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神戸大 理学研究科 物理学専攻 物理 2021年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は熱・統計力学2問、電磁気学・回路1問、量子力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 力学:剛体振り子と回転座標系・フーコー振り子

なぜ ℓ=h+R\ell=h+R か

針金の長さは hh でも、質量が集中しているのは球の中心(重心)である。したがって振り子の実効長は h+Rh+R になる。RR を落とすと R/hR/h の相対誤差が出る。

振幅に依存しないこと

ω0\omega_0 に θ0\theta_0 が現れない。これは sin⁡θ≃θ\sin\theta\simeq\theta の線形近似の結果で、振幅が大きくなると周期は T=T0(1+θ0216+⋯ )T=T_0\left(1+\frac{\theta_0^{2}}{16}+\cdots\right) と長くなる。θ0=10∘\theta_0=10^\circ で約 0.2%0.2\% の補正である。

失点しやすい点

初期速度が 00 なので sin⁡\sin ではなく cos⁡\cos。位相を確認する。

設問2 エネルギー保存

22 通りの示し方

運動方程式から dE/dt=0dE/dt=0 を示す方法と、解を代入して定数になることを見る方法がある。前者は解を知らなくても使えるので一般性が高い。答案では前者を主とし、後者を検算に添えるとよい。

張力が仕事をしないこと

針金の張力は常に速度に垂直なので仕事をしない。保存量が現れる理由はここにある。摩擦や空気抵抗があればこの議論は成り立たない。

近似の水準を揃える

位置エネルギーを θ2\theta^{2} まで展開するなら、運動方程式も sin⁡θ≃θ\sin\theta\simeq\theta の水準にそろえる。片方だけ厳密にすると保存が崩れて見える。

設問3 球の慣性モーメントと剛体振り子

R≪hR\ll h での確認

25R2\frac25R^{2} を落とすと ω→g/(h+R)=ω0\omega\to\sqrt{g/(h+R)}=\omega_0 で、設問 11 に戻る。慣性モーメントの寄与は必ず ω\omega を小さく(周期を長く)する方向に働く。

相当単振り子の長さ

ω=g/ℓeq\omega=\sqrt{g/\ell_{\mathrm{eq}}} と書くと ℓeq=IOmℓ=ℓ+2R25ℓ\ell_{\mathrm{eq}}=\dfrac{I_{\mathrm O}}{m\ell}=\ell+\dfrac{2R^{2}}{5\ell}。 実効長は幾何学的な ℓ\ell より 2R25ℓ\frac{2R^{2}}{5\ell} だけ長い。

定義に従う、という指示

「定義に従って導出」と指定されているので ∫r⊥2dm\int r_\perp^{2}dm から書き出す。公式 25mR2\frac25mR^{2} を引用するだけでは設問の要求に答えていない。

失点しやすい点

軸からの距離は rr ではなく rsin⁡ϑr\sin\vartheta である。ここを rr にすると 35mR2\frac35mR^{2}(極慣性モーメント)になってしまう。

設問4 コリオリ力と遠心力の導出

22 という係数の出どころ

ω⃗E×d′r′⃗dt\vec\omega_{\mathrm E}\times\dfrac{d'\vec{r'}}{dt} が 22 箇所から 11 つずつ出てくる。速度の変換から 11 つ、ω⃗E×r′⃗\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'} の微分から 11 つである。片方を落とすとコリオリ力が半分になる。

遠心力の大きさ

赤道で ωE2RE=(7.3×10−5)2×6.4×106≃3.4×10−2 m/s2\omega_{\mathrm E}^{2}R_{\mathrm E}=\left(7.3\times10^{-5}\right)^{2}\times6.4\times10^{6}\simeq3.4\times10^{-2}\,\mathrm{m/s^{2}}。gg の約 0.3%0.3\% で、実測される重力加速度の緯度依存の主因である。ふつう gg と言うときはこの遠心力を含めた見かけの重力を指す。

コリオリ力の性質

速度に垂直なので仕事をしない。物体の速さは変えず向きだけを変える。北半球では進行方向の右向きに働き、台風の反時計回りの渦や貿易風の向きを決めている。

失点しやすい点

遠心力の項は r0⃗\vec{r_0}(自転軸から実験室まで)で書く。r′⃗\vec{r'} を入れた項は地表付近では無視できる補正である。

設問5 フーコー振り子の振動面の移動

使わなかった数値

おもりの質量 28 kg28\,\mathrm{kg} と長さ ℓ=67 m\ell=67\,\mathrm m は答えに現れない。振動面の回転は座標系の回転そのものであって、振り子の性質に依らないからである。長い振り子と重いおもりが必要なのは、11 回の実験を数時間続けるため(減衰を小さくし、周期を長くして観測しやすくするため)である。

緯度依存の意味

北極(α=90∘\alpha=90^\circ)では Ω=ωE\Omega=\omega_{\mathrm E} で 2424 時間に 11 回転、赤道(α=0\alpha=0)では回転しない。パリでは 2π/Ω≃322\pi/\Omega\simeq32 時間で 11 周する計算になる。フーコーが 18511851 年にパンテオンで示したのはこの回転で、地球の自転を地上の実験だけで示した最初の例である。

検算

11 時間は 11 周期 3232 時間の 1/321/32 だから、回転角は 2π/32=0.196 rad2\pi/32=0.196\,\mathrm{rad}。上で求めた 0.19 rad0.19\,\mathrm{rad} と一致する。

失点しやすい点

「円周上をどれだけ移動するか」なので、角度ではなく弧長で答える。振幅 AA を掛けることを忘れない。

解答

運動方程式

R≪hR\ll h なので球を質点とみなし、支点から重心までの距離を ℓ=h+R\ell=h+R とする。接線方向の運動方程式は mℓθ¨=−mgsin⁡θ. m\ell\ddot\theta=-mg\sin\theta . 微小角では sin⁡θ≃θ\sin\theta\simeq\theta だから θ¨=−gℓθ. \ddot\theta=-\frac{g}{\ell}\theta .

角振動数

これは単振動の方程式で ω0=gℓ=gh+R. \omega_0=\sqrt{\frac{g}{\ell}}=\sqrt{\frac{g}{h+R}} .

