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神戸大 理学研究科 物理学専攻 物理 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は電磁気学・回路2問、熱・統計力学1問、量子力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 力学:ジャイロスコープの歳差運動

どの軸か

「円板の回転軸」は円板の面に垂直な中心軸である。面内の直径まわりなら 14Mr2\frac14Mr^2 になるので、軸を取り違えない。

失点しやすい点

輪の質量に 2πs ds2\pi s\,ds を使う。dsds だけでは面積にならない。

設問2 角運動量

歳差の寄与を無視してよい理由

歳差運動による角運動量の寄与は、軸まわりの慣性モーメントに ω1\omega_1 を掛けた程度である。∣ω0∣|\omega_0| が十分大きいので ω1≪ω0\omega_1\ll\omega_0 となり、この寄与は無視できる。設問文の「∣ω0∣|\omega_0| は十分に大きい」がこの近似を保証している。

失点しやすい点

LL をベクトルとして扱うことを意識する。問 33 以降で向きが変わることが本質になる。

設問3 dL/dt=ω1×Ld\bm L/dt=\bm\omega_1\times\bm L

大きさが変わらないこと

ddt∣L∣2=2L⋅dLdt=2L⋅(ω1×L)=0\dfrac{d}{dt}|\bm L|^2=2\bm L\cdot\dfrac{d\bm L}{dt}=2\bm L\cdot(\bm\omega_1\times\bm L)=0 である。外積は L\bm L に垂直なので、角運動量の大きさは変わらず向きだけが変わる。歳差運動の定義と整合する。

本問での配置

回転軸は水平、ω1\bm\omega_1 は鉛直だから θ=π/2\theta=\pi/2 である。したがって ∣dL/dt∣=ω1L|d\bm L/dt|=\omega_1L となり、問 44 で使える。

失点しやすい点

L×ω1\bm L\times\bm\omega_1 と順序を逆にしない。回転の向きが逆になる。

設問4 歳差角速度

MM が消えること

トルクも角運動量もともに MM に比例するので約分される。重い円板ほど倒れやすいということはなく、歳差の速さは質量によらない。

ω0\omega_0 に反比例すること

速く回すほど歳差はゆっくりになる。コマが勢いよく回っているうちは倒れず、遅くなると首振りが速くなって倒れる、という日常の観察と一致する。

失点しやすい点

ℓ\ell は軸の全長 2ℓ2\ell の半分、すなわち支点から円板までの距離である。2ℓ2\ell を使わない。

設問5 おもりを付けた場合

検算

m=0m=0 とすれば問 44 の結果に戻る。またおもりを重くするほど歳差が速くなる。倒そうとするトルクが増えるからで、直感と合う。

「ほぼ傾かずに」の意味

おもりを付けても軸が傾かないのは、重心が支点から離れても L\bm L が大きいために、トルクが角運動量の向きをゆっくり回すだけで済むからである。ω0\omega_0 が小さいとこの近似が崩れ、章動(首振り)が現れる。

失点しやすい点

おもりの位置を A から ℓ\ell としない。B は軸の反対端で、A からの距離は 2ℓ2\ell である。

解答

薄い円板

面密度 σ=Mπr2\sigma=\dfrac{M}{\pi r^2} の円板を、中心を通り面に垂直な軸(回転軸)のまわりで回す。半径 ss、幅 dsds の輪の質量は σ⋅2πs ds\sigma\cdot2\pi s\,ds だから I=∫0rs2 σ 2πs ds=2Mr2∫0rs3ds=2Mr2⋅r44=12Mr2. I=\int_0^r s^2\,\sigma\,2\pi s\,ds=\frac{2M}{r^2}\int_0^r s^3ds=\frac{2M}{r^2}\cdot\frac{r^4}{4}=\frac12Mr^2 .

