので,設問(1) の公式がそのまま使える。
(1) を適用して各項を評価する
設問(1) より である。ここで は の第 行だけを微分した行列である。 の第 行は だから,微分すると になる。
(i) のとき,この行は の第 行と一致する。よって は第 行と第 行が等しい行列であり,同じ行を2つもつ行列式は 0 だから 。
(ii) のとき,得られる行は である。各 は 次以下だから ,すなわちこの行は零ベクトルである。零行をもつ行列式は 0 だから 。
結論
以上より,すべての で である。 は多項式なので 上可微分であり,区間 の上で導関数が恒等的に 0 だから,平均値の定理より は定数関数である。
定数であることの確認
与えられた4つの多項式の次数はそれぞれ で,いずれも 次以下である。よって設問(2) の仮定がみたされ,求める 次の行列式は によらない定数である。したがって値の求めやすい で計算してよい。
における微分係数
各多項式を3階まで微分して を代入すると,次の表を得る。
行列式の計算
求める値 は,上の表を成分とする行列の行列式である。 第2行は第4列以外がすべて 0 なので,第2行に沿って余因子展開すると となる。3次の行列式を第1行に沿って展開すると である。よって 。
最終答
行列式の導関数は,1行ずつ微分して得られる 個の行列式の和 に等しい。
が成り立つので,この行列式は 上の定数関数である。
第2問 — 線形代数:最小多項式による対角化可能性の判定
方針
与えられているのは「行列がみたす等式」だけである。等式をそのまま多項式 に読み替え,その根の様子を調べる,という一本道でよい。示すべきことは が重根をもたないことに尽きる。
固有値がどうなるか
が の固有値で を固有ベクトルとすると かつ だから ,すなわち 。固有値が と 1 の 乗根に限られることは,このように直接も確かめられる。ただし「固有値がこれらに限る」だけでは対角化可能の証明にはならない。
具体例
()は射影行列で, と分解し,固有値 で対角化される。()なら固有値は のいずれかになる。いずれも上の一般論の特別な場合である。
典型ミス
「 となる多項式があるから対角化可能」と書くのは誤りである。重根をもたないことの確認が証明の本体で,そこを落とすと点にならない。たとえば は に対して をみたすが対角化可能でない。
設問(2) 巡回ベクトルをもつ行列
方針
仮定は「 が生成する軌道が 段だけ続いてから消える」という形をしている。まずそこから基底を作り,基底の上で を確かめて冪零性に持ち込む。結論が「不可能」なので,対角化可能と仮定して矛盾を導く背理法が書きやすい。
一次独立を示す定石
係数の最小添字 をとり, を掛けて他の項を にする,という手順は冪零作用素の議論で繰り返し現れる。掛ける冪の指数を と決める根拠は,「残したい項 をちょうど に運ぶ」ことにある。
最小多項式で見る
より最小多項式は を割り切る。一方 なので ,したがって最小多項式は そのものである。 だから重根をもち,設問(1)(3) と同じ判定条件から直ちに対角化不可能が出る。3つの設問を1つの道具でそろえて書けると答案が締まる。
典型ミス
「 だから固有値は だけ,よって対角化できない」で止めると誤りである。零行列も固有値は だけだが対角化可能なので, を示す一行が必ず要る。ここで という条件が効いている。
設問(3) の2次式が対角化可能な場合
仮定「 を固有値にもたない」の使いどころ
だから, の固有値 に対する方程式は である。 のときだけこれが重根 をもち,議論が破れる。この一点を除くために仮定が置かれている,という読み方ができると見通しがよい。
仮定を外すと成り立たない
, とすると だから である。 は対角化可能だが固有値 をもち,一方 は固有値 の2次ジョルダン細胞なので対角化可能でない。すなわち「 が対角化可能」という条件だけからは の対角化可能性は従わず,固有値 を除く仮定が本質的である。
別解(固有空間に分けて考える)
と は可換だから,各固有空間 は -不変である。 は対角化可能なので と分解する。 上では が成り立ち, だから は相異なる2根をもつ。よって は各 で対角化でき,全体としても対角化できる。最小多項式を使う本解と,結局は同じことを別の言葉で述べている。
