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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理科学II 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(解説3項目)

解説3項目の分野は電磁気学・回路1項目、物性物理1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 量子力学:角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子

[1](i) 1粒子の軌道角運動量の交換関係

交換子は、2つの演算子の積の順序を入れ替えたときの差である。lxl_x と lyl_y が交換しないということは、角運動量の2つの成分の値を同時に確定できないことを意味する。3成分をまとめて [la,lb]=iℏ εabc lc[l_a,l_b]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,l_c と書くと、これが角運動量に共通の代数になる。(ii) の合成、[3] のスピン、[4] の J,L,SJ,L,S のすべてで同じ形が使われる。この関係から l2=lx2+ly2+lz2l^2=l_x^2+l_y^2+l_z^2 が各成分と交換することも導ける。実際、[lz,lx2]=iℏ(lxly+lylx)[l_z,l_x^2]=\mathrm i\hbar(l_xl_y+l_yl_x) と [lz,ly2]=−iℏ(lylx+lxly)[l_z,l_y^2]=-\mathrm i\hbar(l_yl_x+l_xl_y) が打ち消し合い、[lz,l2]=0[l_z,l^2]=0 となる。[4] で L2L^2 に固有値 L(L+1)ℏ2L(L+1)\hbar^2 を使えるのは、この性質があるからである。

出発点の [x,px]=iℏ[x,p_x]=\mathrm i\hbar は、px=−iℏ ∂xp_x=-\mathrm i\hbar\,\partial_x を任意の関数 ψ\psi に作用させ、[x,px]ψ=−iℏ [x∂xψ−∂x(xψ)]=iℏ ψ[x,p_x]\psi=-\mathrm i\hbar\,[x\partial_x\psi-\partial_x(x\psi)]=\mathrm i\hbar\,\psi と確かめられる。lz=−iℏ(x∂y−y∂x)l_z=-\mathrm i\hbar(x\partial_y-y\partial_x) の形を使って任意の関数に作用させる直接計算でも、同じ結果になる。この直接計算を記号計算で実行し、3つの関係すべてが一致することも確認した。

単位は、左辺の [lx,ly][l_x,l_y] が (J s)2(\mathrm{J\,s})^2、右辺の ℏ lz\hbar\,l_z も (J s)2(\mathrm{J\,s})^2 で合う。ℏ\hbar を落として [lx,ly]=i lz[l_x,l_y]=\mathrm i\,l_z と書くと単位が合わない。

誤りは符号で起きる。[x,p][x,p] を −iℏ-\mathrm i\hbar と逆に覚えていると、全体が −iℏ lz-\mathrm i\hbar\,l_z になる。1つの項だけ [pz,z][p_z,z] と [z,pz][z,p_z] を取り違えると、iℏ(xpy+ypx)\mathrm i\hbar(xp_y+yp_x) という lzl_z にならない式が出る。結果が lzl_z の形に閉じるかどうかが、符号の検算になる。

[1](ii) NN 粒子の合成軌道角運動量の交換関係

証明に使うのは、交換子が和について線形([A+B,C]=[A,C]+[B,C][A+B,C]=[A,C]+[B,C])であることと、異なる粒子の演算子は交換することの2点である。二重和の N2N^2 個の項のうち、j=kj=k の NN 個だけが残る。N=2N=2 なら [l1,x,l1,y][l_{1,x},l_{1,y}]、[l1,x,l2,y][l_{1,x},l_{2,y}]、[l2,x,l1,y][l_{2,x},l_{1,y}]、[l2,x,l2,y][l_{2,x},l_{2,y}] の4項のうち、第2項と第3項が 00 になる。2電子で2粒子の座標・運動量を実際の微分演算子で表し、これらの項が個別に 00 になること、残る2項の和が iℏLz\mathrm i\hbar L_z に一致することも記号計算で確認した。

合成した L\bm L が1粒子と同じ代数に従うので、L2L^2 の固有値 L(L+1)ℏ2L(L+1)\hbar^2 や、L\bm L とスピンの合成 J=L+S\bm J=\bm L+\bm S の議論を、粒子数によらずそのまま使える。多電子原子の項記号(2P3/2^2P_{3/2} のような L,S,JL,S,J の組)が意味を持つ根拠である。

