院試hub

金沢大 自然科学研究科 数物科学専攻 数学コース 数学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は線形代数2問、微分積分・解析2問、位相・幾何1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 線形代数:固有空間・広義固有空間とJordan標準形

方針

固有多項式が (λ−1)3(\lambda-1)^3 と完全に退化するので、AA の情報はすべて N=A−IN=A-I の冪零性に移る。rank⁡N=1\operatorname{rank}N=1 から dim⁡W1=2\dim W_1=2、N2=ON^2=O から W1~=R3\widetilde{W_1}=\mathbb{R}^3 が出て、この2つでJordan形が確定する。行列式の展開のあとは連立一次方程式が1本しか残らない、という構造を早く見抜けると計算量が大きく減る。

ブロック分割が決まる仕組み

固有値 λ\lambda に属するJordanブロックの個数は dim⁡ker⁡(A−λI)\dim\ker(A-\lambda I)、大きさの総和は代数的重複度である。本問では個数 22、総和 33 なので 2+12+1 以外にない。もし dim⁡W1=3\dim W_1=3 なら対角化可能、dim⁡W1=1\dim W_1=1 なら大きさ 33 の1ブロックであった。次元を数えるだけで形が決まるので、(A−I)2(A-I)^2 を計算する前に見通しが立つ。

検算

固有値の検算は跡と行列式で行う。tr⁡A=−1+2+2=3\operatorname{tr}A=-1+2+2=3 は 1+1+11+1+1 に、det⁡A=1\det A=1 は 131^3 に一致する。変換行列の検算は P−1P^{-1} を求めるまでもなく、Ap1=p1A\mathbf{p}_1=\mathbf{p}_1、Ap3=p1+p3A\mathbf{p}_3=\mathbf{p}_1+\mathbf{p}_3、Ap2=p2A\mathbf{p}_2=\mathbf{p}_2 の3本を直接確かめれば十分である。たとえば p3=(0,1,0)T\mathbf{p}_3=(0,1,0)^{\mathsf T} に対し Ap3=(−1,2,1)TA\mathbf{p}_3=(-1,2,1)^{\mathsf T} で、これは p1+p3\mathbf{p}_1+\mathbf{p}_3 に等しい。

失点しやすい点

第一に、WλW_\lambda と Wλ~\widetilde{W_\lambda} を同一視しないこと。本問では前者が2次元、後者が全空間で、次元が違う。第二に、鎖の向きを逆にしないこと。(A−I)p3=p1(A-I)\mathbf{p}_3=\mathbf{p}_1 であって (A−I)p1=p3(A-I)\mathbf{p}_1=\mathbf{p}_3 ではない。逆に取ると標準形の 11 の位置がずれる。第三に、(A−I)2=O(A-I)^2=O を対角化可能の根拠だと誤解しないこと。対角化可能性は dim⁡W1\dim W_1 が代数的重複度に等しいかどうかで決まる。

答案に書く順序

固有多項式と固有値、rank⁡(A−I)=1\operatorname{rank}(A-I)=1 と W1W_1 の基底、(A−I)2=O(A-I)^2=O と W1~=R3\widetilde{W_1}=\mathbb{R}^3、そしてJordan鎖 p3↦p1↦0\mathbf{p}_3\mapsto\mathbf{p}_1\mapsto\mathbf{0} と PP の順に書く。最後に「どの順序の基底に関する表示か」を一言添えると、上三角部分の 11 の位置に関する減点を避けられる。列を (p1,p2,p3)(\mathbf{p}_1,\mathbf{p}_2,\mathbf{p}_3) の順にすると 11 は (1,3)(1,3) 成分に移る。

