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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理科学II 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(解説3項目)

解説3項目の分野は物性物理2項目、熱・統計力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 統計力学:サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式

[1] 吸着している分子全体の状態の数

使う知識は二項係数である。NN 個から nn 個を順序なしで選ぶ方法の数は、順序まで区別して選ぶ N(N−1)⋯(N−n+1)=N!/(N−n)!N(N-1)\cdots(N-n+1)=N!/(N-n)! 通りを、選んだ nn 個の並べ替え n!n! 通りで割って得られる。同種の分子を入れ替えても同じ状態なので、この割り算が要る。本問の「各サイトには分子が1つ吸着するか、まったく吸着しない」という条件が、重複を許さない同種粒子の配置問題と読む合図になる。

N0=4, n=2N_0=4,\ n=2 で確かめる。分子が入るサイトの組は {1,2},{1,3},{1,4},{2,3},{2,4},{3,4}\{1,2\},\{1,3\},\{1,4\},\{2,3\},\{2,4\},\{3,4\} の6通りで、4!/(2! 2!)=64!/(2!\,2!)=6 と一致する。n=0n=0 と n=N0n=N_0 はどちらも Ω=1\Omega=1 で、全部が空の状態も全部が埋まった状態も1通りしかない。Ω(n)=Ω(N0−n)\Omega(n)=\Omega(N_0-n) は、分子と空きサイトの役割を入れ替えても数が変わらないことの表れであり、Ω\Omega は n=N0/2n=N_0/2 で最大になる。N0,n≫1N_0,n\gg1 ではスターリングの近似 ln⁡N!≃Nln⁡N−N\ln N!\simeq N\ln N-N から、θ=n/N0\theta=n/N_0 として kBln⁡Ω≃−N0kB[θln⁡θ+(1−θ)ln⁡(1−θ)] k_{\mathrm B}\ln\Omega\simeq-N_0k_{\mathrm B}\bigl[\theta\ln\theta+(1-\theta)\ln(1-\theta)\bigr] となる。[4]で現れる被覆率が、この混合エントロピーの形で効いてくる。

誤りの例を2つ挙げる。空きサイト側の並べ替え (N0−n)!(N_0-n)! で割り忘れて N0!/n!N_0!/n! とすると、N0=4, n=2N_0=4,\ n=2 で12となり、実際の6の2倍になる。同じサイトに何個でも入れる場合の N0 n/n!N_0^{\,n}/n! を使うと8となり、これも「1サイトに1個まで」の条件に反する。

[2] nn 個吸着したときの分配関数 ZnZ_n

正準分配関数は、粒子数 nn を固定した系のすべての状態 ii について Z=∑iexp⁡(−βEi)Z=\sum_i\exp(-\beta E_i) を取った量で、自由エネルギーと F=−kBTln⁡ZF=-k_{\mathrm B} T\ln Z で結び付く。本問は nn を固定した問いなので、状態の和は[1]で数えた配置についての和になる。内部自由度と相互作用を無視する条件があるため、1個の吸着が与える因子は exp⁡(βϵ0)\exp(\beta\epsilon_0) だけで、nn 個なら nn 乗である。吸着で表面のエネルギーが下がるので En=−nϵ0<0E_n=-n\epsilon_0<0 であり、ボルツマン因子は1より大きい。吸着が有利になる向きである。

確かめとして、Fn=−kBTln⁡Zn=−nϵ0−kBTln⁡ΩF_n=-k_{\mathrm B} T\ln Z_n=-n\epsilon_0-k_{\mathrm B} T\ln\Omega を見る。これは En−TSE_n-TS に S=kBln⁡ΩS=k_{\mathrm B}\ln\Omega を入れた形に一致する。高温極限 β→0\beta\to0 では exp⁡(nβϵ0)→1\exp(n\beta\epsilon_0)\to1 となり、Zn→ΩZ_n\to\Omega とエネルギーの差が消えて配置の数だけが残る。低温では指数因子が大きく、nn の大きい状態ほど ZnZ_n が増える。指数の中の ϵ0/(kBT)\epsilon_0/(k_{\mathrm B} T) は無次元である。問題は ϵ0\epsilon_0 の値を与えていないので、規模の目安として ϵ0=0.40 eV\epsilon_0=0.40\ \mathrm{eV}、T=300 KT=300\ \mathrm K とおくと ϵ0/(kBT)=15.5\epsilon_0/(k_{\mathrm B} T)=15.5 になる。

