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埼玉大学 理工学研究科 数理電子情報専攻 数学プログラム 数学 2025年度(2024年8月実施) 院試 過去問 解答例・解説(全7問)

全7問の分野は線形代数2問、微分積分・解析2問、位相・幾何1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 線形代数:固有値分解と冪の漸近方向

検算

固有値の和 1+2+4=71+2+4=7 は tr⁡A=3+0+4=7\operatorname{tr}A=3+0+4=7 に、積 88 は det⁡A\det A に一致する。各固有ベクトルは実際に A(1,0,1)⊤=(1,0,1)⊤A(1,0,1)^{\top}=(1,0,1)^{\top}、A(1,−1,0)⊤=(2,−2,0)⊤A(1,-1,0)^{\top}=(2,-2,0)^{\top}、A(1,−1,−1)⊤=(4,−4,−4)⊤A(1,-1,-1)^{\top}=(4,-4,-4)^{\top} と代入で確認できる。

方針

33 次の特性方程式は、まず ±1,±2\pm1,\pm2 など det⁡A\det A の約数を代入して有理根を探す。本問は λ=1\lambda=1 が当たり、残りは 22 次方程式になる。

失点しやすい点

固有値が 33 つとも相異なるので各固有空間は 11 次元であり、固有ベクトルは定数倍の自由度しかない。「11 つ求めよ」でなくても代表を 11 本示せば足りるが、定数倍の任意性に触れておくとよい。

設問2 v0\bm{v}_0 の展開

検算

右辺を計算すると (1−1+1, 0+1−1, 1−0−1)=(1,0,0)(1-1+1,\ 0+1-1,\ 1-0-1)=(1,0,0) で v0\bm{v}_0 に一致する。

方針

33 つの固有値が相異なるので固有ベクトルは基底をなし、展開は一意である。この一意性を書いておくと(3)で「44 の項の係数が 00 でない」ことの根拠になる。

失点しやすい点

係数 b=−1b=-1 が負になるが、(3)では絶対値ではなく符号込みの係数が向きを決める。符号を落とすと極限の向きが逆になる。

設問3 Anv0/∥Anv0∥A^n\bm{v}_0/\|A^n\bm{v}_0\| の極限

方針

絶対値最大の固有値 44 に対応する項が支配し、他は (2/4)n(2/4)^n、(1/4)n(1/4)^n の速さで消える。この「最大固有値でくくる」操作が定石で、規格化すると 4n4^n が約分されて極限が固有ベクトルの単位ベクトルになる。

展開係数が 00 でないことの必要性

p3\bm{p}_3 の係数が 00 だったら極限は p2\bm{p}_2 方向になる。設問2で係数が 1≠01\ne0 と確かめたことが、この結論の前提である。答案でも一言触れる。

背景

これは冪乗法(power method)の原理そのもので、行列の絶対値最大の固有値と固有ベクトルを数値的に求める基本手法である。収束の速さは第 22 固有値との比 ∣λ2/λ1∣=1/2|\lambda_2/\lambda_1|=1/2 で決まる。

失点しやすい点

∥Anv0∥\|A^n\bm{v}_0\| の中の 4n4^n を絶対値なしで外に出すとき、4n>04^n>0 を確認する。固有値が負で ∣λ∣|\lambda| が最大の場合は (−1)n(-1)^n の振動が残り、極限が存在しないので、符号の確認は形式的な手続きではない。

解答

特性多項式

A=(31−2−202−3−34)A=\begin{pmatrix}3&1&-2\\-2&0&2\\-3&-3&4\end{pmatrix} の特性多項式を第 11 行で展開する。 det⁡(A−λI)=−λ3+7λ2−14λ+8=−(λ−1)(λ−2)(λ−4). \det(A-\lambda I)=-\lambda^3+7\lambda^2-14\lambda+8=-(\lambda-1)(\lambda-2)(\lambda-4). 実際 λ=1\lambda=1 が根であることを代入で確かめ、λ3−7λ2+14λ−8=(λ−1)(λ2−6λ+8)\lambda^3-7\lambda^2+14\lambda-8=(\lambda-1)(\lambda^2-6\lambda+8) と割り算すればよい。 よって固有値は λ=1,2,4\lambda=1,2,4 である。

