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北大 総合化学院 総合化学専攻(修士課程) 総合基礎科目(A・B群共通) 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)

解説4項目の分野は化学2項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 原子と原子核:質量欠損・円軌道・物質波

設問(1) 重水素原子核の結合エネルギー

質量とエネルギーの等価関係は E=mc2E=mc^2 である。核が形成されるとエネルギーを放出するため、できた束縛系の質量は、離れて静止した核子の質量和より小さくなる。放出されたエネルギーを取り戻して核を分解するのに必要な正の値を結合エネルギー BB と定義する。

核子を離した状態を零点に取れば、束縛した核の内部エネルギー差は −B-B である。「結合した状態のエネルギーが負」であることと、「結合エネルギーという分解に必要な量が正」であることは矛盾しない。本問は原子核の質量が与えられているため、電子一個の静止質量を足し引きしない。

質量は各 10−30 kg10^{-30}\ \mathrm{kg} の桁までの丸め値で、差も 4×10−304\times10^{-30} と小さい。差を取った後の精度は元の質量の4桁より落ちるため、計算表示の 2.244195…2.244195\ldots を同じ精度の測定値と扱わない。

Δm=mD−mp−mn\Delta m=m_{\rm D}-m_p-m_n と逆に置くと B=−2.24×106 eVB=-2.24\times10^6\ \mathrm{eV} を得て、分解すればエネルギーが放出されるという逆の結論になる。また J\mathrm J から eV\mathrm{eV} へ換算するときは 1.602×10−191.602\times10^{-19} を掛けずに割る。掛ければ約 5.76×10−325.76\times10^{-32} という値となり、単位もエネルギーの変換にならない。

設問(2) クーロン力が向心力となる条件

等速円運動では速さが一定でも速度の向きが変わり、中心向きの加速度の大きさ v2/rv^2/r が生じる。電子と陽子の電荷は −e,+e-e,+e なので、二者間に働く力は引力であり、その大きさが運動方程式 F=meaF=m_ea を満たす。

このボーア模型では核を動かず、電子を非相対論的な点粒子として扱う。電子と核の両方の運動を厳密に入れる模型では換算質量が現れるが、本問の力学条件は固定核と電子質量 mem_e を使う。得た関係 rv2=e2/(4πε0me)rv^2=e^2/(4\pi\varepsilon_0m_e) はこの前提に対応する。

vv が2倍になると半径は 1/41/4 となる。小さい軌道で強いクーロン力を受け、より大きな向心加速度が必要になるという傾向と整合する。また e2/(4πε0)e^2/(4\pi\varepsilon_0) の単位は J m\mathrm{J\,m} なので、mev2m_ev^2 の J\mathrm J で割ると長さになる。

向心力を mev/rm_ev/r と書くと、得た半径が r∝1/vr\propto1/v となり、次元も長さでなく m2 s−1\mathrm{m^2\,s^{-1}} になる。速度の向きを変える加速度を使うため、力の式には速さの二乗が必要である。

設問(3) 定在波となる最小円軌道

物質波の位相変化は距離 LL を進むと kLkL、k=2π/λk=2\pi/\lambda である。円周を一周して同じ場所へ戻る状態では位相差が 2πn2\pi n の整数倍でなければ同じ波動関数にならない。従って k(2πr)=2πnk(2\pi r)=2\pi n、すなわち円周に波長が整数個収まる条件になる。n=0n=0 は有限の速さと半径を持つこの円軌道を与えない。

一般の nn なら rn=n2r0r_n=n^2r_0、vn=v0/nv_n=v_0/n となる。半径が最小の n=1n=1 で速度が最大となり、両者の積 mevnrn=nℏm_ev_nr_n=n\hbar が量子条件に戻る。与えられた定数では r0≃5.293×10−11 mr_0\simeq5.293\times10^{-11}\ \mathrm m、 v0≃2.187×106 m s−1v_0\simeq2.187\times10^6\ \mathrm{m\,s^{-1}} で、 v0/c≃0.00730≪1v_0/c\simeq0.00730\ll1。非相対論的な速さの近似とも両立する。

円周の代わりに直径を使って 2r=λ2r=\lambda とすると、角運動量条件を mevr=h/2m_evr=h/2 と誤り、最小半径を π2r0\pi^2r_0、速度を v0/πv_0/\pi にずらす。波が一周する距離は直径ではなく 2πr2\pi r である。

