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埼玉大学 理工学研究科 数理電子情報専攻 数学プログラム 数学 2026年度(2025年8月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全7問)

全7問の分野は線形代数2問、代数1問、微分積分・解析1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 線形代数:対称行列の対角化と冪

方針

33 次の特性多項式を展開してから因数分解すると 33 次方程式を解く手間が生じる。00 が多い行または列に沿って余因子展開し、因数を積の形のまま残すのが最短である。本問は第 22 行に 00 が 22 個あるので、そこで展開すれば 22 次式の計算だけで済む。

検算

固有値の和はトレースに、積は行列式に一致する。tr⁡A=2+1+2=5\operatorname{tr}A=2+1+2=5 と 3+1+1=53+1+1=5、det⁡A=3⋅1⋅1=3\det A=3\cdot 1\cdot 1=3 が一致する。det⁡A\det A は同じ余因子展開で 1⋅(4−1)=31\cdot(4-1)=3 と直接確かめられる。

失点しやすい点

重複度を書かずに「固有値は 11 と 33」とだけ答えると、(2)以降で必要な情報が落ちる。実対称行列なので重複度 22 の固有値に対して固有ベクトルも 22 本取れることが保証されるが、その事実は(2)で使う前に一言述べておくとよい。

設問2 対角化行列

方針

PP の列の並べ方と対角行列の並べ方は対応していなければならない。第 11 列に λ=3\lambda=3 の固有ベクトルを置いたなら、対角行列の (1,1)(1,1) 成分は 33 である。どの順に並べたかを答案に明記する。

別解

AA は実対称なので、固有ベクトルを正規化すれば直交行列 QQ が取れ、Q−1=Q⊤Q^{-1}=Q^{\top} となる。 q1=12(1,0,1)⊤\bm{q}_1=\frac{1}{\sqrt2}(1,0,1)^{\top}、q2=(0,1,0)⊤\bm{q}_2=(0,1,0)^{\top}、q3=12(1,0,−1)⊤\bm{q}_3=\frac{1}{\sqrt2}(1,0,-1)^{\top} とすればよい。本問は「P−1APP^{-1}AP が対角」としか要求していないので直交化は不要だが、(3)で逆行列を求める手間が消えるという実利がある。

失点しやすい点

λ=1\lambda=1 の固有空間で x2x_2 が自由変数であることを見落とし、固有ベクトルを 11 本しか取らないと PP が正則にならない。掃き出した後に「独立な条件が何本残ったか」を数える習慣をつけたい。

設問3 AnA^n

方針

An=Pdiag⁡(3n,1,1)P−1A^n=P\operatorname{diag}(3^n,1,1)P^{-1} を使ってもよいが、P−1P^{-1} を求める掃き出しが必要になる。固有値が 22 種類しかない場合は、E3=(A−I)/2E_3=(A-I)/2 のように「もう一方の固有値を消す一次式」で射影を作るほうが速い。AA が対角化可能であること(設問2で示した)が使用の前提である。

検算

n=1n=1 を代入すると 12(402020204)=A\frac12\begin{pmatrix}4&0&2\\0&2&0\\2&0&4\end{pmatrix}=A となり一致する。n=0n=0 とすれば単位行列になることも確かめられる。さらに固有ベクトル (1,0,1)⊤(1,0,1)^{\top} に作用させると 3n(1,0,1)⊤3^n(1,0,1)^{\top} が出る。

背景

E3,E1E_3,E_1 は実対称行列のスペクトル分解 A=∑iλiEiA=\sum_i\lambda_iE_i の各項であり、EiE_i は固有空間への直交射影になっている。AnA^n に限らず、任意の多項式 qq に対して q(A)=q(3)E3+q(1)E1q(A)=q(3)E_3+q(1)E_1 が成り立つ。

失点しやすい点

「PP と P−1P^{-1} を求めて掛ける」と書いただけで具体形を示さない答案は、(3)の配点をほとんど得られない。最終形を成分で書き切ること。また nn の範囲(自然数)を確認し、n=1n=1 で AA に戻ることを一言添えると安全である。