答案に書くべき点は、j≠kj\ne k の項が 00 になる理由である。「同様に」で済ませると、証明の肝を落とすことになる。数え間違いも起こる。二重和のすべての (j,k)(j,k) に iℏ lk,z\mathrm i\hbar\,l_{k,z} を割り当てると NN 個の和が NN 回現れ、N=2N=2 では正しい値の2倍の 2 iℏLz2\,\mathrm i\hbar L_z が出てしまう。

[2] H0H_0 のもとでの L\bm L の保存

時間に陽に依らない演算子 AA の期待値は d⟨A⟩/dt=⟨[A,H]⟩/(iℏ)\mathrm d\langle A\rangle/\mathrm dt=\langle[A,H]\rangle/(\mathrm i\hbar) に従う。AA が HH と交換すれば期待値は一定で、保存量になる。ハイゼンベルグ描像では、これが演算子そのものの方程式 dA/dt=[A,H]/(iℏ)\mathrm dA/\mathrm dt=[A,H]/(\mathrm i\hbar) として現れる。

問題文で保存則の合図になる条件は2つある。「球対称ポテンシャル V0V_0」は V0V_0 が ∣rj∣|\bm r_j| だけの関数であることを、「電子間クーロン相互作用 V1V_1」は V1V_1 が ∣rj−rk∣|\bm r_j-\bm r_k| だけの関数であることを意味する。この2点は、座標軸を回しても H0H_0 が変わらないという回転対称性を与える。L\bm L は回転の生成子(e−iθ n⋅L/ℏ\mathrm e^{-\mathrm i\theta\,\bm n\cdot\bm L/\hbar} が軸 n\bm n まわりの角 θ\theta の回転を表す)なので、回転で変わらないスカラー量とは交換する。第2段階の式は、この事実を成分で示したものである。

大事なのは、保存するのが L\bm L であって、各 lj\bm l_j ではないことである。たとえば電子1と電子2の距離 s=∣r1−r2∣s=|\bm r_1-\bm r_2| に依る項では、 [l1,z,V1]=iℏ (x1y2−x2y1)s V1′(s)≠0, [l_{1,z},V_1]=\mathrm i\hbar\,\frac{(x_1y_2-x_2y_1)}{s}\,V_1'(s)\ne0, となり、[l2,z,V1][l_{2,z},V_1] が逆符号で打ち消して、和 LzL_z で初めて 00 になる。電子間相互作用により、電子どうしが角運動量をやりとりしているわけである。2電子の微分演算子で [La,H0]f=0[L_a,H_0]f=0(a=x,y,za=x,y,z、V0,V1V_0,V_1 は任意の関数)、[l1,z,V1]≠0[l_{1,z},V_1]\ne0、[Lz,V1]=0[L_z,V_1]=0 を記号計算で確かめた。

球対称の中心が原点からずれると保存しない。V(∣r−d∣)V(|\bm r-\bm d|)、d=(d,0,0)\bm d=(d,0,0) では [lz,V]=−iℏ d y V′/∣r−d∣≠0[l_z,V]=-\mathrm i\hbar\,d\,y\,V'/|\bm r-\bm d|\ne0 となる。「L\bm L は原点まわりの角運動量である」という前提が、V0V_0 の中心が原点であることと結びついている。

実際に起こる誤りは、「V1V_1 は球対称だから各 lj\bm l_j と交換する」と書くことである。上の [l1,z,V1][l_{1,z},V_1] が 00 でないので、誤りになる。rj⋅rk\bm r_j\cdot\bm r_k との交換子は、L\bm L が rj\bm r_j と rk\bm r_k の両方に作用することで初めて 00 になる。この点を答案に明記する。