λ=1\lambda=1

A−I=(21−2−2−12−3−33)A-I=\begin{pmatrix}2&1&-2\\-2&-1&2\\-3&-3&3\end{pmatrix}。第 22 行は第 11 行の −1-1 倍、第 33 行は −3(1,1,−1)-3(1,1,-1) だから、独立な条件は 2x+y−2z=02x+y-2z=0 と x+y−z=0x+y-z=0 の 22 本。辺々引いて x=zx=z、これより y=0y=0。固有ベクトルは (1,0,1)⊤(1,0,1)^{\top}。

λ=2\lambda=2

A−2I=(11−2−2−22−3−32)A-2I=\begin{pmatrix}1&1&-2\\-2&-2&2\\-3&-3&2\end{pmatrix}。第 11 行 x+y−2z=0x+y-2z=0 と第 22 行を −2-2 で割った x+y−z=0x+y-z=0 から z=0z=0、y=−xy=-x。固有ベクトルは (1,−1,0)⊤(1,-1,0)^{\top}。

λ=4\lambda=4

A−4I=(−11−2−2−42−3−30)A-4I=\begin{pmatrix}-1&1&-2\\-2&-4&2\\-3&-3&0\end{pmatrix}。第 33 行より y=−xy=-x、第 11 行に代入して −x−x−2z=0-x-x-2z=0、z=−xz=-x。固有ベクトルは (1,−1,−1)⊤(1,-1,-1)^{\top}。

連立方程式

p1=(1,0,1)⊤\bm{p}_1=(1,0,1)^{\top}、p2=(1,−1,0)⊤\bm{p}_2=(1,-1,0)^{\top}、p3=(1,−1,−1)⊤\bm{p}_3=(1,-1,-1)^{\top} とし、 v0=(1,0,0)⊤=ap1+bp2+cp3\bm{v}_0=(1,0,0)^{\top}=a\bm{p}_1+b\bm{p}_2+c\bm{p}_3 とおく。成分ごとに a+b+c=1,−b−c=0,a−c=0. a+b+c=1,\qquad -b-c=0,\qquad a-c=0 . 第 22 式より c=−bc=-b、第 33 式より a=ca=c。第 11 式に代入して a−a+a=a=1a-a+a=a=1、 よって a=1a=1、c=1c=1、b=−1b=-1。

Anv0A^n\bm{v}_0 の表示

pi\bm{p}_i は固有ベクトルだから Anpi=λinpiA^n\bm{p}_i=\lambda_i^n\bm{p}_i である。設問2の展開に AnA^n を作用させて Anv0=1np1−2np2+4np3. A^n\bm{v}_0=1^n\bm{p}_1-2^n\bm{p}_2+4^n\bm{p}_3 .

最大固有値でくくる

4n4^n でくくると Anv0=4n{p3−(12)np2+(14)np1}=4n(p3+εn),εn→0 (n→∞). A^n\bm{v}_0=4^n\left\{\bm{p}_3-\left(\frac12\right)^{n}\bm{p}_2+\left(\frac14\right)^{n}\bm{p}_1\right\} =4^n\bigl(\bm{p}_3+\bm{\varepsilon}_n\bigr), \qquad \bm{\varepsilon}_n\to\bm{0}\ (n\to\infty).

規格化

4n>04^n>0 だから ∥Anv0∥=4n∥p3+εn∥\|A^n\bm{v}_0\|=4^n\|\bm{p}_3+\bm{\varepsilon}_n\| であり、 Anv0∥Anv0∥=p3+εn∥p3+εn∥→n→∞p3∥p3∥. \frac{A^n\bm{v}_0}{\|A^n\bm{v}_0\|}=\frac{\bm{p}_3+\bm{\varepsilon}_n}{\|\bm{p}_3+\bm{\varepsilon}_n\|} \xrightarrow[n\to\infty]{}\frac{\bm{p}_3}{\|\bm{p}_3\|}. ∥p3∥=1+1+1=3\|\bm{p}_3\|=\sqrt{1+1+1}=\sqrt3 である。