定義

回転軸まわりの角運動量は L=Iω0=12Mr2ω0 L=I\omega_0=\frac12Mr^2\omega_0 で、向きは回転軸に沿って(右ねじの向きに)取る。

歳差運動の描像

歳差運動とは、角運動量ベクトル L\bm L が大きさを変えずに、鉛直な軸(ω1\bm\omega_1 の向き)のまわりを角速度 ω1\omega_1 で回る運動である。

回転するベクトルの微分

角速度 ω1\bm\omega_1 で剛体的に回転する系に固定されたベクトル L\bm L の、静止系で測った時間変化は dLdt=ω1×L \frac{d\bm L}{dt}=\bm\omega_1\times\bm L である。実際、微小時間 dtdt の間に L\bm L は ω1\bm\omega_1 のまわりに角 ω1dt\omega_1dt だけ回るので、変化量は L\bm L に垂直で大きさが Lsin⁡θ⋅ω1dtL\sin\theta\cdot\omega_1dt(θ\theta は ω1\bm\omega_1 と L\bm L のなす角)、向きは ω1×L\bm\omega_1\times\bm L の向きになる。これはまさに ∣ω1×L∣dt|\bm\omega_1\times\bm L|dt である。

重力によるトルク

円板は軸の中央、すなわち支点 A から距離 ℓ\ell の位置にある。重力 MgMg が鉛直下向きにはたらくので、A まわりのトルクの大きさは N=Mgℓ N=Mg\ell である。向きは水平で、L\bm L に垂直である。

角運動量の変化率と等置

dLdt=N\dfrac{d\bm L}{dt}=\bm N であり、問 33 より ∣dLdt∣=ω1L\left|\dfrac{d\bm L}{dt}\right|=\omega_1L(ω1⊥L\bm\omega_1\perp\bm L)だから ω1L=Mgℓ ⟹ ω1=MgℓL=Mgℓ12Mr2ω0=2gℓr2ω0. \omega_1L=Mg\ell \ \Longrightarrow\ \omega_1=\frac{Mg\ell}{L}=\frac{Mg\ell}{\frac12Mr^2\omega_0}=\frac{2g\ell}{r^2\omega_0}.

トルクの変化

B は A から距離 2ℓ2\ell の位置にある。質量 mm のおもりを付けると、A まわりのトルクは N′=Mgℓ+mg⋅2ℓ=(M+2m)gℓ N'=Mg\ell+mg\cdot2\ell=(M+2m)g\ell になる。

角運動量は変わらない

おもりは回転軸上にあるので、軸まわりの慣性モーメントへの寄与は無視できる(軸からの距離が 00)。したがって LL は変わらない。

歳差角速度

ω1′=N′L=(M+2m)gℓ12Mr2ω0=2(M+2m)gℓMr2ω0. \omega_1'=\frac{N'}{L}=\frac{(M+2m)g\ell}{\frac12Mr^2\omega_0} =\frac{2(M+2m)g\ell}{Mr^2\omega_0}.

最終答

I=12Mr2I=\dfrac12Mr^{2}

L=12Mr2ω0L=\dfrac12Mr^{2}\omega_0、向きは回転軸方向

ω1=2gℓr2ω0\omega_1=\dfrac{2g\ell}{r^{2}\omega_0}

ω1′=2(M+2m)gℓMr2ω0=(1+2mM)ω1\omega_1'=\dfrac{2(M+2m)g\ell}{Mr^{2}\omega_0}=\left(1+\dfrac{2m}{M}\right)\omega_1

第2問 — 電磁気学:マクスウェル方程式・ポインティングの定理・平面波

与えられた2式との対応

∇⋅E=0\nabla\cdot\bm E=0 は電荷がないこと、∇⋅B=0\nabla\cdot\bm B=0 は磁荷がないことを表す。残る 22 式は場の時間変化を結びつけ、波動を生む。

