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流体力学 第1問 — 低速のピトー静圧管:圧力差と対気速度

設問1 差圧が表す量

静圧は流体がその点で持つ圧力で、流れ方向へ向いた面に働く力だけを意味しない。静止した流体でも静圧はある。一方、よどみ圧は、流体を基準に対して速度0まで損失なく減速したときの圧力である。正面を向く孔の手前では流れが止まり、側孔はその正面のせき止めを避ける配置になっている。この異なる測り方で、静圧とよどみ圧を取り分ける。

非圧縮流の動圧 q=ρV2/2q=\rho V^2/2 は単位体積当たりの運動エネルギーと同じ形を持つ。質量 ρ dV\rho\,d\mathcal V の流体の運動エネルギーを体積 dVd\mathcal V で割れば、この式が得られる。流れを損失なく止めると、運動エネルギーの減少が圧力の増加へ対応する。どの向きの孔でも静圧に動圧が自動的に足されるわけではなく、せき止める孔を用いる点が測定の仕組みである。

圧力差の定義なので、飛行高度によって静圧が変わっても、静圧そのものを速度と取り違えない。例えば静圧を 80 kPa80\,\mathrm{kPa}、動圧を 2 kPa2\,\mathrm{kPa} とする測定例では、A孔は 82 kPa82\,\mathrm{kPa}、B孔は 80 kPa80\,\mathrm{kPa}、差圧は 2 kPa2\,\mathrm{kPa} となる。ΔP=PA\Delta P=P_A とする誤りは 82 kPa82\,\mathrm{kPa} を速度へ変換し、正しい差圧の41倍を使ってしまう。

速度0なら動圧0となり、両孔の理想圧力は等しい。速度を2倍にすれば差圧は4倍である。単位も kg/m3×m2/s2=Pa\mathrm{kg/m^3}\times\mathrm{m^2/s^2}=\mathrm{Pa} と合う。圧縮性が無視できない場合には PA−P∞P_A-P_\infty と ρ∞V∞2/2\rho_\infty V_\infty^2/2 は厳密には等しくないので、この関係の適用範囲を後の第2問と区別する。

設問2 ベルヌーイ式の成立条件

この式は定常なオイラーの運動方程式から導ける。流線方向の距離を ss、速度の大きさを VV とすると、粘性応力と体積力の流線方向成分を無視した式は ρVdVds=−dPds. \rho V\frac{dV}{ds}=-\frac{dP}{ds}. 非圧縮の一定密度 ρ\rho で積分すれば、d(P+ρV2/2)/ds=0d(P+\rho V^2/2)/ds=0 となる。定常という条件は、局所の時間変化による加速度を除くために使う。非粘性の条件は摩擦の項を除き、非圧縮の条件は ∫dP/ρ\int dP/\rho を P/ρP/\rho と書くために使っている。

重力を残す場合は、上向き座標 zz に対して P+ρV2/2+ρgzP+\rho V^2/2+\rho gz が流線上で一定になる。従って同じ高さの二点間なら位置項が相殺するが、高さが異なる二点でそれを消してはいけない。例えば速度がどちらも0の静水では、上へ 1 m1\,\mathrm m 上がると圧力は ρg×1 m\rho g\times1\,\mathrm m だけ下がる。位置項を落とした誤式は、この二点の圧力を同じ値とする。

同じ流線という条件と、渦なしという条件も分ける。流れに渦度があっても、上の沿流線の積分は成立し得る。ただし積分定数は流線ごとに違ってよい。例えば剛体回転する非粘性流 V=ΩrV=\Omega r では、半径方向の運動方程式から P=Pc+ρΩ2r2/2P=P_c+\rho\Omega^2r^2/2。従って P+ρV2/2=Pc+ρΩ2r2P+\rho V^2/2=P_c+\rho\Omega^2r^2 となり、半径の異なる円形流線で同じ値にはならない。全領域で共通の定数を無条件に使う誤りの反例である。

以上は流体の力学からの導出なので、非圧縮のベルヌーイ式に対して断熱を独立の条件として課す必要はない。圧縮性流のよどみ温度・よどみ圧を求める次問では、熱とエントロピーの条件が別に必要となる。今回は気流を管に対して定常と見なし、管へ向かう流線の遠方とよどみ点を結ぶという条件で、この沿流線の関係を使う。

設問3 差圧から対気速度へ換算する

速度への変換は、差圧の平方根を取る操作である。測定されるのは圧力差だけなので、密度 ρ∞\rho_\infty を別に知る必要がある。密度は飛行高度の温度・静圧などから決められ、低速だから常に海面の密度を使ってよいわけではない。一般に気体の状態式を用いるなら ρ∞=P∞/(RT∞)\rho_\infty=P_\infty/(RT_\infty) となる。

