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北大 総合化学院 総合化学専攻(修士課程) 総合基礎科目(A・B群共通) 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は化学3項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。原題の条件だけでは答えが一つに決まらないため、確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 物理化学:結合エネルギー・反応の条件・束一的性質

一部の確定答案なし

組成を指定しない一般の実平衡温度のみ。標準境界Q=1のT=ΔH°/ΔS°は条件付きで保持。 原題の条件だけでは一意に定まらない部分を明示し、それ以外の答案を収録しています。

標準反応量は組成に依存しない基準量であり、実際の反応方向には反応商も必要になる。浸透圧と凝固点降下では溶質の粒子数を数え、モル濃度と質量モル濃度を区別する。

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第2問 — 無機化学:分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー

(1) ア O2の全原子軌道と分子軌道

同じ対称性の原子軌道を線形結合すると、核間の電子密度を増す結合性と、節を持つ反結合性の組合せが生まれる。各 O には 1s,2s,2px,2py,2pz1s,2s,2p_x,2p_y,2p_z の五つの空間軌道があるため、二原子からできる分子軌道は十個である。内殻を省く価電子図では、本問の「すべて」という指定を満たさない。

O2 では2p由来の順を σ2pz<π2p<π2p∗<σ2pz∗\sigma_{2p_z}<\pi_{2p}<\pi_{2p}^*<\sigma_{2p_z}^* とする。N2で強いs--p混成により使うことのある π2p<σ2pz\pi_{2p}<\sigma_{2p_z} の順とは区別する。縮退した二本の π∗\pi^* へは、フントの規則によりまず一個ずつ平行スピンで入る。 配置の総数は 4+4+2+4+2=164+4+2+4+2=16。最後の二電子を一方の π∗\pi^* に ↑↓\uparrow\downarrow と詰めると、電子数は合っても不対電子0の反磁性という誤った予測になる。軌道数、電子数、縮退軌道の占有の三つを別々に照合する。

(1) イ 酸素分子イオンの結合次数

結合性の二電子を一本の結合の寄与として数え、反結合性電子の寄与を差し引くと上式になる。内殻の σ1s\sigma_{1s} と σ1s∗\sigma_{1s}^* は各2個なので相殺し、価電子だけでも同じ値が出る。同種の原子核を持つこの三者を同じ分子軌道模型で比べると、結合次数の大きい方が強く結合し、解離に必要なエネルギーも大きいと予測する。

陽イオン化は常に結合を弱める、とは限らない。本問では除く電子が反結合性にあるので、むしろ結合が強くなる。O2+^+ の価電子を11個とし「電子が一個減るから結合次数も 1/21/2 下がる」として1.5とすると、結合性から除いた場合と取り違えている。差 (10−5)/2=2.5(10-5)/2=2.5 を実際に数えれば符号を確かめられる。結合次数は模型上の尺度であり、異なる元素の分子にまたがって解離エネルギーをこの値だけで順位付けするものではない。

(1) ウ(a) B2の縮退軌道と磁性

B2の低い2p由来準位は二重縮退した π2p\pi_{2p} である。結合軸方向のs軌道とp軌道の混成が σ2p\sigma_{2p} を押し上げるため、この軽い同核分子で O2 と同じ準位順をそのまま用いない。Pauliの原理は一つの軌道に逆スピン二電子までを許すが、フントの規則は縮退軌道の基底状態で別々の軌道を平行スピンで先に占有すると定める。

二つの π\pi 電子はともに結合性なので合計で結合次数1へ寄与する。スピンが対にならないため磁場に応答する常磁性となる。内殻を足しても結合性・反結合性に同数が加わり次数は変わらない。 二電子を一つの π\pi に入れた図は b=1b=1 までは一致しても、不対電子を0と数えて反磁性と誤る。「偶数電子なら反磁性」とする判定も同じ誤りであり、電子数の偶奇でなく縮退準位の実際の占有を見る。

