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東大 理学系研究科 生物科学専攻 専門科目 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は生物3項目です。解説は2問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。原題の条件だけでは答えが一つに決まらないため、確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 分子生物学:クロマチンと転写因子の条件依存性

一部の確定答案なし

無処理J(S/D)細胞の転写量は、示された観測だけでは一つに決まりません。判定不能を表す選択肢クと、同じデータに適合する二つのモデルの反例を解答しています。高浸透圧処理時の選択肢オと他の設問はこの限定の対象ではありません。

無処理J(S/D)細胞の転写量は、示された観測だけでは一つに決まりません。判定不能を表す選択肢クと、同じデータに適合する二つのモデルの反例を解答しています。高浸透圧処理時の選択肢オと他の設問はこの限定の対象ではありません。

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第2問 — 細胞生物学:増殖・酸素供給・ATPの収支

設問1 倍加を繰り返す式と対数の傾き

倍加時間は、細胞数が二倍になるまでの時間である。分裂後の細胞が両方生存して次へ分裂し、同じ時間ごとにこの過程が続くなら、n回後の数は N0×2nN_0\times2^n となる。t=nTdt=nT_d と対応させれば、原題の整数倍の時刻について指数式が得られる。

積の対数は和、累乗の対数は指数を前へ出せるので、ln⁡(N02t/Td)=ln⁡N0+(t/Td)ln⁡2\ln(N_0 2^{t/T_d})=\ln N_0+(t/T_d)\ln2 となる。縦軸を自然対数へ変えると、指数的な増加が直線となる。傾きは単位時間あたりの増加率を表し、切片は初期細胞数の対数である。

二点間の直線の傾きは縦軸の差を横軸の差で割るため、エを得る。これは ln⁡(NB/NA)/(tB−tA)\ln(N_B/N_A)/(t_B-t_A) とも書ける。数の絶対値より比を使うので、細胞数に比例する測定量が同じ係数で得られるなら、その係数は差の対数で相殺できる。

t=0t=0 を代入すると N=N0N=N_0、t=Tdt=T_d なら N=2N0N=2N_0 となる。この二つは初期条件と倍加の定義の検算である。非同調の集団では指数増殖期の近似として連続的に扱えるが、栄養の枯渇、細胞死、増殖条件の変化が大きい時まで同じ傾きを保証するものではない。

「N=N0×2t/TdN=N_0\times2t/T_d」では t=0t=0 で細胞数が0となり、二倍を繰り返す過程も表せない。またエの分子を単に NB−NAN_B-N_A とすると、対数グラフの傾きでなくなる。倍加という操作、対数の変換、二点の傾きを順に導く。

設問2 三倍になった時間から倍加時間を得る

培養の二時刻の差は2時間だが、その間に起きた変化は二倍でなく三倍である。指数増殖なら、何回分の倍加に相当するかは 2Δt/Td=32^{\Delta t/T_d}=3 から求める。両辺の対数を取ると Δt/Td=ln⁡3/ln⁡2\Delta t/T_d=\ln3/\ln2 となり、解答の式を得る。

濁度を細胞数の代わりに使うには、同じ測定条件で比例関係が保たれる必要がある。細胞の大きさが大きく変わる、凝集する、濁度が高すぎて直線性から外れる場合には、そのまま換算できない。原題は比例を仮定しているため、ここでは同じ係数が比で消えるとして扱う。

指定された近似対数を使うと、分子は1.38、分母は1.10なので約1.2545時間である。選択肢の1.25時間が最も近い。自然対数を使うことが指定されているが、同じ底の対数なら比の値は同じになる。異なる底を分子と分母で混ぜるのは誤りである。

計算を戻せば、2時間は約 2/1.2545≃1.5942/1.2545\simeq1.594 回の倍加に相当し、21.5942^{1.594} は約3である。測定間隔より倍加時間が短いことも、二倍より大きい三倍になったという観察と合う。約1.25時間を2時間と取り違えると、予測濁度は0.20となって観測0.30を再現しない。

「濁度が0.20増えたので倍加時間は0.20時間」とするのは、割合と差を混同し、単位も合わない。指数増殖の率は絶対的な増分だけでは決まらない。時刻差と濁度比をそれぞれ式へ入れて求める。

設問3 呼吸へ使うグルコースだけを数える

必要な酸素は、完全酸化する基質の量と反応の係数から決まる。グルコースの完全酸化を C6H12O6+6O2→6CO2+6H2OC_6H_{12}O_6+6O_2\to6CO_2+6H_2O と書けば、一モルのグルコースに六モルの酸素が必要になる。ただし本問では、全グルコースの半分は細胞の材料となり、この呼吸の計算へそのまま入れないと指定されている。