設問(4) 最小軌道を回る電子の波長

ド・ブロイ波長は運動量の大きさ pp に対する λ=h/p\lambda=h/p である。前項の速度を直接代入しても λ0=hmev0=hme{e2/(2ε0h)}=2ε0h2mee2 \lambda_0=\frac{h}{m_ev_0} =\frac{h}{m_e\{e^2/(2\varepsilon_0h)\}} =\frac{2\varepsilon_0h^2}{m_ee^2} となり、円周から求めた式と一致する。軌道の大きさだけから計算する方法と、運動量から計算する方法の二経路で検算できる。

約 0.333 nm0.333\ \mathrm{nm} の値は、半径約 0.0529 nm0.0529\ \mathrm{nm} の円周の大きさとして整合する。この波長は電子の物質波であり、原子から放出される光子の波長ではない。電子の静止質量を用いたコンプトン波長 h/(mec)h/(m_ec) とも異なる。

λ=r0\lambda=r_0 とすると約 5.293×10−11 m5.293\times10^{-11}\ \mathrm m を答え、正しい値より 2π2\pi 倍小さくなる。また λ=h/(mec)\lambda=h/(m_ec) として電子の速さを光速に置き換えると約 2.426×10−12 m2.426\times10^{-12}\ \mathrm m となり、ボーア軌道の運動量を使っていない。最後の丸めでは 3.3256508…3.3256508\ldots の第5桁が6なので、4桁の末尾を繰り上げる。

解答

設問(1) 重水素原子核の結合エネルギー

重水素原子核は陽子一つと中性子一つでできる。孤立した核子の質量和と原子核の質量の差は Δm=mp+mn−mD=(1.673+1.675−3.344)×10−27=4×10−30 kg. \Delta m=m_p+m_n-m_{\rm D} =(1.673+1.675-3.344)\times10^{-27} =4\times10^{-30}\ \mathrm{kg}. 核を分解するのに必要な結合エネルギーは正で、 B=Δm c2=(4×10−30)(2.998×108)2=3.5952016×10−13 J. B=\Delta m\,c^2 =(4\times10^{-30})(2.998\times10^8)^2 =3.5952016\times10^{-13}\ \mathrm J. 1 eV=1.602×10−19 J1\ \mathrm{eV}=1.602\times10^{-19}\ \mathrm J で割り、 B=2.244195…×106 eV. B=2.244195\ldots\times10^6\ \mathrm{eV}.

設問(2) クーロン力が向心力となる条件

陽子を固定し、電子の速さを vv、軌道半径を rr とする。円運動の向心力の大きさは mev2/rm_ev^2/r で、クーロン引力と等しい。 mev2r=e24πε0r2. \frac{m_ev^2}{r}=\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0r^2}. 両辺に r2r^2 を掛けて mev2r=e2/(4πε0)m_ev^2r=e^2/(4\pi\varepsilon_0) とすれば、

設問(3) 定在波となる最小円軌道

電子の物質波が円周を一周して同じ位相へ戻る条件は 2πr=nλ,λ=hmev,n=1,2,…. 2\pi r=n\lambda,\qquad \lambda=\frac{h}{m_ev},\qquad n=1,2,\ldots. 従って mevr=nh/(2π)m_evr=nh/(2\pi)。最小半径は n=1n=1 であり、 v=h/(2πmer)v=h/(2\pi m_er) を設問(2)の条件へ代入すると h24π2mer=e24πε0,r0=ε0h2πmee2. \frac{h^2}{4\pi^2m_er}=\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0}, \qquad r_0=\frac{\varepsilon_0h^2}{\pi m_ee^2}. さらに v0=h2πmer0=e22ε0h. v_0=\frac{h}{2\pi m_er_0}=\frac{e^2}{2\varepsilon_0h}.

設問(4) 最小軌道を回る電子の波長

n=1n=1 では円周が一波長なので、 λ0=2πr0=2ε0h2mee2. \lambda_0=2\pi r_0 =\frac{2\varepsilon_0h^2}{m_ee^2}. 指定の定数を代入すると λ0=2(8.854×10−12)(6.626×10−34)2(9.109×10−31)(1.602×10−19)2=3.3256508…×10−10 m. \lambda_0= \frac{2(8.854\times10^{-12})(6.626\times10^{-34})^2} {(9.109\times10^{-31})(1.602\times10^{-19})^2} =3.3256508\ldots\times10^{-10}\ \mathrm m.