(1) ウ(b) N2の閉じた価電子配置

N の価電子は 2s22p32s^22p^3 の五つであり、N2 で十個になる。低い軌道から一軌道二電子まで入れると、二本の π\pi と一本の σ2p\sigma_{2p} が埋まり、次の π∗\pi^* は空となる。B2の不対電子があった二本も、この電子数では各々逆スピンの対を持つ。

スピン対の磁気モーメントは打ち消され、基底状態の孤立分子として不対電子による常磁性を持たない。結合性2pの六電子は三本の結合へ対応し、内殻および2sの結合性・反結合性が相殺することからも三重結合を確かめられる。 十個をすべて結合性と数えて 10/2=510/2=5 とすると、占有された σ2s∗\sigma_{2s}^* 二電子を無視している。また N 原子一個の三つの不対電子を、結合後もそのまま六つ残す扱いは、原子軌道の占有を分子軌道へ組み替える過程を落としている。

(1) ウ(c) COの等電子性

異核二原子分子でも、二核間の電子密度を増す結合性と節を持つ反結合性の区別、そして電子占有差の数え方は使える。ただし原子軌道のエネルギーは C と O で異なるため、分子軌道は両側の等しい重みの和にはならない。等電子という表現は占有数を比較するもので、電子密度の対称性まで N2 と同一という意味ではない。

価電子の結合性8個と反結合性2個から (8−2)/2=3(8-2)/2=3 が得られ、全占有軌道が二電子で閉じているので反磁性となる。Lewis式を使う別の確認でも、三本の結合と各原子の孤立電子対によりオクテットを満たす。形式電荷は C が −1-1、O が +1+1 で総和0である。 COを C4+^{4+} と O2−^{2-} のような独立イオンへ単純に分けると電荷の総和も合わず、結合次数や磁性の根拠にならない。また価電子数を 4+8=124+8=12 と数えると、酸素の原子番号と価電子数を混同し、O2型の常磁性へ誤って導く。

(2) エ 六配位空孔の最小半径比

NaCl型の陽イオンは、同じ距離にある六つの陰イオンに八面体状に囲まれる。硬い球の模型で陽イオンを小さくしていくと、陰イオン同士が先に接し、それより小さい陽イオンは六個すべてに同時接触できなくなる。その接触限界を、同一平面の四陰イオンが作る正方形の対角線で求めている。

NaCl型の慣用立方胞の一辺を LL とすれば、最近接の陽陰距離は L/2L/2、陰陰距離は L/2L/\sqrt2 である。限界の L/2=2raL/\sqrt2=2r_{\mathrm a} を L/2=ra+rcL/2=r_{\mathrm a}+r_{\mathrm c} へ代入しても同じ比になる。これは球模型の幾何的条件であり、共有性や分極を含む全物質の構造を一意に決める法則ではない。 中心から角までを一辺 dd と誤ると rc=rar_{\mathrm c}=r_{\mathrm a}、比1を得る。正方形の中心から頂点への距離は対角線の半分 2d/2\sqrt2d/2 である。

(2) オ(d) 一次元交互配列の第4近接まで

二点電荷の相互作用エネルギーは q1q2/(4πε0r)q_1q_2/(4\pi\varepsilon_0r) であり、符号が異なれば引力の負、同じなら斥力の正になる。いまは中心の一イオンと周囲の指定イオンとの相互作用だけを加える。左右の対称な二列があるため係数2を付け、距離が二倍ならエネルギーは半分となる。

括弧内は通分すると (−12+6−4+3)/12=−7/12(-12+6-4+3)/12=-7/12、二倍して −7/6-7/6 である。e2/(4πε0a)e^2/(4\pi\varepsilon_0a) はエネルギーの単位を持ち、aa を増やすと相互作用が弱まる。参考に無限列なら括弧の和は −ln⁡2-\ln2 へ近づくが、本問は第4近接で打ち切る。 結晶全体の全対を 12∑i∑j≠i\tfrac12\sum_i\sum_{j\ne i} と数える式を混ぜて、さらに半分にすると誤って係数 −7/12-7/12 になる。ここでは中心イオンとの各対を一回ずつ挙げており、重複を除くための半分は不要である。

