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東北大 工学研究科 応用物理学専攻 応用物理 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問の分野は電磁気学・回路1問、熱・統計力学1問、量子力学1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 力学:二輪台車の駆動と荷重移動

方針

質点系としての運動方程式(並進)と、剛体としてのモーメントのつり合い(回転)を分けて立てる。モーメントの腕は、摩擦力については重心の高さ hh、垂直抗力については水平距離 dd、d′d' である。問題文が4つのトルクの大きさを FhFh、F′hF'h、NdNd、N′d′N'd' と明示しているので、あとは符号を決めるだけでよい。

荷重移動の読み方

(1) の Ma=F+F′Ma=F+F' を (2) に代入すると N′d′−Nd=Mah N'd'-Nd=Mah となる。a>0a>0(加速)のとき右辺は正で、後輪側の垂直抗力の効果が前輪側より大きくなる。すなわち加速すると荷重は後方へ移り、NN は減って N′N' は増える。この一行が (3) 以降のすべての設問の骨格である。

この式の適用範囲

厳密には、系の重心まわりの角運動量には2つの車輪のスピン 2Iω2I\omega が含まれるので、4つのトルクの和は 2Iω˙2I\dot\omega に等しく、00 ではない。問題文が「4つのトルクのつり合い」と指定しているのは車輪の慣性モーメントを無視した扱いであり、(3) の b) 以降で I=0I=0 とおく設定のもとでは厳密に成り立つ。

失点しやすい点

垂直抗力のモーメントの符号を両輪で同じにしてしまう誤りが多い。前輪と後輪は重心の反対側にあるので、NdNd と N′d′N'd' は逆符号になる。一方、摩擦力は両輪とも重心より下(腕は同じ −h-h)にあるので、FhFh と F′hF'h は同符号である。

設問2 前輪駆動:回転の運動方程式と最大加速度

方針

最大加速度を「駆動輪の摩擦力が限界に達する条件」に翻訳する。ここで注意すべきは、限界を与える μN\mu N の NN が aa に依存することである。NN を定数扱いすると amax⁡=μgd′/(d+d′)a_{\max}=\mu gd'/(d+d') という誤答になり、μh\mu h の項が落ちる。

検算

重心が地面すれすれにある極限 h→0h\to0 では荷重移動が起こらず、N→Mgd′/(d+d′)N\to Mgd'/(d+d')、amax⁡→μgd′/(d+d′)=μN/Ma_{\max}\to\mu gd'/(d+d')=\mu N/M となって静止時の荷重で決まる素直な式に戻る。また μ→∞\mu\to\infty では amax⁡→gd′/ha_{\max}\to gd'/h となり、これは設問4で求める前輪浮き上がりの加速度に一致する。摩擦がいくら大きくても、前輪が浮けばそれ以上は加速できないという描像と合う。

前輪が接地しているかの確認

a=amax⁡前a=a_{\max}^{\text{前}} を NN の式に戻すと N=Mgd′d+d′+μh>0 N=\frac{Mgd'}{d+d'+\mu h}>0 であり、前輪はつねに接地している。前輪駆動では加速するほど駆動輪の荷重が抜けるので、浮き上がりより先に必ず滑りが起こる。

失点しやすい点

I=0I=0 から F′=0F'=0 を導かずに、後輪にも摩擦が働くとしたまま進むと NN の式が決まらない。慣性モーメントが 00 の従動輪は、回転させるためのトルクを必要としないので摩擦力を受けない、と一言添えておくとよい。

設問3 後輪駆動の最大加速度と両者の比較

物理的な意味

前輪駆動と後輪駆動の式は、分母の μh\mu h の符号だけが違う。加速すると荷重は後方に移るので、駆動輪が後輪なら荷重が乗って摩擦の上限が上がり、前輪なら荷重が抜けて上限が下がる。加速度が上がるほど後輪駆動は有利に、前輪駆動は不利になるという正のフィードバック・負のフィードバックの差である。