速度の正負は差圧の平方からは分からず、管の向きと流れの方向を別に指定している。ここでは気流を受ける向きが決まっており、問われる速度の大きさとして正の根を使う。ΔP<0\Delta P<0 をそのまま実数の速度へ変換することはできず、圧力孔の接続、流れに対する向き、測定モデルを確かめる必要がある。

密度が同じで差圧が4倍なら速度は2倍、差圧が同じで密度が半分なら速度は 2\sqrt2 倍となる。例えば ΔP=1800 Pa\Delta P=1800\,\mathrm{Pa}、ρ=1 kg/m3\rho=1\,\mathrm{kg/m^3} なら V=60 m/sV=60\,\mathrm{m/s}。同じ差圧で ρ=2 kg/m3\rho=2\,\mathrm{kg/m^3} なら V=302≃42.43 m/sV=30\sqrt2\simeq42.43\,\mathrm{m/s} である。圧力差だけを速度と見なすことは、この密度依存を落とす。

平方根を取り忘れた誤式 Vwrong=2ΔP/ρV_{\rm wrong}=2\Delta P/\rho は、最初の例で 36003600 を返し、単位も m2/s2\mathrm{m^2/s^2} のままである。係数2を落とすと Vwrong=ΔP/ρ=302 m/sV_{\rm wrong}=\sqrt{\Delta P/\rho}=30\sqrt2\,\mathrm{m/s} となり、正しい60より 1/21/\sqrt2 倍小さい。求めた速度を動圧 ρV2/2\rho V^2/2 へ戻せば、どちらの誤りも元の 1800 Pa1800\,\mathrm{Pa} に一致しないことで見つけられる。

設問4 圧力と速度の単位をそろえる

圧力の式を使う段階では Pa=kg/(m s2)\mathrm{Pa}=\mathrm{kg/(m\,s^2)} と密度の kg/m3\mathrm{kg/m^3} を組み合わせる。このため計算結果はまず m/s\mathrm{m/s} で得られる。圧力を kPa\mathrm{kPa} の数値のまま代入すると、圧力差を1000分の1にした別の計算になる。単位換算は平方根の前と後で別々に行う。

求めた 70 m/s70\,\mathrm{m/s} を戻すと、動圧は 0.9×702/2=2205 Pa=2.205 kPa0.9\times70^2/2=2205\,\mathrm{Pa}=2.205\,\mathrm{kPa}。一方、252 km/h252\,\mathrm{km/h} を 3.63.6 で割っても 70 m/s70\,\mathrm{m/s} となるので、流体の式と時間・距離の換算の二箇所を独立に確認できる。問題で密度が与えられている以上、温度や標準大気の仮定を追加する必要はない。

2.2052.205 をそのままパスカルとして使う誤りでは、Vwrong=4.9≃2.2136 m/sV_{\rm wrong}=\sqrt{4.9}\simeq2.2136\,\mathrm{m/s}、すなわち約 7.969 km/h7.969\,\mathrm{km/h} となる。速度の誤りは1000倍でなく 1000\sqrt{1000} 倍となる点も、圧力と速度の二乗関係から分かる。7070 に 3.63.6 を掛ける代わりに割る誤りなら 19.44 km/h19.44\,\mathrm{km/h} としてしまう。

この値は非圧縮のベルヌーイ式を用いるという指定のもとでの対気速度である。圧縮性の補正を独自に加えるには温度や静圧などの情報が別に要る。低速の問題で求めた数値と、次の高亜音速に対する式の適用範囲を区別しておくと、測定モデルを途中で入れ替えずに計算できる。

解答

設問1 差圧が表す量

孔Aで測るよどみ圧を PAP_A、静圧孔Bで測る圧力を PBP_B とする。理想的な低速の測定では、PB=P∞P_B=P_\infty、PA=P∞+ρ∞V∞2/2P_A=P_\infty+\rho_\infty V_\infty^2/2 なので

設問2 ベルヌーイ式の成立条件

定常、非粘性、非圧縮の流れで、同じ流線上の点を比較する。さらに示された式には重力などの位置エネルギーがないので、体積力のポテンシャル変化を無視でき、ポンプなどからの機械的仕事や損失を加えない条件とする。このとき P+12ρV2=同じ流線上で一定 P+\frac12\rho V^2=\text{同じ流線上で一定} が成り立つ。異なる流線の間でも同じ定数を使うには、加えて渦なしなどにより共通の定数を持つ条件が必要である。