最終答

λ=1\lambda=1: (1,0,1)⊤(1,0,1)^{\top}、λ=2\lambda=2: (1,−1,0)⊤(1,-1,0)^{\top}、λ=4\lambda=4: (1,−1,−1)⊤(1,-1,-1)^{\top}(いずれも定数倍を除く)

v0=p1−p2+p3\bm{v}_0=\bm{p}_1-\bm{p}_2+\bm{p}_3、すなわち (1,0,0)⊤=(1,0,1)⊤−(1,−1,0)⊤+(1,−1,−1)⊤(1,0,0)^{\top}=(1,0,1)^{\top}-(1,-1,0)^{\top}+(1,-1,-1)^{\top}

lim⁡n→∞Anv0∥Anv0∥=13(1−1−1)\displaystyle\lim_{n\to\infty}\frac{A^n\bm{v}_0}{\|A^n\bm{v}_0\|}=\frac{1}{\sqrt3}\begin{pmatrix}1\\-1\\-1\end{pmatrix}

第2問 — 線形代数:抽象ベクトルを座標に直して調べる線形写像

方針

u,v,w\bm{u},\bm{v},\bm{w} が Rn\mathbb{R}^n の具体的なベクトルとして与えられていなくても、一次独立という仮定だけで座標系として使える。n≥3n\ge3 という条件はこの 33 本が取れることを保証しているだけで、nn の値自体は答えに影響しない。

検算

a=−3a=-3 のとき f(e3)=(5,−3,−1)f(\bm{e}_3)=(5,-3,-1) である。実際 −2f(e1)−3f(e2)=(−2−3, 0+3, 4−3)=(−5,3,1)=−f(e3)-2f(\bm{e}_1)-3f(\bm{e}_2)=(-2-3,\ 0+3,\ 4-3)=(-5,3,1)=-f(\bm{e}_3) となり従属関係が確認できる。

失点しやすい点

ff の行き先が Rn\mathbb{R}^n なので「3×n3\times n 行列の階数」を考えようとすると nn が不定で行き詰まる。像が 33 次元部分空間 UU に収まることに気づけば 33 次の行列式で済む。

設問2 Im⁡(f)\operatorname{Im}(f) の次元

方針

「行列式 00 だから階数 22」と即断せず、22 次の小行列式が 00 でないことを示して下からも押さえる。本問では左上の ∣101−1∣=−1≠0\begin{vmatrix}1&0\\1&-1\end{vmatrix}=-1\ne0 で足りる。

検算

次元定理 dim⁡Ker⁡(f)+dim⁡Im⁡(f)=dim⁡R3=3\dim\operatorname{Ker}(f)+\dim\operatorname{Im}(f)=\dim\mathbb{R}^3=3 より dim⁡Ker⁡(f)=1\dim\operatorname{Ker}(f)=1 となり、(3)で基底が 11 本になることと整合する。

失点しやすい点

Im⁡(f)\operatorname{Im}(f) は Rn\mathbb{R}^n の部分空間だが、その次元は 33 本の生成元の階数で決まる。nn の大きさとは無関係である。

設問3 Ker⁡(f)\operatorname{Ker}(f) の基底

検算

f(−2e1−3e2+e3)=−2(u−2w)−3(u−v+w)+(5u−3v−w)f(-2\bm{e}_1-3\bm{e}_2+\bm{e}_3)=-2(\bm{u}-2\bm{w})-3(\bm{u}-\bm{v}+\bm{w})+(5\bm{u}-3\bm{v}-\bm{w}) =(−2−3+5)u+(3−3)v+(4−3−1)w=0=(-2-3+5)\bm{u}+(3-3)\bm{v}+(4-3-1)\bm{w}=\bm{0} となり、元のベクトルの式でも確かに 0\bm{0} になる。

方針

第 33 式が自動的に満たされたことは、33 本の制約のうち独立なのが 22 本であること、すなわち階数 22 を裏づけている。設問2の答えと整合する。

答案の書き方

核は R3\mathbb{R}^3 の部分空間なので、基底は e1,e2,e3\bm{e}_1,\bm{e}_2,\bm{e}_3 の一次結合として書く。u,v,w\bm{u},\bm{v},\bm{w} で書くと定義域と終域を取り違えたことになる。

失点しやすい点

aa に −3-3 を代入し忘れて f(e3)=(5,a,−1)f(\bm{e}_3)=(5,a,-1) のまま解くと、核が {0}\{\bm{0}\} になってしまう。設問文の「(1)で求めた値のとき」を反映する。