検算

μh→0\mu h\to0(重心が低い、または摩擦係数が小さい)では両者とも μgd/(d+d′)\mu gd/(d+d') に近づき、駆動方式の差が消える。荷重移動の効果が hh を通してしか入らないことと整合する。

後輪駆動で前輪が浮かないための条件

a=amax⁡後a=a_{\max}^{\text{後}} における前輪の垂直抗力を求めると N=Mg−N′=Mg−Mgdd+d′−μh=Mg(d′−μh)d+d′−μh N=Mg-N'=Mg-\frac{Mgd}{d+d'-\mu h} =\frac{Mg(d'-\mu h)}{d+d'-\mu h} となる。N≥0N\ge0 には d′≥μhd'\ge\mu h が必要である。d′<μhd'<\mu h なら、後輪が滑るより先に前輪が浮き上がる。設問4がその場合を扱っている。

答案の書き方

(5) は「どちらが大きいか」を問うているだけなので、両式を並べて分母の大小を比べれば十分である。μ\mu、gg、dd に具体的な数値を入れて比較する必要はなく、2d>μh2d>\mu h(前輪が浮かない範囲)という前提を明示しておけばよい。

設問4 前輪の垂直抗力が消えるトルク

方針

「前輪の垂直抗力がゼロ」という条件を、鉛直方向のつり合いとトルクのつり合いの2式に流し込むだけでよい。N=0N=0 とすると未知数が N′N' と aa の2つに減り、2式で閉じる。トルク TT は最後に後輪の回転の運動方程式で F′F' から換算する。

検算

次元は [M][L][T−2]×[L]=N ⁣⋅ ⁣m[M][L][T^{-2}]\times[L]=\mathrm{N\!\cdot\! m} でトルクとして正しい。また a=gd′/ha=gd'/h は、重心が後輪接地点の真上に来る(d′=0d'=0)と a=0a=0、重心が低い(h→0h\to0)と a→∞a\to\infty という直観に合う。

「μ\mu は十分に大きい」の意味

設問3の最後で見たように、後輪駆動では d′<μhd'<\mu h のとき滑りより先に浮き上がりが起こる。実際、a=gd′/ha=gd'/h が amax⁡後=μgd/(d+d′−μh)a_{\max}^{\text{後}}=\mu gd/(d+d'-\mu h) より小さい条件を整理すると d′<μhd'<\mu h になり、両者は完全に一致する。問題文の「μ\mu は十分に大きく」はこの不等式を保証するための仮定である。

この設問が試していること

自動車やオートバイの前輪浮き上がり(ウイリー)の条件そのものである。重心が高いほど、また後輪から重心までの距離が長いほど小さなトルクで浮くことが式から読める。設問1で立てたトルクのつり合いを、極端な状況(N=0N=0)に適用して意味のある結論を引き出せるかが問われている。

解答

(1) 水平方向の運動方程式と鉛直方向のつり合い

車体・モーター・2つの車輪をまとめて一つの系とみなす。モーターのトルクは系の内力なので、重心の並進運動には現れない。系に働く外力の水平成分は地面からの摩擦力だけであり、重心の加速度が aa だから Ma=F+F′. Ma=F+F'. 鉛直方向には重心が上下しないので加速度の鉛直成分は 00 であり、重力と2つの垂直抗力がつり合う。 N+N′−Mg=0すなわちN+N′=Mg. N+N'-Mg=0 \qquad\text{すなわち}\qquad N+N'=Mg.

(2) 重心まわりのトルクのつり合い

重心 G\mathrm{G} を原点にとり、水平右向きを xx、鉛直上向きを zz として、xx--zz 面内で反時計回りを正のモーメントとする。位置 (x,z)(x,z) に働く力 (fx,fz)(f_{x},f_{z}) のモーメントは xfz−zfxxf_{z}-zf_{x} である。前輪の接地点は (d,−h)(d,-h) にあって力 (F,N)(F,N) を受けるから、そのモーメントは dN−(−h)F=Nd+Fh. dN-(-h)F=Nd+Fh. 後輪の接地点は (−d′,−h)(-d',-h) にあって力 (F′,N′)(F',N') を受けるから (−d′)N′−(−h)F′=−N′d′+F′h. (-d')N'-(-h)F'=-N'd'+F'h. 車体は回転しないので、これら4つのトルクの和が 00 になる。 Nd+Fh+F′h−N′d′=0すなわちN′d′=Nd+(F+F′)h. Nd+Fh+F'h-N'd'=0 \qquad\text{すなわち}\qquad N'd'=Nd+(F+F')h.

