埼玉大学 理工学研究科 数理電子情報専攻 数学プログラム 数学 2026年度(2025年8月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全7問)
全7問の分野は線形代数2問、代数1問、微分積分・解析1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 線形代数:対称行列の対角化と冪
方針
次の特性多項式を展開してから因数分解すると 次方程式を解く手間が生じる。 が多い行または列に沿って余因子展開し、因数を積の形のまま残すのが最短である。本問は第 行に が 個あるので、そこで展開すれば 次式の計算だけで済む。
検算
固有値の和はトレースに、積は行列式に一致する。 と 、 が一致する。 は同じ余因子展開で と直接確かめられる。
失点しやすい点
重複度を書かずに「固有値は と 」とだけ答えると、(2)以降で必要な情報が落ちる。実対称行列なので重複度 の固有値に対して固有ベクトルも 本取れることが保証されるが、その事実は(2)で使う前に一言述べておくとよい。
設問2 対角化行列
方針
の列の並べ方と対角行列の並べ方は対応していなければならない。第 列に の固有ベクトルを置いたなら、対角行列の 成分は である。どの順に並べたかを答案に明記する。
別解
は実対称なので、固有ベクトルを正規化すれば直交行列 が取れ、 となる。 、、 とすればよい。本問は「 が対角」としか要求していないので直交化は不要だが、(3)で逆行列を求める手間が消えるという実利がある。
失点しやすい点
の固有空間で が自由変数であることを見落とし、固有ベクトルを 本しか取らないと が正則にならない。掃き出した後に「独立な条件が何本残ったか」を数える習慣をつけたい。
設問3
方針
を使ってもよいが、 を求める掃き出しが必要になる。固有値が 種類しかない場合は、 のように「もう一方の固有値を消す一次式」で射影を作るほうが速い。 が対角化可能であること(設問2で示した)が使用の前提である。
検算
を代入すると となり一致する。 とすれば単位行列になることも確かめられる。さらに固有ベクトル に作用させると が出る。
背景
は実対称行列のスペクトル分解 の各項であり、 は固有空間への直交射影になっている。 に限らず、任意の多項式 に対して が成り立つ。
失点しやすい点
「 と を求めて掛ける」と書いただけで具体形を示さない答案は、(3)の配点をほとんど得られない。最終形を成分で書き切ること。また の範囲(自然数)を確認し、 で に戻ることを一言添えると安全である。
解答
特性多項式
の第 行が であることを使い、第 行に沿って余因子展開する。 行列式は であるから よって固有値は (重複度 )と (重複度 )である。
の固有空間
を解く。 より かつ 。したがって固有空間は である。
の固有空間
より条件は の 本のみで、 は自由である。固有空間は で、次元 が重複度と一致する。
対角化
本の固有ベクトルは一次独立だから、これらを列に並べて
固有射影による表示
の固有値は と の 個だけなので、 は 個の射影の線形結合で書ける。 の固有空間に沿って の固有空間へ射影する行列は は対角化可能だから であり、、、 より
成分表示
これを成分でまとめると
最終答
( は重複度 )
とすれば
第2問 — 線形代数:直交補空間と正規直交基底
方針
が 次元のときは、直交補空間は「 本の一次方程式の解空間」に他ならない。 を先に押さえておくと、基底を何本取ればよいかで迷わない。
検算
得た 本を と内積すると 、 でともに である。また 本のどちらも他方の定数倍ではないので一次独立である。
失点しやすい点
「基底を 組求めよ」なので答えは一意でないが、本数が 本であることは一意に決まる。 本しか書かないと を張れない。
設問2 正規直交基底の構成
方針
条件が なので、 全体で 本まとめて直交化するのではなく、まず と に分けて、 の中だけで直交化する。 が直交直和であることから、 側の は自動的に と直交する。
検算
本すべての組で内積を確かめる。 、 、 。 長さも 、、 で分母の平方に一致する。
別解