解答

特性多項式

AA の第 22 行が (0,1,0)(0,1,0) であることを使い、第 22 行に沿って余因子展開する。 det⁡(A−λI)=∣2−λ0101−λ0102−λ∣=(1−λ)∣2−λ112−λ∣. \det(A-\lambda I)= \begin{vmatrix} 2-\lambda & 0 & 1\\ 0 & 1-\lambda & 0\\ 1 & 0 & 2-\lambda \end{vmatrix} =(1-\lambda) \begin{vmatrix} 2-\lambda & 1\\ 1 & 2-\lambda \end{vmatrix}. 2×22\times 2 行列式は (2−λ)2−1=λ2−4λ+3=(λ−1)(λ−3)(2-\lambda)^2-1=\lambda^2-4\lambda+3=(\lambda-1)(\lambda-3) であるから det⁡(A−λI)=(1−λ)(λ−1)(λ−3)=−(λ−1)2(λ−3). \det(A-\lambda I)=(1-\lambda)(\lambda-1)(\lambda-3)=-(\lambda-1)^2(\lambda-3). よって固有値は λ=1\lambda=1(重複度 22)と λ=3\lambda=3(重複度 11)である。

λ=3\lambda=3 の固有空間

(A−3I)x=0(A-3I)\bm{x}=\bm{0} を解く。 A−3I=(−1010−2010−1) A-3I=\begin{pmatrix}-1&0&1\\0&-2&0\\1&0&-1\end{pmatrix} より x2=0x_2=0 かつ x1=x3x_1=x_3。したがって固有空間は span⁡{(1,0,1)⊤}\operatorname{span}\{(1,0,1)^{\top}\} である。

λ=1\lambda=1 の固有空間

A−I=(101000101) A-I=\begin{pmatrix}1&0&1\\0&0&0\\1&0&1\end{pmatrix} より条件は x1+x3=0x_1+x_3=0 の 11 本のみで、x2x_2 は自由である。固有空間は span⁡{(0,1,0)⊤,(1,0,−1)⊤}\operatorname{span}\{(0,1,0)^{\top},(1,0,-1)^{\top}\} で、次元 22 が重複度と一致する。

対角化

33 本の固有ベクトルは一次独立だから、これらを列に並べて P=(10101010−1),P−1AP=(300010001). P=\begin{pmatrix}1&0&1\\0&1&0\\1&0&-1\end{pmatrix},\qquad P^{-1}AP=\begin{pmatrix}3&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}.

固有射影による表示

AA の固有値は 33 と 11 の 22 個だけなので、AA は 22 個の射影の線形結合で書ける。 λ=1\lambda=1 の固有空間に沿って λ=3\lambda=3 の固有空間へ射影する行列は E3=A−1⋅I3−1=12(101000101),E1=I−E3=12(10−1020−101). E_3=\frac{A-1\cdot I}{3-1}=\frac12\begin{pmatrix}1&0&1\\0&0&0\\1&0&1\end{pmatrix}, \qquad E_1=I-E_3=\frac12\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&2&0\\-1&0&1\end{pmatrix}. AA は対角化可能だから A=3E3+1⋅E1A=3E_3+1\cdot E_1 であり、E3E1=OE_3E_1=O、E32=E3E_3^2=E_3、E12=E1E_1^2=E_1 より An=3nE3+1nE1. A^n=3^nE_3+1^nE_1 .

成分表示

これを成分でまとめると An=12(3n+103n−10203n−103n+1)(n=1,2,… ). A^n=\frac12\begin{pmatrix}3^n+1&0&3^n-1\\0&2&0\\3^n-1&0&3^n+1\end{pmatrix} \qquad(n=1,2,\dots).

最終答

λ=3, 1, 1\lambda=3,\ 1,\ 1(λ=1\lambda=1 は重複度 22)

P=(10101010−1)P=\begin{pmatrix}1&0&1\\0&1&0\\1&0&-1\end{pmatrix} とすれば P−1AP=diag⁡(3,1,1)P^{-1}AP=\operatorname{diag}(3,1,1)

An=12(3n+103n−10203n−103n+1)A^n=\dfrac12\begin{pmatrix}3^n+1&0&3^n-1\\0&2&0\\3^n-1&0&3^n+1\end{pmatrix}