(3) a) 車輪の回転の運動方程式

車輪が滑らずに転がるとして、前進する向きの回転を正にとった角速度を ω\omega とすると、転がりの条件は v=rω,a=rω˙ v=r\omega,\qquad a=r\dot\omega である。車輪の軸まわりのモーメントを考える。接地点は軸から rr だけ下にあるので、進行方向を向く摩擦力は車輪を前進回転とは逆向きに回そうとする。したがって、駆動される前輪と、駆動されない後輪について Iω˙=T−Fr,Iω˙=−F′r I\dot\omega=T-Fr, \qquad I\dot\omega=-F'r となる。なお、これらと Ma=F+F′Ma=F+F'、a=rω˙a=r\dot\omega を連立すると a=TrMr2+2I a=\frac{Tr}{Mr^{2}+2I} が得られる。

(3) b) I=0I=0 のときの最大加速度

I=0I=0 とすると上の2式から F′=0,F=Tr F'=0,\qquad F=\frac{T}{r} であり、Ma=FMa=F となる。設問1の結果に F′=0F'=0、F=MaF=Ma を代入し、N′=Mg−NN'=Mg-N を使って NN を求める。 (Mg−N)d′=Nd+Mah⟹N=M(gd′−ah)d+d′. (Mg-N)d'=Nd+Mah \quad\Longrightarrow\quad N=\frac{M(gd'-ah)}{d+d'}. 前輪が滑らない条件は F≤μNF\le\mu N、すなわち Ma≤μ M(gd′−ah)d+d′. Ma\le\mu\,\frac{M(gd'-ah)}{d+d'}. 両辺を整理すると a(d+d′)≤μgd′−μah⟹a(d+d′+μh)≤μgd′. a(d+d')\le\mu gd'-\mu ah \quad\Longrightarrow\quad a(d+d'+\mu h)\le\mu gd'. 等号のときが最大加速度である。 amax⁡前=μgd′d+d′+μh. a_{\max}^{\text{前}}=\frac{\mu gd'}{d+d'+\mu h}.

(4) 後輪駆動の最大加速度

今度は前輪が従動輪なので、I=0I=0 より F=0F=0、F′=T/rF'=T/r、Ma=F′Ma=F' である。設問1の関係に F=0F=0、F′=MaF'=Ma を入れ、N=Mg−N′N=Mg-N' を使うと N′d′=(Mg−N′)d+Mah⟹N′=M(gd+ah)d+d′. N'd'=(Mg-N')d+Mah \quad\Longrightarrow\quad N'=\frac{M(gd+ah)}{d+d'}. 後輪が滑らない条件 F′≤μN′F'\le\mu N' は Ma≤μ M(gd+ah)d+d′⟹a(d+d′−μh)≤μgd Ma\le\mu\,\frac{M(gd+ah)}{d+d'} \quad\Longrightarrow\quad a(d+d'-\mu h)\le\mu gd となる。d+d′>μhd+d'>\mu h のとき、最大加速度は amax⁡後=μgdd+d′−μh a_{\max}^{\text{後}}=\frac{\mu gd}{d+d'-\mu h} である。(d+d′≤μhd+d'\le\mu h の場合には摩擦が加速度を制限せず、前輪の浮き上がりが先に起こる。)