(2) オ(e) NaClの二つの近接殻

中心を原点に置き、第一近接の方向を三軸の正負とすると六方向が数えられる。第二近接の同符号イオンは、二軸だけが ±a\pm a、残る一軸が0の位置にある。0にする軸の選択が3通り、二つの符号が各2通りなので 3×4=123\times4=12 個で、距離はピタゴラスの定理から a2+a2\sqrt{a^2+a^2} となる。

係数 −6+62≃+2.485-6+6\sqrt2\simeq+2.485 は正である。これを理由に符号を勝手に反転してはいけない。有限個の殻で打ち切った部分和は、結晶全体の負のマーデルングエネルギーと同一ではなく、遠方の殻の寄与がまだ残る。 第二近接も異符号と誤って −6−12/2-6-12/\sqrt2 とすると、同符号の Na--Na 斥力を引力に変えてしまう。また距離を 2a2a とすると係数0になるが、第二近接は一直線上の二格子先ではなく斜め隣にある。数と距離の両方を座標で確かめる。

解答

(1) ア O2の全原子軌道と分子軌道

結合軸を zz とし、16電子を低い準位から配置する。 (σ1s)2(σ1s∗)2(σ2s)2(σ2s∗)2(σ2pz)2(π2px)2(π2py)2(π2px∗)1(π2py∗)1. (\sigma_{1s})^2(\sigma_{1s}^*)^2 (\sigma_{2s})^2(\sigma_{2s}^*)^2 (\sigma_{2p_z})^2(\pi_{2p_x})^2(\pi_{2p_y})^2 (\pi_{2p_x}^*)^1(\pi_{2p_y}^*)^1 . 次図には左右の O 原子の全原子軌道と、中央の空軌道を含む全分子軌道を示す。縦の間隔は模式的である。

2023年度設問2の条件と解答から独自に作成した補助図1

(1) イ 酸素分子イオンの結合次数

結合次数 b=(Nb−Nab)/2b=(N_{\mathrm b}-N_{\mathrm{ab}})/2 を用いる。全電子で数えると O2 は結合性10個、反結合性6個である。最高被占軌道 π∗\pi^* から一電子を除けば O2+^+、そこへ一電子を足せば O2−^- となる。 b(O2)=2,b(O2+)=5/2,b(O2−)=3/2. b(\mathrm{O_2})=2,\quad b(\mathrm{O_2^+})=5/2,\quad b(\mathrm{O_2^-})=3/2.

(1) ウ(a) B2の縮退軌道と磁性

B は価電子を3個ずつ持ち、B2 は計6個である。価電子配置は (σ2s)2(σ2s∗)2(π2px)1(π2py)1(\sigma_{2s})^2(\sigma_{2s}^*)^2(\pi_{2p_x})^1(\pi_{2p_y})^1。 従って (4−2)/2=1(4-2)/2=1、不対電子は二つである。

(1) ウ(b) N2の閉じた価電子配置

価電子10個の配置は (σ2s)2(σ2s∗)2(π2px)2(π2py)2(σ2pz)2(\sigma_{2s})^2(\sigma_{2s}^*)^2(\pi_{2p_x})^2(\pi_{2p_y})^2(\sigma_{2p_z})^2。 結合性8、反結合性2なので b=(8−2)/2=3b=(8-2)/2=3。全電子が対を作る。

(1) ウ(c) COの等電子性

C の価電子4個と O の6個を合わせて10個となる。N2と等電子の閉殻配置を持ち、通常の分子軌道による結合次数は3である。

(2) エ 六配位空孔の最小半径比

陰イオン四つがつくる正方形断面の一辺を dd とする。限界では隣接陰イオンが接触して d=2rad=2r_{\mathrm a}、中心から頂点までは d/2=ra+rcd/\sqrt2=r_{\mathrm a}+r_{\mathrm c}。従って ra+rc=2ra,rc/ra=2−1=0.4142⋯ . r_{\mathrm a}+r_{\mathrm c}=\sqrt2r_{\mathrm a},\qquad r_{\mathrm c}/r_{\mathrm a}=\sqrt2-1=0.4142\cdots.

