設問(1) 遷移先が第3準位となる系列
水素の発光では、高い準位 n2 の原子が低い準位 n1 へ移り、差のエネルギーを光子として放出する。リュードベリの式は
ν=λ1=RH(n121−n221),n2>n1≥1
である。同じ n1 を共有する線の集合を一つの系列と呼ぶので、表の n1=3 が名称を決める。n2 は系列内の個々の線を指定する数であり、系列名を定める数ではない。
n2=4 なら括弧内は 1/9−1/16=7/144>0、n2→∞ なら 1/9 へ近づく。どの線も正の波数を持ち、波長の領域が近赤外となることとも整合する。例えば n2=4 という数だけを見てブラケット系列と答えると、その系列の遷移先 n1=4 と食い違う。4→3 はパッシェン系列の最初の線である。
設問(2) 最長波長から求めるリュードベリ定数
波長と波数は逆数なので、最長波長を探すには波数を最小にする。n2 が大きくなるにつれて 1/n22 は減少し、1/9−1/n22 は増加する。許される最小の n2=4 を選ぶ理由は、この単調性にある。
計算式では括弧内が無次元であるため、RH の次元は 1/λ と同じ長さの逆数となる。求めた未丸め値を戻すと
RH1447=5.333333…×105 m−1,λ=1.875×10−6 m
となり、入力した波長に戻る。
系列極限 n2→∞ を最長波長と取り違えると、
RH=9/(1875×10−9)=4.800×106 m−1
を得る。この極限は波数が最大であるため、実際には系列の最短波長を表す。最長・最短を決める際は、1/λ に対する増減を確かめる。
設問(3) バルマー系列の最長波長と色
バルマー系列ではすべての遷移が第2準位で終わる。エネルギー差が最小となる隣の第3準位からの遷移が最も長い波長の光を放つ。光子の関係 Eγ=hc/λ によって、エネルギー差が小さいほど波長が長いことも確かめられる。約 656 nm は可視光の赤色域に入る。
設問(2)の未丸め値を保持すれば 656.25 nm であり、4桁に丸めた定数から得た値と約 0.085 nm しか違わない。ここでは「問(2)で求めた定数」を用いた 656.3 nm を答える。入力の丸めを超える桁を物理的な精度と考えない。
n2→∞ とすると
λ=4/RH≃364.6 nm
となる。これは紫外側の系列限界であり、この値から「見えない」と書くと、求められた最長波長の線の色を取り違える。遷移先だけでなく、遷移元 n2=3 まで指定してから計算する。
設問(4) 軌道半径で表した全エネルギー
固定した陽子のまわりを非相対論的な電子が円運動するボーア模型では、内向きの力の大きさが
mv2/r=e2/(4πε0r2)
を満たす。一方、異符号の電荷の位置エネルギーは、無限遠で零とすると
V(r)=−∫∞r4πε0r′2−e2dr′=−4πε0re2.
力の式は大きさの等式であるが、位置エネルギーは引力に対応する負の値を持つ。
円軌道では 2T=−V なので、E=T+V=V/2=−T<0 となる。得た式はこれを満たし、r→∞ で E→0− となる。電子を無限遠まで離すのに正のエネルギーが必要な束縛状態として整合する。
力の釣り合いから mv2=e2/(4πε0r) を得た後、運動エネルギーを誤って T=mv2 と置くと、E=0 になる。この結果ではすべての軌道の結合エネルギーが消えてしまう。運動エネルギーの係数 1/2 と、位置エネルギーの負号を別々に保持する。
設問(5) 量子数で表したエネルギー準位
古典的な円運動だけでは半径は連続的に変えられる。ボーアの条件
mvr=nℏ=nh/(2π)
を追加すると、角運動量が限られた値しか取れなくなる。実際、
v=2πmrnh,4π2mr3n2h2=4πε0r2e2
を整理すれば上記の rn が得られる。この模型は固定核の水素原子を扱い、核の運動、相対論的補正、微細構造は含まない。
n が大きいほど軌道が広がり、En は負のまま零へ近づく。例えば E2=E1/4 であり、E2−E1=−3E1/4>0 となる。高い準位へ移るのにエネルギーを吸収する符号として正しい。
半径の n2 を逆数にする際に落とすと、誤った式 En∝−n2 を得る。この式では n が大きいほど束縛が強くなり、rn→∞ でエネルギーが負に発散する。位置エネルギーが無限遠で零となる前提と両立しない。
設問(6) ライマン線から決めるプランク定数
準位の係数自体に h−2 が含まれるため、未知の h は光子側だけに現れるのではない。両辺に h2 を掛けると h3 が決まり、最後に正の立方根を取る。h>0 は光子エネルギーが正となる物理的条件である。
次元も立方根を確認できる。ε0 の単位を
C2s2kg−1m−3 とすると、
[ε02cme4λ]=kg3m6s−3=(Js)3.
求めた h を両辺へ戻すと、hc/λ と E2−E1 はいずれも約
1.632×10−18 J となる。用いた定数と波長が有限桁なので、現行の定義値と完全に一致する必要はない。
h3 を得た段階で平方根を取ると、数値は約 1.708×10−50 となり、単位も (Js)3/2 のまま残る。また E1−E2 を放出エネルギーとすると h3<0 になる。放出光は高い原子準位から低い準位への正のエネルギー差である。
解答
設問(1) 遷移先が第3準位となる系列
遷移先の主量子数が n1=3 で、n2=4,5,… からの発光を集めた系列はパッシェン系列である。
設問(2) 最長波長から求めるリュードベリ定数
n1=3 を固定すると、最小の正の波数は n2=4 で得られる。したがって最長波長 1875 nm に対し
1875×10−9 m1=RH(91−161)=RH1447.
これを解くと
RH=7(1875×10−9 m)144=1.097142857…×107 m−1.
設問(3) バルマー系列の最長波長と色
バルマー系列は n1=2 であり、最長波長は n2=3 からの遷移である。設問(2)で求めた4桁の定数を使うと
λ=(1.097×107)(1/4−1/9)1=5(1.097×107)36=6.563354…×10−7 m.
設問(4) 軌道半径で表した全エネルギー
クーロン力による円運動の式を r/2 倍すると
21mv2=8πε0re2.
これを、無限遠を位置エネルギーの零点とした全エネルギーへ代入する。
E=8πε0re2−4πε0re2=−8πε0re2.
設問(5) 量子数で表したエネルギー準位
量子化された半径
rn=πme2h2ε0n2
を設問(4)の結果へ代入すると
En=−8πε0e2h2ε0n2πme2=−8ε02h2n2me4,n=1,2,….
設問(6) ライマン線から決めるプランク定数
n=2→1 の放出エネルギーは
E2−E1=8ε02h2me4(1−41)=32ε02h23me4.
光子のエネルギー hc/λ と等しいので、
λhc=32ε02h23me4,h3=32ε02c3me4λ.
指定値を代入して
h=[32(8.854×10−12)2(2.998×108)3(9.109×10−31)(1.602×10−19)4(121.8×10−9)]1/3=6.630448…×10−34 Js.
最終答
パッシェン系列。
RH=1.097×107 m−1。
λ=656.3 nm、赤色。
E(r)=−e2/(8πε0r)。
En=−me4/(8ε02h2n2)。
h=6.630×10−34 Js。