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北大 理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座(修士課程) 専門科目(多様性生物学) 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は生物1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 種を単位にする理由・学名の同定・種数の地域差

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第2問 — 十二群の系統樹・三動物門・トドの学名

十二群の系統樹・三動物門・トドの学名の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 一次植物の起源・色素・二次共生の痕跡

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第4問 — 海洋島への到達・隔離分布・東アジアの植物相

海洋島への到達・隔離分布・東アジアの植物相の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 遺伝様式・塩基多様度・母系集団史の推定

問1 三つの遺伝子がたどる親の違い

核の常染色体は、減数分裂によって父母のそれぞれから一組ずつ子へ渡る。例えば母がA/a、父がa/aなら、各子が母のAを受け取る確率は1/21/2で、父からはaを受け取る。これは子の性にかかわらない。相同染色体の組換えにより、染色体上の複数の領域は、世代をさかのぼると異なる系統の歴史を持ち得る。

通常の性染色体の伝達では、父のXは娘へ、父のYは息子へ渡る。Y上のSRYを使えば、父系の継承を調べられる。ただし、SRYという一つの遺伝子と、性決定に関わる全ての仕組みを同一視しない。ここでの答案は通常の染色体構成での代表的な遺伝様式であり、染色体の構造変異などの例外を全て排除した普遍則ではない。

ミトコンドリアDNAは核の常染色体と異なり、受精時に主として卵側から子へ伝わる。母の型は息子にも入るので、「母から娘へだけ入る」と書くと誤りである。息子がその型を持つことと、息子が自分の子へ通常それを伝えることは別である。個体内には多数のミトコンドリアDNAコピーがあるが、集団史では同じ母系に沿って伝わる一つの遺伝的な系統として扱う。

従って、常染色体、Y染色体、ミトコンドリアDNAは、全く同じ祖先の経路を代表するわけではない。父母双方の履歴と父系・母系の違いを区別して比較する。ミトコンドリア一領域の結果を、そのまま父系を含む集団全体の唯一の歴史に置き換えないことが、後の設問でも必要になる。

問2 最小の標本と最小の有効集団は違う

塩基多様度π\piは、同じ集団から二本の配列を取り出したときの、塩基当たりの平均的な相違である。標本がnn本、比較する長さがLL塩基、配列i,ji,jの相違数がkijk_{ij}なら π^=1(n2)L∑i<jkij \widehat\pi=\frac{1}{\binom n2L}\sum_{i<j}k_{ij} と計算できる。解析個体数をそのまま集団の大きさとする量ではない。

母系の一倍体的な継承で、世代ごとの有効な母の数をNe,fN_{e,f}、一世代・一塩基当たりの突然変異率をμ\muとする。一定の大きさ、中立性、無限部位模型などの仮定では、二母系が一世代前に同じ母を共有する確率は1/Ne,f1/N_{e,f}で、共祖先までの平均時間はNe,fN_{e,f}世代になる。二本の枝にそれぞれ変異がたまるので E[π]=2Ne,fμ E[\pi]=2N_{e,f}\mu となる。同じμ\muなら、低いπ\piは小さいNe,fN_{e,f}に対応する。

原題ではEの値が最小である。Fは解析した個体数が最も少なくても、塩基多様度はむしろ最大なので、「調べた人数が少ないから最小集団」とする答えにはならない。解析人数は推定の精度に影響するが、標本が採られた母集団の大きさとは別である。

非平衡な集団では、過去の縮小や拡大、移入、集団構造、選択もπ\piに影響する。また、二親性の二倍体核遺伝子でよく使う4Neμ4N_e\muを、母系の有効な母の数をそのまま使ったこの式へ入れない。何を一コピーの継承単位として数えるかをそろえ、Eという推測の条件を明記する。

問3 最大の母系多様性からの候補

長く大きな集団が存続すれば、母系が共祖先へ合流するまでの時間が長くなり、配列間の差が多く残り得る。そこから少数の系統が外へ出て新しい集団を作ると、祖先集団の多様性の一部だけを受け継ぐ。創始者効果やボトルネックで失われた型があれば、外側の集団では平均的な配列差が低くなることがある。

