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東大 理学系研究科 地球惑星科学専攻 地球科学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)

全2問の分野は地質1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 第四紀・野外地質・偏光顕微鏡

方針

第I問は知識問題が中心だが、単語だけを暗記していると選択肢の時代判定や野外用語で失点しやすい。時間軸、野外での測定原理、偏光顕微鏡で実際に何を見ているかを結び付けて答える。

第四紀の年代感

第四紀は約258万年前から現在までで、更新世と完新世に分けられる。更新世のうち約77.4万年前から約12.9万年前までの中期更新世はチバニアンであり、この時期以降は氷期周期に10万年成分が卓越する。完新世は最終氷期後の約1.17万年前以降であり、現在を人類活動の地質学的影響で区分しようとする議論では人新世という名称が用いられる。

選択肢の時代判定では、ホモ属の拡散・多様化と北半球中緯度まで達する大陸氷床の発達が第四紀に対応する。中米海峡の閉鎖は主に鮮新世、地中海の大規模蒸発岩は中新世末のメッシニアン塩分危機であり、第四紀ではない。

古地磁気を境界基準にする理由

古地磁気反転は地球磁場の全球的現象なので、同じ反転面を海洋底、湖成層、火山岩、堆積物などの離れた地域で追跡しやすい。生物化石の産出や生物相の地域差に依存しにくい点が、地質時代境界の基準としての強みである。答案では「広域同時性」と「化石に依存しない」を入れると安定する。

ミランコビッチ周期の三要素

離心率は地球公転軌道の楕円度、地軸傾斜角は季節性の強さ、歳差は近日点と季節の関係を変える。氷床量は単純な全球平均日射よりも、夏に氷が融け残るかどうかに強く支配されるため、高緯度夏季日射量の変化と結び付けて理解するとよい。

走向・傾斜測定の検算

走向は面と水平面の交線方向、傾斜は走向に直交する最大傾斜方向で測る。したがって、露頭の一部だけを測るのではなく代表的な面を選ぶこと、見かけの傾斜と真の傾斜を区別すること、クリノメーターを水平にして走向を測ることはいずれも正しい。地図に記入する際は偏角補正を考える必要があり、磁北をそのまま真北として扱うとは限らないのでエは不適切である。

上下判定で書くべきポイント

上下判定は「観察される構造」と「どちらが上か」を対にして書く。例えば級化層理なら、通常の重力流堆積物で粗粒粒子が先に沈み、その後に細粒粒子が堆積するため、粗粒側が下位で細粒側が上位である。斜交層理なら、葉理が下位の侵食面に切られ、上位側へ接線状に近づく形を利用する。名前だけでは説明不足になりやすい。

鍵層の条件

火山灰層が鍵層になるには、ほぼ同時に広い範囲へ降下することと、他の層から見分けられることが必要である。識別には色や粒度だけでなく、火山ガラスの屈折率、重鉱物組成、主要・微量元素組成が使える。厚いが局所的な層、広いが特徴に乏しい層は対比の信頼性が低い。

偏光顕微鏡の要点

光学的等方体は方向によらず屈折率が一つである。ハライトは等軸晶系、ガラスは非晶質なので等方的にふるまう。方解石や黒雲母は光学的異方体で、直交ポーラー下でステージを回すと、結晶の振動方向がポーラーまたはアナライザーの方向と一致するたびに消光する。90度ごとに起こるので、1回転で4回である。

レターデーションは R=Δn t R = \Delta n\, t で表される。ここで Δn\Delta n は薄片に垂直な方向で観察される二つの屈折率の差、tt は薄片厚である。白色光では波長ごとに位相差が異なるため干渉色が現れる。鉱物固有の最大の屈折率差を複屈折と呼び、石英は低く、カンラン石は高いので、同じ厚さならカンラン石の方が一般に高次の干渉色を示す。

典型ミス

ザクロ石は結晶としては鉱物だが等軸晶系なので、通常は光学的等方体である。黒雲母のような有色鉱物を「色が濃いから不透明」と誤解して外すミスも多い。また、レターデーションと複屈折を混同しやすい。レターデーションは薄片厚を含む観察量、複屈折は鉱物の光学的性質である。

解答

(1) 第四紀
  1. 空欄は順に ア:チバニアン,イ:完新世,ウ:人新世 \text{ア:チバニアン,\quad イ:完新世,\quad ウ:人新世} である。

