物理化学の院試対策|熱・平衡・速度式を選ぶ条件
物理化学の院試で、系・過程・求める量から使う式を選ぶ方法を説明。熱と仕事、反応GibbsエネルギーとQ・K、標準状態、定常状態近似と前平衡近似の条件を整理します。
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物理化学の院試で式を選ぶときは、まず系への物質の出入り、一定に保つ量、求める量を読み取ります。 同じ温度変化のない問題でも、熱や仕事を求めるのか、平衡組成を求めるのかで出発点が変わります。
ここでは熱力学・化学平衡・反応速度論に絞り、式を使える条件を説明します。 量子化学や分光の詳しい計算、大学ごとの科目選択は対象に含めません。 志望校の出題構成と解答・解説集は、最後の節から確認できます。
系・固定条件・求める量を読む
問題文の「密閉」「断熱」「一定温度」「一定外圧」「理想気体」は、それぞれ別の条件です。 密閉された容器でも熱は出入りできます。断熱でも、ピストンが動けば仕事を交換します。 また、外圧が一定でも、不可逆な膨張の途中で気体の圧力が外圧と等しいとは限りません。
| 求める量 | 先に読む条件 | 出発する関係 |
|---|---|---|
| 熱・仕事・内部エネルギー変化 | 物質の出入り、断熱か、体積が変わるか、仕事の種類、可逆か | 第一法則。仕事は指定された過程に沿って求める |
| 反応の向き・平衡組成 | 温度・圧力、反応式、初期量、各成分の相と標準状態 | 反応Gibbsエネルギー、反応商Q、平衡定数K、物質収支 |
| 反応速度・濃度の時間変化 | 素反応、中間体、初期条件、速い過程と遅い過程 | 各成分の生成速度と消費速度。条件が合う場合に近似する |
例えば「平衡に達するまでの時間」を問われたら、平衡定数だけでは足りません。 Kは平衡の組成を制約しますが、そこへ近づく速さには速度定数が必要です。 以下では、熱・仕事、平衡、速度の順に条件を確かめます。
熱と仕事の式を選ぶ
物質が出入りしない閉じた系で、系全体の運動・位置エネルギーの変化を無視します。 熱qは系に入る向きを正、仕事wは外部が系にする向きを正とすると、第一法則は次の形です。
Uは状態量なので始状態と終状態から変化を求められますが、qとwには途中の過程が必要です。MITの熱力学講義・第一法則もこの区別を説明しています。 同講義は系が外部にする仕事を正とするため、仕事の符号はこの記事と逆です。
定積・定圧で熱を求める条件
仕事が体積の変化によるものだけなら、外圧をpextとして次の式を使います。 膨張ではdVが正なので、系が受ける仕事は負になります。
- 体積が一定なら体積仕事はゼロになり、qV = ΔUです。 ただし、電気仕事やかくはんによる仕事を加える場合は、その仕事も第一法則へ入れます。
- 外圧が一定で、始状態と終状態がともにその外圧と力学的につり合うなら、 q = ΔU + pextΔV = ΔHです。H = U + pVを用いており、体積仕事以外の仕事はないものとします。
一定圧力のもとでq = ΔHとなる導出は、同講義のエンタルピーの節で確認できます。 流体が入口・出口を通る開いた系では、物質が運ぶエネルギーも含めた収支が必要です。
等温でも、可逆膨張と一定外圧の膨張は違う
物質量nと組成が一定の理想気体を、温度Tを保ってV1からV2へ可逆的に膨張させるとします。 この場合は外圧を気体の圧力に限りなく近づけ、p = nRT/Vを仕事の積分へ代入できます。
一方、一定の外圧に逆らって膨張する場合は、その外圧で積分するので次の形です。 不可逆過程へ上の対数の式を流用しません。
この理想気体では内部エネルギーが温度だけで決まるため、等温ならΔU = 0です。 したがってq = −wとなり、膨張で外部へした仕事を熱の流入が補います。 等温だからq = 0とは言えません。第一法則と理想気体の条件はMIT講義の第1・5・6節を参照してください。
