院試hub

北大 理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座(修士課程) 専門科目(多様性生物学) 2027年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は生物2項目です。解説は1問、答案例は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 進化・生態:遺伝子の分化と群集の多様性

問1 塩基の変化が機能へ及ぶまで

タンパク質をコードする配列では、三つの塩基からなるコドンが遺伝暗号表を通してアミノ酸に対応する。同じアミノ酸を指定する複数のコドンがあるため、塩基置換とアミノ酸置換は同じではない。翻訳後のアミノ酸を変える置換が非同義置換である。一次構造が変わった後に、水素結合、疎水性相互作用、電荷や側鎖の大きさが変わり、それが高次構造や他分子との結合へ影響するという段階を考える。

例えば、一つの部位でリガンドと平衡結合する分子について、遊離リガンド濃度を [L][L]、解離定数を KdK_d とすれば、結合した分子の割合は fbound=[L]Kd+[L]. f_{\rm bound}=\frac{[L]}{K_d+[L]} . これは Kd=[P][L]/[PL]K_d=[P][L]/[PL] と分子の保存 [P]total=[P]+[PL][P]_{\rm total}=[P]+[PL] から導ける。置換で結合部位が変わり KdK_d が大きくなれば、同じ [L][L] で結合割合は減る。ただしこれは結合機能の一例であり、すべてのタンパク質機能がこの一式で表されるわけではない。

表面の機能に関わらない場所で性質の似たアミノ酸に変わる場合と、触媒反応に直接必要な側鎖を失う場合とでは、予想する影響が違う。「アミノ酸が変わったから必ず機能を失う」と書くと前者を説明できない。一方、機能が保たれたことを理由にその塩基置換を同義置換と呼ぶのも誤りである。同義・非同義は翻訳されるアミノ酸の比較、機能への影響はその先の比較で判定する。

問2 重複したコピーの維持と改変

遺伝子重複は、ある遺伝子に由来するコピーがゲノム内で増える過程である。重複由来の相同遺伝子はパラログと呼び、種分化によって別の種へ分かれた相同遺伝子であるオルソログと区別する。コピーが二つあること自体は、新しい機能が二つできたことを意味しない。まずは似た配列と似た機能を持ち、そこから発現する場所、時期、基質特異性などが分化する。

祖先の機能の集合を FF、二コピーが担う機能を F1,F2F_1,F_2 と書くと、機能分担では F1∪F2=F,F1≠F,F2≠F F_1\cup F_2=F,\qquad F_1\ne F,\quad F_2\ne F となる場合を考えられる。例えば祖先が二つの組織で発現していた遺伝子について、各コピーが別々の組織の発現を担えば、二コピーを合わせて祖先の働きを維持する。一方、新機能獲得では、祖先にない機能が一方のコピーへ加わる。この二つは同じ進化経路ではない。

変異が機能に及ぼす影響が緩和されることは、その変異が必ず固定されることとも違う。固定や消失には自然選択、遺伝的浮動、集団の大きさなどが関わる。重複遺伝子の一方が失われる場合や、コピー数の増加による発現量の変化が選択される場合もある。「二コピーだから変異はすべて中立になる」とすると、量の不均衡で有害になる変化を除いてしまう。答案では、維持される機能と改変されるコピーを結び付け、必然ではなく起こり得る経路として説明する。

問3 攪乱の損失と競争排除を分ける

ここで比べる多様性は、まず群集に存在する種の数である。種 ii の個体数を NiN_i とすれば、種数は S=∑i1Ni>0S=\sum_i\mathbf1_{N_i>0} と数える。個体数の合計 ∑iNi\sum_iN_i とは違い、少数種が大量に増えても種数が増えたとはいえない。攪乱とは、火災、倒木、波浪などによって個体や占有空間の状態が変わる出来事で、頻度、強度、影響する面積を区別する。

攪乱直後の直接損失だけを見るなら、残る個体数は例えば Ni(t+)=(1−di)Ni(t−),0≤di≤1 N_i(t^+)=(1-d_i)N_i(t^-),\qquad 0\le d_i\le1 と書ける。did_i は失われる割合であり、この式だけなら個体は増えない。しかし空いた場所ができると、その後の種間競争や新しい定着が変わる。競争優位種がすべての場所を長く占め続ける状態を崩す効果まで考えて、直接損失と間接的な共存の利益を合わせて判断する。

攪乱の間隔が定着や繁殖に必要な時間より短ければ、増える前に再び失われる。逆に攪乱がほとんどなければ、競争排除が完了する時間を与える場合がある。中間の状態では、先駆的な種が利用する場所と、回復の進んだ場所を利用する種の場所が混在しやすい。これが中規模攪乱仮説の筋道である。

「攪乱が強いほど競争が弱まるので、種数は必ず増える」と延長すると、直接死亡と回復不能を落とす。一方、この仮説はすべての生態系で同じ山形の曲線が測定されるという法則ではない。攪乱に対する耐性、供給される種、競争や捕食の条件が違えば関係も変わる。問われた機構を説明することと、全環境への一般化は区別する。