間違いやすいのは符号である。Zn=Ωexp⁡(−nβϵ0)Z_n=\Omega\exp(-n\beta\epsilon_0) と書くと、吸着でエネルギーが nϵ0n\epsilon_0 上がる表面を扱ったことになる。この誤りは[7]まで残り、上の例の条件で窒素の圧力を 1 atm1\ \mathrm{atm} としたときの被覆率が、正しい 0.470.47 の代わりに 3×10−143\times10^{-14} になる。吸着がほとんど起きない結果になるので、符号の誤りに気づける。

[3] 大分配関数 ZGZ_G

大分配関数は、粒子数 NN の揺らぐ系で ZG=∑Nexp⁡(βμN)ZNZ_G=\sum_N\exp(\beta\mu N)Z_N と定義される。温度 TT、化学ポテンシャル μ\mu の浴に接した系では、状態 ii の確率が exp⁡[−β(Ei−μNi)]/ZG\exp[-\beta(E_i-\mu N_i)]/Z_G で与えられ、ZGZ_G はその規格化定数である。本問は「吸着していない分子と平衡」「吸着している分子の化学ポテンシャルを μ\mu とする」と書いているので、気相が粒子浴の役を果たす。分子数 nn を固定する正準分布では nn の平均が求まらないため、[3]で大分配関数に移る。

ここで ZGZ_G が N0N_0 乗の形になる理由を、1サイトの側から確かめられる。1つのサイトの状態は「空」(重み 11)と「占有」(重み exp⁡[β(ϵ0+μ)]\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)])の2つだけで、1サイトの大分配関数は 1+x1+x である。サイトどうしの相互作用がないので、全体の ZGZ_G は各サイトの積 (1+x)N0(1+x)^{N_0} になり、二項定理から得た式と一致する。極限では、μ→−∞\mu\to-\infty で ZG→1Z_G\to1(すべて空の状態だけが残る)、N0=1N_0=1 で ZG=1+xZ_G=1+x となる。数値の例として ϵ0=0.40 eV\epsilon_0=0.40\ \mathrm{eV}、μ=−0.35 eV\mu=-0.35\ \mathrm{eV}、T=300 KT=300\ \mathrm K とすると x=exp⁡(0.05/0.02585)=6.92x=\exp(0.05/0.02585)=6.92 で、1サイトあたり 1+x=7.91+x=7.9 である。

μ\mu を落として ZG=(1+eβϵ0)N0Z_G=(1+\mathrm e^{\beta\epsilon_0})^{N_0} と書くと、同じ条件で1サイトあたり 5.2×1065.2\times10^{6} となり、上の 7.97.9 から大きく外れる。分子数を固定した正準分配関数の和を、化学ポテンシャルの重みなしで取ったことが原因である。

[4] 吸着した分子の数の期待値 ⟨n⟩\langle n\rangle

大分配関数からの平均は、∂ZG/∂μ=β∑nn eβμnZn\partial Z_G/\partial\mu=\beta\sum_n n\,\mathrm e^{\beta\mu n}Z_n と書けるので、⟨n⟩=(1/β) ∂ln⁡ZG/∂μ\langle n\rangle=(1/\beta)\,\partial\ln Z_G/\partial\mu になる。これは ⟨n⟩=−∂Φ/∂μ\langle n\rangle=-\partial\Phi/\partial\mu(Φ=−kBTln⁡ZG\Phi=-k_{\mathrm B} T\ln Z_G は大ポテンシャル)という熱力学の関係と同じものである。得られた式は、準位のエネルギーが −ϵ0-\epsilon_0 の1サイトに入る粒子数のフェルミ分布の形をしている。各サイトには最大1個という条件が、パウリの排他原理と同じ効果をもつためである。1サイトの占有確率 x/(1+x)x/(1+x) を N0N_0 倍しても同じ結果になる。