温度・体積を固定した自由エネルギーなど、熱力学ポテンシャルの自然変数も整理したい場合は、統計力学の基本式と適用条件へ進めます。
ΔᵣG・Q・Kと標準状態を区別する
反応Gibbsエネルギーは、G全体の有限変化ではない
一つの反応を、反応物の係数νiを負、生成物の係数を正として表します。 反応進行度ξがdξだけ増えると、各成分の物質量はdni = νidξだけ変わります。 一定温度・一定圧力で、その反応に沿って組成を変えたときのGの変化率が、反応GibbsエネルギーΔrGです。
μiは成分iの化学ポテンシャルです。ξをmolで表すなら、ΔrGの単位はJ/molです。 一方、始状態から終状態までのΔG = G2 − G1はJで表し、 一定T・pで反応を進める場合にはΔrGをξについて積分して求めます。 組成とともにΔrGが変わるなら、一点での値を進行度の変化に掛けるだけでは求まりません。 この定義はChemical Reactor Analysis and Design Fundamentals 第3.2節、本文64〜66頁に基づきます。
今の組成にはQ、平衡の条件にはKを使う
活量aiは、選んだ標準状態を基準にした無次元の量です。 化学ポテンシャルと反応商Qを次のように書くと、反応の向きを判定できます。Rは気体定数、Tは絶対温度です。
ΔrG°は標準反応Gibbsエネルギーです。指定した温度と標準状態に対する値であり、 反応中の任意の組成でのΔrGや、系全体の有限変化ΔGとは区別します。 Qは今の組成から計算し、Kは同じ温度・標準状態の値を使います。熱のqとも別の記号です。
反応の正方向をξが増える向きとすると、Q < KではΔrG < 0となり、正方向へ進むとGが下がります。 Q > Kでは逆方向へ進むとGが下がります。反応に関わる成分が存在し、正逆両方向に進める化学平衡ではQ = K、ΔrG = 0です。 平衡でGそのものやΔrG°までゼロになるわけではありません。 活量による平衡条件とKの定義は、同書の式(3.7)〜(3.11)を参照できます。
標準状態は25℃や平衡状態を意味しない
標準状態は化学ポテンシャルなどを表すための基準で、温度は別に指定します。 25℃のデータ表を、温度の違う問題へそのまま用いることはできません。IUPACの標準状態の定義と標準熱力学量の定義も、圧力・濃度等の基準と温度を区別しています。 標準圧力p°の推奨値は1 bar = 105 Paですが、問題や表が1 atmを用いている場合には、その基準をそろえます。 1 barと1 atmは同じ値ではありません(IUPAC:標準圧力)。
- 理想気体の混合物ではai = pi/p°です。 使うのは成分iの分圧で、全圧そのものではありません。
- 溶質を濃度基準で扱うなら、ai = γici/c°と書きます。 γiはその基準に対応する活量係数です。理想希薄溶液として扱い、圧力の補正も無視できる場合に、γi ≈ 1と近似します。 溶媒の活量まで同じ濃度の式で1と決めることはできません。
- 純粋な固体・液体は、同じ相の純物質を標準状態に選べば、p = p°で活量が1です。 pが異なるときのa ≈ 1は、圧力による化学ポテンシャルの変化を無視する近似です。 混合物中の成分や、高圧下でも一律に1とはしません。
純粋な固体・液体でモル体積Vmを一定とみなせるなら、圧力の補正は ln a ≈ Vm(p − p°)/(RT)です。この絶対値が十分小さいときにa ≈ 1と置けます。 詳細はPaul Ellgen『Thermodynamics and Chemical Equilibrium』15.3節を参照してください。
平衡組成はKだけでは決まらない
気相の反応A ⇌ 2Bを例にすると、理想気体での反応商は次の形です。 標準圧力を消してpB2/pAとすると、無次元のQではなくなります。