設問3 差圧から対気速度へ換算する

遠方とA孔のよどみ点を同じ流線上で比較する。密度を一定とすると P∞+12ρ∞V∞2=PA. P_\infty+\frac12\rho_\infty V_\infty^2=P_A. 静圧孔では PB=P∞P_B=P_\infty なので、ΔP=PA−PB\Delta P=P_A-P_B を使って V∞2=2ΔPρ∞. V_\infty^2=\frac{2\Delta P}{\rho_\infty}. 速度の大きさは非負であるから

静止大気を基準にした場合、管に対する気流の速度の大きさが飛行機の対気速度に等しい。

設問4 圧力と速度の単位をそろえる

圧力差をSI単位に直すと ΔP=2.205×103 Pa\Delta P=2.205\times10^3\,\mathrm{Pa}。従って V∞=2(2.205×103)0.9=4900=70 m/s. V_\infty=\sqrt{\frac{2(2.205\times10^3)}{0.9}} =\sqrt{4900}=70\,\mathrm{m/s}. 1 m/s=3600/1000 km/h=3.6 km/h1\,\mathrm{m/s}=3600/1000\,\mathrm{km/h}=3.6\,\mathrm{km/h} なので

最終答

ΔP=PA−PB=12ρ∞V∞2\displaystyle \Delta P=P_A-P_B=\frac12\rho_\infty V_\infty^2。 差圧は気流の動圧を表す。

V∞=2ΔPρ∞.\displaystyle V_\infty=\sqrt{\frac{2\Delta P}{\rho_\infty}}.

V∞=252 km/h.\displaystyle V_\infty=252\,\mathrm{km/h}.

流体力学 第2問 — 圧縮性を含む対気速度:よどみ温度とよどみ圧

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流体力学 第3問 — 超音速のピトー管:衝撃波を挟んだ圧力比

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推進工学 第2問 — 化学ロケットのノズル:熱エンタルピーから排気速度へ

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推進工学 第3問 — 同軸MPDスラスタ:電流分布を積分した推力

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推進工学 第4問 — 三種類の推進方式の比較:排気速度、体積と電力

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専門科目の解答・解説PDF

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年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(解説16項目)

    層流の円管:せん断応力、速度分布と面積平均 / 円管の摩擦係数:断面平均の力の釣り合い / 断熱円管の圧縮性流れ:マッハ数とチョーク

  • 2025年度(このページ・解説14項目)

    低速のピトー静圧管:圧力差と対気速度 / 圧縮性を含む対気速度:よどみ温度とよどみ圧 / 超音速のピトー管:衝撃波を挟んだ圧力比

  • 2024年度(解説44項目)

    乱流境界層の積分法:厚さの変数を取り替える / 形状が一定の境界層:積分因子による厚さの計算 / エネルギー厚さ:壁面外への流出を残して積分する

  • 2023年度(解説29項目)

    一定水頭から流出する定常速度 / 非定常 Bernoulli 式と速度ポテンシャル / 管内流速の立ち上がり

  • 2022年度(解説39項目)

    一様吸い込みによる下流の境界層 / 壁面で満たす一次・二次速度勾配の関係 / 二つの速度分布を補間する吸い込みパラメータ

2025年度の出題内容

解説14項目

この14問の分野は制御工学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
流体力学 第1問圧力差と対気速度—あり
流体力学 第2問よどみ温度とよどみ圧—あり
流体力学 第3問衝撃波を挟んだ圧力比—あり
固体力学 第1問荷重倍数の意味—あり
固体力学 第2問一様な慣性力と中央の揚力—あり
固体力学 第3問曲げ軸力とせん断流の分担—あり
航空宇宙システム学 第1問半長さと対称性—あり
航空宇宙システム学 第2問オイラーの運動方程式—あり
航空宇宙システム学 第3問—単軸の比例制御:持続振動と減衰の追加—あり
航空宇宙システム学 第4問制御工学角運動量を入力にする—あり
推進工学 第1問速度増分とペイロード比—あり
推進工学 第2問熱エンタルピーから排気速度へ—あり
推進工学 第3問電流分布を積分した推力—あり
推進工学 第4問排気速度、体積と電力—あり

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 44問 → 2025年度 14問
2024年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2026(専門科目の公開筆記問題)
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
専門科目の過去問を扱う。英語の受験方法とスコア要件は当該年度の募集要項で確認。
院試hubの最終確認
2026-10-20
東京大学の公式過去問PDF