極限で形を確かめる。μ=−ϵ0\mu=-\epsilon_0 のとき指数が exp⁡(0)=1\exp(0)=1 なので ⟨n⟩=N0/2\langle n\rangle=N_0/2 である。T→0T\to0 では μ>−ϵ0\mu>-\epsilon_0 なら ⟨n⟩→N0\langle n\rangle\to N_0、μ<−ϵ0\mu<-\epsilon_0 なら ⟨n⟩→0\langle n\rangle\to0 の階段になる。吸着が少ない側(μ≪−ϵ0\mu\ll-\epsilon_0)では ⟨n⟩≃N0exp⁡[β(ϵ0+μ)]\langle n\rangle\simeq N_0\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)] と、μ\mu について指数的に増える。数の揺らぎは ⟨Δn2⟩=N0θ(1−θ)\langle\Delta n^2\rangle=N_0\theta(1-\theta)(θ=⟨n⟩/N0\theta=\langle n\rangle/N_0)で、飽和に近いほど小さい。

指数の符号を逆にして ⟨n⟩=N0/(exp⁡[β(ϵ0+μ)]+1)\langle n\rangle=N_0/(\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)]+1) と書く誤りは、μ\mu を上げる(気体の圧力を上げる)と吸着量が減る式を与えてしまう。ϵ0=0.40 eV\epsilon_0=0.40\ \mathrm{eV}、μ=−0.35 eV\mu=-0.35\ \mathrm{eV}、T=300 KT=300\ \mathrm K では、正しい被覆率 0.8740.874 の代わりに 0.1260.126 が出る。圧力が上がっても吸着が増えないという矛盾が、符号の点検になる。

[5] 理想気体の分配関数 ZcZ_c とヘルムホルツの自由エネルギー F(T)F(T)

ZsZ_s は1分子の並進運動だけの分配関数である。位相空間の体積を h3h^3 で割って数える古典近似では Zs=Vh3∫e−βp2/2m d3p=Vh3(2πmkBT)3/2=Vλ3,λ=h2πmkBT Z_s=\frac{V}{h^3}\int\mathrm e^{-\beta p^2/2m}\,\mathrm d^3p=\frac{V}{h^3}(2\pi mk_{\mathrm B} T)^{3/2}=\frac V{\lambda^3},\qquad \lambda=\frac{h}{\sqrt{2\pi mk_{\mathrm B} T}} となり、問題の与式と一致する。λ\lambda は分子の熱的ド・ブロイ波長である。区別できる NN 個の分子なら分配関数は積 ZsNZ_s^N だが、同種分子は入れ替えても状態が変わらないので N!N! で割る。割り算が成り立つのは、同じ1粒子状態に2個の分子が入る確率を無視できる希薄な気体のときで、条件は Nλ3/V≪1N\lambda^3/V\ll1 である。

確かめとして、F=−NkBT[ln⁡(V/Nλ3)+1]F=-Nk_{\mathrm B} T[\ln(V/N\lambda^3)+1] は VV と NN を同時に2倍にしても V/NV/N が変わらず、FF がちょうど2倍になる(示量的)。体積微分から P=−∂F/∂V=NkBT/VP=-\partial F/\partial V=Nk_{\mathrm B} T/V が出て、理想気体の状態方程式に戻る。

N!N! を落とすと F=−NkBTln⁡ZsF=-Nk_{\mathrm B} T\ln Z_s となる。VV と NN を2倍にしても FF は2倍にならず、同じ気体を仕切りで分けて混ぜたときに自由エネルギーが変わってしまう(ギブスのパラドックス)。この誤りは[6]で μ\mu が PP と TT の関数にならない形で現れる。