[3] スピン軌道相互作用を加えたときの J\bm J の保存

同じ計算で、L\bm L や S\bm S が単独では保存しないことも分かる。[La,S⋅L]=Sb[La,Lb]=iℏ (S×L)a[L_a,\bm S\cdot\bm L]=S_b[L_a,L_b]=\mathrm i\hbar\,(\bm S\times\bm L)_a、[Sa,S⋅L]=[Sa,Sb]Lb=iℏ (L×S)a[S_a,\bm S\cdot\bm L]=[S_a,S_b]L_b=\mathrm i\hbar\,(\bm L\times\bm S)_a なので、 dLdt=λ S×L,dSdt=λ L×S=−dLdt \frac{\mathrm d\bm L}{\mathrm dt}=\lambda\,\bm S\times\bm L,\qquad \frac{\mathrm d\bm S}{\mathrm dt}=\lambda\,\bm L\times\bm S=-\frac{\mathrm d\bm L}{\mathrm dt} である。L\bm L と S\bm S が互いに角運動量をやりとりし、その和だけが変わらない。[2] で成り立った L\bm L の保存が、H1H_1 を加えると壊れる理由は、S⋅L\bm S\cdot\bm L が S\bm S と L\bm L の相対的な向きに依り、L\bm L だけを回す対称性が失われるからである。残るのは、S\bm S と L\bm L を同時に回す対称性で、その生成子が J\bm J である。一方 L2L^2 と S2S^2 は L,S\bm L,\bm S のどの成分とも交換するので、HH とも交換して保存する。L,S,JL,S,J が良い量子数になる。[4] の gg 因子の議論はこれを使う。

S⋅L\bm S\cdot\bm L の大きさの見当を付ける。ℏ=1\hbar=1 とし、L=1, S=12L=1,\,S=\tfrac12 の6次元空間で S⋅L\bm S\cdot\bm L の行列を作ると、固有値は J=3/2J=3/2 の4個が +12+\tfrac12、J=1/2J=1/2 の2個が −1-1 になる。準位の間隔は 32λℏ2\tfrac32\lambda\hbar^2 である。これは次の関係と一致する。 S⋅L=12(J2−L2−S2),12[154−2−34]=12,12[34−2−34]=−1. \bm S\cdot\bm L=\tfrac12\bigl(J^2-L^2-S^2\bigr),\qquad \tfrac12\left[\tfrac{15}{4}-2-\tfrac34\right]=\tfrac12,\quad \tfrac12\left[\tfrac34-2-\tfrac34\right]=-1 . また L=1,S=12L=1,S=\tfrac12、L=2,S=1L=2,S=1、L=3,S=12L=3,S=\tfrac12 の行列表現で、[Ja,S⋅L]=0[J_a,\bm S\cdot\bm L]=0 と、[La,S⋅L]=i(S×L)a≠0[L_a,\bm S\cdot\bm L]=\mathrm i(\bm S\times\bm L)_a\ne0 を確認した。

誤りの典型は、[Ja,SbLb][J_a,S_bL_b] の展開で Sb[La,Lb]S_b[L_a,L_b] の項を落とすことである。残る iℏ εabcScLb=iℏ (L×S)a\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}S_cL_b=\mathrm i\hbar\,(\bm L\times\bm S)_a は 00 でなく、保存が示せなくなる。「S\bm S は H0H_0 と交換するから保存する」と書くのも誤りである。[Sa,H][S_a,H] には H1H_1 からの iℏλ (L×S)a\mathrm i\hbar\lambda\,(\bm L\times\bm S)_a が残る。

[4] ランデの gg 因子

問題文の流れは、期待値 ⟨μ⟩\langle\bm\mu\rangle が J\bm J に平行になるという前提から、両辺に J\bm J を掛けて gg だけを残す形になっている。平行になる理由は、μ=−μB(L+2S)\bm\mu=-\mu_B(\bm L+2\bm S) に [3] の結果 dL/dt=λ S×L\mathrm d\bm L/\mathrm dt=\lambda\,\bm S\times\bm L を使い、古典的なベクトルとして S=J−L\bm S=\bm J-\bm L、L×L=0\bm L\times\bm L=\bm 0 を入れると dL/dt=λ J×L\mathrm d\bm L/\mathrm dt=\lambda\,\bm J\times\bm L になることにある。J\bm J が一定なので、L\bm L も S\bm S も J\bm J のまわりを角速度 λJ\lambda\bm J で回り、J\bm J に垂直な成分の時間平均は 00 になる。残るのは J\bm J 方向の成分 (μ⋅J) J/J2(\bm\mu\cdot\bm J)\,\bm J/J^2 だけである。