解答

(1) 固有値

問題の行列を AA、II を3次単位行列とする。固有多項式は det⁡(λI−A)=det⁡(λ+111−2λ−2−1−2−1λ−2) \det(\lambda I-A) = \det \begin{pmatrix} \lambda+1 & 1 & 1\\ -2 & \lambda-2 & -1\\ -2 & -1 & \lambda-2 \end{pmatrix} である。第1行に沿って余因子展開すると det⁡(λI−A)=(λ+1){(λ−2)2−1}−{−2(λ−2)−2}+{2+2(λ−2)}=(λ+1)(λ−1)(λ−3)+(2λ−2)+(2λ−2)=(λ−1){(λ+1)(λ−3)+4}=(λ−1)(λ2−2λ+1)=(λ−1)3. \begin{aligned} \det(\lambda I-A) &=(\lambda+1)\bigl\{(\lambda-2)^2-1\bigr\} -\bigl\{-2(\lambda-2)-2\bigr\} +\bigl\{2+2(\lambda-2)\bigr\}\\ &=(\lambda+1)(\lambda-1)(\lambda-3)+(2\lambda-2)+(2\lambda-2)\\ &=(\lambda-1)\bigl\{(\lambda+1)(\lambda-3)+4\bigr\}\\ &=(\lambda-1)(\lambda^2-2\lambda+1) =(\lambda-1)^3 . \end{aligned} したがって固有値は λ=1\lambda=1 のみで、その代数的重複度は 33 である。

(2) 固有空間と広義固有空間

固有値は λ=1\lambda=1 だけなので、調べるべきは W1W_1 と W1~\widetilde{W_1} である。 A−I=(−2−1−1211211) A-I= \begin{pmatrix} -2&-1&-1\\ 2&1&1\\ 2&1&1 \end{pmatrix} であり、第1行は第2行の (−1)(-1) 倍、第3行は第2行に等しいから rank⁡(A−I)=1\operatorname{rank}(A-I)=1 である。よって x=(x,y,z)T\mathbf{x}=(x,y,z)^{\mathsf T} に対し (A−I)x=0(A-I)\mathbf{x}=\mathbf{0} は1本の方程式 2x+y+z=0 2x+y+z=0 と同値である。したがって W1=ker⁡(A−I)={(xy−2x−y)  |  x,y∈R}=span⁡{(−111),(1−20)},dim⁡W1=2. W_1=\ker(A-I) =\left\{ \begin{pmatrix}x\\y\\-2x-y\end{pmatrix} \;\middle|\; x,y\in\mathbb{R} \right\} =\operatorname{span} \left\{ \begin{pmatrix}-1\\1\\1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1\\-2\\0\end{pmatrix} \right\}, \qquad \dim W_1=2 .

次に (A−I)2=(−2−1−1211211)(−2−1−1211211)=O (A-I)^2= \begin{pmatrix} -2&-1&-1\\ 2&1&1\\ 2&1&1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} -2&-1&-1\\ 2&1&1\\ 2&1&1 \end{pmatrix} =O である。実際、左の行列のどの行 (c1,c2,c3)(c_1,c_2,c_3) も 2c1+c2+c3=02c_1+c_2+c_3=0 を満たし、右の行列の各列は (−2,2,2)T(-2,2,2)^{\mathsf T} の定数倍だから、内積はすべて 00 になる。よって任意の x∈R3\mathbf{x}\in\mathbb{R}^3 が m=2m=2 に対して (A−I)2x=0(A-I)^2\mathbf{x}=\mathbf{0} を満たすので W1~=R3,dim⁡W1~=3. \widetilde{W_1}=\mathbb{R}^3,\qquad \dim\widetilde{W_1}=3 . これは広義固有空間の次元が代数的重複度に等しいという一般的事実とも合っている。

(3) Jordan標準形を与える正則行列

Jordanブロックの個数は dim⁡W1=2\dim W_1=2、大きさの総和は 33 であるから、ブロックの大きさは 22 と 11 である。実際 A−I≠OA-I\ne O かつ (A−I)2=O(A-I)^2=O なので最小多項式は (λ−1)2(\lambda-1)^2 であり、最大ブロックの大きさはちょうど 22 である。

長さ 22 のJordan鎖を作る。p3=(0,1,0)T\mathbf{p}_3=(0,1,0)^{\mathsf T} とおくと p1:=(A−I)p3=(−111)≠0,(A−I)p1=0 \mathbf{p}_1:=(A-I)\mathbf{p}_3=\begin{pmatrix}-1\\1\\1\end{pmatrix}\ne\mathbf{0}, \qquad (A-I)\mathbf{p}_1=\mathbf{0} であるから、p1\mathbf{p}_1 は固有ベクトル、p3\mathbf{p}_3 は階数 22 の広義固有ベクトルである。さらに W1W_1 の中で p1\mathbf{p}_1 と一次独立な固有ベクトルとして p2=(1,−2,0)T\mathbf{p}_2=(1,-2,0)^{\mathsf T} を取る。