[6] 理想気体の化学ポテンシャル μ(T,P)\mu(T,P)

化学ポテンシャルは、温度と体積を一定に保って分子を1個加えたときの自由エネルギーの増分で、平衡では接する2相で等しくなる量である。VV が NN に比例して現れるため、FF から μ\mu を出すと VV は NN との比 V/N=kBT/PV/N=k_{\mathrm B} T/P の形でしか残らず、μ\mu が PP と TT の関数に書ける。これは N!N! を入れた[5]の結果である。Pλ3/(kBT)P\lambda^3/(k_{\mathrm B} T) の次元は (Pa⋅m3)/J=1(\mathrm{Pa\cdot m^3})/\mathrm J=1 で、対数の中身は無次元になっている。

数値で規模を確かめる。窒素分子(質量 m=4.65×10−26 kgm=4.65\times10^{-26}\ \mathrm{kg})の 300 K300\ \mathrm K での熱的波長は λ=1.90×10−11 m\lambda=1.90\times10^{-11}\ \mathrm m で、λ3=6.9×10−33 m3\lambda^3=6.9\times10^{-33}\ \mathrm{m^3} である。P=1 atmP=1\ \mathrm{atm} のとき Pλ3/(kBT)=1.7×10−7P\lambda^3/(k_{\mathrm B} T)=1.7\times10^{-7}、したがって μ=kBTln⁡(1.7×10−7)=−15.6 kBT=−0.40 eV\mu=k_{\mathrm B} T\ln(1.7\times10^{-7})=-15.6\,k_{\mathrm B} T=-0.40\ \mathrm{eV} となる。値が負で絶対値が大きいのは、分子の占める体積に比べて空間が広い希薄な気体で、1分子を加えるときに並進のエントロピーが大きく増えるからである。μ\mu は圧力とともに対数的に上がり、温度が上がると λ\lambda が小さくなって下がる。

[5]で N!N! を落としていた場合は μ′=−kBTln⁡Zs\mu'=-k_{\mathrm B} T\ln Z_s となり、V=1 m3V=1\ \mathrm{m^3} の容器に入れた窒素で μ′=−1.91 eV\mu'=-1.91\ \mathrm{eV} になる。正しい値 −0.40 eV-0.40\ \mathrm{eV} との差は kBTln⁡N=1.51 eVk_{\mathrm B} T\ln N=1.51\ \mathrm{eV} で、しかも容器の体積に依存する。圧力と温度だけで決まるはずの量が VV に依存することが、誤りを見つける手がかりになる。

[7] 被覆率 ⟨n⟩/N0\langle n\rangle/N_0 の P,TP,T 依存性

平衡の条件は、全分子数 Ntot=N+nN_{\mathrm{tot}}=N+n が一定のもとで、自由エネルギー F気(N)+F吸(n)F_{\mathrm{気}}(N)+F_{\mathrm{吸}}(n) が最小になることである。N=Ntot−nN=N_{\mathrm{tot}}-n を代入して nn で微分すると ∂F吸/∂n=∂F気/∂N\partial F_{\mathrm{吸}}/\partial n=\partial F_{\mathrm{気}}/\partial N、すなわち μ吸=μ気\mu_{\mathrm{吸}}=\mu_{\mathrm{気}} になる。この等式で、[4]の μ\mu を、気体側から決まる[6]の μ(T,P)\mu(T,P) に置き換える。P0(T)P_0(T) は圧力の次元をもち、θ=1/2\theta=1/2 になる圧力である。次元は (kg/(J2s2))3/2 J5/2=kg m−1s−2=Pa(\mathrm{kg/(J^2 s^2)})^{3/2}\,\mathrm J^{5/2}=\mathrm{kg\,m^{-1}s^{-2}}=\mathrm{Pa} で合う。