最終答

与えられた質量の数値をそのまま用いると約 2.24×106 eV2.24\times10^6\ \mathrm{eV}。質量差の丸めを考えると 106 eV10^6\ \mathrm{eV} の桁の値として解釈する。

r=e2/(4πε0mev2)r=e^2/(4\pi\varepsilon_0m_ev^2)。

r0=ε0h2/(πmee2)r_0=\varepsilon_0h^2/(\pi m_ee^2)、v0=e2/(2ε0h)v_0=e^2/(2\varepsilon_0h)。

λ0=3.326×10−10 m\lambda_0=3.326\times10^{-10}\ \mathrm m(有効数字4桁)。

第2問 — 無機化学:電子対・分子の形と極性・結晶の空孔

電子数、電子領域の数、原子核の形を順に区別する。結晶の空孔では、陰イオン一個あたりの空孔数を先に決めてから、化学式の陽イオン数へ合わせる。

無機化学:電子対・分子の形と極性・結晶の空孔の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 酸塩基:電子対供与・共役対・両性イオン

ルイス酸塩基では電子対の行方を、酸解離ではプロトンの行方を調べる。数値の水溶液平衡では活量係数を1とする濃度模型を用い、水のイオン積が必要な箇所は 25 ∘C25\,{}^\circ\mathrm C、Kw=1.00×10−14K_{\rm w}=1.00\times10^{-14} と明記する。

酸塩基:電子対供与・共役対・両性イオンの途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 有機化学:水和の位置選択性といす形配座

ヒドロホウ素化と酸化では、より置換の少ない炭素へ OH が入る。オキシ水銀化・脱水銀化と酸触媒水和では、より置換の多い炭素へ入る。付加位置を決めてから、いす形の置換基を描く。

有機化学:水和の位置選択性といす形配座の途中式・最終答をPDFで見る

総合基礎科目(A・B群共通)の解答・解説PDF

2021〜2026年度(6年度) · ¥3,200

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年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(解説4項目)

    原子スペクトル:系列・ボーア模型・定数の決定 / 分子と結晶:ルイス構造・電子対反発・氷の密度 / 溶液平衡:活量・イオン強度・難溶塩・弱塩基

  • 2025年度(解説4項目)

    量子化学:無限井戸の境界条件と共役ポリエン / 無機化学:電子配置・分子軌道・七つの晶系 / 分析化学:混合溶液・二段解離・選択沈殿

  • 2024年度(このページ・解説4項目)

    原子と原子核:質量欠損・円軌道・物質波 / 無機化学:電子対・分子の形と極性・結晶の空孔 / 酸塩基:電子対供与・共役対・両性イオン

  • 2023年度(解説4項目)

    物理化学:結合エネルギー・反応の条件・束一的性質 / 無機化学:分子軌道とイオン結晶の静電エネルギー / 分析化学:活量・pH・緩衝液の物質収支

  • 2022年度(解説4項目)

    物理化学:固相の平衡とクラペイロン式 / 無機化学:分子イオン・配位数・結合の分類 / 分析化学:弱酸の平衡と緩衝液の精度

  • 2021年度(解説4項目)

    物理化学:光子・物質波・運動量の重ね合わせ / 無機化学:平均酸化数・分子の形・ケイ素結晶 / 熱力学:ブレイトンサイクルの仕事と熱効率

2024年度の出題内容

解説4項目

この4問の分野は化学2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問質量欠損・円軌道・物質波—あり
第2問化学電子対・分子の形と極性・結晶の空孔—あり
第3問電子対供与・共役対・両性イオン—あり
第4問化学水和の位置選択性といす形配座—あり

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 4問 → 2024年度 4問
2023年度の解答例

北海道大学の公式過去問

公開年度範囲
2021〜2026年度入学・夏季6回(2020〜2025年実施)
公式の解答例
解答例の掲載なし
院試hubの最終確認
2026-10-22
北海道大学の公式過去問PDF