  2. 第四紀に起こった現象として適切なのは a, d \text{a,\ d} である。

  3. 古地磁気反転は広域で同時性をもって記録され、化石に乏しい地層にも適用しやすい。

  4. 氷期・間氷期の周期性に関係する地球軌道要素は、離心率、地軸傾斜角、歳差である。

(2) 野外地質調査
  1. 正しい選択肢は ア, イ, ウ \text{ア,\ イ,\ ウ} である。

  2. 例として、次の二つを挙げればよい。

    • 級化層理:粒径が下位から上位へ細かくなる場合、粗粒側を下位、細粒側を上位と判定する。

    • 斜交層理:前置葉理は下流側へ傾き、葉理が下位の侵食面で切られるため、切られる側を下位と判定する。

    ほかに、リップル葉理、荷重痕、火炎構造、生痕化石の向きなどを用いてもよい。

  3. 鍵層として有用な火山灰層は、短時間に広域へ堆積し、岩相・鉱物組成・ガラス化学組成などで他層から識別できる層である。

(3) 顕微鏡観察
  1. 光学的異方体は 方解石, 黒雲母, ザクロ石以外の非等軸晶系鉱物 \text{方解石,\ 黒雲母,\ ザクロ石以外の非等軸晶系鉱物} である。本問の選択肢では、方解石と黒雲母を選ぶ。

  2. 1回転中の消光回数は 4 4 回である。

  3. 空欄は順に イ:レターデーション,ウ:干渉,エ:複屈折 \text{イ:レターデーション,\quad ウ:干渉,\quad エ:複屈折} である。

最終答

(1) ア:チバニアン、イ:完新世、ウ:人新世。第四紀の現象は a・d。古地磁気の利点は、広域同時性が高く化石に乏しい層にも使えること。軌道要素は離心率・地軸傾斜角・歳差。(2) 走向傾斜はア・イ・ウ。上下判定は級化層理、斜交層理など。鍵層条件は広域同時堆積と識別容易性。(3) 異方体は方解石・黒雲母。消光は4回。イ:レターデーション、ウ:干渉、エ:複屈折。

第2問 — 沈み込み帯・変成作用・火成活動

方針

第II問は沈み込み帯を、構造、熱構造、変成相、マグマ生成、同位体進化まで一続きで説明できるかを見る問題である。断片的な用語だけでなく、「冷たいスラブが沈み込む」「水が放出される」「マントルウェッジが融ける」「地殻成分は液相濃集性元素に富む」という因果関係で整理する。

沈み込み帯の語句

海側から見ると、海洋プレートは沈み込みの手前で曲げられ、アウターライズをつくった後、海溝で沈み込む。陸側上盤には前弧、火山弧、背弧海盆が並ぶ。沈み込むスラブと上盤プレートの間にあるくさび形のマントルをマントルウェッジと呼び、その深部側はアセノスフェアに連続する。島弧火山の位置は、スラブ上面深度が約100--120 kmとなる場所に対応しやすいので、選択肢では110 kmを選ぶ。

この図は解説用の簡略図であり、公式図の写しではない。試験答案では、海溝、沈み込むスラブ、火山弧を最低限描き、その上で低温高圧型と高温低圧型の場所を示せば十分である。

対の変成帯

低温高圧型変成帯は、沈み込む冷たい海洋プレートに沿って圧力だけが早く増し、温度上昇が相対的に遅い場で生じる。代表的には藍閃石片岩、エクロジャイト、藍晶石を含む高圧型変成岩が対応する。高温低圧型変成帯は、島弧火成活動や高い地温勾配に支配された上盤側で発達し、紅柱石や珪線石を含む変成岩が出やすい。問題の相図では、低温高圧側が藍晶石、高温低圧側が珪線石である。

相図の読み方

Al2SiO5\mathrm{Al_2SiO_5} 多形は、同じ化学組成で温度圧力条件だけが異なる鉱物である。藍晶石は高圧側、紅柱石は低圧・中温側、珪線石は高温側に安定領域を持つ。相図では「左上が藍晶石、右下から右側が珪線石、低圧中温が紅柱石」と覚えると、図の細部を忘れても判断しやすい。