変位電流

ε0μ0∂E/∂t\varepsilon_0\mu_0\partial\bm E/\partial t が変位電流の項である。これがなければ電磁波は存在しない。

失点しやすい点

μ0J\mu_0\bm J の項は真空なので 00 である。一般形と混同しない。

設問2 ポインティングの定理

連続の式としての意味

これは電磁場のエネルギーに対する連続の式である。ある領域のエネルギーが減るのは、境界を通じて S\bm S の形で流れ出るからだけである。S\bm S がエネルギー流束密度を表す根拠がここにある。

電荷があるとき

J≠0\bm J\ne0 なら右辺に −J⋅E-\bm J\cdot\bm E(電荷が場から受け取る仕事率)が加わる。真空だからこそ厳密な保存則になる。

失点しやすい点

ベクトル恒等式の符号を確認する。B⋅(∇×E)\bm B\cdot(\nabla\times\bm E) が先に来る。

設問3 磁束密度・伝搬方向・光速

向きの確認

S=1μ0E×B∝ez×ey=−ex\bm S=\dfrac{1}{\mu_0}\bm E\times\bm B\propto\bm e_z\times\bm e_y=-\bm e_x で、確かにエネルギーは −x-x 方向へ流れる。伝搬方向と一致する。

EE と BB の比

B0/E0=k/ω=1/cB_0/E_0=k/\omega=1/c である。真空中の平面波では磁場の大きさは電場の 1/c1/c 倍になる。

失点しやすい点

位相が kx+ωtkx+\omega t(−- ではなく ++)なので −x-x 方向に進む。符号で判断する。

設問4 電場の振幅

時間平均の因子

S=ε0cE2S=\varepsilon_0cE^2 で E=E0sin⁡(⋯ )E=E_0\sin(\cdots) の 22 乗の時間平均が E02/2E_0^2/2 になるので 12\frac12 が付く。これを落とすと 2\sqrt2 倍ずれる。

値の妥当性

30 V/m30\,\mathrm{V/m} は日常的な光の電場としては大きめだが、2 m2\,\mathrm m の距離で 60 W60\,\mathrm W という設定なら妥当である。太陽光(1.4 kW/m21.4\,\mathrm{kW/m^2})では E0≃1 kV/mE_0\simeq1\,\mathrm{kV/m} になる。

失点しやすい点

100 W100\,\mathrm W をそのまま使わない。放射されるのは 60 W60\,\mathrm W である。

設問5 2つの波の重ね合わせ

エネルギーはどこへ行ったか

電場が全空間で 00 になる瞬間でも、磁場は最大になっている。エネルギーは電場と磁場の間を行き来しており、総量は保存される。定在波では正味のエネルギー流 ⟨S⟩\langle\bm S\rangle が 00 になる。

逆向きの波

Ea\bm E_a は −x-x 方向、Eb\bm E_b は +x+x 方向に進む。逆向きに進む同振幅の波が重なると定在波ができる。共振器の中の電磁場がこの形になる。

失点しやすい点

和積の公式 sin⁡α+sin⁡β=2sin⁡α+β2cos⁡α−β2\sin\alpha+\sin\beta=2\sin\dfrac{\alpha+\beta}{2}\cos\dfrac{\alpha-\beta}{2} を正しく使う。cos⁡\cos の引数が ωt\omega t になる。

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第3問 — 実験物理:陽電子とシンチレータによる同時計測

便利な換算

p [GeV/c]=0.3 B [T]×r [m]p\,[\mathrm{GeV}/c]=0.3\,B\,[\mathrm T]\times r\,[\mathrm m] を覚えておくと速い。p=1.0×10−3 GeV/cp=1.0\times10^{-3}\,\mathrm{GeV}/c、r=1.0 mr=1.0\,\mathrm m から B=3.3×10−3 TB=3.3\times10^{-3}\,\mathrm T が直ちに出る。