第2問 — 線形代数:直交補空間と正規直交基底

方針

WW が 11 次元のときは、直交補空間は「11 本の一次方程式の解空間」に他ならない。dim⁡W+dim⁡W⊥=3\dim W+\dim W^{\perp}=3 を先に押さえておくと、基底を何本取ればよいかで迷わない。

検算

得た 22 本を w\bm{w} と内積すると −2+2+0=0-2+2+0=0、−1+0+1=0-1+0+1=0 でともに 00 である。また 22 本のどちらも他方の定数倍ではないので一次独立である。

失点しやすい点

「基底を 11 組求めよ」なので答えは一意でないが、本数が 22 本であることは一意に決まる。11 本しか書かないと W⊥W^{\perp} を張れない。

設問2 正規直交基底の構成

方針

条件が a2,a3∈W⊥\bm{a}_2,\bm{a}_3\in W^{\perp} なので、R3\mathbb{R}^3 全体で 33 本まとめて直交化するのではなく、まず WW と W⊥W^{\perp} に分けて、W⊥W^{\perp} の中だけで直交化する。R3=W⊕W⊥\mathbb{R}^3=W\oplus W^{\perp} が直交直和であることから、WW 側の a1\bm{a}_1 は自動的に a2,a3\bm{a}_2,\bm{a}_3 と直交する。

検算

33 本すべての組で内積を確かめる。 ⟨a1,a2⟩∝−2+2+0=0\langle\bm{a}_1,\bm{a}_2\rangle\propto -2+2+0=0、 ⟨a1,a3⟩∝−1−4+5=0\langle\bm{a}_1,\bm{a}_3\rangle\propto -1-4+5=0、 ⟨a2,a3⟩∝2−2+0=0\langle\bm{a}_2,\bm{a}_3\rangle\propto 2-2+0=0。 長さも 1+4+1=61+4+1=6、4+1+0=54+1+0=5、1+4+25=301+4+25=30 で分母の平方に一致する。

別解

a3\bm{a}_3 は a1×a2\bm{a}_1\times\bm{a}_2 の正規化としても得られる。実際 (1,2,1)×(−2,1,0)=(2⋅0−1⋅1, 1⋅(−2)−1⋅0, 1⋅1−2⋅(−2))=(−1,−2,5)(1,2,1)\times(-2,1,0)=(2\cdot 0-1\cdot 1,\ 1\cdot(-2)-1\cdot 0,\ 1\cdot 1-2\cdot(-2))=(-1,-2,5) となり上と一致する。33 次元では外積が直交化の計算を大きく短縮する。

失点しやすい点

正規化を忘れて「直交基底」で止める答案が多い。問われているのは正規直交基底なので、各ベクトルの長さが 11 であることまで示す。符号の取り方は自由だが、外積で作った場合は右手系になる向きが決まる点に注意する。

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第3問 — 微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定

方針

連立方程式 fx=fy=0f_x=f_y=0 は、片方が因数分解できるならそちらから解く。本問の fyf_y は 6x(y+1)6x(y+1) と積になっており、これを xx について解こうとして割り算をすると x=0x=0 の場合を落とす。積が 00 の形は「割らずに場合分け」が鉄則である。

検算

得た 44 点を fx,fyf_x,f_y に代入して両方 00 になることを確かめる。たとえば (2,−1)(2,-1) では fx=12+3−6−9=0f_x=12+3-6-9=0、fy=6⋅2⋅0=0f_y=6\cdot2\cdot0=0 である。

失点しやすい点

fy=6x(y+1)f_y=6x(y+1) を x(y+1)=0x(y+1)=0 と書き換えるところまでは正しくても、y=−1y=-1 の枝だけを追って (0,±)(0,\pm) を落とす答案が出る。44 点すべてを挙げること自体が配点になっている。

設問2 極値

方針

22 変数の極値判定は det⁡H\det H の符号で分岐し、det⁡H>0\det H>0 のときだけ fxxf_{xx} の符号で極大・極小を決める。det⁡H<0\det H<0 なら鞍点で、fxxf_{xx} を見る必要はない。det⁡H=0\det H=0 のときは判定不能で別途の議論が要るが、本問では現れない。