(5) d=d′d=d' のときの比較

d=d′d=d' とおくと amax⁡前=μgd2d+μh,amax⁡後=μgd2d−μh. a_{\max}^{\text{前}}=\frac{\mu gd}{2d+\mu h}, \qquad a_{\max}^{\text{後}}=\frac{\mu gd}{2d-\mu h}. 分子が等しく、分母は 2d−μh<2d+μh2d-\mu h<2d+\mu h であるから amax⁡後amax⁡前=2d+μh2d−μh>1(2d>μh). \frac{a_{\max}^{\text{後}}}{a_{\max}^{\text{前}}} =\frac{2d+\mu h}{2d-\mu h}>1 \qquad(2d>\mu h). よって後輪駆動のほうが大きい最大加速度を与える。

(6) N=0N=0 となるトルク

後輪駆動、I=0I=0、μ\mu は十分大きくスリップは起こらないとする。I=0I=0 より前輪は従動輪として F=0F=0、後輪は F′=MaF'=Ma、また T=F′rT=F'r である。

前輪が浮き上がる限界は N=0N=0 であり、このとき鉛直方向のつり合いから N′=Mg. N'=Mg. これを設問1のトルクのつり合い N′d′=Nd+(F+F′)hN'd'=Nd+(F+F')h に N=0N=0、F=0F=0、F′=MaF'=Ma とともに代入すると Mgd′=Mah⟹a=gd′h. Mgd'=Mah \quad\Longrightarrow\quad a=\frac{gd'}{h}. したがって後輪に必要な摩擦力は F′=Ma=Mgd′/hF'=Ma=Mgd'/h であり、I=0I=0 の回転の運動方程式 0=T−F′r0=T-F'r から T=F′r=Mgrd′h. T=F'r=\frac{Mgrd'}{h}.

最終答

Ma=F+F′Ma=F+F'、N+N′=MgN+N'=Mg、N′d′=Nd+(F+F′)hN'd'=Nd+(F+F')h

前輪 Iω˙=T−FrI\dot\omega=T-Fr、後輪 Iω˙=−F′rI\dot\omega=-F'r(a=rω˙a=r\dot\omega)。 I=0I=0 のとき amax⁡前=μgd′d+d′+μha_{\max}^{\text{前}}=\dfrac{\mu gd'}{d+d'+\mu h}

amax⁡後=μgdd+d′−μha_{\max}^{\text{後}}=\dfrac{\mu gd}{d+d'-\mu h}(d+d′>μhd+d'>\mu h)。 d=d′d=d' のときは後輪駆動のほうが大きく、比は (2d+μh)/(2d−μh)(2d+\mu h)/(2d-\mu h)

T=Mgrd′hT=\dfrac{Mgrd'}{h}(このとき a=gd′ha=\dfrac{gd'}{h})

第2問 — 電磁気学:金属への電磁波の入射と表皮効果

符号の検算

入射波について E×B∝ex×ey=ez\boldsymbol E\times\boldsymbol B\propto\boldsymbol e_{x}\times\boldsymbol e_{y}=\boldsymbol e_{z} で +z+z 向き、反射波は RR の符号が反転しているのでポインティング・ベクトルが −z-z 向きになる。進行方向と一致しており、ByB_{y} の相対符号が正しいことが確かめられる。

金属中で1階微分が出る理由

真空との違いは伝導電流 σE\sigma\boldsymbol E の項だけである。これは時間について1階の項 μ0σ∂tE\mu_{0}\sigma\partial_{t}E を生み、拡散方程式と同じ形になる。波動項 μ0ε∂t2E\mu_{0}\varepsilon\partial_{t}^{2}E とこの拡散項の比が εω/σ\varepsilon\omega/\sigma であり、良導体では拡散項が圧倒的に大きい。(3) の近似はこの比較そのものである。

失点しやすい点

金属中で ρe≠0\rho_{e}\ne0 と考えて grad⁡(div⁡E)\operatorname{grad}(\operatorname{div}\boldsymbol E) を残す答案があるが、垂直入射の平面波では E⊥ez\boldsymbol E\perp\boldsymbol e_{z} かつ E\boldsymbol E は zz のみに依存するので div⁡E=∂xEx=0\operatorname{div}\boldsymbol E=\partial_{x}E_{x}=0 が自動的に成り立つ。この一言を書いておくと安全である。