初期条件

θ(0)=θ0\theta(0)=\theta_0、θ˙(0)=0\dot\theta(0)=0 を満たす解は θ(t)=θ0cos⁡ω0t. \theta(t)=\theta_0\cos\omega_0t .

全エネルギー

基準を最下点にとると、位置エネルギーは mgℓ(1−cos⁡θ)≃12mgℓθ2mg\ell\left(1-\cos\theta\right)\simeq\frac12mg\ell\theta^{2}、運動エネルギーは 12mℓ2θ˙2\frac12m\ell^{2}\dot\theta^{2} である。 E=12mℓ2θ˙2+12mgℓθ2. E=\frac12m\ell^{2}\dot\theta^{2}+\frac12mg\ell\theta^{2} .

時間微分による証明

dEdt=mℓ2θ˙θ¨+mgℓθθ˙=ℓθ˙(mℓθ¨+mgθ)=0. \frac{dE}{dt}=m\ell^{2}\dot\theta\ddot\theta+mg\ell\theta\dot\theta =\ell\dot\theta\left(m\ell\ddot\theta+mg\theta\right)=0 . 括弧の中は設問 11 の運動方程式そのもので 00 である。よって EE は保存する。

解を代入した確認

θ=θ0cos⁡ω0t\theta=\theta_0\cos\omega_0t、θ˙=−θ0ω0sin⁡ω0t\dot\theta=-\theta_0\omega_0\sin\omega_0t を代入すると E=12mℓ2θ02ω02sin⁡2ω0t+12mgℓθ02cos⁡2ω0t. E=\frac12m\ell^{2}\theta_0^{2}\omega_0^{2}\sin^{2}\omega_0t+\frac12mg\ell\theta_0^{2}\cos^{2}\omega_0t . ℓω02=g\ell\omega_0^{2}=g を使うと第 11 項の係数も 12mgℓθ02\frac12mg\ell\theta_0^{2} になり E=12mgℓθ02(sin⁡2ω0t+cos⁡2ω0t)=12mgℓθ02 E=\frac12mg\ell\theta_0^{2}\left(\sin^{2}\omega_0t+\cos^{2}\omega_0t\right)=\frac12mg\ell\theta_0^{2} で、時間によらない。

定義に従う計算

一様な球の密度は ρ=m43πR3\rho=\dfrac{m}{\frac43\pi R^{3}}。重心を通る zz 軸まわりの慣性モーメントは、軸からの距離 rsin⁡ϑr\sin\vartheta を使って IG=∫(rsin⁡ϑ)2dm=ρ∫0R ⁣ ⁣∫0π ⁣ ⁣∫02πr2sin⁡2ϑ⋅r2sin⁡ϑ dφ dϑ dr. I_{\mathrm G}=\int\left(r\sin\vartheta\right)^{2}dm =\rho\int_0^{R}\!\!\int_0^{\pi}\!\!\int_0^{2\pi} r^{2}\sin^{2}\vartheta\cdot r^{2}\sin\vartheta\,d\varphi\,d\vartheta\,dr .

積分の実行

φ\varphi 積分で 2π2\pi、rr 積分で R5/5R^{5}/5、 ∫0πsin⁡3ϑ dϑ=43\displaystyle\int_0^{\pi}\sin^{3}\vartheta\,d\vartheta=\frac43 だから IG=ρ⋅2π⋅R55⋅43=8πρR515=8πR515⋅3m4πR3=25mR2. I_{\mathrm G}=\rho\cdot2\pi\cdot\frac{R^{5}}{5}\cdot\frac43 =\frac{8\pi\rho R^{5}}{15} =\frac{8\pi R^{5}}{15}\cdot\frac{3m}{4\pi R^{3}} =\frac25mR^{2}.

支点まわりの慣性モーメント

平行軸の定理より、支点から重心までの距離 ℓ=h+R\ell=h+R を使って IO=IG+mℓ2=25mR2+m(h+R)2. I_{\mathrm O}=I_{\mathrm G}+m\ell^{2}=\frac25mR^{2}+m\left(h+R\right)^{2}.

剛体振り子の角振動数

支点まわりの回転の運動方程式は IOθ¨=−mgℓsin⁡θ≃−mgℓθI_{\mathrm O}\ddot\theta=-mg\ell\sin\theta\simeq-mg\ell\theta だから ω=mgℓIO=g(h+R)25R2+(h+R)2. \omega=\sqrt{\frac{mg\ell}{I_{\mathrm O}}} =\sqrt{\frac{g\left(h+R\right)}{\frac25R^{2}+\left(h+R\right)^{2}}} .

位置ベクトルの分解

慣性系での位置を r⃗\vec r、実験室原点 O′\mathrm{O'} の位置を r0⃗\vec{r_0}、実験室系での位置を r′⃗\vec{r'} とすると r⃗=r0⃗+r′⃗. \vec r=\vec{r_0}+\vec{r'} .

11 階微分

与えられた関係 dA⃗dt=d′A⃗dt+ω⃗E×A⃗\dfrac{d\vec A}{dt}=\dfrac{d'\vec A}{dt}+\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec A を使う。r0⃗\vec{r_0} は地球に固定されているので d′r0⃗/dt=0⃗d'\vec{r_0}/dt=\vec 0 であり dr⃗dt=ω⃗E×r0⃗+d′r′⃗dt+ω⃗E×r′⃗. \frac{d\vec r}{dt} =\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0} +\frac{d'\vec{r'}}{dt}+\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'} .