人類の母系の研究では、アフリカに深い分岐を持つ型が多く、アフリカ外の型がその多様性の一部に由来するという系統関係が、この説明の材料になる。Cannらの1987年の研究は、その歴史的な研究の一つである。原題の表ではFのπ\piが最大なので、この既知の集団史と対応する候補としてFを挙げる。

ただし、単純な多様度の値だけには地名が書き込まれていない。突然変異率や集団の混合、過去の個体数の変動が異なれば、別の地域でも高い値が得られる。Fという候補を検証するには、実際の採集地、複数個体の系統関係、他の領域の変異を含めて調べる。表の順に北から南へ並んでいるなど、与えられていない配置も仮定しない。

母系の共祖先をたどることと、当時にその女性しか存在しなかったとすることは別である。ある時代に多くの女性がいても、その後の各世代で娘に沿った系統が途絶えれば、現在のミトコンドリア系統へ残らない場合がある。また、ミトコンドリアの深い分岐は、核の全領域の祖先や個体全体の年齢を一つに定めるものではない。使った遺伝様式の範囲で推論する。

問4 配列から集団拡大を検討する

配列本数をnn、長さをLLとし、a1=∑i=1n−11/ia_1=\sum_{i=1}^{n-1}1/iとおく。中立・一定集団・組換えなしの無限部位模型では、平均対差θ^π=Lπ^\widehat\theta_\pi=L\widehat\piと、分離サイト数からのθ^W=S/a1\widehat\theta_W=S/a_1が同じ母数を推定する。この二つの差を、その模型で期待されるばらつきで標準化した量が D=θ^π−S/a1e1S+e2S(S−1) D=\frac{\widehat\theta_\pi-S/a_1} {\sqrt{e_1S+e_2S(S-1)}} である。係数は次のように求める。 a2=∑i=1n−11i2,b1=n+13(n−1),b2=2(n2+n+3)9n(n−1),c1=b1−1a1,c2=b2−n+2na1+a2a12,e1=c1a1,e2=c2a12+a2.\begin{align*} a_2&=\sum_{i=1}^{n-1}\frac{1}{i^2},& b_1&=\frac{n+1}{3(n-1)},& b_2&=\frac{2(n^2+n+3)}{9n(n-1)},\\ c_1&=b_1-\frac{1}{a_1},& c_2&=b_2-\frac{n+2}{na_1}+\frac{a_2}{a_1^2},\\ e_1&=\frac{c_1}{a_1},& e_2&=\frac{c_2}{a_1^2+a_2}. \end{align*} これはTajima(1989, Genetics 123:585--595)の分離サイト数と平均対差の共分散を用いた標準化である。共祖先過程の分散・共分散の計算が上の係数へ入っている。ここではn≥4n\geq4で、分母が正となる変異のある配列を扱う。標本数の違う集団へ係数を同じ値のまま使わない。

一つのサイトで変異塩基を持つ配列がii本なら、そのサイトが対差へ寄与する割合は i(n−i)(n2)=2i(n−i)n(n−1). \frac{i(n-i)}{\binom n2}=\frac{2i(n-i)}{n(n-1)}. 単一の変異コピーでも、分離サイトとしては一箇所と数える。一方、平均対差への寄与は低頻度ほど小さい。この数え方の違いが、希少な変異が多いとθ^π−θ^W\widehat\theta_\pi-\widehat\theta_Wが負になりやすい理由である。

例えば説明用の五配列・200塩基で、三箇所がそれぞれ単一コピーの変異なら、各サイトの寄与は2/52/5で、θ^π=3×2/5=1.2\widehat\theta_\pi=3\times2/5=1.2となる。a1=25/12a_1=25/12なのでθ^W=3/(25/12)=1.44\widehat\theta_W=3/(25/12)=1.44であり、差は負になる。これは原題の各地域集団について与えられた配列ではなく、式を確かめるための人工例である。逆に二箇所がそれぞれ二コピーずつの変異なら、各サイトの寄与は2×2×3/(5×4)=0.62\times2\times3/(5\times4)=0.6で、平均対差は同じ1.21.2でも、S/a1=2/(25/12)=0.96S/a_1=2/(25/12)=0.96となり、差の符号は正になる。同じπ\piからDDが決まらないことを、この二例でも確かめられる。