gg の式の導き方で要になるのは、L+2S\bm L+2\bm S に含まれる L⋅J\bm L\cdot\bm J と S⋅J\bm S\cdot\bm J を、J,L,SJ,L,S の2乗で書き換えることである。これは J=L+S\bm J=\bm L+\bm S の2乗が J2=L2+S2+2 L⋅SJ^2=L^2+S^2+2\,\bm L\cdot\bm S であることからも導かれる。L2L^2 と S2S^2 が保存する(H1H_1 と交換する)ので、L(L+1)L(L+1)、S(S+1)S(S+1) を固有値として使ってよい。この前提を答案に書く。ℏ\hbar を戻すと、μ=−μB(L+2S)/ℏ\bm\mu=-\mu_B(\bm L+2\bm S)/\hbar で、ℏ2\hbar^2 が J⋅J=J(J+1)ℏ2\bm J\cdot\bm J=J(J+1)\hbar^2 と打ち消し、gg は無次元になる。

特殊な場合で確かめる。S=0S=0 なら J=LJ=L で g=1g=1 になり、軌道運動だけの磁気モーメントの値である。L=0L=0 なら J=SJ=S で g=2g=2 になり、スピンの gg 因子 22 に一致する。表は式で求めた値で、行列から ⟨(L+2S)⋅J⟩/⟨J2⟩\langle(\bm L+2\bm S)\cdot\bm J\rangle/\langle J^2\rangle を各 JJ の部分空間で計算した結果とも一致した。

状態

2P1/2^2P_{1/2}

2P3/2^2P_{3/2}

3F2^3F_2

3F3^3F_3

3F4^3F_4

(L,S,J)(L,S,J)

(1,12,12)(1,\tfrac12,\tfrac12)

(1,12,32)(1,\tfrac12,\tfrac32)

(3,1,2)(3,1,2)

(3,1,3)(3,1,3)

(3,1,4)(3,1,4)

gg

2/32/3

4/34/3

2/32/3

13/1213/12

5/45/4

磁場 B=1 TB=1\ \mathrm T を仮定すると、ゼーマン分裂の間隔 gμBBg\mu_BB は μB=5.788×10−5 eV/T\mu_B=5.788\times10^{-5}\ \mathrm{eV/T} から、2P1/2^2P_{1/2} で 3.86×10−5 eV3.86\times10^{-5}\ \mathrm{eV}、2P3/2^2P_{3/2} で 7.72×10−5 eV7.72\times10^{-5}\ \mathrm{eV} になる。同じ L,SL,S でも JJ により gg が2倍違う。

誤りの値を3つ挙げる。J(J+1)J(J+1)、L(L+1)L(L+1)、S(S+1)S(S+1) をそれぞれ J2J^2、L2L^2、S2S^2 と取り違えると、2P1/2^2P_{1/2} で g=32+1/4−12⋅1/4=0g=\tfrac32+\dfrac{1/4-1}{2\cdot1/4}=0 となり、2/32/3 と全く違う値になる。S(S+1)−L(L+1)S(S+1)-L(L+1) の符号を逆にすると、2P3/2^2P_{3/2} で 5/35/3 となり、正しい 4/34/3 からずれる。磁気モーメントのスピンの係数 22 を落として μ=−μB(L+S)=−μBJ\bm\mu=-\mu_B(\bm L+\bm S)=-\mu_B\bm J とすると、どの状態でも g=1g=1 になり、L=0L=0 の g=2g=2 が出ない。

