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金沢大 自然科学研究科 数物科学専攻 数学コース 数学 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問の分野は線形代数2問、位相・幾何1問、微分積分・解析1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 線形代数:固有空間・広義固有空間とジョルダン標準形

方針

固有値を特性多項式から求め、重複度と固有空間の次元を比べる。λ=1\lambda=1 では重複度 22 に対し固有ベクトルが1本しか取れないので、対角化はできず、不足分を広義固有ベクトルで補うことになる。この「次元の不足」がそのままジョルダンブロックの大きさに翻訳される。

広義固有空間をどこで止めるか

ker⁡B⊂ker⁡B2⊂ker⁡B3⊂⋯\ker B\subset\ker B^{2}\subset\ker B^{3}\subset\cdots は増大列だが、どこかで止まる。本問では B3=B2B^{3}=B^{2} が成り立つので、m≥2m\ge2 のすべてで ker⁡Bm=ker⁡B2\ker B^{m}=\ker B^{2} であり、この一行を書けば W1~=ker⁡B2\widetilde{W_{1}}=\ker B^{2} の根拠になる。一般論を使うなら、広義固有空間の次元は代数的重複度に等しいので、dim⁡ker⁡B2=2\dim\ker B^{2}=2 を確かめた時点で打ち切ってよい。

検算

求めた PP と J=P−1APJ=P^{-1}AP について、跡と行列式で確認できる。 tr⁡A=−2+4+2=4=1+1+2=tr⁡J,det⁡A=2=1⋅1⋅2=det⁡J. \operatorname{tr}A=-2+4+2=4=1+1+2=\operatorname{tr}J, \qquad \det A=2=1\cdot1\cdot2=\det J. さらに Ap1=p1Ap_{1}=p_{1}、Ap2=p1+p2Ap_{2}=p_{1}+p_{2}、Ap3=2p3Ap_{3}=2p_{3} の3本を確かめれば、列ごとの関係から AP=PJAP=PJ が直ちに従う。行列の逆行列 P−1P^{-1} を実際に求める必要はない。

典型ミス

ジョルダン鎖の向きを取り違えて Bp1=p2Bp_{1}=p_{2} と書くと、標準形の 11 の位置が転置側に移ってしまう。正しくは固有ベクトルでない p2p_{2} の方が BB で p1p_{1} へ落ちる。また W1W_{1} と W1~\widetilde{W_{1}} を同一視すると、固有ベクトルが2本あることになり「対角化可能」という誤った結論に至る。両者の次元が 11 と 22 で異なることが本問の核心である。

答案に書くべきこと

特性多項式の因数分解、各固有値の重複度、WλW_{\lambda} と Wλ~\widetilde{W_{\lambda}} の基底、PP の各列が何であるか(固有ベクトル2本と広義固有ベクトル1本)、そして Bp2=p1Bp_{2}=p_{1} の確認。この5点を書けば、P−1P^{-1} を計算しなくても完答になる。列の順序を変えれば 11 の位置も変わるので、どの順序の基底に関する表示かを一言添えるとよい。

解答

(1) 固有値

特性多項式を第1行に沿って展開すると det⁡(λE−A)=(λ+2){(λ−4)(λ−2)−2}+3{3(λ−2)+2}+{6+2(λ−4)}=(λ+2)(λ2−6λ+6)+3(3λ−4)+(2λ−2)=λ3−4λ2+5λ−2=(λ−1)2(λ−2) \begin{aligned} \det(\lambda E-A) &=(\lambda+2)\bigl\{(\lambda-4)(\lambda-2)-2\bigr\} +3\bigl\{3(\lambda-2)+2\bigr\} +\bigl\{6+2(\lambda-4)\bigr\}\\ &=(\lambda+2)(\lambda^{2}-6\lambda+6)+3(3\lambda-4)+(2\lambda-2)\\ &=\lambda^{3}-4\lambda^{2}+5\lambda-2\\ &=(\lambda-1)^{2}(\lambda-2) \end{aligned} となる。したがって固有値は λ=1(代数的重複度2),λ=2(代数的重複度1) \lambda=1\quad(\text{代数的重複度}2), \qquad \lambda=2\quad(\text{代数的重複度}1) の2つである。