別解

det⁡H=36{x2−(y+1)2}=36(x+y+1)(x−y−1)\det H=36\{x^2-(y+1)^2\}=36(x+y+1)(x-y-1) と因数分解できる。臨界点を代入する前に因数分解しておくと、x=0, y=−1±x=0,\ y=-1\pm の各点で符号が即座に読める。

この設問が試していること

臨界点の列挙(設問1)と、そこでの二次近似の符号(設問2)を切り分けて扱えるかを見ている。ff が x↦−x, x\mapsto -x,\ と f↦−ff\mapsto -f の意味で奇対称に近い構造をもつため、極大値と極小値が ±16\pm16 と対称に出る点も、結果の妥当性の手がかりになる。

失点しやすい点

極値「点」と極値「値」を混同し、座標だけ書いて ff の値を書かない答案がある。設問は「極値を求めよ」なので、値 1616、−16-16 まで書く。また鞍点になった 22 点についても「極値ではない」と明記しないと、列挙漏れと区別がつかない。

微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 微分積分:符号の変わる関数の広義重積分

方針

この設問は単独の計算問題ではなく、(2)で xx について先に積分するための準備である。f=gxf=g_x が分かれば、xx 方向の積分は微分積分学の基本定理で端点の差に置き換わり、二重積分が 11 変数積分に落ちる。

検算

y=0y=0 とすると g=1/xg=1/x、gx=−1/x2g_x=-1/x^2 で、右辺も (0−x2)/x4=−1/x2(0-x^2)/x^4=-1/x^2 となり一致する。x=0x=0 では g=0g=0、gx=1/y2g_x=1/y^2 で、右辺 y2/y4=1/y2y^2/y^4=1/y^2 と合う。

失点しやすい点

結果を約分せずに放置すると ff と同じ形であることに気づかない。「gx=fg_x=f である」と一言書いておくと、(2)で何を使うかが答案上で明確になる。

設問2 EnE_n 上の 22 つの極限

方針

特異点が原点だけなので、y≥1/ny\ge1/n で切り取った EnE_n 上では通常の重積分が使える。xx を先に積分するか yy を先にするかで手間が変わるが、(1)で f=gxf=g_x が与えられている以上、xx 先が意図された順序である。

検算

ff の側は arctan⁡\arctan の値域から 0<π/4−arctan⁡(1/n)<π/40<\pi/4-\arctan(1/n)<\pi/4 であり、nn について単調増加で π/4\pi/4 に近づく。f+f^{+} の側は 12log⁡n\frac12\log n で、n=e2n=e^2 のとき 11、n=e10n=e^{10} のとき 55 と、いくらでも大きくなる。極座標で f∼r−2f\sim r^{-2}、面積要素が r dr dθr\,dr\,d\theta なので、∫r−2⋅r dr=∫dr/r\int r^{-2}\cdot r\,dr=\int dr/r が対数発散するという見積もりとも一致する。

失点しやすい点

f+f^{+} の積分領域を 0≤x≤10\le x\le 1 のままにして x=yx=y で切ることを忘れると、ff の場合と同じ π/4\pi/4 が出てしまい、(3)の議論が成り立たなくなる。三角形領域 0≤x≤y0\le x\le y に絞ることが要点である。

設問3 広義積分の収束

方針

符号が変わる関数の広義積分では、「ある汲み尽くし方で有限の極限が出た」ことは収束の根拠にならない。正部分と負部分を分け、絶対可積分性を調べるのが定石である。

別解

汲み尽くし方への依存を直接示してもよい。En′={(x,y)∈E∣x≥1/n}E'_n=\{(x,y)\in E \mid x\ge1/n\} を取ると、xx と yy の役割が入れ替わるので ∬En′f→−π/4\iint_{E'_n}f\to-\pi/4 となる。EnE_n では +π/4+\pi/4、En′E'_n では −π/4-\pi/4 と異なる値になるので、極限が汲み尽くし方に依存し、広義積分は定まらない。

背景

これは条件収束級数の項の並べ替えで和が変わる現象(リーマンの再配列定理)の重積分版である。ルベーグ積分の言葉でいえば、ff は EE 上可測だが可積分ではなく、∫f\int f は定義されない。