そこで列を鎖の順に並べて P=(p1  p3  p2)=(−10111−2100) P=(\mathbf{p}_1\ \ \mathbf{p}_3\ \ \mathbf{p}_2) = \begin{pmatrix} -1&0&1\\ 1&1&-2\\ 1&0&0 \end{pmatrix} とおく。第3行に沿って展開すると det⁡P=1⋅(0⋅(−2)−1⋅1)=−1≠0\det P=1\cdot(0\cdot(-2)-1\cdot 1)=-1\ne 0 なので PP は正則である。このとき Ap1=p1,Ap3=p1+p3,Ap2=p2 A\mathbf{p}_1=\mathbf{p}_1,\qquad A\mathbf{p}_3=\mathbf{p}_1+\mathbf{p}_3,\qquad A\mathbf{p}_2=\mathbf{p}_2 であるから、列ごとに比べて AP=P(110010001),すなわちP−1AP=(110010001). AP=P \begin{pmatrix} 1&1&0\\ 0&1&0\\ 0&0&1 \end{pmatrix}, \qquad\text{すなわち}\qquad P^{-1}AP= \begin{pmatrix} 1&1&0\\ 0&1&0\\ 0&0&1 \end{pmatrix}.

最終答

λ=1\lambda=1(ただ一つ。代数的重複度 33)

W1={ x∣2x+y+z=0 }=span⁡{(−1,1,1)T,(1,−2,0)T}W_1=\{\,\mathbf{x}\mid 2x+y+z=0\,\}=\operatorname{span}\{(-1,1,1)^{\mathsf T},(1,-2,0)^{\mathsf T}\}(2次元)、W1~=R3\widetilde{W_1}=\mathbb{R}^3(3次元)

P=(−10111−2100)に対してP−1AP=(110010001). P= \begin{pmatrix} -1&0&1\\ 1&1&-2\\ 1&0&0 \end{pmatrix} \quad\text{に対して}\quad P^{-1}AP= \begin{pmatrix} 1&1&0\\ 0&1&0\\ 0&0&1 \end{pmatrix}.

第2問 — 線形代数:交換子で定まる線形写像の表現行列

方針

A=I+aNA=I+aN と分けるのが要点である。単位行列は中心元なので交換子には効かず、f(X)=a(NX−XN)f(X)=a(NX-XN) となって、パラメータ aa は全体の定数倍として外に出る。以後は N=E12N=E_{12} との交換子という1つの計算をするだけでよく、aa の場合分けも「a=0a=0 か否か」に単純化される。

表現行列は基底の順序込みで決まる

FF の第 jj 列は f(第j基底)f(\text{第}j\text{基底}) の座標であって、第 jj 行ではない。ここを取り違えると転置した行列を書くことになる。本問の FF は対称でも交代でもないので、転置すると (3) の答えが変わってしまう。答案には「基底 SS をこの順に並べたときの表現行列」と一言添える。

像と核の意味

交換子は必ず跡が 00 である(tr⁡(AX)=tr⁡(XA)\operatorname{tr}(AX)=\operatorname{tr}(XA))から、Im⁡f\operatorname{Im}f は跡 00 の行列全体(3次元)に含まれる。実際に得られた像 span⁡{E12,E11−E22}\operatorname{span}\{E_{12},E_{11}-E_{22}\} は確かにその部分空間である。一方 ker⁡f\ker f は AA と可換な行列全体であり、a≠0a\ne0 のとき AA は対角化できないJordanブロックなので、可換なものは AA の多項式 xI+yNxI+yN に限られる。これが ker⁡f=span⁡{I,E12}\ker f=\operatorname{span}\{I,E_{12}\} の意味である。

検算

I∈ker⁡fI\in\ker f は aa の値によらず必ず成り立つので、核が {O}\{O\} になることはあり得ない。したがって dim⁡Im⁡f≤3\dim\operatorname{Im}f\le3 であり、ff が全射になる可能性は最初から無い。また a≠0a\ne0 のとき dim⁡Im⁡f+dim⁡ker⁡f=2+2=4=dim⁡V\dim\operatorname{Im}f+\dim\ker f=2+2=4=\dim V となって次元定理と整合する。a=0a=0 のときも 0+4=40+4=4 で整合する。

