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北大 総合化学院 総合化学専攻(修士課程) 総合基礎科目(A・B群共通) 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。原題の条件だけでは答えが一つに決まらないため、確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 原子スペクトル:系列・ボーア模型・定数の決定

設問(1) 遷移先が第3準位となる系列

水素の発光では、高い準位 n2n_2 の原子が低い準位 n1n_1 へ移り、差のエネルギーを光子として放出する。リュードベリの式は ν~=1λ=RH(1n12−1n22),n2>n1≥1 \widetilde{\nu}=\frac1\lambda =R_{\mathrm H}\left(\frac1{n_1^2}-\frac1{n_2^2}\right), \qquad n_2>n_1\geq1 である。同じ n1n_1 を共有する線の集合を一つの系列と呼ぶので、表の n1=3n_1=3 が名称を決める。n2n_2 は系列内の個々の線を指定する数であり、系列名を定める数ではない。

n2=4n_2=4 なら括弧内は 1/9−1/16=7/144>01/9-1/16=7/144>0、n2→∞n_2\to\infty なら 1/91/9 へ近づく。どの線も正の波数を持ち、波長の領域が近赤外となることとも整合する。例えば n2=4n_2=4 という数だけを見てブラケット系列と答えると、その系列の遷移先 n1=4n_1=4 と食い違う。4→34\to3 はパッシェン系列の最初の線である。

設問(2) 最長波長から求めるリュードベリ定数

波長と波数は逆数なので、最長波長を探すには波数を最小にする。n2n_2 が大きくなるにつれて 1/n221/n_2^2 は減少し、1/9−1/n221/9-1/n_2^2 は増加する。許される最小の n2=4n_2=4 を選ぶ理由は、この単調性にある。

計算式では括弧内が無次元であるため、RHR_{\mathrm H} の次元は 1/λ1/\lambda と同じ長さの逆数となる。求めた未丸め値を戻すと RH7144=5.333333…×105 m−1,λ=1.875×10−6 m R_{\mathrm H}\frac7{144}=5.333333\ldots\times10^5\ \mathrm{m^{-1}}, \qquad \lambda=1.875\times10^{-6}\ \mathrm m となり、入力した波長に戻る。

系列極限 n2→∞n_2\to\infty を最長波長と取り違えると、 RH=9/(1875×10−9)=4.800×106 m−1R_{\mathrm H}=9/(1875\times10^{-9})=4.800\times10^6\ \mathrm{m^{-1}} を得る。この極限は波数が最大であるため、実際には系列の最短波長を表す。最長・最短を決める際は、1/λ1/\lambda に対する増減を確かめる。

設問(3) バルマー系列の最長波長と色

バルマー系列ではすべての遷移が第2準位で終わる。エネルギー差が最小となる隣の第3準位からの遷移が最も長い波長の光を放つ。光子の関係 Eγ=hc/λE_\gamma=hc/\lambda によって、エネルギー差が小さいほど波長が長いことも確かめられる。約 656 nm656\ \mathrm{nm} は可視光の赤色域に入る。

設問(2)の未丸め値を保持すれば 656.25 nm656.25\ \mathrm{nm} であり、4桁に丸めた定数から得た値と約 0.085 nm0.085\ \mathrm{nm} しか違わない。ここでは「問(2)で求めた定数」を用いた 656.3 nm656.3\ \mathrm{nm} を答える。入力の丸めを超える桁を物理的な精度と考えない。

n2→∞n_2\to\infty とすると λ=4/RH≃364.6 nm\lambda=4/R_{\mathrm H}\simeq364.6\ \mathrm{nm} となる。これは紫外側の系列限界であり、この値から「見えない」と書くと、求められた最長波長の線の色を取り違える。遷移先だけでなく、遷移元 n2=3n_2=3 まで指定してから計算する。

設問(4) 軌道半径で表した全エネルギー

固定した陽子のまわりを非相対論的な電子が円運動するボーア模型では、内向きの力の大きさが mv2/r=e2/(4πε0r2)mv^2/r=e^2/(4\pi\varepsilon_0r^2) を満たす。一方、異符号の電荷の位置エネルギーは、無限遠で零とすると V(r)=−∫∞r−e24πε0r′2 dr′=−e24πε0r. V(r)=-\int_\infty^r\frac{-e^2}{4\pi\varepsilon_0r'^2}\,dr' =-\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0r}. 力の式は大きさの等式であるが、位置エネルギーは引力に対応する負の値を持つ。

円軌道では 2T=−V2T=-V なので、E=T+V=V/2=−T<0E=T+V=V/2=-T<0 となる。得た式はこれを満たし、r→∞r\to\infty で E→0−E\to0^- となる。電子を無限遠まで離すのに正のエネルギーが必要な束縛状態として整合する。

力の釣り合いから mv2=e2/(4πε0r)mv^2=e^2/(4\pi\varepsilon_0r) を得た後、運動エネルギーを誤って T=mv2T=mv^2 と置くと、E=0E=0 になる。この結果ではすべての軌道の結合エネルギーが消えてしまう。運動エネルギーの係数 1/21/2 と、位置エネルギーの負号を別々に保持する。

設問(5) 量子数で表したエネルギー準位

古典的な円運動だけでは半径は連続的に変えられる。ボーアの条件 mvr=nℏ=nh/(2π)mvr=n\hbar=nh/(2\pi) を追加すると、角運動量が限られた値しか取れなくなる。実際、 v=nh2πmr,n2h24π2mr3=e24πε0r2 v=\frac{nh}{2\pi mr},\qquad \frac{n^2h^2}{4\pi^2mr^3} =\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0r^2} を整理すれば上記の rnr_n が得られる。この模型は固定核の水素原子を扱い、核の運動、相対論的補正、微細構造は含まない。

nn が大きいほど軌道が広がり、EnE_n は負のまま零へ近づく。例えば E2=E1/4E_2=E_1/4 であり、E2−E1=−3E1/4>0E_2-E_1=-3E_1/4>0 となる。高い準位へ移るのにエネルギーを吸収する符号として正しい。

半径の n2n^2 を逆数にする際に落とすと、誤った式 En∝−n2E_n\propto-n^2 を得る。この式では nn が大きいほど束縛が強くなり、rn→∞r_n\to\infty でエネルギーが負に発散する。位置エネルギーが無限遠で零となる前提と両立しない。

設問(6) ライマン線から決めるプランク定数

準位の係数自体に h−2h^{-2} が含まれるため、未知の hh は光子側だけに現れるのではない。両辺に h2h^2 を掛けると h3h^3 が決まり、最後に正の立方根を取る。h>0h>0 は光子エネルギーが正となる物理的条件である。

次元も立方根を確認できる。ε0\varepsilon_0 の単位を C2 s2 kg−1 m−3\mathrm{C^2\,s^2\,kg^{-1}\,m^{-3}} とすると、 [me4λε02c]=kg3 m6 s−3=(J s)3. \left[\frac{me^4\lambda}{\varepsilon_0^2c}\right] =\mathrm{kg^3\,m^6\,s^{-3}} =(\mathrm{J\,s})^3. 求めた hh を両辺へ戻すと、hc/λhc/\lambda と E2−E1E_2-E_1 はいずれも約 1.632×10−18 J1.632\times10^{-18}\ \mathrm J となる。用いた定数と波長が有限桁なので、現行の定義値と完全に一致する必要はない。

h3h^3 を得た段階で平方根を取ると、数値は約 1.708×10−501.708\times10^{-50} となり、単位も (J s)3/2(\mathrm{J\,s})^{3/2} のまま残る。また E1−E2E_1-E_2 を放出エネルギーとすると h3<0h^3<0 になる。放出光は高い原子準位から低い準位への正のエネルギー差である。

解答

設問(1) 遷移先が第3準位となる系列

遷移先の主量子数が n1=3n_1=3 で、n2=4,5,…n_2=4,5,\ldots からの発光を集めた系列はパッシェン系列である。

設問(2) 最長波長から求めるリュードベリ定数

n1=3n_1=3 を固定すると、最小の正の波数は n2=4n_2=4 で得られる。したがって最長波長 1875 nm1875\ \mathrm{nm} に対し 11875×10−9 m=RH(19−116)=RH7144. \frac1{1875\times10^{-9}\ \mathrm m} =R_{\mathrm H}\left(\frac19-\frac1{16}\right) =R_{\mathrm H}\frac7{144}. これを解くと RH=1447(1875×10−9 m)=1.097142857…×107 m−1. R_{\mathrm H} =\frac{144}{7(1875\times10^{-9}\ \mathrm m)} =1.097142857\ldots\times10^7\ \mathrm{m^{-1}}.

設問(3) バルマー系列の最長波長と色

バルマー系列は n1=2n_1=2 であり、最長波長は n2=3n_2=3 からの遷移である。設問(2)で求めた4桁の定数を使うと λ=1(1.097×107)(1/4−1/9)=365(1.097×107)=6.563354…×10−7 m. \lambda=\frac1{(1.097\times10^7)(1/4-1/9)} =\frac{36}{5(1.097\times10^7)} =6.563354\ldots\times10^{-7}\ \mathrm m.

設問(4) 軌道半径で表した全エネルギー

クーロン力による円運動の式を r/2r/2 倍すると 12mv2=e28πε0r. \frac12mv^2=\frac{e^2}{8\pi\varepsilon_0r}. これを、無限遠を位置エネルギーの零点とした全エネルギーへ代入する。 E=e28πε0r−e24πε0r=−e28πε0r. E=\frac{e^2}{8\pi\varepsilon_0r} -\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0r} =-\frac{e^2}{8\pi\varepsilon_0r}.

設問(5) 量子数で表したエネルギー準位

量子化された半径 rn=h2ε0πme2n2 r_n=\frac{h^2\varepsilon_0}{\pi me^2}n^2 を設問(4)の結果へ代入すると En=−e28πε0πme2h2ε0n2=−me48ε02h2n2,n=1,2,…. E_n=-\frac{e^2}{8\pi\varepsilon_0} \frac{\pi me^2}{h^2\varepsilon_0n^2} =-\frac{me^4}{8\varepsilon_0^2h^2n^2}, \qquad n=1,2,\ldots.

設問(6) ライマン線から決めるプランク定数

n=2→1n=2\to1 の放出エネルギーは E2−E1=me48ε02h2(1−14)=3me432ε02h2. E_2-E_1 =\frac{me^4}{8\varepsilon_0^2h^2}\left(1-\frac14\right) =\frac{3me^4}{32\varepsilon_0^2h^2}. 光子のエネルギー hc/λhc/\lambda と等しいので、 hcλ=3me432ε02h2,h3=3me4λ32ε02c. \frac{hc}{\lambda}=\frac{3me^4}{32\varepsilon_0^2h^2}, \qquad h^3=\frac{3me^4\lambda}{32\varepsilon_0^2c}. 指定値を代入して h=[3(9.109×10−31)(1.602×10−19)4(121.8×10−9)32(8.854×10−12)2(2.998×108)]1/3=6.630448…×10−34 J s. h=\left[ \frac{3(9.109\times10^{-31})(1.602\times10^{-19})^4 (121.8\times10^{-9})} {32(8.854\times10^{-12})^2(2.998\times10^8)} \right]^{1/3} =6.630448\ldots\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}.

最終答

パッシェン系列。

RH=1.097×107 m−1R_{\mathrm H}=1.097\times10^7\ \mathrm{m^{-1}}。

λ=656.3 nm\lambda=656.3\ \mathrm{nm}、赤色。

E(r)=−e2/(8πε0r)E(r)=-e^2/(8\pi\varepsilon_0r)。

En=−me4/(8ε02h2n2)E_n=-me^4/(8\varepsilon_0^2h^2n^2)。

h=6.630×10−34 J sh=6.630\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s}。

第2問 — 分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度

分子の形を電子対の配置から決め、氷の結晶では分子間のつながりへ視点を広げる。設問(1)の二つの要求は、各分子のルイス構造と立体形を続けて示す。

分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 溶液平衡:活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基

一部の確定答案なし

水の自己解離・加水分解を含む厳密な全鉄溶解度のみ。簡略モデルの2値は条件付きで収録。 原題の条件だけでは一意に定まらない部分を明示し、それ以外の答案を収録しています。

平衡式は活量で書き、濃度へ移すときに活量係数を残す。数値計算では近似を置いた後に、その近似が得た濃度と両立するかを確かめる。水のイオン積を使う補足計算では、温度 25 ∘C25\,{}^\circ\mathrm C、Kw=1.00×10−14K_{\rm w}=1.00\times10^{-14} を明記する。標準状態という語だけで温度が 25 ∘C25\,{}^\circ\mathrm C に定まるわけではない。

PDFの収録範囲と資料制約を確認する

第4問 — 有機立体化学:環のひずみ・配座反転・アキシアル相互作用

角度、二面角、非結合原子間距離を分けて、環の配座のエネルギーを説明する。環反転では炭素に結合した置換基の上下は変わらず、アキシアルとエクアトリアルが入れ替わる。

有機立体化学:環のひずみ・配座反転・アキシアル相互作用の途中式・最終答をPDFで見る

総合基礎科目(A・B群共通)の解答・解説PDF

2021〜2026年度(6年度) · ¥3,200

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(このページ・解説4項目)

    原子スペクトル:系列・ボーア模型・定数の決定 / 分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度 / 溶液平衡:活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基

  • 2025年度(解説4項目)

    量子化学:無限井戸の境界条件と共役ポリエン / 無機化学:電子配置・分子軌道・七つの晶系 / 分析化学:混合溶液・二段解離・選択沈殿

  • 2024年度(解説4項目)

    原子と原子核:質量欠損・円軌道・物質波 / 無機化学:電子対・分子の形と極性・結晶の空孔 / 酸塩基:電子対供与・共役対・両性イオン

  • 2023年度(解説4項目)

    物理化学:結合エネルギー・反応の条件・束一的性質 / 無機化学:分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー / 分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支

  • 2022年度(解説4項目)

    物理化学:固相の平衡とクラペイロン式 / 無機化学:分子イオン・配位数・結合の分類 / 分析化学:弱酸の平衡と緩衝液の精度

  • 2021年度(解説4項目)

    物理化学:光子・物質波・運動量の重ね合わせ / 無機化学:平均酸化数・分子の形・ケイ素結晶 / 熱力学:ブレイトンサイクルの仕事と熱効率

2026年度の出題内容

解説4項目
大問主題解説の小見出し最終答
第1問系列・ボーア模型・定数の決定—あり
第2問ルイス構造・電子対反発・氷の密度—あり
第3問活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基—一部の確定答案なし
第4問環のひずみ・配座反転・アキシアル相互作用—あり

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 4問 → 2026年度 4問
2025年度の解答例

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2021〜2026年度入学・夏季6回(2020〜2025年実施)
公式の解答例
解答例の掲載なし
院試hubの最終確認
2026-10-22
北海道大学の公式過去問PDF