(2) 固有空間と広義固有空間

まず λ=1\lambda=1 を扱う。B=A−EB=A-E とおくと B=(−33−1−33−12−21) B= \begin{pmatrix} -3&3&-1\\ -3&3&-1\\ 2&-2&1 \end{pmatrix} である。第1行と第2行が一致し、第3行はそれらの定数倍ではないので rank⁡B=2\operatorname{rank}B=2、よって dim⁡ker⁡B=1\dim\ker B=1 である。連立方程式 −3x+3y−z=0,2x−2y+z=0 -3x+3y-z=0,\qquad 2x-2y+z=0 を辺々加えると −x+y=0-x+y=0、すなわち y=xy=x を得る。これを第2式に戻すと z=0z=0 である。したがって W1=ker⁡B=span⁡{(110)}. W_{1}=\ker B =\operatorname{span}\left\{\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}\right\}.

次に B2=(−22−1−22−12−21) B^{2}= \begin{pmatrix} -2&2&-1\\ -2&2&-1\\ 2&-2&1 \end{pmatrix} であり、さらに B3=B2B^{3}=B^{2} が直接計算で確かめられる。よって m≥2m\ge2 では Bm=B2B^{m}=B^{2} であるから W1~=⋃m≥1ker⁡Bm=ker⁡B2. \widetilde{W_{1}}=\bigcup_{m\ge1}\ker B^{m}=\ker B^{2}. B2B^{2} の階数は 11 なので、ker⁡B2\ker B^{2} は −2x+2y−z=0-2x+2y-z=0、すなわち z=2(y−x)z=2(y-x) で定まる2次元部分空間である。よって W1~=span⁡{(110),(012)}. \widetilde{W_{1}} =\operatorname{span}\left\{ \begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\\2\end{pmatrix} \right\}.

次に λ=2\lambda=2 を扱う。 A−2E=(−43−1−32−12−20) A-2E= \begin{pmatrix} -4&3&-1\\ -3&2&-1\\ 2&-2&0 \end{pmatrix} の第3行から y=xy=x、第2行から z=−xz=-x を得る。これらは第1行も満たす。したがって W2=W2~=span⁡{(11−1)}. W_{2}=\widetilde{W_{2}} =\operatorname{span}\left\{\begin{pmatrix}1\\1\\-1\end{pmatrix}\right\}. λ=2\lambda=2 の代数的重複度は 11 なので、固有空間と広義固有空間は一致する。

(3) ジョルダン標準形を与える正則行列

dim⁡W1=1\dim W_{1}=1 が代数的重複度 22 より小さいので AA は対角化できず、固有値 11 に長さ 22 のジョルダン鎖が1本現れる。そこで p1=(110),p2=(012),p3=(11−1) p_{1}=\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix},\qquad p_{2}=\begin{pmatrix}0\\1\\2\end{pmatrix},\qquad p_{3}=\begin{pmatrix}1\\1\\-1\end{pmatrix} と取る。実際 Bp2=(−3⋅0+3⋅1−1⋅2−3⋅0+3⋅1−1⋅22⋅0−2⋅1+1⋅2)=(110)=p1 Bp_{2} =\begin{pmatrix} -3\cdot0+3\cdot1-1\cdot2\\ -3\cdot0+3\cdot1-1\cdot2\\ 2\cdot0-2\cdot1+1\cdot2 \end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}=p_{1} であるから、p2p_{2} は p1p_{1} に落ちる広義固有ベクトルである。よって Ap1=p1,Ap2=p1+p2,Ap3=2p3 Ap_{1}=p_{1},\qquad Ap_{2}=p_{1}+p_{2},\qquad Ap_{3}=2p_{3} が成り立つ。これらを列に並べて P=(p1 p2 p3)=(10111102−1),det⁡P=−1≠0 P=(p_{1}\ p_{2}\ p_{3}) =\begin{pmatrix} 1&0&1\\ 1&1&1\\ 0&2&-1 \end{pmatrix}, \qquad \det P=-1\ne0 とすると PP は正則であり、 P−1AP=(110010002). P^{-1}AP= \begin{pmatrix} 1&1&0\\ 0&1&0\\ 0&0&2 \end{pmatrix}.