被覆率の形を極限で確かめる。P→0P\to0 では θ≃KP\theta\simeq KP と圧力に比例し(ヘンリーの法則)、P→∞P\to\infty では θ→1\theta\to1 に飽和する。1/θ=1+1/(KP)1/\theta=1+1/(KP) なので、測定した吸着量 nn の逆数を 1/P1/P に対して描くと、1/n=(1/N0) [1+1/(KP)]1/n=(1/N_0)\,[1+1/(KP)] から切片が 1/N01/N_0、傾きと切片の比が 1/K1/K の直線になる。温度への依存は K∝T−5/2eϵ0/kBTK\propto T^{-5/2}\mathrm e^{\epsilon_0/k_{\mathrm B} T} で、[8]で使う。規模の目安として、窒素、ϵ0=0.40 eV\epsilon_0=0.40\ \mathrm{eV}、T=300 KT=300\ \mathrm K とすると P0=1.1×105 PaP_0=1.1\times10^{5}\ \mathrm{Pa}、P=1 atmP=1\ \mathrm{atm} で θ=0.47\theta=0.47 である(ϵ0\epsilon_0 は仮定した値)。

誤りとして、気体の化学ポテンシャルに μ=kBTln⁡P\mu=k_{\mathrm B} T\ln P のような形を使い、熱的波長の因子を落とすことである。PP の単位を換えると値が変わり、P0P_0 の次元も圧力にならない。[2]の符号誤りが残った場合は、上の例で θ=3×10−14\theta=3\times10^{-14} になる。

[8] 冷蔵庫の中と室内での活性炭の除去能力

ラングミュアの式 θ=KP/(1+KP)\theta=KP/(1+KP) は KK の単調増加関数なので、比べる量は KK の温度変化に絞れる。KK の温度依存には2つの因子がある。指数因子 exp⁡(ϵ0/kBT)\exp(\epsilon_0/k_{\mathrm B} T) は、低温ほど吸着状態のエネルギー利得 −ϵ0-\epsilon_0 が熱運動に対して効くことを表す。冪の因子 T−5/2T^{-5/2} は、2つの効果の積である。低温ほど気体の1分子が使える並進状態の数 1/λ3∝T3/21/\lambda^3\propto T^{3/2} が減り、気相に留まる利点(並進エントロピー)が弱まる。同じ圧力でも低温ほど数密度 P/(kBT)P/(k_{\mathrm B} T) が大きく、表面に衝突する分子が増える。どちらも低温で KK を大きくする。

同じ分圧Pでの吸着の被覆率θと、室温での平衡定数と分圧の積KPの関係(ε0=0.30 eVと仮定)。冷蔵庫の中(278 K)の曲線は室温(298 K)より上にあり、同じ分圧で被覆率が高い。

自作解説図:同じ分圧 PP での被覆率(ϵ0=0.30 eV\epsilon_0=0.30\ \mathrm{eV} と仮定)。横軸は室温での KPKP。

ϵ0=0.30 eV\epsilon_0=0.30\ \mathrm{eV} と仮定して、冷蔵庫の中(5∘C=278 K5^\circ\mathrm C=278\ \mathrm K)と室内(25∘C=298 K25^\circ\mathrm C=298\ \mathrm K)を比べる。K(278)/K(298)=1.19×2.32=2.8K(278)/K(298)=1.19\times2.32=2.8 で、1.191.19 が冪の因子、2.322.32 が指数因子である。室温で K298P=0.5K_{298}P=0.5 となる分圧では、θ=0.33\theta=0.33(室内)に対して θ=0.58\theta=0.58(冷蔵庫)となる。ϵ0=0.10 eV\epsilon_0=0.10\ \mathrm{eV} なら KK の比は1.6、0.50 eV0.50\ \mathrm{eV} なら4.8で、ϵ0\epsilon_0 が大きい吸着ほど温度差の効き方が大きい。一方、K298P=100K_{298}P=100 のように飽和に近いと θ=0.990\theta=0.990 と 0.9960.996 で差は小さく、冷蔵庫の利点が大きく現れるのは KP≲1KP\lesssim1 の範囲である。