失点しやすい点

設問2の第 22 式が π/4\pi/4 に収束したことをもって「収束する」と答えるのが典型的な誤答で、本問はまさにその誤りを試している。f+f^{+} の発散を先に示した上で結論を書く順序にすると、論理が明確になる。

微分積分:符号の変わる関数の広義重積分の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 代数:イデアルの積と生成されるイデアル

方針

「生成されたイデアル」は ⋂{\bigcap\{ その集合を含むイデアル }\}、すなわち最小性で特徴づけられる。したがって T⊂AT\subset A を示すには、AA がイデアルであることと S⊂AS\subset A を確かめれば十分で、TT の元を具体的に書き下す必要はない。

答案の書き方

xy∈Ixy\in I の根拠は「II が吸収律 RI⊂IRI\subset I を満たす」ことである。可換環なので xy=yxxy=yx として両側から使える。この一行を省かないことが得点になる。

失点しやすい点

TI,JT_{I,J} の元を ∑krkxkyk\sum_k r_k x_k y_k の形で書いてから包含を示す答案も正しいが、最小性を使うほうが短い。逆に SI,JS_{I,J} をイデアルだと思い込んで議論すると(3)で破綻する。

設問2 R=ZR=\mathbb{Z}、I=(2)I=(2)、J=(3)J=(3)

検算

I∩J=2Z∩3Z=6ZI\cap J=2\mathbb{Z}\cap3\mathbb{Z}=6\mathbb{Z} である(22 と 33 が互いに素だから最小公倍数は 66)。したがって設問1の包含はここではすべて等号になっており、矛盾はない。

この設問が試していること

SI,JS_{I,J} が偶然イデアルになる場合を先に見せ、(3)で「一般にはならない」という対比を作る構成になっている。Z\mathbb{Z} が単項イデアル整域であることが等号成立の背景である。

失点しやすい点

SI,J={6ab}S_{I,J}=\{6ab\} と書いたところで止めると、これが 6Z6\mathbb{Z} 全体に一致するかどうかが未確認のままになる。b=1b=1 と特殊化して 6Z⊂SI,J6\mathbb{Z}\subset S_{I,J} を示す一行を必ず入れる。

設問3 R=R[X,Y]R=\mathbb{R}[X,Y]、I=J=(X,Y)I=J=(X,Y)

方針

(ア)は「両側の包含」を機械的に示す問題。(イ)は SI,JS_{I,J} が積の集合にすぎず和で閉じていないことを突く問題で、X2+Y2X^2+Y^2 のように「22 つの生成元の和だが 11 つの積では書けない」元を探すのが定石である。

別解

R\mathbb{R} 上で既約性を示す代わりに、C\mathbb{C} 上で X2+Y2=(X+iY)(X−iY)X^2+Y^2=(X+iY)(X-iY) と分解できることを使い、C[X,Y]\mathbb{C}[X,Y] が一意分解整域であることから R[X,Y]\mathbb{R}[X,Y] での分解も (( 定数 )×(X±iY))\times(X\pm iY) の形に限られる、と論じてもよい。X±iY∉R[X,Y]X\pm iY\notin\mathbb{R}[X,Y] なので実係数の非自明な分解は存在しない。

この設問が試していること

TI,JT_{I,J} はいわゆるイデアルの積 IJIJ そのものであり、その定義が「積の集合」ではなく「積で生成されるイデアル」である理由を、具体例で理解しているかを問うている。定義に ∑\sum が入る必然性がここにある。

失点しやすい点

反例として X2+Y2X^2+Y^2 を挙げるところまでは多くの答案が到達するが、「11 つの積では書けない」ことの証明を省くと点が伸びない。既約性の議論を必ず添える。

代数:イデアルの積と生成されるイデアルの途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 位相:補有界位相と分離公理

方針

開集合系の公理は 33 つ(空集合と全体、有限交叉、任意和)で、それぞれ補集合側で言い換えると「有界」の性質に翻訳される。交叉は補集合の和、和集合は補集合の交叉に対応するので、有界性が「有限和で閉じる」「部分集合に遺伝する」ことが本質である。

なぜ ∅\emptyset を別扱いするか

R∖∅=R\mathbb{R}\setminus\emptyset=\mathbb{R} は有界でないので、∅\emptyset は「補集合が有界」の条件を満たさない。定義で {∅}\{\emptyset\} を明示的に付け加えているのはこのためである。証明中で場合分けが必要になるのも同じ理由による。