設問2 表皮深さとその物理的意味

根号の枝の選び方

i=±(1+i)/2\sqrt{i}=\pm(1+i)/\sqrt2 の2つの枝のうち、z>0z>0 で減衰する側(Im⁡k1>0\operatorname{Im}k_{1}>0)を選ぶ。増大する解は物理的に排除される。問題文が k1≅(1+i)/δk_{1}\cong(1+i)/\delta と与えているのはこの選択を指定しており、答案でも「減衰解をとる」と一言書いておく。

検算

δ\delta の次元は [μ0σω]−1/2[\mu_{0}\sigma\omega]^{-1/2} である。μ0σ\mu_{0}\sigma は磁気拡散率の逆数の次元をもつので δ∼2D/ω\delta\sim\sqrt{2D/\omega}(D=1/μ0σD=1/\mu_{0}\sigma)となり、拡散長の形をしている。σ→∞\sigma\to\infty で δ→0\delta\to0、すなわち完全導体では電磁波はまったく入らない、という極限も正しい。

図示するときに落としてはいけない点

「指数関数的に減衰する」だけでは不十分で、位相が回ること(符号が反転しながら減衰すること)を描く必要がある。減衰長と波長がどちらも δ\delta で決まり、1周期のあいだに振幅が e−2π≃2×10−3e^{-2\pi}\simeq2\times10^{-3} まで落ちることが図から読めるように、包絡線を点線で添える。

設問3 境界での反射率

方針

垂直入射の反射係数は、両側の波数の比だけで決まる。透磁率が両側で μ0\mu_{0} と共通なので、屈折率の比の代わりに kk と k1k_{1} をそのまま使える。k1k_{1} が複素数であることだけが真空--誘電体の場合との違いであり、絶対値の2乗をとる段階で実部と虚部を分けて計算する。

近似の順序

kδ≪1k\delta\ll1 の展開は2度必要である。まず ∣k∓k1∣2|k\mp k_{1}|^{2} を厳密に書き、そのあとで (kδ)2(k\delta)^{2} を落とす。先に kk を無視して ∣k−k1∣2≃∣k1∣2|k-k_{1}|^{2}\simeq|k_{1}|^{2} としてしまうと r≃1r\simeq1 しか出ず、求めるべき 2kδ2k\delta の項が消える。求める補正が1次の量なので、1次まで残す近似を最後まで保つ。

物理的な意味

1−r=2kδ1-r=2k\delta は金属に吸収されるエネルギーの割合である。k=ω/ck=\omega/c、δ=2/ωμ0σ\delta=\sqrt{2/\omega\mu_{0}\sigma} を入れると 1−r=2c2ωμ0σ 1-r=\frac{2}{c}\sqrt{\frac{2\omega}{\mu_{0}\sigma}} となり、吸収率が ω/σ\sqrt{\omega/\sigma} に比例する。これはハーゲン・ルーベンスの関係として知られ、良導体が低周波ほどよく反射する(金属が可視光より電波をよく反射する)ことを表す。

検算

σ→∞\sigma\to\infty では δ→0\delta\to0 となり r→1r\to1、完全導体は全反射する。逆に σ\sigma を小さくすると δ\delta が大きくなって kδ≪1k\delta\ll1 の仮定が破れ、この式は使えなくなる。近似の成立条件 σ/εω≫1\sigma/\varepsilon\omega\gg1 と kδ≪1k\delta\ll1 を答案に明記しておくこと。

電磁気学:金属への電磁波の入射と表皮効果の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 量子力学:一次元井戸の束縛状態と二重井戸の準位分裂

無限の壁では微分は連続でない

V=+∞V=+\infty の境界では波動関数だけが連続で、その微分は連続にならない。有限の井戸では ψ\psi と ψ′\psi' の両方をつなぐのに対し、ここで課す条件が ψ(0)=ψ(a)=0\psi(0)=\psi(a)=0 の2つだけなのはこのためである。この違いが c) d) の境界条件の非対称さ(x=0x=0 では1本、x=ax=a では2本)に直結する。

