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無機化学の院試対策|錯体の電子配置・結晶場・磁性

錯体の酸化数・d電子数・配位構造から、高スピンと低スピン、結晶場安定化エネルギー、磁気モーメントを求める手順を図で説明。電子対形成エネルギーの基準や、四面体への式の誤適用も確認します。

無機化学の錯体問題は、酸化数、d電子数、配位構造、軌道への電子の入れ方を順に決めると、磁性や安定化エネルギーまでつながります。「強い配位子だから低スピン」とだけ覚えると、電子数や構造が変わった問題で判断できなくなります。

ここでは遷移金属錯体の結晶場と磁性を扱います。元素各論、結晶格子、酸塩基・酸化還元、分析化学なども出題範囲に含まれ得るため、志望校の無機化学をこの範囲だけで済ませないでください。最後の節で、大学別の過去問と解答・解説集へ進めます。

酸化数・d電子数・配位数を分ける

最初に角括弧の中の錯イオンと、その外の対イオンを分けます。金属の酸化数をxとすると、xと配位子の電荷の合計が錯イオン全体の電荷になります。例えば、中性配位子だけを持つ錯イオンの電荷が+2なら、金属の酸化数も+2です。陰イオン性の配位子があれば、その電荷を引いて求めます。

x+∑iqi=qcomplexx+\sum_i q_i=q_{\mathrm{complex}}

典型的な単核dブロック錯体では、金属の族番号から酸化数を引いて形式的なd電子数を数えられます。Feは8族なのでFe(II)はd⁶、Fe(III)はd⁵です。金属に配位子から供与される電子対まで足した価電子数とは区別してください。18電子則の数え方を、そのままd軌道の占有数に使うことはできません。

配位数は金属に直接結合する供与原子の数です。二座配位子が3分子なら、3配位ではなく6配位になります。また、配位数4だけでは四面体型か平面四角形型かは決まりません。問題が指定する形や分裂図を先に読みます。配位数・形の基本例はOpenStaxの配位化学の章で確認できます。

ここまでで答案の冒頭には「金属の酸化数、d電子数、配位構造」の3点が残ります。形が指定されず性質から推定する問題では、候補の構造ごとに配置を描き、磁性などの観測条件と照合します。

八面体の分裂と高・低スピンを描く

正八面体では配位子がx・y・z軸の正負の向きにあります。軸方向を向くd軌道2個が高いeg、軸の間を向く3個が低いt2gになります。分裂幅をΔoとし、5軌道の平均エネルギーを0に取ると、低い側は−2Δo/5、高い側は+3Δo/5です。

εe−εt=Δo,3εt+2εe=0\varepsilon_e-\varepsilon_t=\Delta_o,\qquad 3\varepsilon_t+2\varepsilon_e=0

この2式から係数を出せます。分裂した2組が−Δo/2と+Δo/2にならないのは、軌道数が3個と2個で違うためです。基準は自由な金属イオンの全エネルギーではなく、分裂を考える際のd軌道の重心です。MITの結晶場講義資料にも、軌道の向きとこの基準が示されています。

同じエネルギーの軌道には、まず平行スピンで1個ずつ電子を入れます。d⁴〜d⁷の正八面体では、上のegへ入れるか、下のt2gで電子対を作るかを比べます。分裂幅Δoと電子対形成エネルギーPを使う単純なモデルでは、Δoが小さいと高スピン、大きいと低スピンになります。

d⁶で電子を6個数えてみる

高スピンは下に4個・上に2個、低スピンは下に6個・上に0個です。図の横線1本が1軌道、矢印1本が電子1個を表します。配置を比べる模式図なので、2つの図で分裂幅の大きさを比較するものではありません。

高スピンEegt2g↑↑↑↓↑↑不対電子 4 個 / 電子対 1 組
低スピンEegt2g↑↓↑↓↑↓不対電子 0 個 / 電子対 3 組

高スピンにも電子対が1組あります。「高スピンならすべて不対電子」ではありません。また、低スピンでも電子数によっては不対電子が残ります。正八面体d⁵の低スピンならt2gに5個が入り、不対電子は1個です。

配位子の分光化学系列は分裂幅の大小を考える手掛かりですが、金属の種類や酸化数も関係します。配位子名だけで、あらゆる錯体のスピン状態を固定しないでください。配位子・金属・電子配置の関係を踏まえ、問題でΔoやP、構造、磁性が与えられていれば、それらを使って判断します。

CFSEと電子対形成エネルギー

ここでは、軌道の分裂だけによるエネルギー変化をCFSEと呼びます。安定化は負の値で表し、電子対形成の費用は別に加えます。t2gの電子数をnt、egをneとすれば、