最終答

固有値は λ=1\lambda=1(重複度2)と λ=2\lambda=2。 W1=span⁡{(110)},W1~=span⁡{(110),(012)},W2=W2~=span⁡{(11−1)}. W_{1}=\operatorname{span}\left\{\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}\right\},\quad \widetilde{W_{1}}=\operatorname{span}\left\{ \begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\\2\end{pmatrix}\right\},\quad W_{2}=\widetilde{W_{2}}=\operatorname{span}\left\{\begin{pmatrix}1\\1\\-1\end{pmatrix}\right\}. 上の PP は正則で P−1AP=(110010002)P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&0\\0&0&2\end{pmatrix} がジョルダン標準形である。

第2問 — 線形代数:1次分数変換が誘導する多項式空間の線形写像

方針

分数式が現れるが、ff が高々2次なので分母 N2N^{2} はきれいに払われる。最初に f(t)=at2+bt+cf(t)=at^{2}+bt+c と置いて展開し、T(f)=aL2+bLN+cN2T(f)=aL^{2}+bLN+cN^{2} という形を作っておけば、(1)〜(3) のすべてがこの1本の式から出る。

2つの表現行列が一致する理由

偶然ではない。(2) の計算が示すとおり BB は基底 SS の TT による像なので、SS から BB への基底変換行列はちょうど P=[T]SP=[T]_{S} である。基底変換の公式から [T]B=P−1[T]SP=P−1PP=P=[T]S [T]_{B}=P^{-1}[T]_{S}P=P^{-1}PP=P=[T]_{S} となる。表現行列が基底変換行列自身と一致する状況では、共役を取っても行列は変わらない。この見方を書いておくと、(3) の答えが (2) と同じであることの説明になる。

検算

数値代入が有効である。x=0x=0 では p0(0)=1, p1(0)=2, p2(0)=4p_{0}(0)=1,\ p_{1}(0)=2,\ p_{2}(0)=4 であり、 T(p1)(0)=(7⋅0+4)(12⋅0+7)=28,6⋅1+7⋅2+2⋅4=28 T(p_{1})(0)=(7\cdot0+4)(12\cdot0+7)=28, \qquad 6\cdot1+7\cdot2+2\cdot4=28 で一致する。同様に T(p2)(0)=72=49T(p_{2})(0)=7^{2}=49 と 9⋅1+12⋅2+4⋅4=499\cdot1+12\cdot2+4\cdot4=49 も一致する。係数を1つ写し間違えるとここで合わなくなるので、答案の最後に1点だけ代入して確かめるとよい。

同型性の示し方

「行列式が 00 でない」で十分である。有限次元の同じ空間の間の線形写像では、単射・全射・全単射がすべて同値なので、ker⁡T={0}\ker T=\{0\} を示す方針でもよい。aL2+bLN+cN2=0aL^{2}+bLN+cN^{2}=0 から a=b=c=0a=b=c=0 を導く場合は、LL と NN が1次独立な1次式であること(L,NL,N の比が定数でないこと)を根拠に書く。

典型ミス

基底の順序を {x2,x,1}\{x^{2},x,1\} から {1,x,x2}\{1,x,x^{2}\} に勝手に変えると行列の行と列がともに反転する。指定された順序をそのまま使う。また像の座標は「列」に並べる。行に並べると転置になり、(3) の答えも変わってしまう。x=−23x=-\tfrac23 では定義式の分数が意味を持たないが、展開後の多項式で T(f)T(f) を定めていることを (1) で一言断ると丁寧である。

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第3問 — 解析:一様連続性の定義と判定

方針

一様連続性の問題は、定義を書き下してから量化子の順に沿って議論を組む。肯定を示す (2) では「ε\varepsilon が与えられたときに δ\delta を作る」、否定を示す (3) では「ある ε0\varepsilon_{0} を固定し、どんな δ\delta にも反例の組を作る」という向きになる。この向きを最初に宣言してから書くと、答案が読みやすくなる。

(2) の一般化

使ったのは ∣f′∣≤1|f'|\le1 から出る不等式 ∣f(x)−f(y)∣≤∣x−y∣|f(x)-f(y)|\le|x-y|、すなわちリプシッツ条件だけである。より一般に ∣f′∣≤M|f'|\le M なら ∣f(x)−f(y)∣≤M∣x−y∣|f(x)-f(y)|\le M|x-y| となり、δ=ε/M\delta=\varepsilon/M と取ればよい。逆にリプシッツ連続でなくても一様連続な関数はあり(x\sqrt{x} が [0,1][0,1] 上でその例)、両者は同値ではない。