検算

n=1n=1 の基底状態は E1=π2ℏ2/(2ma2)E_{1}=\pi^{2}\hbar^{2}/(2ma^{2}) で、幅 aa が狭いほど、質量が小さいほど大きい。不確定性関係 Δp∼ℏ/a\Delta p\sim\hbar/a から E∼ℏ2/(2ma2)E\sim\hbar^{2}/(2ma^{2}) と見積もった値と、係数 π2\pi^{2} を除いて一致する。

設問2 片側が有限の壁の場合と束縛状態の存在条件

方針

超越方程式 −zcot⁡z=z02−z2-z\cot z=\sqrt{z_{0}^{2}-z^{2}} は解析的に解けないので、両辺を zz の関数として比較する。左辺が正になるのは z>π/2z>\pi/2 からであり、右辺は半径 z0z_{0} の四分円だから、z0z_{0} が π/2\pi/2 を超えるかどうかだけで交点の有無が決まる。これが Vmin⁡V_{\min} を与える。

対称井戸との対応

この系は、−a≤x≤a-a\le x\le a に幅 2a2a の対称な有限井戸を置いたときの奇パリティ状態と同じ方程式になる(x<0x<0 で ψ=0\psi=0 という条件は、奇関数が x=0x=0 で 00 になることと一致する)。対称井戸の偶パリティ状態は井戸がどんなに浅くても必ず1つ存在するが、奇パリティ状態は井戸が浅いと存在しない。Vmin⁡V_{\min} が有限値をもつ理由はここにある。

検算

V3→∞V_{3}\to\infty とすると z0→∞z_{0}\to\infty で交点は z→πz\to\pi、すなわち ka→πka\to\pi に近づく。これは b) の無限井戸の n=1n=1 ではなく n=2n=2 に見えるが、幅 2a2a の対称井戸の n=2n=2(奇関数)に対応しており、幅 aa の井戸の n=1n=1 とは別物である。実際 V3V_{3} が有限だと波動関数が x>ax>a にしみ出すので、kaka は π\pi より小さい。

失点しやすい点

ψ′\psi' の連続を x=0x=0 でも課してしまうと A=0A=0 となり自明解しか残らない。無限の壁では微分の連続を課さない、という約束を明示すること。また D=0D=0 の根拠を「x→∞x\to\infty で規格化できないから」と書き添えないと、一般解を並べただけの答案と区別されない。

設問3 二重井戸における準位の分裂

方針

「定性的に述べよ」とあるので、分裂の符号(どちらが低いか)、LL 依存性の型(指数関数)、極限値(縮退)の3点を押さえれば十分である。逆に、この3点のどれかが欠けると答案として不足になる。減衰定数 qq を (1) の記号で書けることが、前半とのつながりを示す手がかりになる。

どちらが低いかの見分け方

一次元では、節の数が少ない状態ほどエネルギーが低い。u+u^{+} は障壁の中心で節をもたず、u−u^{-} は x=0x=0 に節をもつので E+<E−E_{+}<E_{-} である。分子軌道の結合性軌道・反結合性軌道と同じ構図で、u+u^{+} が結合性、u−u^{-} が反結合性に相当する。

物理的な意味

ΔE\Delta E は2つの井戸のあいだを粒子が行き来する振動の角振動数 ΔE/ℏ\Delta E/\hbar を与える。LL が大きいほど往復に要する時間が指数関数的に長くなり、L→∞L\to\infty では粒子は最初にいた井戸に留まり続ける。アンモニア分子の反転二重項や、二重量子井戸のトンネル分裂と同じ現象である。

失点しやすい点

「LL が大きくなると差が小さくなる」とだけ書いて、減り方が指数関数的であることに触れない答案が多い。障壁中で波動関数が e−qxe^{-qx} で減衰し、障壁の幅が 2L2L であることを示せば、e−2qLe^{-2qL} という形はすぐに書ける。また L→∞L\to\infty で「差が 00 に近づく」だけでなく「二重縮退になる」と述べると、左右の井戸が独立になるという結論まで伝わる。