ECF=(−25nt+35ne)ΔoE_{\mathrm{CF}}=\left(-\frac25n_t+\frac35n_e\right)\Delta_o

です。d⁶の高スピンは−2Δo/5、低スピンは−12Δo/5になります。ここで低い方だけを選ぶと、電子対を増やす費用を無視してしまいます。

電子対1組当たりの費用をPとするモデルで、同じ基準から両配置の電子対をすべて数えると、次の比較になります。

EHS=−25Δo+P,ELS=−125Δo+3P,ELS−EHS=2(P−Δo).\begin{aligned}E_{\mathrm{HS}}&=-\frac25\Delta_o+P,\\ E_{\mathrm{LS}}&=-\frac{12}5\Delta_o+3P,\\ E_{\mathrm{LS}}-E_{\mathrm{HS}}&=2(P-\Delta_o).\end{aligned}

低スピンへ移ると、上の電子2個が下へ移って2Δoだけ下がり、電子対が2組増えて2Pだけ上がります。このモデルではΔo>Pで低スピン側のエネルギーが低くなります。等しい境界付近の実在錯体の状態や温度依存性を、この式だけで決めることはできません。

解答によってPの係数が違うとき

まず、何を基準にしたエネルギーかを確認します。分裂していないd⁶の高スピン配置にも電子対は1組あります。その配置を基準として差を求めるなら、両式から共通のPを引くため、高スピンは−2Δo/5、低スピンは−12Δo/5+2Pです。両者の差は変わりません。

一方だけ全電子対を数え、もう一方だけ基準から増えた電子対を数えると、比較が崩れます。設問や教科書がCFSEに電子対形成を含めるか、安定化の大きさを正で表すかも確かめてから、符号とPの係数を照合してください。

四面体と平面四配位を区別する

正四面体では低い側がeの2軌道、高い側がt2の3軌道です。分裂幅をΔtとすると、重心からのエネルギーはそれぞれ−3Δt/5、+2Δt/5になります。八面体の式に記号だけ入れ替えても正しくなりません。

ECF,tet=(−35ne+25nt2)ΔtE_{\mathrm{CF,tet}}=\left(-\frac35n_e+\frac25n_{t_2}\right)\Delta_t

例えば四面体d⁶の高スピンでは、低いeに3個、高いt2に3個です。CFSEは−3Δt/5、不対電子は4個になります。同じd⁶でも八面体のt2g⁴eg²という配置は使えません。

四面体錯体は通常、分裂が小さく高スピンになります。ただし、形とスピンを問題の条件から確認する習慣は残してください。平面四角形型にはまた別の分裂があり、四配位というだけで四面体の図を使うのは誤りです。MITの四面体・平面四配位の講義資料で、構造による図の違いを確認できます。

不対電子から磁性を求める

電子配置を描いた後で、不対電子数nを数えます。軌道角運動量の寄与を無視し、gを約2とするスピンのみの近似では、磁気モーメントは次の式です。μBはBohr磁子です。

μeff≃n(n+2) μB\mu_{\mathrm{eff}}\simeq\sqrt{n(n+2)}\,\mu_B

d⁶の高スピンならn=4なので約4.90μB、低スピンならn=0で、このスピン由来の寄与は0です。電子対形成エネルギーで数えた「電子対の組数」をnへ代入しないでください。

不対電子を持つ単核錯体は常磁性を示し、全電子が対になった閉殻の錯体は反磁性になります。ただし、スピンのみの式は測定値と必ず一致する式ではありません。軌道の寄与、スピン軌道相互作用、複数の金属中心間の磁気的相互作用が問題になる場合は、単純な不対電子数だけでは説明できません。近似条件と式はNPTELの磁性の講義を参照してください。

色を問われたときも、磁性と同じ答え方にはなりません。吸収する光のエネルギーと、見える色を分けます。d電子が1個の単純な八面体モデルで、吸収をt2g→egに対応させる計算は、科学大化学の既存の解答例で確認できます。多電子錯体のすべての吸収帯を、無条件にΔo=hc/λと置くことはできません。

志望校の過去問へ戻る

解き直すときは、酸化数の電荷収支、d電子の総数、各軌道に最大2個、分裂の上下と縮退度、エネルギーの基準、不対電子数を順に確認します。途中で判断が止まった箇所を直してから、解説を閉じて同じ配置を描き直してください。

次の解答・解説集は、無機化学だけを独立して収録した共通教材ではありません。志望校と科目が一致するものを選び、販売ページで収録年度・見本・価格を確認してください。過去の収録範囲と、これから受ける年度の出題範囲は分けて確認します。

熱力学・反応平衡・反応速度で式を選べない場合は、物理化学の式と近似条件へ進んでください。科目名をまたぐ問題でも、問われている量と前提を分けて復習できます。

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