玄武岩質マグマの生成機構

中央海嶺ではプレートの発散でマントルが上昇し、圧力低下によってソリダスを横切る。ホットスポットでもプルーム上昇に伴う断熱減圧融解が主要である。これに対し沈み込み帯では、スラブ中の含水鉱物や堆積物が脱水し、水を含む流体がマントルウェッジへ移動する。水はかんらん岩のソリダスを下げるため、同じ温度でも融解が始まる。この違いを「水添加」と「減圧」の対比で書くと100字以内でも要点が入る。

バッチ部分融解の式の検算

バッチ融解では、融けた液と残った固相が平衡を保つ。全元素量保存より C0=FCl+(1−F)Cs C_0 = F C_l + (1-F) C_s であり、分配係数 D=Cs/ClD=C_s/C_l を用いると C0={F+D(1−F)}Cl={D+F(1−D)}Cl C_0 = \{F + D(1-F)\}C_l = \{D+F(1-D)\}C_l となる。したがって Cl=C0D+F(1−D) C_l=\frac{C_0}{D+F(1-D)} である。

今回の Nb は D=0.010D=0.010 と小さいので、液相濃集性が強い。F=0.091F=0.091 を代入すると分母は 0.010+0.091(0.990)≃0.100 0.010+0.091(0.990)\simeq 0.100 となり、Cl≃1.0/0.100=10 μg/gC_l\simeq 1.0/0.100=10\ \mu\mathrm{g/g} と与えられた値に戻る。単位は濃度比で相殺されるため、FF は無次元である。

同位体比で地殻リサイクルを読む

鍵は、親元素と娘核種、そして親元素の液相濃集性である。Rb は Sr より液相に入りやすく、U・Th も Pb より液相濃集性が強い。そのため部分融解でできた地殻は Rb/Sr や U/Pb、Th/Pb が高くなり、時間が経つと放射壊変で娘核種である 87Sr^{87}\mathrm{Sr} や放射起源 Pb が増える。これが高い 87Sr/86Sr^{87}\mathrm{Sr}/^{86}\mathrm{Sr} と高い Pb 同位体比につながる。

Nd 系では、Sm が Nd よりやや固相に残りやすいため、液相からできる地殻は Sm/Nd が低い。147Sm^{147}\mathrm{Sm} から娘核種 143Nd^{143}\mathrm{Nd} が作られるので、Sm/Nd の低い地殻は時間が経っても 143Nd/144Nd^{143}\mathrm{Nd}/^{144}\mathrm{Nd} が高くなりにくい。したがって、ホットスポット火山岩に高 Sr・Pb 同位体比と低 Nd 同位体比が同時に見られることは、沈み込んだ地殻物質がマントルへ戻り、後のマグマに混入したことを示す。

典型ミス

部分融解度を求める際、分配係数を Cl/CsC_l/C_s と逆に定義してしまうと桁が崩れる。本問では「マントル岩石とメルトの分配係数」とあるので、通常どおり固相濃度/液相濃度のバルク分配係数として使う。また、1.0 μg/g1.0\ \mu\mathrm{g/g} と 10 μg/g10\ \mu\mathrm{g/g} の単位は同じなので、ng/g に読み違えないことが重要である。

同位体の説明では、単に「地殻は Sr が高い」と書くだけでは弱い。問題で指定された「娘核種、液相、濃集性」を用い、親元素が液相に濃集し、その後の放射壊変で娘核種が増える、という時間発展まで書くと得点しやすい。

沈み込み帯・変成作用・火成活動の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(全2問)

    第四紀の海水準変動とホットスポット火山列 / 沈み込み帯の岩石循環とFo--SiO_22系相図

  • 2025年度(全2問)

    地質調査・炭素循環・地球内部 / 海洋プレートと沈み込み帯

  • 2024年度(全2問)

    海水準変動・大気酸素史・地球内部構造 / 変成岩・火山・地質構造

  • 2023年度(このページ・全2問)

    第四紀・野外地質・偏光顕微鏡 / 沈み込み帯・変成作用・火成活動

  • 2022年度(全2問)

    火成作用と微量元素分配 / 海底堆積岩の間隙率と間隙水圧

2023年度の出題内容

全2問

この2問の分野は地質1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問地質第四紀・野外地質・偏光顕微鏡第四紀の年代感 / 古地磁気を境界基準にする理由あり
第2問—沈み込み帯・変成作用・火成活動沈み込み帯の語句 / 対の変成帯あり

2023年度の解説には典型ミス2件が付いています。

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 2問 → 2023年度 2問
2022年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2026(直近5年)
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
院試hubの最終確認
2026-08-13
東京大学の公式過去問PDF