問4 資源分割が共存を助ける条件

生態的地位は、生物が利用する資源や環境条件、他の生物との関係を含む概念である。資源分割では、そのうち競争に関わる軸の違いを見る。同じ森林にすむ鳥が樹冠の高さを分けて採食する場合、同じ餌でも採る時刻を分ける場合などが例になる。単に離れた地域に別々にすむという事実だけでは、同じ場所での資源分割を示したことにはならない。

二種の競争の働きは、条件を単純化したロトカ・ヴォルテラ競争モデル N˙1=r1N1(1−N1+α12N2K1),N˙2=r2N2(1−N2+α21N1K2) \dot N_1=r_1N_1\left(1-\frac{N_1+\alpha_{12}N_2}{K_1}\right),\qquad \dot N_2=r_2N_2\left(1-\frac{N_2+\alpha_{21}N_1}{K_2}\right) でも考えられる。ri,Ki>0r_i,K_i>0 は増殖率と単独での環境収容力、αij≥0\alpha_{ij}\ge0 は相手一個体の競争効果を自種個体に換算した係数である。一定環境で二種の資源制限をこの形へ近似できる場合のモデルで、実際の群集すべてにそのまま当てはめるものではない。

種2だけが K2K_2 まで増えた状態へ少数の種1が入ると、その一個体当たり増殖率は r1(1−α12K2/K1)r_1(1-\alpha_{12}K_2/K_1) となる。これが正であり、逆向きの侵入も可能なら K1>α12K2,K2>α21K1 K_1>\alpha_{12}K_2,\qquad K_2>\alpha_{21}K_1 を満たす。このモデルでは両種の安定な共存へつながる条件である。資源分割によって種間競争係数が小さくなることは、この二条件を満たす方向に働く。

したがって「違う餌を食べれば無条件に共存する」とまではいえない。資源量が少なすぎる、別の資源をめぐる競争が強いなどの条件は残る。短い答案では利用軸の違いと競争の軽減を結び、解説ではその軽減がなぜ共存に寄与するかを条件まで示す。

共存点を式から確かめる  二つの個体数が正の平衡点では、各括弧が0となるので N1∗+α12N2∗=K1,α21N1∗+N2∗=K2. N_1^*+\alpha_{12}N_2^*=K_1,\qquad \alpha_{21}N_1^*+N_2^*=K_2 . 連立して N1∗=K1−α12K21−α12α21,N2∗=K2−α21K11−α12α21 N_1^*=\frac{K_1-\alpha_{12}K_2}{1-\alpha_{12}\alpha_{21}},\qquad N_2^*=\frac{K_2-\alpha_{21}K_1}{1-\alpha_{12}\alpha_{21}} を得る。上で示した二つの侵入条件を掛けると α12α21<1\alpha_{12}\alpha_{21}<1 となり、分母も各分子も正である。さらにこの点での線形化のヤコビ行列は J=(−r1N1∗/K1−r1α12N1∗/K1−r2α21N2∗/K2−r2N2∗/K2). J=\begin{pmatrix} -r_1N_1^*/K_1&-r_1\alpha_{12}N_1^*/K_1\\ -r_2\alpha_{21}N_2^*/K_2&-r_2N_2^*/K_2 \end{pmatrix} . その跡は負、行列式は det⁡J=r1r2N1∗N2∗K1K2(1−α12α21)>0 \det J=\frac{r_1r_2N_1^*N_2^*}{K_1K_2} (1-\alpha_{12}\alpha_{21})>0 なので、固有値の実部はともに負となる。この定数係数の二種モデルでは、小さなずれから共存点へ戻ることまで確かめられる。単に正の平衡点が見つかったことだけと、安定して戻ることは別の条件である。なお成長率の密度による減少を一次式で近似したモデルであり、資源分割の効果をすべての実群集でこの行列だけから証明したわけではない。

問5 捕食を介した間接効果

捕食者は餌となる生物に直接負の効果を与える。しかしその餌が他の種の資源を独占しているなら、捕食者は競争相手を介して他種へ正の間接効果を与え得る。本問で注目する資源は、付着して生育できる岩礁上の空間である。餌の総量だけでなく、どの種がその場所を占めるかを見る。

ヒトデの個体数を PP、イガイの占有量を MM、他の付着生物の量を XX と書くと、考えている経路は P →捕食による抑制 M →空間競争による抑制 X P\ \xrightarrow{\text{捕食による抑制}}\ M \ \xrightarrow{\text{空間競争による抑制}}\ X である。同じ条件の下で局所的な応答を比べ、dM/dP<0dM/dP<0、dX/dM<0dX/dM<0 なら、この経路を通る効果の符号は (dX/dM)(dM/dP)>0(dX/dM)(dM/dP)>0 となる。二段階の抑制が正の間接効果を作ることを、符号で確かめている。これは個々の経路の説明であり、群集全体の応答が常にこの積だけで決まるとはしない。