22 階微分

ω⃗E\vec\omega_{\mathrm E} は一定として、各項にもう一度同じ関係を適用する。 ddt(ω⃗E×r0⃗)=ω⃗E×(ω⃗E×r0⃗),ddtd′r′⃗dt=d′2r′⃗dt2+ω⃗E×d′r′⃗dt,ddt(ω⃗E×r′⃗)=ω⃗E×d′r′⃗dt+ω⃗E×(ω⃗E×r′⃗).\begin{align*} \frac{d}{dt}\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0}\right) &=\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0}\right),\\ \frac{d}{dt}\frac{d'\vec{r'}}{dt} &=\frac{d'^{2}\vec{r'}}{dt^{2}}+\vec\omega_{\mathrm E}\times\frac{d'\vec{r'}}{dt},\\ \frac{d}{dt}\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'}\right) &=\vec\omega_{\mathrm E}\times\frac{d'\vec{r'}}{dt} +\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'}\right). \end{align*} 足し合わせて d2r⃗dt2=d′2r′⃗dt2+2ω⃗E×d′r′⃗dt+ω⃗E×(ω⃗E×r0⃗)+ω⃗E×(ω⃗E×r′⃗). \frac{d^{2}\vec r}{dt^{2}} =\frac{d'^{2}\vec{r'}}{dt^{2}} +2\vec\omega_{\mathrm E}\times\frac{d'\vec{r'}}{dt} +\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0}\right) +\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'}\right).

見かけの力

慣性系での運動方程式 Md2r⃗dt2=F⃗M\dfrac{d^{2}\vec r}{dt^{2}}=\vec F を実験室系の加速度について解くと Md′2r′⃗dt2=F⃗−2Mω⃗E×d′r′⃗dt⏟コリオリ力−Mω⃗E×(ω⃗E×r0⃗)⏟遠心力−Mω⃗E×(ω⃗E×r′⃗). M\frac{d'^{2}\vec{r'}}{dt^{2}} =\vec F \underbrace{-2M\vec\omega_{\mathrm E}\times\frac{d'\vec{r'}}{dt}}_{\text{コリオリ力}} \underbrace{-M\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0}\right)}_{\text{遠心力}} -M\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r'}\right). 地表付近では ∣r′⃗∣≪∣r0⃗∣|\vec{r'}|\ll|\vec{r_0}| なので最後の項は無視でき、観測される見かけの力は求める 22 つになる。

振動面の回転角速度

与えられた関係より、北緯 α\alpha での振動面の回転角速度は Ω=∣ωE′⃗∣sin⁡α=ωEsin⁡48∘. \Omega=\left|\vec{\omega_{\mathrm E}'}\right|\sin\alpha=\omega_{\mathrm E}\sin48^\circ . 地球の自転角速度は ωE=2π24×3600 s=7.27×10−5 rad/s\omega_{\mathrm E}=\dfrac{2\pi}{24\times3600\ \mathrm s}=7.27\times10^{-5}\ \mathrm{rad/s} だから Ω=7.27×10−5×0.74=5.4×10−5 rad/s. \Omega=7.27\times10^{-5}\times0.74=5.4\times10^{-5}\ \mathrm{rad/s} .

11 時間の回転角

Δϕ=Ω×3600=5.4×10−5×3.6×103=0.19 rad(≃11∘). \Delta\phi=\Omega\times3600=5.4\times10^{-5}\times3.6\times10^{3} =0.19\ \mathrm{rad}\quad(\simeq11^\circ).

端点の移動距離

振動面の端点は振幅 A=1.3 mA=1.3\,\mathrm m の位置にある。半径 AA の円周上を角 Δϕ\Delta\phi だけ動くので s=A Δϕ=1.3×0.19=0.25 m. s=A\,\Delta\phi=1.3\times0.19=0.25\ \mathrm m . 有効数字 11 桁で 3×10−1 m3\times10^{-1}\,\mathrm m である。

最終答

ω0=gh+R\displaystyle \omega_0=\sqrt{\frac{g}{h+R}}、 θ(t)=θ0cos⁡(ω0t)\theta(t)=\theta_0\cos\left(\omega_0t\right)

E=12mℓ2θ˙2+12mgℓθ2=12mgℓθ02=一定\displaystyle E=\frac12m\ell^{2}\dot\theta^{2}+\frac12mg\ell\theta^{2} =\frac12mg\ell\theta_0^{2}=\text{一定}(証明終わり)

IG=25mR2\displaystyle I_{\mathrm G}=\frac25mR^{2}、 ω=g(h+R)25R2+(h+R)2\displaystyle \omega=\sqrt{\frac{g\left(h+R\right)}{\frac25R^{2}+\left(h+R\right)^{2}}}

コリオリ力 −2Mω⃗E×d′r′⃗dt\displaystyle -2M\vec\omega_{\mathrm E}\times\frac{d'\vec{r'}}{dt}、 遠心力 −Mω⃗E×(ω⃗E×r0⃗)-M\vec\omega_{\mathrm E}\times\left(\vec\omega_{\mathrm E}\times\vec{r_0}\right)(証明終わり)

約 0.3 m0.3\ \mathrm m(11 時間あたり約 11∘11^\circ、端点で約 25 cm25\,\mathrm{cm})

第2問 — 電磁気学:並進する2電荷間の静電気力と磁気力

場を経由した見方

qaq_a が qbq_b の位置に作る電場は E=qa4πε0d2E=\dfrac{q_a}{4\pi\varepsilon_0d^{2}} で、qbq_b が受ける力は qbEq_bE。設問 33 で磁場を同じ手順で扱うので、この 22 段構えで書いておくと後が楽である。

基準となる大きさ

以下の設問では、この FEF_{\mathrm E} との比で磁気力を測る。FEF_{\mathrm E} を明示的に残しておくと設問 44 で約分が効く。

失点しやすい点

「大きさと方向」を問われているので、斥力であること、および結ぶ直線に沿うことを両方書く。

設問2 電流要素と電荷・速度の関係

置き換えの意味

定常電流に対して成り立つビオ・サバールの法則を、11 個の点電荷に適用するための橋渡しである。I ds⃗→qv⃗I\,d\vec s\to q\vec v の対応は、荷電粒子の作る磁場を求めるときの標準的な手続きになっている。

非相対論の条件

問題文が「速度は光速に比べて十分小さい」と断っているのは、この置き換えが v≪cv\ll c でのみ正当だからである。厳密には運動する点電荷の場はリエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャルから導かれ、γ\gamma による角度依存の補正がつく。

失点しやすい点

Δt\Delta t を残したまま答えにしない。Δr⃗/Δt=v⃗\Delta\vec r/\Delta t=\vec v で消える。

設問3 磁束密度とローレンツ力

平行電流の引力

22 つの電荷は同じ向きに動いているので、同じ向きの平行電流と同じ状況である。平行電流が引き合うという既知の事実と一致している。向きの符号を追ったあとで、この定性的な確認を添えると答案が強くなる。