失点しやすい点

第一に、a=0a=0 の場合を書き落とさないこと。設問は「dim⁡Im⁡f=2\dim\operatorname{Im}f=2 となる aa の範囲」なので、a=0a=0 を除くという結論そのものが解答の一部である。第二に、核を「AA と可換な行列」と言葉で書くだけで終えず、基底を2本明示すること。第三に、f(X)f(X) を成分計算する場合は AXAX と XAXA の順序を混同しないこと。A=I+aNA=I+aN の分解を使えばこの誤りは避けられる。

線形代数:交換子で定まる線形写像の表現行列の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 微分積分:狭義凸性と零点の一意性

方針

(1) は「分点で切って左右に平均値の定理」という定型である。左側の傾き f′(ξ)f'(\xi) より右側の傾き f′(η)f'(\eta) の方が大きい、という一言に f′′>0f''>0 がすべて集約される。(2) は存在(中間値の定理、連続性だけを使う)と一意性(凸性を使う)を分けて書くと、どの仮定をどこで使ったかが明確になる。

仮定が開区間だけである点

f′′>0f''>0 は開区間 (a,b)(a,b) 上でしか仮定されていない。しかし平均値の定理で得られる ξ,η\xi,\eta は必ず開区間の内部に取れるので、端点で f′′f'' の符号を仮定しなくても f′(ξ)<f′(η)f'(\xi)<f'(\eta) が言える。答案では ξ,η∈(a,b)\xi,\eta\in(a,b) を明記しておくと、この点を意識していることが伝わる。

一意性の要点

零点が2つあると仮定したとき、その一方を「端点ともう一方の零点の内分点」として表すのが要点である。凸性の不等式に代入すると、右辺には f(端点)f(\text{端点}) の項だけが残り、その符号が負であることから即座に矛盾が出る。端点の値が異符号という仮定は、まさにこの一手のために置かれている。

条件の必要性

f(a)f(b)<0f(a)f(b)<0 を外すと一意性は崩れる。たとえば I=[−2,2]I=[-2,2]、f(x)=x2−1f(x)=x^2-1 は f′′=2>0f''=2>0 を満たすが零点は ±1\pm1 の2つある。このとき f(−2)f(2)=9>0f(-2)f(2)=9>0 であり、確かに仮定を満たしていない。狭義凸関数の零点は高々2個であって、1個に絞るには端点の符号条件が要る。

失点しやすい点

一意性をロルの定理だけで済ませようとすると、f′(ξ)=0f'(\xi)=0 となる点の存在が言えるだけで矛盾には届かない。また「凸だから零点は高々2個」で止めるのも不十分である。(1) で示した不等式をそのまま道具として使う、という流れを答案に書く。

微分積分:狭義凸性と零点の一意性の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 微分積分:単位円板上の関数の極限と広義積分

(1) と (2) のつながり

(1) の曲線は、aa を動かすと (1,0)(1,0) へ「円周に接するように」近づく曲線の族になっている。実際 1−x2−y21-x^2-y^2 は PθP_\theta 上で θ4\theta^4 の程度で 00 に近づき、分子 1−x=1−cos⁡θ1-x=1-\cos\theta も θ2\theta^2 の程度なので、比が有限の正の値に落ち着く。誘導に従って (1) の曲線を (2) の経路に使う、という読み方ができるかどうかが分かれ目である。

直線では反例にならない理由

(1,0)(1,0) を通る直線 y=k(1−x)y=k(1-x) に沿うと 1−x2−y2=(1−x){(1+x)−k2(1−x)} 1-x^2-y^2=(1-x)\bigl\{(1+x)-k^2(1-x)\bigr\} であり、x→1−0x\to1-0 で中括弧は 22 に近づくから f∼1−x2(1−x)=1−x2→0 f\sim\frac{1-x}{\sqrt{2(1-x)}}=\sqrt{\frac{1-x}{2}}\to0 となる。つまりどの直線に沿っても極限は 00 で、直線だけを調べていては非存在を示せない。境界円に接する経路を取って初めて別の値が現れる。