90∘90^\circ 曲げる意味

運動量を選別すると同時に、線源からの直接のガンマ線や中性粒子を幾何学的に除ける。図のシールドと合わせて、余計な信号を落とす配置になっている。

失点しやすい点

MeV/c\mathrm{MeV}/c を kg⋅m/s\mathrm{kg\cdot m/s} に直すとき、cc で割ることを忘れない。

設問2 ガンマ線と物質の相互作用

本実験での主過程

検出するのは対消滅ガンマ線でエネルギーは 511 keV511\,\mathrm{keV} である。1.02 MeV1.02\,\mathrm{MeV} より低いので対生成は起こらず、光電効果とコンプトン散乱が効く。全エネルギーを落とすのは光電効果の場合である。

荷電粒子との違い

荷電粒子は電離損失で連続的にエネルギーを落とすが、ガンマ線は 11 回の相互作用で大きくエネルギーを失うか素通りするかである。したがってガンマ線の検出効率は物質の厚さと ZZ に強く依存する。

失点しやすい点

33 つを挙げ、それぞれがどのエネルギー領域で効くかまで書くと十分な答案になる。

設問3 シンチレータの使い分け

同時計測の役割

A(陽電子の通過)、B(陽電子の停止)、C と D(対消滅ガンマ線 22 本)がすべて同時に信号を出したときだけデータを取る。これにより偶発的な背景事象を強く抑えられる。

ガンマ線が反対方向に出ること

静止した陽電子が電子と対消滅すると、運動量保存から 22 本のガンマ線は正反対の向きに出る。C と D を B の両側に置く配置がこれに対応している。

失点しやすい点

「速いから」「効率がよいから」だけでなく、ZZ と密度という物性に踏み込むと説明として完結する。

設問4 光子数とエネルギー分解能

実際の NaI\mathrm{NaI} との比較

実際の NaI\mathrm{NaI} 検出器の 511 keV511\,\mathrm{keV} での分解能は半値全幅で 77〜8%8\% 程度である。本問の見積もり 1.6%1.6\% より悪いのは、光子の集光効率、光電面の量子効率(25%25\% 程度)、増倍過程の揺らぎなどが加わるためである。設問が「光子数の統計的な揺らぎのみを考慮する」と限定しているのはこのためである。

分解能が 1/N1/\sqrt N で改善すること

発光量の多いシンチレータほど分解能がよい。NaI\mathrm{NaI} が広く使われる理由の 11 つである。

失点しやすい点

ガンマ線のエネルギーを 1.0 MeV1.0\,\mathrm{MeV}(陽電子の運動量)としない。対消滅で生じるガンマ線は 511 keV511\,\mathrm{keV} である。

設問5 電荷量と増幅率

値の妥当性

光電子増倍管の増幅率は 10510^5〜10710^7 が一般的で、1.5×1061.5\times10^6 はその範囲の真ん中にある。1010 段程度のダイノードで 11 段あたり 44 倍の増倍(410≃1064^{10}\simeq10^6)と考えれば納得できる。

波形の形の意味

立ち上がりが速く立ち下がりが遅い(本問では極性が負なので逆に見える)非対称な三角形は、シンチレータの発光の減衰と回路の時定数を反映している。NaI\mathrm{NaI} の減衰時間 230 ns230\,\mathrm{ns} と同じ桁である。

面積で測る理由

波高ではなく面積(電荷)がエネルギーに比例する。波形の形が変わっても電荷は保たれるので、電荷積分型の測定が標準である。

失点しやすい点

三角形の面積は 12×\frac12\times 底辺 ×\times 高さである。12\frac12 を落とすと 22 倍ずれる。また RR で割る操作を忘れない。

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第4問 — 量子力学:半直線上のデルタ関数型ポテンシャル

無限障壁の扱い

x≤0x\le0 では ψ=0\psi=0 であり、波動関数の連続性から ψ(0)=0\psi(0)=0 が要求される。導関数はここでは連続でなくてよい(無限に高い壁のため)。

この設問が試していること

方程式を書くだけの設問に見えるが、V(x)V(x) を具体的に書き下ろして境界条件 ψ(0)=0\psi(0)=0 を宣言できるかどうかが、以降すべての計算の前提になる。