解答

[1](i) 1粒子の軌道角運動量の交換関係

lx=ypz−zpyl_x=yp_z-zp_y、ly=zpx−xpzl_y=zp_x-xp_z、lz=xpy−ypxl_z=xp_y-yp_x である。使う関係は、同じ成分の座標と運動量だけが交換しないこと [xa,pb]=iℏδab[x_a,p_b]=\mathrm i\hbar\delta_{ab} と、積の交換子の展開 [AB,C]=A[B,C]+[A,C]B[AB,C]=A[B,C]+[A,C]B である。 [lx,ly]=[ypz, zpx]−[ypz, xpz]−[zpy, zpx]+[zpy, xpz]. [l_x,l_y]=[yp_z,\,zp_x]-[yp_z,\,xp_z]-[zp_y,\,zp_x]+[zp_y,\,xp_z]. 第1項は、yy と pxp_x が他の因子と交換するので ypx[pz,z]=−iℏ ypxyp_x[p_z,z]=-\mathrm i\hbar\,yp_x となる。第2項と第3項は、どの座標とも運動量の同じ成分の組を含まないので 00 である。第4項は xx と pyp_y が他の因子と交換するので xpy[z,pz]=iℏ xpyxp_y[z,p_z]=\mathrm i\hbar\,xp_y となる。したがって [lx,ly]=−iℏ ypx+iℏ xpy=iℏ (xpy−ypx)=iℏ lz. [l_x,l_y]=-\mathrm i\hbar\,yp_x+\mathrm i\hbar\,xp_y=\mathrm i\hbar\,(xp_y-yp_x)=\mathrm i\hbar\,l_z . x→y→z→xx\to y\to z\to x と成分を循環させれば [ly,lz]=iℏ lx[l_y,l_z]=\mathrm i\hbar\,l_x、[lz,lx]=iℏ ly[l_z,l_x]=\mathrm i\hbar\,l_y も得られる。

[1](ii) NN 粒子の合成軌道角運動量の交換関係

La=∑j=1Nlj,aL_a=\sum_{j=1}^{N}l_{j,a} なので、交換子は二重和になる。 [Lx,Ly]=∑j=1N∑k=1N[lj,x, lk,y]. [L_x,L_y]=\sum_{j=1}^{N}\sum_{k=1}^{N}[l_{j,x},\,l_{k,y}] . j≠kj\ne k のとき、lj,xl_{j,x} は rj,pj\bm r_j,\bm p_j だけを、lk,yl_{k,y} は rk,pk\bm r_k,\bm p_k だけを含む。異なる粒子の座標と運動量は [rj,a,pk,b]=iℏ δjkδab[r_{j,a},p_{k,b}]=\mathrm i\hbar\,\delta_{jk}\delta_{ab} により交換するので、この項は 00 である。j=kj=k のときは (i) から [lj,x,lj,y]=iℏ lj,z[l_{j,x},l_{j,y}]=\mathrm i\hbar\,l_{j,z} となる。したがって [Lx,Ly]=∑j=1Niℏ lj,z=iℏ Lz. [L_x,L_y]=\sum_{j=1}^{N}\mathrm i\hbar\,l_{j,z}=\mathrm i\hbar\,L_z . 他の成分も成分の循環で同じに得られる。

[2] H0H_0 のもとでの L\bm L の保存

L\bm L は時間に陽に依らない演算子なので、ハイゼンベルグの運動方程式の右辺 [L,H0][\bm L,H_0] が 00 になることを示せばよい。

第1に基本関係を求める。la=εacd rcpdl_a=\varepsilon_{acd}\,r_cp_d と書き、[pd,rb]=−iℏδdb[p_d,r_b]=-\mathrm i\hbar\delta_{db}、[rc,pb]=iℏδcb[r_c,p_b]=\mathrm i\hbar\delta_{cb} を使うと [la,rb]=εacd rc[pd,rb]=iℏ εabc rc,[la,pb]=εacd [rc,pb] pd=iℏ εabd pd. [l_a,r_b]=\varepsilon_{acd}\,r_c[p_d,r_b]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,r_c,\qquad [l_a,p_b]=\varepsilon_{acd}\,[r_c,p_b]\,p_d=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abd}\,p_d . 粒子 jj の rj,pj\bm r_j,\bm p_j は jj 以外の粒子の lk\bm l_k と交換するので、合成 L\bm L についても [La,rj,b]=iℏ εabc rj,c[L_a,r_{j,b}]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,r_{j,c}、[La,pj,b]=iℏ εabc pj,c[L_a,p_{j,b}]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,p_{j,c} が成り立つ。

第2に、同じ形の関係 [La,Ab]=iℏ εabcAc[L_a,A_b]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}A_c を満たすベクトル A,B\bm A,\bm B のスカラー積を考える。 [La,A⋅B]=[La,Ab]Bb+Ab[La,Bb]=iℏ εabc (AcBb+AbBc)=0. [L_a,\bm A\cdot\bm B]=[L_a,A_b]B_b+A_b[L_a,B_b]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,(A_cB_b+A_bB_c)=0 . 最後の等号は、第1項で bb と cc を入れ替えると εacb=−εabc\varepsilon_{acb}=-\varepsilon_{abc} により第2項と打ち消し合うことによる。