急な拡大では、現在の多数の系統に短い末端枝が生じ、その枝上の新しい変異が低頻度になりやすい。ただし負のDDだけで拡大が確定するわけではなく、有意性も調べる。単一のミトコンドリア領域に働く選択や、地域集団を混ぜた標本などの影響も検討する。相違数の分布が単峰になるという予測も、他の証拠と組み合わせる。

表の各π\piと解析人数だけでは、分離サイト数、配列長、変異の頻度分布が分からない。同じπ\piでも、それらが異なる配列集合は作れる。与えられていないSSを人数から代用してDDを計算したり、最高のπ\piを持つ集団が直近に最も増えたと断定したりしない。配列を用いた人口史モデルの比較まで含めて、増加の有無を検討する手順を答える。

解答

問1 三つの遺伝子がたどる親の違い

アルブミン遺伝子は常染色体上の核遺伝子で、通常は父母から一コピーずつ受け継ぐ二親性の遺伝をする。SRYは通常のXX/XY型の哺乳類ではY染色体上にあり、父から息子へ受け継がれ、娘にはそのY染色体は伝わらない。ミトコンドリアDNAは主として母から息子・娘の両方へ伝わるが、次の世代へそれを伝えるのは通常は娘であり、母系をたどる。

問2 最小の標本と最小の有効集団は違う

Eの塩基多様度が最も低いためである。ただし突然変異率などが同程度で、中立・平衡などの仮定を置いた推定であり、この表だけから現在の実個体数を確定することはできない。

問3 最大の母系多様性からの候補

Fの塩基多様度が最も高く、アフリカに長く存続した母系の多様性と、アフリカ外への拡大時のボトルネックによる多様性低下という説明に合うためである。ただし、多様度の大小だけで採集地を一意に決めることはできず、ここでは人類の母系集団史に関する知識を合わせた推測である。

問4 配列から集団拡大を検討する

相同配列から分離サイト数SSと平均対差を求め、中立・一定集団を基準にTajimaのDDなどを計算する。急な集団拡大では低頻度変異が相対的に多くなり、DDが負になる傾向を検討できる。配列間の相違数の分布や系統の形、共祖先過程に基づく人口史モデルも比較し、一定集団の模型との適合や不確かさを調べる。選択や集団構造でも似た信号が生じるため、これらの代替説明を検討する。原題の表のπ\piだけでは、DDの数値は計算できない。

最終答

問2 最小の標本と最小の有効集団は違う

Eが、母系の有効集団サイズの最も小さい候補である。

問3 最大の母系多様性からの候補

Fがアフリカ集団の候補である。

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年度別の解答例(6年度)

  • 2027年度(解説5項目)

    進化・生態:遺伝子の分化と群集の多様性 / 動物系統・命名:系統群の関係と学名の履歴 / 藻類・共生:酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来

  • 2026年度(解説5項目)

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  • 2023年度(解説5項目)

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  • 2022年度(このページ・解説5項目)

    種を単位にする理由・学名の同定・種数の地域差 / 十二群の系統樹・三動物門・トドの学名 / 一次植物の起源・色素・二次共生の痕跡

2022年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は生物1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問—種を単位にする理由・学名の同定・種数の地域差——
第2問—十二群の系統樹・三動物門・トドの学名—あり
第3問—一次植物の起源・色素・二次共生の痕跡—あり
第4問—海洋島への到達・隔離分布・東アジアの植物相——
第5問生物遺伝様式・塩基多様度・母系集団史の推定—あり

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2027年度の夏期問題、2027年度の出題意図と解答例
公式の解答例
一部の年度・科目のみ公開
院試hubの最終確認
2026-10-22
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