は の正規化としても得られる。実際 となり上と一致する。 次元では外積が直交化の計算を大きく短縮する。
失点しやすい点
正規化を忘れて「直交基底」で止める答案が多い。問われているのは正規直交基底なので、各ベクトルの長さが であることまで示す。符号の取り方は自由だが、外積で作った場合は右手系になる向きが決まる点に注意する。
第3問 — 微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定
方針
連立方程式 は、片方が因数分解できるならそちらから解く。本問の は と積になっており、これを について解こうとして割り算をすると の場合を落とす。積が の形は「割らずに場合分け」が鉄則である。
検算
得た 点を に代入して両方 になることを確かめる。たとえば では 、 である。
失点しやすい点
を と書き換えるところまでは正しくても、 の枝だけを追って を落とす答案が出る。 点すべてを挙げること自体が配点になっている。
設問2 極値
方針
変数の極値判定は の符号で分岐し、 のときだけ の符号で極大・極小を決める。 なら鞍点で、 を見る必要はない。 のときは判定不能で別途の議論が要るが、本問では現れない。
別解
と因数分解できる。臨界点を代入する前に因数分解しておくと、 の各点で符号が即座に読める。
この設問が試していること
臨界点の列挙(設問1)と、そこでの二次近似の符号(設問2)を切り分けて扱えるかを見ている。 が と の意味で奇対称に近い構造をもつため、極大値と極小値が と対称に出る点も、結果の妥当性の手がかりになる。
失点しやすい点
極値「点」と極値「値」を混同し、座標だけ書いて の値を書かない答案がある。設問は「極値を求めよ」なので、値 、 まで書く。また鞍点になった 点についても「極値ではない」と明記しないと、列挙漏れと区別がつかない。
第4問 — 微分積分:符号の変わる関数の広義重積分
方針
この設問は単独の計算問題ではなく、(2)で について先に積分するための準備である。 が分かれば、 方向の積分は微分積分学の基本定理で端点の差に置き換わり、二重積分が 変数積分に落ちる。
検算
とすると 、 で、右辺も となり一致する。 では 、 で、右辺 と合う。
失点しやすい点
結果を約分せずに放置すると と同じ形であることに気づかない。「 である」と一言書いておくと、(2)で何を使うかが答案上で明確になる。
設問2 上の つの極限
方針
特異点が原点だけなので、 で切り取った 上では通常の重積分が使える。 を先に積分するか を先にするかで手間が変わるが、(1)で が与えられている以上、 先が意図された順序である。
検算
の側は の値域から であり、 について単調増加で に近づく。 の側は で、 のとき 、 のとき と、いくらでも大きくなる。極座標で 、面積要素が なので、 が対数発散するという見積もりとも一致する。
失点しやすい点
の積分領域を のままにして で切ることを忘れると、 の場合と同じ が出てしまい、(3)の議論が成り立たなくなる。三角形領域 に絞ることが要点である。
設問3 広義積分の収束
方針
符号が変わる関数の広義積分では、「ある汲み尽くし方で有限の極限が出た」ことは収束の根拠にならない。正部分と負部分を分け、絶対可積分性を調べるのが定石である。
別解
汲み尽くし方への依存を直接示してもよい。 を取ると、 と の役割が入れ替わるので となる。 では 、 では と異なる値になるので、極限が汲み尽くし方に依存し、広義積分は定まらない。
背景
これは条件収束級数の項の並べ替えで和が変わる現象(リーマンの再配列定理)の重積分版である。ルベーグ積分の言葉でいえば、 は 上可測だが可積分ではなく、 は定義されない。
失点しやすい点
設問2の第 式が に収束したことをもって「収束する」と答えるのが典型的な誤答で、本問はまさにその誤りを試している。 の発散を先に示した上で結論を書く順序にすると、論理が明確になる。
第5問 — 代数:イデアルの積と生成されるイデアル
方針
「生成されたイデアル」は その集合を含むイデアル 、すなわち最小性で特徴づけられる。したがって を示すには、 がイデアルであることと を確かめれば十分で、 の元を具体的に書き下す必要はない。