第3に、H0H_0 の各項を調べる。

  • 運動エネルギー:A=B=pj\bm A=\bm B=\bm p_j より [L,pj2]=0[\bm L,p_j^2]=0。

  • V0(∣rj∣)V_0(|\bm r_j|):A=B=rj\bm A=\bm B=\bm r_j より [L,rj2]=0[\bm L,r_j^2]=0。V0V_0 は rj2r_j^2 の関数なので [L,V0]=0[\bm L,V_0]=0。

  • V1(∣rj−rk∣)V_1(|\bm r_j-\bm r_k|):∣rj−rk∣2=rj2+rk2−2 rj⋅rk|\bm r_j-\bm r_k|^2=r_j^2+r_k^2-2\,\bm r_j\cdot\bm r_k で、A=rj\bm A=\bm r_j、B=rk\bm B=\bm r_k とすると [L,rj⋅rk]=0[\bm L,\bm r_j\cdot\bm r_k]=0。よって [L,V1]=0[\bm L,V_1]=0。

以上から [L,H0]=0[\bm L,H_0]=0 であり、dL/dt=0\mathrm d\bm L/\mathrm dt=\bm 0 となる。

[3] スピン軌道相互作用を加えたときの J\bm J の保存

H=H0+λ S⋅LH=H_0+\lambda\,\bm S\cdot\bm L、S⋅L=SbLb\bm S\cdot\bm L=S_bL_b とする。S\bm S はスピンの空間、L\bm L は位置の空間に作用するので [Sa,Lb]=0[S_a,L_b]=0 である。S\bm S は軌道角運動量と同じ形の [Sa,Sb]=iℏ εabcSc[S_a,S_b]=\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}S_c を満たす。dJ/dt=[J,H]/(iℏ)\mathrm d\bm J/\mathrm dt=[\bm J,H]/(\mathrm i\hbar) の右辺を、H0H_0 の部分と S⋅L\bm S\cdot\bm L の部分に分ける。

H0H_0 の部分は、[Ja,H0]=[Sa,H0]+[La,H0][J_a,H_0]=[S_a,H_0]+[L_a,H_0] である。H0H_0 はスピンを含まないので [Sa,H0]=0[S_a,H_0]=0 で、[La,H0]=0[L_a,H_0]=0 は [2] で示した。したがって [Ja,H0]=0[J_a,H_0]=0 となる。

S⋅L\bm S\cdot\bm L の部分は、SaS_a が LbL_b と交換し、LaL_a が SbS_b と交換することから [Ja, SbLb]=[Sa,Sb] Lb+Sb [La,Lb]=iℏ εabc (ScLb+SbLc)=0. [J_a,\,S_bL_b]=[S_a,S_b]\,L_b+S_b\,[L_a,L_b] =\mathrm i\hbar\,\varepsilon_{abc}\,(S_cL_b+S_bL_c)=0 . 最後の等号は、[2] と同様に bb と cc の入れ替えで第1項と第2項が打ち消し合うことによる(ScS_c と LbL_b は交換するので順序は気にしなくてよい)。以上から [J,H]=0[\bm J,H]=\bm 0 であり、dJ/dt=0\mathrm d\bm J/\mathrm dt=\bm 0 となる。

