北大 理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座(修士課程) 専門科目(多様性生物学) 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)
解説5項目の分野は生物1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。
最終更新:
第1問 — 系統推定と集団内の遺伝的多様性
系統推定と集団内の遺伝的多様性の途中式・最終答をPDFで見る第2問 — 動物の系統・門の識別・学名の適格性
動物の系統・門の識別・学名の適格性の途中式・最終答をPDFで見る第3問 — 葉緑体の共生起源と藻類の分類
葉緑体の共生起源と藻類の分類の途中式・最終答をPDFで見る第4問 — 配偶者選択・競争・なわばりの利益と費用
問1 二番目の雌になる利益を比較する
雌の選択を考えるときは、その雌自身が残せる子の数を、利用できる選択肢の間で比較する。一夫多妻に伴う雄の世話の分散や雌間競争による不利益があっても、それを上回るなわばりの資源差があれば、二番目になる選択が有利になり得る。これが一夫多妻閾値模型の考え方である。
豊かななわばりの二妻目の繁殖成功を 、乏しいなわばりの一妻目を と書けば、比較すべき差は である。左は 、右は となる。豊かななわばりの一妻目の6を、二妻目がそのまま得ると考えてはいけない。雌が増えた状態の4が、その選択の結果に対応する。
原題の問1には図2を参照する記載があるが、一妻・二妻の巣立ち雛数を示すものは図1であり、図2は広さと防衛労力の図である。ここでは数値を与える図1に基づき説明した。雄の総雛数を として一妻の5と比べる方法では、雌一個体の選択から雄の成功へ評価対象が変わってしまう。原題の図番号を無断で置き換えず、使った情報を明示する。
問2 日本で繁殖する一夫多妻の例
一夫多妻は、一雄が同じ繁殖期に複数の雌と配偶する様式である。雄が複数いる集団で繁殖することや、一つの巣に複数の雛がいること自体を意味しない。オオヨシキリでは札幌周辺など日本での一夫多妻の繁殖観察があり、この設問の日本で繁殖する種という条件に合う。
レパートリーは、単に鳴いた回数でなく、使い分ける歌の型や音節の種類に関する量である。歌の多様さが、発達中の状態や学習経験、年齢などと関連するなら、雌は直接に遺伝子や将来の繁殖成功を測らなくても、それらと関わる手掛かりを得られる可能性がある。Parkらの2009年のオオヨシキリ研究では、歌のレパートリーと到着・つがい形成・一夫多妻との関係が調べられた。
ただし相関は、歌だけが雌の選択を引き起こした証明ではない。到着時期、雄の質、なわばりの質などが同時に関わるため、資源条件をそろえた再生実験などで仮説を分けて検討する必要がある。「歌が多ければ、どの種でも必ず二妻になる」と一般化しない。また問われる資源以外の形質へ、再びなわばりの餌量だけを答えることは避け、雄の信号のどの性質を使うかを指定する。
問3 資源と二種類の競争
自己の繁殖への寄与に加え、血縁個体の繁殖へ及ぼす効果を血縁度で重み付けして考えるのが包括適応度である。例えばある行動が自己に費用 、血縁度 の相手に利益 を与える単純な模型では、間接効果を含めた差を と評価する。資源を自分または血縁個体の生存・繁殖へ使うという原文の範囲に対応する。
資源消費型競争では、一方が餌や場所を利用した結果、他方が利用できる量が減る。二個体が直接出会わなくても起こり得る。干渉型競争では、追い払い、威嚇などにより他個体の利用を妨げる。有限な資源でも独占が難しければ、常に直接攻撃が有利とは限らない。
原文では、隣接個体の排除によるなわばり形成を干渉型、その後の資源利用を介した維持を資源消費型として区別している。両空欄を逆にすると、他個体の排除と資源の減少という機構が入れ替わる。また全ての競争が必ず追跡や闘争を伴うわけではない。資源がどれだけ存在するか、利用すると他個体にどのような不利益が出るか、直接の行動があるかをそれぞれ確認する。