答案の書き方
の根拠は「 が吸収律 を満たす」ことである。可換環なので として両側から使える。この一行を省かないことが得点になる。
失点しやすい点
の元を の形で書いてから包含を示す答案も正しいが、最小性を使うほうが短い。逆に をイデアルだと思い込んで議論すると(3)で破綻する。
設問2 、、
検算
である( と が互いに素だから最小公倍数は )。したがって設問1の包含はここではすべて等号になっており、矛盾はない。
この設問が試していること
が偶然イデアルになる場合を先に見せ、(3)で「一般にはならない」という対比を作る構成になっている。 が単項イデアル整域であることが等号成立の背景である。
失点しやすい点
と書いたところで止めると、これが 全体に一致するかどうかが未確認のままになる。 と特殊化して を示す一行を必ず入れる。
設問3 、
方針
(ア)は「両側の包含」を機械的に示す問題。(イ)は が積の集合にすぎず和で閉じていないことを突く問題で、 のように「 つの生成元の和だが つの積では書けない」元を探すのが定石である。
別解
上で既約性を示す代わりに、 上で と分解できることを使い、 が一意分解整域であることから での分解も 定数 の形に限られる、と論じてもよい。 なので実係数の非自明な分解は存在しない。
この設問が試していること
はいわゆるイデアルの積 そのものであり、その定義が「積の集合」ではなく「積で生成されるイデアル」である理由を、具体例で理解しているかを問うている。定義に が入る必然性がここにある。
失点しやすい点
反例として を挙げるところまでは多くの答案が到達するが、「 つの積では書けない」ことの証明を省くと点が伸びない。既約性の議論を必ず添える。
第6問 — 位相:補有界位相と分離公理
方針
開集合系の公理は つ(空集合と全体、有限交叉、任意和)で、それぞれ補集合側で言い換えると「有界」の性質に翻訳される。交叉は補集合の和、和集合は補集合の交叉に対応するので、有界性が「有限和で閉じる」「部分集合に遺伝する」ことが本質である。
なぜ を別扱いするか
は有界でないので、 は「補集合が有界」の条件を満たさない。定義で を明示的に付け加えているのはこのためである。証明中で場合分けが必要になるのも同じ理由による。
失点しやすい点
任意和のところで「補集合は有界集合の交叉だから有界」と書くと、添字集合が空のとき(交叉が になる)に破綻する。空でない を一つ選んで包含に落とす書き方が安全である。有限交叉を「無限個でも成り立つ」と書くのも誤りで、実際 の共通部分は になるが、たとえば 有界集合 を無限個交わらせると補集合が非有界になり得る。
設問2 ハウスドルフでないこと
方針
ハウスドルフ性の否定は「ある 点が分離できない」ことを示せばよい。本問では実際にはどの 点も分離できず、しかも「空でない開集合はどの つも交わる」という強い形で示せる。この性質をもつ空間は既約(hyperconnected)と呼ばれる。
どの分離公理までは成り立つか
点集合 の補集合 は、補集合が で有界だから開である。よって 点集合は閉であり、この空間は を満たす。 だが でない例になっている点が、この問題の狙いである。
背景
「補集合が有限」で定めれば余有限位相(Zariski 位相の 次元版)になり、同じ理由で かつ非ハウスドルフになる。本問はその有限を有界に置き換えた変種で、 が有界でないことだけが効いている。
失点しやすい点
「 点 を任意に取る」と始めておきながら、途中で が空である可能性を排除し忘れる答案がある。点を含む以上は空でないという一行を入れる。
第7問 — 解析:積分方程式から微分方程式へ
方針
積分方程式は「積分を含む項を一つの関数 にまとめてから微分する」のが基本である。 が積分の外に掛かっているので、微分すると積の微分で 項が出る。そのうち第 項がちょうど元の に戻る形になっているのが本問の仕掛けである。
答案に書くべき前提
「 は微分可能」と断りなく微分してはいけない。 が連続であることと基本定理から 、したがって より 、という順で根拠を示す。
失点しやすい点
の微分で の項を落とす、あるいは の を忘れると にならない。指数の相殺が起きることを確認する。
設問2