最初に質量を求めると、1.8 g/Lの溶液100 mLは 1.8×0.100=0.1801.8\times0.100=0.180 gを含む。分子量180に対応するモル質量180 g/molで割ると0.001 molである。g/LとmLをそのまま掛けると千倍になるため、液量をLへそろえる。

呼吸へ入る分は 0.001/2=0.00050.001/2=0.0005 molなので、酸素は0.003 molとなる。質量で確認するなら、呼吸に使うグルコース0.090 gに対し、酸素は 0.003×32=0.0960.003\times32=0.096 gである。酸素がグルコースより重いことは矛盾でなく、生成物の水とCO2_2へ入る原子の収支に対応する。

初めに溶けている酸素は25 μmol、すなわち 2.5×10−52.5\times10^{-5} molなので、必要量はその120倍である。この比較は、静置した初期の酸素だけでは足りないという本文の記述を確かめる。実際の供給速度は別の量であり、この総量だけで培養時間や通気速度は決まらない。

「全量に6を掛けて 6×10−36\times10^{-3} mol」とすると、材料になる半分まで完全酸化する条件へ変えてしまう。また半分を使った後にもう一度半分へすると不足する。全量、呼吸へ回る割合、反応係数という三つの因子を一回ずつ使う。

設問4 酸素のモル数から空気の体積へ

モル分率は、混合気体全体のモル数のうち、ある成分が占める割合である。酸素が全体の0.20なら、空気一モルから得られる酸素は0.20モルである。酸素0.003モルを供給するには、それより多い0.015モルの空気が必要となる。分率を掛けるのではなく割る理由である。

原題は空気の平均分子量と密度を与えているので、まず空気のモル数に28.8 g/molを掛けて0.432 gへ変え、その質量を1.2 g/Lで割って体積へ直す。単位を追えば mol×g/mol/g/L=L\mathrm{mol}\times\mathrm{g/mol}/\mathrm{g/L}=\mathrm{L} となる。標準状態の22.4 L/molを別に持ち込む必要はない。

逆算すると、0.36 Lの空気の質量は0.432 g、モル数は0.015 molで、その20\%が0.003 molの酸素である。前問の必要量へ戻ることが一連の換算の検算になる。100 mLの液より供給気体が大きい体積となっても、気体と液体の密度が違うので矛盾しない。

この値は、初期の溶存酸素を無視し、供給した気体中の酸素を全て利用できるという設問の理想化に従う総量である。実際には気液間の移動や排気の残存酸素などで必要な供給量が変わる。ここでの0.36 Lを、そのまま特定の装置の流量や運転条件とみなさない。

「酸素0.003 molに空気の密度を直接掛ける」とすると、質量とモルの換算を飛ばし単位が合わない。また空気全体を純酸素とすれば、必要量を五分の一へ過小評価する。成分の比、平均モル質量、密度の順に変換する。

設問5 ATPの蓄え・消費・再合成を同じ尺度で比べる

濃度に体積を掛けると、その区画内にある物質量が得られる。ATP濃度1.5 mmol/LをMへ直し、細胞質体積 10−1510^{-15} Lを掛ければ 1.5×10−181.5\times10^{-18} molとなる。アボガドロ数を掛けると90万分子である。これはある時点の蓄えであり、一時間あたりの流れではない。

タンパク質合成では、一時間あたりのタンパク質数へ平均330残基を掛け、その残基一つあたりの指定費用4を掛ける。実際の翻訳にはATPだけでなくGTPも使われ、アミノ酸の活性化でATPをAMPへ変える費用もある。本問はこれらをATP四個相当として数える指定に従う。アミノ酸そのものを新たに作る費用は除く。

ATPの合成は、酸素の利用量から換算する。酸素六分子に対しATPが30分子なので、酸素一モルあたりATP五モルとなる。与えられた酸素消費量に5とアボガドロ数を掛け、2.4×10102.4\times10^{10} 分子/時間を得る。酸素一分子へATP30個を掛けると、係数6を落として六倍になる。

アクチンはATPを結合した単量体が重合し、その後フィラメント中で加水分解が進む。一秒の取り込みは全体で 100×12000=1.2×106100\times12000=1.2\times10^6 個であり、一時間へは3600を掛ける。単量体やアミノ酸を新規合成する費用は設問に従って含めない。移動速度10 μm/分だけから、この単量体数を再度掛ける必要もない。