キーストーン種とは、その多さだけから予想するより群集構造への効果が大きい種である。必ず個体数が最も多い種、必ず最大の捕食者という定義ではない。ヒトデの除去実験では、その除去前後でイガイの占有と他種の減少を結び付けることが機構の説明となる。

「捕食者が減ったので餌の種類がすべて増える」と書くと、競争による排除を落とす。またヒトデが他の付着生物を直接増殖させたと書くのも、示した間接経路と違う。観察された種数の低下を、イガイによる空間独占が強まったという仮説を通して説明する。

答案例

問1 塩基の変化が機能へ及ぶまで

非同義置換は、タンパク質を構成するアミノ酸を変える。置換位置とアミノ酸の性質によっては、活性部位、立体構造、安定性や分子間相互作用が変わり、機能の低下・喪失・変更が生じる。ただし機能への影響が小さい置換もあり、機能が向上する場合もある。

問2 重複したコピーの維持と改変

遺伝子重複で生じた一方のコピーが祖先の機能を維持すると、もう一方への変化が直ちにその機能全体の喪失になるとは限らない。変異の蓄積と改変により、新機能の獲得や祖先機能の分担が生じ得る。このように重複と分化を通じてできた相同遺伝子の集まりが遺伝子ファミリーであり、機能の多様化の材料となる。

問3 攪乱の損失と競争排除を分ける

攪乱が弱いと競争優位種による独占が進み、弱い種が排除され得る。中程度の攪乱は独占を崩して定着場所を生み、異なる段階の群集が共存する機会を増やす。一方、攪乱が強すぎると生存・回復・定着できる種が限られ、種数が減る。この二つの効果から、中程度で多様性が高まることを説明できる。

問4 資源分割が共存を助ける条件

競争する種が、餌の種類や大きさ、採食する場所、活動時間などを分けて利用し、同じ限られた資源を奪い合う程度を減らすことである。生態的地位の重なりが小さくなり、種間競争が弱まると、競争排除を避けて共存しやすくなる。

問5 捕食を介した間接効果

ヒトデが空間を独占しやすいイガイを捕食し、他の付着生物にも生育場所を残していたと考えられる。ヒトデを除くとイガイが増えて岩礁の空間を占め、他種が競争排除されて種数が減る。このように競争優位種を抑える効果が大きい捕食者が、群集の多様性を維持していたと説明できる。

第2問 — 動物系統・命名:系統群の関係と学名の履歴

動物系統・命名:系統群の関係と学名の履歴の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 藻類・共生:酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来

藻類・共生:酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 島嶼・行動生態:小集団、繁殖投資と再捕獲の確率

島嶼・行動生態:小集団、繁殖投資と再捕獲の確率の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 集団・分子進化:遺伝子頻度、置換モデルと選択の検証

集団・分子進化:遺伝子頻度、置換モデルと選択の検証の途中式・最終答をPDFで見る

専門科目(多様性生物学)の解答・解説PDF

2022〜2027年度(6年度) · ¥3,200

解答PDFの商品ページへ

年度別の解答例(6年度)

  • 2027年度(このページ・解説5項目)

    進化・生態:遺伝子の分化と群集の多様性 / 動物系統・命名:系統群の関係と学名の履歴 / 藻類・共生:酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来

  • 2026年度(解説5項目)

    植物の命名・生殖隔離・寄主転換と外来種 / 動物の系統・体制・国際命名規約 / 真核生物の分類・藻類の構造・共生の復元

  • 2025年度(解説5項目)

    生物の進化と生態系:顎、共生、分解と抗生物質 / 動物の系統分類:有根系統樹、命名法と種の同定 / 藻類の系統と細胞:葉緑体の共生起源と機能

  • 2024年度(解説5項目)

    系統推定と集団内の遺伝的多様性 / 動物の系統・門の識別・学名の適格性 / 葉緑体の共生起源と藻類の分類

  • 2023年度(解説5項目)

    羊膜類・哺乳類の適応放散・植食・外来種 / 動物の系統樹・形態の識別・学名の組合せ / 葉緑体の統合・色素・二次共生・消失の証拠

  • 2022年度(解説5項目)

    種を単位にする理由・学名の同定・種数の地域差 / 十二群の系統樹・三動物門・トドの学名 / 一次植物の起源・色素・二次共生の痕跡

2027年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は生物2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問生物遺伝子の分化と群集の多様性—あり
第2問系統群の関係と学名の履歴—あり
第3問酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来—あり
第4問小集団、繁殖投資と再捕獲の確率—あり
第5問生物遺伝子頻度、置換モデルと選択の検証—あり

前年度(2026年度)との違い

大問数
2026年度 5問 → 2027年度 5問
2026年度の解答例

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2027年度の夏期問題、2027年度の出題意図と解答例
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
院試hubの最終確認
2026-10-22
北海道大学の公式過去問PDF