電場と磁場の役割

静電気力は斥力、磁気力は引力で、正味の斥力は静止時より弱まる。この「弱まり方」の大きさが設問 44 の比である。

失点しやすい点

qbq_b が受けるローレンツ力を計算するとき、qbq_b 自身も動いていることを使う。片方だけ動かすと力が生じない。

設問4 磁気力と静電気力の比

磁気力が小さい理由

金属中の伝導電子の平均速度は 10−4 m/s10^{-4}\,\mathrm{m/s} の程度で、v2/c2∼10−25v^{2}/c^{2}\sim10^{-25} である。それでも導線の磁気力が観測できるのは、導線が電気的に中性で静電気力が完全に打ち消されているからである。本問のように電荷が打ち消されない状況では、磁気力はクーロン力に比べて桁違いに小さい。

正味の力

F=FE−FB=FE(1−v2c2)=FEγ2F=F_{\mathrm E}-F_{\mathrm B}=F_{\mathrm E}\left(1-\dfrac{v^{2}}{c^{2}}\right)=\dfrac{F_{\mathrm E}}{\gamma^{2}}。 相対論で力の横成分が 1/γ21/\gamma^{2} 倍(後述の変換の下で)になることと符合する形が、v≪cv\ll c の近似の範囲ですでに現れている。

cc が現れる意味

電磁気の 22 つの定数から光速が出てくる。マクスウェルが光を電磁波と見抜いたのはこの一致による。本問の比はその関係を力の言葉で表したものである。

失点しやすい点

μ0ε0=1/c2\mu_0\varepsilon_0=1/c^{2} を使って cc で書き直すところまで進める。μ0ε0v2\mu_0\varepsilon_0v^{2} のままでは意味が見えない。

設問5 慣性系による違いの理由

力の変換則

相対論では、力の運動方向に垂直な成分は系を移ると 1/γ1/\gamma 倍になる。運動系で F′=FEF'=F_{\mathrm E} なら実験室系では F=F′/γF=F'/\gamma。一方 v≪cv\ll c で 1/γ≃1−v22c21/\gamma\simeq1-\frac{v^{2}}{2c^{2}} であり、本問の 1−v2/c21-v^{2}/c^{2} とは 22 次の係数が異なる。厳密に一致させるには実験室系のクーロン場にも運動する電荷特有の γ\gamma 補正を入れる必要があり、それを行うと両者は完全に整合する。設問が「定性的に」と限定しているのはこのためである。

磁場は相対論的効果である

磁気力は v2/c2v^{2}/c^{2} の大きさをもつ「相対論的補正」でありながら、日常的に観測できる。これは電荷が 1029 m−310^{29}\,\mathrm{m^{-3}} という莫大な数密度でありながら中性を保っているため、10−2510^{-25} の補正が生き残るからである。

同時刻の相対性

より深い説明としては、運動系で「同時に測った」電荷分布が実験室系では同時でなくなり、実効的な電荷密度がわずかに変化する、という描像がある。導線の磁気力を電荷密度のローレンツ収縮で説明する議論がこれにあたる。

失点しやすい点

「実験室系が間違っている」「運動系が正しい」といった書き方をしない。どちらの系の記述も正しく、量が系に依存するだけである。

電磁気学:並進する2電荷間の静電気力と磁気力の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 熱力学:気体分子運動論と断熱大気の温度・密度分布

等分配則

32kBT\frac32k_{\mathrm B}T は並進の 33 自由度それぞれに 12kBT\frac12k_{\mathrm B}T が配分された結果である。⟨vx2⟩=13⟨v2⟩\left\langle v_x^{2}\right\rangle=\frac13\left\langle v^{2}\right\rangle という等方性の仮定がその中身にあたる。

分子間衝突を無視してよい理由

分子どうしの衝突は運動量とエネルギーを分子間でやり取りするだけで、壁に及ぼす全運動量は変えない。したがって圧力の計算では無視してよい。

数値感覚

室温 300 K300\,\mathrm K の窒素(m=4.7×10−26 kgm=4.7\times10^{-26}\,\mathrm{kg})では ⟨v2⟩=3kBT/m≃5.2×102 m/s\sqrt{\left\langle v^{2}\right\rangle}=\sqrt{3k_{\mathrm B}T/m}\simeq5.2\times10^{2}\,\mathrm{m/s}。音速 340 m/s340\,\mathrm{m/s} と同じ桁になる。

失点しやすい点

運動量変化は mvxmv_x ではなく 2mvx2mv_x(跳ね返るので符号が反転する)。ここで 22 を落とすと係数が半分になる。

設問2 静水圧平衡

符号の意味

dp/dh<0dp/dh<0、すなわち高いほど圧力が下がる。上にある空気の重さが減るからで、直観と一致する。

等温大気との比較

もし温度が一定なら p=ρkBTp=\rho k_{\mathrm B}T から dpdh=−mgkBTp\dfrac{dp}{dh}=-\dfrac{mg}{k_{\mathrm B}T}p、 すなわち p=p0e−h/Hp=p_0e^{-h/H}、H=kBT/(mg)≃8.5 kmH=k_{\mathrm B}T/(mg)\simeq8.5\,\mathrm{km}(等温スケールハイト)。本問はこの等温の仮定を断熱に置き換えたものである。

失点しやすい点

ρ\rho が数密度(個数/体積)であることに注意し、質量密度にするため mm を掛ける。

設問3 断熱変化での dT/dpdT/dp

なぜ断熱でよいか

大気中で空気塊が上昇するとき、空気の熱伝導率は小さく、周囲との熱交換は塊の移動時間に比べて遅い。したがって断熱変化として扱える。実際の対流圏の温度分布はこの仮定でよく再現される。

別の導き方

熱力学第 11 法則を 11 モルについて dQ=CPdT−Vdp=0dQ=C_{\mathrm P}dT-Vdp=0 と書けば、dT/dp=V/CP=RT/(CPp)dT/dp=V/C_{\mathrm P}=RT/(C_{\mathrm P}p) が直ちに出る。エンタルピー H=U+pVH=U+pV を使う形で、こちらの方が短い。