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第4問 — 統計力学:2準位の光子気体とカノニカル・グランドカノニカル

方針

光子はボース粒子なので1つの準位に何個でも入れる。状態を指定するのは N1N_{1} ひとつだけであり、和は N1N_{1} についての等比数列になる。NN が有限のうちは和も有限項で、(N+1)(N+1) 項の等比和の公式を使う。ここで無限和に飛ばしてしまうと b) の答えが NN を含まなくなり、d) で N≫1N\gg1 を課す意味が失われる。

検算(極限)

T→0T\to0(βΔ→∞\beta\Delta\to\infty)では ZN→e−βNε0Z_{N}\to e^{-\beta N\varepsilon_{0}}、p(0)→1p(0)\to1、⟨N1⟩→0\langle N_{1}\rangle\to0 となり、全光子が基底準位に落ちる。逆に T→∞T\to\infty(βΔ→0\beta\Delta\to0)では p(N1)→1/(N+1)p(N_{1})\to1/(N+1) で N+1N+1 個の状態が等確率になり、⟨N1⟩≃kBT/Δ→∞\langle N_{1}\rangle\simeq k_{\mathrm B}T/\Delta\to\infty と発散する。どちらも直観と合う。

⟨N1⟩\langle N_{1}\rangle の形の読み方

得られた 1/(eβΔ−1)1/(e^{\beta\Delta}-1) はボース分布そのもので、化学ポテンシャルを ε0\varepsilon_{0} とみなしたときの準位 ε1\varepsilon_{1} の占有数に等しい。粒子数を固定したカノニカル計算からこの形が出てくることが、(2) c) の比較の伏線になっている。

設問2 グランドカノニカル分布による記述

別解:二重和の組み替え

ZN=∑N1=0Ne−β[(N−N1)ε0+N1ε1]Z_{N}=\sum_{N_{1}=0}^{N}e^{-\beta[(N-N_{1})\varepsilon_{0}+N_{1}\varepsilon_{1}]} を代入し、N0=N−N1N_{0}=N-N_{1} を独立変数にとると、(N,N1)(N,N_{1}) についての三角形状の和が (N0,N1)(N_{0},N_{1}) についての正方形状の和に変わる。 Ξ=∑N0=0∞eβN0(μ−ε0)∑N1=0∞eβN1(μ−ε1) \Xi=\sum_{N_{0}=0}^{\infty}e^{\beta N_{0}(\mu-\varepsilon_{0})} \sum_{N_{1}=0}^{\infty}e^{\beta N_{1}(\mu-\varepsilon_{1})} と分離できるので、2つの等比級数の積として即座に式 (1) が出る。答案としてはこちらのほうが短く、なぜ積の形になるのかも見える。

結果の意味

Ξ\Xi が2つの因子の積になったのは、グランドカノニカル分布では各準位の占有数が独立に揺らぐからである。⟨N⟩\langle N\rangle が各準位のボース分布の和になったこともこれと整合する。この独立性はカノニカル分布では成り立たず(N0+N1=NN_{0}+N_{1}=N の拘束がある)、その違いが c) の考察の主題になる。

収束条件

u=eβ(μ−ε0)<1u=e^{\beta(\mu-\varepsilon_{0})}<1、すなわち μ<ε0\mu<\varepsilon_{0} が必要である。ボース気体で化学ポテンシャルが最低準位のエネルギーを超えられないという一般的な事情そのもので、答案に明記しておくと丁寧である。

設問3 化学ポテンシャルの近似と両分布の比較

方針

μ\mu を求める鍵は、大きな粒子数を担うのが基底準位だけだと見抜くことである。励起準位の占有数は温度で決まる有限値に飽和するので、⟨N⟩\langle N\rangle を大きくするには μ\mu を ε0\varepsilon_{0} に下から限りなく近づけるしかない。その「近づき方」が kBT/⟨N⟩k_{\mathrm B}T/\langle N\rangle である。