失点しやすい点

時間に依存する式を問われているので、∂/∂t\partial/\partial t の項を落とさない。

設問2 x=ax=a での接続条件

跳びの向き

斥力(λ>0\lambda>0)なら右側の傾きが大きくなり、引力(λ<0\lambda<0)なら小さくなる。符号を追うときの目安になる。

デルタ関数の強さの次元

λ\lambda は[エネルギー×長さ]の次元をもつ。2mλ/ℏ22m\lambda/\hbar^2 は[長さ−1^{-1}]となり、跳びの式の次元が合う。

失点しやすい点

ψ′\psi' が不連続で ψ\psi が連続、という組み合わせを逆にしない。有限の跳びをもつのは 11 階微分の方である。

設問3 透過振幅と透過率

高エネルギー極限

E→∞E\to\infty すなわち k→∞k\to\infty で 2mλ/(ℏ2k)→02m\lambda/(\hbar^2k)\to0 となり T→1T\to1。エネルギーが十分高ければ薄い障壁は透けて見える。

低エネルギー極限

k→0k\to0 では sin⁡ka≃ka\sin ka\simeq ka を使うと 2mλsin⁡ka/(ℏ2k)→2mλa/ℏ22m\lambda\sin ka/(\hbar^2k)\to2m\lambda a/\hbar^2(有限)となり、TT は 1/[1+(2mλa/ℏ2)2]1/[1+(2m\lambda a/\hbar^2)^2] に近づく。障壁が十分強ければ T→0T\to0、すなわちほぼ完全反射である。

検算

λ→0\lambda\to0 でどの kk でも T=1T=1。障壁がなければ全透過という自明な結果を再現する。

失点しやすい点

x<ax<a 側に eikxe^{ikx} と e−ikxe^{-ikx} を独立に置くのではなく、ψ(0)=0\psi(0)=0 から sin⁡kx\sin kx に固定されることを使う。半直線問題の特徴である。

設問4 透過率が 11 になる条件

共鳴透過という見方

0<x<a0<x<a を長さ aa の井戸と見ると、EnE_n は無限井戸の固有エネルギーに一致する。井戸の定在波と入射波の位相が合う「共鳴」で透過率が跳ね上がる、という一般的な描像に当てはまる。

λ\lambda に依存しないこと

完全透過の条件に λ\lambda が現れないのがこの問題の面白いところである。障壁の強さではなく、波動関数が障壁の位置で節をもつかどうかだけで決まる。

失点しやすい点

n=0n=0 は k=0k=0(E=0E=0)で物理的な散乱状態にならないので除く。

設問5 引力の場合の束縛状態

壁が束縛を妨げること

自由空間の 11 次元デルタ井戸はどんなに弱くても必ず 11 つ束縛状態をもつ。ここで存在条件がつくのは、ψ(0)=0\psi(0)=0 という壁の条件が波動関数を押し戻し、井戸に十分な確率を集められなくなるためである。a→∞a\to\infty で条件は自動的に満たされ、自由空間の結果に戻る。

束縛状態は高々1つ

f(κ)f(\kappa) は単調増加かつ上に凸で κ→∞\kappa\to\infty で m∣λ∣/ℏ2m|\lambda|/\hbar^2 に飽和する。直線 y=κy=\kappa との交点は原点以外に高々 11 個なので、束縛状態は最大 11 つである。

検算

a→0a\to0 で条件 2m∣λ∣a/ℏ2>12m|\lambda|a/\hbar^2>1 は満たされなくなる。井戸が壁に重なると束縛できない、という直観と合う。

失点しやすい点

0<x<a0<x<a で e−κxe^{-\kappa x} ではなく sinh⁡κx\sinh\kappa x(=12(eκx−e−κx)=\frac12(e^{\kappa x}-e^{-\kappa x}))を使う。ψ(0)=0\psi(0)=0 を満たす組み合わせがこれである。