失点しやすい点

pVγpV^{\gamma} から TT と pp の関係に移すとき、VV を状態方程式で消す一手間を省かない。TVγ−1TV^{\gamma-1} のままでは設問 44 につながらない。

設問4 高度による温度低下

温度減率の数値

空気を 22 原子分子とすると CP=72R=29 J/(mol K)C_{\mathrm P}=\frac72R=29\,\mathrm{J/(mol\,K)}、平均分子質量 mNA=29×10−3 kg/molmN_{\mathrm A}=29\times10^{-3}\,\mathrm{kg/mol} だから ∣dTdh∣=29×10−3×9.829=9.8×10−3 K/m=9.8 K/km. \left|\frac{dT}{dh}\right|=\frac{29\times10^{-3}\times9.8}{29} =9.8\times10^{-3}\ \mathrm{K/m}=9.8\ \mathrm{K/km}. 乾燥断熱減率と呼ばれる値で、実測の対流圏の平均減率 6.5 K/km6.5\,\mathrm{K/km} より大きい。差は水蒸気の凝結による潜熱の放出で説明される。

ρ\rho が消えること

密度が約分されるので、温度勾配は一定になる。これが T(h)T(h) が hh の 11 次式になる理由である。

有効な高さの範囲

T(h)=0T(h)=0 となるのは h=CPT0/(mgNA)≃30 kmh=C_{\mathrm P}T_0/(mgN_{\mathrm A})\simeq30\,\mathrm{km}。実際には対流圏は 11 km11\,\mathrm{km} 程度までで、その上では成層圏となり温度が上昇に転じる。断熱大気モデルが成り立つのは対流圏に限られる。

失点しやすい点

R/kB=NAR/k_{\mathrm B}=N_{\mathrm A} の書き換えを使う。ここを通らないと問題文の形にならない。

設問5 数密度の高度分布

断熱の関係との一致

断熱変化では TVγ−1=TV^{\gamma-1}= 一定、すなわち ρ∝T1/(γ−1)\rho\propto T^{1/(\gamma-1)}。 1γ−1=CVCP−CV=CVR\dfrac{1}{\gamma-1}=\dfrac{C_{\mathrm V}}{C_{\mathrm P}-C_{\mathrm V}}=\dfrac{C_{\mathrm V}}{R} で、得られた指数と一致する。積分を経ずにこの関係から直接答えを書いてもよい。

指数の値

22 原子分子なら CV/R=5/2C_{\mathrm V}/R=5/2。ρ∝T5/2\rho\propto T^{5/2} で、圧力は p∝T7/2p\propto T^{7/2} である。等温大気の指数関数的な減衰よりも速く、有限の高さ(T=0T=0 となる高さ)で密度が 00 になる。

検算

h→0h\to0 で ρ→ρ0\rho\to\rho_0。また CP→∞C_{\mathrm P}\to\infty(等温に近い極限)では Γ→0\Gamma\to0 となり、展開すると ρ≃ρ0exp⁡(−mghkBT0)\rho\simeq\rho_0\exp\left(-\dfrac{mgh}{k_{\mathrm B}T_0}\right) という等温大気の式に帰着する。

失点しやすい点

pp の指数 CP/RC_{\mathrm P}/R をそのまま ρ\rho の指数にしない。ρ=p/(kBT)\rho=p/(k_{\mathrm B}T) の 1/T1/T が指数を 11 下げる。

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第4問 — 量子力学:調和振動子のハイゼンベルク描像とコヒーレント状態

零点エネルギーの出どころ

−12-\frac12 は iαβ[q^,p^]i\alpha\beta[\hat q,\hat p] から出る。すなわち古典では単なる因数分解で消える項が、非可換性のために残る。零点エネルギー ℏω/2\hbar\omega/2 は交換関係そのものの帰結である。

個数演算子

n^=a^†a^\hat n=\hat a^{\dagger}\hat a は固有値 0,1,2,…0,1,2,\dots をもち、H^\hat H の固有値は ℏω(n+12)\hbar\omega(n+\frac12) になる。設問 55 の ⟨H^⟩\langle\hat H\rangle の解釈で使う。

失点しやすい点

a^†a^\hat a^{\dagger}\hat a と a^a^†\hat a\hat a^{\dagger} は 11 だけ違う。順序を入れ替えると零点エネルギーの符号が変わる。

設問2 座標演算子の時間発展

ハミルトニアンが時間に依らないこと

H^\hat H は a^†a^\hat a^{\dagger}\hat a で書け、eiωte^{i\omega t} と e−iωte^{-i\omega t} が打ち消すので H^(t)=H^(0)\hat H(t)=\hat H(0)。エネルギー保存が演算子の水準で見えている。

運動量演算子

同様に a^−a^†=2iβp^\hat a-\hat a^{\dagger}=2i\beta\hat p から p^(t)=−imℏω2(e−iωta^(0)−eiωta^†(0)). \hat p(t)=-i\sqrt{\frac{m\hbar\omega}{2}}\left(e^{-i\omega t}\hat a(0)-e^{i\omega t}\hat a^{\dagger}(0)\right). 設問 44・55 で必要になるのでここで求めておく。p^=m dq^/dt\hat p=m\,d\hat q/dt を確かめると検算になる。

古典との対応

q^(t)\hat q(t) の形は古典解 q(t)=q0cos⁡ωt+p0mωsin⁡ωtq(t)=q_0\cos\omega t+\frac{p_0}{m\omega}\sin\omega t と同じ構造である。ハイゼンベルク描像では演算子が古典的な運動方程式に従う、というエーレンフェストの定理の演算子版になっている。

失点しやすい点

[a^,a^†a^]\left[\hat a,\hat a^{\dagger}\hat a\right] の計算で [a^,a^†]a^+a^†[a^,a^]\left[\hat a,\hat a^{\dagger}\right]\hat a+\hat a^{\dagger}\left[\hat a,\hat a\right] の第 22 項が 00 であることを使う。