典型ミス
「 が対角化可能なら も対角化可能」と一般論として述べてしまう誤り。上の反例のとおり正しくない。また, の符号の取り方に悩む必要はない。どちらを取っても という2元集合は変わらず,議論に必要なのは「2根が相異なる」ことだけである。
第3問 — 微分積分:関数列の各点収束と一様収束
方針
「多項式的増大 等比的減少」では等比が勝つ,という事実を,数列の比 の極限が より小さいことから示すのが最短である。極限が存在することを問われているので,値が であることまで書けば十分である。
別解(対数をとる)
では であり, だから が支配して ,したがって 。 が整数でなくても使え,比の評価より短く書ける。
端点を分けて扱う理由
では となり,上の比の議論はそのままでは使えない。もっとも は代入で分かるので,端点は最初に片づけておくのがよい。 も同様である。
設問(2) への布石
極限関数 は連続である。したがって「極限関数が不連続だから一様収束しない」という定番の論法はここでは使えない。(2) では を実際に評価する必要がある。
設問(2) 一様収束するための必要十分条件
最大値を求めずに済ませる書き方
十分性だけなら, より であり, なら が出る。必要性は を代入して とすればよい。最大点を厳密に求めなくても結論は出るので,時間が足りないときはこの経路が速い。
図で見る
次の図は (境界の場合)の を について描いたものである。山の位置 は右端 に近づき,山の高さ は に近づく。各点では に収束しているのに「どの でも高さ 程度の山がどこかに残る」という状況が見える。一般の では山の高さがおよそ 倍の速さで変わるので, なら山ごと沈み, なら山が高くなっていく。
境界 の扱い
「必要十分条件」を求めよという設問なので, を含めるかどうかを判定しないと答えにならない。 を計算して除外する,という一手間が採点の分かれ目になる。 という条件が与えられているので,答えは と書くのが丁寧である。
典型ミス
各点収束することから一様収束を結論してはならない。また がコンパクトで も も連続だからディニの定理が使える,と考えるのも誤りである。ディニの定理には が各点で単調な列であるという仮定が必要だが, は によって より大きくも小さくもなり,単調ではない。
この設問が試していること
「各点収束と一様収束の違いを, の計算という形で扱えるか」である。最大点が定義域の内部を動いて端に逃げるとき,各点では収束しても一様収束が壊れる。同じ構造は (最大値 )や (最大値 )といった標準例にも現れる。最大値を求めて を評価する手順は身につけておきたい。
第4問 — 分野:第4問の内容を表す短い見出し
方針
最初の一手とその理由。
検算
数値代入・極限・境界値などによる確認。
失点しやすい点
よくある誤りと、答案に明示すべき前提。
年度別の解答例(5年度)
連立一次方程式 / 二変数関数の極値 / 線形写像の安定像分解
行列空間上の線形写像 / Dirichlet積分の収束 / スペクトル半径
対称行列の直交対角化 / 偏微分可能性と二階微分 / トーラス上の周期点
線形代数:像と核から作られる部分空間の次元 / 線形代数:不変部分空間と相似変換によるブロック分解 / 微分積分:連続関数を重みにもつ特異積分の極限
2022年度(このページ・全4問)
線形代数:行列式の微分公式とロンスキアン / 線形代数:最小多項式による対角化可能性の判定 / 微分積分:関数列の各点収束と一様収束
2022年度の出題内容
全4問
九州大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 数理学府の案内ページに依存
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 2027年度数理学コース一般の通常出願には英語スコアの記載なし。システム生命科学府を第2志望として併願する場合はTOEIC・TOEFLの写しを別提出。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-15