(3) の別解

有界集合上で一様連続な関数は有界である(一様連続な関数は定義域の閉包まで連続に延長でき、[0,1][0,1] 上の連続関数は有界だから)。f(x)=1/xf(x)=1/x は II 上で非有界なので、この事実から直ちに一様連続でないと結論できる。ただしこの筋は延長定理を認めることになるので、試験では本解のように具体的な2点列を作る方が確実である。

どこで有界閉区間との違いが出るか

ハイネ・カントールの定理により、有界閉区間上の連続関数は必ず一様連続である。I=(0,1]I=(0,1] は有界だが閉でないため、この定理は適用できない。実際、任意の a>0a>0 に対して ff を [a,1][a,1] に制限すれば ∣f′∣=1/x2≤1/a2|f'|=1/x^{2}\le1/a^{2} となり (2) の議論で一様連続になる。問題が起きるのは端点 00 の近くだけであり、上の xn,ynx_{n},y_{n} がそこに集まっていることと対応する。

典型ミス

定義を「各 xx に対して δ\delta が存在して…\dots」と書くと単なる連続性になってしまう。δ\delta を選ぶのが xx より前であることを、量化子の順序で明示する。(3) では「x→+0x\to+0 で発散するから一様連続でない」と書くだけでは証明になっていない。否定命題の形に沿って、ε0\varepsilon_{0} を先に固定し、任意の δ\delta に対する具体的な組を提示する必要がある。

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第4問 — 微分積分:原点における連続性・偏微分・全微分可能性

方針

原点での連続性も全微分可能性も、ff や f/rf/r が r→+0r\to+0 で 00 に行くかどうかという1つの問題に帰着する。極座標に直すと角度部分 ∣cos⁡θsin⁡θ∣α|\cos\theta\sin\theta|^{\alpha} は 2−α2^{-\alpha} 以下の有界量なので、判定は rr の指数だけで決まる。指数は連続性で 2α−22\alpha-2、全微分可能性で 2α−32\alpha-3 となり、境界がそれぞれ α=1\alpha=1、α=3/2\alpha=3/2 になる。

必要性で y=xy=x を選ぶ理由

角度部分 ∣cos⁡θsin⁡θ∣=∣sin⁡2θ∣/2|\cos\theta\sin\theta|=|\sin2\theta|/2 は θ=π/4\theta=\pi/4、つまり直線 y=xy=x で最大値 1/21/2 を取る。したがってこの方向が最も条件の厳しい方向であり、ここで収束しなければ全体としても収束しない。逆に、この方向で決まる境界 α=3/2\alpha=3/2 より大きければ、(∗\ast) の一様な評価によりすべての方向で収束する。上からの評価と最悪方向の評価が同じ α\alpha を与えるので、必要十分条件が得られる。

境界値の扱い

α=3/2\alpha=3/2 では f/rf/r が y=xy=x 上で 00 でない定数に留まる。極限が存在しても 00 でなければ全微分可能ではないので、この値を範囲に含めてはいけない。同様に連続性の側でも、α=1\alpha=1 のとき f(x,x)=1/2f(x,x)=1/2 であるのに f(x,0)=0f(x,0)=0 なので、原点で極限が存在せず連続でない。つまり α>0\alpha>0 の範囲では、原点での連続性の必要十分条件も α>1\alpha>1 である。

検算

α=2\alpha=2 とすると f=x2y2/(x2+y2)f=x^{2}y^{2}/(x^{2}+y^{2}) であり、(∗\ast) から f/r≤r/4→0f/r\le r/4\to0 なので全微分可能である。これは 2>3/22>3/2 と整合する。逆に α=1\alpha=1 では原点で連続ですらないので、当然全微分可能でない。3つの条件は 全微分可能 (α>3/2) ⟹ 連続 (α>1) ⟹ 偏微分係数の存在 (α>0) \text{全微分可能}\ (\alpha>3/2) \ \Longrightarrow\ \text{連続}\ (\alpha>1) \ \Longrightarrow\ \text{偏微分係数の存在}\ (\alpha>0) という強さの順に並んでおり、α\alpha の範囲も狭い順に並ぶ。答えがこの包含関係を満たしているかを最後に確認するとよい。