設問3 ∣A⟩|A\rangle が a^(0)\hat a(0) の固有状態であること

指数関数としての表現

∣A⟩=∑n(Aa^†)nn!∣0⟩=eAa^†∣0⟩|A\rangle=\displaystyle\sum_n\frac{\left(A\hat a^{\dagger}\right)^{n}}{n!}|0\rangle=e^{A\hat a^{\dagger}}|0\rangle と書ける。a^\hat a が a^†\hat a^{\dagger} に対する微分演算子のように働くこと([a^,f(a^†)]=f′(a^†)\left[\hat a,f(\hat a^{\dagger})\right]=f'(\hat a^{\dagger}))を使えば、a^eAa^†∣0⟩=AeAa^†∣0⟩\hat ae^{A\hat a^{\dagger}}|0\rangle=Ae^{A\hat a^{\dagger}}|0\rangle が一行で出る。

規格化

⟨A∣A⟩=∑n∣A∣2nn!=e∣A∣2\langle A|A\rangle=\sum_n\frac{|A|^{2n}}{n!}=e^{|A|^{2}} で 11 ではない。問題文が期待値を ⟨A∣O^∣A⟩/⟨A∣A⟩\langle A|\hat O|A\rangle/\langle A|A\rangle と定義しているのはこのためである。

光子数分布

規格化した状態でエネルギー固有状態 ∣n⟩|n\rangle を測る確率は Pn=e−∣A∣2∣A∣2nn!P_n=e^{-|A|^{2}}\dfrac{|A|^{2n}}{n!}、すなわち平均 ∣A∣2|A|^{2} のポアソン分布である。レーザー光の光子数統計がこの分布に従う。

失点しやすい点

和の下端が n=1n=1 に上がる(n=0n=0 の項は a^∣0⟩=0\hat a|0\rangle=0 で消える)。ここを n=0n=0 のままにすると添字がずれる。

設問4 座標と運動量の期待値

検算

mdqˉdt=−m2ℏmω ∣A∣ ωsin⁡(ωt−φ)=−2mℏω ∣A∣sin⁡(ωt−φ)=pˉ(t)m\dfrac{d\bar q}{dt} =-m\sqrt{\dfrac{2\hbar}{m\omega}}\,|A|\,\omega\sin\left(\omega t-\varphi\right) =-\sqrt{2m\hbar\omega}\,|A|\sin\left(\omega t-\varphi\right)=\bar p(t)。 古典力学の関係 p=mq˙p=m\dot q が期待値の水準で成り立っている。

位相空間での描像

(qˉ,pˉ)\left(\bar q,\bar p\right) は位相空間で楕円を時計回りに回る。AA の絶対値が振幅、偏角が初期位相を与える。複素数 AA が古典的な振動の初期条件をそのまま担っている。

A=0A=0 の場合

∣A⟩=∣0⟩|A\rangle=|0\rangle で qˉ=pˉ=0\bar q=\bar p=0。基底状態では期待値は動かない。

失点しやすい点

p^\hat p の表式の −i-i を落とさない。pˉ\bar p が実数になることを確認すると符号の検算になる。

設問5 エネルギーの期待値と古典との比較

波束が広がらないこと

Δq\Delta q が時間に依らないのがコヒーレント状態の特徴である。一般の波束は時間とともに広がるが、調和振動子のコヒーレント状態は形を保ったまま古典軌道に沿って動く。シュレディンガーが古典極限を論じるために導入した状態がこれである。

レーザーとの関係

電磁場の各モードは調和振動子と同じ形をしており、理想的なレーザー光の状態がコヒーレント状態である。∣A∣2|A|^{2} が平均光子数にあたり、光子数の相対揺らぎが 1/∣A∣1/|A| で小さくなることが、強い光ほど古典的な波として振る舞う理由になる。

検算

⟨H^⟩=ℏω(⟨n^⟩+12)\left\langle\hat H\right\rangle=\hbar\omega\left(\left\langle\hat n\right\rangle+\frac12\right) と設問 11 を比べると ⟨n^⟩=∣A∣2\left\langle\hat n\right\rangle=|A|^{2}。これはポアソン分布の平均と一致し、独立に確かめられる。

失点しやすい点

⟨q^2⟩≠qˉ2\left\langle\hat q^{2}\right\rangle\neq\bar q^{2} である。差の ℏ/(2mω)\hbar/(2m\omega) が分散 (Δq)2\left(\Delta q\right)^{2} で、これを落とすと零点エネルギーが消えてしまう。

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第5問 — 統計力学:イジング模型の平均場近似と強磁性転移

最大値と最小値

X=0X=0 で S=NkBln⁡2S=Nk_{\mathrm B}\ln2 が最大、X=±1X=\pm1(完全に揃った状態)で S=0S=0 が最小。無秩序ほどエントロピーが大きいという直観と一致する。

11 スピンあたりの表示

s=S/N=−kB∑±p±ln⁡p±s=S/N=-k_{\mathrm B}\sum_\pm p_\pm\ln p_\pm、p±=(1±X)/2p_\pm=\left(1\pm X\right)/2。シャノンの情報エントロピーと同じ形で、p±p_\pm が「あるスピンが上(下)を向く確率」にあたる。

失点しやすい点

スターリング近似の −n-n の項は必ず打ち消えるが、それを確認せずに落とすと減点対象になる。N=N++N−N=N_++N_- を明示する。

設問2 平均場近似での内部エネルギー

近似で捨てたもの

⟨σiσj⟩−⟨σi⟩⟨σj⟩\left\langle\sigma_i\sigma_j\right\rangle-\left\langle\sigma_i\right\rangle\left\langle\sigma_j\right\rangle という相関(ゆらぎ)を捨てている。この相関こそ転移点近傍で発散する量なので、平均場近似は転移点のごく近くでは定量的に正しくない。zz が大きいほど(高次元ほど)近似はよくなり、44 次元以上では臨界指数まで正しくなる。

分子場という見方

EE を 11 スピンについて書くと、そのスピンは Heff=H+zJXμH_{\mathrm{eff}}=H+\dfrac{zJX}{\mu} という実効磁場の中にいるように見える。周囲のスピンが作る「分子場」が zJX/μzJX/\mu である。設問 33 の tanh⁡\tanh の引数がこの実効磁場に対応する。