方針
積分方程式は微分方程式と初期条件をひとまとめに含んでいる。積分区間が なので、 を代入すれば積分項が消えて初期値が読み取れる。
失点しやすい点
(1)で微分してしまうと初期条件の情報が落ちる。 の段階で を代入するか、元の積分方程式に直接代入する。
設問3 の決定
検算
で設問2に合う。微分すると 一方 で一致する。 で 、 で という挙動も、 が平衡点であることと整合する。
別解
と置くと を整理して という 階線形方程式になる。解は で、 より 、 と同じ結果を得る。ベルヌーイ型として線形化する定石である。
背景
はロジスティック方程式で、 と が平衡解である。初期値 なので解は上から に単調減少して近づく。 が平衡値をまたがないため、解は の領域に留まり、変数分離の際の絶対値の扱いも一貫する。
失点しやすい点
部分分数分解を と符号を誤ると、指数の符号が反転して に合わなくなる。また積分定数を の中に入れたまま放置せず、 の形に整理してから初期条件を代入する。定義域が に限られることにも触れておくとよい。
年度別の解答例(6年度)
線形代数:2次行列の対角化と冪 / 線形代数:対称行列の核・像と直交補空間 / 微分積分:連続性・偏微分可能性・全微分可能性の分離
2026年度(2025年8月実施)(このページ・全7問)
線形代数:対称行列の対角化と冪 / 線形代数:直交補空間と正規直交基底 / 微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定
線形代数:符号付き対角行列が定める線形写像と双1次形式 / 線形代数:重複固有値をもつ行列の冪 / 微分積分:一様連続の定義と距離関数への適用
線形代数:固有値分解と冪の漸近方向 / 線形代数:抽象ベクトルを座標に直して調べる線形写像 / 微分積分:min と max で定めた関数の原点における微分可能性
線形代数:パラメータつき行列の正則性と対角化可能性 / 線形代数:線形写像の空間と部分空間を保つ写像のなす部分空間 / 微分積分:3次多項式の極値と三角形領域上の最大最小
線形代数:2次形式の対称行列表示と直交変換による標準化 / 線形代数:直交補空間の正規直交基底と鏡映変換 / 微分積分:分数項を含む2変数関数の極値
2026年度(2025年8月実施)の出題内容
全7問
この7問の分野は線形代数2問・代数1問・微分積分・解析1問・微分方程式1問です。
| 大問 | 分野 | 主題 | 解説の小見出し | 最終答 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 線形代数 | 対称行列の対角化と冪 | — | あり |
| 第2問 | 線形代数 | 直交補空間と正規直交基底 | — | あり |
| 第3問 | 微分積分・解析 | 2変数関数の臨界点と極値判定 | この設問が試していること | あり |
| 第4問 | — | 微分積分:符号の変わる関数の広義重積分 | — | あり |
| 第5問 | 代数 | イデアルの積と生成されるイデアル | この設問が試していること | あり |
| 第6問 | 補有界位相と分離公理 | なぜ \emptyset を別扱いするか / どの分離公理までは成り立つか | — | |
| 第7問 | 微分方程式 | 積分方程式から微分方程式へ | 答案に書くべき前提 | あり |
2026年度(2025年8月実施)の解説には失点しやすい点7件・検算6件・答案の書き方1件が付いています。
前年度(2025年度(2025年2月実施))との違い
- 大問数
- 2025年度(2025年2月実施) 7問 → 2026年度(2025年8月実施) 7問
埼玉大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 平成年代からの各回(直近は2024〜2026年度の8月実施・2月実施)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 英語は TOEIC・TOEIC IP のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-05