典型ミス

偏微分係数が両方 00 だからといって全微分可能とは限らない。(2) の値は座標軸上で f≡0f\equiv0 であることしか使っておらず、軸から外れた方向の情報を含まないからである。また、全微分可能性の定義で分母を r=x2+y2r=\sqrt{x^{2}+y^{2}} ではなく x2+y2x^{2}+y^{2} と書くと指数が1つずれ、境界が α=2\alpha=2 になってしまう。定義の分母は距離の1乗である。

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第5問 — 複素解析:等比級数展開とコーシー型積分のべき級数

方針

(2) の被積分関数を見たら、まず (1) の HH の形を探す。α\alpha を eiθe^{i\theta} と読み替えれば、収束条件 ∣z∣<∣α∣|z|<|\alpha| がちょうど ∣z∣<1|z|<1、つまり z∈Dz\in D に一致する。誘導つきの問題では、前問の結論を代入する箇所を答案に明示すると流れが伝わる。

項別積分の根拠

級数を積分の外に出す操作には、θ\theta についての一様収束が必要である。ここで使うのは、ff が有界閉区間上の連続関数だから有界であること、そして ∣z∣≤ρ<1|z|\le\rho<1 と制限すれば公比が ρ\rho の等比級数で押さえられること、の2点である。∣z∣<1|z|<1 のまま ρ\rho を取らずに議論すると、∣z∣|z| が 11 に近い点で一様性が崩れるので、ρ\rho を1つ固定してから極限を取る書き方が安全である。

係数の意味

cnc_{n} は ff のフーリエ係数で、FF は ff の非負周波数部分だけを取り出した正則関数である。ff が実数値なら c0c_{0} は実数で、2Re⁡F(z)−c02\operatorname{Re}F(z)-c_{0} はちょうど ff のポアソン積分、すなわち ff を境界値とする DD 上の調和関数になる。境界の連続関数から円板内部の正則関数・調和関数を作る、という典型的な構成である。

検算

f≡1f\equiv1 とすると c0=1c_{0}=1、n≥1n\ge1 では cn=12π∫02πe−inθdθ=0c_{n}=\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}e^{-in\theta}d\theta=0 なので F≡1F\equiv1 となる。一方、w=eiθw=e^{i\theta} と置換して直接計算しても F(z)=12π∫02πeiθeiθ−z dθ=12πi∮∣w∣=1dww−z=1 F(z)=\frac{1}{2\pi}\int_{0}^{2\pi}\frac{e^{i\theta}}{e^{i\theta}-z}\,d\theta =\frac{1}{2\pi i}\oint_{|w|=1}\frac{dw}{w-z}=1 であり、コーシーの積分公式と整合する。もう一例、f(θ)=cos⁡θf(\theta)=\cos\theta では c1=1/2c_{1}=1/2、他は 00 なので F(z)=z/2F(z)=z/2 となり、2Re⁡F(z)−c0=Re⁡z2\operatorname{Re}F(z)-c_{0}=\operatorname{Re}z が境界値 cos⁡θ\cos\theta をもつ調和関数であることも確かめられる。

典型ミス

収束半径を 1/∣α∣1/|\alpha| と書いてしまう誤りが多い。展開の公比は z/αz/\alpha なので、条件は ∣z∣<∣α∣|z|<|\alpha| である。また (2) では、分子の eiθe^{i\theta} を落として 1/(eiθ−z)1/(e^{i\theta}-z) を展開すると係数に余分な e−iθe^{-i\theta} が残り、cnc_{n} の番号が1つずれる。展開する前に分子と分母をそろえて (∗)(\ast) の形にしておくとよい。

複素解析:等比級数展開とコーシー型積分のべき級数の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 位相・距離空間:自然数上の距離と完備性

方針

dd は写像 φ(n)=1/n\varphi(n)=1/n による実数直線の距離の引き戻しである。この見方をすると、(1) の公理は実数の絶対値の性質にそのまま帰着し、独立に確認すべきことは φ\varphi が単射であること(d(n,m)=0⇒n=md(n,m)=0\Rightarrow n=m の部分)だけになる。(N,d)(\mathbb{N},d) は R\mathbb{R} の部分集合 φ(N)={1,12,13,…}\varphi(\mathbb{N})=\{1,\tfrac12,\tfrac13,\ldots\} と等長である。