1/21/2 の由来

∑(i,j)\sum_{(i,j)} が最近接「対」についての和なので、N×zN\times z を 22 で割る。ここを落とすと転移温度が 22 倍になる。

設問3 自己無撞着方程式

自己無撞着という意味

右辺にも XX が入っているので、この式は XX について陰に与えられている。XX が作る分子場が再び XX を決める、という循環を閉じる条件である。数値的にはグラフの交点、あるいは反復代入で解く。

11 スピンの分配関数から出す方法

実効磁場 HeffH_{\mathrm{eff}} の中の 11 スピンの分配関数 z1=2cosh⁡(μHeff/kBT)z_1=2\cosh\left(\mu H_{\mathrm{eff}}/k_{\mathrm B}T\right) から ⟨σ⟩=tanh⁡(μHeff/kBT)\left\langle\sigma\right\rangle=\tanh\left(\mu H_{\mathrm{eff}}/k_{\mathrm B}T\right) とし、⟨σ⟩=X\left\langle\sigma\right\rangle=X を課しても同じ式が出る。こちらの方が短いが、問題文が FF を経由するよう指定しているので本解の順に書く。

極小か極大か

∂F/∂X=0\partial F/\partial X=0 は停留点にすぎない。安定な解は ∂2F/∂X2>0\partial^{2}F/\partial X^{2}>0 を満たすものを選ぶ。T<TCT<T_{\mathrm C}、H=0H=0 では X=0X=0 が極大(不安定)、X=±X0X=\pm X_0 が極小になる。

失点しやすい点

エントロピー項の微分で ln⁡1+X2\ln\frac{1+X}{2} と ln⁡1−X2\ln\frac{1-X}{2} の ln⁡2\ln2 が打ち消すことを確認する。残すと yy の定義がずれる。

設問4 強磁性転移温度

zz に比例すること

最近接の数が多いほど転移温度が高い。33 次元単純立方格子では z=6z=6 で TC=6J/kBT_{\mathrm C}=6J/k_{\mathrm B} となるが、厳密解(数値計算)では 4.51J/kB4.51J/k_{\mathrm B} である。平均場はゆらぎを無視するため転移温度を過大評価する。

11 次元での破綻

z=2z=2 でも TC=2J/kB>0T_{\mathrm C}=2J/k_{\mathrm B}>0 を予言するが、11 次元イジング模型に有限温度の相転移がないことは厳密に知られている。平均場近似が低次元で失敗する典型例である。

TT をわずかに下げたときの XX

T≲TCT\lesssim T_{\mathrm C} で tanh⁡\tanh を 33 次まで展開すると X≃3(1−T/TC)1/2X\simeq\sqrt3\left(1-T/T_{\mathrm C}\right)^{1/2}。臨界指数 β=1/2\beta=1/2 で、これも平均場に特有の値である(33 次元の実測は 0.330.33 程度)。

失点しやすい点

「X=0X=0 以外に解がある条件」を、原点での傾きの比較で述べる。図を描いて交点を論じる書き方でもよいが、g′(0)g'(0) と 11 の大小に帰着させることを明示する。

設問5 常磁性相の磁化率

キュリー則との比較

相互作用がない(J=0J=0、TC=0T_{\mathrm C}=0)ならキュリー則 χ=Nμ2/(kBT)\chi=N\mu^{2}/(k_{\mathrm B}T) に戻る。TCT_{\mathrm C} だけ「温度が下駄を履く」形になっているのが強磁性相互作用の効果である。

実験での使い方

1/χ1/\chi を TT に対してプロットすると直線になり、その xx 切片が TCT_{\mathrm C}、傾きの逆数から μ\mu が求まる。実験で磁性体を特徴づける標準的な手続きである。反強磁性体では切片が負になり、χ=C/(T+Θ)\chi=C/(T+\Theta) となる。

臨界指数

χ∝(T−TC)−γ\chi\propto\left(T-T_{\mathrm C}\right)^{-\gamma} で γ=1\gamma=1。33 次元イジング模型の実際の値は 1.241.24 であり、ここでも平均場はゆらぎを無視した分だけずれる。

失点しやすい点

tanh⁡\tanh の展開は y≪1y\ll1 でのみ有効で、T≤TCT\le T_{\mathrm C} には使えない。設問が T>TCT>T_{\mathrm C} に限っているのはこのためである。

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第6問 — 応用物理:火星ヘリコプターの重力と揚力の見積もり

GG を消す意味

GG は与えられていないので、地球の値 gg を使って消去する。「基準となる既知の量で書き換える」のは概算問題の定石である。

数値の先取り

設問 44 で使う MM/ME=1/10M_{\mathrm M}/M_{\mathrm E}=1/10、RM/RE=1/2R_{\mathrm M}/R_{\mathrm E}=1/2 を入れると gM=g×110×4=0.4g=3.9 m/s2g_{\mathrm M}=g\times\frac{1}{10}\times4=0.4g=3.9\,\mathrm{m/s^{2}}。実際の火星の重力加速度 3.71 m/s23.71\,\mathrm{m/s^{2}} とよく合う。

自転による遠心力

火星の自転周期は約 24.624.6 時間で、赤道での遠心力は gMg_{\mathrm M} の 0.5%0.5\% 程度。この見積もりでは無視してよい。

失点しやすい点

半径の比は 22 乗で効く。質量の比だけで済ませると 44 倍ずれる。

設問2 次元解析による vv の次数

物理的な意味

時間 Δt\Delta t の間に翼が押しのける気体の質量は ρSvΔt\rho Sv\Delta t、それに与える速度変化は vv の程度である。運動量変化率は ρSv2\rho Sv^{2} となり、v2v^{2} 則が力学的にも理解できる。12ρv2\frac12\rho v^{2} は動圧そのものである。

22 つの式から同じ答えが出ること

m\mathrm m と s\mathrm s の両方から独立に n=2n=2 が出る。過剰決定系が矛盾なく解けたことが、この式の形が正しいことの傍証になる。

CLC_{\mathrm L} が無次元であること

次元解析だけでは形状の効果は決まらず、無次元数 CLC_{\mathrm L} にまとめられる。これがレイノルズ数や迎え角に依存することは、次元解析の外にある実験的な事実である。