(2) オ(d) 一次元交互配列の第4近接まで

着目する陽イオンの左右には、距離 a,2a,3a,4aa,2a,3a,4a の各位置に二個ずつイオンがある。電荷の符号は順に負・正・負・正なので、 U4=2e24πε0a(−1+12−13+14)=−76e24πε0a. U_4=\frac{2e^2}{4\pi\varepsilon_0a} \left(-1+\frac12-\frac13+\frac14\right) =-\frac{7}{6}\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0a}.

(2) オ(e) NaClの二つの近接殻

Na+^+ の第一近接は距離 aa の Cl−^- が6個、第二近接は距離 2a\sqrt2a の Na+^+ が12個である。従って U2=e24πε0a(−6+122)=e24πε0a(−6+62). U_2=\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0a} \left(-6+\frac{12}{\sqrt2}\right) =\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0a}(-6+6\sqrt2).

最終答

上図の配置。不対電子は π∗ に2個。\text{上図の配置。不対電子は }\pi^*\text{ に2個。}

O2:2,O2+:2.5,O2−:1.5;結合エネルギーは O2−<O2<O2+.\mathrm{O_2}:2,\quad\mathrm{O_2^+}:2.5,\quad\mathrm{O_2^-}:1.5;\quad \text{結合エネルギーは }\mathrm{O_2^-}<\mathrm{O_2}<\mathrm{O_2^+}.

B2:結合次数 1,常磁性。\mathrm{B_2}:\text{結合次数 }1,\quad\text{常磁性。}

N2:結合次数 3,反磁性。\mathrm{N_2}:\text{結合次数 }3,\quad\text{反磁性。}

CO:結合次数 3,反磁性。\mathrm{CO}:\text{結合次数 }3,\quad\text{反磁性。}

(rc/ra)min⁡=2−1≃0.414.(r_{\mathrm c}/r_{\mathrm a})_{\min}=\sqrt2-1\simeq0.414.

U4=−7e2/(24πε0a)U_4=-7e^2/(24\pi\varepsilon_0a)

U2=(−6+62)e2/(4πε0a)U_2=(-6+6\sqrt2)e^2/(4\pi\varepsilon_0a)

第3問 — 分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支

活量は濃度そのものではなく、化学ポテンシャルに現れる有効濃度である。緩衝液では酸と塩の混合量が決める分析濃度と、平衡後の化学種濃度を分けて計算する。

分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 有機化学:酸触媒異性化の中間体・速度・平衡

二重結合へ一時的にプロトンを付けると、単結合の回転を経てE体とZ体が相互変換できる。反応速度と最終組成はそれぞれ活性化障壁と自由エネルギー差で決まる。

有機化学:酸触媒異性化の中間体・速度・平衡の途中式・最終答をPDFで見る

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(解説4項目)

    原子スペクトル:系列・ボーア模型・定数の決定 / 分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度 / 溶液平衡:活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基

  • 2025年度(解説4項目)

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  • 2023年度(このページ・解説4項目)

    物理化学:結合エネルギー・反応の条件・束一的性質 / 無機化学:分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー / 分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支

  • 2022年度(解説4項目)

    物理化学:固相の平衡とクラペイロン式 / 無機化学:分子イオン・配位数・結合の分類 / 分析化学:弱酸の平衡と緩衝液の精度

  • 2021年度(解説4項目)

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2023年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は化学3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問化学結合エネルギー・反応の条件・束一的性質—一部の確定答案なし
第2問化学分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー—あり
第3問活量・pH・緩衝液の物質収支—あり
第4問化学酸触媒異性化の中間体・速度・平衡—あり

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 4問 → 2023年度 4問
2022年度の解答例

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2021〜2026年度入学・夏季6回(2020〜2025年実施)
公式の解答例
解答例の掲載なし
院試hubの最終確認
2026-10-22
北海道大学の公式過去問PDF