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第3問 — 微分積分:min と max で定めた関数の原点における微分可能性

方針

偏微分は座標軸方向しか見ないので、軸上で f≡0f\equiv0 ならば偏微分係数は必ず 00 になる。全微分可能性は全方向を見るので、軸から外れた方向(本問では y=xy=x)で剰余を評価するのが定石である。

検算

ff は原点で連続である(0≤f≤∣x∣→00\le f\le|x|\to0)。連続かつ偏微分可能でも全微分可能とは限らない、という典型例になっている。

失点しやすい点

h=k=th=k=t の代わりに h=t,k=0h=t,k=0 など軸方向で試すと剰余が 00 になり、誤って「全微分可能」と結論してしまう。反例を探すときは軸から外れた方向を選ぶ。

設問2 g(x,y)=max⁡{∣x∣,∣y∣}g(x,y)=\max\{|x|,|y|\}

方針

軸上での制限が ∣h∣|h| という絶対値関数になる時点で、11 変数の微分可能性が原点で崩れることが見える。11 変数の問題に帰着させて片側極限を比べる。

2つの関数の対比

min⁡\min と max⁡\max は ∣x∣+∣y∣=min⁡+max⁡|x|+|y|=\min+\max という関係で結ばれているが、軸上での振る舞いは正反対である。軸上で min⁡\min は片方が 00 なので 00 に潰れ、max⁡\max は残った方の絶対値がそのまま出る。この違いが結論を分けている。

設問文の指示

「偏微分可能な場合は全微分可能性を調べよ」とあるので、(2)では偏微分可能でないことを示した時点で終わってよい。全微分可能性を別途論じる必要はないが、「偏微分可能でないから全微分可能でもない」と含意を一言書くと丁寧である。

失点しやすい点

gg が原点で連続であること(g→0g\to0)から微分可能性を推測してしまう誤りがある。連続性と偏微分可能性は独立な性質である。

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第4問 — 微分積分:\arctan の減衰と広義積分の収束判定

方針

π/2−arctan⁡x\pi/2-\arctan x をそのまま扱うと不定形の処理が面倒である。arctan⁡(1/x)\arctan(1/x) に書き換えると、よく知られた lim⁡t→0arctan⁡t/t=1\lim_{t\to0}\arctan t/t=1 に帰着する。ロピタルの定理を使ってもよい。

この結果の意味

π2−arctan⁡x∼1x\dfrac{\pi}{2}-\arctan x\sim\dfrac1x(x→∞x\to\infty)である。以後の収束判定は、被積分関数のこの 1/x1/x という減衰を使う。

失点しやすい点

arctan⁡x+arctan⁡(1/x)=π/2\arctan x+\arctan(1/x)=\pi/2 は x>0x>0 でのみ成り立つ(x<0x<0 では −π/2-\pi/2)。積分区間が x≥0x\ge0 なので問題ないが、条件を明記する。

設問2 ∫0∞1x(π2−arctan⁡x)dx\int_0^{\infty}\frac{1}{\sqrt x}\left(\frac{\pi}{2}-\arctan x\right)dx の収束

方針

広義性が原点(1/x1/\sqrt x の発散)と無限遠(区間が非有界)の 22 か所にあるので、区間を分けてそれぞれ比較判定を行う。∫01x−pdx\int_0^1x^{-p}dx は p<1p<1 で、∫1∞x−pdx\int_1^{\infty}x^{-p}dx は p>1p>1 で収束する、という基準を使う。

指数の確認

原点側は p=1/2<1p=1/2<1、無限遠側は p=3/2>1p=3/2>1 で、どちらも収束側に入っている。x\sqrt x が分母にあることが原点で効き、arctan⁡\arctan の減衰が無限遠で効くという役割分担になっている。

失点しやすい点

「∼\sim」で済ませず、x≥Mx\ge M で成り立つ具体的な不等式に直す。極限の定義から ε=1\varepsilon=1 に対する MM を取れば π2−arctan⁡x≤2/x\frac{\pi}{2}-\arctan x\le2/x が得られる。

設問3 ∬Dxx2+y2dxdy\iint_D\frac{\sqrt x}{x^2+y^2}dxdy の収束

方針

積分順序は yy が先である。領域の下端が y=x2y=x^2 という xx の式で書かれているので、yy を先に積分すれば xx だけの式が残る。arctan⁡(y/x)\arctan(y/x) の下端に x2/x=xx^2/x=x が現れるところが設計の要である。