この論述は、比べる2つの場所で臭い分子の分圧 PP が同じという前提に立つ。冷蔵庫の中では臭いの発生源の蒸気圧も下がり、分圧が実際には小さくなる効果が加わる。ラングミュアの式だけで θ\theta の大小を決められるのは、分圧が等しい場合に限られる。答案には「同じ分圧で比べる」と書き添えておく。

解答

[1] 吸着している分子全体の状態の数

各サイトは空か分子1個のどちらかで、同じ種類の分子は互いに区別できない。状態は「N0N_0 個のサイトのうち分子が入る nn 個をどれにするか」で決まるので、 Ω=(N0n)=N0!n! (N0−n)!. \Omega=\binom{N_0}{n}=\frac{N_0!}{n!\,(N_0-n)!}.

[2] nn 個吸着したときの分配関数 ZnZ_n

分子の形状・振動のエネルギーと吸着分子どうしの相互作用は無視してよいので、吸着した分子が nn 個の状態では、どの配置でも表面のエネルギーは En=−nϵ0E_n=-n\epsilon_0 である。正準分配関数は全状態のボルツマン因子の和であり、同じ値の項が Ω\Omega 個並ぶ。 Zn=∑配置e−βEn=Ωexp⁡(nβϵ0)=N0!n! (N0−n)!exp⁡ ⁣(nϵ0kBT). Z_n=\sum_{\text{配置}}\mathrm e^{-\beta E_n} =\Omega\exp(n\beta\epsilon_0) =\frac{N_0!}{n!\,(N_0-n)!}\exp\!\left(\frac{n\epsilon_0}{k_{\mathrm B} T}\right).

[3] 大分配関数 ZGZ_G

吸着分子は気相と分子をやりとりして nn が揺らぐので、化学ポテンシャル μ\mu の粒子浴に接した系として大分配関数 ZG=∑neβμnZnZ_G=\sum_n\mathrm e^{\beta\mu n}Z_n を作る。[2]を代入し、x=exp⁡[β(ϵ0+μ)]x=\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)] とおいて二項定理 (1+x)N=∑n(Nn)xn(1+x)^{N}=\sum_n\binom Nn x^n を使うと ZG=∑n=0N0(N0n)xn=(1+x)N0=[1+exp⁡(β(ϵ0+μ))]N0. Z_G=\sum_{n=0}^{N_0}\binom{N_0}{n}x^n=(1+x)^{N_0} =\Bigl[1+\exp\bigl(\beta(\epsilon_0+\mu)\bigr)\Bigr]^{N_0}.

[4] 吸着した分子の数の期待値 ⟨n⟩\langle n\rangle

⟨n⟩=∑nn eβμnZn/ZG=kBT ∂ln⁡ZG/∂μ\langle n\rangle=\sum_n n\,\mathrm e^{\beta\mu n}Z_n/Z_G=k_{\mathrm B} T\,\partial\ln Z_G/\partial\mu である。ln⁡ZG=N0ln⁡(1+x)\ln Z_G=N_0\ln(1+x) と ∂x/∂μ=βx\partial x/\partial\mu=\beta x から ⟨n⟩=kBT⋅N0βx1+x=N0exp⁡[β(ϵ0+μ)]1+exp⁡[β(ϵ0+μ)]=N0exp⁡ ⁣[−ϵ0+μkBT]+1. \langle n\rangle=k_{\mathrm B} T\cdot N_0\frac{\beta x}{1+x} =N_0\frac{\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)]}{1+\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)]} =\frac{N_0}{\exp\!\left[-\dfrac{\epsilon_0+\mu}{k_{\mathrm B} T}\right]+1}.