失点しやすい点

任意和のところで「補集合は有界集合の交叉だから有界」と書くと、添字集合が空のとき(交叉が R\mathbb{R} になる)に破綻する。空でない Uλ0U_{\lambda_0} を一つ選んで包含に落とす書き方が安全である。有限交叉を「無限個でも成り立つ」と書くのも誤りで、実際 Un=R∖[−n,n]U_n=\mathbb{R}\setminus[-n,n] の共通部分は ∅\emptyset になるが、たとえば Un=R∖{U_n=\mathbb{R}\setminus\{ 有界集合 }\} を無限個交わらせると補集合が非有界になり得る。

設問2 ハウスドルフでないこと

方針

ハウスドルフ性の否定は「ある 22 点が分離できない」ことを示せばよい。本問では実際にはどの 22 点も分離できず、しかも「空でない開集合はどの 22 つも交わる」という強い形で示せる。この性質をもつ空間は既約(hyperconnected)と呼ばれる。

どの分離公理までは成り立つか

11 点集合 {a}\{a\} の補集合 R∖{a}\mathbb{R}\setminus\{a\} は、補集合が {a}\{a\} で有界だから開である。よって 11 点集合は閉であり、この空間は T1T_1 を満たす。T1T_1 だが T2T_2 でない例になっている点が、この問題の狙いである。

背景

「補集合が有限」で定めれば余有限位相(Zariski 位相の 11 次元版)になり、同じ理由で T1T_1 かつ非ハウスドルフになる。本問はその有限を有界に置き換えた変種で、R\mathbb{R} が有界でないことだけが効いている。

失点しやすい点

「22 点 a≠ba\ne b を任意に取る」と始めておきながら、途中で U,VU,V が空である可能性を排除し忘れる答案がある。点を含む以上は空でないという一行を入れる。

位相:補有界位相と分離公理の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — 解析:積分方程式から微分方程式へ

方針

積分方程式は「積分を含む項を一つの関数 FF にまとめてから微分する」のが基本である。ete^{t} が積分の外に掛かっているので、微分すると積の微分で 22 項が出る。そのうち第 11 項がちょうど元の ff に戻る形になっているのが本問の仕掛けである。

答案に書くべき前提

「ff は微分可能」と断りなく微分してはいけない。ff が連続であることと基本定理から F∈C1F\in C^1、したがって (∗)(\ast) より f∈C1f\in C^1、という順で根拠を示す。

失点しやすい点

etF(t)e^{t}F(t) の微分で etF′(t)e^{t}F'(t) の項を落とす、あるいは F′(t)=e−tf(t)2F'(t)=e^{-t}f(t)^2 の e−te^{-t} を忘れると f′=f−f2f'=f-f^2 にならない。指数の相殺が起きることを確認する。

設問2 f(0)f(0)

方針

積分方程式は微分方程式と初期条件をひとまとめに含んでいる。積分区間が [0,t][0,t] なので、t=0t=0 を代入すれば積分項が消えて初期値が読み取れる。

失点しやすい点

(1)で微分してしまうと初期条件の情報が落ちる。(∗)(\ast) の段階で t=0t=0 を代入するか、元の積分方程式に直接代入する。

設問3 f(t)f(t) の決定

検算

f(0)=22−1=2f(0)=\dfrac{2}{2-1}=2 で設問2に合う。微分すると f′=2et(2et−1)−2et⋅2et(2et−1)2=−2et(2et−1)2, f'=\frac{2e^{t}(2e^{t}-1)-2e^{t}\cdot 2e^{t}}{(2e^{t}-1)^2}=\frac{-2e^{t}}{(2e^{t}-1)^2}, 一方 f−f2=f(1−f)=2et2et−1⋅(2et−1)−2et2et−1=−2et(2et−1)2 f-f^2=f(1-f)=\frac{2e^{t}}{2e^{t}-1}\cdot\frac{(2e^{t}-1)-2e^{t}}{2e^{t}-1}=\frac{-2e^{t}}{(2e^{t}-1)^2} で一致する。t→∞t\to\infty で f→1f\to1、t→(−log⁡2)+t\to(-\log2)^{+} で f→+∞f\to+\infty という挙動も、f=1f=1 が平衡点であることと整合する。