一般化

定数 c>0c>0 に対して 1−x2−y2=c(1−x)21-x^2-y^2=c(1-x)^2 を満たす点、すなわち y2=(1−x){(1+x)−c(1−x)}y^2=(1-x)\{(1+x)-c(1-x)\} 上では ff の値は恒等的に 1/c1/\sqrt{c} である。cc を選べば任意の正の値が極限として実現でき、c→∞c\to\infty とすれば 00 にも近づく。つまり (1,0)(1,0) の近くで ff は (0,∞)(0,\infty) のあらゆる値を取る。(2) はこの事実の一例を示せば足りる。

(3) の検算

奇関数の項を落とすと残りは ∬D(1−x2−y2)−1/2dxdy\iint_D(1-x^2-y^2)^{-1/2}dxdy である。これは半径 11 の上半球面の面積 2π2\pi に等しく、得られた値と一致する。実際、上半球面 z=1−x2−y2z=\sqrt{1-x^2-y^2} の面積要素は (1−x2−y2)−1/2dxdy(1-x^2-y^2)^{-1/2}dxdy である。値が 2π2\pi と有限になること自体も、境界での特異性が (1−r)−1/2(1-r)^{-1/2} の程度でしかないことと整合している。

失点しやすい点

(1) では a=0a=0 と a=2a=2 を含めてしまう誤りが多い。a=0a=0 では点が単位円周上に載り、a=2a=2 では θ=π/2\theta=\pi/2 のとき点が (0,−1)(0,-1) となって、いずれも開円板 DD の外である。境界を含むか否かを最後に確認する。(3) ではヤコビアンの rr を落とすと値が変わる。また 1−x1-x の xx の項を「対称性で 00」と書く際は、DD が原点対称であることを一言添える。

微分積分:単位円板上の関数の極限と広義積分の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 複素解析:3位の極の留数と実軸上の広義積分

方針

極の位数を最初に確定させるのが要点である。(z2+1)3(z^2+1)^3 は z=±iz=\pm i をそれぞれ3位の零点にもつので、留数は「(z−i)3(z-i)^3 を掛けてから2階微分し、2!2! で割る」で得られる。以後は留数定理、弧上の評価、偶関数性という3つの定型作業を順に並べるだけである。

実積分による検算

x=tan⁡ϑx=\tan\vartheta と置換すると dx=sec⁡2ϑ dϑdx=\sec^2\vartheta\,d\vartheta、(x2+1)3=sec⁡6ϑ(x^2+1)^3=\sec^6\vartheta だから ∫0∞dx(x2+1)3=∫0π/2cos⁡4ϑ dϑ=34⋅12⋅π2=3π16 \int_0^\infty\frac{dx}{(x^2+1)^3} =\int_0^{\pi/2}\cos^4\vartheta\,d\vartheta =\frac34\cdot\frac12\cdot\frac{\pi}{2} =\frac{3\pi}{16} となり、留数計算の結果と一致する(最後はウォリスの公式)。時間があればこの置換で検算しておくと、2!2! や 1/21/2 の掛け忘れをその場で発見できる。

弧上の評価の向き

∣z2+1∣|z^2+1| は下から評価する必要があるので、∣z2+1∣≥∣z2∣−1|z^2+1|\ge|z^2|-1 を使う。ここを ∣z2+1∣≤R2+1|z^2+1|\le R^2+1 と上から評価してしまうと、分母の評価としては役に立たない。弧長 πR\pi R との積が R−5R^{-5} の程度で 00 に収束することまで書いて初めて、極限操作が正当化される。

留数の値の見方

(2i)5(2i)^5 は i5=ii^5=i なので 32i32i である。ここで i5=−ii^5=-i と誤ると符号が反転し、(2) の答えが負になってしまう。線積分の値 3π/83\pi/8 は正の実数であり、xx 軸上で被積分関数が正であることと整合するので、符号の検算に使える。

失点しやすい点

第一に、位数 33 に対応する 1/2!1/2! を落とすこと。第二に、下半平面の極 −i-i まで数えてしまうこと。C(R)C(R) は上半円なので −i-i は囲まれていない。第三に、最後の 1/21/2 倍を忘れて 3π/83\pi/8 と答えること。設問が問うているのは 00 から ∞\infty までの積分である。