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第5問 — 熱・統計力学:常磁性体の統計と断熱消磁

N!N! で割らない理由

理想気体では同種粒子の不可弁別性から N!N! で割るが、ここでは各スピンが格子点に固定され位置で区別できるので割らない。混同すると以降の示量性がすべて狂う。

極限の確認

H→0H\to0 で F→−NkBTln⁡2F\to-Nk_BT\ln2。これは 2N2^N 個の状態が等確率に縮退した場合の自由エネルギー −kBTln⁡2N-k_BT\ln2^N に一致する。

失点しやすい点

cosh⁡\cosh の前の因子 22 を落とさない。これが H→0H\to0 での残留エントロピー NkBln⁡2Nk_B\ln2 を生む。

設問2 磁化の計算と数値評価

別の導き方

上向き・下向きの占有確率 p±=e±x/(2cosh⁡x)p_\pm=e^{\pm x}/(2\cosh x) を求め、M=NμB(p+−p−)M=N\mu_B(p_+-p_-) としても同じ式が出る。統計的な意味が見えるのでこちらも書けるとよい。

飽和の速さ

x=1x=1 で tanh⁡1=0.76\tanh1=0.76、x=2x=2 で 0.960.96、x=3x=3 で 0.9950.995。xx が 22 を超えるとほぼ飽和する。μBH\mu_B H が熱エネルギーの 22 倍あれば揃う、という感覚をもっておくとよい。

失点しやすい点

M=−∂F/∂HM=-\partial F/\partial H の符号。FF が HH の増加とともに下がるので M>0M>0 になる。

設問3 高温での磁化率(キュリー則)

1/T1/T になる理由

磁場が揃えようとするエネルギー利得 μBH\mu_BH と、それを乱す熱エネルギー kBTk_BT の比が磁化を決める。温度が上がるほど揃いにくくなるので χ∝1/T\chi\propto1/T になる。

強磁性との違い

スピン間に相互作用があるとキュリー・ワイス則 χ=C/(T−Tc)\chi=C/(T-T_c) になり、TcT_c で発散する。本問はスピンが独立なので Tc=0T_c=0 に相当し、有限温度では常に常磁性である。

検算

次元を確認する。μB2/(kBT)\mu_B^2/(k_BT) は[J/T2^2]÷[J]×… となり、NμB2/(kBT)N\mu_B^2/(k_BT) は[磁化]/[磁場]の次元をもつ。

失点しやすい点

tanh⁡x≃x\tanh x\simeq x の展開は x≪1x\ll1 でのみ有効。設問 22 の x=2x=2 に適用してはならない。

設問4 エントロピー

H/TH/T だけの関数であること

SS は x=μBH/(kBT)x=\mu_BH/(k_BT) という組み合わせでしか HH と TT に依存しない。これは設問 55 の断熱消磁を解く決定的な手がかりになる。

U=F+TSU=F+TS による確認

U=F+TS=−NμBHtanh⁡xU=F+TS=-N\mu_BH\tanh x となり、M=NμBtanh⁡xM=N\mu_B\tanh x を使えば U=−MHU=-MH。磁気系のエネルギーとして正しい形である。

熱力学第3法則

T→0T\to0 で S→0S\to0 となるのは、基底状態(全スピンが磁場方向に揃った状態)が縮退していないためである。H=0H=0 では NkBln⁡2Nk_B\ln2 の残留エントロピーが残るが、これは相互作用を無視した理想化の結果である。

失点しやすい点

TT 微分のとき xx が TT を含むことを忘れない。連鎖律を落とすと xtanh⁡xx\tanh x の項が消える。

設問5 断熱消磁による冷却

到達温度の限界

式の上では H2→0H_2\to0 で T2→0T_2\to0 となるが、実際にはスピン間の双極子相互作用や結晶場による内部磁場 HintH_{\mathrm{int}} があるため、T2≃T1Hint/H1T_2\simeq T_1H_{\mathrm{int}}/H_1 で止まる。常磁性塩を使った断熱消磁で数 mK\mathrm{mK}、核スピンを使えば μK\mu\mathrm K 台まで到達できる。