静的なATPの90万個と、タンパク質合成だけで約132億個/時間の費用を比べると、最初の蓄えだけでは足りない。再合成の約240億個/時間が循環を支える。合成速度が保たれるなら、蓄え一回分を約0.135秒で作り直す計算となり、同じATP骨格が繰り返し利用される理由を数値で理解できる。

「一時間にATPを240億個合成するので細胞内濃度も必ず毎時間その分増す」とするのは、同時の消費を落とす。逆に蓄えの90万個を使い切ったら代謝が永久に止まるという説明も再生を無視する。各欄が個数か個数/時間かをそろえ、最後にだけ指定の有効数字へ丸める。

設問6 ATPとdATPの役割を区別する

ATPを使う反応には、加水分解のエネルギーを運動へ使うものや、AMPを別の分子へ渡して反応を進めるものがある。DNAを扱う酵素だから全て同じヌクレオチドを同じ方法で使うとは限らない。リボースを持つATPと、2′位がデオキシ型のdATPは区別する。

DNAリガーゼは、隣り合うDNA鎖の3′OHと5′リン酸をつないでホスホジエステル結合を作る。真核生物の代表的なリガーゼでは、ATPからAMPを酵素、次いでDNAへ移して5′リン酸を活性化する。切れ目の端が結合できる状態であることが条件で、欠けた長い配列をリガーゼだけで新しく埋めるわけではない。

ヘリカーゼでは、ATPの結合・加水分解・産物の放出に伴う構造変化を、DNAに対する結合の切替や移動へ共役する。二本鎖の塩基対を順次開き、複製などで一本鎖を供給する。DNAの主鎖を全て切断して二本鎖を解くという酵素ではない。

DNAポリメラーゼの鎖伸長では、伸びる鎖の3′OHへ入ってくるdNTPが反応し、ピロリン酸が放出される。Aを入れる時の基質はdATPであってATPではない。DNA合成に間接的にATPが必要な周辺反応があっても、それをポリメラーゼ自身の通常の基質使用と混ぜない。

「アデニンが入っていれば同じなので三つ全て」とする誤りは、糖の違いを落としている。また細菌の一部のリガーゼがNADを使う例を、真核生物という本問の条件へそのまま持ち込まない。酵素、直接使うヌクレオチド、反応の役割を一組にして二つを選ぶ。

設問7 長さが一定でも流れ続けるトレッドミル

フィラメントにはプラス端とマイナス端という極性があり、単量体の結合・解離の速度が異なる。ATP結合型が加わった後、加水分解やリン酸の解離が進むため、フィラメントの位置によりヌクレオチドの状態も異なる。ATPを消費する循環が、平衡でない持続的な流れを可能にする。

単純化した端の速度を v+=kon,+C−koff,+v_+=k_{\rm on,+}C-k_{\rm off,+}、v−=kon,−C−koff,−v_-=k_{\rm on,-}C-k_{\rm off,-} とすると、各端で正味0になる見かけの臨界濃度は C±∗=koff,±/kon,±C_\pm^*=k_{\rm off,\pm}/k_{\rm on,\pm} である。ATP・ADP状態が異なる通常の条件で C+∗<C<C−∗C_+^*<C<C_-^* なら、プラス端は正、マイナス端は負となる。

この範囲にあるだけで長さが厳密に一定とは限らず、さらに両端の正味の流束がつり合う条件が必要である。例えば一秒に100単量体が一端へ入り、同数が他端から出れば長さは変わらない。一方、印を付けた単量体はフィラメント内を相対的に移り、最後には外へ出るので、交換が止まった平衡とは違う。

外れたADP結合型は、細胞内のヌクレオチド条件や因子に応じてADPをATPへ交換し、再び重合に使われ得る。単量体の骨格が毎回分解されて新しく作られる必要はない。原題で単量体合成の費用を除いた前問と、この循環のエネルギーは整合する。

「長さが同じなのでATPは消費されず重合もない」とすると、正味量と流れを混同する。また両端とも同じ速さで重合し続けるなら長さは増える。指定の五語を両端の違いと循環へ対応させ、見かけの定常状態が分子の静止を意味しないことまで説明する。

解答

設問1 倍加を繰り返す式と対数の傾き

アN02t/Tdイln⁡2/Tdウln⁡N0エ(ln⁡NB−ln⁡NA)/(tB−tA) \begin{array}{c|l} \text{ア}&N_0 2^{t/T_d}\\ \text{イ}&\ln2/T_d\\ \text{ウ}&\ln N_0\\ \text{エ}&(\ln N_B-\ln N_A)/(t_B-t_A) \end{array} 従って ln⁡N=(ln⁡2/Td)t+ln⁡N0\ln N=(\ln2/T_d)t+\ln N_0 である。

設問2 三倍になった時間から倍加時間を得る

濁度が細胞数に比例するので、NB/NA=0.30/0.10=3N_B/N_A=0.30/0.10=3 である。 Td=(4.0−2.0)ln⁡2ln⁡3=2.0×0.691.10=1.2545… 時間. T_d=\frac{(4.0-2.0)\ln2}{\ln3} =\frac{2.0\times0.69}{1.10}=1.2545\ldots\ \mathrm{時間}.