完備でないことの正体

上の図のとおり、φ(N)\varphi(\mathbb{N}) は R\mathbb{R} の中で 00 に集積するが、00 自身は含まない。an=na_{n}=n は φ\varphi で送ると 00 に収束する列なので、R\mathbb{R} の中ではコーシー列だが、行き先の 00 が空間から抜けているために (N,d)(\mathbb{N},d) では収束できない。逆に φ(N)∪{0}\varphi(\mathbb{N})\cup\{0\} は R\mathbb{R} の閉集合なので完備であり、これが (N,d)(\mathbb{N},d) の完備化になる。1点足すだけで完備になる、という構造が見える。

同じ集合でも距離で変わる

N\mathbb{N} に通常の距離 d0(n,m)=∣n−m∣d_{0}(n,m)=|n-m| を入れると、コーシー列は途中から定数になるので (N,d0)(\mathbb{N},d_{0}) は完備である。集合が同じでも距離が違えば完備性は変わる。本問はその標準的な例であり、完備性が集合ではなく距離の性質であることを試している。なお dd では d(n,m)<1d(n,m)<1 がつねに成り立つので (N,d)(\mathbb{N},d) は有界だが、有界性は完備性とは無関係である。

典型ミス

(3) で「an=na_{n}=n は無限大に発散するから極限を持たない」と書くのは誤りである。発散するかどうかは通常の距離での話で、dd では {an}\{a_{n}\} は有界どころか互いにいくらでも近づく。正しくは、極限の候補 k∈Nk\in\mathbb{N} を固定し、d(an,k)d(a_{n},k) が 00 に近づかないことを示す。また、極限の候補として N\mathbb{N} に属さない「∞\infty」や 00 を持ち出してはいけない。収束は空間の中の点に対してしか定義されていない。

答案に書くべきこと

(1) では4つの公理を項目立てし、とくに d(n,m)=0⇒n=md(n,m)=0\Rightarrow n=m で φ\varphi の単射性を使う箇所を明示する。(2) では ε\varepsilon に対する NN の取り方を具体的に書く。(3) では kk を任意に固定して不等式で下から評価する。この3つの型を押さえれば、距離空間の基本問題としては完答である。

位相・距離空間:自然数上の距離と完備性の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(6年度)

  • 2026年度(全6問)

    Jordan標準形 / 交代化写像 / 指数関数の独立性

  • 2025年度(全6問)

    Jordan 標準形 / 左からの行列積 / 一様連続性

  • 2024年度(全6問)

    固有空間とJordan形 / 線形写像と核・像 / 最大値評価

  • 2023年度(全6問)

    線形代数:固有空間・広義固有空間とJordan標準形 / 線形代数:交換子で定まる線形写像の表現行列 / 微分積分:狭義凸性と零点の一意性

  • 2022年度(このページ・全6問)

    線形代数:固有空間・広義固有空間とジョルダン標準形 / 線形代数:1次分数変換が誘導する多項式空間の線形写像 / 解析:一様連続性の定義と判定

  • 2021年度(全6問)

    線形代数:固有値・固有空間とJordan標準形 / 線形代数:像と核による直和分解 / 微分積分:導関数が消えない関数の単調性

2022年度の出題内容

全6問

この6問の分野は線形代数2問・位相・幾何1問・微分積分・解析1問・微分方程式1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数固有空間・広義固有空間とジョルダン標準形広義固有空間をどこで止めるか / 答案に書くべきことあり
第2問線形代数1次分数変換が誘導する多項式空間の線形写像2つの表現行列が一致する理由 / 同型性の示し方あり
第3問微分積分・解析一様連続性の定義と判定(2) の一般化 / (3) の別解あり
第4問微分方程式原点における連続性・偏微分・全微分可能性必要性で y=x を選ぶ理由 / 境界値の扱いあり
第5問—複素解析:等比級数展開とコーシー型積分のべき級数項別積分の根拠 / 係数の意味あり
第6問位相・幾何自然数上の距離と完備性完備でないことの正体 / 同じ集合でも距離で変わるあり

2022年度の解説には典型ミス6件・検算4件が付いています。

前年度(2021年度)との違い

大問数
2021年度 6問 → 2022年度 6問
2021年度の解答例

金沢大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026年度(直近3年分)
公式の解答例
全年度・全科目で公開
院試hubの最終確認
2026-08-13
金沢大学の公式過去問PDF