別解

u=1/fu=1/f と置くと u′=−f′/f2=−(1−f)/f⋅1= u'=-f'/f^2=-(1-f)/f\cdot 1 =\, を整理して u′=−u+1u'=-u+1 という 11 階線形方程式になる。解は u=1+Ce−tu=1+Ce^{-t} で、u(0)=1/2u(0)=1/2 より C=−1/2C=-1/2、f=1/u=22−e−t=2et2et−1f=1/u=\dfrac{2}{2-e^{-t}}=\dfrac{2e^{t}}{2e^{t}-1} と同じ結果を得る。ベルヌーイ型として線形化する定石である。

背景

f′=f(1−f)f'=f(1-f) はロジスティック方程式で、f=0f=0 と f=1f=1 が平衡解である。初期値 2>12>1 なので解は上から 11 に単調減少して近づく。f(0)=2f(0)=2 が平衡値をまたがないため、解は f>1f>1 の領域に留まり、変数分離の際の絶対値の扱いも一貫する。

失点しやすい点

部分分数分解を 1f−11−f\frac1f-\frac{1}{1-f} と符号を誤ると、指数の符号が反転して f(0)=2f(0)=2 に合わなくなる。また積分定数を log⁡\log の中に入れたまま放置せず、AetAe^{t} の形に整理してから初期条件を代入する。定義域が t>−log⁡2t>-\log2 に限られることにも触れておくとよい。

解析:積分方程式から微分方程式への途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(2026年2月実施)(全7問)

    線形代数:2次行列の対角化と冪 / 線形代数:対称行列の核・像と直交補空間 / 微分積分:連続性・偏微分可能性・全微分可能性の分離

  • 2026年度(2025年8月実施)(このページ・全7問)

    線形代数:対称行列の対角化と冪 / 線形代数:直交補空間と正規直交基底 / 微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定

  • 2025年度(2025年2月実施)(全7問)

    線形代数:符号付き対角行列が定める線形写像と双1次形式 / 線形代数:重複固有値をもつ行列の冪 / 微分積分:一様連続の定義と距離関数への適用

  • 2025年度(2024年8月実施)(全7問)

    線形代数:固有値分解と冪の漸近方向 / 線形代数:抽象ベクトルを座標に直して調べる線形写像 / 微分積分:min と max で定めた関数の原点における微分可能性

  • 2024年度(2024年2月実施)(全7問)

    線形代数:パラメータつき行列の正則性と対角化可能性 / 線形代数:線形写像の空間と部分空間を保つ写像のなす部分空間 / 微分積分:3次多項式の極値と三角形領域上の最大最小

  • 2024年度(2023年8月実施)(全7問)

    線形代数:2次形式の対称行列表示と直交変換による標準化 / 線形代数:直交補空間の正規直交基底と鏡映変換 / 微分積分:分数項を含む2変数関数の極値

2026年度(2025年8月実施)の出題内容

全7問

この7問の分野は線形代数2問・代数1問・微分積分・解析1問・微分方程式1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数対称行列の対角化と冪—あり
第2問線形代数直交補空間と正規直交基底—あり
第3問微分積分・解析2変数関数の臨界点と極値判定この設問が試していることあり
第4問—微分積分:符号の変わる関数の広義重積分—あり
第5問代数イデアルの積と生成されるイデアルこの設問が試していることあり
第6問補有界位相と分離公理なぜ \emptyset を別扱いするか / どの分離公理までは成り立つか—
第7問微分方程式積分方程式から微分方程式へ答案に書くべき前提あり

2026年度(2025年8月実施)の解説には失点しやすい点7件・検算6件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2025年度(2025年2月実施))との違い

大問数
2025年度(2025年2月実施) 7問 → 2026年度(2025年8月実施) 7問
2025年度(2025年2月実施)の解答例

埼玉大学の公式過去問

公開年度範囲
平成年代からの各回(直近は2024〜2026年度の8月実施・2月実施)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
英語は TOEIC・TOEIC IP のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
院試hubの最終確認
2026-09-05
埼玉大学の公式過去問PDF