複素解析:3位の極の留数と実軸上の広義積分の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 位相空間:2点集合上の位相と連続写像

この問題が試していること

位相・連結・連続・分離公理という4つの定義を、要素数2という最小の例の上で正確に運用できるかを見ている。定理を引用する場面はほとんどなく、開集合を列挙して定義に当てはめる作業がそのまま答案になる。逆に言えば、定義のどこを確かめたのかが読み取れない答案は評価されない。

この位相の性質

{1}\{1\} は開だが閉でなく、{0}\{0\} は閉だが開でない。したがって2点は位相的に区別できる(一方だけを含む開集合がある)が、両方をそれぞれの開集合で分離することはできない。これは T0T_0 ではあるが T1T_1 でも T2T_2 でもない、という状況である。(2) と (4) を合わせると、連結性と分離公理が互いに独立な性質であることの具体例にもなっている。

(3) の意味

AA の特性関数が連続であることと AA が開集合であることが同値、という主張は、この2点空間が「開集合を分類する空間」であることを述べている。実際 (3) により、XX から YY への連続写像全体と XX の開集合全体が1対1に対応する。単なる計算問題ではなく、この空間がなぜ重要かを示す設問である。

答案の書き方

(1) では「任意個の合併」について述べる必要があるが、本問では OY\mathcal{O}_Y が有限族なので部分族をすべて列挙してよい。一般の位相空間で使う議論をそのまま持ち込むより、有限性を明示して尽くす方が短く確実である。(3) は必要十分条件なので両方向を書く。片方だけでは半分の得点になる。

失点しやすい点

(2) で「開かつ閉な集合が ∅\varnothing と YY だけ」と書く場合は、閉集合が Y,{0},∅Y,\{0\},\varnothing であることを先に述べる。これを省くと結論だけの記述になる。(4) では「点 00 の開近傍は YY しかない」という一点が議論の全体を決めるので、必ず明記する。また、{0}\{0\} が開集合でないことを確認せずにハウスドルフ性を否定すると、根拠が抜けた答案になる。

位相空間:2点集合上の位相と連続写像の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(全6問)

    Jordan標準形 / 交代化写像 / 指数関数の独立性

  • 2025年度(全6問)

    Jordan 標準形 / 左からの行列積 / 一様連続性

  • 2024年度(全6問)

    固有空間とJordan形 / 線形写像と核・像 / 最大値評価

  • 2023年度(このページ・全6問)

    線形代数:固有空間・広義固有空間とJordan標準形 / 線形代数:交換子で定まる線形写像の表現行列 / 微分積分:狭義凸性と零点の一意性

  • 2022年度(全6問)

    線形代数:固有空間・広義固有空間とジョルダン標準形 / 線形代数:1次分数変換が誘導する多項式空間の線形写像 / 解析:一様連続性の定義と判定

  • 2021年度(全6問)

    線形代数:固有値・固有空間とJordan標準形 / 線形代数:像と核による直和分解 / 微分積分:導関数が消えない関数の単調性

2023年度の出題内容

全6問

この6問の分野は線形代数2問・微分積分・解析2問・位相・幾何1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数固有空間・広義固有空間とJordan標準形ブロック分割が決まる仕組みあり
第2問線形代数交換子で定まる線形写像の表現行列表現行列は基底の順序込みで決まる / 像と核の意味あり
第3問微分積分・解析狭義凸性と零点の一意性仮定が開区間だけである点 / 一意性の要点あり
第4問微分積分・解析単位円板上の関数の極限と広義積分(1) と (2) のつながり / 直線では反例にならない理由あり
第5問—複素解析:3位の極の留数と実軸上の広義積分実積分による検算 / 弧上の評価の向きあり
第6問位相・幾何2点集合上の位相と連続写像この問題が試していること / この位相の性質あり

2023年度の解説には失点しやすい点6件・検算2件・答案に書く順序1件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2022年度)との違い

大問数
2022年度 6問 → 2023年度 6問
2022年度の解答例

金沢大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度(直近3年分)
公式の解答例
全年度・全科目で公開
院試hubの最終確認
2026-08-13
金沢大学の公式過去問PDF