設問3 呼吸へ使うグルコースだけを数える

全グルコースは 1.8×0.100/180=1.0×10−31.8\times0.100/180=1.0\times10^{-3} molである。その半分を呼吸に使い、一分子あたりO2_2六分子を要するため、 nO2=12×1.0×10−3×6=3.0×10−3 mol. n_{O_2}=\frac12\times1.0\times10^{-3}\times6 =3.0\times10^{-3}\ \mathrm{mol}.

設問4 酸素のモル数から空気の体積へ

空気中の酸素モル分率が0.20なので、必要な空気は 0.0030/0.20=0.0150.0030/0.20=0.015 molである。 Vair=0.015×28.81.2=0.36 L. V_{\rm air}=\frac{0.015\times28.8}{1.2} =0.36\ \mathrm{L}.

設問5 ATPの蓄え・消費・再合成を同じ尺度で比べる

空欄丸める前の計算有効数字1桁カ1.5×10−3×10−15×6.0×10239×105 個キ1.0×107×330×4=1.32×10101×1010 個/時間ク8.0×10−15×(30/6)×6.0×1023=2.4×10102×1010 個/時間ケ100×12000×3600=4.32×1094×109 個/時間 \begin{array}{c|l|l} \text{空欄}&\text{丸める前の計算}&\text{有効数字1桁}\\\hline \text{カ}&1.5\times10^{-3}\times10^{-15}\times6.0\times10^{23}&9\times10^5\ \text{個}\\ \text{キ}&1.0\times10^7\times330\times4=1.32\times10^{10}&1\times10^{10}\ \text{個/時間}\\ \text{ク}&8.0\times10^{-15}\times(30/6)\times6.0\times10^{23}=2.4\times10^{10}&2\times10^{10}\ \text{個/時間}\\ \text{ケ}&100\times12000\times3600=4.32\times10^9&4\times10^9\ \text{個/時間} \end{array} ケは、組み込まれた単量体一個あたりATP一個を加水分解するという定常的な収支である。

設問6 ATPとdATPの役割を区別する

真核生物のDNAリガーゼはATP由来のAMPを用いて切れ目の5′リン酸を活性化し、3′OHとの結合を作る。DNAヘリカーゼはATP加水分解を、DNA上の移動や二本鎖を開く運動へ結び付ける。通常のDNAポリメラーゼはdNTPを基質とし、dATPは使ってもATPを同じ基質として使うわけではない。

設問7 長さが一定でも流れ続けるトレッドミル

アクチンフィラメントのプラス端ではATP結合型単量体が重合し、取り込まれた後の加水分解でADP型が増える。マイナス端からは主に古い単量体が脱重合する。両端の流れがつり合えば全長はほぼ一定でも、単量体は入れ替わり続ける。

最終答

④、1.25時間。

有効数字1桁で 3×10−33\times10^{-3} mol。

有効数字2桁で0.36 L。

イ(DNAリガーゼ)とウ(DNAヘリカーゼ)。

第3問 — タンパク質の構造と非酵素的な卵膜の溶解

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第4問 — 突然変異・集団遺伝・FOXP2の分子進化

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第5問 — 分野別選択問題:13小問の全設問

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2023年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は生物3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問生物クロマチンと転写因子の条件依存性—一部の確定答案なし
第2問生物増殖・酸素供給・ATPの収支—あり
第3問—タンパク質の構造と非酵素的な卵膜の溶解—あり
第4問生物突然変異・集団遺伝・FOXP2の分子進化—あり
第5問13小問の全設問—あり

前年度(2020年度)との違い

大問数
2020年度 5問 → 2023年度 5問
2020年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2015〜2020・2023〜2026(公開筆記問題)
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
ここでは専門科目の過去問を扱う。英語の受験方法は当該年度の募集要項で確認。
院試hubの最終確認
2026-10-20
東京大学の公式過去問PDF