実験手順

まず高磁場をかけたまま液体ヘリウムで冷やしてスピンを揃え(このとき出る磁化熱を浴に捨てる)、次に断熱にしてから磁場を下げる。22 段階であることが重要である。

他の断熱冷却との比較

理想気体の断熱膨張では TVγ−1TV^{\gamma-1} が一定だった。ここでは H/TH/T が一定であり、いずれも「自由度を増やす向きの断熱変化は冷却をもたらす」という同じ構図に乗っている。

失点しやすい点

SS が H/TH/T の関数であることを示さずに T2=T1H2/H1T_2=T_1H_2/H_1 だけ書くと導出になっていない。設問 44 の結果を引用して単調性まで述べる。

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第6問 — 電磁気学・相対論:電磁場テンソルとE×Bドリフト

回転の向き

q>0q>0、B0>0B_0>0 なら tt が増えるにつれて +y+y 方向から +x+x 方向へ回る、すなわち zz 軸まわりに時計回り(右手系で負の向き)である。電荷の符号を変えると回転が逆転する。

速さが変わらないこと

vx2+vy2=V02v_x^2+v_y^2=V_0^2 が常に成り立つ。磁気力は速度に垂直なので仕事をせず、運動エネルギーは保存する。

半径の意味

rL=p/(qB0)r_L=p/(qB_0) と書けば、設問の枠を越えて加速器や霧箱の運動量測定に直結する式である。

失点しやすい点

初期条件を落とさない。x(0)=0x(0)=0 から積分定数が決まり、円の中心が原点ではなく (V0/ω,0)(V_0/\omega,0) になる。

設問2 電磁場テンソルの成分

不変量の確認

FμνFμν=2(B2−E2/c2)=2(B02−E02/c2)F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}=2(B^2-E^2/c^2)=2(B_0^2-E_0^2/c^2)、 εμνρσFμνFρσ∝E⋅B=0\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}F^{\mu\nu}F^{\rho\sigma}\propto\bm E\cdot\bm B=0。 E⊥B\bm E\perp\bm B なので第 22 不変量は 00 であり、これが設問 33 で「電場を完全に消せる」ことの根拠になる。

E\bm E と B\bm B の配置

E\bm E は yy 方向、B\bm B は zz 方向で直交している。E×B\bm E\times\bm B は +x+x 方向を向く。設問 44 のドリフト方向を先取りできる。

失点しやすい点

符号と添字の規約は教科書によって異なる。採用した規約(計量の符号、F0iF^{0i} の定義)を明記すれば、その中で整合していればよい。

設問3 電場が消える慣性系

存在条件

E0<cB0E_0<cB_0 すなわち FμνFμν>0F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}>0(磁場優勢)のときだけ電場を消せる。逆に E0>cB0E_0>cB_0(電場優勢)なら磁場を消す系が存在し、E0=cB0E_0=cB_0 の場合(光波)はどちらも消せない。不変量が慣性系によらないことがこの分類を保証する。

磁場が弱くなること

B~=B0/γ<B0\tilde B=B_0/\gamma<B_0。ブーストで磁場は小さくなる。γ\gamma 倍ではなく 1/γ1/\gamma 倍である点に注意する。

非相対論極限

E0≪cB0E_0\ll cB_0 なら γ≃1\gamma\simeq1 で B~≃B0\tilde B\simeq B_0。よく使われる「E×BE\times B ドリフト系では磁場はそのまま」という近似の根拠がこれである。