[4] ランデの gg 因子

問題文の記法に合わせ、ℏ=1\hbar=1 とする(L,S,J\bm L,\bm S,\bm J は ℏ\hbar を単位とする無次元の演算子とみなす)。S=J−L\bm S=\bm J-\bm L なので (L+2S)⋅J=(2J−L)⋅J=2J2−L⋅J. (\bm L+2\bm S)\cdot\bm J=(2\bm J-\bm L)\cdot\bm J=2J^2-\bm L\cdot\bm J . L\bm L と S\bm S は交換するので J⋅L=L⋅J=L2+S⋅L\bm J\cdot\bm L=\bm L\cdot\bm J=L^2+\bm S\cdot\bm L である。また S=J−L\bm S=\bm J-\bm L の2乗から S2=J2−2 L⋅J+L2⟹L⋅J=12(J2+L2−S2). S^2=J^2-2\,\bm L\cdot\bm J+L^2\quad\Longrightarrow\quad \bm L\cdot\bm J=\tfrac12\bigl(J^2+L^2-S^2\bigr). これを代入して (L+2S)⋅J=2J2−12(J2+L2−S2)=12(3J2−L2+S2). (\bm L+2\bm S)\cdot\bm J=2J^2-\tfrac12\bigl(J^2+L^2-S^2\bigr)=\tfrac12\bigl(3J^2-L^2+S^2\bigr). J2,L2,S2J^2,L^2,S^2 は HH と交換し、同時に固有状態をとれる。その状態で J2=J(J+1)J^2=J(J+1)、L2=L(L+1)L^2=L(L+1)、S2=S(S+1)S^2=S(S+1) となる。左辺は ⟨μ⋅J⟩=−μB 3J(J+1)−L(L+1)+S(S+1)2. \langle\bm\mu\cdot\bm J\rangle=-\mu_B\,\frac{3J(J+1)-L(L+1)+S(S+1)}{2}. 右辺 −gμB J(J+1)-g\mu_B\,J(J+1) と等しいとおくと、gg が求まる。 g=3J(J+1)−L(L+1)+S(S+1)2J(J+1)=32+S(S+1)−L(L+1)2J(J+1). g=\frac{3J(J+1)-L(L+1)+S(S+1)}{2J(J+1)}=\frac32+\frac{S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)} .

最終答

[1](i) 1粒子の軌道角運動量の交換関係

[lx,ly]=iℏ lz[l_x,l_y]=\mathrm i\hbar\,l_z(循環置換により [ly,lz]=iℏ lx[l_y,l_z]=\mathrm i\hbar\,l_x、[lz,lx]=iℏ ly[l_z,l_x]=\mathrm i\hbar\,l_y)

[1](ii) NN 粒子の合成軌道角運動量の交換関係

[Lx,Ly]=iℏ Lz[L_x,L_y]=\mathrm i\hbar\,L_z、[Ly,Lz]=iℏ Lx[L_y,L_z]=\mathrm i\hbar\,L_x、[Lz,Lx]=iℏ Ly[L_z,L_x]=\mathrm i\hbar\,L_y(証明)

[2] H0H_0 のもとでの L\bm L の保存

dLdt=1iℏ[L,H0]=0\dfrac{\mathrm d\bm L}{\mathrm dt}=\dfrac{1}{\mathrm i\hbar}[\bm L,H_0]=\bm 0。合成軌道角運動量 L\bm L は保存量である。

[3] スピン軌道相互作用を加えたときの J\bm J の保存

dJdt=1iℏ[J,H]=0\dfrac{\mathrm d\bm J}{\mathrm dt}=\dfrac{1}{\mathrm i\hbar}[\bm J,H]=\bm 0。全角運動量 J=S+L\bm J=\bm S+\bm L は HH のもとで保存量である。

[4] ランデの gg 因子

g=32+S(S+1)−L(L+1)2J(J+1)=1+J(J+1)+S(S+1)−L(L+1)2J(J+1)\displaystyle g=\frac32+\frac{S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)}=1+\frac{J(J+1)+S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)}

第2問 — 電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率

電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定

半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定の途中式・最終答をPDFで見る

物性物理科学IIの解答・解説PDF

2022〜2026年度(5年度) · ¥2,880

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年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(解説3項目)

    統計力学:サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式 / 物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性 / 半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合

  • 2025年度(解説3項目)

    統計力学:古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張 / 固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面 / 電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管

  • 2024年度(解説3項目)

    統計力学:1次元高分子鎖のエントロピー弾性 / 光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子 / 固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化

  • 2023年度(解説3項目)

    統計力学:グランドカノニカル分布と粒子数の揺らぎ / 磁性:S=1 イオンのゼロ磁場分裂とゼーマン効果 / 固体物理:1次元自由電子の状態密度と真性半導体のキャリア

  • 2022年度(このページ・解説3項目)

    量子力学:角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子 / 電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率 / 半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定

2022年度の出題内容

解説3項目

この3問の分野は電磁気学・回路1問・物性物理1問・量子力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問量子力学角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子—あり
第2問電磁気学・回路金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率—あり
第3問物性物理ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定—あり

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF