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北大 総合化学院 総合化学専攻(修士課程) 総合基礎科目(A・B群共通) 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は化学2項目、量子力学1項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 量子化学:無限井戸の境界条件と共役ポリエン

設問(1) ア・イ 無限障壁と波数の量子化

無限井戸は 0<x<a0<x<a で自由粒子、外で到達できない障壁を持つ理想化である。有限障壁の極限で、外部の波動関数が急減衰し、境界で連続につながることから壁の値が0となる。原題の説明にある U(0)=0U(0)=0 という値だけでは φ(0)=0\varphi(0)=0 は導けない。必要なのは隣接する無限障壁まで含めた境界条件である。

一般解は微分方程式 φ′′+k2φ=0\varphi''+k^2\varphi=0 の二つの独立解からなる。左の壁で余弦成分が消え、右の壁で正弦波が零になる条件から、井戸幅に半波長が整数個収まる。k=2π/λk=2\pi/\lambda と比べると λn=2a/n\lambda_n=2a/n であり、両端を節とする定在波に一致する。n=0n=0 は φ(x)=0\varphi(x)=0 となって規格化できず、物理的な状態には含めない。

壁の条件を周期境界条件 φ(0)=φ(a)\varphi(0)=\varphi(a) に取り違えると k=2πn/ak=2\pi n/a を選び、最低準位のエネルギーを正しい値の4倍にする。無限壁は環状の空間ではなく、両端で別々に波動関数が零となる区間である。

設問(1) ウ・エ・オ・カ 確率の規格化

波動関数の絶対値の二乗 ∣φ(x)∣2|\varphi(x)|^2 は、一次元では単位長さあたりの確率密度である。従って区間 [x,x+dx][x,x+dx] に見いだす確率は ∣φ(x)∣2dx|\varphi(x)|^2dx であり、粒子が存在できる全領域での積分を1にする。一般に波動関数は複素数なので二乗ではなく絶対値の二乗を用いるが、今回は実数の定在波を選べる。

sin⁡2u=(1−cos⁡2u)/2\sin^2u=(1-\cos2u)/2 を積分すると、余弦の項の積分は端点で sin⁡2nπ=0\sin2n\pi=0 となって消える。だから nn によらず積分は a/2a/2 となる。得た波動関数の次元は length−1/2\mathrm{length}^{-1/2} であり、∣φ∣2dx|\varphi|^2dx が無次元であることも確認できる。全体に −1-1 や eiαe^{i\alpha} を掛けても観測確率は同じなので、A>0A>0 は位相の選び方である。

A=1/aA=1/\sqrt a とすると ∫0a∣φ∣2dx=1/2\int_0^a|\varphi|^2dx=1/2 となり、全存在確率の半分を失う。この値は一様な確率密度を持つ平面波の規格化係数との混同である。井戸内の定在波は節と腹を持つため、正弦二乗の平均値 1/21/2 を補う係数 2\sqrt2 が要る。

設問(1) キ エネルギー固有値

運動量演算子は p^=−iℏ d/dx\widehat p=-i\hbar\,d/dx、自由粒子の運動エネルギー演算子は p^2/(2me)\widehat p^2/(2m_e) である。定常状態でこの演算子を波動関数へ作用させると、定数 EnE_n を掛けた同じ関数が返る。この係数がエネルギー固有値である。正弦波の波数 nπ/an\pi/a が境界条件で限定された結果、エネルギーも離散的になる。

n=1n=1 でも E1=h2/(8mea2)>0E_1=h^2/(8m_ea^2)>0 である。電子を有限の領域へ閉じ込めると完全な静止状態は作れないため、最低運動エネルギーが残る。幅を2倍にすれば EnE_n は 1/41/4 になり、幅を無限大へ広げれば0に近づく。h2/(ma2)h^2/(ma^2) の次元も kg m2 s−2=J\mathrm{kg\,m^2\,s^{-2}}=\mathrm J である。

nn を0から始めて E0=0E_0=0 を基底状態とすると、そのときの固有関数は全区間で零となり、前項の規格化条件に反する。また二階微分の負号を落とすと En<0E_n<0 となるが、井戸内の位置エネルギーを0とした自由な運動エネルギーは負にはならない。

設問(2)1 最高被占準位と最低空準位

パウリの排他原理により、同じ一電子状態には一つの電子しか入れない。一つの空間軌道にはスピンの異なる二状態があるため、非相互作用電子の模型では2個ずつ低い準位から占める。本問の模型は電子間反発や鎖の結合交替を含めず、π\pi 電子の広がりを箱の長さへ近似するものである。