[5] 理想気体の分配関数 ZcZ_c とヘルムホルツの自由エネルギー F(T)F(T)

互いに独立で区別できない NN 個の分子では、NN 個の分子の入れ替え N!N! 通りを同じ状態と数えるため Zc=Zs NN!. Z_c=\frac{Z_s^{\,N}}{N!}. F=−kBTln⁡ZcF=-k_{\mathrm B} T\ln Z_c にスターリングの近似 ln⁡N!≃Nln⁡N−N\ln N!\simeq N\ln N-N を入れると F=−kBT[Nln⁡Zs−Nln⁡N+N]=−NkBT[ln⁡ZsN+1]. F=-k_{\mathrm B} T\bigl[N\ln Z_s-N\ln N+N\bigr] =-Nk_{\mathrm B} T\left[\ln\frac{Z_s}{N}+1\right].

[6] 理想気体の化学ポテンシャル μ(T,P)\mu(T,P)

化学ポテンシャルは μ=(∂F/∂N)T,V\mu=(\partial F/\partial N)_{T,V} である。∂(Nln⁡N)/∂N=ln⁡N+1\partial(N\ln N)/\partial N=\ln N+1 を使って μ=−kBT[ln⁡ZsN+1]+kBT=−kBTln⁡ZsN. \mu=-k_{\mathrm B} T\left[\ln\frac{Z_s}{N}+1\right]+k_{\mathrm B} T=-k_{\mathrm B} T\ln\frac{Z_s}{N}. Zs=(2πmkBT/h2)3/2VZ_s=(2\pi mk_{\mathrm B} T/h^2)^{3/2}V で、PV=NkBTPV=Nk_{\mathrm B} T から V/N=kBT/PV/N=k_{\mathrm B} T/P なので μ=−kBTln⁡ ⁣[(2πmkBTh2)3/2kBTP]=kBTln⁡P h3(2πm)3/2(kBT)5/2. \mu=-k_{\mathrm B} T\ln\!\left[\left(\frac{2\pi mk_{\mathrm B} T}{h^2}\right)^{3/2}\frac{k_{\mathrm B} T}{P}\right] =k_{\mathrm B} T\ln\frac{P\,h^3}{(2\pi m)^{3/2}(k_{\mathrm B} T)^{5/2}}.

[7] 被覆率 ⟨n⟩/N0\langle n\rangle/N_0 の P,TP,T 依存性

吸着した分子と気体の分子の化学ポテンシャルが等しいので、[4]の μ\mu に[6]の μ\mu を代入する。[6]から exp⁡(βμ)=P h3(2πm)3/2(kBT)5/2, \exp(\beta\mu)=\frac{P\,h^3}{(2\pi m)^{3/2}(k_{\mathrm B} T)^{5/2}}, よって x=exp⁡[β(ϵ0+μ)]=P/P0(T)x=\exp[\beta(\epsilon_0+\mu)]=P/P_0(T) となる。ここで P0(T)=(2πmh2)3/2(kBT)5/2exp⁡ ⁣(−ϵ0kBT) P_0(T)=\left(\frac{2\pi m}{h^2}\right)^{3/2}(k_{\mathrm B} T)^{5/2}\exp\!\left(-\frac{\epsilon_0}{k_{\mathrm B} T}\right) とおいた。被覆率は θ=⟨n⟩N0=x1+x=PP+P0(T). \theta=\frac{\langle n\rangle}{N_0}=\frac{x}{1+x}=\frac{P}{P+P_0(T)}.

[8] 冷蔵庫の中と室内での活性炭の除去能力

除去される分子の量は吸着量 ⟨n⟩=N0θ\langle n\rangle=N_0\theta で決まる。臭いの分子の分圧 PP が同じなら、[7]の θ=KP/(1+KP)\theta=KP/(1+KP) は KK が大きいほど大きい。K∝T−5/2exp⁡(ϵ0/kBT)K\propto T^{-5/2}\exp(\epsilon_0/k_{\mathrm B} T) を温度で微分すると dln⁡KdT=−52T−ϵ0kBT2<0 \frac{\mathrm d\ln K}{\mathrm dT}=-\frac5{2T}-\frac{\epsilon_0}{k_{\mathrm B} T^2}<0 で、KK は温度が低いほど大きい。したがって低温の冷蔵庫の中のほうが θ\theta が大きく、活性炭の分子除去能力は高い。