非負性が効く理由

被積分関数が符号を変えないので、累次積分が有限であることと重積分の収束が同値になる(トネリの定理)。符号が変わる場合は絶対値の積分を見る必要がある。

3つの設問のつながり

(1)で減衰の速さ 1/x1/x を得て、(2)でそれを収束判定に使い、(3)で(2)に帰着させる。設問がこの順に並んでいること自体が解法の道案内になっている。

失点しやすい点

arctan⁡(y/x)\arctan(y/x) の xx による 1/x1/x 倍を忘れると、x\sqrt x と組み合わせたときの指数が変わって(2)に帰着しない。置換 y=xty=xt で確認するとよい。

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第5問 — 代数:単元群と多項式環の商

方針

群の公理を順に確かめるだけだが、「積で閉じる」ことは自明でないので最初に示す。(ab)−1=b−1a−1(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1} の形を書けば、可換性を使わずとも閉性が言える。

逆元の一意性

ab=ab′=1ab=ab'=1 なら b=b(ab′)=(ba)b′=b′b=b(ab')=(ba)b'=b' である。この一行を添えると a−1a^{-1} という記号の正当化になる。

失点しやすい点

0∉R∗0\notin R^{*}(R≠{0}R\ne\{0\} のとき)である。R∗R^{*} は RR から 00 を除いたものとは限らない点に注意する。両者が一致するのは RR が体のときで、これが(3)で効く。

設問2 (Z[X])∗(\mathbb{Z}[X])^{*}

方針

一般に RR が整域なら (R[X])∗=R∗(R[X])^{*}=R^{*} が成り立ち、その証明が上の次数の議論である。整域でないと崩れる。

整域でない場合の反例

R=Z/4ZR=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} では (1+2X)2=1+4X+4X2=1(1+2X)^2=1+4X+4X^2=1 となり、1+2X1+2X が単元になる。次数が下がる現象が起きるため、次数の加法性が使えない。この対比を書くと、整域の仮定を意識していることが伝わる。

失点しやすい点

「多項式環の単元は定数」を根拠なしに使わない。deg⁡(fg)=deg⁡f+deg⁡g\deg(fg)=\deg f+\deg g が整域であることに依存する事実だと明示する。

設問3 (R[X]/(X2+1))∗\bigl(\mathbb{R}[X]/(X^2+1)\bigr)^{*}

逆元の具体形

(a+bXˉ)−1=a−bXˉa2+b2(a+b\bar X)^{-1}=\dfrac{a-b\bar X}{a^2+b^2} である。実際 (a+bXˉ)(a−bXˉ)=a2−b2Xˉ2=a2+b2(a+b\bar X)(a-b\bar X)=a^2-b^2\bar X^2=a^2+b^2 で、 (a,b)≠(0,0)(a,b)\ne(0,0) なら a2+b2≠0a^2+b^2\ne0 だから割れる。この計算を書けば体であることを直接示したことにもなる。

(2)との対比

Z[X]\mathbb{Z}[X] では単元がわずか 22 個だったのに対し、R[X]/(X2+1)\mathbb{R}[X]/(X^2+1) では 00 以外すべてが単元になる。割る前の R[X]\mathbb{R}[X] の単元は R∗\mathbb{R}^{*}(00 でない定数)だけなので、極大イデアルで割ることで単元が一気に増えたことになる。

失点しやすい点

X2+1X^2+1 が C[X]\mathbb{C}[X] では (X+i)(X−i)(X+i)(X-i) と分解することに引きずられない。係数体が R\mathbb{R} であることが既約性の根拠である。

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第6問 — 位相:直積距離空間と完備性

方針

和で定めた距離は、公理の検証がすべて「成分ごとに成り立つ不等式を足す」で済む。最大値で定めた d′=max⁡{dX,dY}d'=\max\{d_X,d_Y\} や、二乗和の平方根で定めた距離でも同じ結論になり、これらは互いに同値な距離である。

一致条件の書き方

d=0⇒P1=P2d=0\Rightarrow P_1=P_2 を示すとき、非負の 22 数の和が 00 なら各項が 00 という事実を使う。ここが非負性と結びついている点を明記する。

失点しやすい点

三角不等式で、XX 側と YY 側で同じ中継点 P2P_2 の成分 x2,y2x_2,y_2 を使っていることを示す。別々の中継点を取ると不等式を足しても d(P1,P2)d(P_1,P_2) の形にまとまらない。

設問2 成分列がコーシー列であること

方針

ε\varepsilon に対して取る NN を作り直す必要がなく、そのまま流用できる。不等式が一方向で足りるので証明は短い。

同じことが {yn}\{y_n\} にも言えること

dY(ym,yn)≤d(Pm,Pn)d_Y(y_m,y_n)\le d(P_m,P_n) も同様に成り立つので、{yn}\{y_n\} も (Y,dY)(Y,d_Y) のコーシー列である。(3)で両方使うので、ここで触れておくとよい。

失点しやすい点

dX≤dd_X\le d という不等式は dY≥0d_Y\ge0 に依存している。距離の非負性を根拠として書く。

設問3 直積の完備性

方針

完備性の証明は「コーシー列を取る →\to 極限候補を作る →\to その点に収束することを示す」の 33 段である。極限候補は成分ごとの極限として作る。

検算

X=Y=RX=Y=\mathbb{R}(通常の距離)とすると dd は R2\mathbb{R}^2 上の ℓ1\ell^1 距離になる。R\mathbb{R} は完備なので R2\mathbb{R}^2 も完備で、これはよく知られた事実と一致する。

距離の取り替えについて

dX×Yd_{X\times Y}、max⁡\max 型、ユークリッド型のいずれも max⁡{dX,dY}≤d≤2max⁡{dX,dY}\max\{d_X,d_Y\}\le d\le2\max\{d_X,d_Y\} の関係で同値なので、収束列・コーシー列・完備性はどれで測っても変わらない。

失点しやすい点

極限が X×YX\times Y の元であること、すなわち x∈Xx\in X かつ y∈Yy\in Y であることを確認する。完備性は「極限が空間の外に出ない」ことを主張しているので、この確認が証明の核心である。

位相:直積距離空間と完備性の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — 複素解析:留数定理による三角関数入りの広義積分

方針

11 位の極の留数は g(z0)h′(z0)\dfrac{g(z_0)}{h'(z_0)}(f=g/hf=g/h)で求めるのが速い。分母を因数分解して極限を取る方法より計算量が少ない。

eiαe^{i\alpha} の計算

α\alpha の虚部が正なので iαi\alpha の実部は負になり、∣eiα∣=e−3/2<1|e^{i\alpha}|=e^{-\sqrt3/2}<1 となる。上半平面の極では指数因子が減衰する、という事実が(3)の評価と対応している。

失点しやすい点

α,β\alpha,\beta は 11 の原始 33 乗根であり ∣α∣=∣β∣=1|\alpha|=|\beta|=1 である。単位円上にあるので、(2)の R≥2R\ge2 という条件のもとでは半円の内側に確実に入る。

設問2 ∣f(Reiθ)∣|f(Re^{i\theta})| の評価

方針

上半平面に限る理由は ∣eiz∣=e−Im⁡z|e^{iz}|=e^{-\operatorname{Im}z} が Im⁡z≥0\operatorname{Im}z\ge0 でのみ 11 以下になるからである。下半平面で閉じると指数因子が発散するので、eize^{iz} を使うときは必ず上半平面を選ぶ。

R≥2R\ge2 の役割

R2−R−1>0R^2-R-1>0 を保証するための条件である。z2+z+1z^2+z+1 の根の絶対値が 11 なので、R>1+52≈1.618R>\frac{1+\sqrt5}{2}\approx1.618 であれば十分だが、扱いやすい R≥2R\ge2 が与えられている。

失点しやすい点

∣z2+z+1∣≥∣z2∣−∣z+1∣|z^2+z+1|\ge|z^2|-|z+1| としても R2−R−1R^2-R-1 が出るが、∣z2∣−∣z∣−1|z^2|-|z|-1 と段階を分けたほうが安全である。逆三角不等式の向きに注意する。

設問3 II の値

なぜ cos⁡z\cos z ではなく eize^{iz} か

cos⁡z=eiz+e−iz2\cos z=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} は上半平面で e−ize^{-iz} の項が発散するため、弧上の評価が効かない。eize^{iz} だけを使い、最後に実部を取るのが定石である。

検算

数値では e−3/2≈0.4206e^{-\sqrt3/2}\approx0.4206、cos⁡0.5≈0.8776\cos0.5\approx0.8776、2π/3≈3.62762\pi/\sqrt3\approx3.6276 だから I≈1.34I\approx1.34 である。 被積分関数は x=−1/2x=-1/2 付近で最大値 cos⁡(0.5)/0.75≈1.17\cos(0.5)/0.75\approx1.17 をとり、幅 11 強の山があるので、この大きさは妥当である。

副産物

虚部を比べれば ∫−∞∞sin⁡xx2+x+1dx=−2π3e−3/2sin⁡12\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\frac{\sin x}{x^2+x+1}dx=-\frac{2\pi}{\sqrt3}e^{-\sqrt3/2}\sin\frac12 も同時に得られる。分母が x=−1/2x=-1/2 に関して対称なのに sin⁡x\sin x が原点対称なので、この積分は 00 にならない。

失点しやすい点

2πi2\pi i と留数の分母 i3i\sqrt3 で ii が約分され、答えが実数と虚数の積の形になる。ここで ii の処理を誤ると実部の取り出しが狂う。また下半平面の極 β\beta を足さないよう注意する。

複素解析:留数定理による三角関数入りの広義積分の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(2026年2月実施)(全7問)

    線形代数:2次行列の対角化と冪 / 線形代数:対称行列の核・像と直交補空間 / 微分積分:連続性・偏微分可能性・全微分可能性の分離

  • 2026年度(2025年8月実施)(全7問)

    線形代数:対称行列の対角化と冪 / 線形代数:直交補空間と正規直交基底 / 微分積分:2変数関数の臨界点と極値判定

  • 2025年度(2025年2月実施)(全7問)

    線形代数:符号付き対角行列が定める線形写像と双1次形式 / 線形代数:重複固有値をもつ行列の冪 / 微分積分:一様連続の定義と距離関数への適用

  • 2025年度(2024年8月実施)(このページ・全7問)

    線形代数:固有値分解と冪の漸近方向 / 線形代数:抽象ベクトルを座標に直して調べる線形写像 / 微分積分:min と max で定めた関数の原点における微分可能性

  • 2024年度(2024年2月実施)(全7問)

    線形代数:パラメータつき行列の正則性と対角化可能性 / 線形代数:線形写像の空間と部分空間を保つ写像のなす部分空間 / 微分積分:3次多項式の極値と三角形領域上の最大最小

  • 2024年度(2023年8月実施)(全7問)

    線形代数:2次形式の対称行列表示と直交変換による標準化 / 線形代数:直交補空間の正規直交基底と鏡映変換 / 微分積分:分数項を含む2変数関数の極値

2025年度(2024年8月実施)の出題内容

全7問

この7問の分野は線形代数2問・微分積分・解析2問・位相・幾何1問・代数1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数固有値分解と冪の漸近方向展開係数が 0 でないことの必要性あり
第2問線形代数抽象ベクトルを座標に直して調べる線形写像—あり
第3問微分積分・解析min と max で定めた関数の原点における微分可能性2つの関数の対比 / 設問文の指示あり
第4問微分積分・解析\arctan の減衰と広義積分の収束判定この結果の意味 / 指数の確認あり
第5問代数単元群と多項式環の商逆元の一意性 / 整域でない場合の反例あり
第6問位相・幾何直積距離空間と完備性一致条件の書き方 / 同じことが \{y_n\} にも言えること—
第7問—複素解析:留数定理による三角関数入りの広義積分e^iα の計算 / R≥2 の役割あり

2025年度(2024年8月実施)の解説には失点しやすい点7件・検算5件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2024年度(2024年2月実施))との違い

大問数
2024年度(2024年2月実施) 7問 → 2025年度(2024年8月実施) 7問
2024年度(2024年2月実施)の解答例

埼玉大学の公式過去問

公開年度範囲
平成年代からの各回(直近は2024〜2026年度の8月実施・2月実施)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
英語は TOEIC・TOEIC IP のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
院試hubの最終確認
2026-09-05
埼玉大学の公式過去問PDF