一致する理由

統計集団の違いは、示量変数の相対的な揺らぎが 1/⟨N⟩1/\sqrt{\langle N\rangle} 程度であることから、粒子数が大きい極限で消える(集団の等価性)。ここではさらに、拘束 N0+N1=NN_{0}+N_{1}=N が効くのは N1N_{1} が NN に近いときだけであり、その確率が e−NβΔe^{-N\beta\Delta} と指数的に小さいので、N≫1N\gg1 では拘束が実質的に外れる、と説明することもできる。

高次の差

厳密には ε1−μ=Δ+kBT/⟨N⟩\varepsilon_{1}-\mu=\Delta+k_{\mathrm B}T/\langle N\rangle なので、グランドカノニカルの ⟨N1⟩\langle N_{1}\rangle はカノニカルの値より O(1/⟨N⟩)O(1/\langle N\rangle) だけ小さい。「完全に同一」ではなく「1/⟨N⟩1/\langle N\rangle の補正を除いて一致する」と書けば、より正確である。25字程度という指定なので、答案には一致することだけを書き、補正の話は口頭試問向けに留めてよい。

この設問が試していること

同じ物理系をカノニカルとグランドカノニカルの両方で解かせ、熱力学極限で結果が一致することを自分で確かめさせる構成になっている。μ≃ε0−kBT/⟨N⟩\mu\simeq\varepsilon_{0}-k_{\mathrm B}T/\langle N\rangle は、ボース・アインシュタイン凝縮で化学ポテンシャルが最低準位に貼り付く様子を最小の模型で見せたもので、⟨N⟩→∞\langle N\rangle\to\infty で μ→ε0\mu\to\varepsilon_{0} となることが凝縮の出発点になる。

統計力学:2準位の光子気体とカノニカル・グランドカノニカルの途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 分野:第5問の内容を表す短い見出し

方針

最初の一手とその理由。

検算

数値代入・極限・境界値などによる確認。

失点しやすい点

よくある誤りと、答案に明示すべき前提。

分野:第5問の内容を表す短い見出しの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2025年度(全5問)

    力学:逆二乗引力中の軌道方程式と散乱条件 / 電磁気学:真空中の平面電磁波と境界条件からのスネルの法則 / 量子力学:無限井戸に置いた段差ポテンシャルの摂動論

  • 2024年度(全5問)

    力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2023年度(全5問)

    力学:ばねで結ばれた二質点 / 電磁気学:導体球と球殻 / 量子力学:円周上の粒子

  • 2022年度(このページ・全5問)

    力学:二輪台車の駆動と荷重移動 / 電磁気学:金属への電磁波の入射と表皮効果 / 量子力学:一次元井戸の束縛状態と二重井戸の準位分裂

  • 2021年度(全5問)

    減衰振動と強制振動 / 回転コイルの起電力 / 調和振動子と摂動

  • 2020年度(全5問)

    量子力学:静磁場中のスピンと期待値の歳差運動 / 力学:台車に吊るされた振り子のラグランジュ形式 / 物理数学:ベクトル解析の遠方展開と拡散方程式のフーリエ解

2022年度の出題内容

全5問

この5問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学二輪台車の駆動と荷重移動荷重移動の読み方 / この式の適用範囲あり
第2問電磁気学・回路金属への電磁波の入射と表皮効果符号の検算 / 金属中で1階微分が出る理由あり
第3問量子力学一次元井戸の束縛状態と二重井戸の準位分裂無限の壁では微分は連続でない / 対称井戸との対応あり
第4問熱・統計力学2準位の光子気体とカノニカル・グランドカノニカル検算(極限) / 〈 N_1〉 の形の読み方あり
第5問第5問の内容を表す短い見出し—あり

2022年度の解説には検算4件・失点しやすい点4件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2021年度)との違い

大問数
2021年度 5問 → 2022年度 5問
2021年度の解答例

東北大学の公式過去問

公開年度範囲
平成26年〜令和7年(2014〜2025)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
院試hubの最終確認
2026-09-26
東北大学の公式過去問PDF