励起エネルギーは空準位のエネルギーそのものではなく、移す前後の差である。ほかの電子の占有は変わらないため、全電子エネルギーを差し引いても Ej+1−EjE_{j+1}-E_j だけが残る。j≫1j\gg1 では ΔE≃h24meb2j \Delta E\simeq\frac{h^2}{4m_eb^2j} となり、共役が長くなるほど励起に要するエネルギーが下がる。一方、ELUMOE_{\rm LUMO} は同じ極限で h2/(8meb2)h^2/(8m_eb^2) に近づくので、二つの量は異なる極限を持つ。

一軌道に電子を1個だけ入れると、最高占有準位を誤って n=2jn=2j と数え、 ΔE=h2(4j+1)/(8mej2b2)\Delta E=h^2(4j+1)/(8m_ej^2b^2) を得る。大きな jj では約2倍の励起差になる。空間軌道数を数える前に、スピンを含む1軌道2電子という占有条件を使う。

設問(2)2 長いポリエンの励起エネルギー

分子全体の長さは a=jb=3.2×10−7 ma=jb=3.2\times10^{-7}\ \mathrm m であり、繰り返し単位の長さ bb と区別する。別計算として E1001≃5.90183×10−19 J,E1000≃5.89005×10−19 J E_{1001}\simeq5.90183\times10^{-19}\ \mathrm J,\qquad E_{1000}\simeq5.89005\times10^{-19}\ \mathrm J を引いても同じ差となる。ただし近い二数を丸めてから引くと桁落ちするため、数値計算には 2j+12j+1 と整理した式が適している。

1 eV=1.602×10−19 J1\ \mathrm{eV}=1.602\times10^{-19}\ \mathrm J で換算すると約 7.36×10−3 eV7.36\times10^{-3}\ \mathrm{eV} である。この小ささは長い箱を用いた非相互作用模型の帰結であり、実際の高分子の光学ギャップを精密に予測した値とは区別する。

aa の代わりに bb を箱の長さとして使うと、分母の j2j^2 が消え、ΔE=1.1786×10−15 J\Delta E=1.1786\times10^{-15}\ \mathrm J と100万倍大きくなる。電子が共役鎖全体へ広がるという模型条件を失った誤りである。単位換算で 0.32 nm0.32\ \mathrm{nm} を 0.32×10−6 m0.32\times10^{-6}\ \mathrm m とすると、逆に100万分の1へずれる。

解答

設問(1) ア・イ 無限障壁と波数の量子化

井戸の外でポテンシャルが無限大なので、有限のエネルギーを持つ状態は外部で波動関数が0となる。壁の境界条件は φ(0)=φ(a)=0. \varphi(0)=\varphi(a)=0. φ(x)=Asin⁡kx+Bcos⁡kx\varphi(x)=A\sin kx+B\cos kx に x=0x=0 を入れると B=0B=0。非零の状態には A≠0A\ne0 が必要なので、 Asin⁡ka=0⟹ka=nπ,k=nπa,n=1,2,…. A\sin ka=0\quad\Longrightarrow\quad ka=n\pi,\quad k=\frac{n\pi}{a},\qquad n=1,2,\ldots.

設問(1) ウ・エ・オ・カ 確率の規格化

波数を代入して、まず φn(x)=Asin⁡nπxa \varphi_n(x)=A\sin\frac{n\pi x}{a} を得る。存在確率の全積分は1なので、 1=∫0a∣φn(x)∣2 dx=∣A∣2∫0a1−cos⁡(2nπx/a)2 dx=∣A∣2a2. 1=\int_0^a|\varphi_n(x)|^2\,dx =|A|^2\int_0^a\frac{1-\cos(2n\pi x/a)}2\,dx =|A|^2\frac a2. 任意の全体位相を実数正に選べば A=2/aA=\sqrt{2/a} であり、 φn(x)=2asin⁡nπxa. \varphi_n(x)=\sqrt{\frac2a}\sin\frac{n\pi x}{a}.

設問(1) キ エネルギー固有値

井戸内は U=0U=0 なので、 −h28π2med2φndx2=Enφn. -\frac{h^2}{8\pi^2m_e}\frac{d^2\varphi_n}{dx^2}=E_n\varphi_n. 二階微分は d2φn/dx2=−(nπ/a)2φnd^2\varphi_n/dx^2=-(n\pi/a)^2\varphi_n であり、 En=h28π2me(nπa)2=n2h28mea2. E_n=\frac{h^2}{8\pi^2m_e}\left(\frac{n\pi}{a}\right)^2 =\frac{n^2h^2}{8m_ea^2}.

設問(2)1 最高被占準位と最低空準位

各空間軌道に逆向きスピンの電子が2個入るため、2j2j 電子の基底状態では n=1,…,jn=1,\ldots,j が占有される。最低非占有準位は n=j+1n=j+1。a=jba=jb として ELUMO=(j+1)2h28mej2b2. E_{\rm LUMO}=\frac{(j+1)^2h^2}{8m_ej^2b^2}. 最低励起は n=jn=j から n=j+1n=j+1 へ電子一つを移すので、 ΔE=Ej+1−Ej=h2{(j+1)2−j2}8mej2b2=h2(2j+1)8mej2b2. \Delta E=E_{j+1}-E_j =\frac{h^2\{(j+1)^2-j^2\}}{8m_ej^2b^2} =\frac{h^2(2j+1)}{8m_ej^2b^2}.

設問(2)2 長いポリエンの励起エネルギー

j=1000j=1000、b=0.32×10−9 mb=0.32\times10^{-9}\ \mathrm m、me=9.11×10−31 kgm_e=9.11\times10^{-31}\ \mathrm{kg}、h=6.63×10−34 J sh=6.63\times10^{-34}\ \mathrm{J\,s} を用いる。 ΔE=(6.63×10−34)2(2001)8(9.11×10−31)(1000)2(0.32×10−9)2=1.178598…×10−21 J. \Delta E =\frac{(6.63\times10^{-34})^2(2001)} {8(9.11\times10^{-31})(1000)^2(0.32\times10^{-9})^2} =1.178598\ldots\times10^{-21}\ \mathrm J.

最終答

ア:00、イ:nπ/an\pi/a。

ウ:Asin⁡(nπx/a)A\sin(n\pi x/a)、エ:11、オ:2/a\sqrt{2/a}、カ:2/asin⁡(nπx/a)\sqrt{2/a}\sin(n\pi x/a)。

キ:En=n2h2/(8mea2)E_n=n^2h^2/(8m_ea^2)。

ELUMO=h2(j+1)2/(8mej2b2)E_{\rm LUMO}=h^2(j+1)^2/(8m_ej^2b^2)、ΔE=h2(2j+1)/(8mej2b2)\Delta E=h^2(2j+1)/(8m_ej^2b^2)。

ΔE=1.2×10−21 J\Delta E=1.2\times10^{-21}\ \mathrm J(有効数字2桁)。

第2問 — 無機化学:電子配置・分子軌道・七つの晶系

原子・イオンの電子数を数え、二原子分子では結合性と反結合性の占有差を求める。結晶では単位胞の辺長と角度を分けて分類する。

無機化学:電子配置・分子軌道・七つの晶系の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 分析化学:混合溶液・二段解離・選択沈殿

混合ではイオンの物質量を保存し、解離では物質収支と電気的中性を組み合わせる。選択沈殿は、沈殿開始の条件と、残存濃度が十分小さい条件を分けて求める。

分析化学:混合溶液・二段解離・選択沈殿の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 有機化学:付加の立体選択性と光学不活性

光学不活性という観察は、分子がアキラルな場合と、鏡像異性体が等量混合している場合の両方で起こる。付加の同じ面・反対の面という関係を決めてから、生成物の対称性を調べる。

有機化学:付加の立体選択性と光学不活性の途中式・最終答をPDFで見る

総合基礎科目(A・B群共通)の解答・解説PDF

2021〜2026年度(6年度) · ¥3,200

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(解説4項目)

    原子スペクトル:系列・ボーア模型・定数の決定 / 分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度 / 溶液平衡:活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基

  • 2025年度(このページ・解説4項目)

    量子化学:無限井戸の境界条件と共役ポリエン / 無機化学:電子配置・分子軌道・七つの晶系 / 分析化学:混合溶液・二段解離・選択沈殿

  • 2024年度(解説4項目)

    原子と原子核:質量欠損・円軌道・物質波 / 無機化学:電子対・分子の形と極性・結晶の空孔 / 酸塩基:電子対供与・共役対・両性イオン

  • 2023年度(解説4項目)

    物理化学:結合エネルギー・反応の条件・束一的性質 / 無機化学:分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー / 分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支

  • 2022年度(解説4項目)

    物理化学:固相の平衡とクラペイロン式 / 無機化学:分子イオン・配位数・結合の分類 / 分析化学:弱酸の平衡と緩衝液の精度

  • 2021年度(解説4項目)

    物理化学:光子・物質波・運動量の重ね合わせ / 無機化学:平均酸化数・分子の形・ケイ素結晶 / 熱力学:ブレイトンサイクルの仕事と熱効率

2025年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は化学2問・量子力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問量子力学無限井戸の境界条件と共役ポリエン—あり
第2問化学電子配置・分子軌道・七つの晶系—あり
第3問混合溶液・二段解離・選択沈殿—あり
第4問化学付加の立体選択性と光学不活性—あり

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 4問 → 2025年度 4問
2024年度の解答例

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2021〜2026年度入学・夏季6回(2020〜2025年実施)
公式の解答例
解答例の掲載なし
院試hubの最終確認
2026-10-22
北海道大学の公式過去問PDF