失点しやすい点

ρ\rho を質量密度(kg/m3\mathrm{kg/m^{3}})として扱う。数密度と混同すると次元が合わない。

設問3 火星の大気密度

温度を考慮した補正

火星の平均気温は約 210 K210\,\mathrm K で、地球の 288 K288\,\mathrm K より低い。ρ∝1/T\rho\propto1/T なので 1.2×10−2×288210=1.6×10−2 kg/m31.2\times10^{-2}\times\dfrac{288}{210}=1.6\times10^{-2}\,\mathrm{kg/m^{3}} となり、実測値 0.020 kg/m30.020\,\mathrm{kg/m^{3}} に近づく。有効数字 11 桁の要求なら 11〜2×10−22\times10^{-2} の範囲に入っていれば十分である。

33 つの因子の効き方

圧力比が 1/1601/160 と圧倒的に効き、分子量比 1.51.5 と温度比 1.41.4 がそれを少し押し戻す。どの因子が主かを見極めるのが概算の要点である。

地球の高度に直すと

地球で密度が 1/1001/100 になるのは高度 30 km30\,\mathrm{km} を超えたあたり。旅客機の巡航高度(10 km10\,\mathrm{km})よりはるかに希薄で、火星でのヘリコプター飛行がいかに難しいかが分かる。

失点しやすい点

分子量比を落とさない。二酸化炭素は空気より 1.51.5 倍重く、同じ圧力・温度なら密度もその分大きい。

設問4 重力と揚力の比較

代表速度による簡易評価

ブレードの総面積を S=4×R×c=0.24 m2S=4\times R\times c=0.24\,\mathrm{m^{2}}、代表速度を veff=ωR/3≃87 m/sv_{\mathrm{eff}}=\omega R/\sqrt3\simeq87\,\mathrm{m/s}(積分の結果に一致する平均)として L=12ρveff2SCL=12×10−2×7.6×103×0.24≃9 NL=\frac12\rho v_{\mathrm{eff}}^{2}SC_{\mathrm L}=\frac12\times10^{-2}\times7.6\times10^{3}\times0.24\simeq9\,\mathrm N。 積分と同じ答えになる。時間がないときはこちらでよい。

なぜ高速回転が必要か

ρ\rho が地球の 1/1001/100 しかないので、同じ揚力を得るには ρv2\rho v^{2} を稼ぐしかない。vv を 1010 倍にすれば v2v^{2} が 100100 倍になって補える。2400 RPM2400\,\mathrm{RPM}(先端速度 150 m/s150\,\mathrm{m/s})という、地球のヘリコプター(400400〜500 RPM500\,\mathrm{RPM})の 55 倍の回転数はこの要請から来ている。

先端速度の上限

火星の音速は 240 m/s240\,\mathrm{m/s} 程度(CO2\mathrm{CO_2}、210 K210\,\mathrm K)。先端速度 150 m/s150\,\mathrm{m/s} はマッハ 0.60.6 で、これ以上速くすると衝撃波で効率が落ちる。回転数を上げる方向にも限界があり、その中で機体を 1.8 kg1.8\,\mathrm{kg} に抑えたことが設計上の要点だったことが分かる。

置いた仮定を書くこと

ブレード枚数と弦長は表 11 にないので、図 11 からの読み取りとして明示する。「適当なモデルをたて」という設問なので、仮定を書かずに数値だけ出すと評価されない。L/WL/W が 11 の桁に収まっていることが結論であり、9 N9\,\mathrm N という値そのものではない。

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年度別の解答例(6年度)

  • 2025年度(全6問)

    解析力学:最小作用の原理とばねでつながれた質点 / 電磁気学:誘電体を挟んだ同軸円筒コンデンサー / 実験物理:ノギスの読み取りと振り子による重力加速度の測定

  • 2024年度(全6問)

    力学:単振り子とパラメトリック励振 / 電磁気学:平行二線(レッヘル線)の特性インピーダンス / 熱物理・実験:半無限体の熱伝導とサーミスタ

  • 2023年度(全6問)

    力学:ジャイロスコープの歳差運動 / 電磁気学:マクスウェル方程式・ポインティングの定理・平面波 / 実験物理:陽電子とシンチレータによる同時計測

  • 2022年度(全6問)

    力学:中心力場での平面運動と有効ポテンシャル / 電磁気学:一様帯電球殻の電場と回転球殻が作る磁場 / 光学:マイケルソン干渉計による表面形状の計測

  • 2021年度(このページ・全6問)

    力学:剛体振り子と回転座標系・フーコー振り子 / 電磁気学:並進する2電荷間の静電気力と磁気力 / 熱力学:気体分子運動論と断熱大気の温度・密度分布

  • 2020年度(全6問)

    力学:穴を通した棒の剛体振り子と周期の最小化 / 電磁気学:同心円形回路の相互インダクタンスと磁場のエネルギー / 波動:張られた弦の波動方程式とピアノの打弦点

2021年度の出題内容

全6問

この6問の分野は熱・統計力学2問・電磁気学・回路1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学剛体振り子と回転座標系・フーコー振り子なぜ \ell=h+R か / 振幅に依存しないことあり
第2問電磁気学・回路並進する2電荷間の静電気力と磁気力場を経由した見方 / 基準となる大きさあり
第3問熱・統計力学気体分子運動論と断熱大気の温度・密度分布等分配則 / 分子間衝突を無視してよい理由あり
第4問量子力学調和振動子のハイゼンベルク描像とコヒーレント状態零点エネルギーの出どころ / 個数演算子あり
第5問熱・統計力学イジング模型の平均場近似と強磁性転移最大値と最小値 / 1 スピンあたりの表示あり
第6問火星ヘリコプターの重力と揚力の見積もりG を消す意味 / 数値の先取りあり

2021年度の解説には失点しやすい点6件・検算3件が付いています。

前年度(2020年度)との違い

大問数
2020年度 6問 → 2021年度 6問
2020年度の解答例

神戸大学の公式過去問

公開年度範囲
2013〜2025年の物理I・物理II(実施年で表記)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
2022年実施分より英語は外部試験(TOEFL iBT)に切り替わり、英語問題の掲載はない。2021年以前の英語問題は著作権の都合で来訪閲覧のみ。
院試hubの最終確認
2026-09-05
神戸大学の公式過去問PDF