失点しやすい点

「電場と同じ向きに動けば消える」ではない。E\bm E にも B\bm B にも垂直な E×B\bm E\times\bm B 方向へのブーストが必要である。

設問4 実験室系での軌道

ドリフトが電荷によらない理由

vd\bm v_d の式に qq も mm も現れない。正電荷も負電荷も同じ向きに同じ速さでドリフトするので、E×B\bm E\times\bm B ドリフトでは電流が生じない。プラズマ物理でこの点が重要になる。

図形的な描像

V0=vdV_0=v_d なら S~\tilde S 系で粒子は静止し、実験室系では xx 軸上を等速直線運動する(速度選別器の原理)。V0=0V_0=0 なら S~\tilde S 系で速さ vdv_d の円運動となり、実験室系では原点で尖点をもつサイクロイドを描く。

別の導き方

実験室系で直接 mv˙=q(E+v×B)m\dot{\bm v}=q(\bm E+\bm v\times\bm B) を解き、v=u+vd\bm v=\bm u+\bm v_d と置いて E\bm E の項が消えるように vd\bm v_d を選んでも同じ結果になる。相対論を使わずに済むが、vd\bm v_d を天下りに与える形になる。

失点しやすい点

円運動の半径に使う速さは実験室系の V0V_0 ではなく、ドリフト系での相対速度 ∣V0−vd∣|V_0-v_d| である。

電磁気学・相対論:電磁場テンソルとE×Bドリフトの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2025年度(全6問)

    解析力学:最小作用の原理とばねでつながれた質点 / 電磁気学:誘電体を挟んだ同軸円筒コンデンサー / 実験物理:ノギスの読み取りと振り子による重力加速度の測定

  • 2024年度(全6問)

    力学:単振り子とパラメトリック励振 / 電磁気学:平行二線(レッヘル線)の特性インピーダンス / 熱物理・実験:半無限体の熱伝導とサーミスタ

  • 2023年度(このページ・全6問)

    力学:ジャイロスコープの歳差運動 / 電磁気学:マクスウェル方程式・ポインティングの定理・平面波 / 実験物理:陽電子とシンチレータによる同時計測

  • 2022年度(全6問)

    力学:中心力場での平面運動と有効ポテンシャル / 電磁気学:一様帯電球殻の電場と回転球殻が作る磁場 / 光学:マイケルソン干渉計による表面形状の計測

  • 2021年度(全6問)

    力学:剛体振り子と回転座標系・フーコー振り子 / 電磁気学:並進する2電荷間の静電気力と磁気力 / 熱力学:気体分子運動論と断熱大気の温度・密度分布

  • 2020年度(全6問)

    力学:穴を通した棒の剛体振り子と周期の最小化 / 電磁気学:同心円形回路の相互インダクタンスと磁場のエネルギー / 波動:張られた弦の波動方程式とピアノの打弦点

2023年度の出題内容

全6問

この6問の分野は電磁気学・回路2問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学ジャイロスコープの歳差運動どの軸か / 歳差の寄与を無視してよい理由あり
第2問電磁気学・回路マクスウェル方程式・ポインティングの定理・平面波与えられた2式との対応 / 変位電流あり
第3問陽電子とシンチレータによる同時計測便利な換算 / 90^° 曲げる意味あり
第4問量子力学半直線上のデルタ関数型ポテンシャル無限障壁の扱い / この設問が試していることあり
第5問熱・統計力学常磁性体の統計と断熱消磁N! で割らない理由 / 極限の確認あり
第6問電磁気学・回路電磁場テンソルとE×Bドリフト回転の向き / 速さが変わらないことあり

2023年度の解説には失点しやすい点6件・検算3件が付いています。

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 6問 → 2023年度 6問
2022年度の解答例

神戸大学の公式過去問

公開年度範囲
2013〜2025年の物理I・物理II(実施年で表記)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
2022年実施分より英語は外部試験(TOEFL iBT)に切り替わり、英語問題の掲載はない。2021年以前の英語問題は著作権の都合で来訪閲覧のみ。
院試hubの最終確認
2026-09-05
神戸大学の公式過去問PDF