初めにAがn0 mol、Bが0 molなら、反応後はAがn0 − ξ、Bが2ξです。 全物質量はn0 + ξになり、全圧pが与えられれば、各分圧はモル分率とpから求められます。 これをQ = Kへ代入してξを求め、0 ≤ ξ ≤ n0を満たすか確かめます。 体積が固定された問題なら、分圧はpi = niRT/Vから求めます。
問題が変わっても、初期量から反応後の物質量を書き、その条件に合う分圧・活量へ直す順序は同じです。 反応進行度による物質収支と物質量の非負条件は、Chemical Reactor Analysis and Design Fundamentals 本文70頁、式(3.20)でも扱われています。
定常状態と前平衡の近似を選ぶ
速度を求める問題では、まず中間体の生成経路と消費経路をすべて数えます。 物質の出入りがなく、体積一定の均一系なら、濃度の時間変化は反応による生成速度から消費速度を引いて表せます。 そのうえで、問題の条件から省略できる変化があるかを判断します。
| 近似 | 置く関係 | 確かめる条件 |
|---|---|---|
| 定常状態近似 | 中間体濃度の時間微分を近似的に0とし、生成と全消費をつり合わせる | 中間体が速く緩和し、その後は他の濃度変化に追従する。反応開始直後の過渡変化を除く |
| 前平衡近似 | 速い可逆反応の順反応と逆反応を近似的につり合わせる | 後続反応による消費に比べ、前段の可逆反応が十分速く平衡化する |
定常状態では、中間体が作られる速さと、元へ戻る経路・生成物へ進む経路を合わせた消費の速さがつり合います。 生成物が増え続けていても、この近似は成立し得ます。 前平衡は、そのうち速い可逆反応の組だけに平衡関係を使う近似です。 どちらも反応全体が平衡に達したという意味ではありません。
この違いはMIT 5.60の講義32、本文5〜6頁で説明されています。 講義中の一次反応の速度定数の大小関係を、二分子反応へそのまま移さないでください。 次数が違えば速度定数の単位も違うため、濃度を含めた速度や緩和時間で比較します。
速度式を導く手順は、科学大理学院化学系・2025年共通3cの定常状態近似で確認できます。 中間体の全消費項を書いたか、開始直後まで近似していないかを、自分の式と比べてください。
志望校の過去問で確かめる
公式問題で、系・固定条件・求める量を書き出してから解きます。 式を選べなかった箇所は、このページの該当節へ戻って条件を確かめ、途中式や答案のまとめ方は志望校の解答・解説集と照らしてください。 以下の商品は各大学の化学の試験に対応し、物理化学だけを集めた問題集ではありません。
東京科学大学 理学院 化学系
科学大化学系の対策ガイドには、共通・選択問題の違いと定常状態近似の解答があります。化学系の解答・解説集は2021〜2025年実施の問題を収録しています。 問題冊子に記された入学年度と実施年は異なる場合があり、2026年実施の問題を収録しているという意味ではありません。 現在の選択分野と古い問題の範囲は、ガイドで区別してください。
東京大学 理学系研究科 化学専攻
東大理学系化学の対策ガイドでは、物理化学を含む問題の選び方と、標準状態・近似条件など答案で確かめる点を説明しています。化学の解答・解説集の販売ページから、2024〜2026年度の収録範囲と見本を確認できます。 分配関数や量子化学の問題を選ぶ場合には、この記事の熱・平衡・速度論に加えて、その分野の準備が必要です。
電気通信大学 情報理工学研究科 基盤理工学専攻
電通大基盤理工の化学対策ガイドでは、無機・有機化学と物理化学を含む専門科目の選択を説明しています。専門科目(無機・有機化学・物理化学)の解答・解説集は、販売ページで2022〜2026年度の収録内容を確認できます。 受験する年の指定に合わせて解答する問題数と分野を決め、必要な問題が含まれるかを見本・収録内容で確かめてください。
大学別の解答・解説PDF
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