問4 飽和する利益と増える防衛費用
面積が広がると領域内の餌の総量は増えるが、保有者が探し、捕らえ、処理できる量には時間的な制限がある。従って実際に得る量は、面積とともに最初は増えても、次第に増加が小さくなり飽和する。原図のbはこの形に対応する。
防衛のために巡回したり侵入個体へ反応したりする費用は、守る範囲が大きいほど増す。原図ではその労力を直線aで近似している。防衛費用が現実の全ての形のなわばりで厳密に面積へ比例するという法則ではなく、利益と費用を比較するための概念模型である。
例えば面積 に対し、餌による利益を 、費用を とすれば、 は減るが は一定である。この式は原図の数値を測ったものではなく、二曲線の意味を説明する独自の模型である。餌の「存在量」と「実際に得る量」を同じにして と置くと、原文の時間制限と飽和を説明できない。
問5 最大化すべき差と交点の違い
利益と費用を同じ評価単位へ換算したうえで、正味の利益を と置く。内点で微分可能なら、最大候補は であり、そこを越えて が正から負へ変わることを確かめる。これは限界的に得る利益と追加の費用が等しい条件であって、利益と費用の総量が等しい条件ではない。
原図ではA付近で二曲線の縦の差が最大になり、Cでは両曲線が交わって差が0になる。Cを選ぶと、利益を費用で使い切る広さを最適とすることになり、Aで残せる正の利益を捨ててしまう。面積を最大にするDも、追加の防衛費用が餌の増分を上回るため有利ではない。
前問の模型をそのまま微分すると となる。 なら正の内点解 があり、二階微分が負なので最大である。一方 なら開始時から追加利益が費用を上回らず、この模型の許容範囲 で最大は境界 になる。対数の中は無次元であり、 が面積の次元を与える。この条件を確認せず、負の面積を答えとして残してはいけない。
前問の独自模型で とすれば、、 となる。一方、正の交点は約4.97で、そこで である。これはA〜Dの面積を実測した数値ではなく、傾きの一致と総量の交点が異なることを確かめる例である。次元の異なる餌量と労力を、換算せず直接引く操作も避ける。
問6 種間なわばりの例と二段階の要因
なわばりは、単なる行動圏と違い、侵入者に対して防衛される空間である。異種間で行動圏が重なるだけでは、種間なわばりを確認したことにならない。マキバドリ二種では同所の繁殖域で種間のなわばりが報告され、サヨナキドリ属二種ではReifらの2015年の再生実験で異種の声に対する強いなわばり反応が確認された。
至近要因は、その場で行動を生じさせる環境条件や認識の仕組みを問う。共通の餌が乏しく、追い払えば自分が得る分を増やせるといった資源条件や、相手の歌への反応を考える。一方、究極要因は、そうした行動がどのような繁殖上の利益と費用によって維持されるかを問う。「相手が近づいたから」という刺激の説明だけでは、後者への答えにならない。
種間防衛の利益には資源競争の軽減のほか、繁殖干渉の低減などもあり得る。全てを餌不足だけで決めず、両種の資源利用と反応を調べて仮説を分ける。声への反応があっても、学習や信号の似通いによる認識も関わり得るため、共存する全個体が領域を完全に分割するという強い結論までは出さない。進化的利益を「将来の種のために意図して行う」と目的へ置き換えない。
問7 防衛範囲と面積の決定要因を調べる
防衛された空間かを確かめるには、単なる滞在地点の地図に行動の測定を加える。例えば同じ強さ・時間の声を複数地点で提示し、どこで持続的に排除反応が出るかを調べる。無刺激や競争しない異種の声を対照とし、刺激の新奇性だけへの反応を分ける。場所や提示順を無作為化し、同じつがいへの繰返しによる慣れも考慮する。
面積の比較では、一回だけ餌の多い領域と少ない領域を見ると、植生や隣接個体の密度が交絡する。操作群と対照群で前後を比べ、面積変化の差 を評価すれば、その時期に全体で起きた変化をある程度分けられる。つがいを独立な反復単位にし、一つがいの多数の位置記録を全て独立個体として数えない。
餌が増えれば必要量を小面積で確保できて面積が縮む仮説と、防衛する利益が増して面積が広がる仮説があり、予測は模型によって異なる。隣接個体の圧力や資源の集中度も測り、変化の方向をあらかじめ一つの万能則にしない。またA型は生活全体をその空間で完結する様式であり、歌う地点だけを囲んだ面積をそのまま全なわばりとみなさない。
解答
問1 二番目の雌になる利益を比較する
左の条件では、餌の乏しい雄と一夫一妻になる場合の巣立ち雛数3より、豊かな雄の二番目の雌になる場合の4が多く、一夫二妻が生じる。右では、乏しい雄と一夫一妻になる場合の5が、豊かな雄の二番目になる場合の4を上回るため、一夫二妻が生じにくい。
問2 日本で繁殖する一夫多妻の例
オオヨシキリを挙げられる。雄が確保するなわばりに複数の雌が繁殖する。資源量以外の指標として、雄のさえずりのレパートリーや歌い方が、雄の状態・経験などを評価する情報となり、雌の選択に関わると考えられる。
問6 種間なわばりの例と二段階の要因
例は、Sturnella magnaとSturnella neglectaのマキバドリ二種、およびLuscinia megarhynchosとLuscinia lusciniaのサヨナキドリ属二種である。至近的には、同所で利用する餌・営巣場所などの重複、資源量、侵入個体の存在や信号への反応が関わる。究極的には、他種の利用を制限する利益が防衛費用を上回り、資源や繁殖機会を確保して残す子孫数を増す条件で、排除行動が選択され得る。
問7 防衛範囲と面積の決定要因を調べる
想定されるなわばりの内側・境界付近・外側に、同種個体の模型や声などの侵入刺激を提示し、接近・威嚇・追払いの頻度と距離を比較する。面積を規定する要因は、餌の利用可能量を操作する群と対照群を設け、操作前後のなわばり境界と防衛行動を反復測定して調べる。
最終答
問3 資源と二種類の競争
ア:包括適応度、イ:有限、ウ:資源消費型(利用型)、エ:干渉型。
問4 飽和する利益と増える防衛費用
直線aはなわばり防衛の労力、曲線bは限られた時間内に実際に得られる餌の量。
問5 最大化すべき差と交点の違い
A。曲線bの利益と直線aの費用との差が最も大きい広さだからである。
第5問 — 進化の定義・塩基置換・集団史の推定
進化の定義・塩基置換・集団史の推定の途中式・最終答をPDFで見る年度別の解答例(6年度)
進化・生態:遺伝子の分化と群集の多様性 / 動物系統・命名:系統群の関係と学名の履歴 / 藻類・共生:酸素発生、三世代交代と葉緑体の由来
植物の命名・生殖隔離・寄主転換と外来種 / 動物の系統・体制・国際命名規約 / 真核生物の分類・藻類の構造・共生の復元
生物の進化と生態系:顎、共生、分解と抗生物質 / 動物の系統分類:有根系統樹、命名法と種の同定 / 藻類の系統と細胞:葉緑体の共生起源と機能
2024年度(このページ・解説5項目)
系統推定と集団内の遺伝的多様性 / 動物の系統・門の識別・学名の適格性 / 葉緑体の共生起源と藻類の分類
羊膜類・哺乳類の適応放散・植食・外来種 / 動物の系統樹・形態の識別・学名の組合せ / 葉緑体の統合・色素・二次共生・消失の証拠
種を単位にする理由・学名の同定・種数の地域差 / 十二群の系統樹・三動物門・トドの学名 / 一次植物の起源・色素・二次共生の痕跡
2024年度の出題内容
解説5項目
前年度(2023年度)との違い
- 大問数
- 2023年度 5問 → 2024年度 5問
北海道大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2022〜2027年度の夏期問題、2027年度の出題意図と解答例
- 公式の解答例
- 一部の年度・科目のみ公開
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-22