最終答

[1] 吸着している分子全体の状態の数

Ω=N0!n! (N0−n)!\displaystyle \Omega=\frac{N_0!}{n!\,(N_0-n)!}

[2] nn 個吸着したときの分配関数 ZnZ_n

Zn=N0!n! (N0−n)!exp⁡ ⁣(nϵ0kBT)\displaystyle Z_n=\frac{N_0!}{n!\,(N_0-n)!}\exp\!\left(\frac{n\epsilon_0}{k_{\mathrm B} T}\right)

[3] 大分配関数 ZGZ_G

ZG=[1+exp⁡ ⁣(ϵ0+μkBT)]N0\displaystyle Z_G=\left[1+\exp\!\left(\frac{\epsilon_0+\mu}{k_{\mathrm B} T}\right)\right]^{N_0}

[4] 吸着した分子の数の期待値 ⟨n⟩\langle n\rangle

⟨n⟩=N0exp⁡ ⁣[−(ϵ0+μ)/(kBT)]+1\displaystyle \langle n\rangle=\frac{N_0}{\exp\!\left[-(\epsilon_0+\mu)/(k_{\mathrm B} T)\right]+1}

[5] 理想気体の分配関数 ZcZ_c とヘルムホルツの自由エネルギー F(T)F(T)

Zc=Zs NN!,F(T)=−NkBT[ln⁡ZsN+1]\displaystyle Z_c=\frac{Z_s^{\,N}}{N!},\qquad F(T)=-Nk_{\mathrm B} T\left[\ln\frac{Z_s}{N}+1\right]

[6] 理想気体の化学ポテンシャル μ(T,P)\mu(T,P)

μ=kBTln⁡P h3(2πm)3/2(kBT)5/2\displaystyle \mu=k_{\mathrm B} T\ln\frac{P\,h^3}{(2\pi m)^{3/2}(k_{\mathrm B} T)^{5/2}}

[7] 被覆率 ⟨n⟩/N0\langle n\rangle/N_0 の P,TP,T 依存性

θ=PP+P0(T)=KP1+KP,K=1P0(T)=h3 eϵ0/(kBT)(2πm)3/2(kBT)5/2\displaystyle \theta=\frac{P}{P+P_0(T)}=\frac{KP}{1+KP},\qquad K=\frac1{P_0(T)}=\frac{h^3\,\mathrm e^{\epsilon_0/(k_{\mathrm B} T)}}{(2\pi m)^{3/2}(k_{\mathrm B} T)^{5/2}}

[8] 冷蔵庫の中と室内での活性炭の除去能力

冷蔵庫の中のほうが高い(同じ分圧で比べると、低温ほど KK が大きく被覆率 θ\theta が大きい)。

第2問 — 物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性

物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合

半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合の途中式・最終答をPDFで見る

物性物理科学IIの解答・解説PDF

2022〜2026年度(5年度) · ¥2,880

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年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(このページ・解説3項目)

    統計力学:サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式 / 物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性 / 半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合

  • 2025年度(解説3項目)

    統計力学:古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張 / 固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面 / 電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管

  • 2024年度(解説3項目)

    統計力学:1次元高分子鎖のエントロピー弾性 / 光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子 / 固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化

  • 2023年度(解説3項目)

    統計力学:グランドカノニカル分布と粒子数の揺らぎ / 磁性:S=1 イオンのゼロ磁場分裂とゼーマン効果 / 固体物理:1次元自由電子の状態密度と真性半導体のキャリア

  • 2022年度(解説3項目)

    量子力学:角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子 / 電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率 / 半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定

2026年度の出題内容

解説3項目

この3問の分野は物性物理2問・熱・統計力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問熱・統計力学サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式—あり
第2問物性物理パウリ常磁性とキュリー常磁性—あり
第3問物性物理キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合—あり

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 3問 → 2026年度 3問
2025年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF